タイトル:【DR】ツルギの下にマスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/16 05:40

●オープニング本文


 大規模作戦第三フェイズのラインホールド撃破によって、人類側の勝利は決定的なものとなった。
 勢いづいたUPC軍は一気に攻勢を進め、撤退するバグア軍を徹底的に駆逐して行く。
――しかし、バグア軍の一部は死に物狂いと言えるほどの抵抗を試みるのだった。
 そして抵抗と呼ぶには苛烈すぎるソレの前に、人類側の攻勢は時に蟷螂の斧のように儚い。

――ズゥンッ!!

 固く凍りついた大地の上に、重々しい轟音と共にタートルワームの体が横たわる。
 タートルワームを屠ったS−01が更に踏み込み、手にしたBCアクスで足元に群がる無数のキメラたちを薙ぎ払った。

「――!!」

 だが、タートルワームの死骸の陰から現れたゴーレムのショルダーキャノンによって腕を吹き飛ばされ、瞬時に間合いを詰めたもう一体によってコクピットを叩き潰される。

「――グレゴリー2ッ!! ‥‥この野郎!!」

 仲間を倒された事で激したM1戦車隊の一斉砲撃が降り注ぐ。
 胸に、腹に粒子加速砲を叩き込まれ、爆散するゴーレム達。
 当たらなかった砲撃はキメラ達の分厚い壁を吹き飛ばし、敵の戦線にとうとう穴が開く。

「――今だ!! KV隊前進っ!!」

 指揮官の号令の下、敵陣の突破を試みる歩兵達とKV隊の一団。
――だが、それは敵の巧妙な罠であった。

「――隊長っ!! 異常震動を感知!! ――位置は‥‥真下っ!?」
「何だとっ!?」

――KV隊の足元が、突如崩落する。
 警告は間に合わずほぼ全てのKVが巻き込まれ、運の悪い者は瓦礫に押し潰されて息絶える。
 辛くも潰されずに済んだ者達も、突然の衝撃に対応し切れず、脚部や関節を大きく痛めていた。

「クソッ!? 何だこれは‥‥!?」

 悪態を吐く兵士達――だが、その答えは彼らの目の前に迫りつつあった。
 兵士達が落ちた穴のその側面から、巨大な影が姿を現す。
 体中から生えた無数の棘、巨大な口腔の中に光る乱杭歯――その名は地底の主・アースクエイク。
 猛烈な勢いで迫る巨体に、数機のKVが跳ね飛ばされ、押し潰される。
 何とかして穴から脱出しようとした者もいたが、別の方向から現れたもう一体の口に飲み込まれていた。
 口の中の歯が唸りを上げて装甲を、機体をすり潰していく。

「――ひいぃぃぃっ!? 脱出装置が利かない!? だ、誰か、誰か助け――っ!!」

 悲痛な叫びを乗せた通信は、すぐに耳障りなノイズと共に消えうせた。
 足元を文字通り掬われたUPC軍が動揺した所に、ゴーレム、タートルワーム、そしてそれの十数倍とも言える数のキメラが津波の様に襲い掛かる。

「うわああああっ!!」
「お、落ち着け!! 態勢を立て直して――」

 動揺する兵士達と、それを抑えようとする指揮官達の間に混乱が生じる。
 だが、KVという人類にとって絶対の盾と矛を一気に失った事で指揮官達を含めた兵士の心は折れる寸前であった。
 戦線が成す術無く次々と崩れていく。
 タートルワームのプロトン砲が炸裂し、M−1戦車が数台巻き込まれて中にいる兵士は肉片一つ残らず蒸発する。
 R−01がゴーレムに足を砕かれて地面に倒れた所に、無数のキメラが群がる。
 あっという間にコクピットのキャノピーが砕かれ、そこから爪が、牙が襲い掛かった。

「――ひいいいっ!!」

 目の前に迫る死に怯えた兵士が叫ぶ。
 その声に応えるように、雨のように弾丸が降り注いだ。

「――えっ?」

 飛来したガトリング弾は、正確にコクピットに群がったキメラだけを打ち抜いて行く。
 兵士が目をやると、そこには傭兵達のKV達。
 そして一機のウーフーに率いられたKVとM−1戦車の一団がいた。
 KVの肩、そして戦車の側面には交差するサムライソードの紋章がペイントされている。

