タイトル:【BV】ウブなお二人マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/26 02:44

●オープニング本文


 ドイツにあるとある街――そのショーウィンドの立ち並ぶ商店街に、一組の男女が肩を並べて歩いていた。
 それはエリシア・ライナルト直属の部下のロイ・エレハイン曹長とエイミィ・バーンズ軍曹の二人であった。

「ねぇ、ロイ。これなんてどう?」
「うーん‥‥僕にはちょっと派手過ぎかなぁ」

 普段は軍隊という組織の中で上下関係にある彼らだが、一度プライベートになると、ただ仲睦まじいカップルだ。

「あ、エイミィならこれ似合いそうじゃないかな?」
「え? そう? ‥‥ちょっと地味じゃない?」

 時折そんな会話を交わしながら、ショッピングを楽しむ二人。
 だが見る人が見れば、二人の間には付かず離れずといった感じの微妙な――言ってしまえばじれったい――空気が存在していた。
 その間合いは終始狭まる事無く、デートの時間は終わりを告げ、彼らは家路に就く。
 基地が近づくにつれて無言になっていく二人。

(「‥‥さぁ、勇気を出すんだ僕!! 今日こそエイミィと手を繋ぐんだ!!」)
(「勇気を出しなさいエイミィ!! 今日こそロイとて‥‥て‥‥手を!!」)

 お互いそんな事を思い合っている事に気付かないまま、無常にも基地のゲートに辿り着いてしまう二人。
 ここを潜ったら、もう彼らは『軍人』だ。

「――それではお休みなさい、曹長」
「ああ、軍曹‥‥また明日」

 別れの挨拶を交わし、それぞれが住む隊舎へと帰っていく。

「ああああ‥‥僕のヘタレ!! ‥‥何でいっつもこうなんだ‥‥!!」
「ロイ‥‥曹長のバカ!! そして私はもっとバカ〜ッ!!」

――人知れず夜空の星に向かって叫びながら。



「‥‥と、言う訳なんです」

 その数日後、商店街にあるカフェの一角にて、ロイは傭兵達に一連の事情を話していた。

「軍曹‥‥いや、エイミィとの仲を進展させるには、どうしたらいいんでしょう‥‥?」

 そう、ロイは彼らに恋愛相談に乗ってくれと持ち掛けたのだ。
 傭兵達は呆れ半分、ニヤニヤ半分でそれを聞いていた。

――中には、「何見せ付けてんだこのヘタレが!!」という殺意に近い憎しみの目で見ている者もいるが。

「でも、何で御剣隊の奴らに相談しなかったんだ?」
「いや‥‥あの人達だと、確実にからかったりしてくるんで‥‥特にディック准尉が」

 傭兵の一人の疑問に、ロイは憂鬱そうに答える。
 ちなみにディックは妻帯者で、それにかこつけて妻と娘自慢してくるから始末に負えない。

「エリシア少佐には?」
「‥‥あの人の過去知ってるなら、そんな不謹慎な事出来ませんよ」
「あ‥‥そういえばそうだったな」

 ロイの言葉に、ぐっと言葉を詰まらせる傭兵達。
 エリシアがキメラとなったかつての恋人をその手で埋葬したという事実は、彼らも良く知っていた。


――余談だが、ロイのこの思考は間違っている。
 エリシアの中ではその事件については心の整理がついているし、それに他人の悩みに関して、決して自分の事情を持ち出したりはしないのだ。


