●リプレイ本文
暗闇の中に明かりが灯る。
そこには一人の黒子‥‥ではなく、無駄にダンディなファッションで身を固めたUNKNOWN(
ga4276)が台本を片手に立っていた。
そして、朗々とした声で、此度の事件のあらましを読み上げる。
「嘉肴ありといへども食せざればその味を知らずとは。
国治まつてよき能力者の忠も武勇も隠るゝに、たとへば星の昼見えず夜は乱れて現はるゝ、ためしをこゝに戦乱の代の政‥‥」
その時、暗がりの向こうから手が伸び、カンペが差し出される。
「‥‥む? どうしたのだね?
‥‥何? そんなにナレーションに凝らなくていい? 作者が泣いている?
やれやれ、困った事だ」
肩を竦めると、再び台本を手にこちらに向かって呼び掛けるUNKNOWN。
「‥‥まぁ、身も蓋も無く簡潔に言ってしまうと、だ」
帽子を目深に被り直し、舞台裏の闇の向こうへと消えていく。
「――つまりは、非常にカオスという事さ。
くれぐれも、そこの所を覚悟して見てくれたまえ」
注意とも言えない注意の後、とうとう開演のベルが鳴り響いた。
『時は夜更け、UPC城下にあるラストホープ屋敷の門前には、サイラスとサイゾウ、そして忍のロバートを含めた、勇士達が揃っていた』
ナレーターが朗々とナレーションを読み上げる中、幕が上がる。
「殿の敵を討つまでは‥‥必ずやこの手でアニス様の仇を討ち取ってアニス様の墓前に備えるのだ。
各々方、奴らに逃げられぬよう油断なく‥‥」
『応っ!!』
水無月 春奈(
gb4000)の呼び掛けに、同士達が一斉に拳を振り上げた。
皆が皆、確かな実力を持つ、頼もしき者達だ。
だが、その内容は至ってカオス。
その中の一人は『誠』の旗印を掲げ、浅葱色の羽織‥‥所謂新撰組の装束を纏った男。
「しまった‥‥浪士が討ち入り聞いていたから、てっきり新撰組が池田屋に討ち入りするシーンかと思ったら、赤穂浪士が討ち入りするシーンだったのか‥‥」
カルマ・シュタット(
ga6302)が「むう‥‥」と唸る。
「今年も来たか忠臣蔵‥‥去年のような失態、今年こそは‥‥」
端では須佐 武流(
ga1461)が何だかメタな事を口走っている。
そんな彼に唐突に差し出されるカンペ。
「‥‥え、何? 今年も階段は用意してあります? それも去年の倍の長さと角度?
それで‥‥今度も池をばっちり用意しておきました?
‥‥今年も‥‥俺に落ちろというのですか? ていうか、階段違うから!
池田屋と間違えてるから! 間違えてることにいい加減気づいてスタッフー!」
「やっかましいわアホウッ!!」
――スパァンッ!!
「ぶべらっ!?」
カンペの内容に、頭を抱えて錯乱する須佐に対して、背後からサイゾウの鋭いツッコミが入った。
――浪士たちのあまりのフリーダムッぷりに堪忍袋の緒が切れてしまったらしい。
須佐は体勢を整える事も叶わず地面に顔面から突っ伏す。
「‥‥てめぇっ!! 何しやがる!!」
「そらこっちの台詞やドアホウッ!!
さっきから聞いとればメタな事ばっか口走りおってからに!! 今は本番中なんやぞ本番中!!」
「‥‥すんません」
そう叫ぶサイゾウも充分すぎる程メタであった。
だがその迫力は凄まじく、須佐もそれ以上の文句を思わず飲み込んだ。
そのおかげで少しはサイゾウの怒りは収まったらしく、深い溜息を吐いてから、浪士たちのトップであるサイラスの方を見る。
「駄目ですよサイラス様」
「む‥‥? 何故だ綾? 我はただ討ち入り前の糖分補給をだな‥‥」
そこにはヴィクトリアンメイドの格好をした鹿島 綾(
gb4549)に、手にしたバナナを没収されるサイラスの姿があった。
「そのバナナはおやつに入りませんので没収です」
「むぅ‥‥なけなしの300円で買ったというのに――」
「コラそこの時代考察ガン無視のねーちゃんとボケ老人」
ぶちぶちと、サイゾウの毛細血管の千切れる音が辺りに響き渡る。
そして顔だけはにこやかに、浪士たちに向かって呼び掛けた。
「――はいはいはいはい、もうそろそろ真面目にやったってやー?
ええ加減にせんと し ば く で ?」
『――えー?』
「えー、やないわああああああああっ!! ギャラ払わんぞボケ共おおおおおおっ!!」
『かくして浪士達は討ち入りを前にしてカオスの坩堝に沈もうとしていた』
ナレーションが響き渡り、場面が転換する。
「迎撃準備!! 急げ!!」
『応っ!!』
所は変わってここはラストホープ屋敷――中にいる者達は混乱から立ち直り、浪士たちに立ち向かわんと準備を進める中、仇達は土蔵の中に‥‥大人しく隠れている者など殆どいなかった。
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
往来にまで聞こえそうなほど高らかに、ドクター・ウェスト(
ga0241)が名乗りを上げる。
「迷惑極まりねぇなあ。こんな夜更けに討ち入りか。
‥‥敵討ちなら正々堂々巌流島だろうがよ!!」
用心棒達と共に迎撃準備を整えながら、宗太郎=シルエイト(
ga4261)が拳に力を込める。
やはりその思考は何処か間違っていたが。
そして、そんな彼の背後ではプルプルと子犬のように震える如月・由梨(
ga1805)がいる。
「ちょ、ちょっと、なぜ私が悪役なんですか!?
