●リプレイ本文
――敵増援の一報の後、傭兵達の提案により、御剣隊が空を中心に、傭兵達が陸を中心に配置され、互いに連携しながら迎え撃つ事となった。
「名にし負う御剣隊ですもの、上空に逃げ出そうとするコウモリの始末はお任せしても宜しいですわよね、エリシア少佐?
その代わり、我々は穴蔵に潜り込もうとするネズミを存分に狩り出させて頂きますわね」
モニター越しにウィンクしながら、クラリッサ・メディスン(
ga0853)がエリシアに微笑みかける。
『‥‥そこまで言われたならば、断る理由は無いな――陸は頼むぞ諸君』
「ああ、フォローは任せろ!! 前菜から食い残しまで綺麗に平らげてやる!!」
そう言ってエリシアに敬礼すると、セージ(
ga3997)はクラリッサのシュテルン「アズリエル」と共に同じく「リゲル」を駆り、仲間達と共に市街地の中へ降りていった。
その途上、散発的な敵からの攻撃をかわしながら、ディアブロ「シヴァ」に乗る如月・由梨(
ga1805)は、あちこちから黒煙を吐き出す街の様子を見て、少しだけ眉根を寄せた。
――だが、それも一瞬の事。
心を戦場へと戻すと、僚機であるアンジェリカ「朱鷺」の藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)へと呼び掛ける。
「準備は宜しいですか?」
「ああ、いつでもOKじゃ」
その時、由梨はモニターに映る藍紗が、普段の姿で無い事に気付いた。
――長かった彼女の黒髪が、短く切られている。
親しい筈の友人の変化を今まで気付けなかったのは、やはり自分が戦いに酔っているからか――内心の自己嫌悪を押し殺しながら、由梨はその事を藍紗に問いかけた。
「ん? どうしたのじゃ‥‥ああ、コレの事か? ‥‥少し色々あっての」
「‥‥そうですか」
何処か悲しげな藍紗の声色を聞いた由梨は、それ以上詮索しようとはしなかった。
「――今は前を向きましょう、藍紗さん。敵は待ってはくれませんから」
代わりに、由梨は戦いに心を引き戻した。
――雑念など抱いていれば死ぬ‥‥それが戦場なのだから。
そしてそれ以上に、覚醒した彼女は闘争を求めているのだ。
「ああ、そうじゃな。知覚砲戦型の本領‥‥魅せてくれよう」
藍紗もまた、周囲を飛び回る敵を見据えながら口の端を吊り上げた。
(「何があっても、今は前を向く 背負った志に報いるために‥‥」)
――狂気に囚われた思い人への恋慕を、心の中に封じ込めながら。
そして悲しみを背負った二人の戦乙女は、摩天楼の中へと降り立っていった。
傭兵達の中で唯一陸戦機スカイスクレイパー「ストライダー」に乗る宗太郎=シルエイト(
ga4261)は、市街地に侵入した陸戦ワームの掃討に当たっていた。
ようやく片付けたと思ったら、この増援である――宗太郎は忌々しげに空の敵を睨み付ける。
「俺を無視した機動を取りやがって‥‥空陸自在がどんだけ偉いってんだよ!」
‥‥少々私怨が入っているのは気のせいでは無いだろう。
「まぁ落ち着け。しかし、敵もセコいが効果的な手を打ってくる‥‥」
そんな彼を見て苦笑しながらも、堺・清四郎(
gb3564)は緩んでいた自らの心を叱咤していた。
(「くそ、終わったと思ったら増援か。
勝って兜の緒を締めろ‥‥まだまだ俺も未熟ということか」)
堺の乗機のミカガミ「剣虎」が、スラスターライフルを握り締める。
『100より各機!! これより「土竜叩き」を開始する!!』
通信と同時に上空で巻き起こる爆炎――反撃と、作戦開始の狼煙だ。
「だがシェルターに逃げ込んだ民間人のためにも‥‥やらせはせん!!」
『――一タイミングを合わせ!! 3‥‥2‥‥1‥‥てぇ――っ!!』
