●オープニング本文
前回のリプレイを見る――サイラス・ウィンドが要塞都市バルセロナの司令官となってから、約一ヶ月。
バルセロナに程近い基地では、その日も会議が繰り返されていた。
「ううむ‥‥」
司令官の一人が、腕を組んで地図を見下ろす。
そこには、要塞都市バルセロナと、その周辺に点在する敵の駐屯地を表示していた。
その一つ一つには、多くのワームやキメラが配備され、同時に多くの住民達が強制的に住まわされている。
――所謂『人間の盾』というやつだ。
今まではバルセロナの戦力は然程強力では無く、司令官も凡庸な人物であったため、攻めて来た敵のみを相手取り、周囲を固めてさえいれば問題は無かった。
「‥‥流石はエースと言った所か」
しかし、サイラスが赴任してきて以来、目に見えて敵が強くなっている。
敵の性能が良くなった訳でも、作戦が巧妙な訳でも無い――ただ、異様に「引き際」と「攻め際」の見極めが鋭いのだ。
――そしてそれ以上に凄まじいのが、サイラスの実力。
彼単騎によって、戦線が崩壊しかけた事すらあった程だ。
そのため、UPCは何度も手痛い損害を受け、狭めつつあったバルセロナへの包囲網を改めて広げざるを得なかった。
「――確かに奴は強力だが、シェイドやステアーのような存在では無い。
総力を挙げれば、必ず撃墜出来る筈だ」
「だからその『総力』とやらが挙げられないのが問題なのだ!!」
次第に議論は白熱していき、掴みかからんばかりの勢いで怒号が飛び交い始める。
それを、一人の将校が止めた。
「‥‥落ち着け。今後どのようにバルセロナを攻略していくにせよ、まずは人質達の現状を理解しなければ始まらんだろう」
そして、彼らが落ち着いた所に、将校は自分の考えを述べる。
彼の立てた作戦はこうだ――人質のいない事が確認されている地帯への一斉攻撃を行い、それに敵及び対空砲の砲門が釣られている間に、KVによる支配地域への偵察、地上状況の確認・撮影を行う。
「‥‥しかし、それでもかなりの数の対空砲が残っているのだぞ?
一体何機が犠牲になるか――」
「ならば、その対空砲にある程度耐えられる、もしくは対応出来る機体ならばいいのだろう?」
にやりと笑って、将校は命令を下した。
――庸兵達を、偵察隊として編成する事を決めたのである。
要塞都市バルセロナの司令室に、バグア兵が駆け込んでくる。
『――サイラス様、敵の大規模な侵攻を確認致しました』
「ほう‥‥また痛い目に遭いたいと見える」
口の端を吊り上げて立ち上がると、サイラスはモニターで現状を確認した。
見れば、確かに西部と海上からかなりの数の部隊が投入されているようだ。
『迎え撃ちますか? ならばタロスの出撃準備を‥‥』
「――待て」
サイラスは部下の言葉を遮り、顎に手を当てて思考する。
――UPC軍の動きに、何処か違和感を覚える。
モニター越しでも、その必死さが伝わってくる――当たり前だ。
何故なら彼らにとって、自分達バグアは憎むべき敵であり、全力を込めなければ打倒出来ない強力な相手であるから。
しかし、サイラスが感じたのはそれとは別の物。
(――この戦闘に勝利する為では無く、何か『別の物を達成しようとしている』‥‥?」)
――そこまで考え、サイラスは踵を返して格納庫へと向かった。
そして、直属のバグア兵二人に指示を飛ばす。
「奴らは我が相手をする。貴様らは周囲の警戒に当たれ。
――恐らくは、何か別の目的がある」
『――はっ!!』
部下達はサイラスの言葉に意見は一切挟まない。
――彼の直感に従ってきた事で、自分達はここまで生き延びて来られたのだから。
『――黒いタロス出現!! サイラス・ウィンドですっ!!』
エース機の出現に、UPC軍に緊張が走る。
――サイラスは彼らを睥睨するかのように見下ろすと、地上へと降り立ち、刀を抜く。
『‥‥何を考えているかは知らんが、前に出て来た以上は討たせて貰うぞ』
そして神速の踏み込みで、眼前のKVの編隊へと躍り掛かった。
その同時刻――庸兵達のKVはバルセロナの東と北に分かれ、人質の囚われている駐屯地へと向かっていた。
無線からは、陽動のためにバルセロナへと攻撃を仕掛けている部隊の苦戦が伝えられてくる。
