タイトル:【DR】狂童とサムライマスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/28 03:47

●オープニング本文


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●アグリッパの結界
 地上要塞ラインホールド。
 その名から想起するイメージに反して、その最高速度はマッハ1以上と推定されていた。
 されてはいたが、傭兵を主体としたウダーチヌイ偵察作戦の完了後、UPC正規軍による第2次偵察が開始された頃には既にウダーチヌイにはラインホールドが鎮座していたという事実は驚愕せざるをえないであろう。
「奴は東京にいたんじゃないのか!?」
「動いたって情報は来ていたさ‥‥だがな、冗談だろう? あのデカブツがもうここにいるなんてっ」
 UPC極東ロシア軍のKVパイロットはまさに驚愕していた。
「くそっ! 撃ってきたぞ!」
「落ち着けっ、この距離でそうそう対空砲火があた‥‥うわああっ!」
 無数の対空兵器が偵察部隊のKVに襲いかかり、一機が撃墜される。十数km離れたラインホールドから恐るべき精度で対空兵器が飛行中のKVに放たれているのである。
「3番機、ミサイルに追いかけられているぞ! 避けろ!」
「とっくにやってる!」
 押しつぶされるような強いGに耐えながら急旋回を行い、追尾するミサイルを引き離すKV。
「よし! 引き離して‥‥なにぃ!? ミサイルが引き返してくるだと」
 だが、安堵したのも束の間であった。パイロットが見たものは引き離したミサイルが再び自分に向って飛来してくる光景であった。
 パイロットはミサイルを回避し続けるが、何度でもミサイルは蛇のようにしつこく絡みついてくる。連続する激しい回避運動に意識がふっと遠くなった時、機体は爆散していた。

「――以上が第2次偵察隊の生き残りによる報告だ」
 ヤクーツクのUPC軍基地の一室。UPCの将校が偵察部隊の報告を傭兵達に説明している。
「その後、第3次偵察隊を出撃させ、敵の防衛システムについて探らせた。その結果、ラインホールドの周囲に展開する攻撃補助装置の存在が確認された」
 映写機でスクリーンに映し出される写真。バグア軍特有の生物的なラインを持つものの、パラボラやアンテナ類が目立つその兵器はおそらくセンサーの集合体とも言うべき装置だと想像できる。
「この装置の総数は不明であるが、少なくともラインホールドの周囲20〜30kmの間に6基が確認されている。この6基を線で結んだ六角形の内側では、既存の戦闘においてはあまり考慮されることのなかった数十km単位での長距離対空迎撃が高い精度で行われ、また敵ミサイルの追尾機能が尋常でないほど向上している」
 スクリーンに映されるウダーチヌイ周辺の地図に6つの光点が浮かび上がり、それを結んだ六角形の内側が赤く塗りつぶされる。それはまさに対空兵器による結界とでも言うべきものである。これでは手も足もでないのではないか。そんな不安が傭兵達によぎる。それを察したように将校は言葉を継ぐ。
「だが、付け入る隙がないわけではない。この六角形の外側への効果は比較的高くないものと推定される。そこで諸君らに命じるのは、大規模作戦発動に先んじて、この6基の装置を破壊し、ラインホールドへの接近を可能にすることである」
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 ラインホールドの東南東――アグリッパの黄道十二宮・ウェルキエルに位置する場所では、UPCのKV隊による一斉攻撃が行われていた。

「行けっ!! 奴が補給をしている今がチャンスだ!!」

 地上に降りる事でラインホールドの攻撃補助を行うアグリッパ――だが地上に降りれば耐久力や機動力が減る事が事前の偵察で分かっている。
 そして補給中で動けない今こそが好機。
 アグリッパが成す六角形の外側から行われる砲撃が、護衛のゴーレムやHWを次々と打ち砕いていく。

「今だ!! 撃――!?」

 確実に破壊するため、更に踏み込んでいく兵士達――だが、そんな彼らを遮るように現れる影。
 八本足の馬型ワーム・スレイプニルに乗った鎧武者姿――サムライゴーレムだ。

