タイトル:巨人の猛進マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/04 23:17

●オープニング本文


 今日も激しい戦闘が繰り広げられる欧州戦線――その一画にて、今までに無い混乱が起こっていた。
 ただひたすら進撃してくるゴーレムやタートルワーム、キメラの群れを食い止めていた所に、今まで見た事も無いような敵の機動兵器が姿を現したのである。

「な、何だこいつは!?」
「ゴーレム‥‥? いや、違う!?」

――それはまるで三角錐を、ヌメリとした有機的なパーツで組み合わせたような奇妙な姿をしていた。
 背には刃物のようなシャープな印象を持つ一対の羽を持ち、まるで生物のように滑らかな動きでこちらに迫る。
 計八体の謎の機動兵器は、先頭に立っていたバイパーをあっという間に屠ると、尚も進撃を続ける。

「糞っ!! 奴等が何者でも構わん!! 撃って撃って撃ちまくれ!!」

 隊長の号令の下、KVの戦列を並べた一斉砲撃が敵機目掛けて降り注ぐ。
 指揮官機らしき漆黒の機体は弾幕を掻い潜ったが、残る七機は避け切れずに嵐のような弾丸の雨にその身を曝した。
 何機かは浅くは無い損傷を負っている。
 その代償として、運悪く肉薄された阿修羅数機が撃破されるが、兵士たちは手応えを感じていた。

「――よし!! 手強いが倒せない程では無い!! このまま後退しながら――ッ!?」

 部下達を鼓舞しつつ指示を出していた指揮官の表情が凍りつく。
 見れば、敵の損傷が見る見る内に塞がって行く。
 数十秒と経たず、敵の機体の傷はほぼ完全に修復されていた。

「馬鹿な‥‥再生した!?」

 見た事も無いような光景に、兵士たちは皆一様に愕然とした表情を浮かべる。
 今までシェイド、ステアー、ファームライドといった強敵を見てきた普段の彼らならば、いくら強力な能力を持っていても、それが「有限のもの」である事に気付けただろう。
 だが、兵士達はそれ以上にショックを受けていた。


――如何に強力な敵でも、ダメージを与えていればいつかは倒せる。


 戦いの真理にして、強敵を前にした前線の兵士達の士気を支えていたものが、一気に崩されたのだ。
 だから、兵士達が動きを止めてしまったのは無理からぬ事だろう。



 だが、それは戦場では致命的とも言える行為だった。
 動きを止めた兵士達のKV目掛けて、次々と殺到する機動兵器達。

「う、うわああああああああっ!!」

 一旦崩れれば後は早かった。
 敵の持つハルバードや刀といった武器によって、一機ずつ倒されていくKV達。

「来るなよ‥‥来るなああああああああっ!!」

 恐慌を来たした兵士の一人が、敵に背を向けて飛行形態となり、空へと逃げていく。
 運良く追撃を受ける事無く舞い上がる機体。

「‥‥は、はははっ!! ゴーレムだったらそう簡単に空へは追って来れないだろう!!」

 死の恐怖から逃れられた事で、少し強気になった兵士が敵を見下ろすように振り返る。
 が、そこにはまたしても信じられないようなものが飛び込んできた。


――敵の機体が変形していく。
 一対の羽が取り付けられていたパーツが、前へとせり出す。
 パーツは三角錐のような形をした頭部へまるでカバーのように覆い被さり、頭上へと移動した羽の先端が合わさって、輪から三つの棘が飛び出したような形を作り出す。


――それは、まるで光輪を頭に乗せた天使。


 そして敵の体がフワリと浮かんだかと思うと、手足をだらりとさせた姿勢のまま、ヘルメットワームもかくやと言わんばかりのスピードで、兵士目掛けて迫ってきた。

「――冗談だろ‥‥?」

 もう、兵士には悲鳴を上げる気力も無い。
 次の瞬間、敵から放たれたプロトン砲が彼の体を原子の塵に変えていた。



「‥‥損傷を再生させ‥‥その上、空中戦闘も出来る‥‥だと‥‥?」

 衝撃のあまり口をパクパクとさせながら、隊長が言葉を搾り出す。
 しかも空中での動きは、全KV中唯一空中での変形・戦闘を可能とするF−201「フェニックス」を、遥かに超えるものであった。


