タイトル:【御剣】救出せよ!!マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/16 23:45

●オープニング本文


 欧州ロシア戦線――短い夏が終わり、再び極寒の中に閉じ込められようとしている地。
 その大地の上で、今日も激しい戦闘が繰り広げられていた。
 「交差日本刀(クロスサムライソード)」のエンブレムを付けた十四機のKVを率いるのは、各所が赤くカラーリングされた紫紺の機体――GFA−01S シラヌイS型。
 満を持して発表されたGFA−01 シラヌイ、その指揮官専用機である。

「右翼、左翼は展開した後一斉発射!! その後正面から奴らを押し潰すぞ!!」
『――了!!』

 号令と共に、中央の敵を斜めに押し包むように展開したKV達が、一斉に砲門を開き、射線上のゴーレムとタートルワーム、キメラらを消耗させていく。

「中央抜刀!! 近接戦闘で刈り取れ!!」
『――了!!』

 そして消耗した敵目掛けて、正面から四機のKVが飛び出した。
 先頭を行くはシラヌイS型。それに追従するのは三機の通常型シラヌイだ。

「遅い!!」

 シラヌイS型がBCアクスでタートルワームを屠ると、横手から飛び出してきたゴーレムの剣をディフェンダーで受け止める。
 だがその間に接近したシラヌイの内の一機がレーザーとガトリングで頭部を破壊すると、もう一機が接近して止めを刺した。
 後ろに控えていたシラヌイは弱っている敵を見定めると、スナイパーライフルの狙撃で確実に屠っていく。

 数分後、その場にいた全ての敵機動部隊は四機のシラヌイの活躍あって、全て殲滅されたのだった。



「――諸君ご苦労だった、帰還するぞ。索敵警戒は最後まで怠るな」
『了解!!』

 戦闘が終わり、偵察隊に指示を飛ばすと、エリシア・ライナルトはふう、と息を吐いた。
 そして自分の後ろに控える三人に向かって向き直る。

「君達もご苦労だったな。どうだ、新型の乗り心地は?」
『――かなり優秀な機体ですね。初めての実戦なのに、まるで手足みたいに動かせます』
『まぁ、汎用機の名に恥じないモノなのは確かっスね』

 モニターに映るのは、『御剣』隊の中でもエリシアに次いで経験が豊富で、高い錬度を誇る二人であった。
 軍曹と伍長‥‥いや、昇進した今では『曹長』と『軍曹』である。
 正式配備されたのに先立ち、UPC欧州軍の上層部はシラヌイの詳細な戦闘データの収集に乗り出そうとしていた。
 元々、この機体は傭兵達による戦闘データのフィードバックによって生まれた機体。
 今後のKV開発にそれを応用する意味で、少しでも多くのデータを集めておきたいというのが、彼らの本音であった。

 ――今回、そのテストケースとして『御剣』隊に白羽の矢が立ったのだった。

『だけど、私なんかが乗っていい機体じゃないと思うんですけど‥‥』

 モニターに映るもう一人‥‥かつては岩龍に搭乗していた女性兵士だ。
 その襟元には「伍長」の階級章が光っている。
 彼女も曹長と軍曹に次ぐ古参兵の一人だが、偵察隊からの突然の抜擢に戸惑っているようだ。

「――馬鹿者。これは将来的には主力足り得る機体。その内本格的な配備が進む可能性もある。
 運用方法や機体の癖を把握するためにも、一人でも多くの搭乗経験者が必要なのだ」
『は、はい!!』

 しゃちほこばる伍長にふっ、と微笑むとエリシアはからかうように口の端を吊り上げた。

「‥‥まぁ、君の場合、数合わせには丁度いいというのも勿論あったのだがな」
『ひ、酷いですよ大尉っ!!』
『ひゃはっはっは、確かにおめぇには勿体無い機体だよコイツは。なぁ軍曹?』
『い、いや、僕はノーコメントで‥‥』
『ちょっと軍曹!! どーいう意味‥‥っ何これ‥‥警報!?』