『――今の内に撤退しろ!! ここは我々が引き受ける!!』
「‥‥り、了解!!」

 ウーフーから女性仕官の声が響く。
 それに応えた兵士は、這いずるように壊れたKVから脱出していった。



『隊長!! 残存部隊が本格的に撤退を開始しました!!』
「――了解‥‥ではこれより状況を開始する」

 岩龍の女性兵士からの報告を受けたエリシア・ライナルト『大尉』は、部下達に下知を下す。

「――我々の使命は友軍の撤退が完了するまでの殿だ。
 その間はキメラ一匹、蟻の一匹も突破させる事は許さんからそのつもりでいろ」
『――了解‥‥それにしてもデビュー戦でいきなりキツイ任務ですね。
 機体新調したってのに、早速死んでナンボとはいい計らいしてくれますよ、ホント』

 真新しいナイチンゲールに搭乗した軍曹が愚痴るように軽口を叩く。
 そこに割り込むように通信が入った。

『ほうほう軍曹よ‥‥それはつまりワシへの批判かのう?
 戦場とは言え、堂々と上官と命令に対して不平を口にするとは良い根性をしとるのう』
『――げっ!? た、大佐、聞いてらっしゃったんですか!?』

 通信機の向こうから聞こえるのは、エリシアと縁の深い老人――ブライアン・ミツルギ大佐のものだった。

『‥‥ふむ。これは階級差も考えると由々しき事態じゃぞ?』
「‥‥その通りですね大佐。では軍曹、貴様には真っ先に矢面に立って貰おうか」
『か、勘弁して下さいよ大尉!! ようやっと機体を乗り換えられたってのに!!』

 ミツルギは顎鬚を撫でながら意地の悪い笑みを浮かべ、エリシアがそれに合わせる様に茶々を入れる。
 引き攣った軍曹の声に、部隊中の人間から笑い声が響いた。

『――さて冗談はさておき、確かにいきなりキツイ任務で済まんのう嬢ちゃん。
 上層部の若造共、どうやら戦果を上げんと納得が行かんようでな』

 ミツルギが密かに計画を進めていた、KVを中心にしたどの指揮系統にも属さぬ、傭兵達との共同戦線が前提の遊撃隊設立。
 今回の任務は、そのお膳立てのための点数稼ぎと言った所か。

「‥‥いえ、望む所です。
 それに我々の働きで死ぬ者が減るならば、その程度どうと言う事はありません」
『うむ、良くぞ言ってくれた。では嬢ちゃん、能力者さん方‥‥生きて帰ってきとくれよ』
「――承知!!」

 ミツルギの言葉に力強く答えるエリシア。

「歩兵隊とサイレントキラーは撤退支援に回れ!! KV隊及び戦車隊だけでこの場を守りきるぞ!!」

 通信が切れると同時に、矢継ぎ早に部下達に指示を与えて行く。
 そして目の前に迫るバグア達を見据えると、ウーフーの右腕を高々と掲げる。

『――M−1戦車隊、照準合わせ!!』

 リッジウェイに乗った伍長の号令に合わせて、M−1戦車の隊列が粒子加速砲を稼動させる。
 射程まで30――20――10――。

――今!!

 ウーフーの右腕が振り下ろされる。

「正式な名では無いが名乗りを上げよう――独立部隊『御剣(ミツルギ)』・陸戦ライナルト隊‥‥出撃!!」
『‥‥てぇっ――!!』

 粒子加速砲から奔る紫電を号砲に、傭兵達とライナルト隊は前進を開始した。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD

●リプレイ本文

「――突撃!!」

 戦場に、朗々と女傑の号令が響き渡った。
 そして傭兵達八人を含めた18機ものKVと、15輌のM−1戦車が前進を開始する。

「スマイル、スマイラー、スマイレージ☆
 ライナルト中隊の皆さん、宜しくお願いします♪」

――その出鼻に、非常におっとりとした青年の声が響き渡る。
 自称「笑顔の伝道師」須磨井 礼二(gb2034)だ。
 緊張感が一気に瓦解し、何人かがKVのバランスを崩してずっこけそうになる。

