タイトル:【Woi】武人降臨マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/22 00:37

●オープニング本文


●第二次五大湖解放戦
「‥‥以上を踏まえた上で、『第二次五大湖解放戦』を実施する」
 作戦会議室のテーブル上で、ヴェレッタ・オリム大将が宣言した。
 居並ぶメンバーはオリム大将の幕僚と、そして特殊作戦軍のハインリッヒ・ブラット少将である。
 スクリーンに映し出される北米大陸の地図。重要ポイントとして強調されているのは五大湖周辺である。北米各地の拠点から五大湖周辺の戦力の集中。ヨーロッパからの援軍も五大湖へと配されており、太平洋方面からの援軍が手薄になった西海岸、とりわけロサンゼルスを穴埋めする形となっている。
 五大湖地域。それは言わずとしれた北米大陸でも屈指の工業地帯であり、2008年2月の大規模作戦において解放を目指した地域である。
 極東ロシアでの華々しい勝利は、バグア軍の戦略的意図の粉砕、重要兵器の鹵獲、豊富な地下資源の眠るシベリアの奪還などの成果を得た。だが、1つ目についてはあくまで防衛上の達成であり、2つ目、3つ目については目に見える効果があがるまでには、時間を要するであろう。
 極東ロシアでの勝利の勢いに乗って、より即効性のある戦果を求める声は当然であり、それが巨大な工業地帯を要する五大湖周辺の解放であるのは自然な流れであろう。
「バグア側への情報のリーク、感づかれるなよ?」
「むろん、その点はぬかりなくやってみせます」
 オリムが幕僚の一人に念を押すと、幕僚は自信ありげに答える。
「ブラット少将からは何か?」
「思い切った作戦だとは思います。が、やってくれると信じます。作戦名は決まっているのですか?」
 オリムに聞かれたハインリッヒは作戦の困難を指摘しながらも、それを克服できるという自信を見せる。
「The American Revolution(アメリカ独立革命)‥‥というのはさすがに身贔屓が過ぎるな。War of Independence(独立戦争)だ」
 大規模作戦の本格的な発令は6月末。作戦期間中、アメリカは233回目の独立記念日を迎える。



北米某所――主戦場から外れたこの場所でも、激しい戦闘が繰り広げられていた。

『な‥‥何なんだこいつら!! 強すぎ――ぐあああああああっ!!』

――いや、訂正する。
 それは戦闘では無かった。
 戦闘とは『互いに戦う相手がいるからこそ』成り立つもの。

「アルファー4、ロスト!! アルファー隊、デルタ隊全滅です!!」
「くそっ!! 何とかして持ち堪えるんだ!!」

 今この場所で繰り広げられているのは、一方的な狩りであった。
 追われるはUPC軍のKV、それを追うのは八本足の馬に乗った騎士達だ。

『ぐはぁっ!!』
「オメガ1ロスト!! もう持ちません!!」

 ゴーレムの持つランスの穂先がバイパーの腹を貫き、倒れた所にスレイプニルの蹄が落とされる。
 一機、また一機と、精鋭である筈のUPC北米軍の兵士達が屠られていった。

「‥‥くっ!! 撤退するっ!!」

 指揮官の男は爪が皮膚を破る程に固く握り締めた拳を悔しげに司令部の机目掛けて振り下ろした。
 その目は、かけがえの無い部下達を蹂躙した騎馬ゴーレムと、彼らを率いる漆黒のゴーレムへと向けられていた。
 
「――化け物がっ!!」

 指揮官にあるまじき激昂――だが、それを責めるものはここには一人もいない。
 何故なら、この戦線を支えてきた数十機ものKV。
――それがあの敵と、奴が率いる僅か数体の騎馬ゴーレムによって壊滅させられたのだから。




『――奴らは撤退を開始したようです』

 薄暗いゴーレムのコクピットの中に、不思議な響きを持った異質な言葉が響き渡る――それはバグア兵からの通信であった。
 だが、それに男の声は確かに地球のもの。
 コンソールの淡い光に照らされた男の姿は、乗機であるゴーレムと同じく正しく漆黒。
 服も、髪も‥‥唯一違うのはその身の肌と、金色の瞳だけであった。