 だが、そんな事は知らないロイはがばっ!! と立ち上がって傭兵達に頭を下げた。

「お願いします!! どうか僕に協力して下さいっ!!」



 そしてほぼ同じ頃、同じ商店街にあるもう一つの喫茶店では――、

「お願いしますっ!! どうやったら私とロイがもっと親密になれるか教えて下さいっ!!」

 エイミィが、ロイと全く同じ内容の頼みを、別の傭兵達にしていたのだった。


――どちらも似たもの同士である


 そんな二人に苦笑しながら、傭兵達は連絡し合って二人の事情を整理し始めた。

『あの二人は見ていてじれったくてな‥‥手を貸してやってくれ』

 エリシアの困ったような、それでいて優しさに満ちた笑顔を思い出しながら。
――伊達にロイとエイミィ達の上司をやっている訳ではないのである、彼女は。

●参加者一覧

ジーラ(ga0077
16歳・♀・JG
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG

●リプレイ本文

「うう‥‥私の方が年上だからって、いっつも意地張っちゃって‥‥」
「こういうのって素直になれないよね‥‥うん」

 メソメソと泣きながらクダを巻くエイミィに、ジーラ(ga0077)は複雑な表情を浮かべながら微笑んだ。
 かくいう彼女も、ブレイズ・カーディナル(ga1851)との仲を進展させられない事にヤキモキしている。
 だから、ジーラはエイミィの心が良く分かるのだ。

「‥‥お互いに意識してたら、意外とうまくいかないものなのよね。
 手を繋ぐにしてもさりげなく、日常的にするようにしないと‥‥」

 続けてそうアドバイスしたのは紅 アリカ(ga8708)。
 彼女はこの場で唯一結婚しており、ある意味最もこの中で経験豊富と言える人物だ。

「う、うぅ‥‥で、でもさアリカぁ‥‥普段の私って、そんなタイプじゃないし‥‥」
「‥‥自分に合わないと思ってたら、そこから前に進む事は出来ないわ。何事も挑戦あるのみ、よ‥‥」
「う〜ん‥‥」

 涙目のまま弱気な事を言うエイミィを嗜める。
――元々、アリカ自身口数が多い方では無かったし、感情を表す事も得意では無かった。
 それを今の夫や友人達との交流によって治っていき、そしてゴールインする事が出来たのである。
 流石は経験者‥‥説得力のある言葉だった。

「‥‥例えば、エイミィはいつも機能を重視した飾り気の無い服ばかり着ているから、いつもと違う可愛らしい服を着てみるとか‥‥」
「そ、それぐらいなら出来るかも‥‥」
「‥‥後は、料理とか家事をやった事が無いから不安がっていたでしょう?
 そこも『出来ないからやらない』というのではなく『失敗してもいいので何度も挑戦し、わからない部分はお互いに教え合いながら上達していく』っていうのが理想かしら」
「ふむふむ‥‥流石は既婚者ね。勉強になるわ‥‥」
(「うん‥‥ボクも勉強になる‥‥」)

 アリカのアドバイスを聞き、エイミィから次第にうじうじした雰囲気が抜け、持ち前の前向きな性格が戻ってきた。
 今では熱心にメモまで取っている――隣でジーラが同じようにメモを取っているのはご愛嬌である。


 話はとんとん拍子に進み、近いうちに行われる御剣隊と傭兵達の親睦会――これも実はエリシアと傭兵達がセッティングしたもの――の前に、エイミィの欠点をどうにか克服しよう、という事になった。
 そして服装はジーラとアリカの二人がコーディネイトする事で落ち着き、残る問題は料理。
 そんな時、今まで沈黙を守っていたこの場唯一の男である堺・清四郎(gb3564)が手を上げた。

「ソレに関しては、俺に任せて貰おう」

 一見武闘派な彼だが、趣味は料理なのである。

「‥‥え? 堺あなた‥‥料理、出来るの?」

 物凄く意外そうな顔をするエイミィ――他の二人も同様だ。
 それを見た堺は不機嫌そうに顔をしかめる。

「何だ‥‥? 俺が料理を出来てはまずいか?」
「い、いやいやいや!! 別にそういう訳じゃなくってね!?」
「‥‥まぁ任せてくれ。料理には自信がある」

 そんな訳で、堺によるエイミィへの料理指導が始められる事となった。



――一方こちら、ロイと彼の相談に乗った傭兵達がいるカフェでは‥‥。

「――広場にいる大尉に手紙読んで貰えばいいんじゃないですか?」
「そういうのが出来ないから困ってるんだけど‥‥」

 瓜生 巴(ga5119)が今のロイには到底実行不可能な案を出して、頭を抱えさせていた。
 どんよりと暗くなった彼を慰めるように、玖堂 鷹秀(ga5346)が肩を叩く。