「――全く、緊張感と言う物を持てと言うに‥‥」
「くくく‥‥ま、いいんじゃないすか、隊長?」

 エリシアが苦笑し、軍曹が目に涙を溜めて須磨井の挨拶を肯定する。
 ともかく、彼のおかげで傭兵達とライナルト隊の面々の緊張は解れた。
 柔らかくなった雰囲気に、傭兵達にも喋る余裕が生まれる。

「我ら傭兵と正規軍、両者の繋ぎとなってくれる存在――コイツは有り難い!!
 御剣隊、頼りにさせて貰うんだよー」

 語尾を伸ばす独特の口調で、獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)が微笑む。
――その声はどこか嬉しそうだ。
 命を削る数々の依頼を果たして来た彼女は、共同戦線を張ってくれる仲間の存在、その心強さを誰よりも強く認識しているからだ。
 そしてそれは、傍らに並ぶシーヴ・フェルセン(ga5638)も同じ。

「キツイ任務、上等でありやがるですよ。重要なのは撤退しやがる友軍の壁になりやがる事ですが、ソレが傭兵と軍の共同戦線部隊設立の為っつーのも、意味がありやがるです」

――その為にも、ここをきっちりと抑えきって後々の動きを円滑にいくようにしなければならない。

「――そして初陣ならば、華々しい方がいいよな。頑張っていこうか」
「御剣独立中隊が精鋭となるか愚連隊となるか‥‥何にせよ、初陣に華を添えてみせよう」

 カルマ・シュタット(ga6302)と藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)が不敵な笑みを浮かべる。

「‥‥感謝する」

 エリシアは彼らの励ましの言葉に、素直な感謝の意を示した。


 KVのレーダーに、呆れ帰る程の敵を示す光点が表示される。
 程無くして前方にからゴーレム、タートルワーム、夥しい数のキメラが姿を現した。

「スゲェ〜。敵がウヨウヨいるっス。こりゃ倒しきるのは骨ッスね」
「何だ? 怖気づいたのかよゲンジー?」
「――ハッ、冗談言わないで下さいよアネゴ。勿論、負けるつもりは無いッスよ」

 「アネゴ」こと伊佐美 希明(ga0214)の言葉に、六堂源治(ga8154)が歯を剥き出しにしながら、拳を打ちつけて気炎を上げる。
――そして、敵の先頭集団が射程内に入った。

「てぇ――!!」

 号令と共に始まるM−1戦車の援護射撃の中を、更に進んで行く能力者達。

「ここから先は通行止めだ! とっととご退場願うぜ!」

 砕牙 九郎(ga7366)の叫びを幕開けにして、傭兵とライナルト隊、そしてバグア軍の残党達の壮絶な戦いが幕を開けた。


 能力者達とライナルト隊の面々の編成は以下の通りだ。
 対タートルワーム(TW)班は伊佐美のディアブロ、獄門と須磨井のシュテルン、シーヴの岩龍、藍紗のアンジェリカ、六堂のバイパー。
 対ゴーレム班はライナルト隊の主力七機と、砕牙の雷電。
 対キメラ班は、M−1戦車隊15両と、カルマのシュテルン「ウシンディ」が担当する。
 そしてこの三班には、ライナルト隊の岩龍が一機ずつ配備される。
 加えて、傭兵達は今回最大の脅威と言える敵への対策も無論怠ってはいなかった。


「――全機、地殻変化計測器を設置せよ!!」

 エリシアが傭兵達の立てた作戦の手筈通り、全員に向かって号令をかけた。
 何基もの地殻変化計測器が地面に突き立てられ、それらの計測結果がシーヴの操る岩龍に送信されていく。

――見れば計測器の全てが、異様な振動を捉えていた。

 KVやバグア軍の機動兵器が起こす振動でも地震でも無い独特の波形は、傭兵達――とりわけ藍紗の脳裏には強く焼きついている。
 アースクエイク‥‥地面の中を自在に動き回り、その巨大な顎でKVを飲み込み、問答無用で灰燼にせしめる忌まわしきワームである。