――そして、何よりも恐ろしいのは『この機体が既に量産されている』という事実。


 目の前にいる八機の敵‥‥それこそが証拠だ。
 正しく、人類の努力をあざ笑うかのような技術力。

「――ふざけるなよ‥‥」

 だが、指揮官の心には絶望よりも激しい怒りが渦巻いていた。

「‥‥どこまで俺達を‥‥人類を絶望させれば気が済むんだ貴様らああああああっ!!」

 死の間際、目の前に迫る刃から一瞬も目を逸らす事無く、指揮官は咆哮をあげた。



 その光景を、遠くから眺める人影があった――サイラス・ウィンドである。

「――ふむ、『タロス』の性能、中々のものだな。流石はあのお方が作られただけの事はある」

 だがその言葉とは裏腹に、彼の顔は不機嫌そうに顰められていた。
 理由は単純――自らが先陣に立って戦えないからである。
 だが、あくまで今回の目的は新兵器のテストだ。
 それにあの内の一機には、自らの戦闘データを搭載した強化型の機体もある。
――今回はそれで我慢せざるを得まい。
 サイラスは背後に控えていたバグア兵へと振り返ると、内心などおくびにも見せずに指示を出した。

「では、我は先に『彼女』の下へ行く。
 データの収集は引き続き任せるが、ある程度のデータが集まり次第撤退しろ。」
『――はっ』

 戦闘服に身を包んだ異形の男が恭しく礼をする。
 そして、再び地響きを立てて進撃していく『タロス』と名付けられた巨人を見据えた。
 あの新兵器は、人類に対して大きな衝撃と絶望を与えるだろう。
 しかし、きっと能力者と名付けられた彼らならば、必ずや絶望を超えて成長する筈だ。

「――さあ人間達よ。この巨人の猛進、食い止めてみせよ」

 この先に待つ更なる闘争に、サイラスは凶暴な笑みを浮かべた。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ロアンナ・デュヴェリ(gb4295
17歳・♀・FC
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA

●リプレイ本文

 未だに前進を止めない八機の新型兵器――その迎撃のため、八人の傭兵達が行く。

「謎の敵‥‥。さて、どの程度のものでしょうか?」

 純白のアンジェリカ「Frau」のコクピットで、値踏みするかのようにティーダ(ga7172)が呟いた。

「記録に無い機体だね‥‥バグアの新型かな?」
「ユダの事といい‥‥もう何が来ても驚かんな」

 漆黒の装甲に深紅の紋様を持つディアブロ「アズラエル」を駆る鳳覚羅(gb3095)、同じく白を基調にエッジ部分に山吹色のラインを持つ「モーニング・スパロー」に搭乗した鹿島 綾(gb4549)。
 カスタマイズを施された機体に乗る強者である二人も、今回の敵に対して警戒を強めていた。
 再生能力、人型でありながら高い飛行能力――かつて無い独特の能力を持ち、しかも既に量産されているというのだから、驚愕するしか無い。

「っと新型か‥‥。まったく羨ましいね」
「――まったくだな。こちらは開発も中々進まないというのに」

 伊佐美 希明(ga0214)とリディス(ga0022)が代わる代わる恨めしそうに口を開く。
 ベテランの傭兵である二人は、KVの新型の開発がどれだけ時間とコストがかかる事を良く知っている。
 実際、希明のディアブロ、そしてリディスのディスタン‥‥そのいずれも、長い時間をかけて生み出された機体だ。
――それをあざ笑うかのようなバグアの所業に、二人は怒りを通り越して呆れすら感じていた。

「お互いに新型機の投入が顕著になってきたみたいですね。単に撃破を狙うだけでなく――」
「‥‥今後のためにも情報を集めつつ‥‥なるべく撃破するのですぅっ!」

 新型対策にと、愛機である真紅のシラヌイ「アルナ」に取り付けたカメラを調整するロアンナ・デュヴェリ(gb4295)の言葉を引き継ぐように、シュテルンの幸臼・小鳥(ga0067)が小さな腕を精一杯「おーっ」と伸ばして気炎をあげる。



 そしてその眼下にはゴーレムとは違った人型の、八体の奇妙な姿をした機動兵器が姿を現した。

「未知の敵‥‥だからと言って引けた腰では話にならない‥‥。
 赤竜の民が騎士、シャーリィ‥‥参る!」

 他の誰よりも先駆けて、シャーリィ・アッシュ(gb1884)が翔幻「アヴァル」を急降下させる。
 敵――「タロス」とコードネームを付けられた巨人達も、手にした得物を構えて迎撃せんと身構える。



 能力者たちが地上へと降り立つ瞬間――タロス達のプロトン砲の光が襲い掛かる。
 KVにとって最も致命的な隙を狙い打つのはある意味当然と言えた。
 だが、彼らがそれを当たり前のように許す事は無い。

