タイトル:ジブラルタルの亡霊マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/23 02:54

●オープニング本文


 ジブラルタル海峡――まるで欧州とアフリカ大陸が口付けをかわせる程に狭まったこの海峡は、常に重要な拠点の一つであり続けた。


――バグアの支配する暗黒の大陸からの侵攻を抑える最前線として。


 能力者が生まれる前から幾度となく激戦が繰り広げられ、無数の艦船が、戦闘機が、そしてそれに倍する人が‥‥この海峡へと沈んでいった。
 水中用KVが開発され、海がバグアだけの領域では無くなっても、ジブラルタル海峡では常に一進一退の攻防が繰り広げられている。



 そして、その日も海峡近海にて小規模な戦闘が繰り広げられていた。



――ドンドンドンドンッ!!

 海上に次々と水柱が上がり、最後の一際大きい爆発には、マンタワームの破片が混じっていた。
 それを成したのは、テンタクルスが放った魚雷の一撃だ。

『こちらトリトン03。最後の一機を片付けた』
『ネプチューン了解、直ちに帰艦せよ』
『了解』

 その報告に、早期警戒艦「ネプチューン」のブリッジクルー達の間にほっとした空気が流れる。
 護衛艦三隻を伴っての哨戒中に、マンタワームの編隊を発見。
 同じく護衛に就いていた10機のKVと共に応戦し、これを全て撃破したのだった。
 損害と言える損害も殆ど無かったのは僥倖と言える。

「艦長、全KVの補給、各艦の応急修理、全て完了しました」
「――よし、全艦に帰投命令を‥‥」

 艦隊司令がそう告げようとした時、再び警報が鳴り響いた。

「艦長!! 大西洋方面から再び敵影接近!! 大型のビッグフィッシュです!!」
「何っ!? 護衛は何機付いている!?」

 大量のワームやキメラを搭載出来るビッグフィッシュは、一隻でも姿を現せば、戦線は容易に傾いてしまう。
 もし何の対策もしていない場所に揚陸させてしまえば‥‥待っているのは地獄だ。
 その撃破の難易度は、護衛がどれだけいるかによって大きく左右される。

「護衛は0!! どうやら、単独での行動のようです!!」

 それを聞いて、ブリッジの緊張が少しだけ和らぐ。
‥‥ビッグフィッシュはその巨体の通り、動きは鈍重であり、武装も大した事は無い。
 ならば艦載機の放出にさえ警戒していれば、現在の戦力でも十分に足止めは可能だ。

「直ちに司令部に応援要請!!
 全KV出撃!! 魚雷一斉発射後、囲んで奴を足止めする!!」
『アイ・サー!!』

 再びテンタクルス、ビーストソウル、アルバトロス、リヴァイアサンといった水中用機体が次々と出撃していく。

「――司令!! 全KVの配置が完了致しました!!」
「よし!! 全艦一斉射撃!! 撃てええええええっ!!」

 白い線を引きながら、無数の魚雷がビッグフィッシュへと突き刺さっていく。
 ほぼ同時にKVが一斉に間合いを詰める。


――激しい水煙が巻き起こるが、それを切り裂くように再びビッグフィッシュの威容が姿を現す。


 元々、この程度の攻撃でビッグフィッシュを足止め出来るとは思っていない。
 本命は砲撃を煙幕に接近した、KVによる中・近距離からの波状攻撃だ。
 魚雷やガウスガンの援護の下、近接武器を装備した機体が肉薄した。

「喰らいやがれデカブツッ!!」

 アルバトロスに搭乗したパイロットがレーザークローを振り上げる。

――キィンッ!!