「まぁそれは冗談としても‥‥想いを真っ直ぐに伝えるというのは物凄く重要な事ですよ?
 現に私が妻と付き合うようになったのも、ストレートに『貴女の事が気になる』と口にしたからですね」

 その言葉は、既婚者らしい説得力に満ちている。
――まあ、その後の彼女がとる反応が面白いから口にした、という面もありますが‥‥と、少し黒い笑みを浮かべた事で台無しになっていたが。

 ‥‥ちなみに、その陰で瓜生が「‥‥いい案だと思ったのに」とか、「何で私に恋愛相談‥‥? 嫌われてる? 私嫌われてる?」とかぶつぶつ言ってたりするが、この際無視だ。

「うーん‥‥確かにそうなんですけど、どうやったらいいかが思いつかなくて‥‥」

 そう呟きながら、ロイは傍らに座るソウマ(gc0505)をちらり、と見る。

「恋愛の経験は豊富ですよ!! 任せて下さい!!」

 自身ありげにビシッ!! と親指を立ててみせるソウマ。
――ただしそこには『主に劇で演じているので』という補足が入り、その知識もマニュアル本やネットで仕入れた知識だったりする。

「バーンズ軍曹はエレハイン曹長がリードしてくれるのを待っているんですよ。
 男なら期待に応えて押し倒すぐらいの勢いでいきましょう!!」
「押した‥‥っ!? む、むむむむ無理だって!!」
「バレンタインパーティがチャンスです‥‥この機会を逃すようなら、貴方はヘタレ確定ですよ?」
「う、うう‥‥」

 ‥‥ヘタレは嫌だが、大胆な事をやるのも尻込みしてしまう。
 今度は傍らに座るブレイズに縋る様な視線を送る。

「あー‥‥あまり俺には期待しないでおいて貰えると助かるんだが。
 正直、こういうのは苦手なんだ」

 すると彼も少し困ったように両手を挙げて見せた。

「――なら、何で来てくれたの?」
「突然隊長から『お前も一緒に悩んで勉強して来い』って言われて‥‥」

 ブレイズはその時の女隊長の顔を思い出して身震いした。

『――もしジーラを悲しませたら‥‥分かりますね?』

 そう言って詰め寄る彼女に、ブレイズは本物の殺気を見たのである。

「ま、まぁ引き受けた以上は、やれるだけやってみるよ」
「あ、ああ!!」

 ガシッ!! と握手し合う二人――ヘタレ同士気が合ったのだろうか?

「まぁそれはともかく‥‥やっぱり手作りの贈り物だろうな。
 もし、直接面と向かって気持ちを伝えるのが中々出来ないのであれば、メッセージって形で贈り物に添えておくのも良いかも」
「あ、それは自分も考えてたんだ」

 ブレイズの提案に、ロイがコクコクと頷く。
 ロイ自身、イザという時に緊張してガチガチになるより、手紙の方がまだ上手く伝える事が出来ると思っていた。

「後は肝心の贈り物に、何を作るかだな」

 暫く腕を組んで考え込む一行――そんな時、幡多野 克(ga0444)が静かに手を上げる。

「‥‥曹長は‥‥手先が器用で、料理が得意だ‥‥そうだから‥‥、綺麗な‥‥飾りの、付いた‥‥ケーキなんていうのは、どう‥‥かな?」

 そう言って幡多野が提案したのは、バラのシュガーフラワーが飾られた見た目の可愛らしいケーキを作る事だった。

「‥‥どう‥‥? ‥‥出来そう‥‥?」
「ああ!! これなら行けそうだ!!」

 そしてそこに、瓜生のバレンタイン用のチョコを贈る、という案を合体させ、チョコでデコレートしたケーキの作成が動き出す事となった。

「よし!! じゃあ早速行動開始と行きましょう!!」

 ソウマが元気良く手を突き上げ、他の能力者たちもそれに続いた。



 かくして、バレンタイン当日に向けて、曹長と軍曹の特訓と準備が始まった。

――まずはエイミィの場合。

「うーん、隠し味にミソペーストを‥‥」
「ま、待て!! 早まるな!!
 料理を作ったことがないならば余り凝ったものにしない方が良いだろう。
 変に凝って失敗したら眼も当てられな――」
「えいっ!!」
「待て!! 何を入れた!? だから今何を入れたっ!?」
(「うわぁ‥‥」)
(「‥‥」)