 ――その時、四人のコクピットに敵機接近を告げる警報が鳴り響いた。
 続けて偵察部隊の新兵から通信が入る――その声は逼迫したものであった。

『た、隊長!! 北東より敵機多数が接近しています!!』
「何っ――!?」

 その報告にエリシアは驚愕する。
 事前の情報では、その方角に展開する敵部隊は存在しなかった筈だ。

『馬鹿野郎!! 敵がいなくても索敵警戒は怠るなっていつも言ってんだろうが!!』
「――止せ曹長。味方の情報を過信しすぎた私のミスだ。
 敵の詳細な数は分かるか?」

 偵察隊に向かって怒鳴る曹長を抑え、エリシアは落ち着かせるように新兵に問う。
 それでようやく落ち着いたのか、新兵は息を整えるように報告し始めた。

『は、はい――ゴーレム4機、レックスキャノン4機、HWが4機の合計12機です!!』
「そうか‥‥伍長、我々の損耗率はどうなっている?」
「――はい、全機が健在ですが十四機中六機が五割を超える損傷を負い、燃料も六割ほどに減少しています。
 そして私達の兵装は殆どが陸戦仕様、加えて私達を除く全員が経験も浅い新兵ばかりである事も考えると、このままの戦闘突入は危険です」

 先ほどの少女のような振る舞いが信じられない程冷静に、伍長が状況報告と同時に意見を具申する。
 それは彼女が数々の修羅場を潜り抜けてきた事を示していた。

「曹長、軍曹、君達の意見はどうだ?」
『――撤退しやしょう。下手すると何人か死にますぜ』
『ですが、放っておくのは少し危険な数です。殿が必要だと思います』

 彼らの意見と、周囲の状況、そして新兵達のコンディションを加味し、エリシアは判断を下した。

「私と曹長、軍曹、伍長が殿となって奴らを食い止める!! その間に新兵達は順次撤退しろ!!」
『――そんな隊長!! 俺達もまだやれますっ!!』
『隊長達を置いていけませんっ!!』

 エリシアの言葉に新兵達は色めき立ち、損傷率の低い者達を筆頭に首を振る。
 だが、その彼らを軍曹が制した。

『――駄目だ撤退しろ!! この数ではお前達を守りながら戦う余裕は無い!!』
『ですがっ!!』
『戦場での命令不服従は重罪だぞっ!!』
『‥‥了解っ!! 撤退しますっ!!』

 悔しげに唇を噛んだ新兵達は、次々と撤退していく。
 そして彼が全て飛び立つと同時に、戦列を組んだ敵影が姿を現した。
 だが、自分達の三倍以上の敵の群れを見ても、エリシア達に悲壮感は無い。

『‥‥「戦場での命令不服従は重罪だぞっ!!」‥‥か、おめぇも言うようになったな?』
『確かに、つい最近まで泣きべそかいてた人とは思えない台詞ですよね軍曹?』
『か、からかわないで下さい』
「無駄口はそこまでだ――来るぞっ!!
 方陣を敷いたまま後退しつつ応戦する!! 背中を決して取られるな!!」
『――了!!』



 その数分後、撤退中の『御剣』隊からの緊急通信を受けて、最寄の基地より傭兵達のKVがエリシアらを救出せんがため飛び立っていった。

●参加者一覧

ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP
ロアンナ・デュヴェリ(gb4295
17歳・♀・FC

●リプレイ本文

――ロシアの前線基地に、警報が響き渡る。
 滑走路には、【御剣】隊のメンバーを助けんがため、八人の能力者たちがスクランブル態勢に入っていた。

「殿をそのまま見殺しなんて後味が悪すぎる。
 ‥‥未帰還機は0にしたいものだな」

 愛機であるディスタンのエンジンに火を点しながら、水円・一(gb0495)が一言呟く。

「少々梃子摺りそうですが‥‥何とか持ち堪えてみせますよ。
 同じシラヌイ乗り同士、必ず守ってみせます」

 ロアンナ・デュヴェリ(gb4295)は真新しいシラヌイのシートの感触を確かめる。
 前線で戦っているという四人の乗機もまた、シラヌイだ。

「さて、開発に関わった一人として簡単に落とさせる訳にはいかんな‥‥発進する!!」

 シュテルン「リゲル」を駆るセージ(ga3997)を先頭に、同じくシュテルン「フレイア」、「ブラックバード」に乗るソード(ga6675)、紅 アリカ(ga8708)がそれに続く。