「――なっ!?」

 だが、彼の顔は一瞬にして驚愕に染まった。
 水中用兵装の中では破格の威力を持つ筈のレーザークローの一撃は、FFによって阻まれていた。
 無数のワームを切り裂いてきた光の爪は、装甲にすら届かない。

「強化FFだとっ!?」

 それを見た者が衝撃を受けて立ち止まっている間に、ビッグフィッシュはその全艦の砲門を開いた。

「いかんっ!! 全機散か‥‥」

 指揮官が警告を発するよりも早く、ビッグフィッシュからフェザー砲やプロトン砲、メーザー砲に魚雷‥‥凄まじい弾幕がKV隊を包み込んだ。

「うわあああああああっ!!」
「ひっ!! だ、脱出できない!! 水がああああっ!!」

 爆炎と共に次々と巻き起こる悲鳴。
 パイロット達は、ビッグフィッシュが強力な攻撃を仕掛けてきた事に混乱していた。

「くそっ!! 落ち着け!! 距離を取って――」

 指揮官は後退しながらも懸命に指示を出していたが、その間にビッグフィッシュが吐き出したメガロワームの接近を許してしまっていた。


――鋭い乱杭歯が、コクピットごと彼のリヴァイアサンを噛み千切った。



「トリトン隊全滅!! 残存KV四機!!」
「護衛艦マリア・テレジア、カニンガム沈黙!! 沈みます!!」
「ビッグフィッシュ、ワームを放出!! メガロワーム2、マンタワーム2!!」
「護衛艦フリードリヒより入電!! 『ワレ被害甚大、撤退ヲ具申スル』!!」

 ネプチューンに、次々と戦況の不利を伝える情報が送られてくる。

「くっ!! 撤退だ!! フリードリヒとKVには応戦しつつ後退させろ!!」
『‥‥良い判断だ。だが、少々決断するのが遅すぎたな、少佐』
「なっ!?」

 突如、無線に割り込んでくる物腰柔らかな、それでていて意思の硬さを感じさせる壮年の男の声。

『‥‥おっと、今は確か大佐だったな。
 何せ十年も経っているものでな。外界の事には疎いのだよ』

 と、同時に艦のモニターに丁寧に整えられた髭を生やしした、軍服姿の男の姿が映し出された。
 それは、艦長にとって絶対に忘れる事の出来ない顔だ。

「ぎ、ギース・バルクホルン大佐‥‥!? 馬鹿な!? 貴方は十年前に‥‥!!」

 それは、かつて彼の上司であり、潜水艦隊を率いてKVのいなかった海を戦い抜いた勇士の姿だった。
 そして、十年前‥‥激戦の末、海峡に沈んだ筈の男である。

「まさかヨリシロに‥‥!?」
『いや、違う。私は‥‥いや、『我々』は、ヒトであるまま、己の意志でここにいる』

 そう宣言する彼の後ろには、彼と同じく、UPC海軍の制服に身を包んだ男達が直立不動の姿勢で立っている。
 彼らもまた、かつての上司であり、同僚であり、部下達だった。

「‥‥生きていたのか‥‥だが何故だ‥‥何故‥‥!?」
「ビッグフィッシュ急浮上!! 海面に出ます!!」

 懐かしさと悲しみ、怒り‥‥様々な感情が巻き起こり、言葉に出来ない。

――人知れず、艦長の目から涙が溢れた。

 その間にもビッグフィッシュの攻撃は続いており、海中からの体当たりによって、とうとう最後の砦であった護衛艦フリードリヒが轟沈する。
 もう、遮る物は何も無い。
 ビッグフィッシュの砲口が旗艦に全て向けられる。


『――我ら「亡霊」は帰ってきたのだ。
 忌まわしくも美しい、この欧州の海へ』


 砲弾と閃光の嵐が巻き起こり、早期警戒艦ネプチューンは木っ端微塵に吹き飛んだ。



――三十分後、ジブラルタルから最も近い場所に存在する軍港に辿り着けたのは、KVただ一機と、それに曳航された救命ボート一隻に乗る数名のみ。
 緊急通信と生存者の証言の元、まず討伐隊の先鋒として、能力者が送り込まれる事となった。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
白蓮(gb8102
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