 と、最初こそケミカルな料理の腕を披露していたエイミィだったが、数日すると不恰好ながらもそれなりに味の整ったチョコを作れる程度にはなっていた。
――その間に堺は何度も(二重の意味で)胃薬の世話になったが。

「うーん‥‥やっぱり形が上手くいかないわね‥‥」
「見た目は多少不恰好でも良い、『手作り感』があれば男は嬉しいものだ。
 それが特に好きな人からのなら尚更な」
「ええ、分かったわ‥‥うーん、あと一工夫欲しいんだけど‥‥」
「ま、待て!! まずはその調味料から手を離せ!!
 あ、ありきたりだがチョコにメッセージとか入れるのはどうだ?」
「あー、なるほどね。じゃあメッセージはホワイトチョコを使って‥‥」

 堺の負担は相変わらずだったが、料理の腕前は着実に上がっていった。
 そしてジーラとアリカの二人は、メイクと衣装のコーディネイトが担当だ。

「‥‥これなんかどうかしら?」
「こ、これ流石に可愛すぎるんじゃない‥‥?」
「‥‥そんな事無いと思うわよ?」

 アリカが選んだのは暖色系の可愛らしいドレス。
 それに合うようなメイクを、現役アイドルであるジーラが施していく。

「‥‥ねぇエイミィ。お互い奥手なんだから積極的に行った方がいいよ?」
「え?」

 その途中で、エイミィの耳元で囁くジーラ。

「‥‥なんて偉そうに言える立場じゃ無いんだけどね。
 頑張ろう。お互いに」
「‥‥ええ」

 そう言ってジーラとエイミィはお互いにはにかむような笑みを浮かべながら、拳をこつん、と交し合った。



 そしてロイの方はと言うと‥‥。

「よし!! こんなのでどうかな!?」
「‥‥こ、これは‥‥」
「何というか‥‥無駄に凄いな‥‥」

 ケーキの作成を手伝う幡多野とブレイズの目の前には、最早手作りという領域を超越した巨大なケーキが鎮座していた。

「これならエイミィも喜んでくれるかな!?」
「‥‥ち、ちょっと‥‥大きすぎる‥‥かな‥‥」
「あ、ああ‥‥あくまで心尽くしって程度で良いと思うぞ?」
「うーん‥‥そうかぁ‥‥」

 異様にテンションの高いロイを宥めながら、幡多野とブレイズは直感した。
――普段大人しい奴を下手に焚き付けるとタチが悪い、と。
 まぁ、作りすぎた分美味しいケーキを食べられたので、幡多野としては満足だったが。



 そしてパーティの段取りは、玖堂とソウマの二人がエリシアと話し合う。

「少佐‥‥セッティングはこんな感じでという事で‥‥」
「ああ、任せておけ。既に准将には話は通してある。
 会場は我々と傭兵達で貸切になっているから、曹長達も安心してくつろげるというものだ。」
「‥‥無駄に政治力高いですね」
「‥‥本当に無駄遣いなのが困った所だがな」



――かくして、パーティの日は訪れた。



『おおおおおおおおっ!?』

 既に会場に入っていた御剣隊の面々から歓声が上がる。
 彼等の視線の先には、柔らかな色合いのドレスを着たエイミィの姿。
 ジーラが施した化粧はそのドレスを引き立て、尚且つ出しゃばり過ぎない程度に自己主張をする絶妙なもの。
 元々の素材が良い事も相まって、頬を染めて見入っている隊員もいた。

『さぁ皆さん!! それではプレゼント交換タイムです!!』

 マイクを握り締めたソウマがノリノリで高らかに宣言する。
 半ば儀礼的にプレゼントを交換し合う傭兵達と御剣隊の隊員達。

――だが、その視線はこのパーティの主役とも言える二人に釘付けだ。

「あ‥‥あの‥‥ろ、ロイ‥‥これ、わ、私の手作りなんだけど‥‥」
「え? え、エイミィも? 僕もこれ、手作りで‥‥」

 お互いにおずおずと差し出されるプレゼント。
 その中身は、片や形は歪で、あちこちひび割れた手作りのハートチョコ。
 片やバラを模したシュガーフラワーの造形が美しい、チョコでデコレートされたケーキ。
 エイミィはそれを見て恥ずかしそうに‥‥そして申し訳無さそうに俯く。