「――計測器とデータリンク、お一人で大丈夫ですか?」
「前衛張りながらの管制・情報処理は、散々大規模や依頼でやって来やがったですよ。
 任せやがれ、です」

 ライナルト隊の岩龍パイロットから指摘を受けるシーヴだったが、彼女はいつも通りの無表情で、事も無げにそう言ってのけた。
 ならばもう言う事は何も無い――後はただ死力を尽くすのみ。



「――撃てっ!!」

 カルマの号令に従ってM−1戦車から140mmライフル砲が、50mm磁力砲が吐き出され、敵の先頭集団を成すキメラの群れへと次々に突き刺さった。
 次々に砲弾に貫かれ、潰され、焼かれて倒れて行くキメラ達。
 戦車隊の攻撃から逃れた者達は、カルマのウシンディが放つスナイパーライフルの砲弾によって一匹ずつ確実に屠られていく。
 そしてキメラと前衛との距離が詰まると、カルマと前衛の獄門がH−112グレネードランチャーを取り出した。

「PRM起動‥‥一匹たりとも逃がさないさ」
「ちょっと通してくれないかねェー?」

 二機のシュテルンから放たれた榴弾は、キメラの集団のど真ん中に着弾し、周囲10メートル四方を猛烈な勢いで焼き尽くす。
 炎が収まった後には、前衛の能力者達への花道が姿を現していた。


 前衛の傭兵達の前にまず立ち塞がったのは、甲羅に巨大なプロトン砲を搭載したTWの群れ。
 その砲口から漏れ出す剣呑な光を見た瞬間、伊佐美のディアブロが飛び出す。

「――やらせねぇよっ!!」

 必殺のアグレッシブフォースを乗せたスナイパーライフルD−02の一撃が、砲塔に向けて放たれる。
 その狙いは違う事無くプロトン砲に突き刺さり、TWの背から白煙が上がる。
 背中を焼かれ苦鳴を上げるTWの口に、勢い良く捻じ込まれる鉄塊。

「我が主砲にその巨体は耐えられるか?」

 不敵な笑みを浮かべた藍紗は、すかさずトリガーを引いた。

――ズボゥンッ!!

 大出力のM−12帯電粒子加速砲の砲弾は、TWの内臓という内臓を焼き尽くし、背後へと抜けた。
――確認するまでも無く、即死。
 藍紗は目もくれずにビームコーティングアクスを引き抜くと、僚機の六堂と共に次の獲物へと向かう。

「行くぞ源治殿、近接戦こそ漢女(オトメ)の花道よ!!」
「――応ッ!! 藍紗、行け! 俺が援護するッス!」

 六堂が放つスラスターライフルの援護を受けながら、藍紗のアンジェリカは戦斧を振りかざした。

「はいっ、動かないで下さいね〜」

 後方の須磨井機から多目的誘導弾が吐き出され、TWへと降り注ぐ。
――断続的に響き渡る爆音。

「味方を撃たせやしねぇです。てめぇの方が撃たれやがれ、です」

 続けて誘導弾の爆炎を煙幕にシーヴが前進し、伊佐美に続いて二匹目の砲塔をスナイパーライフルの弾丸で叩き潰した。
 そして続けてレーザーガトリングの弾幕が叩き込まれ、側面の甲羅を砕き、柔らかい体を晒させる。

「獄門、叩き斬りやがるですよ」
「名付けてチーム紅白なんだよー」

 彼女の呼び掛けに答え、ペアを組んでいた獄門がディフェンダーを突き刺した。
――そして、肉を切り裂きながら一気に駆け抜ける。
 TWはたまらず内臓を撒き散らしながら絶命した。


 TWは傭兵達の連携の前に次々と屠られていく。
 これ以上はやらせまいと、TWの陰からゴーレムの集団が姿を現した。
 ゴーレムのショルダーキャノンが火を吹き、ライナルト隊へと砲弾の雨が襲う。
――しかし、それらは全て鉄の城砦によって阻まれる。
 セミーサキュアラーを構えた砕牙の雷電が砲弾を叩き落し、堅牢な装甲で受け止めたのだ。
 砕牙はすかさず手近な一体にスラスターライフルを放ちながら接近する。
 そこにカウンター気味に振るわれるゴーレムのディフェンダー。

――シュパンッ!!