いくら巨大剣で斬ったからって、こんな状態にしなくても‥‥ブツブツ‥‥」
本来ならば、彼女は凄まじい戦闘力を持っている筈なのだが‥‥。
「いや、由梨ならあいつらくらい軽くあしらえるんじゃ‥‥いや、いいわ。
しっかりついて来いよ」
「はい、お願いします」
それに対して何か言いたげにしていた宗太郎だったが、それ以上言ったら何かヤバイ気がしたので黙っていた。
「あぁ何故あなたはそちら側なのですか。
早く私に会いに来て、私だけを愛して、サイゾウ!!」
リディス(
ga0022)はクネクネと体をくねらせながらサイゾウに対する愛をひたすら叫んでいた。
――完全にキャラが変わっている。
「うう‥‥怖いよぉ‥‥だ、だけどアニスと一緒なら私‥‥ハァハァ」
そして土蔵の片隅の隠し扉からは、瓜生 巴(
ga5119)の声が漏れ出てくる。
蝋燭の薄明かりに照らされた土壁には、一面アニスの写真が貼られていた。
――浪士たちも浪士たちなら、仇も仇だった。
「さて、ここでのんびりしてるのも何だからそろそろ‥‥」
『ぐわああああっ!!』
『ああっ!? 曹長が釣り天井の下敷きに!?』
『足が!! 足がああああっ!!』
『ちょっ!? 今度は軍曹の足にトラバサミが!? ちょっと!! しっかり軍曹―っ!!』
そして如月を連れて土蔵の外に出ようとした宗太郎の耳に、ドスンッ!! バタンッ!! という音や振動と共に、何処かで聞いた事のあるような悲鳴が響き渡った。
「ふふふ、こんな事もあろうかと、屋敷中に大量の罠を仕掛けておいたんだよ」
目をきゅぴーん、と光らせながら、忌咲(
ga3867)が誇らしげに胸を張った。
すかさず宗太郎がツッコミを入れる。
「オイイイイッ!? 味方を罠にかけてどうすんだああああっ!!」
「うーん、不幸な事故だったね」
「事前に味方に伝えとけえええええっ!!」
「まぁまぁ安心してよ。罠の配置図はここに‥‥って、あれ?」
不意にごそごそと全身のポケットを探り始める忌咲。
そしてひとしきり調べ終えると、「てへっ」と舌を出しながら微笑む。
「えっと、落としちゃったみたい」
「おいいいいいい!?」
――ドドドドドドドッ!!
その時、外から凄まじい勢いで何かが迫ってきたかと思うと、土蔵の扉が吹き飛ぶかの如き勢いで開き、鬼の形相をしたエリシアが姿を現した。
「キサキィッ!! ‥‥様。どういう事ですかこれは!?」
「いやーごめんごめん。罠かけたのはいいんだけど、設置した場所忘れちゃって」
「何をやっとるんだあなたはああああああっ!!」
再びツッコミの嵐が巻き起ころうとしたその時、土蔵の外から駆け寄ってくるエリシアの部下。
「エリシア様!! 門が破られようとしておりますっ!!」
「何っ!?」
報告を聞いたエリシアの顔が、瞬時にシリアスモードに変わった。
「迎撃体制はどうなっている!?」
「はっ!! 万全であります‥‥で、ですが‥‥指揮を取っているのは『あの方』でして‥‥」
「‥‥なん‥‥だと‥‥?」
だが次なる報告に、エリシアは再び額に青筋を浮かべて天を仰いだ。
その怒りが収まらない内に、今度は別の部下が報告のために駆け込んで来た。
「し、失礼しま‥‥」
「今度は何だぁっ!!」
「ひぃっ!? い、いやあのその‥‥リディス様が、馬に乗って出撃なさいました」
『というかもう待ってられません、今行きますからねサイゾウ〜〜〜‥‥』
馬の嘶きと蹄の音と共に、リディスのピンク色に染まった嬌声が遠ざかっていく。
あまりの事態に、エリシアは怒りすら通り越して口をぱくぱくとさせるしかない。
「あ〜寒い夜にはお酒に限るね〜。
お、エリシアも一緒にどうだい? 今日みたいな日は飲むに限るだろ?」
土蔵の隅で、腰に下げた瓢箪の酒をぐびぐびと煽りながら、キョーコ・クルック(
ga4770)が我関せずとばかりに声をかけてきた。
「だから!! 少しは狙われているという自覚を持て貴様らああああああああっ!!」
エリシアは最早敬語すらかなぐり捨てて彼らを怒鳴るのだった。
『所変わって再び門前――浪士たちは、門を破らんと突撃する』
場面が転換し、再び門前――先陣を切ったのは水無月。
何処からともなく取り出した巨大な鎚を体全体で振り上げ、同時に雄々しく絶叫した。
「ひ・か・り・にな――!!」
「著作権んんんんんんっ!!」
「あべしっ!!」
だが、何処かの勇者なサイボーグの如く鎚を叩きつけようとした瞬間、横手からサイゾウのとび蹴りを喰らって吹き飛ばされた。
「何で危ない橋渡ろうとするんや!! 普通に叩き付けんか普通に!!」
「‥‥ちぇっ」
「――何か言うたか?」
「いえ、何も」
――ドゴォンッ!!