「――間に合えばいいんですが‥‥」
「大丈夫です。大尉達が、そう簡単にやられるとは思えません」

 不安げなソードに対して、アリカがはっきりとした声で答える。
 そこには【御剣】と、それを率いるエリシアに対する高い信頼が伺えた。

「ロシア、ですか。最近は縁が深いようですね」

 ディアブロのコクピットから眼下に広がる凍った大地を見下ろしながら、斑鳩・八雲(ga8672)が呟く。
――その時、傭兵達の無線に通信が入った。
 戦場から撤退してきた【御剣】の新兵たちだ。

『――傭兵の皆さん‥‥隊長達をお願いします!!』
「まかせろ!!」

 モニターに映し出される不安げな顔の新兵達に向けて、雷電に乗るブレイズ・カーディナル(ga1851)は親指を立ててそれに応える。

(それに、あの人達に何かあったら隊長に酷い目に合わされるかも‥‥)

 内心で呟くブレイズ。
 頼りになるが厳しい女性隊長を思えば、必死にもなるというものだ。

「では皆さん、行きましょう!!」

 井出 一真(ga6977)は仲間達に呼び掛けると、ブーストをかけてスカイブルーの阿修羅を前進させる。
 彼に続き、傭兵達はブーストを吹かして目標地点へと急いだ。



 砲弾が着弾し、針葉樹がメキメキと倒れていく。
 それを避けるように、四機のシラヌイが木々の合間を縫って駆け抜けた。
 それを追いかけるのは、ゴーレム、レックスワーム、ヘルメットワームの編隊だ。

「――隊長。燃料が残り五割を切りました」

 スナイパーライフルで牽制しながら、伍長がエリシアに対して報告する。
 どんな状況下であっても常に冷静を保っていた彼女の声にも、僅かに焦りの色が見える。

「そろそろ、山岳地帯に入ります!! 走輪で逃げるのもそろそろ限界です!!」
「‥‥確かに、そろそろまず――っ!? 散れっ!!」

 エリシアの目が見開かれる。
 視線の先には、こちらに急降下してくるHWの姿があった。
 素早く散開する四人――次の瞬間、彼らのいた場所に光条が突き刺さる。
 雪煙が上がり、視界が遮られる中、今度はRCの肩に積まれたプロトン砲が炸裂した。

「――うおっ!!」

 エリシアと軍曹、伍長は辛うじて回避したが、曹長機の左腕が、盾ごと吹き飛ばされた。
 そして、雪煙を切り裂くように、今度はゴーレムが距離を詰める。

「‥‥舐めるなぁっ!!」

 曹長は一声叫ぶと、機錬刀「月光」を振るう。
 それは度重なる牽制によって傷ついていた装甲を易々と切り裂き、深々とゴーレムの胸に突き立った。
 ズゥンッ!! と地響きを立てて動かなくなるゴーレム。

「――はっ!! ザマァ見やがれ!!」

 快哉を叫ぶ曹長だったが、状況は好転していない。
 燃料は残り少なく、各機の損傷もかなり大きい。
――しかも一瞬動きを止められた事で、完全に囲まれてしまった。

(「覚悟を決めるか‥‥?」)

――このままジワジワと嬲られるよりは、一か八か全力で突破を試みよう。

 心を決め、BCアクスを構えたエリシア機のレーダーに反応があった。
 と、同時に光の帯が敵とエリシア達の間を切り裂いた――アハトアハトの一撃だ。
 それを見たエリシアは武器を構えていた部下達を押し留める。