「――何だと!?」

 予想外の敵の姿に驚愕する兵士達。
 その思考の間隙を衝いて、サムライゴーレムが突進を開始する。
 爆槍が唸りを上げ、蹄が踏み砕く――あっと言う間に数機のKVが残骸と化した。

「取り囲んで時間を稼げ!! その間にアグリッパを!!」

 六機がかりでサムライゴーレムを取り囲み、一斉に砲撃を加える兵士達。
 その間に残りの者達がアグリッパへと駆け寄って行った。
 しかし引き鉄を引こうとしたその瞬間、先頭にいたKVのコクピットは桃色の光に打ち抜かれて爆散した。

「まだ伏兵が‥‥」

 アグリッパの正面の地面が地響きを立てて開いたかと思うと、そこから巨大な人型が姿を現す。
 最初に目に映るのは、KVも握りつぶせるのではないかという巨大な腕と、その巨体を支える四本の足。
 中央には通常サイズのゴーレムが収まっていた。
 その圧倒的存在感は、兵士達に恐怖の念を植え付けるには十分すぎた。

「――全機、散れっ!!」

 必死に叫ぶ隊長の叫びはあまりに遅い。
 巨大ゴーレムは一気に間合いを詰めると、正面の敵に向かって拳を叩き付ける。

――グシャアッ!!

 圧倒的質量を叩き付けられ、一機が文字通り潰された。
 瞬間的な動きは、その巨体からは考えられないほどに速い。
 その分旋回性能は低い――そう見越した残りの兵士達は、回りこんで巨大ゴーレムの側面から攻撃を仕掛けようと試みる。
 だが、攻撃をしかける前にサムライゴーレムが駆け寄り、回り込んだ者達を次々と血祭りに上げた。
 十数機いたKV隊だったが、一瞬の邂逅によって残り数機にまで減らされていた。
 その上、後方からは無数のCWの群れが現れる。

「くそっ!! 撤退だ!!」




 CWのジャミングに加えて、エース級の機体が現れたのでは最早太刀打ちが出来ない。
 UPC軍は一時撤退し、態勢を整えるまでの間にアグリッパの障害を排除するよう、傭兵達に指令を下すのだった。




 UPC軍が撤退した戦場ではサムライゴーレムと巨大ゴーレム、そして無数のCWの群れだけが存在していた。
 そのコクピットには、ハットリ・サイゾウとアニス・シュバルツバルトの姿がある。

「――久々の実戦はどうかナー? サイゾウ君?」
「‥‥ま、上々やな‥‥アンタこそ大丈夫なんか? 試作品なんやろ、それ」

 サイゾウはアニスのゴーレムが纏う『ソレ』を指して逆に尋ねる。
 それは彼女が開発したゴーレム専用パワードスーツであった。

「んー、まだ改良の余地はあるケド、中々調子が良いネ。
 思った以上の出来だヨ、この『ギガース』は」

 満足げに頷くと、アニスは早速先程のデータを纏め始める。
 その様子は、まるでアグリッパ防衛などどうでもいいといった風情である。

(「‥‥これが、ワイの『高み』への第一歩や」)

 そしてサイゾウも、ただ己の野望に近付かんがため闘志を燃やしていた。

●参加者一覧

如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN

●リプレイ本文

 凍りついた大地の上、灰色の雲が覆う空を能力者達のKVが飛んで行く。

「ダイヤモンドリング‥‥如何に強固でも、貫き砕く」

 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)の心は、寒さとは裏腹に静かに熱く燃えている。
 シュテルンのコクピットの中で、赤崎羽矢子(gb2140)はウチダーヌイへと手を翳す。

