タイトル:【Woi】韋駄天疾駆マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/25 00:28

●オープニング本文


●ラスト・ホープ島。UPC本部、最上階。(ロス時間、6:00)
「最高首脳会議からの提案は、やはり変わりませんか」
「‥‥ふだんはお飾りだが、どうにも自分たちの生存のチャンスであればなりふり構う余裕もないらしい。我々UPC軍各国首脳の下部組織だ。残念ながら決定は変わらない」
 四方を窓のない壁に囲まれた暗室において、UPC特殊作戦軍の長であるブラッドが褐色の肌の男と向き合っていた。
 作戦内容を説明するモニターの映像は、ふだんならジャミングの影響で乱れもしようが、窓の格子で動く蟲の触覚の僅かな動きすらも鮮明に映し出している。

「限られた領域、限られた時間、限られた戦力‥‥私は軍事については君ほど詳しくはないが、極めて難しい作戦になる程度のことはわかる。‥‥にもかかわらず君に多くを望まなければならない」
 褐色の肌を持つ男の指が僅かに動き、資料映像がピタリと止まる。ビルの屋上から望遠カメラで撮影されたその映像には、部屋の中で部品を組み立てる一人の男が映し出されていた。

「ただでさえ軍への不信感が高まっている昨今だ。故意は勿論、住民的被害は認めない。市街地での戦闘などもっての他‥‥どうかね、君はできるかね?
 『住民に事前通達なく、10時間以内にこのバグアをロスに被害を出さず抹殺し、尚且つステアーのパーツを無傷で奪う』ことが」
「作戦決行は只今より14時間後、一斉におこないます。吉報をお待ちください」

 ブラッドは人工分布図帯付のロスの地図に描かれた複数箇所の印を見据えながら、静かに言葉を紡いだのであった。



 ロサンゼルスに通じるハイウェイにて、激しいカーチェイスが繰り広げられていた。
 追われるのは黒塗りの装甲車、追うのはUPCと、それに協力する傭兵達の車両だ。

「――急げ!! 何としても奴らを!!」

 UPCの装甲車から放たれた機銃の弾幕が、装甲車のタイヤの一つをグズグズにする。
 一瞬大きく挙動を乱した装甲車だったが、体勢を立て直すと、尚もロサンゼルスに向けて走り出す。
 ――だが、タイヤの一つを失った装甲車のスピードは、明らかに遅くなっていた。

「チャンスだ!! 追い込むぞ!!」

 兵士達、そして傭兵達は更にアクセルを踏み込んで装甲車を追い詰めにかかる。



『――隊長殿、このままでは捕捉されます。如何致しましょう?』

 装甲車の中、異形の姿をした男が同じく異質の言葉を発する――それは、バグア兵であった。
 隊長と呼ばれた男――サイラス・ウィンドは刀を手にし、立ち上がる。
 その足元には、厳重に封印された一抱えほどの物体が鎮座している。
 ――それは、まるで機械のようでありながら、生物のようでもある、不思議なぬめり、とした光沢を放っていた。
 これこそ先の大規模作戦で撃墜された、ステアーのパーツの一部であった。

「――我が足止めをする。貴様らはその間にロサンゼルスに逃げ込め。
 市街に逃げ込めば、奴らも派手な行動は取れまい」
『――了解』

 本来ならば、指揮官であるサイラスが出て行くような場面では無い。
 だが、部下達は当の昔に知っていた――彼が最も力を発揮する場所は、戦場の他に無いと。



 そして、とうとうUPCの車両が装甲車の横に取り付いた。
 再びタイヤに向けて機銃を放とうとした時、装甲車の横に取り付けられたハッチから黒尽くめの男――サイラスが姿を現した。

「――何だ!?」

 怪訝に思いながらも、機銃を男に向ける兵士――だが、照準をつけようとした瞬間、サイラスの姿が掻き消える。

 ――斬っ!!