「――待て、どうやら騎兵隊のご到着のようだ」

 にやり、と笑みを浮かべるエリシア。

『こちらは新兵達の要請でLHから来た傭兵だ。一旦引いて態勢を立て直せ!
 ――いい部下を持ったな大尉』
「お褒めに預かり光栄だ。感謝する!!」

 その頭上を、蒼穹を切り裂くが如く八機のKVが飛来した。



「空は俺達に任せてもらおう。足元を頼むぞ!!」
「了解!! これより降下、戦闘を開始します。お手数ですが援護をお願いします」

 先程の通信に続けて、ソードが仲間達に呼び掛け、続けて井出が地上の御剣隊へと通信を送る。

『了解した。傭兵達の降下支援を行う――彼らに一片でも傷を付けたら懲罰ものと思え!!』
『――了!!』

 速度と高度を落としていく傭兵達目掛けて、RCとゴーレム達が一斉に照準を合わせるが、させじとエリシア達の一斉射撃が降り注いだ。
 その甲斐もあり、傭兵達は文字通り無傷での降下に成功する。

「他は無事帰還した。後はあなた方だけだ」
「そうか‥‥」

 水円がヒートディフェンダーを構えながら、新兵達の無事を伝える。
 エリシア達の眼は敵に向けられていたが、その口元が緩む。

「――それじゃあ、支援を頼むぜ!!」

 ブレイズがスレッジハンマーと盾を構えて前進する。
――彼女達の損傷が激しく、前に出られないのならば、自分達が前に出て盾になればいい。
 そして、ブレイズは敵の攻撃を全て受けきる自信があった。

「さて‥‥仕事とはいえ、厄介な相手です。どこまで足掻けたものですか、ね」
「あら? 足掻くのはむしろあちらの方だと思いますけど?」

 機体の足をドリルに変じさせた斑鳩の呟きに、ロアンナがR−P1マシンガンを構えながらおどけてみせる。

「‥‥ふふ、違いないですね」

 こちらに迫るゴーレムに向かってバルカンを吐き出しながら、斑鳩は駆けた。



「さて‥‥お前達、ここを楽に通れると思うなよ?」

 一方、空の上ではセージ、ソード、アリカ達のシュテルンと、四機のHWが対峙していた。
 HWは接近する彼らの姿を見るや、プロトン砲を放とうとするが、傭兵達の行動の方が遥かに早い。
 先頭を飛んでいたソードが前に進み出ると、モニター上のHWを見据える。

「兵装1、2、3発射準備完了。PRMをAモードで起動。
 マルチロックオン開始、ブースト作動」

――ピピピピ‥‥。

 電子音と共に、HWのマーカーが赤く染まる。

「ロックオン、全て完了!」

 HWは知る由も無い。
 自分の前を飛ぶKVが、『地獄の軍勢(レギオン)』を打ち倒す『女神(フレイア)』である事を。

「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」

 気合と共に引き鉄が引かれると、フレイアの全砲門が開放される。


――ゴバババババァッ!!


 凄まじい轟音と共に、三基のK−02ミサイルが一斉に発射された。
 PRMシステムのエネルギーを全て火力に廻し、強化された計2000発もの弾頭は、狙い違わずHWへと殺到する。
 着弾――そして爆炎。
 激しい気流が巻き起こり、三機のシュテルンを大きく揺らす

「‥‥壮観だな」
「――ええ」

 想像を絶する光景に、セージとアリカは思わず呆然としながら呟いた。

――そして煙が晴れると、そこにはボロ雑巾のように息絶え絶えな三機のHWの姿。

 一機は、破片も残さず吹き飛んだようだ。
 一気に勝負を決めるため、セージのリゲルとアリカのブラックバードがHWへと躍り掛かる。

「そっちばっかに気を取られてると痛い目見るぞ?」

 セージのAAMが火を吹く。
 HWは避けようとするものの、レギオンバスターを受けた機体では満足に動けない。
 まともに一撃を受け、更に突撃仕様ガトリングを受けて、HWは哀れにも蜂の巣と化した。