ともかくも、門は破られ、カルマと水無月が一番乗りを名乗らんと突撃する。
――その時銀光が奔った。
それは神速で突き出された槍と双刀の一撃。
水無月とカルマはそれを辛うじて叩き落す。
「君、君たらずとも、臣、臣たれ、とは忠義の姿の一つであるが、あのような主君に死んでまで忠義立てするとはさすがに愚かとしか言いようがないな。
良かろう。貴様等の首をここで挙げて、その忠義はきちんと全うさせてやろう。
あの世で主君にもう一度忠勤を尽くすのだな」
「‥‥我らいくさ人は、負け戦の中にこそ活路を見出すもの。
‥‥闇闘士が一人、紅 アリカ。蒼炎纏いし剣の舞、しかとその眼に焼きつけよ!」
門前に立ち塞がっていたのは、榊兵衛(
ga0388)と紅 アリカ(
ga8708)の二人であった。
いずれも、用心棒の中では高い実力を持つ二人である。
「オーホッホッホッホ!
わざわざ返り討ちにあいにくるとは、飛んで火に入る正月のサイゾウとはアナタの事よ!
野郎共、やっておしまい!」
その後ろでは、敵の一人であるティーダ(
ga7172)がタカビーな笑い声を響かせながらふんぞり返っていた。
‥‥彼女もまた、例に漏れず性格が見事に崩壊しているようだ。
「言われるまでも無い‥‥UPC槍術師範。榊流、榊兵衛。いざ参る!」
「‥‥おぬし、できるな‥‥。なぜ奴らに義理だてするかは知らんが‥‥、斬らせてもらおう」
向かい合った榊と水無月は、共に一気に間合いを詰める。
突き出された榊の鳳煉槍を水無瀬のエンジェルシールドが受け止めたかと思うと、すかさず繰り出された天剣「ラジエル」が横殴りに叩きつけられ、槍の柄がそれを阻む。
一方、アリカと対峙したのは新撰組衣装のカルマ。
こちらもカルマの錬槍「アウル」とアリカの名刀「羅刹」、黒刀【黒羽之刃】が唸りを上げ、その度に火花が散り、甲高い金属音が迸る。
「避けずに全て受けきるとは‥‥やるな!!」
「‥‥避ける? 我らいくさ人は、戦う前から死人(しびと)と化しているのよ。
死人が剣や矢を避ける必要があるのかしら‥‥?」
「なるほど‥‥面白い!!」
――それは、今までのギャグを吹き飛ばすかのようなシリアスな戦いであった。
だが、それを大人しく見守る浪士達では無い。
その脇をすり抜け、後ろで高笑いするティーダを討ち取らんと、もしくは屋敷の中にいるであろう別の敵達を討たんと走る。
そこに、再び用心棒が立ち塞がる。
「がっ!!」
「おごっ!!」
あっという間に名無しの浪士の何人かが、顔面に鉄拳を叩きつけられて宙を舞う。
「はぁ‥‥本当に来たんですか、まったく逆恨みも甚だしい方々です。
ここは身の程を思い知って、丁重にお引取願いましょうか」
メタルナックルをガチガチと打ち鳴らしながら、ロアンナ・デュヴェリ(
gb4295)が溜息を吐いた。
「退くがいい。邪魔立てするならば容赦はせんぞ」
強敵と見たサイラスは、自らが進み出て刀を抜いて進み出る。
しかし、鹿島が手を差し出してそれを制した。
「駄目ですよ、サイラス様が出るまでもありません。ここは私にお任せを‥‥」
「む? たかがメイドさん一人如きに私が負けると? 随分と舐められたものですね」
余裕の表情を見せるロアンナに対して、にっこりと満面の笑みを浮かべた鹿島はパンパンと高らかに手を打つ。
すると、彼女の背後からわらわらと、HWやCWの形をした兜を被ったMOB浪士が大量に姿を現した。
「赤穂浪士側が少ないと思った、そこの貴方。
――MOBさん達で数を揃える事も出来るのよ?」
――五人、十人、二十人‥‥どんどん増えていく。
そして計47人ものMOB浪士が、ロアンナの正面にズラリと並んだ。
「これぞ、難易度:赤穂浪士リアル。貴方は生き残る事が出来ますか?」
スカートをつまみながら、鹿島は優雅に礼をしてみせる。
その光景を前にして、ロアンナはだらだらと汗を流しながらずりずりと後ずさった。
「‥‥ふ、ふむ、私の様な若輩者が相手では、其処許の武名が廃るというもの。
ここはひとつ彼の者に任せるとしましょう」
言うが早いか、手近なMOB用心棒――エリシア部下トリオ――を生贄にして脱兎の如く逃げ出すのだった。
「待てこらああああっ!!」
「ちょ‥‥ロアンナさん――っ?」
「こ、こんなの無‥‥きゃーっ!!」
『その技‥‥覚えたぁっ!!』
「だーもう面倒臭いやっちゃなぁーっ!!」
一方、サイゾウは東條 夏彦(
ga8396)を相手に苦戦していた。
最初こそまともに打ち合っていたのだが、暫くして東條の様子がおかしくなっていき、今ではどんなに斬りつけても傷は再生し、その度に強くなっていく魔人と化したのだ。
‥‥どうやら、持っていた刀が妖刀の類だったらしい。
「‥‥何やその設定、もう無茶苦茶やないか」
『フハハハハハッ!! バグアのサムライとはそんなものかぁっ!!』
時折周りの用心棒まで巻き込みながら、東條は暴れまくっている。
サイゾウが後ろを見れば、榊とアリカと対峙する二人も苦戦しているのが見えた。
次第にサイゾウに焦りが広がっていく。
「くっ!!」
「ほ〜ほっほっほっほ!! 無様な姿ねサイゾウ!! このまま哀れな屍を晒して――」
それを見て気を良くしたのか、ティーダが一層高笑いを上げていると――、
――ドドドドドドッ!!
