タイトル:【北伐】ノイズの海マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/29 22:10

●オープニング本文


「攻撃は最大の防御なり。時を逸し、座して死を待つは用兵の愚である」
 UPC東アジア軍中将、椿・治三郎(gz0196)の決断により、極東ロシア開発を脅かすバグア軍新兵器「雷公石」の発射基地を擁する中国東北部のバグア一大拠点・瀋陽攻略作戦は発令された。

 だが瀋陽はそれ自体が重武装要塞都市へと改造された難攻不落の牙城である。これを陥落させるには過去のあらゆる大規模作戦をも上回る困難が伴うであろう。しかも中国内陸部から侵攻するには、北京包囲軍を始め障害となるバグア支配都市が多いため時間がかかりすぎる。
 そのためUPC軍が選んだのは遼東半島経由の北上ルートによる攻略だが、同時に陽動作戦として黒竜江省、吉林省を経由したロシア側からの侵攻も実施される。そのための足がかりとして重要なのが中国東北部の要衝・ハルビンの攻略だ。
 これはまた、中国方面から極東ロシアへの再侵攻を図るバグア軍と正面から激突し、その意図を挫くという重要な戦略目的も兼ねている。

 ハルビン攻撃の主力を担うのは極東ロシア軍だが、そのための侵攻ルートは2つ。
 ウラジオストックから綏芬河市(中露国境の町)で中露国境を越えてハルビンに向かうルートからバグア軍の側面を衝き、アムール川(黒竜江)をさかのぼってハバスロフクで中露国境を越えてハルビンに向かうルートで正面からバグア軍を阻む。
 しかしバグア側もかつて大敗した極東ロシア戦での屈辱を晴らすべく、並々ならぬ決意で挑んでくるであろう。陸空を舞台に激戦が予想される。
 傭兵諸君は遊撃戦力として極東ロシア軍を適宜支援して欲しい。



「キューブワームを満載した輸送艦‥‥だと!?」
「――はい。本日未明、ハルビンへ向けて発艦したとの情報が入りました」

 おそらくは、ハルビンのバグア軍を支援するためのものだろう。
 キューブワーム、メイズリフレクター、マインドイリュージョナーなどのジャミングワームは、一体一体の強さは然程では無いが、集団になればなるほどその脅威の度合いを上げていく。
 しかも、ゴーレムやワームなどは一定の大きさでなければ力を発揮出来ないのに対し、キューブワームは数メートルほどの大きさでも、その脅威は変わらないのだ。



 無数のキメラやワームを搭載可能だという輸送艦――ビッグフィッシュ。
 その中に極めて小さいキューブワームを可能な限り搭載したとすれば、その数は一体どれだけのものになると言うのだろう?
 最悪の想像に、司令官の体がぶるり、と震える。

「キューブワームが全て無事に到着してしまった場合、作戦全体に及ぶ影響は計り知れん。
 ‥‥部隊を編成している時間は無い。
 即刻傭兵への出撃要請を行い、ビッグフィッシュを撃墜させろ!!
 どんな手を使っても構わん!!」
「――はっ!!」




 満点の星が輝く、月の夜空。
 それはまるで無限の深さを持った海に似ている。
 その海の中を、ビッグフィッシュという名の災厄を積んだ大魚が泳いでいた。
 時折輝く宝石のようなものが、大魚の腹から吐き出される。
 月光と星空に照らされながら、時折虹色に輝くソレは、この世の物とは思えない美しさを醸し出している。


――だが、誰が知ろう?


 その海は人類の希望たる能力者と、彼らが操る騎士鳥ですら満足に飛べない程の魔海である事を。



 キューブワームを時折吐き出しながら、周囲に護衛のヘルメットワームを従えたビッグフィッシュはハルビンへと飛ぶ。
 キューブワームが生み出すノイズの海を、ただ静かに――。



――傭兵達に通達。
 ハルビンへと向かい発艦した輸送艦を速やかに撃墜せよ!!
 尚、周囲には電子戦機ですら通用しない程のジャミングが発生している。
 仮に撃墜された場合、救援は当分期待出来ないものと判断して欲しい。
 ‥‥それでも我々は君達に命ずる。


――必ずや、生きて帰れ!!