「少し先行します。幻霧の中を突っ切れば、多少なりとも攻撃を凌げるはずです」

 シャーリィの宣言と共にアヴァルから吹き上がる煙幕――翔幻に搭載された幻夢だ。
 ミルクのように濃密な煙幕は、着陸寸前だったKV達をすっぽりと覆い隠した。
 プロトン砲の殆どが、手応え無く煙幕を空しく掻き乱す。

「――では、参りましょう」

 その間に地上に舞い降りた傭兵達は、前衛、中衛、後衛に分かれて戦列を組んだ。
 前衛にはリディス・ティーダ・シャーリィ・鹿島。
 中衛にはロアンナ・鳳、後衛には希明・幸臼という布陣だ。
 対するタロス達は漆黒の隊長機を先頭に、真っ向から立ち塞がる。

「‥‥! まさか‥‥!」

 その隊長機の構えを見て、ティーダが驚愕する。
――それは、かつて自分が幾度も対峙した男と同じものだった。

「やはり‥‥『彼』でしょうか‥‥?」
「――いや、違うな」

 ティーダが傍らのリディスに問いかけると、彼女は即座にそれを否定した。

「もし本当に『奴』ならば、身に纏う覇気はこんなものでは無い」
「‥‥それを聞いて安心しました」

 SESエンハンサーを起動したFrauが全身から燐光を放ち、リディスのアッシュグレイのディスタンがセトナクトを構えて前進する。

「――行きますっ!!」

 そして放たれるティーダのプラズマライフル――それが合図となり、激しい戦いが幕を開けた。



 まず激突したのは、リディス機と隊長機であった。
 彼女のスラスターライフル、そして中衛、後衛からの弾幕が殺到するが、隊長機はそれを滑らかな動きで掻い潜り、刀を振る。

――ギンッ!! ギンッ!! ギィンッ!!

 三筋の剣閃がハイディフェンダーの肉厚な刀身に阻まれる――そのどれもが鋭く、そして重い。
 それはカスタム化されたリディスのディスタンが、僅かに後退するほどだ。

「――足が止まってるぜ、大将さんよ!!」

 隊長機が追い縋る前に、後方から放たれた希明のスナイパーライフルD−02が胸の装甲を砕く。
 弾着の衝撃でたたらを踏む隊長機――そこへ更に側面から回り込んだティーダのプラズマライフルが装甲の下を焼いた。

――大きく抉られたその傷口は、見る見る内に修復されていく。

 時間にして二十秒ほど――タロスの損傷は殆ど塞がっていた。
 事前に情報は掴んでいたとはいえ、その衝撃は傭兵達を動揺させるには十分すぎた。
――思わず足を止め、恐怖に体が凍りつきそうになる。

「‥‥はっはっは! 確かにコイツァ最悪だ、絶望的だぜ!」

 だが、そんな中で一人希明だけが高らかに笑い声を上げた。

「――だがよ! コイツを破壊できたら、相手に取っちゃもっと最悪だろうなぁ!
 そう思うと、スゲェワクワクするじゃねぇか!」

 その言葉に、全員がハッと顔を上げる。

――確かに、希明の言う通りだ。

 これほどに兵士に絶望を与える兵器ならば、それが撃破出来た時の昂揚は如何ばかりか?
 それに、このような絶望など自分達は――人類は幾度も経験してきた筈だ。
 HW、TW、EQ、シェイド、ステアー、ラインホールド‥‥数え挙げればキリが無い。
 今更一つぐらい増えた所で――何だというのだ!?

「やるべき事はそう変わらん。そこさえ見失わなければ、どうとでもな‥‥!」

 不敵に微笑みながら、鹿島はスラスターライフルとM−12強化帯電粒子加速砲の弾幕を撒き散らす。
 その勇壮な光は、希明の言葉と共に傭兵達の心の闇を蹴散らした。


「厄介な能力だね‥‥一気に畳み掛けさせて貰うよ」

 鳳はアズラエルを素早く踏み込ませると、手近なタロスに向かって照準を合わせ、ツングースカとスラスターライフルの引き金を同時に引いた。
 雷鳴のような爆音が絶え間無く響き渡り、タロスの装甲がグズグズに砕け、中の生体部品から血とオイルの合いの子のような液体が吹き出す。
 その傷はすぐに塞がっていくが、鳳の鋭い目はある一定以上の損傷ならば一気に再生出来ない、という事を見抜いていた。
 その情報はすかさず全員に伝えられる。

「再生が追いつかない速度で徹底的にぶっ壊す‥‥ってのもシンプルでいいな!!」

 希明機からパニッシュメント・フォースを付与したフォールディングミサイルが放たれ、傷付いたタロスへと降り注いでいく。
 再生してもすぐに損傷を与えられてしまい、タロスは次第に消耗していった。
 そしてとうとうエネルギーが切れたのか、再生が止まった所に鳳のアズラエルが走輪走行で死角から接近する。
 タロスは咄嗟にハルバードを突き出すが、アズラエルのマントのような装甲に阻まれ、受け流される。

「黒翼展開‥‥舞えアズラエル!!」

――バサァッ!!