土煙と地響きを立てながら、凄まじい勢いで馬に乗ったリディスが突撃してきた。
「ええい!! 邪魔ですどきなさい!!」
「きゃあああああっ!!」
『ぬわ――――っ!!』
――どげしっ!!
成す術無く轢き潰されるティーダと東條。
その勢いで東條の持っていた妖刀は手からすっぽ抜けて飛んで行き、外にある堀の中へと落ちていった。
『お、俺は泳げないんだ!! 誰かーっ!! 体が錆びちまうーっ!!』
――こうして人々に仇を成してきた妖刀は、人知れず封印される事となったのだった‥‥。
そんな事など露も知らないリディスは、更に用心棒、浪士問わず薙ぎ払う。
その行く先は最初から決まっている。
「サイゾウ――――ッ♪」
「――ッ!?」
サイゾウの背中に途轍もない悪寒が走り、体が反射的に刀を構える。
それはこれから及ぶであろう身の危険が原因だった――主に、貞操の。
「サイゾウさん!! 援護します!! えーいっ!!」
咄嗟に冴木美雲(
gb5758)が刀を振り上げながら、リディスに立ち向かおうと試みる。
――コケッ!!
「あ」
――ドンッ!!
「おわああああっ!?」
しかし、その途中で躓き、思いっきりサイゾウの背中を突き飛ばしてしまう。
そこに、運悪くリディスの馬の蹄が直撃した。
――グシャッ!! ゴキッ!! メキッ!! ゴロゴロゴロゴロ‥‥。
――鈍い音と共に宙を舞い、危険な角度で頭から着地し、三回転してから止まるサイゾウ。
‥‥かなりスプラッタな光景である。
だが、それを成した当人は気にもせず馬を下りると、サイゾウを抱えて馬首を返した。
「さぁ今からめくるめく愛の時間ですよー!」
「ああっ!! サイゾウ様が殺‥‥攫われたーっ!!」
「畜生羨ましい奴め!!」
口々に好き勝手言いながら、屋敷の中に次々と浪士たちは突入していった。
「遅れる訳にはいかんな‥‥我らも続くぞ!!」
「畏まりました、ご主人様」
彼らに負けじと、サイラスを始めとした残る浪士達も屋敷へと向かう。
彼らが去った後には、ズタボロとなったティーダが呻いていた。
馬に轢かれた後、撤退する用心棒達と、屋敷に突入する浪士たちに踏まれまくったのだった。
「わ、私が負けるとは‥‥グフッ」
それが止めとなり、ティーダは力尽きた。
――人知れず、浪士たちは仇の一人を討ち果たす事に成功したのだった。
ちなみに門前で戦い続ける四人については、シリアス過ぎてつまらないので割愛させて頂く。
「‥‥酷い」
「‥‥血も涙も無い所業だな」
ええいうるさい、尺が足らんのだ。
『かくして舞台は屋敷の中――更なるカオスの渦中へと突き進んでいく』
味方が混乱する中、鳴神 伊織(
ga0421)はひたすら静かに状況を見守っていた。
「さて‥‥と、そろそろ行きますか」
部屋から出ると、複数の足音が近づいてくるのが分かる。
「ここまで踏み込まれたという事は‥‥他はもうボロボロでしょうね」
彼女の呟きを肯定するかのように、視線の先にある廊下の曲がり角から、MOB浪士達を引き連れた須佐が姿を現した。
「相手は一人だぞ!! 打ち掛かれええええっ!!」
『うおおおおおっ!!』
正しく多勢に無勢‥‥だが、それでも尚、鳴神は不敵な笑みを浮かべて見せた。
――ヒュンッ‥‥。
信じられない程速く、そして静かに、鳴神の体が滑るように浪士たちの間をすり抜ける。
「‥‥一閃」
何時の間にか抜かれていた鳴神の刀が、再び鞘に収められたその瞬間、まるで桜の花びらのように、鮮やかに血飛沫が舞った。
『がはっ!!』
そして、全身から血を噴き出しながら倒れるMOB浪士達。
「ちぃっ!!」
鳴神の常軌を逸した強さに驚愕する須佐だったが、咄嗟に脚爪「オセ」で迎え撃つ。
その鋭さはかなりのもので、手練れの鳴神でも全て避けきる事は出来なかった。
「久しぶりですね‥‥こうも血が滾る機会というのは‥‥!」
頬に走った傷から流れ出る血を舐めながら、獰猛な笑みを浮かべる。