「ダイヤモンドリング‥‥あたしの手には大きいか。
 だからって、奴らにくれてやる訳にはいかないけどね」

――そこが貴様らの居場所でない事を思い知らせてやる。
 赤崎はまだ見ぬ敵に対して激しい闘志を燃やしていた。

「今回の目標、アグリッパ、だっけ‥‥あれを落とさなきゃ大ピンチかぁ‥‥責任重大だ」

 鷲羽・栗花落(gb4249)は今回の任務の目標――ラインホールドの防御機構「アグリッパ」のデータを見て、この作戦の重大さを改めて認識する。

「‥‥打ち損じると後の作戦に響く。
 ここで仕留めなければ‥‥そのためにも――」

 アンジェリナ(ga6940)もこの任務を成功させようと神経を研ぎ澄ませる。

「――でも問題は、それを守ってる敵ですね」

 一人大地を走る宗太郎=シルエイト(ga4261)の脳裏に浮かぶのは、バグアのサムライと、人の命を弄ぶ狂童の姿。

「赤いサムライゴーレムがアグリッパを守ってる‥‥?
 ふむふむほうほうそーですかー‥‥オッケー、いつぞやのお礼でもしに行きますか!!」

 葵 コハル(ga3897)が右拳を左手に打ちつけ、サムライとの対決に気炎を上げていた。
 かつてドイツの森で彼と戦い、煮え湯を飲まされた記憶を決して忘れはしない。
 そして眼下に見え始める、アグリッパ「ウェルキエル」の威容と、それを守る敵の姿。

「少なくともアグリッパだけは破壊しませんと、作戦に影響が出ますね」

 如月・由梨(ga1805)は自分が相手にする事になる敵――サムライに対して、鋭い視線を送る。
 この一戦にも人類の未来がかかっている。
 二兎を追ってどちらも逃す訳にはいかないのだ。

「あたしにぁ、失敗に怯え悔やむ時間はない。ただただ遅れを取り戻すだけ。
 そして今目前の敵をぶっ潰す時間さえあればいい」

 葵 宙華(ga4067)の呟きに、能力者達は覚悟を決める。
 もうここまで来てしまえば――後は往くのみ。
 能力者達は次々とロシアの凍った大地へと舞い降りていった。


『やっほー♪ 能力者の皆、わざわざボクの実験のために集まってくれてありがとネー』

 地上に降りて早々に、通信機から甲高い少女の声が響く。

「‥‥相変わらず不快なガキだな」

 人を小馬鹿にしたようなアニスの態度に、宗太郎は顔を顰めた。
 だがなおも口を開こうとしたアニスをサイゾウが爆槍を突き出して遮った。

『無駄口はそこまででええ、始めるんならさっさと始めようやないか』
『むー、サイゾウ君のケチー。
 ‥‥まぁいいや、早くボクもちゃんとした獲物で試したいしネ』

 アニスはゴーレム専用パワードスーツ『ギガース』を前進させ、両腕を地面に付ける。

――ズンッ!!

 それだけで地面が揺れるかのような轟音が響き渡った。
 サイゾウもスレイプニルの馬首を能力者達に向けると爆槍を抜き放つ。
 能力者達も応じ、それぞれの得物を構えた。

「――我が名は如月・由梨‥‥参ります!!」
『ワイは‥‥誰でもええ。アンタ等を倒すだけの、ただのサムライや!!』

 如月とサイゾウ、二人の名乗りが合図となり、両者は一斉に動き出した。


 能力者達の構成は、A班に如月、コハルのディアブロ、宙華のイビルアイズ「ヴジャド」。
 B班にはホアキンの雷電「Inti」、アンジェリナのミカガミ「リレイズ」。
 C班には宗太郎のスカイスクレイパー、赤崎のシュテルン、鷲羽のロングボウだ。

「さてさてまずはジャマなキューブから落ちて貰いましょーか!!」

 コハルの掛け声と共に、能力者達は一斉にCWへと照準を合わせる。
 最も厄介なのはやはりジャミング――そう判断しての攻撃だ。
 しかし次々と放たれるライフルやミサイルの弾幕は、距離が離れているせいで思うように当たらない。
 そこに雨のように白光が降り注いだ。

「ぬうっ!!」
『キャハハハハっ!! それそれそれ〜♪』

 直撃を受けたホアキンが呻きを上げる。
 見ればそれらは前方のギガースの肩から、胸から放たれたフェザー砲。
 一撃一撃がまるで絨毯爆撃の如く徹底的、そして針穴を通すかのように正確だ。
 ジャミング下の機動では、高い実力を持つ能力者達を以てしてもかわしきれない。