 マントのような装甲が羽ばたくように広がったと思うと、それは剣翼となってタロスの脇腹を大きく切り裂いた。

――これこそ鳳が設計した剣翼装甲「黒翼」だ。

 不意を突かれたタロスがグラリと傾ぐ。
 その体勢が整う前に振るわれた練機刀「月光」が、その首を跳ね飛ばしていた。



 鹿島のモーニング・スパローが手にした粒子加速砲から放たれた光の奔流が、なぎ払うかのように放たれる。
 しかし、タロスはそれを跳躍して避ける。

「――甘い」

 鹿島はそれを見定めると、すかさずスラスターライフルの照準を合わせた。
 空中に跳べば、如何に慣性制御があるとはいえ動きは一瞬止まる――筈だった。

「何っ!?」

 鹿島が驚愕の声を上げる。
 タロスは空中で加速してスラスターライフルの弾幕をかわすと、その勢いのまま鹿島の頭上を通り過ぎていった。
――最早それは跳躍というレベルでは無い。

「‥‥タイムラグ無しで飛行を!?」

 タロスは変形せずとも空を飛んで見せたのだ。
 そしてタロスは急降下する――その先には、ロアンナのアルナがいた。

「くっ‥‥」

 予想もしていなかった方向からの攻撃に、ロアンナの対応が一瞬遅れる。
 咄嗟にR−P1マシンガンを放つが、タロスを止めるには至らない。

――メキャッ!!

 ハルバードの斧頭は、大般若長兼を掻い潜り、マシンガンを持った左腕を両断した。
 大きくバランスを崩したアルナの傍に舞い降りたタロスは、更にプロトン砲を放つ。

「舐めないで‥‥下さい!!」

 だが、ロアンナは試作型ACEを発動してそれを凌ぐと、大きく踏み出してタロスの懐に潜り込んだ。
 そして思い切り拳を突き出す――狙うのは鹿島の攻撃で削られた装甲の隙間。

「――鉄拳制裁です!!」

――ドガガガガガガッ!!

 ロアンナの叫びに呼応して、腕に装備された砲身から拳の形をした弾丸が連続で放たれる。
 文字通り拳の雨を受けたタロスの装甲は抉り取られていき、ヌメリとした生体部分が晒された。

「皆さん‥‥大きいの撃ちこみますぅ! 射線を‥‥開けてくださぃ!」

 通信機から聞こえてきた叫びに呼応して、ロアンナと鹿島が身を引くと、その数瞬後に帯電粒子加速砲の光が切り裂くように飛来した。
 なぎ払うように放たれた光は、生体部分を直撃し、焼く。
 それを成したのは、後衛にいた幸臼のシュテルンであった。

「次は‥‥これをくらうのですぅ! ‥‥粒子加速砲とどっちが‥‥効果ありますかねぇ」

 今度はPRMシステムで火力を上げた長距離砲「アグニ」が火を吹き、再びタロスの機体を大きく揺らした。
 違いが分かるように違う場所に付けられた二つの傷は、同時に、そして殆ど変わらない速度で塞がっていった。

「‥‥どうやら、知覚も物理も、どっちも同じみたいですねぇ‥‥装甲も壊れたまんまですぅ‥‥」
「――再生するためのコア等も見当たりませんね」

 その様子を注視していた幸臼とロアンナは、タロスの再生能力をしっかりと見極める。

「強化FFが再生となっただけ‥‥単にしぶといだけだ。なら、着実に潰すのみ!!」

――能力が分かれば大した事では無い。
 鹿島は自らを奮い立たせるように叫ぶと、両の手に構えた砲身をタロス達目掛けて構え、再び引き金を引いた。



 傭兵達はタロスの再生に限界がある事を利用して、一機ずつ、着実に潰していく。

「はああああっ!!」

 タロスの刀とシャーリィのアヴァルのヒートディフェンダーが噛み合い、両者はギリギリと鍔迫り合いを繰り広げる。
 パワーはタロスの方が上で、ジワジワと押され始めるシャーリィだが、一瞬の隙を衝いて手首を捻り、ヒートディフェンダーを敵の刀身を絡めるように回転させる。

――鍔元で加えられた横からの力によって、剣先は大きな円を描き、強い遠心力を生む。

 軽い金属音――刀はタロスの手を離れ、宙に跳ね飛ばされていた。

「カートリッジフルロード‥‥喰らえ、これが私の‥‥全力だっ!!」

――斬っ!! 