鳴神は鬼蛍を抜き放つと、先ほどとは比べ物にならない程の苛烈な斬撃を放った。
――一撃一撃が、信じられない程速く、重い。
「ぐっ!! がはっ!!」
次第に追い詰められていく須佐。
――気付けば、彼は階段の上にいた。
足元には、何故か異様に滑るワックスが塗られている。
「――ん? 階段‥‥?」
それに気付いた須佐の額から、今までのものとは全く別の汗がだらだらと流れる。
視線を前に向けると、そこには何だかイイ笑顔を浮かべる鳴神の姿が。
「‥‥さあ、須佐さん。覚悟は宜しいですか?」
須佐はその瞬間全てを理解した‥‥何故こんなに強い奴が中々出てこなかったのかを。
‥‥彼女は、待っていたのだ。
須佐という名の獲物が、己の巣にかかるのを。
「お前もスタッフの回しモンかあああああああっ!!」
「さあ? どうでしょう?」
ニコニコしながら、鳴神が刀を振り下ろす。
動揺していた須佐はそれを受けきれず、モロに跳ね飛ばされる。
「ぎゃああああああああっ!!」
そして、須佐はドタン!! バタン!! と騒々しい音を立てながら階段を転げ落ちていき、最後には中庭に設けられていた池の中に叩き落された。
「うわっ熱いいいいいいいいいっ!!」
だが、何故かその中の水は、絶妙な火加減で煮えたぎる寸前あたりまでに温められた熱湯。
思わず叫び声を上げながら、池から浮上する須佐。
同時に、カチンコが高らかに打ち鳴らされた。
「カ――――ット!! 折角いい絵が取れてたのに、最後に台無しだぞ!!
悲鳴なんて上げるんじゃない!!」
「無茶言うんじゃねええええええっ!!」
どうにかして這い上がった自分目掛けて、無茶な要求をしてくる監督――リカルドに大声で反論する須佐。
「まあいい‥‥もう一回取り直しだ!! 気合入れていけよ!!」
「え゛‥‥」
呆然とする須佐の肩ががしっ!! と掴まれる‥‥そこには、ニコニコと微笑む鳴神がいた。
だが、その目は全然笑ってなどいない。
「‥‥さて、それでは殺陣からやり直すとしましょう?
あれほど楽しい斬り合いをもう一度出来るなんて‥‥嬉しいですよ」
「俺は嬉しくねええええええっ!!」
ずるずると引きずられていく須佐。
その後、幾度も須佐の悲鳴が屋敷中に響き渡ったのだった。
れいちゃんお面を被り、イタイデザインの白衣を来たドクター・ウェストが高らかに名乗りを上げる。
「ひと〜つ、地球人の生き血をすすり〜、ふた〜つ、バグアな悪行三昧〜。
み〜っつ、愚かな地球の敵を、退治てくれよう、ドクター・ウェ‥‥」
「えいっ」
――ゴスッ!!
「おごっ!? ま、待ちたまえ〜!! 口上途中で攻撃するのは卑きょ‥‥」
「天誅!!」
――メキャッ!!
屋敷に侵入した相澤 真夜(
gb8203)は、瞬天足と超機械「ブレーメン」(の角)を駆使し、並み居る用心棒達――ついでに仇を一人――を次々と屠っていく。
その前に、右手に刀、左手に松明を持ち、鎖帷子に爆弾を巻き付けた堺・清四郎(
gb3564)が立ち塞がった。
「さあ、こいやぁ! 用心棒といえど武士の意地を見せてやる!!」
「望む所ですっ!!」
――交錯する二人の影。
倒れたのは‥‥堺であった。
道連れ狙いの爆弾も、頭を殴打されては意味が無かった。
「吉良上野介様バンザ〜イ!」
「ふふ〜ん、私って強い!!」
だが止せばいいのに、相澤はそこで調子に乗ってしまう。
碌に周囲を確認する事も無くずんずんと屋敷の中を進んでいき、孤立している事に気付かない。
――そして、彼女にとっての死神は姿を現した。
「‥‥いよう、相澤」
「げっ‥‥!? そ、宗太郎さん!?」
そこには、彼女にとって因縁深い男――宗太郎がいた。その後ろには如月も着いてきている。
如月はオロオロしているだけだが、既に宗太郎は拳をポキポキと鳴らして臨戦態勢だ。
どうやら、以前の出来事を未だに根に持っているらしい。
「えーっと、その‥‥あ、花ちゃんだ!!」
「何!?」
「隙アリッ!!」
――ゲシッ!!
