タイトル:【御剣】第一次合同演習マスター:ドク
シナリオ形態: イベント |
難易度: 普通 |
参加人数: 94 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2010/02/10 23:31 |
●オープニング本文
訓練を終えた御剣隊のKVがハンガーへと入ってくる。
以前のような使い込まれたバイパーや阿修羅、ナイチンゲールでは無く、全て真新しい、限り無く新品に近い雷電やシラヌイ、ウーフーといった高性能を誇る機体ばかりだ。
――ただし、その殆どに、色取り取りのペイント弾の化粧が施されてしまっていたが。
「ああもう悔しいっ!! 何でよりによってあそこで上から来るのよっ!!」
長い髪を振り乱しながら、悔しげな様子でかつての伍長‥‥エイミィ・バーンズ『軍曹』が降りてくる。
そして早々にかつての軍曹――ロイ・エレハイン『曹長』へと食ってかかった。
「あんな動き反則ですよっ!!
頭上20メートルのビルからバーニア吹かして降下しつつ射撃なんて!!」
「‥‥そ、そんな事言われても――」
「言い訳無用ですっ!! これからみっちりシミュレーターで相手して貰いますからね!!
ロイ!! ‥‥曹長!! 覚悟しておいて下さいっ!!」
「ちょ、ちょっと待って軍曹‥‥」
――周囲の者達は、それをニヤニヤとした顔で見守っている。
エイミィとロイがプライベートで親密な仲なのは、御剣隊の誰もが知っている事実だ。
「‥‥仲が良いのは結構だが、公私は弁えるんだぞエイミィ軍曹。それと、ちゃんとクールダウンはしておけ」
「了解です、た‥‥『少佐』――では、失礼します!!」
「し、失礼します」
そのままずるずるとエイミィに引きずられていくロイ。
そんな彼らを苦笑しながら見送るエリシア――彼女はマドリードでの功績から、少佐へと昇進していた。
そこへ、かつての曹長――ディック・ケンプフォード『准尉』が駆け寄った。
「隊長、新兵共の機体の収容が完了しました」
「ご苦労」
エリシアはディックの報告に頷くと、全員に向かって号令をかけた。
「では昼食及び休憩の後は自主訓練とする。
各自、徹底的に機体完熟に努めるように!!」
『了解!!』
そしてディックを連れて、執務室へと向かうエリシア。
「あ、そうでした――少佐、この後お時間は?」
と、ディックが背後から問いかけてくる。。
「昼食後それなりに時間は取れるが‥‥何の用だ?」
「――新入り共と先任の奴らについて、ちょいと」
「‥‥分かった、後で『准将』の執務室で集合だ」
思わせ振りに隊員達を指差す彼の意図を瞬時に察したエリシアは、彼に背を向けると、すぐに上司であるブライアン・ミツルギ『准将』へと連絡を入れるのだった。
マドリードでの地獄のような戦闘を生き残った御剣隊。
UPC上層部はその功績を称えて彼ら全員に勲章を授与し、加えて階級の昇進を行った。
更に失われ、消耗した機体及び装備の補充、人員の大幅な増員‥‥厚遇とはかくや、と言わんばかりの充実ぶりであった。
『‥‥それでも安いぐらいじゃが、な』
だが、上層部からそれらの見返りを引き出したミツルギは、一言そう呟いたという。
如何なる厚遇を受けたとしても、マドリードで散った新兵を含んだ17名の隊員達は帰って来ないのだ。
その全員が確かな実力と豊富な戦闘経験を持ち、上司部下という関係抜きに、ミツルギやエリシア達と確かな信頼関係を築いてきた優秀な軍人達。
そんな彼らが抜けた後の穴はあまりにも大きく、如何に潤沢な機体や装備を以ってしても、到底埋められるものでは無い。
そして今日、ディックからある意味最大の懸念とも言える材料が挙げられる事となったのである。
訓練が終わって数時間後――ミツルギの執務室には、エリシアとディックの姿があった。
「‥‥新入りと先任達との認識の齟齬、とな?」
「はい。はっきり言って、新入り共は甘ちゃん過ぎます。
‥‥『本格的』な戦場に行ったら、半分は生きて返れないでしょうな」
一ヶ月前の激戦から暫くして、補充人員として新たにメンバーとなった新入り達。
如何に彼らがミツルギとエリシアらによって選抜された優秀なパイロットとは言っても、普段から通常の部隊とは比べ物にならないような過酷な任務を日常的にこなしている御剣隊の先任達とは、戦場での心構えに決して小さくは無い溝が生まれていた。
しかも、先任達はたった一ヶ月前に、文字通り身も心も削るような戦いを繰り広げたばかりなのである――認識の違いが現れるのはある意味当然と言える。
そして、それは訓練に対する意気込みもまた同じだった。
「にしては、訓練のデータは悪く無いようじゃが?」
「あんな『訓練のための訓練』、クソの役にも立ちゃしません。
奴らも場数だけは踏んでるんで取り繕うのだけは得意みたいですが、細かいミスも多すぎる‥‥訓練を舐めてるとしか思えませんよ」
軍の規律から言えば、本来ディックのような下士官が将官クラスの人物に進言出来るような権限は無い。
しかし、エリシアが兵卒の頃から付き合いのある彼の目は、かなり信頼出来る。
そのため、人払いした上でこの場所で話し合いをしているという訳だ。
「――嬢ちゃんの意見はどうじゃ?」
「私も准尉と同意見ですね。
優秀ではありますが、彼らはあまりに『常識』や『セオリー』といった類の物に捕らえられすぎています。
そろそろ本格的に我々上の者が介入しなければ不味い状況だと判断します」
「とは言っても少佐、こいつは上に命令されるだけで何とかなるもんじゃありませんぜ?」
「確かにそうだな‥‥ならばどうするか‥‥」
ディックの言葉に、エリシアは納得せざるを得ない。
「そこで、俺から一つ提案があるんですが――」
――その内容は、エリシアはおろか、ミツルギまで「ほう‥‥」と感嘆してしまうような内容であった。
翌日、ブリーフィングルームには、御剣隊の隊員達だけではなく、多くの傭兵達の姿もあった。
その光景に戸惑う御剣隊の隊員達に伝えられた内容――それは、傭兵達との大規模な合同軍事演習であった。
「傭兵は通常ならば我々と肩を並べて作戦に参加する存在だ。
今回の目的は、傭兵が如何に頼もしい存在であるかを再認識し、そして彼らの常識に囚われない柔軟な発想というものを学ぶ事だ」
唖然とする隊員達――無理も無かろう。
味方にすれば頼もしい存在である傭兵も、敵に回れば凄まじい脅威でしか無い。
それを見て、エリシアはサディスティックな笑みを隊員達――特に新入り達に向ける。
「甘ったれた貴様らの認識を正す良い機会だ。
セオリーをご丁寧に並べた訓練など、クソの役にも立たんという事を勉強して来い」
そして最後に傭兵達に向けて、挑戦的な笑みを浮かべた。
「しかし、そうは言っても我々としてはそう簡単に負けてやるつもりは無い。
本気で来なければ、食われるのは諸君であるという事を覚えておいてくれ」
その言葉に、傭兵達はぎらぎらとした闘志を燃やすのであった。
●リプレイ本文
「‥‥」
マドリードで御剣と共に戦った如月 由梨は、御剣の後任達を見つめていた。
彼等は死んでいった御剣隊の穴埋め‥‥壊れたパーツの代わり。
度重なる戦いで磨り減った彼女の心は、そんな風に考えてしまう。
『いつまで下を向いている気だユリ?
