●リプレイ本文
落日の中を飛ぶ能力者達の視線の先に、バグアによって滅ぼされ、廃棄された旧市街地が姿を現す。
長い影を生み出す瓦礫の山は、そこで死んでいった者達の墓標の如し。
「戦場で散った同士のために‥‥やるべき事は決まっている」
ここで無残にも散っていったという同胞達を思い、八神零(
ga7992)は決意を込めて呟く。
「‥‥」
セフィリア・アッシュ(
gb2541)は、無言で死者たちに祈りを捧げていた。
その表情は能面のように動かないが、その心は正しく炎の如く燃え上がっている。
流 星之丞(
ga1928)もそれに倣う――バグアを打ち倒し、少しでも世界を平和に近づけんがため。
「貴重な男子を葬った頭痛の種は、全部燕の女王が刈り取りますわ!」
‥‥藤田あやこ(
ga0204)の言葉は少々的が外れている気がしないでもないが、確かに彼女も多くの人間(男)の命を奪ったバグアに対して、強い怒りを抱いていた。
「――しかし今回の敵、いやらしい編成だな。さてどう対応するか‥‥」
「厄介だなぁ、もう」
M2(
ga8024)と龍深城・我斬(
ga8283)が眉根を寄せて呟く。
UPCの部隊を壊滅せしめたという今回の敵の編成が、能力者達の緊張感を高めていた。
敵はゴーレム、HWを中心に、CW、MR、MIといったジャミングワームから成る混成部隊。
正攻法では攻略不可能と言える、厄介な相手である。
「絡め手ばっかとは‥‥でもやるしかねぇか!!」
拳を打ち合わせて、砕牙 九郎(
ga7366)が勇ましく吼えた。
確かに不安要素は多々あれど、ちゃんと作戦は考えてある。
「確かにそうだな‥‥よし、行くぞ!!」
ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)の呼びかけに応じ、能力者達は市街地へと近付いていった。
能力者達の内、流とM2のウーフー、砕牙と龍深城の雷電、セフィリアのアヌビスは旧市街地から少し離れた場所に降り立ち、藤田のアンジェリカ、八神のディアブロ「フェンリル」、ヴァレスのシュテルンはそのまま飛び続ける。
空戦班の三人がHWとCW共を誘き寄せてこれを撃破、然る後に地上班が旧市街地へ侵入し、上空からのナビに従って敵を殲滅する、という作戦だ。
空戦班の三人が旧市街地の上空に侵入すると、突然レーダーが乱れ、脳が焼け付くような頭痛が走る。
前方を見れば三機のHWによる編隊とCW、MRの群れの姿。
能力者達に気付いたHW達は一気に距離を詰め、MRが増殖を開始する。
「MRはひとまず置いておく‥‥HWとCWを優先的に叩くぞ」
「了解!! いくわよ仇!!」
八神の指示に従い、藤田がスタビライザーを起動させながら前進し、高分子レーザーの弾幕をHW達に叩き付ける。
だがジャミングの影響で照準がずれ、レーザーの火線はHWに当たる事無く通り過ぎた。
やはり厄介なのはジャミング――ヴァレスはそう判断し、CWに真っ先に狙う。
「十二の翼、伊達や酔狂と思うな!!」
アハトアハトが唸りを上げ、CWの体に吸い込まれていく。
――だが、仕留め切れない。
CWのジャミングの影響で知覚兵器の威力が減衰しているのだ。
「くっ!! もう一撃‥‥」
果敢に再び攻撃を仕掛けるヴァレス――だが、その間にHWの接近を許していた。
プロトン砲の雨が容赦無く降り注ぎ、シュテルンの装甲を蹂躙する。
激しい衝撃がヴァレスを襲い、装甲の破片が剥がれ落ちていった。
HWは追い討ちをかけようとヴァレスを追い縋るが、次の瞬間真っ二つに切り裂かれて爆散した。
八神がすれ違い様にソードウィングで切り裂いたのだ。
「D−02よ華麗な鞭となれ!!」
そして藤田がスナイパーライフルD−02で援護する。
威力は小さいが、ヴァレスの取りこぼしたCWを撃破するには十分だ。
「すまん八神、藤田!!」
「‥‥気にするな――っ!?」
しかし敵は軽口を許してはくれない――残りのHWが迫る。
作戦のために積んだ「ある兵装」のおかげで動きの鈍っている八神機が、あっという間に取り囲まれる。
――襲い掛かるプロトン砲と、FFを纏った体当たり。
直撃を喰らい、八神の全身が何度もコクピットに叩きつけられた。
それでも八神は流れ出る額の血を拭いながら、不敵に微笑む。
「僅かに機動が鈍ったとて、このフェンリルがそう簡単に落ちると思うな!」
吼えると同時にアグレッシブフォースをさせると、八神はHWに向けてレーザーを打ち込んだ。
暁の空に、荒々しくも美しい爆炎の華が咲いては消えていく。