「これ以上はやらせない‥‥ヴジャドRC展開! 魅了せよっ!」

 すかさず宙華が愛機「ヴジャド」のロックオンキャンセラーを発動させる。
 ヴジャドから放たれた微弱な重力波の乱れは、ギガースの照準を狂わせた。
 フェザー砲の照準が僅かにずれ、弾幕に隙間が出来る。

「時間はかけられない‥‥さっさと落ちて!!」

 鷲羽のロングボウがスナイパーライフルを構え、放つ。
 音速の弾丸は狙いを違う事無く、CWの一機を打ち貫いた。

「最終目標はラインホールド。小娘や勘違い外人なんて相手してる暇無いっての!」

 続けて赤崎機がスラスターライフルを乱射する。
 点では無く面で放たれた弾幕に曝され、更に一機のCWが蜂の巣に変わった。
 宗太郎も負けじとホールディングミサイルを放ち、一機を爆散させる。

「――これで残り三機!! ちゃっちゃと行こうぜ!!」


『これ以上はやらせんわいっ!!』

 言うが早いか、サムライゴーレムが猛烈な勢いで突進してくる。
 だが先んじてホアキンの雷電「Inti」から煙幕弾が放たれ、A班の前を墨のような煙幕が覆う。
 これならばそう簡単には当たらない筈――だった。

『――味なマネしてくれるや無いか‥‥せやけど、これだけ近付けば変わらへん!!』

 煙幕などお構いなしに、猛然とサイゾウが突っ込んでくる。
 咄嗟に回避を試みる如月とコハルだが、馬の蹄に蹴られてたたらを踏んだ。

「このおおおおおっ!!」

 宙華機がスラスターライフルの弾幕を馬の足に向かって放つが、サムライゴーレムは馬を巧みに操ってその悉くを避け、勢いを殺す事無く突き進んだ。

――ズガァッ!!

 轟音と共に爆槍がヴジャドの胴体に深々と突き刺さる。
 すかさずトリガーが引かれ爆炎が上がった――ヴジャドは一瞬にしてスクラップと化す。

「これ以上の無粋はしないわ‥‥由梨ちゃ、コハルちゃ‥‥頼んだ‥‥わよ‥‥」

 宙華は気力を振り絞ってそれだけを伝えると、意識を手放した。

「宙華さんっ!!」
『――さぁ、次は誰や?』

 冷たい声が響き、サムライゴーレムが能力者達を睥睨するかのように見下ろす。
 それに応えたのは、如月とコハルの二人。
 元々サイゾウの足止めが彼女達の役目、そして武人として応えない訳には行かない。

「いつぞやの借りを返しに来させて貰った! 葵顕流葵コハル、参る!!」
「‥‥私たちとのお相手、お願い出来ますでしょうか?」
『――どっちも見た事のある奴やな‥‥相手にとって不足無し!!』