「‥‥ここから狙い撃つわ。穿ち、貫け!!」

 アリカはアハトアハトとスラスターライフルの弾幕を放つ。
 アハトアハトの光条はHW機体の中心を穿ち、スラスターライフルは圧倒的な弾幕で残る一体の機体を抉り、削り取って行く。

 空に咲く爆炎の華は三輪――接敵から約二十秒で、四機いたHWは破片も残らず全滅した。



 四体のRCによるプロトン砲の一斉発射が、ブレイズ機に次々と突き刺さる。

「――そんな豆鉄砲が利くかっ!!」

 だが光が消えた後には、盾と装甲を僅かに焦がしただけの無傷な機体が現れる。
 信じ難い事に、RCのプロトン砲を、ブレイズの雷電は全て耐え切っていた。
 そしてすかさず間合いを詰めると、手にしたスレッジハンマーを振るう。


――グボンッ!!


 オイルと体液を撒き散らし、RCの体が錐揉みしながら吹き飛んだ。
 途轍もない威力を持った一撃を前にしては、ワームの肉体は血と肉の詰まった袋に過ぎない。
 だが荒ぶる恐竜は怯む事無く、もう一体がブレイズ機に牙と爪を突きたてようと迫る。
 それに対して、ブレイズは盾に装備された3mほどの杭――メトロニウムステークを打ち出し、突き刺す。

「叩き潰すだけがハンマーの使い方じゃないって事だ!!」

 再び振るわれたハンマーは、ステークを正確に打ち抜いた。
 まるで楔のよう杭を打ち込まれたRCは堪らず悶絶する。

「SESフルドライブ、ソードウィング、アクティブ! 阿修羅の『牙』は鋭いぞ!!」

 その瞬間、蒼い風が走り抜けたかと思うと、RCの首が宙を舞った。
――井出の阿修羅による、ソードウィングの斬撃だ。
 すかさず身を翻し、スラスターライフルを放ちながら手近な一体へと飛び掛る。
 RCは体色を変え、防御重視のフィールドを張って弾幕を耐える。

「サンダーテイル、ドライブ!!」

 だが、それを見届けるだけの井出では無い。
 すかさず阿修羅の尾に取り付けられたサンダーテイルを伸ばし、RCに絡みつかせる。

――紫電が撒き散らされ、RCが高圧電流に悶えた。

 それは数秒の事であったが、その間に井出は間合いをゼロにする。

「いけえええっ!!」

 再び剣翼が翻り、すれ違い様に胴を深々と横一文字に切り裂く。
 『虎に翼』という喩えがあるが、井出の阿修羅は正しくそれを体現していた。



 そして残る一体を相手取るのは、水円のディスタン。
 放たれるプロトン砲を避け、襲い掛かる牙と爪をアクセル・コーティングで受け止めながら、水円は怯まずに果敢に攻め立てていく。
 熱を帯びるヒートディフェンダーと、高圧電流を帯びるGFソードをそれぞれ片手に持って振りかぶる。
 RCが物理攻撃を遮るコーティングを纏えば、ヒートディフェンダーが肉を焼き、その逆ならばGFソードの電撃と、変幻自在に使い分け、息を吐く暇さえ与えない。

「――俺達は今此処での最善を尽くすだけだ」

 レックスワームが細切れとなって動きをとめるその瞬間まで、水円はただひたすら冷静に、自らの役割を果たして見せた。



「――目標ゴーレム前衛!! てぇーっ!!」

 エリシアの号令の下、後方に下がった御剣隊から援護射撃が飛ぶ。
 命中率よりも、敵の動きを遮るような絶妙な弾幕。
 動きが止まったゴーレム目掛けて、ロアンナのシラヌイがマシンガンを放ちながら接近する。
 迎え撃つように振るわれた剣を、超伝導アクチュエータを使ってかわす。