「残された建物とジャミングで、本当の迷宮のようですね‥‥行きましょう皆さん」
遅れる事数分、地上班は旧市街地へと進入した。
同じように能力者達を迎え撃とうと現れるCWとMR、そしてゴーレムの編隊。
濃密なジャミングが辺りを満たし、ウーフーに乗る流とM2がジャミングを中和しようと試みるが焼け石に水だ。
そしてゴーレム達は素早い動きで建物の影へと散っていく。
――それを追いかけようとした瞬間、能力者達の視界が歪む。
「む、視界が‥‥チィッ! ただでさえジャミングで頭痛えのにこれかよ」
龍深城が悪態を吐きながら、眩みそうになる目を必死に擦り付ける。
――彼らの視界には、先程まで味方がいた場所に立つゴーレム、そしておどろおどろしい化け物の姿があった。
まるで白昼夢のような光景に誰もが息を呑む――MIによる幻覚攻撃が始まったのだ。
本来ならばここで空戦班が上空からナビゲートする予定だったのだが、空戦班は未だに苦戦を強いられている。
ここは地上班のみで何とかするしかなかった。
『皆!! 落ち着いて声を掛け合いましょう!!』
『‥‥了解』
M2が全員に向かって外部スピーカーを使って呼びかけるが、彼自身パニックになりそうな己を必死に押さえつけるのに精一杯だ。
――無理も無いだろう。
レーダーは乱れて正確な情報は分からず、ジャミング下での頼みの綱である視界がこの状況である。
だが、敵は動揺が収まるのを待ってはくれない。
今まで建物の影に隠れていた敵が次々と姿を現し、能力者達の間に割って入る。
その姿は自分達と全く同じ姿であったり、名状しがたい化け物の姿をしていた。
――たちまち、誰が誰なのか分からなくなる。
『ペイント弾を打つぞ!! 当たったら声を掛けてくれ!!』
龍深城がペイント弾を詰めたMSIバルカンRを、手近な対象に向けて乱射する。
そしてペイント弾が当たった場合は各自申請し、応答が無かった場合は敵とみなして攻撃する手筈だ。
――返答は‥‥無い!!
龍深城はすかさずスナイパーライフルで狙撃する。
だが、敵は避ける事無く攻撃を受けると――そのまま龍深城に跳ね返してきた。
その影の正体はMRだったのだ。
「――ぐっ!!」
避けようにも不意打ちに近い攻撃、しかもジャミング下では成す術が無い。
直撃を食らってよろめく龍深城。
「龍深城さん!! くそっ、ジャミングが強すぎて――!!」
流は反応を返してこない影に向けてBCアクスを振るうが、回避されて再び建物の影に隠れられてしまう。
不用意に追いかければ各個撃破の恐れがあり、レーダーで追おうにも未だにモニターにはノイズが走るばかりだ。
「よっしゃ晴れた!! ‥‥と思ったらまたかよっ!?」
雷電の持つヘビーガトリングの弾幕が、中央の立法体を打ち砕く。
幻覚から逃れた砕牙がMRの親機の破壊に成功した。
だが再びMIの胞子が舞ったかと思うと、再び彼の視界を幻覚が覆う。
加えて親に当たるまでに加えられた反射によって、砕牙機自身も無傷では済まない。
「‥‥このままじゃ‥‥不味い‥‥」
セフィリアも散発的に襲い掛かってくる影の攻撃を、ルプス・ジガンティスクで受け止め、試作型機槍「黒竜」を叩き付けるが、寸前でかわされ、再び距離を取られる。
彼女の心の中に焦りが膨れ上がる。
――敵は積極的には攻撃せず、こちらを混乱させる事のみを重視して動いていた。
対するこちらの攻撃は常に後手、後手に回らざるを得ず、その上ジャミングの影響で回避は儘ならず、攻撃も中々当たらない。
MRはじわり、じわりとその数を増やして行き、その身で迷宮の壁を作り出した。
そしてMIによる幻覚は、能力者がエミタに順応していればしているほど強力に、そして巧妙なものへと変わる。
――このままジワジワと嬲り殺されるしか無いのか‥‥。
しかし、能力者達の頭の中に一瞬過ぎった絶望は、空からの叫びによってかき消される。
『――砕牙!! セフィリア!! 左前方のビルの陰にMIが一機だ!!』
「――!? ‥‥了解!!」
逡巡は一瞬の事だった。
砕牙とセフィリアが前進すると、そこにはKVの姿をした影が一つ。
しかし二人は躊躇う事無く引き鉄を引いた。
銃弾が影を引き裂き、影を爆散させる――飛び散った破片は、確かにMIのもの。
「女王様降臨!!」
「皆!! 遅くなって悪い!!」
遅れて空から舞い降りた藤田とヴァレスが、周囲に散らばっていたMRを打ち抜いていく。
彼らの一撃はいずれも中心となる親機を捉え、MRを文字通りただの壁へと変えた。
『こちら八神だ‥‥聞こえるか? これよりナビを開始する』