 兵士は消えた男の姿を再確認出来ないまま機銃ごと真っ二つとなり、高速道路に叩き付けられながら消えていく。

「――上っ!?」

 運転手の兵士は咄嗟に車体を振って振り落とそうとハンドルを切るが、無駄な抵抗だ。
 揺れを物ともせずに屋根に取り付いたサイラスは、刀を足元に突き立て、運転手を頭から串刺しにする。

「――喝っ!!」

 裂帛の気合と共に刀が一閃されると、車両は真っ二つと化し、火花を散らしながら横転し爆散した。



「――UPCの車両が!?」
「糞っ‥‥だけど奴もこれで――」

 追ってはこれまい――そう言おうとした傭兵の一人は、「その光景」に思わず唖然とした。


 ――サイラスが追ってくる‥‥しかも、車両に匹敵する速さで「走りながら」。


「嘘‥‥でしょ?」
「化け物が‥‥!!」

 傭兵達は武器を構え、サイラスを撃退し、前を走る装甲車を追いかけるために行動を開始した。



「‥‥ふむ、流石に少々こたえるな」

 全力で地を駆けながらサイラスは一人呟く。
 強化されているとは言え、足がギシギシと軋むのが分かる。

「――だが、問題は無い‥‥ロサンゼルスまでなら――!!」

 ――韋駄天と化したサイラスは、更にスピードを上げて傭兵達の車両へと躍り掛かった。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
結城悠璃(gb6689
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

 切り裂かれた軍用車が火花を散らしながら横転し、遥か後方で爆炎を上げた。
 それをジーザリオのバックミラーで見届けながら、伊佐美 希明(ga0214)は舌打ちする。

「ちっ、功を焦る軍人は長生きしねぇな!」

 だが、その言葉とは裏腹に、伊佐美の顔は悔しげに歪み、拳がハンドルを叩く。

「けどこれであいつも‥‥着いて来れなければ良かったんですけどねぇ」

 爆炎と煙を切り裂くように現れたサイラスを目にした瞬間、瓜生 巴(ga5119)の表情はげんなりとしたものに変わった。
 ハイウェイの上を事も無げに走って追いかけてくるヨリシロの男の姿。

「何て速さだ‥‥このままだと追いつかれるのは時間の問題だな」

 眼鏡の奥の瞳を厳しそうに細めながら、緑川 安則(ga0157)は思わず舌打ちする。
 同じく、傍らのティーダ(ga7172)もサイラスの姿を見つめていた。
 ――一瞬の驚愕の後、その目には焼き尽くすような視線と殺気が入り混じった。

「‥‥、任務の遂行が最優先です」
「言われなくても分かってる‥‥よっ!!」

 それらの感情を押し殺し、ティーダは運転手の伊佐美に声を飛ばす。
 伊佐美はそれに答えてアクセルを更に踏み込んだ。
 彼らの役目――装甲車の制圧、そしてステアーのパーツ確保を果たすために。



「超人すぎて笑えてきますね彼は‥‥しかしそれくらいのほうが倒しがいもある、というものですか!」
「まったく‥‥。話には聞いてたけど、バグアってどこまで化け物じみているのよ!!」

 リディス(ga0022)操る車両に乗り込むファルル・キーリア(ga4815)は、彼女と共に迫り来る敵に思わず悪態を吐いていた。
 一方、結城悠璃(gb6689)は、初めて目にする男の姿を冷静に目に焼き付ける。

(「あれがサイゾウ‥‥いや、サイラス!!」)

 出来る事ならば『変わる』前に出会いたかった‥‥けれど、それはもう叶わぬ望みだ。
 宗太郎=シルエイト(ga4261)は真っ二つになった車両を見て、自らの苦い記憶を思い出していた。

(「‥‥嫌なモン、思い出しちまったな‥‥」)

 ――『ダチ』の背中、血飛沫‥‥何も出来なかった無力感。
 だが、今は違う。
 あの時とは違って自分は五体満足だし、何より強くなっているから。



「‥‥む?」

 走るサイラスの目の前に、車両の内の一つが遮るように滑り込む。

(「やはり、片方が抑えに来たか」)
 
 サイラスは敵の動きを見るや、すらりと刀を抜く。

 ――だが、幌を開けて姿を現した傭兵達を見て、サイラスの心は更に激しく燃え上がった。

 それは彼らが放つ一流の傭兵の闘志を感じ取った事もあるが、この『器』の記憶に鮮烈に残る姿を見つけたからであった。

「――ククッ、まさかここでも出会えるとはな‥‥シルエイト、そしてリディス!!」

 歯を剥き出しにして凶暴な笑みを浮かべるサイラスに対して、リディスも運転席から声を張り上げる。

「サイラス、まさかこんな形で鬼ごっこをすることになるとは思わなかったぞ!
 今しばらく私達に付き合ってもらおうか!」
「教えてやるよ。守りに入った俺は‥‥相当強いぜぇ!!」

 宗太郎もサイラスの声に応えると、巨大なガトリングシールドを構えて引き金を引いた。

「まずは様子見ね‥‥どういう風に反応してくるかしら?」

 同時にファルルがS−01を放つ。

「――笑止!!」

 対するサイラスはそれら全てを滑るようにかわすと、刀を矢継ぎ早に振るい、カマイタチ飛ばす。

 ――ギィンッ!!