エリシアの号令と共に放たれる、なけなしのミサイルを使った弾幕。
何発かはHWの装甲を焼くが、あっという間にビルの隙間へと降りられてしまう。
何度続いたか分からない光景――しかし、エリシアの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
『予定通りだ‥‥後は彼らに任せるぞ』
『了!!』
何故なら、彼らが逃げ込んだ先――そこには、HWにとっては死神が待ち受けているのだから。
――摩天楼の森の中に、HWが侵入してくる。
通常の戦闘機ならば、1mでもズレたら大惨事になるような状況でも、HWに搭載されたAIは正確無比な機動ですり抜けていく。
「無人機もこの条件なら動きが正確な分、誰か乗ってるより厄介かもね‥‥!」
それを見ながら、鷲羽・栗花落(
gb4249)が操縦桿を握り締めた。
「けど、負けない、いくよアジュール!!」
愛機のロングボウに呼び掛けながら、隣に立つシラヌイ「アルナ」に乗るロアンナ・デュヴェリ(
gb4295)と共に、ツングースカの照準を合わせた。
射程圏内に入った瞬間、計数百発の嵐のような弾幕がHWの腹目掛けて放たれる。
御剣隊からの攻撃を避ける事に注意を向けていたのか、それらは全て残らず命中した。
「小賢しい真似をする様ですが、所詮は無人機‥‥舐めないで貰いたいですね」
小爆発を起こしながら高度を下げるHWを冷たく睨みながら、ロアンナが更に追撃をかける。
ツングースカの「面」による攻撃では無く、高分子レーザーや突撃仕様ガトリングなど、「点」による攻撃。
鷲羽がそれをツングースカで援護する。
HWもすかさずプロトン砲で応戦し、砲撃の指し合いとなるが、制したのは傭兵の二人。
たまらずHWは高度を取り、上空へと逃げ出そうとした。
「こちら鷲羽!! 『土竜が顔を出す』よ!!」
それを見た鷲羽が無線で呼び掛ける。
「そっちばっかに気を取られてると痛い目みるぞ?」
同時に皮肉気な笑みと共に降りてくる、群青色の一等星――セージのリゲルだ。
降下しながらHWの上面の装甲に螺旋弾頭ミサイルを叩き込む。
『その付近にシェルターはありません!! 存分にどうぞ!!』
「了解、後は任せて下さいな」
クラリッサもセージと共に垂直離着陸能力を使用して地上へと降り立つと、スラスターライフルの引き金を引く。
傭兵達の巧みな連携により、早々とHWの一機が爆散して消えた。
二機のHWから放たれるプロトン砲を、由梨のシヴァと藍紗の朱鷺がそれぞれグレートザンバーとレグルスを盾にして防ぐ。
――しかし、二人の表情に動揺は無い。
元々攻撃をある程度受ける事は折込済みだ――それに最初から回避は捨てている。
すかさずプラズマリボルバーとアハトアハトの的確な一撃がHWを穿つ。
だが、HWはそれ以上の攻撃は許さず、フェザー砲の弾幕に紛れ空中へと飛び上がった。
「ええい!! ちょこまかと!!」
「やりづらいにも程がありますね‥‥真っ向から向かってきていただければ楽なのですけど」
忌々しげに舌打ちする二人。
そんな彼女達をあざ笑うかのように、HWは再び上空へと――。
『‥‥よう。お帰りなさいませだ、クソ土竜野郎』
『――目標確認。狙撃します』
だが、そこに待ち受けていたのは、エリシア率いる一番隊第一小隊だった。
ディック准尉とエイミィ軍曹による、剣翼のドッグファイトと、スナイパーライフルの狙撃のコンビネーション。
『落ちろぉっ!!』
そしてロイ曹長のミサイルが、再びHW達を摩天楼の中へと叩き落とした。
「おお!! ナイスじゃ部下トリオよ!!」
『『『一括りにするな(しないで下さい)!!』』』
落ちたHWは、崩れた建物の瓦礫に埋もれながらもまだ動いていた。