「‥‥ご苦労。深追いはするな――あくまで我々の任務は陽動だ」
『了解しました』

 騎馬ゴーレムの一体が、馬首を返して漆黒のゴーレムに向き直る。

『‥‥しかし、宜しいのですか?』
「――何の事だ?」

 不満げな様子の部下に、男は逆に問いかけた。

『――隊長ほどの方が、たかが陽動任務などに‥‥』
「‥‥気持ちは分かる。だが、それ以上は止めておけ」

 部下の言葉を、鋭い刃のような言葉で遮る。
 穏やかではあるが、有無を言わせぬその言葉に、部下は沈黙するしかない。

「‥‥ここは、あくまで『あのお二方』の戦場だ。我らは邪魔せずただ己の役割を果たせば良い」
『――御意』

――だが男の心は、言葉とは裏腹に熱く滾っていた。
 強い者と戦いたい‥‥自由に戦場を駆け巡りたい‥‥男はその衝動をどうにか抑える。

「‥‥クク、年甲斐も無く焦るな。直に、時は来る――」

 自らに呼び掛けるように、呟くと、男はコンソールに映る自らの顔を見つめる。
――そこにはかつて己が『武』を教え、最期まで武人として散った男の顔があった。

「‥‥お前のように高々と名乗りを上げるつもりは無いが、我も倣おう」

 彼の任務は陽動――派手に暴れ回り、UPCの眼を引き付ける為の囮。
 だが、おそらく人間達はこの大きすぎる撒き餌を持て余し、応援を呼ぶ筈だ。
 傭兵――『男』が友と呼び、今わの際に命を賭けた存在。

「――来るがいい傭兵達よ‥‥」

 漆黒のゴーレムが腰の刀を抜き放ち、天へ高々と振り上げる。
 それはかつて『バグアのサムライ』と呼ばれた男と全く同じものであった。

「我を屠らんと欲するならば、このサイラス・ウィンド、全霊を以て応えよう」

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF

●リプレイ本文

 能力者達の眼下に、未だに煙が燻るスクラップの山が姿を現した。

「――たった四機で、これだけの戦力を全部やったのか‥‥なんて奴らだ」

 ブレイズ・カーディナル(ga1851)は視界内だけで十機近いKVのスクラップを見て唾を飲み込んだ。

「‥‥薄ら寒くなるぜ」

 ブレイズと同じく雷電に乗るサルファ(ga9419)は、じっとりと汗に濡れる掌を拭う。

「ゴーレムの騎馬隊‥‥か‥‥強いんだってな」

 人知れず呟きながら、聖・真琴(ga1622)は固く拳を握り締める。

「けど‥‥好きにさせっかよ」
「――全く同感だ」

 真琴の言葉に時任 絃也(ga0983)が頷く。

「しかし、人馬一体の攻撃か。まさに武士や騎士といったところだが、バグアにそんな概念があったのが驚きだな」
「車に乗ると、急に強気になる奴いるだろ? そいつに良く似てるな」

 一方、伊佐美 希明(ga0214)は何処か茶化すように鼻を鳴らし、肩を竦めて見せる。
 そんな事を話すうちに、一際多くスクラップが詰まれた一角が姿を現した。

「――っと、ここですね。皆さん、準備しましょう」

 スカイスクレイパーで一人地を駆けていた宗太郎=シルエイト(ga4261)の呼び掛けに頷いた能力者達は、心の中で死者達に祈りを捧げながら作業を開始した。


 短時間でスクラップを集めて、トーチカに変えるのはかなりの重労働だ。
 彼らは覚醒してKVのパワーをフルに使う必要があった。

「――そうですか、そんな事が‥‥死したるサムライには弔意を。
 敵ながら、あの方は信念を貫いた方でした」
「――ああ。最期まで、潔い奴だったよ」

 その作業の合間に、月神陽子(ga5549)はかつて戦ったバグアのサムライの最期の様子を宗太郎から聞きだしていた。
 それを聞いていたリディス(ga0022)の手が止まり、黙り込む。

「‥‥」
「――? リディス隊長、どうかしたのか?」
「――いや、何だか少し嫌な予感がしたものだからな」

 小隊の仲間であるブレイズの言葉に、彼女はただ首を振った。



 そして数十分後、そこには見てくれこそ悪いものの立派なトーチカが完成していた。



――不意に、能力者達のレーダーが反応を示す。
 先頭を走るのは漆黒のオブシディアンゴーレム。
 身に纏う武器、装甲、そして騎馬までもが黒く、赤銅の大地に深い影を落としている。