 未だに残骸と重油の揺蕩う海を、八機の水中用KVが行く。

「視界が悪いのは、ちょっと嫌ですね‥‥」

 KF−14「ハク」に乗る柚井 ソラ(ga0187)が辺りを見回しながら物憂げに呟く。

「星よ、力を‥‥バトちゃん、傷つけちゃうかもだけど、一緒に頑張ろうね。
 ――勿論、ソラ君と威龍さんも!!」

 クラウディア・マリウス(ga6559)はペンダントに触れながら、乗機であるアルバトロスのシートを撫でる。
 と、同様に親しい間柄であるソラと、同じく僚機である威龍(ga3859)に朗らかに呼び掛けた。

「ああ、こちらこそ宜しく頼む。
 ‥‥それにしても参加八機中五機がリヴァイアサンとは‥‥KVの進化は留まるところを知らないな」

 威龍はそれに応えると、感慨深げに辺りを見回す。
 自分達三人を除く全員が、水中用機体では最新鋭を誇る機体を駆っている。
 威龍が操るビーストソウルが、つい最近まで最新鋭と呼ばれていたのが信じられない程だ。

(「リヴァイアサンやアルバ、けもたま‥‥新しい機体はいっぱいあるけど俺たちだってやれるんだぞって力発揮しよう頑張ろうね、ハク!」)

――だが、自分達が決して劣っているなんて思っていない。
 そんな誇りを胸に、ソラは愛機に心の中で囁いた。



「さてリヴァイアサン‥‥力を見せて貰いますよ」

 頼もしい感触を返してくる操縦桿を満足げに握り締めながら、周防 誠(ga7131)が笑みを浮かべる。
 そして、とうとう敵の姿が現れた。
――情報どおり、重武装を施したビッグフィッシュと、その艦載機であるマンタワームとメガロワーム。

「武装ビッグフィッシュ‥‥また厄介なものが出てきたわね」

 澄野・絣(gb3855)が険しい表情で敵を見据える。

――まず受ける印象は、『巨大』の一言。

 迫り来るビッグフィッシュの威容は、近づいただけでも押し潰されそうな錯覚を覚える。
 その感覚に、鯨井昼寝(ga0488)は武者震いをしながら舌なめずりをした。

「は――――はははッ! 良いわ! 面白い!!」

 自分一人では手も足も出ず、ただ恐怖するしかない存在。
 それほどに圧倒的な敵で無ければ、挑む意味が無いではないか。

「行くわよ!!」
「ええ、いつでもどうぞ!!」

 僚機の周防に呼び掛けると、鯨井は愛機「モビー・ディック」を変形させ、獰猛な笑みと共にBF目掛けてガウスガンを乱射する。
 周防もまたBFとの距離を保ちながら、フォトンランチャーを放つ。
 その殆どが強化FFと分厚い装甲によって阻まれる‥‥が、それで良い。
 元々BFの注意をこちらに引き付ける事こそが狙いなのだから。

「さぁでっかいクジラさん‥‥お相手願いましょうか!!」

 迫り来る濃密な弾幕に怯む事無く、鯨井は吼えた。



『ほう‥‥たった二機でこの艦に挑むか‥‥』

 迫る鯨井と周防の二人を見たギースの目が、感心したような光を帯びる。
 戦力差を鑑みれば、彼等の攻撃は儚い蟷螂の斧でしかない。

――だというのに、彼等の気迫の何と雄々しい事か。

 ギースは、二人の姿にかつての自分達を重ねた。
 敵いもしない圧倒的な力に、決して諦めずに立ち向かったかつての日々を思い起こす。

『――その心意気や良し。
 砲撃手、照準を全てあの二機に合わせろ。その勇気に免じて誘いに乗ってやれ』
『アイ、サー!!』

 そしてギースはモニターに移る二機のKVを見つめ、目を細める。

『彼等のような力が‥‥我等の頃にもあったならばな‥‥』

 その呟きは、誰にも届く事無く戦いの喧騒に消えていった。



 BFに向かった鯨井達を追いかけようとしたメガロワームとマンタワームの鼻先に、対潜ミサイルR3−Oが放たれる。
 それを成したのは、巡航形態となったアーク・ウイング(gb4432)のリヴァイアサンだ。