――自分達が失敗すれば、彼らの犠牲が無駄になる。
ずしり、と自らの肩が重くなるのを、庸兵達は感じていた。
●リプレイ本文
(「武に長けたあいつは、身を以て知ってる。
けど、ここまででかい場を動かす立場のあいつは、まだよく知らねぇ」)
‥‥しっかり見定めねとかねぇとな。
骸龍の端末に表示される情報を整理しながら、宗太郎=シルエイト(
ga4261)は心の中で呟く。
「人質を盾として利用してるのか‥‥嫌な手を使ってくるぜ。
――どうせなら‥‥人質とかそんなの気にせず、思いっきり正面から闘り合いたいもんだけどな」
ブレイズ・カーディナル(
ga1851)が、バグアが人質を取っている事実に憤慨しつつも、ほんの少し本音を覗かせた。
「――必要以上に人質を痛めつけるほど、あいつは非情じゃねぇと思いてぇが」
「確かにな‥‥何であれ、まずは人質を何とかしないと話しにならないって事か」
「はい、行きましょう!!」
結城悠璃(
gb6689)が二人の言葉に力強く頷いた。
そして前回の戦いでサイラスに破れ、意識を失う寸前に聞いた言葉を思い出す。
(「追って来い‥‥ですか‥‥。勿論、そのつもりです!!」)
――その為にも、彼が見ている世界を見極めなければならない。
「‥‥先に舞台を整える必要がありそうだ」
――無線から聞こえてくる怒号と悲鳴、そして苦戦を伝える通信を聞きながら、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が呟く。
軍が作ってくれたこの貴重な時間を無駄にする訳にはいかない。
「私達に出来るのは出来るだけ精密な写真を持って帰る事だけ、か‥‥歯がゆいな」
しかしサイラスと戦い、滅する事を誓っているリディス(
ga0022)にとっては、正に後ろ髪を引かれる思いであった。
出来ればすぐにでも戻って援護をしたい所だが‥‥それは決して許されない。
――自然と、表情が厳しくなる。
「確かにそうだが‥‥奴との闘争を行うにあたって、情報があるに越した事は無い」
「情報は大事だよね。手の内が分かれば、対策も立てられるし」
そんな友の姿を見かねて、イレーネ・V・ノイエ(
ga4317)がたしなめ、その言葉に忌咲(
ga3867)が頷く。
だが、人質が囚われているという駐屯地の数はかなり多く、加えてUPC軍の苦戦を鑑みても時間はそう長くは無い。
どう立ち回るかで、手に入る情報の量と質はかなり変わってくる。
「量より質とは言うが情報は量に勝るものは無い。いくらでも取捨選択は出来るのだから」
「了解!! んじゃあちゃっちゃと情報集めて、人質解放目指すってばよ!!」
アンジェリナ・ルヴァン(
ga6940)の言葉に、朗らかに答えるのは砕牙 九郎(
ga7366)。
口調は明るく振舞っているが、彼は前回のサイラスとの戦いで、機体を真っ二つにされた事を気に留めていた。
(「――そうそう情け無い真似ばっかり晒せねぇからな‥‥頑張らねぇと」)
だからこそ、この任務では必ずや自分の役割を果たしてみせる‥‥そう砕牙は決意した。
庸兵達は三班に別れ、それぞれ北、北東、東側から敵駐屯地を目指していく。
「‥‥」
「――どうした由梨?」
その途上、終始押し黙っている如月・由梨(
ga1805)を見かねて、アンジェが声をかける。
暫くの沈黙の後、由梨はぽつり、と呟いた。
「人間の盾‥‥そう、私達はその人達を救うために行くんですよね‥‥?」
「‥‥? 何言って‥‥?」
「――いえ、何でもありません。離脱のタイミング、お任せします」
「あ、ああ‥‥」
砕牙が怪訝そうな表情で首を傾げるが、由梨は頭を振って自らの言葉を止めた。
――そう‥‥自分は決して、その先にある戦いだけを楽しみにしているのでは無い。
――自分の力は、快楽に溺れるためのものでは‥‥無い。
しかし否定するという事は、ソレが確かに由梨の中にあるという事。
‥‥鬼を斬る少女の心は、未だに晴れない。
バルセロナ北東方面担当のA班を構成するのは、ホアキン、宗太郎、イレーネ、結城の四人。