オルゴールが宗太郎の額に突き刺さり、血が一筋流れる。
しかし、彼は倒れなかった。
「‥‥いい度胸だ。敬意を表して、全身全霊をお見舞いしてやらぁ‥‥!」
怒りの形相で、拳をポキポキと鳴らす宗太郎を見て、相澤の顔が真っ青になる。
――相澤にとっての地獄の鬼ごっこが始まった。
「いーやー!!」
「逃がすかコラアアアアアアアッ!!」
「ちょ‥‥置いていかないで下さいよ宗太郎さん!!」
「宗太郎さんのいじめっこー!! 成人したんだから落ち着いて下さい!!」
「んなの関係あるかああああっ!!」
「吉良役が赤穂浪士を追いかけるなんて、おかしいですよ!!」
「だから‥‥ちょっと‥‥速‥‥ゼェ‥‥」
時に走り、時に隠れ‥‥相澤は逃走したが、体力的な差は如何ともし難い。
十数分後には、彼女は行き止まりに追い詰められていた。
「きゃー! きゃー! きゃー! こ‥‥ころさないで‥‥」
「だが断る!!」
ガクガクと震える相澤の脳天目掛けて拳を振り上げる宗太郎。
だが、一歩前に踏み出した瞬間、僅かに彼の足元が沈み込んだ。
天井が開き、そこから金タライが落ちてくる。
「危ないっ!!」
咄嗟に如月が宗太郎の背を押して突き飛ばす。
「うおっと!?」
――カチッ!!
「あ」
――チュドーンッ!!
‥‥と、いう声を出す暇も無く、宗太郎と相澤は地雷の爆発に飲み込まれた。
「‥‥」
如月は、何も見なかった事にしてくるりと踵を返し、足早に立ち去るのだった。
――その数分後、爆発音を聞いたサイラスと鹿島の二人が姿を現した。
「‥‥シルエイト!? その姿は!?」
「へっ‥‥やられちまったよ。
俺の遺言‥‥聞いてくれるか? 聞いて欲しいんだ‥‥ライバルだったお前によ」
壁に背をもたせた宗太郎は、ごぼり、と血塊を吐き出す。
「‥‥俺はアニスの打ち首には最後まで反対だった‥‥アレの生き様は、なんとも立派だった‥‥!」
残り少ない力で、強く拳を握り締める。
「‥‥小さい胸が良いんじゃない。小さい状態から、数多の鍛錬‥‥弛まぬ努力を積み重ね、大きく育てる過程こそが素晴らしい! そして大きく実らせた果実にこそ真の美しさが宿るのだ!」
「‥‥」
「‥‥サイラス、家臣のお前なら分かってくれるだろう‥‥!!」
――暫しの沈黙の後、サイラスは己のライバルの肩に手を当てた。
「違うぞシルエイト――女性の美とは‥‥尻だ。
それ以外の要素など、取るに足らん付属物に過ぎん」
「‥‥へっ、最期まで‥‥意見が合わなかったな」
皮肉気に口を歪めると、二人はがしり、と手を握り合う。
――一体何のライバルだったのだろう?
「――お二人とも、死んだ方が宜しいかと」
それに対して、鹿島の目は極寒のシベリア以上に冷ややかであった。
「‥‥育て役(揉む役)、サイゾウなら喜んでやっただろうな‥‥」
「そうだったのか‥‥」
「ケダモノですね」
その言葉を最後に、宗太郎の手は力を失い、落ちた。
かくして、哀れサイゾウは宗太郎の最期の悪意によって、最悪の属性を付加される事となった。
「ふ〜。これ見てると、年末って感じよね」
浪士達と用心棒達の戦いを、白雪(
gb2228)は炬燵の中で茶を啜りながら観戦していた。
――正確には、彼女の中にある人格の一人‥‥真白である。
彼女は浪士でも用心棒でもない、言ってしまえば不法侵入者なのだが、完全にリラックスしている姿を見ると、とてもそうは思えない。
傍らには、ほろ酔い気分で酒を煽るキョーコの姿。
「あはは、もう年は越しちゃってるけどね。
あ、あんたも一杯やる?」
「あら、ありがとうございます‥‥では、お返しに私はこちらを」
「ん? 饅頭かい? 酒の肴にゃ甘すぎるけど‥‥頂いとくよ」
「ええ、どうぞ。そこの棚から失敬したものですから、元手はタダですし」
周りは少々喧し過ぎるが、二人の間にはゆったりとした時間が流れていた。
そしてその頃、エリシアは――、
「で? 貴様らは一体人の家の庭で何をやっていたんだ?」
目の前に正座する顔をボコボコにした大泰司 慈海(
ga0173)と、弧磁魔(
gb5248)に向かって説教していた。
彼らはいずれも、邸内に突如乱入し、状況を混乱させた咎で拘束されたのだ。
――ついでにエリシアの怒りの捌け口となってしまい、現在に至る。
「だ、だからアタシは、徳川綱吉様に仕えるスパイでねぇん‥‥」
「普通に喋れ気色悪い。本当に○○失くしたいか?」
「はい、済みません」
エリシアの言葉は怒りのあまり、某教官のようになっていた。
「皆さんが生類憐れみの令をちゃんと守っているかを確認しにきまして‥‥」
で、お手伝いのおばちゃんを装って屋敷に潜入。
騒ぎに乗じて忍術で煙に巻きながら、犬を計101匹放ち、両陣営がそれにどう対応するかで判定しようとしていたらしい。
彼の不幸は犬達が早々に忌咲の罠にかかり、生け捕られた事だった。
エリシアは続けて弧磁魔に向かって問いかける。
「‥‥で? 貴様は?」
「わ、私は茶屋で団子を食べていたらこの騒動を目撃して‥‥」
それを見てこうしてはいられんと馬に乗って屋敷に突入し、マシンガンを乱射したり、機械剣を振り回しては、両陣営を止めようと奔走していたらしい。
「まったく、人はいつまでも争い続けるのでしょうか‥‥。いや、それは否!