「捨て駒にされたうらみか、バグアに洗脳されたか知らないけれど、アーちゃんも黙って殺されるつもりはないからね。全力で行かせてもらうよ!!」

――二機のワームの足が止まる。
 そこにすかさず澄野が接近し機槍斧「ベヒモス」を振るった。
 だが、まるでトンボ返りのような動きで強烈な一撃を掻い潜ったメガロワームが、お返しとばかりに強靭な顎で噛み付いてくる。
 咄嗟にベヒモスで受けるが――その瞬間背に衝撃を受けて吹き飛ばされた。

「くっ!?」

 水中とは言え凄まじいGが彼女を襲い、一瞬意識が飛びそうになる。
 どうにか堪えて後ろを見ると、マンタの砲口がこちらに向けられていた――撃たれたのだ。
 メガロに気を取られている間に回り込まれていたのだ。

「澄野さんっ!!」

 咄嗟に白蓮(gb8102)が間に割り込み、ホールディングミサイルを放った。
 その一撃は装甲の一部に穴を開けるが、マンタは怯む事無く再び複雑な機動を取りながら攻撃を仕掛けて来る。
 メガロが突進しながら牙と剣翼のように鋭いヒレで攻撃を仕掛け、それに気を取られていればマンタが死角から狙い打つ。
 逆にマンタに気を取られれば、今度はメガロの接近を許してしまう。

「くっ‥‥このおっ!!」

 アークが苛立ったような叫びを上げる。
 敵は決して凄まじい性能や、圧倒的な技量を持っている訳では無い。
 だが、阿吽の呼吸とばかりに統率の取れた磐石の連携で攻め立ててくる。

――一言で言えば、物凄くやり辛かった。

 だが、白蓮は怯む事無く果敢に打ち掛かっていく。

「元は自分達と同じ様に人を守る為に戦っていたのでしょうっ、それが何故っ!」

 すれ違い様のレーザークローが、メガロのヒレを一本切り裂いた。

『‥‥答える必要は無い』

 まるでしわがれた老人のように疲れきった青年の声が、無線に響き渡る。

『‥‥心を、体を‥‥命をすり減らして戦った我らを切り捨てた人類などにはな!!』
「‥‥っ!!」
「白蓮っ!! っと、やらせないわよ!!」

 白蓮目掛けて飛燕の如く翻ったメガロの突進を止めようと、澄野がベヒモスを振るう。

――メキャアッ!!

 くぐもった轟音と共にぶつかり合う二機。
 メガロは腹を大きく切り裂かれ、澄野機は片腕を失っていた。
 咄嗟にマンタがフォローに入ろうとするが、白蓮が放った多連装魚雷「エキドナ」の弾幕が遮る。

「その隙、逃すと思っているのですかっ!!」

 その隙に動きの鈍ったメガロ目掛けて、アークが照準を定めた。

「今だっ!!」

 エンヴィー・クロックとシステム・インヴィディアが同時に起動し、命中精度と威力を高められたガウスガンの一撃がメガロの傷口を穿ち、爆発が起こる。

『‥‥ちっ!!』
『油断したわねぇ‥‥下がってなさいな』
『‥‥ふん』

 悪態を吐くメガロのパイロットに、皮肉気な調子でマンタのパイロットが軽口を放つ。
 面白く無さそうな悪態を残して、燃料を血液のように流しながらメガロが後退していく。

「待ちなさいっ!!」
『あら、させないわよ?』

 させじと追いかけようとするが、すかさずマンタのプロトン砲が火を吹く。
 三人は辛うじて光条を避けるが、その間にメガロは撤退していった。



 もう一方の艦載機と戦うソラ達も、同様に苦戦していた。

――ドンドンドンドンッ!!