高々度から一気にバルセロナへ近付き、要塞都市に近い大規模な駐屯地から順に撮影していく手筈だ。
‥‥無論、小勢で敵地の最奥とも言える場所で行動する事となる上に、偵察だけで無く敵の察知にも重要な唯一の電子戦機である宗太郎の骸龍は、この任務の為に急遽用意されたもので然程強化が施されていないため、リスクは非常に高いと言わざるを得ない。
――しかし、ホアキンが事前に摺り合せた、UPC軍がサイラス達を引き付ける事が可能な時間は、はっきり言って短い。
だからこそ、最も多く情報を手に入れる事の出来る手段を、四人は選択したのだった。
程無くして、眼下にちょっとした街ほどの規模の駐屯地が姿を現す。
「‥‥見えて来たな。高度を下げるぞ」
「了解だ――宗太郎、敵はどうだ?」
「地上にちらほらいるみてぇだが‥‥それ程多くはねえな」
「‥‥良し、行こう。もし敵が来たら、宗太郎を守るのが俺達の仕事だ」
「はい!! 任せて下さい!!」
駐屯地の規模からすれば、驚く程レーダーに反応する敵の数が少ない。
――恐らくは、UPC軍の迎撃に多くの戦力が割かれているのだろう。
四人は改めて軍の奮闘に感謝しながら、撮影に入った。
――人質の状況、彼らを救出する際の退路、攻略するために着陸出来そうな場所の選定や、侵攻ルートの予測。
加えて敵の配置や、電力設備、格納庫、レーダー‥‥救出の障害、もしくは攻略の切っ掛けとなり得る存在を、ありったけ写真に収めていく。
駐屯地の中は、意外に小奇麗にされており、周囲を有刺鉄線や監視塔などで固められている以外は、人質達は通常通り生活出来ているようだ。
「‥‥もうすぐ、そこから助けてやるからな」
骸龍のカメラは、人質の不安げな――それでいて、こちらを期待の眼差しで見つめる様子を捉えている。
それを済まなそうに見ながら、宗太郎は固く操縦桿を握り締めた。
――その時、宗太郎機の横をプロトン砲の光が掠める。
「うおっ!?」
咄嗟に回避行動を取って直撃は避けられたが、計器が故障したのでは無いかと疑いたくなるほどの損傷率が表示された。
直撃した時の事など‥‥考えたくも無い。
肝を冷やしながらも見下ろせば、タートルワームが砲塔を向け、HWの小規模編隊がこちら目掛けて上がってくるのが見えた。
「――勇将の下に弱卒無しか」
「素早い対応は流石だが‥‥こちらも手早く片付けさせて貰うぞ!!」
ホアキンの雷電「Inti」とイレーネのサイファー「Samiel」が、射線から宗太郎機を庇いつつ前に出る。
イレーネがスナイパーライフルD−02で先頭のHWを狙い撃って動きを止めると、一気に接近したホアキンの剣翼が、HWの腹を掻っ捌き、一瞬にして屠った。
宗太郎も敵の攻撃を骸龍特有の素早い機動でかわしつつ、AAMで二人を支援する。
無論、敵は宗太郎一機に狙いを絞り、ミサイルやプロトン砲を放つ。
「宗太郎さんはやらせません!!」
が、その多くは結城の乗るフェニックス「幻夢」によって阻まれる。
態勢さえ整えてしまえば、四人は豊富な経験と確かな実力を持つ庸兵達だ。
――程無くして迎撃してきた敵を殲滅し、次なる駐屯地へと向かったのだった。
一方、北側から進入したB班の三人――由梨、アンジェ、砕牙の三人は、猛烈な対空砲火に曝されていた。
手近な駐屯地から順に偵察を行い、次第に奥へと向かっていたのだが、バルセロナと人類側領域の半ば程に存在する駐屯地に大規模な部隊が展開されていたのだ。
無論骸龍の逆探知によって警戒はしていた‥‥しかし、敵の展開は予想を遥かに超えて早い。
「くうっ!!」
ミサイルの爆風を受け、アンジェの骸龍の装甲が剥がれ落ちる。
「アンジェリナさん!! ‥‥くそっ、これ以上はさせねぇっ!!」
砕牙の「爆雷牙」が盾になってアンジェ機を攻撃から守る。
しかしすかさず四方から迫るHW‥‥が、その内の一機が下方から放たれた電磁加速砲「ブリューナク」の一撃によって叩き落された。
――由梨のディアブロ「シヴァ」だ。
「ふぅ、鬱陶しい砲火ですね。潰したくなりますよ」
そう呟く彼女の口元には、酷薄な笑みが浮かんでいる。
――この任務の目的は、あくまで偵察。
しかし、由梨の闘争本能は、あくまで闘う事を望むのか?