「ご、ごめん‥‥こ、こんなの、た、食べて貰える訳‥‥無いよね?」

 だが、ロイは嬉しそうに微笑むと、チョコを一欠けら割って、口に入れた。

「――あっ!?」
「‥‥モグ‥‥美味しいよ、コレ?」
「ほ、ほほほ本当!? う、嘘じゃないわよね!?」
「うん、本当に美味しいよ。エイミィって料理上手かったんだね」

 それを聞いたエイミィは、ドレスを着ている事も忘れてガッツポーズを取る。

「い‥‥やっ‥‥たああああああああああああああっ!!!」
「‥‥え、エイミィ? ど、ドレスが破れるって!!」
「やったやった!! ねぇロイ!! これ私が作ったんだよ!? 初めての料理だよ私の!!」
「ちょ‥‥!? エイミィ苦しいって‥‥!!」

 まるで子供のようにはしゃいでロイに抱きつくエイミィ。
 それを見ていた周囲の者達がヒューヒューと囃し立てる。
 ソレに気付いて顔を茹蛸にして身を離すまで、エイミィはロイに抱きつき続けた。



 その後、和やかな雰囲気のままパーティは進行していく。
 ロイとエイミィの二人は、プレゼント交換以降固さも取れ、ごく自然体で腕を絡めながら談笑していた。

「――おお、これはいい傾向ですね。
 ではそろそろお互いに料理を食べさせてあげたらいかがでしょう? 『あーん』と」
『で、出来るかぁー(ませんよ)っ!!』

 玖堂がからかうと、二人は顔を赤らめて反論した。
――まだ、少し照れは残っているようだ。


――そしてダンスの時間。
 ここでもまた、ロイとエイミィはたどたどしいステップながらも、楽しげに踊る。
 傭兵達と御剣隊の面々も各々パートナーを探して踊り始めた。

「ダンスか‥‥えっと、ジーラ、相手頼めるかな?」
「うん‥‥宜しく」
「‥‥こういうのやったこと無いから、上手くできないと思うけど‥‥」
「‥‥それでも、ボクは嬉しいよブレイズ‥‥」

 会場の隅では、もう一組のカップルが仲睦まじくステップを踏んだ。



――パーティは盛況の内に終わり、ロイとエイミィは恋人同士として、確かな一歩を踏み出す事の出来た一日となったのだった。



 後片付けが終わり、傭兵達はエリシアと共に基地の裏手で一息吐いていた。

「二人が幸せそうで、何だかほんとに良かった‥‥」

 そう呟く瓜生の瞳は、少し潤んでいる。

「気分転換になって何よりだよウリュウ」
「‥‥ひょっとして私を元気付けようとしたんですか?」
「まぁ、曹長達のついでに、だがな」

 まるで子ども扱いするようなエリシアの言動に、「むうっ」と膨れっ面をする瓜生。
 彼女を宥めながら、今度は幡多野が口を開く。

「それにしても‥‥少佐はほんと‥‥部下思いですよね‥‥」
「ふふ、そんな事は無いさ。
 モヤモヤした気分をこのままにされて破局でもされては、我々の酒の肴が無くなってしまうからな」

 だがエリシアはそれににやり、と口を歪めて応えた。

「‥‥相変わらずですね、エリシアさんは‥‥」
「ま、そういう事にしておきましょうか」

 くすり、とアリカが、ケラケラとソウマが笑う。
――が、ふと辺りを見回して首を傾げる。

「あれ? そういえば、カーディナルさんとマールブランシュさんは?」

 そう、そこにはジーラとブレイズの姿は無かった。
 探しにいこうとするソウマを、エリシアを始めとした全員が止める。

「――それは無粋と言うものさ」

 何故なら彼等もまた、恋人として一歩を踏み出そうとしているのだから。
 二人が何処まで歩み寄れたか‥‥それは空に浮かぶ月だけが知っている。