そんな顔をさせるために、奴等は死んだ訳では無いぞ』
「‥‥エリシアさん」
沈んでいきそうな心に叩きつけられる、エリシアの喝。
『戦いの中で周囲の死に動揺せず、戦いしか考えない‥‥そんなのは当たり前だ。
――でなければ死ぬのは自分だからな』
「そして、それは冷たいのではない‥‥志半ばで散った英霊の意思を継ぐ確固たる覚悟の表れ。それを否定する必要はない誇るが良い。
‥‥何よりあの時の流した涙の痕こそ悲しみの表れ‥‥大丈夫、そなたは正しく人の心をもっておる」
エリシアの言葉に続けて、かつて同じ戦場に立った友人、藍紗・T・ディートリヒが口を開く。
『――まぁ、若い内は好きなだけ悩め。
戦いに悩み、心が磨り減っていると思える限り、お前はまともな人間だ』
「――はい」
一言告げて、通信は切れた。
虚ろだった如月の目に、少しだけ真っ直ぐな光が戻る。
「‥‥少なくとも、この演習の間は大丈夫のようだな」
それを見ながら、レティ・クリムゾンは安心したように微笑み――すぐに戦士の顔となる。
「さあ、お手並み拝見と行こうか」
乗機のリヴァイアサンの主機が唸りを上げて起動した。
――時計が演習の開始時刻を指す。
『傭兵隊及び御剣隊、演習を開始して下さい。互いの健闘を祈ります』
オペレーターの通信と共に、演習は始まった。
「り、陸上でリヴァイアサン!? そんなのアリかよ!?」
「くっ!! 怯むな撃て!!」
二番隊第三小隊――203の一人が素っ頓狂な叫びを上げる。
だが小隊長はそんな彼らを抑えて、一斉に弾幕を張る。
「‥‥さあ、アニキ。スデゴロの始まりよ」
盾でそれらを受け止めながら、カンタレラは己の愛機リヴァイアサンに向かって囁く。
彼女の後ろに付き従うのは【兄貴一家】の面々だ。
「さぁ、貴方達がかの英霊達の後継者に相応しいか‥‥試させて頂きます!!」
月神陽子の真紅に染まったゼカリアが、ハンマーボールを撃ち出した。
「うわっ!!」
四番機が辛うじて受け止める。
だが、その足は完全に止まってしまっていた。
「どうした!! 覚悟が足りねえぞっ!!」
その隙に天原大地のビーストソウルが一気に間合いを詰めると、機刀「獅子王」を真っ向から打ち込んだ。
あっという間に一機が食われる。
「畜生!!」
動揺しながらも二番機がマシンガンを放つ。
それらはまたしてもカンタレラによって受け止められ――次の瞬間、その後ろから盾を構えたシーヴ・フェルセンの岩龍が飛び出した。
「岩龍が前に!? 舐めるなっ!!」
二番機がレーザーを放つが、彼女はその全てを正確に受け止めると、ヒートディフェンダーを囮に、がら空きになった脇腹にソードウィングの一撃が叩き込まれる。
「今見えてるモンだけが攻撃手段じゃねぇです。油断しねぇが良し」
「貴様あっ!!」
激昂し反撃を試みるが、その前にカンタレラが迫っていた。
「うちのシーヴちゃんに何すんのっ!!」
メガレーザーアイ、ルプス・ジガンティクス、グレートホーンの連撃が突き刺さる。
それはまるで、番長がメンチを切り、胸倉を掴み、パチキをかますかのような攻撃だった。
「こんな無茶苦茶な攻撃があって、たまるか‥‥」
己の撃墜判定を聞きながら、二番機の男は思わず呟く。
「調子に乗るなっ!!」
だが、あっという間に二機が撃墜された事でようやく頭を切り替えたのか、隊長機が傍らの仲間と連携してガトリングを乱射し、ディフェンダーで切り付ける。
「ガッハッハッハ!! そう来なくてはな!!」
「最後まで残るのが目標でな‥‥最初から躓く訳にはいかん!!」
孫六 兼元はミカガミのあちこちにペイント弾を当てられながらも、豪快に笑って双刀を振るい、水円・一のディスタンはスナイパーライフルでそれに応戦する。
『奥にいるウーフーに逃げられたら厄介です。二人とも頼みやがります』
「OK‥‥周囲に敵影無し、と――冴城さん、行けるぜ」
「了解、じゃあ行ってくるわね」
地上のシーヴの通信を受けて、ビルの上に待機していたアッシュ・リーゲンのロビンが、親指を冴城・アスカのシュテルンに向けて立てる。
冴城は頷くと、躊躇無く機体を中空に躍らせた。
そしてバーニアを吹かして減速しながら、後退していたウーフーへ砲口を向けた。
『な、何っ!?』
「ハァイ、私と一緒に踊りましょう♪」
頭上から鉄の咆哮が響き渡り、ペイント弾がウーフーを染め上げていく。
「貴方も御剣隊なら、実戦経験の乏しい新人ぐらい墜としてみせなさい!!」
すかさず【蛇槍】に所属する榊 那岐のディアブロが飛び出し、SAMURAIソードを叩きつけて沈黙させた。
『何をやっている203!!』
次々と消えていく203のマーカーを見た204は、シラヌイの高機動を活かして救援に向かおうとした。
「今だっ!!」
が、彼らの隊にウーフーがいなかった事が災いした。
203に注意が向いた瞬間を見計らい、骸龍に乗ったAnbarの号令と共に、【侍ロード】の面々が横手から襲い掛かったのだ。
「密集していては敵からの思わぬ攻撃で痛手を負う事もあることを覚えておくのだな!!」
「脇が甘い!!」