 だが、敵の刃は雷電の腕から伸びたスパークワイヤーによって絡め取られ、ゴーレムはワイヤーからもたらされる高圧電流に悶える。
 砕牙は容赦なく半月刀を叩き込み、一瞬にしてゴーレムを地面の残骸に変えた。

「アンタらに怪我されちゃ、ミツルギ大佐に怒られちまうってばよ」
『――済まんな。だが、我々を侮って貰っては困る』

 ライナルト隊の面々に向かって、白い歯をむき出しにして笑いかける砕牙。
 エリシアはそれに笑顔で答えると、隊員達に向かって叫ぶ。

「――散っ!!」
『――了!!』

 隊員達は一斉に叫ぶと、ゴーレム達を一体ずつ複数で取り囲んだ。
 一機一機は強くは無いが、その錬度は非常に高い。
 一対多を徹底し、ゴーレム達を孤立させて連携する事を許さない。

「――リロード!!」
「――了!!」

 ライナルト隊はエリシアを頭にした一つの生き物のように動き、敵を追い詰める。
 軍曹がリロードのために後退すると、そこにすかさず伍長がカバーする。
 攻撃は絶える事無く続き、あっという間に二体のゴーレムが爆散した。
 その手際に、砕牙は思わずひゅうっ、と口笛を鳴らした。

「こりゃ、負けてらんねぇってばよ!!」

 セミーサキュアラーを構えながら、砕牙機は残る二機に向かって飛び掛った。


――ピピピピピピ‥‥。

「こいつは‥‥っ!!」

 TWの砲塔を潰しきり、殲滅せんと飛び掛った伊佐美機のレーダーが、異常な振動を感知する。
――反応は‥‥シーヴ機の真下!!

「――下だフェルセン!! 避けろっ!!」
「‥‥!!」

 伊佐美の叫びと同時に、凄まじい地響きと共に地盤が捲れ上がった。
 体中に棘を生やした巨大なミミズ――アースクエイクだ。
 咄嗟にバーニアを噴射させて飛び上がったシーヴの岩龍をEQが今にも飲み込もうとしたその瞬間――、

「おイタが‥‥過ぎますよっ!!」

――ゴガァンッ!!

 轟音と共にライトニングハンマーをEQに叩き付けた須磨井の顔は、それでも笑っている。
 激痛に身を捩ったEQの口に、シーヴはレーザーガトリングをありったけ叩き込んだ。

――キシャアアアアアアアッ!!

 奇声を上げて大きくのたうつEQ――だが、シーヴの攻撃はそれだけに留まらない。

「――くたばりやがれです」

 そのまま空中でヒートディフェンダーを手にしたかと思うと、EQの頭部目掛けて渾身の力と共に振り下ろした。
 夥しい量の血飛沫が上がり、動きが目に見えて鈍る。
 そこにライナルト隊と傭兵達の集中砲火が殺到し、EQはあっという間に血祭りに上げられた。

『‥‥大尉、アレって本当に私と同じ機体なんですか?』
「残念ながらな‥‥そもそも素組の岩龍とアレを比べるのが間違いというものだ」

 その光景を見ていた岩龍の女性パイロットの呟きに、エリシアは苦笑で答える。

(「岩というより、最早鋼だなあれは――」)

 シーヴの岩龍――いや、「鋼龍」を見つめながら、エリシアは傭兵の機体の持つポテンシャルの高さに溜息を吐くしかなかった。


 程無くして残るもう一匹のEQも顔を出した所に全戦車からの帯電粒子加速砲の一斉射撃を受けて怯んだ所を、六堂と砕牙によってグレネードを口に放り込まれ、内部から焼き尽くされる。
 それから数分後、傭兵達とライナルト隊の面々は敵の第一陣を壊滅させる事に成功した。
――だが、レーダーには未だに後方から近付きつつある敵の残存勢力の反応がある。
 それらがこの戦域に到達する前に、傭兵達は弾薬補充のため、後方の補給コンテナへと向かうのだった。