 真空の刃は結城の持つエンジェルシールドによって受け止められる。
 凄まじい衝撃に顔を歪める結城だが、すぐにSMG「スコール」を打ち返した。

「実力の差は承知の上、打ち勝とう等とは思いません。
 でも‥‥倒れず粘る事ならば、不可能じゃないっ!!」

 その弾丸を刀で弾き飛ばすと、サイラスは不敵な笑みでそれに応える。

「その意気や良し‥‥存分に楽しむとしよう!!」



「しゃぁ、いっくぜぇ! あんまり喋んじゃねーぞ、舌ぁ噛むぜ!」
 伊佐美の叫びと同時に、強いGと共に車体がぐん、と前に進む。
 装甲車の銃撃用の小窓や上部のハッチが開き、そこから桃色の光条が閃く。
 それはバグア兵が使う光線銃――その威力は掠めただけで扉の表面を溶かす程に強力だ。
 だが、伊佐美は急ハンドルを切り、それ以上の車体への被害を最小限に抑える。

「左から接近して!!」

 冷静に状況を分析していた瓜生が伊佐美に指示を飛ばす。
 一人は運転手である以上、カバーする範囲には限界がある。
 瓜生はその隙を付いた。
 ジーザリオが左側に寄ると、一瞬だが敵の対応にタイムラグが生じた。

「今だ! 撃たせてもらうぞ!!」

 緑川が狙撃眼、強撃弾、影撃ち‥‥ありったけのスキルを発動させ、SMGの弾丸を放つ。
 タイヤに着弾した瞬間、通常ならばありえない勢いで装甲車のタイヤが削られていく。
 それは弾倉に込められた貫通弾の恩恵であった。

「貫通弾がいっぱいあるんでな。遠慮なく叩きこませてもらう!」

 瓜生もエネルギーガン、ティーダもSMGを放ち、エンジンとタイヤを攻撃していく。
 バグア兵も黙ってはおらず、光線銃を手に応戦する。
 虹色の光が緑川の肩を貫き、伊佐美の頬を焦がすが、ひるまずにすかさず反撃。


 ――バァンッ!!


 甲高い音を上げて左側に残るタイヤの一つが轟音と共に裂けた。

(「――今っ!!」)

 装甲車が大きくバランスを崩した隙に、素早くジーザリオの屋根に飛び乗ったティーダは、勢いをつけて跳ぶ。
 バランスを微塵も崩すこと無く、ティーダは装甲車の兵員室の上に降り立った。

『――マサカ、コレホド無謀ナ人間ガイルトハナ‥‥』
「お褒めの言葉として受け取っておきます」

 それを見たバグア兵の一人がハッチから飛び出し、対峙する。
 装甲車の兵員室の上で美しくも危険な演武が幕を開けた。



 ――ヒュガッ!!

「くっ!?」

 バックミラーがカマイタチで切り飛ばされる。
 その余波を受けたリディスの肩からも血が飛沫いた。
 これ以上徒に攻撃を受ける訳にはいかない。
 リディスはハンドルを切り、一瞬だけ見えた影目掛け、大まかな狙いをつけて射撃する。
 リディス自身当たるとは思っていない。一瞬だけでも体勢を崩す事が出来れば僥倖なのだ。