榊兵衛のリヴァイアサンと、漸 王零の雷電が砲弾を乱射しながら接近。
敵陣に突っ込むと、それぞれ機槍「ユスティティア」と機刀「建御雷」を振るい、あっと言う間に一機を血祭りに上げた。
二人とほぼ同時に、今度は別方向から突っ込んでくる機影が二つ。
『くっ!?』
咄嗟に反応出来たのは後任古参の隊長のみ。
だが、マシンガンで狙った相手が悪かった。
「遅いっ!!」
それは井出 一真の阿修羅。
四足歩行型特有の全高の低さに戸惑い、照準が狂う――訓練とは違う機体だったからだ。
これこそ、『訓練のための訓練』の弊害であった。
井出はその間に距離を詰め、サンダーテイルとヴィガードリルの連撃を叩き込んだ。
間断無く堺・清四郎のミカガミがブーストを噴かして接近し、建御雷で胴を凪ぐ。
『う、おっ!?』
「最前線を戦い抜いてきた我ら傭兵の力‥‥見縊るな!!」
『し、小隊長!?』
小隊長を撃破し、残る後任新兵達目掛けて飛び掛る【侍ロード】。
残る二機が全て撃墜されるまで、そう長くかからなかった。
『御剣203に続き204全滅。対する傭兵の損耗率は0%です』
(「まさか、ここまで腑抜けてるとはな‥‥」)
報告を聞いて、201−01――二番隊隊長にして唯一の先任古参兵は忌々しげに舌打ちした。
『お前等――これから先は実戦と思え。出来なけりゃ傭兵の前に俺がお前らを撃墜するぞ』
『り、了!!』
残った二番隊の隊員は、言葉を返すのが精一杯だった。
203、204を全滅させた勢いに乗る傭兵達の前に、今度は201、202の二小隊が立ち塞がった。
消耗した【兄貴一家】に変わり、今度は【蛇槍】が前に出る。
「行くぞテオドール君、サポートが僕達の仕事だ」
「は、はいっ!! 勝っても負けても出来るだけの事を致しましょう」
岩龍に乗った錦織 長郎と、初陣のテオドール・ドラッヘンの支援の下、まず鳳 覚羅の破暁と荒神 桜花のノーヴィ・ロジーナが前進する。
「さて、どれほどの実力なのかな‥‥」
「さぁ、今日はバグアとして頑張るんや。鬼気合入れるでぇ」
鳳は隊長機の雷電改に目をつけると、複雑な機動で接近して、双刀を叩き付けた。
だが、雷電改はディフェンダーと盾でその全てを叩き落す。
「勘がいいね、流石は御剣と言った所かな?」
鳳は不敵に笑うと、すかさず隊長機の正面から身をかわす。
「日ノ本・菊花、不知火、参ります!!」
「避けられますか!?」
そこにいたのは、後方からレーザーを構える日ノ本・菊花のシラヌイと、機鎚を構えて突撃する番場論子のロジーナの姿。
最後方からは、錦織とテオドールによる援護射撃の三段構え。
「貰ったでぇーっ!!」
更に横手からは荒神のノーヴィが、急旋回しながらヴィガードリルを構えて突進する。
「悪いね、伊達に修羅場を潜ってきた訳じゃないんだよ」
『‥‥ほう、随分と温い修羅場だったんだな』
「!?」
無線越しに感じる隊長の笑み。
次の瞬間、三機の雷電が隊長機の前に立ち塞がり、一機が番場を抑え、二機が荒神を囲む。
『攻撃に夢中になって、電子戦機の防御がお留守だぞ!!』
隊長機は荒神の攻撃を受けるのも構わず、前進しながらレーザーとマシンガンを乱射し、後方からはウーフーがスナイパーライフルを放つ。
「しまった!!」
それらは狙い違わずテオドールの岩龍へと吸い込まれていった。
彼が初陣であり、KVに乗りなれていない事を見抜かれたのだ。
「うわあっ!!」
テオドールに撃墜判定が下る。
続けてディフェンダーが鳳に向かって振るわれた。
『御剣を舐めるなっ!!』
「ぐっ!!」
己の矜持を乗せた裂帛の打ち込みに、雷電の倍近い大きさの破暁が後退する。
「あかん、皆堪忍や〜!!」
そして続けて三番機、四番機に囲まれていた荒神が、猛攻に耐え切れず力尽きた。
「桜花っ!! くっ‥‥今の内に下がりなさい論子!!」
「無理だけはしないで下さい!!」
「え、ええ、ありがとうございます」
続けて番場が囲まれそうになるが、それは後方からのアンジェラ・ディックのアンジェリカが放ったアハトアハトによって阻まれ、その間に榊がフォローに入る。
『皆さん後退を!! ここは私達が食い止めます!!』
【兄貴一家】が再び前進し、立ち塞がる。
『懐に入るから、ちょっと気を引いて貰えない?』
『了解!! 援護します!!』
ノエル・アレノアのディアブロがスラスターライフルで援護射撃を放つ。
その隙に赤崎羽矢子はシュテルンを踏み込ませ、拳を雷電目掛けて叩きつけた。
『何のつもりだ!?』
「ありゃ? そう上手くはいかないか‥‥」
そして腕を極めてへし折ろうとするが、雷電のパワーが上のため上手くいかない。
反撃にディフェンダーが振り上げられるが、駆け寄った六堂 源治のバイパーが手にした大剣によって雷電ごと弾き飛ばされていた。
「危ないッスよ? 無茶はしないのが吉ッス」
「あー、ありがと」
赤崎に笑いかけると、六堂はスタビライザーを起動し、ショルダーキャノンを放ちながら前進していく。
「ヤツ等の機動は、こんなモンじゃないっスよ!!」
敵陣へと食い込んでいく友軍を支援するため、200――管制機と護衛二機も、前線近くまで前進し、情報処理に当たっていた。