「くぅっ!!」

 次々と巻き起こる魚雷の爆発――辛うじてそれらを掻い潜るソラ。
 だが、水煙の切れたその先に待っていたのは、何時の間にか撒き散らされた機雷群。
 回避が間に合わず触れてしまい、ソラはまたも激しい爆発に巻き込まれた。

「うううっ!!」

 ソラを衝撃が襲い、ハクの装甲が剥がれ落ちていく。

『そらそらどうしたぁっ!? そんなモンか人類の希望とやらはよぉっ!!』
「調子に乗るなよ貴様っ!!」

 挑発するように叫ぶマンタのパイロット目掛けて、威龍のビーストソウルが巡航形態で深々度からミサイルを乱射する。

『うおっと!! やるなぁっ!?』

 マンタはどてっ腹に数発食らいながらも、体勢を立て直して反撃のプロトン砲を放った。
 通信機から聞こえる荒々しい粗野な声に反して、その照準は針の穴を通すように正確だ。

「ちいっ!!」

 威龍はそれを近くに浮いていた残骸に隠れる事で凌ぐ。
 追いかけようとするマンタだったが、その上方から放たれたガウスガンに足を止められる。

「させません!!」
『ハッ!! 面白ぇじゃねえか小僧!!』

 穿たれた装甲の隙間から血液のように燃料を漏らしながらも、マンタのパイロットは獰猛に笑った。



 そしてクラウディアはしつこく纏わり付いてくるメガロを引き剥がそうと、必死になっていた。

「なんで、なんでこんな事するんですかっ!!」

 通じるとは思っていないが、通信機でメガロに叫びながら牽制のガウスガンを放つ。
 メガロは当たるのも構わず突進し、ヒレを叩きつける。
 クラウディアはディフェンダーでそれを受けるが、強烈な一撃に機体が泳いだ。

「クラウさんっ!! 今援護を!!」

 彼女の劣勢を見て取ったソラがエキドナを放つ。
 流石に濃密な弾幕の中には飛び込めず、メガロが身をかわす
 その間に距離を取るクラウディアだが、言葉を止める事はしない。

「同じ、人間なのに‥‥こんな、悲しい事っ!!」
『‥‥優しいのですね、お嬢さん』
「――っ!!」

 聞こえてきたのは、優しげな青年の声。

『久しぶりに話せた人間が、あなたのような人で嬉しいですよ』

 言葉の通り、その声は何処か弾んでいる。
――クラウディアには、そこに込められた感情に嘘は無いように思えた。

「待ってる人は居ないんですか? 家族とか‥‥」
『ええ、いましたよ。
 結婚したばかりの妻と‥‥お腹の中の子が無事に生まれていたならば、今年で9歳になる筈です』
「‥‥っ!! それなら‥‥何で、帰ってあげないの‥‥!?」

 クラウディアの瞳から涙が零れ落ちる。
 彼女の父も、航空機事故で行方不明となっていた。
――もし彼のように生きていたならば、今すぐにでも会いたい。
 だからこそ、何故彼等が人類に対して牙を剥くのか‥‥納得が行かなかったのだ。

「こんなの‥‥悲しいよ‥‥」
『そうですね‥‥ですが、この身は既に強化された身‥‥誰かを抱き締める代わりに絞め殺し、差し出された手を掴む代わりに握りつぶす、呪われた体です』

 無念そうに男は呟くと、再びメガロを操って距離を詰め、プロトン砲を乱射する。

「だからっ!! どうしてそんな事をっ!!」
「クラウさん駄目ですっ!! 下がって!!」

 尚も必死に呼び掛けるクラウディアを押し留め、ソラがホールディングミサイルを放つと、それはプロトン砲を直撃し、砲塔を吹き飛ばす。

『それを知りたくば‥‥私達に勝つ事です!!』

 勢いを緩める事無くトップスピードに乗ったメガロは、二人目掛けてその顎を開いた。



 BFから放たれる魚雷とフェザー砲、プロトン砲の衝撃に、全KVの中でも巨体を誇る筈のリヴァイアサンが木の葉のように翻弄される。

「くっ‥‥やはり火力は高いようですね」

 エンヴィー・クロックを起動し、アクティブアーマーで致命打をかわした周防は、すかさず続けて飛来した魚雷群をガトリングで打ち落としていく。
 そして浮かんでいる残骸を射線上に飛ばして盾にする。

「はあああああっ!!」

 その間に、鯨井が接近し、ガウスガンを乱射する。
――だが水を切り裂いて放たれた弾丸は、硬い手応えに遮られ、僅かにしか傷を付ける事が出来ない。
 その間に再び照準され、幾度も装甲を穿たれる。