――ジャコッ!!

――斬っ!!

――ジャコッ!!

――斬っ!!

――ジャコッ!!

 切る度に、刀身を熱したカートリッジが吐き出される。
 装甲を溶かされ、生体部分を焼かれ、ボロボロになったタロス目掛けて止めを刺さんとしたシャーリィだが、すかさず機体に制動をかける。
 アヴァルの脇を通り過ぎるプロトン砲――それは勢い余って傷付いたタロスに直撃し、破壊した。
――味方を誤射した事で、戸惑うように動きを止めるもう一機のタロス。

「‥‥ぼうっとしてると、危ないですよ?」

 くすり、とシャーリィが微笑む。
 だが、タロスはその意味を理解する事は出来なかった。
――次の瞬間、その胴体を横手から突き出されたリディス機のセトナクトが貫いていたから。


「――はぁっ!!」

 ティーダのFrauのプラズマライフルを掻い潜ってきたタロスは、抜き放たれた練剣「雪村」によって装甲ごと真っ二つに切り裂かれた。
 「烈光の女神」の異名の元となったその光の剣は、再生する暇など与える事無く巨人を屠る程に強力だ。
 その傍らでは、リディスが隊長機相手に奮戦していた。
 隊長機は時に宙を走り、三次元的な動きでリディスを翻弄する。

――ギィンッ!!

「くっ!!」

 空中から振るわれた刀は、落下の勢いも乗せており、非常に重い。
 隊長機自体の動きも、他のタロスとは一線を画しており、中々に手強い。

「――だが‥‥それだけだ」

 着地ざまに放たれたプロトン砲を難なく避けると、リディスは溜息を吐いた。
――その動きは、かつて彼女が愛し、今は倒すと誓った男の動きをなぞる物。
 だが、それは所詮AIによるまやかしの動きであり、『彼』には遠く及ばない。

「――悪いが、終わらせるぞ」

 そう呟いた瞬間、リディスから今までとは比べ物にならないほどの鬼気が迸る。
 常人ならば視認出来ない程の踏み込みと同時に振るわれたセトナクトの一撃は、受け止めようとした刀ごと腕を叩き切る。
 跳び退って構えようとしたプロトン砲はアハトアハトによって潰された。
 武装を失った隊長機は、背を向けて飛び上がる。
 だが、逃げようとしたその背中に合わせられる照準。

「器だけでは‥‥私達には勝てませんよ?」

 ティーダはそう呟くと、隊長機目掛けて粒子加速砲の引き鉄を引く。
 SESエンハンサーで強化された砲撃は安々と機体を貫き、空中に爆炎の華が割いた。


「あのゴーレム――タロスって言いましたっけ?‥‥多少でも解析出来れば良いのですがぁ」

 白煙を上げるタロスの残骸を見下ろしながら、幸臼が心配そうに眉を寄せる。
 この強敵が量産されている事実を見ると、世界中の戦場で投入されていてもおかしくない。
 少しでも役に立てば‥‥そう思いながら、幸臼はタロスの破片を出来る限り回収して回る。

(「あまりにも簡単に撤退しようとした‥‥まさか、データ収集が目的か?」)

 最後に見せた敵の動き――それを思い出して、リディスは言いようも無い不安を覚える。


――ゾクリ


 急に背中に悪寒を感じて振り返る。
 が、そこには何も無い‥‥しかし、その悪寒はいつまでも彼女の背に残っていた。



「――ふむ、やはりAI如きでは相手にならんか。
 流石は傭兵‥‥と言った所か」

 部下から集められたデータを見ながら、サイラスは満足そうに頷いた。
 そして背後のドックに置かれた漆黒のタロスに振り向くと、満足そうな笑みを浮かべた。

「‥‥だが、性能は申し分無い。これならば、我の動きにも着いて来れるだろう」

 最早彼の武は、ゴーレムでは再現出来ない高みにあった。
 今回の新兵器の開発は、正しく渡りに船だったのだ。

「――楽しみだ」

 暗闇の中で、修羅はただ新たな闘争を求めていた。