「――ふふ、それに敵の一機もいない、なんていうのは面白くないと思いません?」
「‥‥由梨、それは流石に笑えんな」
このような場で言うにはあまりに危険な言葉に、アンジェが思わず窘める。
「いえ、冗談ですよ――何にせよ、これ以上ここの偵察は無理ですね」
「‥‥だな、これ以上は身がもたないってばよ」
砕牙の言う通り、アンジェ機とそれを守っていた砕牙機の損傷率はかなり上がっている。
――強力なチューンが施されている由梨のシヴァはまだ健在だが、このような場所で孤立したら結局は同じ事だ。
「逆探知‥‥座標データを僚機へ転送。確認頼む」
アンジェが骸龍の特殊電子波長装置γを使って敵の位置を確認すると同時に、敵の包囲の最も薄い場所を特定し、二人に送る。
「――了解。では行きます!!」
由梨が煙幕弾を放つと、三人はそれに紛れてブーストをかけ、一気に敵陣突破を開始した。
その頃リディス、ブレイズ、忌咲らC班は、東側からバルセロナへ向かって飛んでいた。
――それまで彼らはいくつかの駐屯地を発見したが、そこには敵らしい敵はおらず、人質の監視もかなりいい加減になっている様子が見て取れた。
「――こちらブレイズ。敵影らしいのは確認出来ないぜ」
「了解‥‥この駐屯地、何も無いね」
先行するブレイズからの報告に、ウーフーに乗る忌咲はそう判断を下す。
「それならば好都合だな。なるべく詳細に写真を撮らせて貰うとしよう」
リディスは更に高度を下げ、詳細な駐屯地のデータを集めていく。
――だが、あまりの警戒の薄さに内心首を傾げていた。
本来ならば、西側や海側から攻撃を受けているバルセロナのバグア軍にとって、東側は最も警戒すべき方角の筈だ。
それなのに、この不用心さはどうだ?
――何かの策なのか、それともただ気が回らないだけなのか‥‥。
「それか、護衛が必要無いような強い奴らがここら辺に‥‥?」
ブレイズが顎に手を掛けて考えるが、やはり推測の域を出ない曖昧なものでしかない。
「案外、『人質なんぞ無粋!!』とか言って、最初から守ろうとしてないとか?」
「‥‥奴の場合本当に言いかねないから不思議だな」
忌咲の冗談に、リディスは額に汗を浮かべながら苦笑した。
――暫く後、C班の眼下に奇妙なものが見え始めた。
ごつごつとした荒野の中に、忽然と滑らかな程に平らな一帯が現れたのだ。
大きさは、30メートル四方程であろうか。
「――これは調べる必要がありそうだね」
三人は周囲を警戒しつつ、慎重にその場所をカメラに収めようと試みる。
――その時、忌咲のウーフーにアラートが鳴り響いた。
「‥‥っ!? 接近警報!?」
急いでレーダーで周囲を確認する――が、何も無い。
今まで問題無く航行出来た事を考えれば、誤作動とは考えにくい。
――見落としている所は無いか‥‥確認しろ‥‥確認しろ――!!