「貰った!!」
「ぬうっ!!」

 宗太郎のガトリングシールドの弾幕に曝されるサイラス。
 そこへ更にファルルのスキルの篭った貫通弾の一撃が見舞われ、足の肉が大きく抉られた。

「既に相当、無理してるんでしょ? 卑怯でも何でも構わないわ。」
「望む所――むしろ心が躍る!!」

 叫びと共に放たれる、一際巨大なカマイタチ。
 それを再び受け止めた結城のエンジェルシールドが弾かれ、勢い余った刃が結城の胸を切り裂いた。

「結城!! 大丈夫か!?」
「‥‥ええ、ですけどサイラスが――」
「徐々に距離が‥‥不味いわね」

 弾幕が途切れたため、サイラスの姿はもう触れる程に近づいている。
 それを見た宗太郎は覚悟を決め、すかさず彼本来の得物――エクスプロードを構えた。

 ――近づいているという事は、逆に考えれば確実に当たるという事。

 宗太郎はサイラスの目の前に仁王立ちになり、彼を見据える。

「受けやがれ『サムライ』!! 小細工無しの真っ向勝負だ!!」
「面白い!! 心ゆくまで楽しもうぞシルエイト!!」

 炎の槍と刀が幾度も、幾度も交差する。
 車上にあっても宗太郎の突きは鉄をも貫くが如く繰り出され、サイラスの斬撃は疾走の間にも関わらず目にも留まらぬ鋭さだ。

「宗太郎さん‥‥援護します!!」
「ここまで来てやらせるもんですか!!」

 宗太郎の背後からは結城とファルルの銃弾が降り注ぐ。
 サイラスは既に避けようともしない。その足は能力者たちの攻撃によって限界が訪れようとしていた。
 余計な回避を出来る程の余力など、最早彼には残っていない。

(「ならば、真っ向から押し潰せば良い――!!」)

 実にシンプルな思考だが、それこそがこのサイラスという名のバグアの戦い方なのだ。



「――死角になって撃てんか‥‥くっ!!」

 リディスは悔しげに唇を噛んだ――何も出来ない事が歯痒い。
 アクセルは既に全開、下手にハンドルを操ればサイラスに抜かれる可能性もある。
 リディスは、ただ仲間を信じて耐え続ける――それはある意味最も過酷な戦いであった。



 鋭いジャブがティーダの顔面目掛けて襲い掛かった。
 それらを受け、いなし、かわすが、それは彼女の目を上方に逸らすための囮であった。

 ――ズンッ!!

「うっ‥‥!!」

 ティーダの腹に突き刺さったのは、岩をも砕くかのような重いボディーブロー。
 ミシミシと肋が音を立て、痛みと呼吸困難で体がくの字に曲がる。

『終ワリダ――!!』

 下がった顔面目掛け、今度は突き上げるような鋭い膝蹴り。
 勢い良く跳ね上がったティーダの体は、二転三転しながら装甲車から落ち――

 ‥‥ガッ!!

 ――ようとした時、ティーダの手が辛うじて兵員室の縁を掴む。
 だが、ティーダの体は半ば空中に投げ出されており、何も出来ない状態であった。

「ティーダ!! 飛び移れっ!!」

 伊佐美が懸命に叫ぶが、バグア兵が歩み寄り、踵をティーダの手に踏み下ろす方が早い。
 ――その瞬間、ティーダの姿が掻き消える。

『何ッ!?』
「――油断しましたね」

 バグア兵が驚愕し、彼女の姿を探そうとする前に、その胸を虎の爪が貫いた。
 彼女はギリギリの所で足を装甲車の車体を蹴り、背後に回り込んだのだ。

『見事‥‥ダ‥‥』

 バグア兵の体から力が抜け、ハイウェイに叩きつけられながら消えていく。
 それを見届けると、ティーダは懐から閃光手榴弾を取り出してピンを抜き、暫く待ってから装甲車の中へと投げ入れた。



『馬鹿ナッ――!?』

 仲間の死に愕然とするバグア兵。

 ――我々がたかが人間一人にやられるなど‥‥。

 その思考は、頭上から落ちてきた黒い物体によって中断させられた。

『――ッ!!』

 それは既にピンを抜かれた閃光手榴弾。
 外に放り出そうと身を屈めた瞬間――つんざくような轟音と、凄まじい閃光が迸った。



「しつ‥‥けぇぞっ!!」
「――そう簡単には逃がすつもりは無い」

 宗太郎の全身は刀傷とそこから噴出した血に塗れ、サイラスの左肩にはエクスプロードによる穴が穿たれ、腕はだらりと力無く垂れ下がっている。
 そして、彼の片足は人間ならば再起不能になるほどにボロボロになっていた。
 ファルルと結城による狙撃の賜物だ。

(「頃合いか‥‥」)