『200!! 100へ情報を再送しろ!!』
『り、了!!』
だが、ウーフーのパイロットは後任新兵であり、まるで鵺のように変動する戦況を整理するのに精一杯となり、一つだけ突出してきた光点を見逃してしまっていた。
「電子戦機1、護衛2か‥‥」
それは不破 梓のシラヌイSであった。
ビルの上から200を見定めると、そこから降下しつつマシンガンを放った。
『うおっ!?』
『管制!! 何処を見てたっ!!』
護衛のシラヌイが前進し、不破目掛けて発砲する。
降下中のため碌に回避運動を取れず、地上に降りるのとほぼ同時に撃墜判定を受けるが、彼女の口元には笑みが浮かんでいた。
「KV1機の代価にするには多すぎる損害だな‥‥私の勝ちだ」
『何っ!?』
不破の視線の先‥‥そこには周防 誠のワイバーンの剣翼と、カルマ・シュタットのシュテルンが手にしたロンゴミニアトによって撃墜されたウーフーの姿があった。
「管制機ともあろうものが敵を見逃すとは、迂闊だな」
「そして奇襲を許す護衛も‥‥ね」
牡牛座撃墜者のコンビは不敵な笑みを浮かべ、呆然とする二機目掛けて突撃した。
――これにより二番隊は徐々に統制を失っていき、戦線は混乱していった。
一方その頃、別ルートで進行していた先任新兵二人が率いる205、206と【8246小隊】が銃火を交えていた。
傭兵達は、応戦したかと思うと後退し、応戦したかと思えば後退すると言った行動を繰り返していた。
「そろそろ引き時だぜ、リディ姐」
フェニックスに乗ったベールクトが、盾で攻撃を受け、ガトリングを放ちながら隊長のリディスに呼び掛ける。
「よし、後退するぞ」
「り、了解‥‥は、はわっ!!」
リディスのサイファーが踵を返すと、岸 雪色が慌てた様子で追従する。
それが演技だと気付かずに、気を良くした後任新兵達は次々と彼らを追撃していく。
『R−01だぁ? ロートルは引っ込んでろよ!!』
「‥‥っ!!」
わざわざオープン回線で愛機を嘲られた椎野 のぞみは歯を食い縛るが、今は耐えてガトリングを放ちつつ後退する。
「待てお前ら!! 深入りし過ぎるな!!」
『大丈夫だよ!! あいつら完全に浮き足立ってるんだ!!』
「‥‥待‥‥くそっ!!」
後任少尉達は、先任少尉達の忠告を全く聞かず、ただひたすら追撃を続けた。
「そろそろかな‥‥3、2、1」
十字路にさしかかると、結城 悠璃はタイミングを合わせる、フェニックスを敵に向き直らせる。
逃走を続けていたリディス達も立ち止まる。
「今だっ!!」
「‥‥了解」
その瞬間、待ち伏せしていたベルのシュテルンに搭載されたジャミング発生装置が唸りを上げ、辺りにノイズを撒き散らした。
「皆さん撃って!!」
「さあ、狩りの時間の、始まりにゃー!」
「これが、私の戦い方だから‥‥」
同時に、水上・未早のゼカリア、宇佐見 香澄のイビルアイズ、憐の破暁、ヴェロニク・ヴァルタンのフェニックスら、左右に隠れていた別働隊による一斉射撃が後任のシラヌイ達に降り注ぐ。
傭兵達の持つ兵器が次々と唸りを上げ、瞬く間に一機のシラヌイを撃墜した。
そして、結城とコンビを組んでいた柳凪 蓮夢も、彼が誘い出した敵へと牙をむく。
「目標‥‥補足。撃ち抜け、紅弁慶!」
シラヌイSが放ったミネルヴァの光は、御剣隊を陽光のように照らし出した。
「うわっ!!」
「待ち伏せ!? 状況‥‥くそっジャミングが!!」
ジャミングと奇襲の混乱が収まり切らない内に、逃げに徹していた者達が攻勢に移った。
「かかったな!!」
ドッグ・ラブラードが獰猛な笑みを浮かべながらグレネードを放つと、混乱に乗じて椎野が今までの鬱憤を晴らすべく前進し、フィンブレードを叩きつける。
弾幕によって弱っていたシラヌイは、そのダメージで沈黙した。
『し、シラヌイだぞ!? 何でR−01なんかに‥‥』
「KV苦手でもボク、この子で大規模戦4回戦ってきた! 馬鹿にするな!」
苦し紛れの呟きに、椎野は高らかに快哉を叫んだ。
「‥‥隙だらけ、です」
「前に出てくるとは、迂闊ね!!」
そして混乱し、棒立ちになっていたウーフーには、建物の影から飛び出した朧 幸乃のワイバーンと、佐間 優のディスタンが襲い掛かった。
朧はマイクロブーストを駆使し、ファランクス・テーバイの弾幕を撒き散らしながら、駆け抜け様に練剣「白雪」を叩きつけ、佐間は真っ直ぐにヒートディフェンダーを振り下ろした。
『‥‥え?』
撃墜判定を聞くまで、ウーフーの後任新兵は何が起きているか全く分からなかった。
「‥‥戦力を見誤ったか!?」
リディスがアハトアハトとツングースカを乱射しつつ接近し、ハイ・ディフェンダーを叩きつける。
「く、くそっ!!」
新兵の一人がそれでもなんとか生き残り、ディフェンダーを振るって反撃を試みるが、横からの爪の一撃に跳ね飛ばされた。
「そんな教本通りの腑抜けた攻撃で倒せると思ってんじゃないわよ!」
ライトニングファングを付けたレイラ・ブラウニングのワイバーンが飛び掛り、返す爪をどてっ腹に叩き込む。
『くあ‥‥』
「そんなんじゃ『彼等』が報われない!!」