忌咲は針の穴も見逃さないとばかりに、目を皿のようにしてレーダーを見つめる。
一瞬現れる光点――その位置は‥‥、
「――真下!?」
「避けろ忌咲!!」
忌咲が気付くと同時に、ブレイズから警告の叫びが上がる。
しかし一歩遅く、いくつもの光条が放たれ、忌咲の機体に直撃する。
「うあっ‥‥!!」
凄まじい衝撃に意識が飛びそうになるが、何とかこらえて状況を確認する。
――見れば、先ほどの平らな一帯の一部が開き、そこから二機のタロスが姿を現していた。
『――サイラス様の直感が当たったようだな』
『どうする? 撃墜するか?』
『深追いはするなとのお達しだが‥‥仕掛けるに越した事はあるまい』
そしてそれに続き、無数のHWとTW、レックスキャノンが次々と湧き出てくる。
その光景を目にして、リディスはそれが一体何なのかに気付いた。
「――格納庫‥‥いや、発進ゲートか!!」
戦力的に恵まれていないはずのバルセロナのバグア軍が、何故か駐屯地に戦力を分散させる事が出来る理由の一端がこれではっきりした。
奴らはこのようなゲートをいくつも作り、短時間で複数の戦力を秘密裏に移動させていたのだ。
おそらくその奥は、バルセロナの内部へと繋がっている筈だ。
――しかし、悠長にそれを調べている時間は無い。
その間にも、二機のタロスとHWの大規模な編隊がこちらに近付きつつあるからだ。
「これ以上は無理そうかな。よし逃げよう」
「――了解した。ブレイズ、煙幕を頼む!!」
「任せろ隊長!!」
咄嗟に三人は煙幕を焚き、傷付いた忌咲を守りながらブーストをかけての離脱を試みるが、煙幕を切り裂いて飛来したミサイルとプロトン砲が襲い掛かった。
辛うじてかわすが、何発かはリディスのディスタン「プリヴィディエーニィ」と、ブレイズの雷電の装甲を焦がした。
「煙幕越しに当てて来るとは‥‥やるな」
タロスに乗るかなり高い技術を持つ敵に、ブレイズは自分の闘志がメラメラと燃えるのを感じた。
しかし、囲まれたら最後、強敵と戦う前に嬲り殺される事は明らかだ。
事実既に何機かのHWは、こちらの退路を断たんと立ち塞がってくる。
「――邪魔だ!!」
リディスがDR−2荷電粒子砲を放って一機を一撃の下叩き落すと、アハトアハトを放ってもう一機の装甲を貫く。
体勢が崩れた所を、追い討ちとばかりにブレイズのスラスターライフルと忌咲のホーミングミサイルが、HWを火達磨へと変えた。
そしてそのままスピードを落とす事無く、三人は敵の射程圏外へと逃れていったのだった。
――UPC軍との約束の時間が来る頃には、損傷こそ大きいものの、十を軽く超える数の駐屯地の偵察に成功していた。
人質の状況や、敵の戦力とその分布、そして駐屯地に電力を供給する発電施設の存在など、戦局を人類側へと有利に運ばせる様々な情報が、庸兵達の手によってもたらされたのである。
――最も大きな収穫と言えるのは、敵の発進ゲートの存在だ。
無論、今回発見できたのはたった一つではあるが、もし放置しておけば予期せぬ場所から奇襲を受けた事は確実であり、そのような施設があると知る事が出来ただけでも僥倖だ。
しかし、そのためにUPC軍が払った犠牲もまた大きかった。
今回の戦闘だけでかなりの規模の死者が出ており、能力者も数十名が犠牲となった。
その他戦車やヘリ、艦船などもかなりの損害が出ており、今まで存在していた戦力のアドバンテージは確実に減りつつある。
‥‥だからこそ、おそらく近いうちに行われるであろう人質救出作戦が、勝利を得るための鍵となるだろう。
「あなたに伝言は出来ませんでしたけど‥‥僕は、諦めが悪いですよ?
追って来い、と言った以上‥‥覚悟しておいて下さいね?」
サイラスがいるであろうバルセロナの方角の空に向かって、一人悠璃は呟いた。