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP

●リプレイ本文

「キューブワーム満載の輸送艦か。戦場に現れたら厄介な事になるだろうから、何としても撃墜しないとね」

 アーク・ウイング(gb4432)が愛機であるシュテルンを撫でながら、改めて決意を己に込める様に呟く。

「あんな奴らがこれ以上増えたら、どれだけ大変な事になるか分からないからな」

 アークの言葉に頷きながら、CWが放つノイズの感覚を思い出し、憂鬱そうな表情を浮かべるヒューイ・焔(ga8434)。

「――そうですよね。アレは‥‥ある意味最悪の敵ですから」

 平坂 桃香(ga1831)が唇を強く噛み締める。
 その脳裏に過ぎるのは、あの忌まわしき立方体のせいで落ちていった多くの仲間達の姿。
 CWの真の恐ろしさを、熟練の傭兵である彼女は良く知っている。

「――ノイズの海に、仲間達を沈める訳にはいきません‥‥皆さん、行きましょう!!」

――だからこそ、急がなければならない。
 周防 誠(ga7131)の呼びかけに応え、傭兵達は次々と愛機に乗り込んでいった。


「ジャミングの海‥‥頭痛薬でも持っていこうかな‥‥」

 覚醒し、普段の天真爛漫な性格を押し包んだ月森 花(ga0053)がぼそりと呟く。
――見上げれば、そこには大好きな青い空。
 その空をバグアが飛ぶ‥‥それだけで虫唾が走る。
 激情をバーニアに乗せ、彼女のウーフーは飛び立った。
 後に続くのは、鷲羽・栗花落(gb4249)の鮮やかなブルーに染められたロングボウ「アジュール」だ。

「ボク、前々からHWやゴーレムよりCWの方が嫌いだったんだよねぇ」

 にこやかな表情で軽口を叩く彼女に通信が入る。
 相手は彼女の僚機であるR−01に乗る時任 絃也(ga0983)だった。

『――鷲羽、俺が大型の抑えに回る、だが現地の状況下では何処まで押さえがきく分からん。
 常に大型への注意もわすれんでくれ』
「うん、任せて!!」

 一切の無駄を省いたようなテキパキとした時任の声に、鷲羽は元気良く頷いた。


「柳凪さん、大丈夫ですか?」
「‥‥大丈夫です」

 初陣で緊張気味な柳凪 蓮夢(gb8883)に、周防が心配そうに通信を送る。
 だが、柳凪は緊張でかいた汗を拭いながら気丈に振舞ってみせた。
 彼が乗るのはUPCから特別に貸し出されたシラヌイS型――それは淡い朱色と白を基調とした幻想的なカラーリングが施されている。
 真新しい操縦桿を握り締めながら、柳凪は自らに暗示をかけていく。
――自分はやれる‥‥やれると。
 程なく早鐘を打っていた心臓の鼓動は、ほぼ平常と変わりなくゆったりと刻み始めた。

「行こうか、紅弁慶。望むものを護る為に‥‥」



――暫くすると、KVのレーダーと通信機器が耳障りなノイズを吐き出し始める。
 そして同時に襲ってくる脳が焼け付くかのような頭痛――CWのジャミングの範囲内に入ったのだ。

「アジュール、音を上げないでね!」

 鷲羽は計器から悲鳴を上げる愛機を優しく叱咤する。

「こ、これがCWのジャミング‥‥!!」

 未体験の感覚に思わず解けてしまいそうな己の暗示を、柳凪は必死に抑え付けた。
 そして、そのノイズは次第に強烈になっていき、とうとうレーダーと通信機はノイズを吐き出すだけの物体と化す。
 月森がウーフーでジャミングを中和しようとするが、全く意味を成さなかった。

「今までに無い強烈なジャミングだな」

 用を成さなくなった通信機のスイッチを切りながら、時任が忌々しげに呟く。
 その視線の先には、淡い月光に照らされた大魚――輸送艦ビッグフィッシュの姿。
 その周囲には一メートル程のCWと、大型HWの姿も見える。
 傍らを飛ぶ僚機を見れば、キャノピーの向こうでハンドサインを出す鷲羽がいた。