 如月とコハルが、ハイディフェンダーとソニックブレードを構え、サイゾウが爆槍を旋風のように振り回す。
 女武者二人と荒ぶる武人が今ここに激突した。


 それとほぼ同時に、鷲羽機のスナイパーライフルが最後のCWを打ち砕く。

「――行くぞ!!」

 ホアキンの号令と同時に、B班とC班が前進を開始した。
 サイゾウの脇を駆け抜けながら、宗太郎が通信機越しに軽口を投げる。

「モテるねぇ、サムライ。甲斐性のいいとこ見せねぇと、名が泣くぜ?」
『‥‥何なら分けたろか? 正直腹が一杯や』
「‥‥生憎とこっちは彼女持ちでね!!」

 宗太郎自身、一人の武人としてサイゾウと戦えない事を少々残念に思っていた。
 だが、今はアグリッパを破壊する事が優先だ。それに――

「‥‥ま、走ってりゃいつかは戦えるか!!」

 一声叫ぶと、宗太郎は仲間と共にブーストを吹かし、フェザー砲の嵐の中に飛び込んでいった。


 ギガースの胸の砲塔が輝いたかと思うと、収束フェザー砲の奔流が迸る。
 辛うじてかわすと、そこに狙い済ましたかのように肩の拡散フェザー砲が撒き散らされた。

「キャハハハハッ!! 消し飛べ消し飛べ〜♪」

 装甲が次々と砕かれ、コクピットの能力者達を激しい振動が襲う。
――それでも彼らは前進する事を止めようとはしない。

「こんなところでやられるもんか!!」
「てめぇの遊びに付き合ってる暇は無ぇ! そこをどけぇ!」

 ボロボロと装甲を剥がしながらもフェザー砲を掻い潜ったC班の三人が、更に踏み込んでいく。

「‥‥それじゃあどかせてみせなヨ、このギガースをサ!!」

 四脚の巨大な足を踏みしめて圧巻の巨人が迫る。
 それを遮る二機――B班のホアキンとアンジェリナだ。

「太陽の裁きを受けろ」

 ホアキンのIntiが放ったM−12強化型帯電粒子加速砲が火を噴き、まるで太陽のように辺りを照らし出した。
 アニスは咄嗟にギガースの腕で防御するが、その桁外れの威力は分厚い装甲を大きく抉り取る。

「ここからは攻めさせてもらう。リレイズ――『ADVENT』」

 アンジェリナのミカガミ「リレイズ」の機体を淡い銀光が包み込む。
 彼女の手によって組まれた戦闘プログラムが、機体の性能を向上させる。
 そして素早くギガースの側面に回りこむと、バルカンを叩き込みつつ接近し、機刀「玄双羽」で切りつけた。

「チョコマカとやかましいなぁ!! ――おっとぉ!?」
「沈め! 巨人!」

 ギガースがリレイズに向き直ろうとすると、そこにIntiがすかさず踏み込み、脚に向かって剣翼を叩き込んだ。
 その一撃は巨大な拳に阻まれたが、ギガースの足と砲撃が止まる。
 その隙に、C班の三人がアグリッパへ向かって行く。

「――ちぇっ‥‥まぁいいや。キミ達を叩き潰して後を追えば済む事だヨ!!」

 アニスはギガースの照準をホアキンとアンジェリナに合わせると、フェザー砲を一斉に解き放った。


――ガッ!! キィン!! ガギィン!!

 如月が爆槍を断ち切ろうと切り込むと、サイゾウが槍を斜めにして受け流す。
 繰り出された爆槍を受け止めようとした盾ごと、コハル機は腕を吹き飛ばされるが、お返しとばかりに馬の脚を数本纏めて切り飛ばした。
 その攻防は一進一退、正しく互角。

『――やるな姉ちゃんら‥‥』
「さすがに強いですね‥‥もっと戦ってみたくなりますよ!」

 雄々しく叫ぶと、如月はハイディフェンダーで神速の突きを放つ。
 それは爆槍の防御を掻い潜り、馬の腹に深々と突き刺さった。
 スレイプニルの眼が光を失い、ぐらりと傾く。
 それにつられて上に乗っていたサムライゴーレムのバランスも崩れる。

「――喰らえぇぇぇつ!!」

 それを逃さず、コハル機はすかさず踏み込んでソニックブレードを振りかぶった。
 超振動の刃が唸りを上げ、爆槍の柄が断ち切られる。
――だが、それだけだった。

「――!?」
「‥‥馬がおらんかったら、ワイの負けやったな」

 コハルが驚愕して見上げると、そこには地面に突き立てられた爆槍の石突の上に立つサムライゴーレムの姿。
 あの一瞬の攻防の中でサイゾウは慣性制御を使い、爆槍を犠牲にして渾身の一撃をかわしていたのだ。