「食らいなさいっ!!」

 続けて振るわれた太刀の一閃は、ゴーレムの首を跳ね飛ばした。
 だが、快哉を上げる前にロアンナ機は側面から衝撃を受けて地面に倒れる。

「きゃっ!!」

 横手から接近したゴーレムのショルダーキャノンの直撃だ。
 更にゴーレムは急速に踏み込みながら、倒れたロアンナ目掛けて剣を振り上げる。

「ロアンナさん!!」

 その前に斑鳩のディアブロが立ち塞がり、ライトディフェンダーで剣を受け止めた。
 ギリギリと鍔迫り合いになり、暫しの拮抗。

「‥‥ふっ――!!」

 浅く息を吐くと、斑鳩は機体と腕を引く。
 急に支えを失いたたらを踏むゴーレム目掛けて、足から伸びたレッグドリルが胴を深々と抉る。
 斑鳩は体勢を崩したゴーレム目掛けて踏み込み、真っ向からのディフェンダーの一撃で止めを刺した。



 残る二機の背後に、HWを排除した三人が舞い降りる。
 アリカはすかさず機体を「ブラックナイト」へと変形させ、手近なゴーレムへと迫る。

「‥‥どんな相手であろうと、私の刃からは逃がさない。
 その剣ごと、三枚に下ろしてあげるわ!」

 気合と共にゴーレムに迫ると、ハイ・ディフェンダーを振るって果敢に打ち込んで行く。

――ガンッ!! ガン!! ガンッ!!

 刃が噛み合い、装甲に食い込み、火花が上がり、ジリジリとゴーレムが後退する。
 だが、アリカのブラックナイトは決して下がらない。
 ただひたすら前進し、敵を追い込んで行く。

――最後に振るわれた錬剣「羅真人」は、彼女の宣言どおり、受け止めようとした剣ごとゴーレムを真っ向から両断した。



「俺をただの近接馬鹿と舐めるなよ!?」

 セージのリゲルが放つ対戦車砲の弾幕に曝され、ゴーレムは満足に動く事が出来ない。
 その援護の下、ソードが駆ける。

「では、こいつを試させて頂きましょう」

――その手には12枚の翼を生やした女神を模した剣があった。
 12枚の翼の内の二枚は刀身を成し、まるで工芸品のような美しさを醸し出している。
 試作型女神剣「フレイア」――ソード自身が設計した武器だ。
 美しい刀身が突き刺さると、刀身が眩く輝き始めた。

「――浄化っ!!」

――気合一閃!!
 メキメキとゴーレムを切り裂いた刀身が、煌めく残像を描いた。



 そして、動く敵がいない事を確認すると、アリカはエリシアに向かって向き直った。

「‥‥お久しぶりですエリシア大尉、それに御剣隊の皆さん。
 ご無事で何よりです」
「――ああ、息災なようで何よりだよアリカ。
 そして、ありがとう傭兵諸君。君達のおかげで我々は命を拾う事が出来た」

 エリシアと曹長、軍曹、伍長が、一斉に傭兵達に向かって敬礼する。
――能力者達は、互いの絆が更に深まるのを感じた。



 そして基地へと帰る途上、能力者達は談笑に興じていた。

「‥‥しかしよぉ、アレはねぇよ‥‥アレ一基で俺の年収の殆どが軽く吹き飛ぶんだぜ?」

 軍曹が不機嫌そうに零すのは、ソードのレギオンバスターを見たせいだ。
 僻みとも言えるその言葉に、ソードは苦笑するしか無い。

「シラヌイ、ですか。良い機体のようですね」
「ああ、この機体でなければ、あそこまで長時間もたなかっただろう」
「そう言ってくれると、開発に携わった一人としては鼻が高いな」

 斑鳩とエリシアがシラヌイの話をしていると、自慢気にセージが合いの手を入れる。
 戦場帰りとは思えないほど、和やかな光景だ。

(「‥‥またこんな風に話せる時間が出来て、本当に良かった」)
「――む? 何か言ったかアリカ?」

 アリカの小さな呟きに、エリシアが首を傾げる。

「‥‥何でもありません」

 何処か嬉しそうに目を細めながら、アリカはくすりと笑った。