――行こう。


 簡潔だが、力強い意思を感じさせるサイン――同時にブーストをかけて鷲羽のアジュールが飛び出す。
 通信とレーダーを潰され、ともすれば孤独を感じてしまうような状況の中でも、傭兵達は全く不安など感じていなかった。

「空を穢すものは‥‥撃ち落とす。CW諸共‥‥藻屑と消えろ」
「絶対に――負けません!!」

「行くぞ白魔‥‥奴等を叩き落としてやれ!!」
「いっくよ〜!!」

「――さて、行きましょうか相棒」
「行かせない‥‥なんとしても、ここで落としてみせる!!」

 何故なら、傍らを見れば仲間がいる――ならば恐れる事など何も無い!!


 傭兵達は事前の打ち合わせ通り、

A班 月森・平坂

B班 時任・鷲羽

C班 ヒューイ・アーク

D班 周防・柳凪

 それぞれがペアとなり、ブーストをかけて散っていく。
 そして四班が左右上下からビッグフィッシュを挟み込むように攻撃する手筈だ。


 敵も易々とそれを許しはしない。
 大型HWが能力者たちの前に立ち塞がり、CWはノイズを撒き散らす。
 BFは速度を上げながら新たにCWを吐き出した。


 BFの右絃上方から接近した月森と平坂。
 彼女たちの前に立ち塞がる二機の大型HW――その動きはいつもより鋭い。
 いや――こちらの動きがジャミングで鈍くなっているのだ。
 そして、放たれるプロトン砲は正に電光石火の一撃に見える。

「‥‥させないっ!!」

 平坂は超伝導アクチュエーターを発動し、それを辛うじて避ける。
 しかし、その熱は装甲を溶かし、コクピットの中の彼女を大きく揺らす。

「く‥‥ううううっ!!」

 だが平坂は耐え、ブーストをかけて大型HWをソードウィングで切り裂きながら駆け抜ける。
 もう一機の大型HWも平坂目掛けて体当たりを仕掛けるが、その前に月森のG放電装置によって阻まれた。

「食らいなさいっ!!」

 その隙にBFの艦橋に接近すると、平坂は引き金を引いて雷電に搭載されたフレア弾を解き放った。
 後方から大型HWが、下からはBFによる砲撃が襲い掛かるが、雷電の分厚い装甲はそれを耐え切ってくれる。
 二発のフレア弾は狙い違わず艦橋に向かって落ちて行く。


――ボゥンッ!!


 うち一発は途中で撃ち落とされたが、もう一発は艦橋に爆炎を上げて炸裂した。


 月森は大型HWの攻撃を耐えつつも、CW目掛けて照準を合わせる。
 KA−01試作型エネルギー集積砲の砲身が唸りを上げたかと思うと、凄まじいエネルギーの奔流が迸る。
 その一撃はCWを掠め、熱と衝撃で立方体の一つが砕け散った。
 更に固まっている集団の中に飛び込むと、敵を認識したファランクス・アテナイが次々とCWを抉って行く。

――しかし、それでも月森は終わらない。

 急ターンして再びCWとBFに向き直ると、CWとそれを吐き出すBFの射出口目掛けて照準を合わせる。
 させじと大型HWがその前に立ち塞がるが、すかさず飛び込んだ平坂機の剣翼に大きく機体を切り裂かれた。

「邪魔はさせませんっ!!」

 その間に、月森はロックオンを終えていた。

「咲き乱れろ‥‥傀儡劫火《ゴーストインフェルノ》。
――異物を撒き散らすその口‥‥塞いでやる」

 ウーフーの砲門が開かれ、K−02の弾幕がCWとBF目掛けて襲い掛かる。
 ジャミング下とはいえ、動きの鈍いCWとBFなどただの的と同じだ。
 爆炎の中に砕かれていくCWとBFの射出口、そしてミサイルの軌跡を、月森は微笑を浮かべながら愛しげに見つめていた。



「――ちぃっ!!」

 プロトン砲を避け切れず、時任は激しい衝撃に襲われる。
 右舷下から攻撃を仕掛けたB班だったが、接近する間に大型HWとBFによる砲撃の雨に曝されていた。
 ブーストで接近する間にも、プロトン砲の弾幕は容赦無く二人に降り注いでいく。