「――あの機体、あの刀‥‥まさか‥‥!!」
「冗談だろおい、この殺気は‥‥」

 リディスと宗太郎が同時に声を上げる。
――それは二人にとって、特別な存在である事を示していたから。

「――あの時の刀使い! てめぇが中身か!」

 まるで血を吐くような宗太郎の叫びに、Oゴーレムから通信が入る。

『――ほう‥‥その声、その機体‥‥この『器』の記憶にあるぞ。
 拾った命、また捨てに来たか』
「‥‥ダチの仇を前に、黙ってられるアホが何処にいるよ」

 皮肉げに、宗太郎が口の端を歪める。
 ――その男は正しく、ハットリ・サイゾウの体を奪ったバグアであった。

「お前ぇら‥‥大層な真似してくれんじゃねぇか‥‥」

 そして、並々ならぬ怒りを抱いていたのは真琴も同じだった。

「その身体と関わりのある人間が、チームにいるんでね。
 ‥‥勝手に身体を使うアンタらは‥‥許せねぇんだよ」

 ぎり‥‥と歯を食い縛りながら、真琴はディアブロにスラスターライフルを構えさせる。
 他の仲間達もそれに倣う――戦場を、一触即発の緊張感が支配する。

『――では名乗ろう。サイラス・ウィンド‥‥それがこの器の名だ』

 その名を聞いた瞬間、宗太郎は拳を血が出るほどに握り締めた。
――それは『友』が最期に教えてくれた、真の名‥‥それを汚された気がしたから。

「‥‥力に憑かれた奴は、自分に喰われる。
 サイラスとか言ったな。‥‥お前はその先に何を見る。剣の切っ先に何を見る?」

 不意に、伊佐美が口を開く。
 それは道場主の彼女ならではの問いであった。
 だが、サイラスはそれを一蹴してみせる。

『――我に目的など無い。とうの昔に忘れ果てたわ』
「なっ――?」

 あまりに堂々としたその言葉に、二の句が次げなくなる。

『我が剣の切っ先に見るは絶え間無き無限の闘争。
――闘いの中で生き、闘いの中で死ぬ。それこそが全て!!』

 それがただの人間の言葉であったなら、反論出来たかもしれない。
 だが、目の前のバグアには言い様が無い程の凄まじい重みがあった。
――一体この男は、どれだけの闘いを繰り広げてきたのだろう?

 その姿は、地獄の果てで無限に戦い続ける亡者――正しく修羅であった。

『闘争に言葉は不要――押して参る!!』



 四機の騎馬ゴーレム達が一斉に突撃を開始すると、能力者達による弾幕がそれを迎え撃った。
 ありとあらゆる射撃武器がゴーレムの乗るスレイプニル達へと殺到する。
 だが、それらは盾で、槍で、刀で、装甲で、悉くが叩き落され、受け止められた。
 その間に一瞬で間合いを詰めたサイラスがスクラップへと肉薄する。

「――今だ!!」

 時任の号令の下、煙幕弾が次々と打ち込まれ、スクラップの周辺が白い闇に包まれた。
 同時に能力者達はリディス、伊佐美、月神、サルファを中央に残して、時任、真琴、ブレイズ、宗太郎らがスクラップの側面から回り込むように移動を開始する。
 煙幕に紛れて両翼から敵に襲い掛かろうという算段だ。

『甘イ‥‥』
「――何っ!?」

 機械音のような言葉が響くと同時に、能力者達の目の前に二機の騎馬ゴーレムが煙を切り裂いて飛び出してくる。
――敵は能力者達が側面から回りこんで来る事を想定し、まるで弧を描くように突進してきたのだ。
 敵の狙いは――どちらも先頭に立っていた時任機!!

「――不味いっ!!」

 咄嗟にブレイズがスレッジハンマーを手近なスクラップへと叩き込み、破片をゴーレムに向けて吹き飛ばす。
 だが、フォースフィールドがそれを易々と弾き返した。
 槍の穂先は勢いを減じる事無く放たれる――時任は咄嗟にスクラップに身を隠した。
――が。

――ズガァッ!! メキャッ!!

 スクラップ越しに叩き付けられた一撃はR−01の脇腹と片腕を吹き飛ばす。

「――ぬぅっ!!」

 衝撃に曝されながらも時任はフィンブレードを振るい、それ以上の追撃を防ぐ。

「‥‥っくもやってくれやがったな!!」
「はあああっ!!」

 仲間を傷付けられた怒りを込めた真琴のハイディフェンダーの一撃が馬の脚を一本きり飛ばし、ブレイズのスレッジハンマーが腹にぶち込まれる。
 たたらを踏んで後退するゴーレム達――だが、未だに健在だ。
 彼らの実力は、並みのエースに匹敵するものと言えた。