沈黙するシラヌイを見下ろす彼女の目に、一粒涙が零れた。
「懐かしい感覚だな‥‥まるで機体が別物だ」
「あ、ブレイズ。何時もみたいに突っ込みすぎて無様な所は見せないようにね」
「‥‥ぶっ!? 分かってる、よっ!!」
荷電粒子砲と共に告げられたジーラからの忠告に、こけそうになりながらも、ブレイズ・カーディナルは雷電の持つスレッジハンマーの一撃を叩きつけ、また一機のシラヌイが沈んだ。
無論、205と206も無抵抗だった訳では無い。
「うゅ‥‥てっぺぇぇぇきっ!!」
しかし彼等の攻撃は、岸の発動させたフィールドコーティングによって威力を減じさせられてしまう。
状況は圧倒的に御剣隊が不利であった。
『205、206集結!! 応戦しつつ後退する!!』
205の隊長が振り上げたディフェンダーとハンドサインで、生き残った隊員達に呼び掛ける。
気付いた者達が後退してくるが――その数は二機に減じていた。
だが、それを追ってロアンナ・デュヴェリのシラヌイが盾とSAMURAIソードを手に詰め寄る。
「逃がしません!!」
『させないっ!!』
咄嗟に205隊長が割り込み、刀を弾き飛ばし、盾で殴りつけた。
「まだまだ!!」
ロアンナは尚も懐目掛けて潜り込み、ガトリングナックルを押し付ける。
――その寸前に206の隊長が放ったマシンガンが、ロアンナを撃墜していた。
『‥‥やられたな』
『ええ』
だが、二人の顔に喜びは無い。
何故なら、その間に【8246小隊】の待ち伏せ隊と共に身を隠していた【夜修羅】が襲い掛かったのだ。
「てえええっ!!」
「貰った!!」
「足を止めてちゃ狙われますよ」
篠岡 澪のシラヌイ、ベルティアのアンジェリカ、セラン・カシスのウーフーによるビルの陰からの射撃に、消耗していたシラヌイ一機が瞬く間に狩取られる。
『なっ‥‥!?』
「新米だな? うろたえて足止めてっと‥‥ほい、終〜了〜」
またしても奇襲され、呆然とする残る一機目掛けて、山崎 健二のディアブロがツインブレイドを振り下ろした。
そして後退のタイミングを逃した先任新兵達目掛けて、ジリジリと包囲を狭める傭兵達。
『‥‥悔しいけど、もう生還は無理ね』
『完全に囲まれた、か』
二人はハンドサインを交し合うと、タイミングを揃えて一気に飛び出した。
「行かせるかっ!!」
すかさず周囲から大量の弾幕が襲い掛かるが、シラヌイの高機動を活かし、リディスのサイファー目掛けて強引に突破する。
「特攻か‥‥良かろう!!」
しかし彼らはリディスに辿り着けまい――やけっぱちの突撃‥‥傭兵達にはそう見えた。
だが、次の瞬間彼らはバーニアを全開に噴かし、宙に身を躍らせる。
「――!!」
狙いは‥‥ジャミング発生装置と、それを制御するベルのシュテルン!!
「させんっ!!」
『やあああああっ!!』
『間に合えっ!!』
食い下がろうとする御剣隊と、させじと食い止める傭兵達。
お互いがありったけの弾丸を放ち――二機の撃墜とベルの撃墜、ジャミング発生装置の破壊は全くの同時。
先任新兵達は身を挺して、傭兵達に一矢報いたのだ。
「‥‥すみません、リディスさん」
「気にするなベルさん‥‥先任の新兵達を甘く見ていた私のミスだ」
リディスの呟きは悔しげながらも、我が子の成長を喜ぶような表情であった。
『せぇいっ!!』
「ぬぅっ!!」
201の隊長が振り下ろしたディフェンダーが孫六を捉え、撃墜判定が下された。
「がっはっはっは!! 見事じゃ!! いやー、負けた負けた!!」
それでも尚、孫六は豪快かつ晴れやかに笑ってみせる。
傭兵達は【兄貴一家】のシーヴ、カンタレラ、孫六が撃墜され、【蛇槍】からも新たに番場、荒神、榊の三人が姿を消していた。
しかし、二番隊に残るのは隊長一機のみ。
『‥‥少佐、後は頼みます』
撃ち上がる信号弾――それを見送ると、隊長は盾を捨て、マシンガンとディフェンダーを手にする。
『さぁ来やがれ!! 御剣二番隊隊長の首、安くはねぇぞっ!!』
雄叫びを上げ、彼は傭兵達目掛けて突撃した。
『隊長、二番隊からの信号弾を確認しました』
『‥‥了解。では往くぞ諸君』
『――了!!』
後任達を中心に構成された二番隊とは違い、全てが先任達で構成された一番隊。
最初は新兵達を鍛えなおす事だけが目的だったが‥‥やはり自分達は負けず嫌いらしい。
『御剣の実力‥‥見せてやろう』
状況は圧倒的に不利‥‥だが、勝つ。
それを最初に察知したのは敵陣に入り込んでいた【侍ロード】の面々であった。
「‥‥っ!! 残った敵が移動を‥‥速ぇっ!?」
識別は105と106、そして101‥‥エリシアと部下トリオの隊だ。
「全周警戒だ!! Anbarをやられる訳にはいかん!!」
漸の叫びに応じ、【侍ロード】の面々と、後から合流した須佐 武流のシラヌイと白鐘剣一郎のリヴァイアサンが迎撃態勢を取る。
「勝負と行こうぜ‥‥少佐殿!!」
後200、150、100‥‥まだ、周囲に敵影は見えない。
だがその時、Anbarはふと気付いた――101を示す光点が一つ少ない。
『‥‥撃て、軍曹』
『――了』
――ダァンッ!!