 敵の増援の数は第一陣よりは少数であり、傭兵達の実力の前では明らかに力不足であった。
 しかし、第二陣、第三陣、第四陣と続けば脅威となる。
 五回目の増援を相手取る頃には、傭兵達とライナルト隊の兵士達の疲れはピークに達していた。
 機体の損傷も積み重なり、ライナルト隊のKV10機のうち4機と、M−1戦車15両の内5両が損傷拡大によって撤退を余儀なくされていた。
 戦線も様々な種類の敵が入り混じる混沌と化している。


 ホールディングミサイルをTWに叩き込んで砲塔を潰した伊佐美機の横手から、ゴーレムが剣を振り上げて襲い掛かる。避け損ねてディアブロの装甲が削り取られるが、伊佐美の心は揺らがなかった。

「ハッ、ナンパなら他をあたりな!」

 ガトリングを放ちながら後退した伊佐美はストライクレイピアを抜き放ち、ゴーレムの肩口に突き入れる。
 僅かに動きが止まった所に、砕牙のスラスターライフルの弾幕が襲い掛かった。
 一瞬にして蜂の巣と化して倒れ伏すゴーレム。
 だが、その間にTWの一体がプロトン砲を発射した。
――その射線上には、M−1戦車の隊列。

「――しまった!!」

 伊佐美が叫ぶが、既に手遅れ。
 プロトン砲の奔流が迸り――その間に割って入ったカルマのウシンディによって受け止められた。

「――くううっ!!」

 プロトン砲の直撃を受けたアイギスが、次第に赤熱し始める。

「頼むウシンディ‥‥耐えてくれ!!」

 PRMを防御に使用し、ひたすら耐えるカルマ。
 己の愛機は、それにしっかりと応えてくれる。
 プロトン砲の奔流が収まった後でも、ウシンディは凛として立っていた。

「――やっぱり、最後まで油断は出来ないものだねェー」

 そのTWの砲塔を叩き潰しながら、獄門が憮然と呟く。
 それから能力者達は一切油断する事無く、徹底的に敵を殲滅し尽したのだった。


「勝利を祝って、乾杯ッス!!」
「おうっ!! 乾杯っ!!」
「今日の酒はアタシのオゴリだよ。皆ジャンジャン呑んでくれ!!」
「――だからなイサミ‥‥君は未成年では無かったか?」
「というか獄門たちの殆どが飲めないと思うんだけどねェー」
「‥‥まぁ、甘味がありやがるから問題ねぇでありますが」

 六堂が軍曹と杯を打ち鳴らし、ご機嫌の伊佐美をエリシアがたしなめる。
 獄門とシーヴは妙な友情を深めながら、羊羹をパクついている。

 戦いが終わり、任務を正規軍に引き渡した傭兵達とライナルト隊の面々は、後方の基地で宴会を催していた。

「――良し、捌けたぞ!! たらふく食べるが良い」

 藍紗が自ら持ち込んだ刺身に、兵士達が驚きの声を上げる。

「コイツが、ジャパンのサシミってやつか‥‥おい伍長!! ソイソース持って来い!!」
「嫌ですよ軍曹!! その間に無くなったらどうするんですか」
「ほれほれ喧嘩するでない、まだおかわりは沢山あるからのう」

 藍紗の言葉に歓声を上げる兵士達。
――その傍らで、カルマは戦車隊の兵士達に囲まれていた。
 身を挺して戦車隊を庇ってくれた事に対して次々に感謝の言葉をかけられ、少し戸惑い気味のカルマ。
 しかし、その表情は仲間を守れた事の嬉しさに満ちている。
 そして宴の真ん中では須磨井が兵士達と肩を組んで笑い合っていた。

「――これが、おじ様の理想‥‥か」

 正規軍と傭兵とのあらゆる垣根を無くし、戦場でこうして喜びを分かち合える事。
――その素晴らしさを改めて肌に感じながら、エリシアは勝利の美酒を呷った。