『――暫シ付キ合っテ貰ウゾ、人間ドモ』
「上等だっ!!」

 雄叫びと共に、宗太郎はロンゴミニアトをスレイプニル目掛けて突き入れた。



 側面で戦闘が始まるのとほぼ同時に、正面でも両者が激突した。
 スクラップを弾き飛ばしながらまず突っ込んで来たのは、部下の騎馬ゴーレムであった。
 リディスと月神の弾幕によって馬を撃破されるが、慣性制御を使ってその勢いのまま飛び降りると、伊佐美目掛けて槍を突き出す。
 それはスクラップを貫き、伊佐美機の肩の装甲を貫いた。

「ひぃ、おっかね〜。こちとら紙装甲なんだからちったぁ手加減しろい!!」

 おどけたように叫ぶと、崩れたスクラップから飛び出し、Aフォースを使用しスナイパーライフルD−02を頭に向かって放つ。
 その弾丸は盾によって阻まれるが、一瞬ゴーレムの視界が遮られた。

「目には目を、槍には槍を、ってな!」

 その隙に踏み込んだサルファの爆槍が、盾に突き刺さる。

――ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!

 爆槍の炸裂と共に、ゴーレムの盾と腕が粉々に砕け散った。
 ゴーレムも負けじと槍を突き出し、サルファ機の胸の装甲を抉り取る。
 重装甲を誇るサルファの雷電と、同じく装甲とパワーを大きく強化されたゴーレム。
 両者の間で激しい殴り合いが幕を開けた。



 リディスのアハトアハトが次々とスレイプニルに打ち込まれるが、サイラスはそれを飛び跳ねて避け、飛び降り様に月神へと刀を振るった。

――ガキィンッ!!

「くっ!!」
「――ほう、今のを受けるか」

 サイラスの突進を、月神はスクラップとセミーサキュアラーで受け止める。
 だが凄まじい突進の威力に、夜叉姫の腕や脚に相当な負荷がかかるのが分かった。
――並みの攻撃ならば、装甲だけで受け止めてしまえる程に強化された彼女の夜叉姫。
 その機体がかなりのダメージを受けたというだけで、その威力が分かるというものだ。
 サイラスは更に刀を夜叉姫へと叩き付ける。
 目視する事など敵わぬ鋭い斬撃を前に、月神はひたすら己の剣と装甲で耐える。

「――陽子さん!!」

 駆け寄ったリディスのディスタンが、セトナクトで馬の脚を一本切り飛ばし、グングニルで追撃する。
 サイラスは槍を弾き飛ばすと、それ以上の攻撃を避けて素早く距離を取った。

「――サイラスとやら‥‥一つ頼みがある」
『ぬ‥‥?』

 突然の彼女の言葉に、サイラスは怪訝そうな声を上げた。

「‥‥顔を、見せてはくれないか?」

 リディスの言葉に、その場の誰もが驚愕したが、隣にいる月神をはじめ、誰も手を出そうとはしなかった。

『――いいだろう』

 Oゴーレムのコクピットが開き、中から黒ずくめの男が姿を現す。
 リディスも同じく、コクピットを開けて外気に己を晒した。

――暫しの間、見つめ合う二人。

「――ありがとう」
『‥‥気にするな。これはこの男の――我が弟子の望みでもあった』
「その言葉だけで十分です――最後に‥‥貴方の事を愛していました」

 リディスは一瞬だけ覚醒を解き、本来の己の言葉で語りかけると、コクピットへと戻った。
 少しだけ目を瞑り‥‥目を開く――リディスの顔は、一瞬にして戦士の顔となる。

「だから、お前は誰にも渡せない‥‥倒すのは、絶対に私だ。
 では始めようか‥‥過ぎた未練だが、この剣舞に付き合ってもらうぞ――!」
『――承知!!』



 時任機のフィンブレードがスレイプニルの首を切り飛ばす。
 しかし同時に放たれた蹄と槍の一撃が、R−01の胴体を粉々に打ち砕いた。

「――済まん‥‥後は頼んだ」

 光を失ったコクピットの中で、時任は悔しげに唇を噛んだ。

「こんにゃろおおおっ!!」
『――グゥッ!?』

 落馬したゴーレムの腕を真琴機の雪村が叩き落し、ブレイズ機のハンマーが頭ごと胴体を叩き潰す。
 そして、残る一機も宗太郎機のロンゴミニアトを腹に直撃され、悲鳴を上げる間も無く吹き飛んだ。