「何だとぉっ!?」
銃声が轟いたかと思うと、全く予想外の場所からAnbarの骸龍に加えられる一撃。
同時に傭兵達から50m程の場所に現れる101−03を示す光点‥‥エイミィ軍曹の機体。
ジャミング装置を隠れ蓑に接近していたのだ。
続けて瞬くレーザーの光――次の瞬間、Anbarは撃墜されていた。
「皆さん、上です!!」
井出の叫びに見上げると、そこにはビルを伝って移動し、丁度自分達の頭上を通り過ぎていくシラヌイSとカスタムシラヌイ二機の姿。
「流石は少佐と言った所か‥‥だが着地は隙だらけだぞ!!」
兵衛がスラスターライフルを構えると、着地のタイミングを計って照準を合わせた。
『106、フォローは任せる。105は牽制しつつ突破』
『――了!!』
「むぅっ!?」
だが、横から現れた105・106が展開した弾幕がそれを封じる。
そして105はそのまま脇をすり抜け、106は素早い動きで【侍ロード】をあっという間に取り囲んだ。
「ちぃっ!! 古株連中はやはり動きが違う!!」
押し包まれないようにアーバレストで牽制しつつ、堺が呻きを上げる。
『――隊長達には手は出させません』
『付き合って貰いますよ王零さん‥‥どちらかが勝つまで!!』
かつて漸が痛めつけた先任新兵二人が立ち塞がり、ディフェンダーと盾を隙無く構える。
「面白い‥‥やってみせろ!!」
漸の表情は、彼らをはっきりと好敵手と認めるものであった。
その間に着地し、エイミィと合流した101だが、その前に現れたのは機を窺っていた須佐と白鐘だ。
「はっはっはー、ぶっ放せー!!」
そして傍らの瓦礫を跳ね除けながら、刃金 仁のゼカリアが姿を現した。
「いざ推して参るっ!!」
「さて‥‥正面からどつき合いと行きましょうかね!!」
刃金がツングースカにファランクス・アテナイ、420mm大口径滑腔砲といったありとあらゆる武装を解き放ち、その援護を受けて須佐と白鐘が踏み込み、練機刀「月光」を、ハンマーボールをエリシア達目掛けて叩きつける。
『――散っ!!』
『了っ!!』
101は瞬時に散開して弾幕をかわす。
『オラァッ!!』
ハンマーボールと月光はディック准尉によって打ち落とされた。
『悪いが刈り取るぞ‥‥曹長っ!!』
『了!!』
エリシアはBCアクスを手に刃金へと接近すると、立て続けに叩きつける。
「ぬ、ぬあああっ!?」
そこへ更にロイ曹長によるレーザーの雨が降り注ぎ、刃金機は沈黙。
『軍曹、スモーク散布。准尉が後退次第弾幕を張れ』
『――了』
軍曹が煙幕銃を放ち、白鐘と須佐の視界が濃い煙に包まれる。
『相手をしたい所だが‥‥悪ぃな』
「待てっ!!」
白鐘は咄嗟に追いすがろうとするが、降り注いだミサイルポッドによって足止めを余儀なくされた。
須佐が咄嗟にレーザーライフルを放つが、手応えは無い。
「外した、か。いやぁ、流石に強ぇ強ぇ‥‥」
「‥‥完全にしてやられたか」
だが、足を止めてはいられない――二人はすぐに追撃を開始するのだった。
「ウィング展開‥‥行くぜストライダー!!」
「来ましたね‥‥骸龍が如何に優れたKVか‥‥証明させて頂きましょう」
「さって、いくよぅ、milestone。ナナハンのすごさを、見せつけに、ねぃ‥‥ッ!!」
動き出した一番隊を確認した、【偏屈】の三人は、敵を誘い出すべく動き出した。
LM−01、骸龍、ヘルヘブン750‥‥機動力を活かし、敵陣を走る。
建物の陰から、上から、次々に銃撃が加えられるが、回避を集中的に強化した三人の機体には掠りもしない。
「‥‥良い機体では御座いますが、乗り手がそれでは、骸龍には弾一発掠める事も叶いませんよ?」
レイヴァーが挑発しつつ発砲すると、103と104の二隊が追撃してくる。
「良し、そろそろ頃合いだねぃ」
味方陣地まで戻るコースを取った瞬間――その進路に一斉に放たれるグレネード。
咄嗟に回避し、迂回した三人の目に飛び込んで来たのは、うず高い瓦礫で塞がった道路であった。
「なっ‥‥!?」
『俺達の庭を、好き勝手に走れると思ったか?』
「しまった‥‥!!」
レイヴァーが思わず歯噛みする――まんまと逆に誘導されていたのだ。
引き返そうと試みるが、既に周囲を完全に取り囲まれてしまっていた。
続けてジャミングが起動し、通信も利かなくなる。
「むう‥‥迂闊だったねい」
ゼンラーは事前にマップを確認しておかなかった自分達の怠慢を呪う。
「けどな‥‥こっちも只ではやられねぇぞ!!」
それでも宗太郎=シルエイトはロンゴミニアトを構えると、雄叫びを上げながら突撃した。
103と104の雷電の編隊が【プロミス】隊の視界に姿を現す。
だが、そこに友軍の姿は無かった。
「【偏屈】隊はやられましたか‥‥ですが、やる事は変わりません」
隊を率いるクラーク・エアハルトは毅然とした表情で顔を上げると、隊員達に向かって口を開く。
「今までで一番大きい【プロミス】隊です。諸君、派手に行きましょう!!」
まず接敵したのはセージと守原有希のシラヌイ、アレックス、黒瀬レオのシラヌイSだ。
「立体機動行きます!!」
「フォローは任せろ守原!!」
シラヌイ二機が即興で見事な連携を見せる。
「カズヤ、背中任せた。レオ、頼りにしてるぜ」
「後ろ、気にせず‥‥貫いて‥‥来て、ね」
「ん、ありがと。‥‥今日はアレックスの為に頑張る、ね?」
アレックスの呼び掛けに、後衛に立つ霧島 和哉が応え、シラヌイSがレーザーライフルで援護する。