世界のゆがみを、この私が絶ちきる!! 我々は、変わるんだぁぁーーー!!」
ナルシスト気味に主張する弧磁魔。
――タンタンタンッ!!
エリシアは彼の足元に9パラ弾をばら撒く事でそれに応えた。
「‥‥で、戦いを止めるとか抜かした貴様が、更に戦いを混乱させた理由を聞こうか?」
「それは‥‥そのー‥‥ごめんなさい」
恐怖と気まずさで、目を逸らす弧磁魔。
続けてエリシアは後ろを振り返る――そこには、土蔵から引き摺り出された瓜生が同じく正座していた。
「さてウリュウ様‥‥いや、トモエ。何故ここに呼ばれたか分かるか?」
「ううん‥‥全然分からない。どうして? 何にも悪い事してないのにー」
すっとぼけた答えを返す瓜生の態度に、今度こそエリシアの何かが切れた。
「とぼけるなあああああっ!!
アニスに好かれたいが為に、バレルを実験素材に提供したのは何処のどいつだあああああっ!!」
バレルとは、エリシアの恋人であり、幕府の御用聞きであった人物である。
「アニスの所から帰ってきたバレルはなぁっ!! ガチ○モになって帰って来たんだぞ!!
全ては貴様の責任だっ!!」
「そんなことないもん。私はアニスのためにやったんだもん。悪いことしてないんだもん」
エリシアの怒りを受けても尚、瓜生は全く反省の色を見せなかった。
更に言えばこの瓜生、アニスの所業を人前で自慢げに話して彼女の悪評を広める原因を作ったり、アニスを諌められる人物を島流しにしてアニスを増徴させる原因を作ったりと碌な事をしていない。
‥‥今回の騒動の遠因は彼女と言っても過言ではなかった。
「き‥‥さっ‥‥!!」
「え、エリシア‥‥頼むから落ち着いてくれ‥‥」
正に修羅と化そうとするエリシアを、傍らのレオン・マクタビッシュ(
gb3673)が宥める。
「まだ状況は収まっていないし、ここは一先ず牢にいれておくだけにしよう」
「ふぅ‥‥分かった」
理性を失っていたエリシアだったが、レオンの言葉には素直に頷いた。
が、その時部下が報告に走ってくる。
「申し上げます!! とうとう‥‥土蔵の前まで突破されましたっ!!」
「そうか‥‥」
「行こうエリシア‥‥私は何処までもついていくよ」
レオンは種子島を手にしながら、エリシアに向かって微笑みかける。
「そして、君に何かがあったら‥‥私が身を呈してでも守る」
「ふん‥‥レオン、君は誰に向かって言っている?」
レオンの言葉に、不敵な笑みで応えるエリシア。
そして雪崩れこんでくる浪士たち目掛けて、二人は立ち向かっていった。
「――はっ!? こ、ここは‥‥っ!?」
サイゾウが目を覚ますとそこは土蔵の中だった。
そしてそんなサイゾウを見下ろす女性――。
「‥‥お、お前、リディスか!? な、何のつもりや!?」
「あぁサイゾウ、やっと二人きりになれました‥‥。
さぁいざ熱いベーゼを!」
「せやから待てええええええっ!! キャラ変わっとるぞ!?」
「知った事ですか!!」
唇を突き出してくるリディスを、跳ね起きながら何とか制止するサイゾウ。
だがリディスはお構いなくずんずんと接近してくる。
後ずさるサイゾウだったが、あっという間に壁際に追い詰められてしまった。
「アニスは残念でしたが‥‥。
まぁロリで妹ポジションというだけで美味しいのにさらにずっと傍にいるなんて妬ましいなんて思っていませんから。
私が気持ちを伝える前にサイゾウはいなくなってしまったのに、自分だけはいけしゃあしゃあと抱きついてたりして恨めしいとか思ってませんからえぇ」
怖い。
何だか黒いオーラみたいなものが笑顔の向こうに見えた。
だが、サイゾウにしなだれかかったリディスの顔は、真剣そのものになる。
「サイゾウ、私はあなたとなら地獄に落ちてもいいんです。
共に裁かれ焼かれてもいいんです。だからサイゾウ、私だけを愛して‥‥」
「リディス‥‥」
二人の頬が赤く染まる。
しばし見詰め合った二人は、次第にその距離を縮めていって‥‥、
――バァンッ!!
「待てーいっ!! そこなリア充爆発しろー!!」
そこには冴木、正気に戻った東條を引き連れた男の娘――白虎(
ga9191)が立っていた。
――彼らこそ、カップル撲滅を掲げる恐るべきテロ集団「しっと組」である!!