しかし、そこに差す影――グレートザンバーを肩に担いだ由梨のシヴァだ。
「‥‥よくも今まで好き勝手やって下さいましたね?」
凄絶な死神の笑みと共に、鉄塊が振り下ろされた。
少し離れた区画では、宗太郎のストライダーと堺の剣虎が、二機のHWに追い立てられていた。
放たれたプロトン砲が剣虎の装甲を焼き、中の堺は衝撃に呻く。
「チッ‥‥!! まだなのか100!?」
『――もう少しです!! 何とか耐えてください!!』
この区画は居住区であり、多くのシェルターが存在している。
こんな場所で本格的な撃ち合いをしたら、シェルターにどんな影響があるか分からないし、誤射する可能性もある。
そのため、二人は避けられる攻撃を時には自ら受けつつ移動を続けていた。
――そして、とうとう居住区を抜ける。
周囲にシェルターが無い事を確認し、宗太郎と堺は機体に急制動をかけてHWに向き直った。
「好き放題にパカパカ撃ちやがって‥‥覚悟は出来てんだろうなぁ!?」
「いい加減押し売りはお断りしたい所なのでな、お引取り願おう!!」
ツングースカとスラスターライフルによる一斉射撃――勢いのついていたHWは避けきれない。
内一機はビルに衝突し、地面に叩き落された。
「ウイング展開、ブースト全開! 音速の一撃‥‥喰らいやがれえぇ!」
HWが態勢を立て直す前に、ストライダーが人型に変形し、ロンゴミニアトを叩き込んだ。
――巻き起こる爆炎。
内部から焼き尽くされたHWは、堪らず粉々になって果てる。
残る一機は不利を悟り、ブーストをかけて空へと逃げていく。
「いったぞ! 仕留めろよ!」
『――了!!』
だが、そこに待っていたのは御剣隊のシラヌイ達。
五機がかりの連携により、程なくHWは撃墜された。
――だが、順調なのもそこまでだった。
残るは本星型ただ一機‥‥しかし、並の攻撃では歯が立たない上に、機動のキレも通常型とは比較にならない。
狙いの甘い攻撃は全て空を切り、当たったとしても強化FFによって阻まれる。
更に、本星型は厄介な事にシェルターのある区画だけを狙って降下するようになり、空戦班は迂闊に攻撃出来ず、陸戦班は敵の攻撃からシェルターを守らなければならないという、膠着状態に陥ってしまった。
特に空戦班は、敵を少しでもシェルターの無い区画へと追い立てるために戦い続けなければならず、かなり消耗していた。
庸兵のように強力なチューンもしておらず、強力な兵装を持っている訳でも無い御剣隊の被害は特に大きく、エリシアの101と、100を除いた五機が撤退を余儀なくされていた。
「‥‥セージさん、そちらはどう?」
「ああ、こっちも相当消耗してる‥‥後そう何回も垂直離着陸は出来ないな」
度重なる連戦と、空と陸を行き来していたシュテルンに乗る二人も例外では無い。
二人の機体のあちこちには穴が開き、時折火花が散っているような状況だ。
‥‥しかし、泣き言は言っていられない。
眼下のシェルターには、戦闘に怯える市民達がいるのだ。
「気を抜けば落とされる‥‥か、嫌いじゃないぜ。そういうの」
再び接近してくる本星型HWを見据えながら、セージは疲労と体の痛みで鉛のようになった体を叱咤するように、フットペダルを思い切り踏み込んだ。
空の状況を見かねて、鷲羽のアジュールとロアンナのアルナも空に上がり、本星型の追い込みに参戦した。
二人は残存の御剣隊と合流すると、一斉に攻撃を開始する。
「さぁアジュール、ボクたちの大好きな空だ。行くよ!!」
KA−01試作型集積砲が火を吹き、紫電を纏った光が空気を焦がしながら飛んでいく。
本星型は破壊の光条を、装甲を焦がしながらも避けた。
「食らいなさいっ!!」
そこにすかさずロアンナが飛び出し、ソードウィングを叩き付ける。
――ギィンッ!!