「ごめん‥‥まずはその腕、もらっとく。吼えろ、獅子王!」
そして黒瀬はにっこりと微笑むと、力強く踏み込み、獅子王を正面に立つ雷電目掛けて振り下ろす。
雷電はレーザーを盾で受け止めると、ディフェンダーで獅子王を受け流す。
「これで抜けない装甲は無ぇぞ! 貫け、ロンゴミニアト!」
だが、そこにアレックスがロンゴミニアトを手に突撃した。
爆槍はディフェンダーを持つ手を捕らえ、損傷によって雷電の右腕が機能停止する。
『ぬぅっ!!』
「さぁ、呼吸を鎮めて、一発必中、いただき」
止めを刺さんと後衛にいたソーニャのシラヌイSから、ブリューナクが放たれる。
『やらせんっ!!』
しかし、その一撃は割り込んだ僚機と残った左腕の盾によって阻まれていた。
「皆ストップ!!」
更に追撃しようとするが、ワイバーンに乗ったエミル・アティットが皆を静止すると同時に、あらぬ方目掛けてミサイルポッドを放つ。
だがその先には、巧妙に身を隠していたウーフーの姿があった。
『チッ!! ワイバーンか!!』
「ふっふっふ、ケモノの鼻‥‥もとい、ケモノKVのIRSTからは逃げられないぜ、っと!」
得意げに笑いながら戦車砲で追撃するエミル。
ウーフーはそれをかわすと、再び距離を取りながら狙撃する。
「流石に一筋縄にはいきませんね‥‥でも、負けない!!」
クラークと共に中衛に位置していた麓 みゆりが、白兵戦に切り替えるべく前進。
機刀「陽光」を手に、果敢に雷電目掛けて打ちかかっていく。
「み、みゆりさんっ!! 援護するよっ!!」
「ありがとう和奏ちゃん‥‥頼りにしてるよ?」
「あ‥‥う、うんっ!!」
後衛の水理 和奏がピアッシングキャノンを放ってそれを支援する。
憧れのみゆりを手助け出来る事が嬉しいのか、彼女の頬は桜色に染まっていた。
『‥‥おーおー、熱いねぇ。うちの曹長と軍曹も真っ青だなこりゃ』
「な!? う、ううううるさいやいっ!!」
回りこんで後衛を狙う雷電からオープン回線でからかわれた水理は、茹蛸のようになりながらツイストドリルでそれを迎え撃った。
「そうだな、単独・共同問わず最初に5機撃墜した人には自分から食事を奢りましょう」
「おお!! その台詞忘れんなよ!?」
「俄然やる気が出て来たぜぃっ!!」
牽制しつつ、シラヌイを操りながらクラークが皆に呼び掛ける。
隊員達はその言葉を聞き、更に奮起するのだった。
「だ、そうですよ秋月さん」
「確かに魅力的な提案ですね」
そんな雑談を交わしながら、秋月 祐介は脇道から骸龍のスナイパーライフルで狙撃し、一機を【プロミス】隊から引き離す。
次の瞬間、死角から金城エンタのワイバーンが飛び出すと、雷電を押し倒した。
「美味しいご飯のためなら‥‥限界一杯のハンマーセッションです!!」
エンタの叫びと共に、ワイバーンのチタンファングが雷電の頭部に突き刺さった。
103と104、106に足止めを任せ、敵陣を強引に突破した101は、102・105と合流すると、ブーストを使用しながらひたすら傭兵達のリーダー目掛けて突き進む。
隊長である自らも戦力に入れた、敵の撃墜では無く、勝利条件のみを突き詰めた電撃戦。
――それがエリシアの立てた作戦であった。
御剣隊がある地点に差し掛かると、突如辺りにノイズが満ちる。
「ジャミング起動‥‥今です!!」
シュテルンに乗る鳴神 伊織の叫びと共に、【雷雲】隊が一斉に建物の影から襲い掛かった。
「御剣――音に聞くその練度、見せて貰おうか!」
別方向からも鹿島 綾率いる【夕立】隊が飛び出す。
そして一気に攻撃を仕掛け、御剣隊の混乱を誘おうと試みる。
(『102・106、足止メセヨ』)
(『――了』)
しかし、彼等は全く乱れる事無く、ハンドサインを交わす。
101はジャミングなど全く意にも介さず、ただひたすら走った。
【雷雲】の前には105のシラヌイ五機が立ち塞がる。
「全力全開! ゼロブレイカァァ!」
安藤 ツバメの雷電が、得意の連撃で105のシラヌイの盾を弾き飛ばす。
「走れ雷光! 紫電一閃!」
そして頭上からは脚爪「シリウス」でビルを蹴って襲い掛かる神撫のシラヌイSが建御雷を振り上げる。
シラヌイはそれを掻い潜ると、すかさず僚機と共にマシンガンとレーザーを放つ。
狙いは隊長機であるゲシュペンストのリッジウェイ――しかし、彼の機体は揺らがない。
「いい機体を揃えている。だが頑丈さはリッジに敵うまい!」
反撃にリッジウェイが放ったレッグドリルの強烈な蹴りが叩き込まれる。
シラヌイはたたらを踏んで後退するも、ビルの陰に飛び込んでそれ以上の追撃を許さない。
「隙が中々見つかりませんね‥‥流石です」
そう言いながらも、鳴神の唇は好敵手の存在に歓喜し、吊り上っていた。
「‥‥私達を相手に、何故たった五機で‥‥?」
それは嘲りや油断では無く、互いの力を理解しているがこその純粋な問いかけ。
紅 アリカが目の前の隊長機目掛けて、シュテルンが持つM−SG9の散弾を撒き散らす。
『最初から勝とうなんて思っちゃいないさ‥‥隊長達の時間を稼げればそれでいい!!』
「‥‥それは英雄気取りの自己犠牲とやらでは?」
『どう思われようと、どんな形であっても任務を遂行する‥‥それが御剣の使命だからな』
「なるほど、それを聞いて安心しました」
言葉を交わしながら鈴葉・シロウの雷電が放つのは、大型のミサイルポッド二基に、重機関銃二丁という、過剰とも言える弾幕の嵐。