彼らは騒ぎに乗じて潜り込み、ラブラブな者達を粛清しようと企んでいたのだ。
――ガシッ!!
いつの間にかサイゾウの背中に回りこんでいた冴木が彼を拘束する。
「サイゾウさん、ゴメンなさい! 恨みは無いんです‥‥っ!
私は、赤穂浪士である前にしっ闘士なんです‥‥。別に嫉妬してるわけじゃないんですが、その、これが仕事でして‥‥」
「こ、こん裏切りモンっ!!」
そしてリディスは、東條に縄を打たれ、拘束される。
「くっ!?」
「‥‥悪く思わねぇでくだせぇ。こいつも総帥の意向なんでさぁ」
「白虎さん、今ですよ!!」
そして白虎は巨大なハンマーを取り出し、それを叩き付けんと迫る。
「ふふふ‥‥『二人』ともそこを動いちゃ駄目にゃー」
「え? わっ、ちょっ、なんで私まで一緒なんですヵ――――!?」
「黙れぃっ!! しっと組でありながらリア充となった罪、万死に値するっ!!」
最近冴木には恋人が出来たのだが、それはしっと組の規律に違反するものだったらしい。
思い切りハンマーを振り下ろす白虎。
「ちいいいっ!!」
――ゴキィッ!!
「きゅう‥‥」
サイゾウは身を捩ると、冴木を盾にして鉄槌の一撃をかわした。
「ちっ、逃がしたか‥‥だが、もう逃げ場はないにゃー」
「くぅ‥‥」
しかし、サイゾウにはもう逃げ場も、盾になる物も無い。
万事休す‥‥だがその時、ブチブチと何かを引き千切るような音が響き渡った。
「サイゾウに‥‥」
丈夫な筈の荒縄が、まるで紙紐のように切れていく。
「触るなあああああああっ!!」
「ぐはぁっ!!」
ロープを引き千切り、東條を一撃の下に叩きのめすと、リディスは白虎へと襲い掛かった。
「むっ!? むしろ好都合にゃー!! お前も粛清してやるー!!」
巨大なハンマーと、リディスの拳がぶつかり合う。
だが、勝ったのは拳の一撃であった。
「ば、馬鹿にゃーっ!?」
「サイゾウに危害を与える者は、天が許してもこの私が許しません!!」
吹き飛ばされながら、リディスには勝てないと、頭では無く、本能で理解した。
今の彼女を支える原動力‥‥それは、山をも動かすという大いなる力を秘めた桃色の力。
「こ、これが‥‥バカップルの力か‥‥」
ガックリと倒れる白虎――だが、その手にはスイッチが握られていた。
「だがただでは死なないにゃー‥‥ゆるせ、全てはリア充殲滅という大儀のためにゃ!!
――ポチッとな」
次の瞬間、屋敷の至る所から爆発が起こり、激しい揺れが皆を襲った。
「ふっふっふっ‥‥こんにゃ事もあろうかと、屋敷中に爆弾を仕掛けておいたのにゃ」
「アホかああああっ!! 自分も巻き込まれるんやぞ!?」
「あ!?」
「考えとらんかったかいっ!!」
かくしてLH屋敷は跡形も無く吹き飛んだのであった。
この騒動に最早勝者も敗者もいない‥‥残ったのは、数多くの犠牲だけだ。
「はい、皆さん順番に並んで下さいねー。
ふっふっふ‥‥こんなに魂が手に入るとは思いもしませんでしたよ」
強いて言えば、この騒ぎに乗じて死者の魂をたんまりと頂いた死神の天宮(
gb4665)が唯一人の勝者と言えるだろう。
「いやー、これで皆もボクと一緒だネー」
「‥‥嬉しくねぇ」
「わ、私は嬉しいですよ!? あぁアニス‥‥ハァハァ」
「ぬうううう!! 我魂魄百万回生まれ変わっても、必ずやリア充撲滅を‥‥」
「天国にも酒はあるのかねぇ」
「各々方――討ち入りに御座る!!」
「サイラス様、仇はもう討ちましたよ――私達も死にましたが」
天宮に連れられた魂達は、尚も喧しく騒ぎながら天へと昇っていくのであった。
そして、崩れた屋敷の中から這い出てくる人影が一つ。
「ふぅ、眼鏡が無ければ即死だったね〜」
ウェストは傷一つ無い眼鏡を掛け直しながら呟いた。
同じ頃街道をひた走る馬の上にはリディスとサイゾウ。
「さぁサイゾウ行きましょう!! 私達の愛の巣へ!!」
「せやからまずは縄を解いてからにせんかいっ!!」
‥‥サイゾウは暴れるので雁字搦めに縛られていたが。
そして舞台は暗転し、再びUNKNOWNが姿を現した。
『何はともあれ、これでこのカオスな物語はお仕舞いだ――静聴、感謝するよ』
そう告げると、彼も闇の中へと消えていく。
『おっと、最後のナレーションを忘れていたよ』
ハチャメチャだけれど、そこには確かに笑顔と楽しさが満ち溢れている。
『――かくも、らすとほーぷの地は太平なり‥‥とね』