上空から聞こえてくる八神の声――それはフェンリルに取り付けられた巨大なスピーカー・ソニックフォンブラスターから発せられていた。
CWの数が減った事でジャミングも弱まり、能力者達は冷静さを取り戻す。
「無念に果てた英霊よ‥‥冥府の神の導きにより‥‥我を導け‥‥」
自らが駆る冥府の神(アヌビス)に呼びかけるセフィリアの声――反撃の狼煙が上がった。
地上に降り立った藤田とヴァレスにも、等しくMIの幻覚が襲い掛かる。
しかし、もう彼らは惑わされはしない。
天からの導きの声が、彼らをただ真っ直ぐ駆り立てる。
『――右前方、左後方、前方にMIを確認!!』
『了解!! 眼前の敵は、ただ打ち貫くのみ!!』
ヴァレスは最も近い場所にいた前方、右前方のMIに対して突撃し、前方のMIを回転しながら剣翼で切り裂いた。
続けて右前方のMIへと踏み込み、機杭エグツ・タルディを叩き込む。
傘を閉じて防御しようとするが、所詮は脆弱な装甲しか持たないMI。
一機が破壊され、もう一機が半壊状態となった。
飛びのこうとする生き残りのMI――だが、そこにM2機のマシンガンが降り注ぎ、今度こそ完全にスクラップへと変える。
「逃がさないよ、一匹もね」
――勇敢なる一撃が、幻想を打ち砕いていった。
彼らを阻もうとCWとMRがジャミングを発生させようとするが、横手から放たれた強烈な銃撃がそれを遮る。
藤田がアンジェリカを縦横無尽に操り、銃撃を加えつつ接近していた。
「決めるわよ、燕の女王様提供悪夢の乱舞!」
――耳障りな音を立てて、高速回転の刃が唸りを上げる。
藤田は走り抜けると同時にチェーンソー・金曜日の悪夢を思い切り叩き付けた。
金切り声を上げる刃が、半ば砕くようにCWの体を切断する。
「あたしの結婚相手候補を奪った罪、その身に刻みなさいっ!!」
「本当に恐ろしいのは人の心の中にある心理の穴なのかも知れません。
‥‥でも、僕達は絶対に負けられません。
だから僕はこのウーフーでみんなの絆をつなぎます!」
無意識に奥歯を噛み締めながら、流はレーダーで八神の見えない場所をフォローし、それを仲間達に伝達する。
『砕牙さん!! セフィリアさん!! そこです!!』
流のレーダーは、建物の影に隠れるゴーレム達の姿を確かに捉えていた。
そこに砕牙とセフィリアの二人が突撃していく。
物陰から飛び出したゴーレムは、雷電に向けて剣を叩き付ける。
「‥‥今まで散々好き放題やってくれたなっ!!」
セミーサキュアラーでそれを受けると、砕牙はそのまま押し潰すようにゴーレムを引き倒した。
同時にゴーレムの顔面目掛けて掌を突き出し――そこに装備された試作型拳銃「虎砲」を炸裂させる。
――ガンッ!!
零距離で白光が閃きゴーレムの頭部を貫く。
追い討ちとばかりに砕牙は雷電の全砲門を開放し、文字通りゴーレムを灰燼に帰した。
「‥‥初撃を当てて‥‥押し込む‥‥」
セフィリアは黒竜を腰溜めに構えると、腰部ブースターを全開に噴かす。
バーニア内に弓を引くようにエネルギーが蓄えられていく。
――それが最高潮に達した瞬間、セフィリアはその全てを解き放った。
「‥‥即ち‥‥一撃必殺‥‥!!」
アヌビスの爆発的な推力が、間合いを瞬く間にゼロにする。
突進の勢いを全て乗せた黒竜の一撃は、衝撃波を伴ってゴーレムに突き刺さった。
激しくも鋭い一撃は、ゴーレムの右腕を肩ごと吹き飛ばす。
『セフィリア、右から来るぞ!!』
更に追い討ちを掛けようとした所に、上空から八神の警戒が飛んだ。
見れば崩れたビルの上から飛び上がり、斧を叩き付けようとするもう一機のゴーレムの姿。
しかしセフィリアはあくまで冷静に、鋼の爪でそれを受け流す。
そのまま腕を爪で挟み込み、全開で締め上げた。
ゴーレムの動きが僅かにだが止まる――それを、彼女は逃さない。
「‥‥貫け‥‥黒竜‥‥!!」
再び振りぬかれた黒竜は、狙いを違う事無く胸部に突き刺さり、ゴーレムの息の根を止める。
そして一機目に目をやれば、丁度龍深城機のチェーンソーによって首を跳ね飛ばされる所だった。
「こいつで最後だな‥‥しかし、厄介な組み合わせだったな、本当に」
疲れきったように、龍深城はコクピットシートに体を沈みこませる。
――夕日はいつの間にか落ち、辺りには夜の帳が下りようとしていた。
接近してきていた敵の増援も、ゴーレムとHWが全滅した事で撤退。
――旧市街地が、ようやく静けさを取り戻す。
それを確かめた能力者達は、黄昏に染まる東の空へと帰還していくのであった。