「――ざまぁ‥‥みやがれ‥‥!」

 ぜぇぜぇと荒い息を吐く宗太郎――敵を倒した代償に、彼の機体は殆どスクラップに近い状態にまでに損傷を受けている。

「サァて‥‥後は二機だけだね!!」

 真琴はハイディフェンダーを手に、中央で戦う四人の所へと急いだ。



「ぐあっ――!」

 脚をゴーレムの槍によって打ち砕かれ、サルファ機が膝を付く。
 ゴーレムは止めを刺そうと槍を振り上げた。

「外敵なんてない。戦う相手は常に、自分自身のイメージ‥‥そこだ!!」

 寸前に、狙い済ました伊佐美のスナイパーライフルの一撃がその腕を撃ち貫いた。

『‥‥ココマデカ‥‥ダガ、セメテ一太刀――!!』

 突如、ゴーレムは伊佐美目掛けて疾走した。

「なっ――!!」

 咄嗟にサルファと伊佐美はゴーレムを撃つが、仕留めきれない。
 体当たりを受けて、もんどり打って倒れる伊佐美機。
 瞬間――ゴーレムに仕掛けられた自爆装置が発動した。

――爆発と閃光、衝撃。

 そして煙が晴れた後には、粉々になった伊佐美のディアブロだけが残されていた。

「伊佐美っ!!」
「‥‥つつ‥‥脱出装置が無けりゃ死んでたね、こりゃ‥‥」

 全身を熱気で炙られた伊佐美は、脱出カプセルから這い出しながら呻きをあげる。
――同時に、敵の覚悟に少なからず薄ら寒いものを感じていた。

「――強い上に覚悟もあるなんざ‥‥厄介ったらありゃしねぇ」



 牡牛座撃墜者のリディスと、最強クラスのKVを操る月神――トップクラスの実力を持つ二人を相手に、サイラスは互角以上に渡り合っていた。
 だが、共にかなりの損傷を受けている――勝負するなら、今――!!
 夜叉姫がロンゴミニアトを振るう――だが、それは間合いの外でありOゴーレムには届かない。

「受けなさい――ハンズオブグローリー!!」

――夜叉姫の腕が、装備された追加ユニットによって『伸びる』。
 さしものサイラスも、咄嗟の事に避けきる事が出来なかった。
 穂先は馬の首に突き刺さり、爆音を上げてそれを打ち砕く。

「はあっ!!」

 そしてバランスを崩した所に、リディスがブーストをかけながら突撃した。
 グングニルが叩き付けられ、ゼロ距離でアハトアハトが炸裂する。

「ぬうっ!!」

 だが、その代償としてリディス機の胸部に雪村の切っ先が突き入れられていた。
 衝撃と共にコンソールが煙を吹き、身動きが取れなくなる。
 そこに、高速震動する刀が唸りを上げて振り下ろされた。

「くっ――!!」
「隊長!!」

 だが、寸前でブレイズ機が割って入っていた。
 雷電の胸が断ち割られ、コクピットが晒される。

『‥‥無粋な奴め』
「何がなんでも、その人を殺させる訳にはいかないんでな」

 切り裂かれた装甲へ再び刀が突き刺さる――ブレイズ機は力を無くして地面に倒れ‥‥る直前にOゴーレムの腕を抑える。

「今だっ!!」
「応っ!!」

 ブレイズの叫びに宗太郎機がロンゴミニアトを突き出して吶喊する。
 だが、サイラスは抑えられた自らの腕を雪村で断ち切り、そのまま宗太郎機向けて振るった。

「――畜生っ‥‥!!」

 避けきれず、宗太郎機は胴体を両断されて宙に舞った。
 だが、その間に残る傭兵達がサイラスを包囲する。

「クク‥‥楽しくなってきたな‥‥む?」

 楽しげに笑みを浮かべるサイラス――だが、不意に鳴り響いた電子音に眉根を寄せた。

「――撤退命令か‥‥悪いがこの勝負、預けさせてもらうぞ」

 リディスと月神に向けてそう宣言すると、サイラスは煙幕を焚いて後退していった。



「ちっくしょう‥‥!!」

 追いかけようにも、仲間達の損傷は激しい。
 真琴は固く拳を握り締めるしか無かった。

「くそっ‥‥不甲斐無いぜ‥‥」

 ブレイズも悔しげに呟く。
 取り巻きこそ倒したものの、サイラスの機体には大きな損傷を与える事が出来なかった。
 だが、自分の隊の要であるリディスを守りきる事は出来た。
――それだけでも良しとしよう‥‥そう考え、リディスへと通信を繋げる。

「――!!」

 そこには、泣いているリディスの姿が映し出されていた。
 苦しげな嗚咽と共に、止め処なく目から涙が溢れ出している。
――見てはいけないもののような気がして、ブレイズは黙って通信を切った。



「‥‥おかしいですね‥‥未練は断ち切った筈なのに‥‥」

――涙が‥‥止まらない。
 己の想いを流すように、リディスは泣いた――泣いて、泣いて、泣き続けた。