「負け、か‥‥」
『――いや‥‥この勝負、本当だったらアンタの勝ちや』

 それはサイゾウの心からの賛辞。
 一瞬の間の後、サムライゴーレムが落ちてくる――その手は、腰の雪村にかかっていた。

 コハルが脱出装置を起動させるのと、雪村がディアブロを真っ二つにしたのはほぼ同時だった。

 それを見た如月の目の前が、怒りで真っ赤に染まる。

「よくもっ!!」

 激情に任せて奮われた苛烈な斬撃は、サムライゴーレムの腕を肩口から叩き落した。

『ちぃっ!?』
「逃がさない‥‥!!」

 サイゾウはすかさず飛び退くと、生き残った腕で刀を抜く。
 如月がそれを追いかけ、切りかかる。
 再び両者の間で銀光が舞った。


 ギガースとB班二人の戦いも、佳境を迎えようとしていた。
 まるで壁と見紛うばかりの巨大な掌が迫る。
 片腕を犠牲にしつつ掻い潜ったアンジェリナが雪村を奮う。
 ギガースの指が数本落とされ、大地を抉った。

「ロサ‥‥今だ!!」
「承知した!!」

 アンジェリナの呼び掛けに応え、反対側から攻めていたホアキンが飛び出す。
 フェザー砲をアイギスで受けると、ロンゴミニアトをギガースの腕へと叩き込む。

――ゴバァッ!!

 途轍もない爆炎が上がり、巨大な腕が半ばから弾け飛んだ。
 そしてすかさず懐に潜り込み、アンジェリナと共に四本の脚目掛けて渾身の一撃を放った。

「こっちも只ではやられないヨー!?」

 脚を失い、バランスを崩して片腕を着くギガース――だが、倒れこむ寸前に収束フェザー砲を放つ。
 その先にはリレイズがいる――力を使い切ったアンジェリナに、それを避ける術は無かった。

「‥‥後は任せたぞ」

 機体の半身を吹き飛ばされ、地面に倒れるリレイズ。
 C班の三人へと望みを託すと、アンジェリナの意識は闇へと沈んだ。


 C班の三人の前に、アグリッパの威容が姿を現す。
――自分達をここまで押し出してくれた仲間達のために、決してしくじれない!!

「こいつさえ落とせば‥‥いっけー!!」

 鷲羽はロングボウの砲門を一斉に開くと、多目的誘導弾をばら撒く。
 爆炎が渦巻き、装甲が崩れていく。
 アグリッパはレーザーを放ち抵抗を試みるが、赤崎はそれに構わず、シュテルンのレーザーガトリングとスラスターライフルでそれを叩き潰した。

「物理と非物理どちらがお好みかしら? 遠慮しないで全部持っていきなよ!!」

 そこに宗太郎のスカイスクレイパーが踏み込む。
 雪村が切り裂いた装甲の隙間に、爆槍が叩き込まれた。

「決めるぞスクレイパー!! 我流奥義‥‥穿光っ!!」

 ブーストの推力と、あらん限りの寸頸が乗せられたその渾身の一撃。
 アグリッパが重々しい唸りを上げる。
 それが断末魔となり――次の瞬間、アグリッパはその機能を止め、爆散した。


――天使は、死んだ。


『あーあ‥‥やられちゃったネ‥‥』

 アニスはギガースから白銀のゴーレムを切り離すと、手にしたスイッチを押す。
 周辺に仕掛けられた煙幕によって、辺りは白い闇に包まれた。

『サイゾウ君、帰るヨー。もう義理は果たしたし、これ以上怪我するのもつまんないしネ』
『承知――また、アンタらと死合いたいモンやな』

 撤退を開始するアニス達。
――それを追いかける力は、能力者達には残されていなかった。
 誰の機体も半壊状態、一人として無事な者はいないという惨状である。

「‥‥爺さんに宜しく」

 去っていくアニス達の背に、ホアキンが彼女達の師へと伝言を伝える。
 それが精一杯なほどに、歴戦の傭兵である彼も疲れきっていた。
 だが、能力者達はそんな体を引き摺りながら、帰還するために空へと上がっていく。

「‥‥希望は、繋がりました」

――人類にとって大きな勝利を、仲間達へと伝えんがために。