「厚い火力に鉄壁の防御、か。
 ふふ、まあ最低でもそれくらいはやってもらわないと嘘でしょ」

 再び後退する鯨井だが、その口は楽しくて堪らないとばかりに吊り上っていた。
 続けて放たれた一際巨大なプロトン砲を、装甲一枚を犠牲にして掻い潜る。
 だがその間に距離を開けられ、再び砲火に曝される二人。
――遠距離の指し合いでは、完全に敵に分がある。

「まだ行ける、周防?」
「ええ、まだまだ!!」

 既にアクティブアーマーは用を成しておらず、全身の装甲も残っている部分の方が少ない。
 それでも、二人は果敢に攻め立てていく――そしてとうとう、弾幕に隙間が出来た。

「隙あり! なんてね。当たって下さいよ‥‥!!」

 鯨井の援護を受けながら、ブーストをかけて周防機が奔る。
 そして、突き出したレーザークローの一撃は、砲塔を切り裂き、FFと装甲を穿った。

「食らえええええええっ!!」

 そして周防が穿った穴目掛けて、システム・インヴィディアで威力を高められた鯨井のガウスガンが、まるで巨大な白鯨へ放たれた銛の如く突き刺さる。
 轟音を上げて、BFの内部に爆発が起こった。



「うおおおおおっ!!」
『ちいっ!! やるじゃねぇかこの野郎!!』

 機体を変形させた威龍のビーストソウルの一撃が、マンタの尻尾のようなパーツを真っ二つに両断する。

『おい‥‥テメェの名前は何だ? 俺はゲイル。ゲイル・バーグマンだ』
「名乗られたらば答えねばなるまいな‥‥俺の名は威龍!! 覚えておくがいい!!」
『おう!! きやがれイーロンッ!! ぶっ潰してやるぜぇっ!?』
「望む所だ‥‥来るがいいっ!!」

 マンタのパイロット――ゲイルに応え、威龍は仲間と共に全力で打ち掛かっていく。
 いつ終わるとも知れない激闘――だが、それは唐突に終わりを告げた。

『傭兵諸君聞こえるか!! これより援護射撃を行う!! その間に離脱したまえ!!』

 傭兵達の無線に響き渡る通信。
 そして続いてBFとワーム達に対して数十発もの魚雷が飛来し、激しい爆発と水煙が上がる。
――UPC欧州軍の本隊が到着したのだ。

『総員撤退するぞ。即時帰艦せよ』
『アイ、サー!!』

 それを見た亡霊達は、即座に引いていく。

『決着はぜってぇ付けてやるからな!! 覚えていやがれっ!!』
『それ、捨て台詞みたいで情けないわよゲイル?』
『うるせぇよミーシャ!! 黙ってろ!!』

 BFの援護を受け、軽口を言い合いながら引いていくワーム達。
 罵りあいながらも、そこには確かな信頼と、仲間意識が感じられる。

『それではお嬢さん、ご機嫌よう。次なる戦場では出会わない事を願っていますよ』
「‥‥待って下さいっ!!」
『‥‥私の名はサイス・クロフォード。
 出来るなら、家族に伝言を‥‥いえ、忘れて下さい‥‥彼女達に迷惑はかけられませんからね」

 クラウディアと語らっていたメガロのパイロット――サイスもまた引いていく。
 追いかけようとしたが、彼女を含めた傭兵達の損傷は激しく、本隊から後退しろと命令が下る。

「どうして‥‥どうして‥‥っ!!」
「クラウさん‥‥」

 涙を流すクラウディアを慰めながら、ソラは遠ざかっていくワーム達を見つめて呟く。

「憎しみ、恨み‥‥復讐。彼らが動くのはそれが原因‥‥?
 それとも他に何かあるのかな‥‥?」

 その疑問に答えられる者は、誰もいなかった。



 その後亡霊たちを乗せたBFはUPC軍の追撃を振り切り、アフリカ方面へと撤退していった。