硬い手応えと共に、機体が跳ねられる感覚――強化FFによる防御だ。
「‥‥っ!!」
空中でバランスを崩した彼女に、本星型の強力な砲撃が襲い掛かる。
――ドンドンドンドンッ!!
次々と装甲が引き千切られ、翼も一枚もぎ取られた。
「ロアンナさん!!」
『下がれデュヴェリ!! 無茶はするな!!』
すかさず鷲羽とエリシアがフォローに入り、撃墜は免れたが、これ以上の戦闘は無謀だ。
「――分かり‥‥ました」
悔しげに呟きながら離脱していくロアンナ――その噛み締めた唇からは、血が滴っていた。
そして、本星型はとうとう100にまでその牙をかけ始めた。
最初のうちは後方で情報網の構築に務めていた100だったが、悪化していく戦況に合わせて、彼ら自身も戦闘に参加せざるを得なかったのだ。
バグアにとって厄介な電子戦機を、本星型が放っておく訳が無い。
『ぐっ‥‥!!』
度重なる攻撃に、ウーフーの損傷率が上がっていく。
庸兵達は咄嗟に援護するが、フォローするのが少し遅かった。
――目の前の難敵を前に、味方へ中々意識が向かなかったのだ。
そして、とうとうウーフーのエンジンが爆発を起こし、黒煙を上げながら落ちていく。
「‥‥っ!!」
「――畜生っ!!」
それを見ていた由梨や、宗太郎達が歯噛みする。
――彼らの胸を過ぎるのは、マドリード戦役における悲劇。
だが、その不安をかき消すかのように通信が入った――ウーフーのパイロットからだ。
『――ベイルアウトしました!! 今奴の下にはシェルターはありません!! 今ですっ!!』
彼は、身を挺して敵をシェルターの無い区画まで引き付けていたのだ。
そして、一歩間違えれば瓦礫や建物に衝突してしまいかねない状況でも、彼は通信が途切れるまで報告をし続けた。
それに応えなくて‥‥何の為の庸兵か!!
『貴様の覚悟‥‥受け取った!!』
「てええええええっ!!」
「お食らいなさいっ!!」
エリシア達とクラリッサ、セージらが、ありったけの砲弾を本星型の尻目掛けて叩き込む。
「いっけええええええっ!!」
そこに、ダメ押しの鷲羽の集積砲の一撃。
既に強化FFを貼るエネルギーも無いのか、それらは悉く装甲を抉り、本星型が高度を下げて摩天楼の中に降りていく。
――そこに待ち受けていたのは、M−12帯電粒子加速砲を構える朱鷺。
「これは冥土の土産じゃ‥‥ありがたく受け取るがいい!!」
エンハンサーを伴った一撃は、問答無用で本星型を地面へと叩き落した。
――ズゥンッ!!
地響きを立てて墜落した本星型目掛けて、一気に飛び出す三つの影――シヴァと、ストライダー、剣虎だ。
『おおおおおおおっ!!』
――グレートザンバーが、
――ロンゴミニアトが、
――雪村が、
一斉に本星型へと突き刺さり、それがそのまま止めとなった。
救出されたウーフーのパイロットは一命こそ取り留めたものの、再起不能に陥る可能性が高い状態だった。
だが、ベッドの上に横たわる彼の顔は晴れやかだ。
「――大丈夫です。俺は絶対帰って来ますよ。
だって‥‥こんな所で止まってたら、死んだ仲間に殴られますから」
そう言って微笑む彼に、悲壮感は全く無い。
ただ、前を向いてこの怪我を乗り越えようという気概だけが伝わってくる。
「ええ、その時を楽しみに待ってますね」
だから、ロアンナは己の無力を嘆いたりはしなかった。
――そんな事をすれば、彼の覚悟に泥を塗る事になるからだ。
「はい、その時は快気祝いでもお願いしますよ」
「調子に乗りすぎじゃ、馬鹿者」
藍紗が傷に障らない程度に、彼の頭をこつん、と小突く。
どっ、と病室の中に笑い声が響いた。
無事に‥‥とは言い難い結果ではあったが、傭兵達は御剣隊との絆が更に深まった事を感じていた。