 決着が近い事を察したサイラスは、宗太郎に向かって呟いた。

「‥‥終わらせるとしよう」
「――望む所だ‥‥来やがれっ!!」

 宗太郎は彼の意思を瞬時に理解し、身構える。

 ――サイラスが深く沈みこんだかと思うと、アスファルトを踏み砕いて天高く跳躍した。

『おおおおおおおっ!!』

 右腕の刀に全霊を込めた、渾身の唐竹割り。
 迎え撃つのは、穿光三式――ソニックブーム・紅蓮衝撃・スマッシュを同時発動した、紅を纏った螺旋の衝撃波。


 先に届いたのは、螺旋の衝撃波であった。


 サイラスの腹が抉れ、全身に鉛弾が突き刺さる。
 それでも尚、サイラスは刀を振るった。

「――チェストオオオオオオオオオッ!!」

 苛烈な斬撃は能力者たちを捕らえる事は無かったものの、ほぼ真っ二つに近い程にジーザリオを切り裂く。
 その代償に、空中でバランスを崩したサイラスは着地しきれずに地面に叩きつけられた。


 ――だが、能力者たちは勝利に浸る事を許されない。


「――皆掴まれっ!! 絶対に振り落とされるなっ!!」

 必死に叫びながら、リディスはコントロールを失った車体を制御する事に精一杯だった。

「――飛び降りろ!!」

 宗太郎とファルル、結城の三人が車から飛び降りた。
 だがリディスが飛び降りる前に、ジーザリオはハイウェイの壁に叩きつけられ、ようやく止まる。

「――リディス!!」

 飛び降りた衝撃で折れた右腕を押さえながら、ファルルがスクラップと化したジーザリオへと駆け寄った。

「‥‥心配するな‥‥何とか、生きている‥‥」
「よ、良かった‥‥」

 よろよろと車の下から這い出てきたリディスを見て、結城が安堵の息を吐く。
 だが、リディスの体は立っている事すら奇跡というレベルの怪我を負っていた。
 かく言う結城も酷いものだが。

「勝ったな‥‥辛うじて」

 宗太郎も同様だ――しかし、四人全員が、自らの足で立っていた。




 装甲車の中から閃光が迸ったのを見届けて、ティーダは装甲車から一瞬だけハイウェイを走るようにしてジーザリオへと飛び移った。
 緑川は渾身の力で彼女を車内に引っ張り上げる。

「ふう‥‥危ない所だった」
「ありがとうございます‥‥さあ、あと一息です」

 敵が混乱している今が好機。
 四人はここぞとばかりに集中砲火を浴びせかける。

『――止めだっ!!』

 瓜生のエネルギーガンと、緑川のSMGによって、左側に残っていた最後のタイヤが弾けとんだ。


 ――横転した装甲車は、二回ほど大きく道路を跳ねると、とうとうその動きを止めたのだった。


 伊佐美はすぐさまジーザリオを止めると、スナイパーライフルを構えて油断無く近づいていく。
 が、不意に彼女は構えを解いた――もう、必要が無かったのだ。


 ――そこには装甲車の下敷きとなった死体と、胸から下を潰されて呻くバグア兵の姿があった。


 バグア兵は生きていたものの、既に手遅れである事は明白だ。
 そんな彼を見下ろしながら、伊佐美はライフルの銃口を向けた。

「――止めが必要かい?」
『‥‥感謝スル』

 ――青空のハイウェイに、銃声が響き渡った。



 無線機を使って手配しておいたヘリを待つ間に、能力者たちは互いに応急処置を施していた。

「――ホントにしつけぇ野郎だな、テメェも」

 不意に、治療中だった宗太郎が槍を手に立ち上がる。
 その視線の先には、ボロボロの姿をしたサイラスがいた。
 ――再び臨戦態勢に入る能力者達。

「――待て、もう争うつもりは無い」
「そんな与太話、信じられると思う?」

 ファルルが呆れた様に銃を構えるが、お構い無しにサイラスは続ける。

「我はステアーのパーツを奪取されまいと戦った。
 ――それに負けた以上、もう干渉するつもりは無い」
「そうですか‥‥このような場は決着には相応しくないですね。次こそは決着を‥‥」
「――我もそれを願っている」

 リディスの言葉に答え、サイラスが立ち去ろうとした瞬間、伊佐美が茶化すように叫んだ。

「‥‥『覚えてろよ』くらい、言っていいぜ?」
「‥‥覚えておけ」

 そしてサイラスの姿は掻き消え、辺りには静寂が訪れた。

「‥‥アイツ、結構ノリいいのかもな」

 ――まぁ、そんな事はどうでもいい。
 今はただ、自分達が成し遂げた成果を喜ぶとしよう。
 こちらに向かって舞い降りてくるヘリに向かって、伊佐美は誇らしげにトランクを掲げて見せた。