「流石にきついな‥‥でも、負けない!」

 鷲羽は再びBFから吐き出されたCWの集団目掛けて、K−02ミサイル500発を一機に解き放った。
 ミサイルロマン専用機体の名に恥じず、アジュールに搭載された新型複合式ミサイル誘導システムはジャミング下でもK−02の弾幕を残らずCWに届けてくれる。
――激しい爆炎に砕かれ、焼かれていくCW。

「まだまだ行くよアジュール!!」

 それでも止まらず、鷲羽は剣翼を展開してすれ違いざまに大型HWの装甲を削り取った。

「やられっ放しでは腹の虫が収まらんのでな!!」

 傷ついたHW目掛けて、今度は時任がアグレッシブファングを発動したスラスターライフルをお見舞いする。
 だがそれでもHWは落ちる事無く、時任目掛けてプロトン砲を放つ。
 しかし時任はラージフレアを撒き散らしてそれを掻い潜ってみせた。
 逃げる時任機、追いかけるHW――BFへの道が‥‥開いた!!

「――行け、鷲羽!!」

 時任は傍らを飛ぶ鷲羽機目掛けて叫ぶ。
 決して聞こえない筈のその声――だが意思ははっきりと彼女に伝わった。
 前進したアジュールから放たれるKA−01の光と、試作型リニア砲の高速弾体はBFの横腹に次々と穴を開けていく。
――それは、巨大なBFにとっては微々たる損害だ。
 それでも、傭兵達は少しずつだが確実にBFにダメージを与えていた。
 しかしノイズの海は何処までも深い。
 CWをようやく全て撃ち砕いたと思えば、次の瞬間には別の射出口から再び吐き出されてくる。

「あーもうキリがないよ〜」
「‥‥だが、やるしかない!!」

 BFと大型HW、そしてCWという三つの敵を相手に、二人は決して諦める事無く立ち向かっていった。



 一方、左舷上方ではヒューイとアークの二人が激闘を繰り広げていた。
 BFからのフェザー砲とHWのプロトン砲が次々とヒューイの白魔に襲い掛かる。
 避け切れないと直感したヒューイは、翼面超伝導流体摩擦装置を発動させた。

「う‥‥おっ‥‥!!」

 殺人的なGが体を襲い、ヒューイは思わず呻く。
 その甲斐あって十字砲火を掻い潜ったヒューイだったが、その代償は大きかった。
――操縦桿がうまく利かない。

「くっ!? ここでか!!」

 ハヤブサ最大の弱点が運悪くここで晒されてしまった。
 動きの取れない白魔目掛けてここぞとばかりに攻撃を仕掛けるHW達。
 凄まじい衝撃が襲い掛かり、白い装甲が剥がれ落ちていく。

「――それ以上はやらせないよっ!!」

 だが、僚機であるアークはそれを黙って見てはいなかった。
 PRMシステムによって火力を強化し、8式螺旋弾頭を解き放つ。
 ドリル状の弾頭はHWの装甲を穿ち、内部で爆発して大きく機体を揺さぶる。
 だが、螺旋弾頭はそれで弾切れだ――アークはすかさずUK−10AAMに武装を切り替えて更に追撃を加える。

「――好き勝手やってくれたな‥‥お返しだ!!」

 大きく体勢を崩したHW――そこに体勢を整えたヒューイの127mm2連装ロケット弾ランチャーの雨。

――爆発、爆発、爆発‥‥。

 激しい波状攻撃に耐え切れず、とうとう大型HWの内の一機が地上へと落ちていった。
 仲間をやられた事に怒ったのか、遠くからプロトン砲を放っていた一機が急接近してくる。
 だが、アークのスナイパーライフルの狙撃を受けて、中々近付く事が出来ない。
 その間にヒューイはBF目掛けて接近し、フレア弾の投下態勢に入っていた。
 狙いは、平坂のフレア弾によって開けられた穴。

「喰らえっ!!」

 フレア弾は穴に吸い込まれていき――BFの内部で爆発が起こる。
 今までびくともしなかったBFの巨体が――とうとうグラリと揺らいだ。



 左舷下方――柳凪は混乱の渦中にあった。

(「――思ったように‥‥動けないっ‥‥」)