『‥‥そっちこそ五機相手にソレは大人気無くねぇか?』
「フフーフ。普通な軍人さんではあまり考えないし動かさない設定でしょうけどね。
――私達はね‥‥傭兵なんですよ?」
『なるほど‥‥隊長が惚れ込む訳だ』
チッチッチ‥‥と指を振るシロウに、102の隊長は何処か達観したような言葉を吐いた。
「101を止めるぞ!!」
「了解!! サンダルフォンより各機へ。支援砲撃を開始する!!」
鹿島の号令に建物の上で待機していた田中 直人のシュテルンが応え、弾幕を張る。
「戦場を駆け抜け敵を砕くは迅雷也!!」
「全ブースト起動!! 吶喊する!!」
同時に鹿嶋 悠の雷電改がグレネードを放ち、仮染 勇輝のフェニックスがビルから飛び出す。
すかさず二機は降下し、ガトリングとレーザーカノンを101目掛けて放った。
だが、それらの攻撃は101に届く前に、雷電とウーフーから成る102によって受け止められる。
「かの御剣隊との演習‥‥良い感じですねぇ!!」
ヨネモトタケシが武人としての血を滾らせ、アヌビスがバーニアを噴かせながら雷の拳を叩きつけた。
しかし102もそう簡単には倒れてくれない。
縦横無尽に飛び回りつつ、隙あらば撃墜せんと攻撃を加えてくる。
月光とSAMURAIソードを手に、白兵戦を繰り広げる橘 利亜のディアブロの後ろに回り込む敵影。
「周太郎さん後ろをお願い!!」
彼女が叫ぶと、フォローするように恋人の周太郎が乗るシュテルンが割り込んでいた。
「利亜、余り無理に動きすぎるな‥‥まあ、俺も無理は出来んが」
マシンガンとリヒトシュヴェルトで露払いをする周太郎。
そして鹿島のリヴァイアサンが振るった機斧「ラーヴァナ」がようやく一機を屠る。
「この圧倒的な状況で、ようやくか‥‥」
敵の実力を改めて痛感しながら、鹿島は一層気を引き締めるのだった。
「来たね‥‥クラリアさん、敵戦力の分析を‥‥戦闘行動を開始する」
傭兵隊リーダーを務めるウラキは、101の接近を察知していた。
「させるかっ!!」
「お出ましやな‥‥リーダーに攻撃はさせん!」
「突破されたか‥‥返り討ちにしたらぁ!」
「足を止めます! 後退を!」
護衛を務める玖堂 鷹秀のワイバーン、桐生 水面のサイファー、抹竹のアヌビス、クラリア・レスタントのイビルアイズが現れた機影目掛けて一斉に弾幕を放つ。
ウラキも、後退しつつゼカリアの滑腔砲を惜しげも無く乱射する。
エリシア達の損傷率が上がっていく‥‥しかし、決して止まろうとはしない。
「そう簡単にやられはせんで!!」
「行かせない‥‥っ! あの人は、私がまもる!」
必死に迎撃するも、技量で劣る護衛の四人はジワジワと追い詰められていく。
エリシアのBCアクスが真っ向から叩きつけられ、准尉の両の手に握られた剣が矢継ぎ早に繰り出される。
「くぅっ!?」
玖堂と抹竹が撃墜され、とうとう曹長と軍曹が放った銃弾がウラキを捉える。
『よし、貰った!!』
『‥‥次弾装て――「ここまで来たら安全だと思った?」‥‥っ!?』
そんな声が響くと同時にジャミングが覆い、グレネードとM−181大型榴弾砲が降り注いだ。
『‥‥伏兵っ!?』
「残念だけど‥‥今、立て直されるわけには行かない‥‥」
続けて荷電粒子砲が放たれ、曹長と軍曹のマーカーが消える。
「やれやれ、出番が無いんじゃないかと思いましたよ」
現れたのは、【埋火】のファルル・キーリアのS−01Hと、榴弾砲を構えるソードの破暁、そして瑞浪 時雨のアンジェリカ。
「ここから先は通しません」
ディックとエリシアの前には、人口筋肉と限界近い軽装で身軽となったリヒト・グラオベンの破暁が立ち塞がる。
「‥‥捕捉しました」
そして、後方にはゼラスのシュテルンと、ビルの上からスナイパーライフルを構える榊原 紫峰のディアブロ。
‥‥最早、進路も退路も無い。
『‥‥ふぅ、作戦失敗か』
『俺達も、まだまだって事ですかね』
エリシアとディックが肩を竦める。だが、その闘志は折れてなどいない。
『ならせめて‥‥最後は派手に行きましょうや隊長!! 行くぜゼラスっ!!』
「おうよっ! こっからは限界まで付き合って貰うぜ! 行くぜ、ダンシング・キラー!」
ディックの言葉に、ゼラスはクロムライフルの咆哮で応えた。
――数分後エリシアは撃墜され、演習は傭兵達の勝利で幕を閉じたのだった。
「油断し、慢心し、戦場で何もせず撃墜される‥‥それが今の貴様等の本当の姿だ蛆虫共!!」
『イエス!! マム!!』
演習終了後、エリシアの罵声が響き渡る。
後任の者達の顔は蒼白を通り越して既に土気色だ。
「隊舎には歩いて帰れると思うな!! 血の小便が出るまで追加訓練だ!!
ありがたく思うがいい!!」
『イエス!! マム!!』
そして今度は先任達にも向き直る。
「そして、我々も更に精進しなければならない!!
総員歩兵装備完全武装!! その状態のまま、まずは100mダッシュを100本だ!!
ペースが落ちる度に10追加する!! 覚悟しておけ!!」
『イエス!! マム!!』
「レスキュー時代を思い出すな!! ガッハッハッハ!!」
孫六が同じように完全武装しながら笑う。
『‥‥‥‥』
――何そのレスキュー隊怖い。
訓練に自主参加した傭兵達は、自分達の顔が見る見る青褪めていくのを感じていた。
――『数日後』、LHまで無事に帰れたのは孫六ただ一人であったという。