 頭では分かっていたが、CWのジャミングは凄まじいものだった。
 頭痛と眩暈によって狙いは定まらず、敵の攻撃を避ける事すらままならない。
 覚醒状態の彼の脳は、確かに敵の位置と「それに対抗する手段」をしっかりと把握してくれている。

――けれど、体が動かない。

 幾度も、幾度も、プロトン砲の奔流に曝された紅弁慶の装甲は焼け爛れ、あちこちから火花が散っている。
 その上損傷率は既に7割を超えており、頼みの試作型ACEは既に使ってしまっていた。
 そんな中でも柳凪は懸命に自らの役割を果たそうとする。
 スラスターライフルを放ち、CWの一機を打ち砕く。

「う、うわあああああっ!!」

 だが、その瞬間HWからの砲撃を受け、柳凪の体はピンボールのようにコクピットに叩きつけられる。
 朦朧とする意識の中、柳凪はHWがこちらにプロトン砲を向けるのを見た。

(「ああ‥‥嫌なものを見たな――」)

 きっと、自分はこの光景を『忘れられない』だろう。
 でも――。

「‥‥死んだら――忘れられるかな?」

 砲身から桃色の光が漏れ、今にも解き放たれようとした時――蒼い風が走り抜けた。

「――うおおおおおおおおおおっ!!」

 ブーストで加速したワイバーンの剣翼がプロトン砲を真っ二つにし、爆散させる。
 HWの一機を片付けた周防がギリギリで駆けつけたのだ。

「さながら烈風の如くってね‥‥喰らえ!!」

 更に周防機は対空機関砲ツングースカを放ちながら距離を詰めると、プロトン砲を華麗にかわしながら、更に激しく攻撃を加えていく。

「‥‥すー、さん‥‥?」

 次第に柳凪の頭がはっきりとしてくる。

――私は、何を考えていた?

 ぎりっ、と歯を食い縛る。
 戦友が懸命に戦っているというのに、まだ自分は動けるというのに、一瞬でも諦めた自分を恥じる。
 ノイズと衝撃で朦朧とした頭を覚ますように大きく振ると、柳凪は傷ついた機体を前に進ませる。
 見れば、BFが再びCWを吐き出そうとしているのが見えた。

「させるかっ!!」

 柳凪はスラスターライフルの引き鉄を引き、射出口ごとCWを打ち砕く。
 その時後ろで爆発と閃光が起きる――見れば、周防がHWを剣翼で真っ二つにしていた。
 赤い光に照らされたワイバーンの姿は、雄々しくも美しく、とても頼もしく見える。

――それはきっと、瞬間記憶能力が無くとも決して忘れられないと思った。



 そしてとうとう、最後の大型HWが地上へと落ちていく。
――傭兵達とBFを遮るものは何も無い。

「こいつさえ落とせば、勝ちだーっ!!」

 鷲羽を先頭に、次々とBF目掛けて攻撃が殺到する。
 そして、周防が放ったスナイパーライフルの一撃で機関部に致命的な損傷を受けた大魚は、小爆発を繰り返しながら重々しい音と共に地面へと落ちていき、地面に叩きつけられた。

「やった‥‥!!」

 BFは墜落の衝撃と自重によってグチャグチャに潰れ、出来の悪いオブジェのような姿を晒している。
 だが、手放しで喜んではいられない。
 この空域はバグアの勢力圏内――いつ新たな敵が現れてもおかしくないのだ。
 事前の手筈通り、傭兵達はBFの完全な沈黙を確認すると、機首を返して帰還していった。


 CWのジャミングに苦しめられ、消耗した傭兵達、そしてKVは限界を迎えていた。
 敵の勢力圏である事を考えても、「撃墜を確認した後、即時撤退」という決断ははっきりと正しい。



――だが。



 傭兵達の機影が消えた頃、破壊されたBFのひしゃげた装甲の隙間から、輝く立方体が這い出るように姿を現した。
 その数は数十体ほど――当初の数からすれば十分の一にも満たない数だ。
 けれども確かに生き残ったCW達は、自らに込められたAIの指示通り、夜の空を飛んでいく。



 その向かう先は――。