タイトル:紅い騎馬隊マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/04 00:17

●オープニング本文


 フランス・スペイン戦線において、兵士達の間で都市伝説のようなものが生まれつつあった。


――戦場で紅い騎馬隊を見た者は、死ぬ。


 一ヶ月程前、前線の基地が数十分と経たずに謎の全滅を遂げた。
 バグアとの戦闘においてそのような話は決して珍しくは無く、どこにでもあるようなものの一つに過ぎない。
 だが、死に際の通信兵が放った言葉は、誰もが首を傾げざるを得ないものであった。

『――紅い‥‥紅い騎馬隊が――!!』

 それを聞いた現地の指揮官は、兵士達が混乱する事を避けるために情報統制を敷いた。
――が、人の口に戸は建てられない。
 『紅い騎馬隊』の話は時に怪談として、時に面白おかしく脚色された噂として兵士達の間に浸透していった。




「――で、そいつが最後に見たのは、自分の頭を抱えて、首から流れる血に塗れた騎士だったんだと」
「よ、よせよ‥‥そういう話は苦手なんだよ」
「へへっ、何だビビってんのか?」

 夕暮れの戦場――今日も今日とて、最前線の兵士達の戯れによってまた一つ新たな形の噂が作り上げられる。
 兵士達は互いにゲラゲラと笑い合い、死地の中で束の間の安らぎを過ごしていた。

――そこに、けたたましく鳴り響く警報。

『――基地の西方より、多数の敵機が接近中!! 総員第一種戦闘配備に着け!!』

 戯れの時間は終わりだ――ある物は銃を手に、またある者は自らのKVのエンジンに火を灯す。
 そして基地全体が戦闘態勢を完了させるのとほぼ同時に、敵は姿を現した。


――奴らは、西洋人である兵士達にとってあまりに異質な姿をしていた。


 それは、合計六機のゴーレムから成る騎馬隊だった。
 跨るのは八本足の馬型ワーム、スレイプニル。
 更に異様なのが、その出で立ち――ゴーレム達はどれも東洋の甲冑のような装甲に身を包んでいた。
 装甲の色はギラギラと輝く緋色。
 それは落日の陽を照り返し、黄昏の大地を眩く照らし出している。

「まさか‥‥紅い騎馬隊‥‥?」
「――ば、馬鹿言うな!! そんなのはただの噂だ!!」

 誰かが呟いた言葉を、兵士は必死に否定した。
 何故ならそれを肯定してしまったら、自分達に待つ運命が決してしまうからだ。
 そんな兵士達の葛藤など露知らず、ゴーレム達は手にした槍を構え、猛烈な勢いで突進を開始する。


――倍々ゲームのように増えていった『紅い騎馬隊』の噂の辿り付く結末は唯一つ。


 先頭に立つ指揮官機らしきゴーレムが、両の手の爆槍を構える。


――紅い騎馬隊の姿を見た物は、


 そして、基地は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変わった。


――誰も、生き残れない。




 そして全てが終わった後、立っているのはゴーレム達のみであった。

「――これで基地壊滅は五つ目やな‥‥そろそろ、UPCのボンクラ共も動く頃やろ」

 雄々しい角兜を身に付け、全身を真っ赤に染めた隊長機――サムライゴーレムの中で、ハットリ・サイゾウは一人呟く。
 事の発端はドイツを脱出してからという物、碌に戦えずに苛立ちをを募らせていた彼が、上司であるアニスに愚痴を言ったのが始まりであった。

『そんなに戦いたいんなら、良いのがあるヨー』

 そう言って彼女がサイゾウに与えた物――それは、以前より強化された愛機サムライゴーレムと、同型の無人ゴーレム、そして馬型ワーム・スレイプニルであった。
 同時に彼に言い渡された任務は至って単純。


 ただひたすらに暴れ、データを取る事。


『研究者たるもの、どんな状況でも実験する心は忘れちゃいけないからネ』

 と、アニスはのたまっていたが、サイゾウにとってはどうでも良い事だった。
 好きなだけ、戦える――それだけで彼は満足だった。
 サムライたる者、常に自らを戦いの中に置き、研鑽を積まねばならないのだ。
 錆付いていた彼のサムライの心は、今は研ぎ澄ました刃のようにぎらついている。

「――錆取りは済ませたで。さっさと来いや‥‥傭兵共!!」

 欧州の荒野に、再び『バグアのサムライ』の咆哮が轟いた。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP

●リプレイ本文

 晴れ渡った欧州の地で、傭兵達のKVが空を行き、地を駆ける。

「今日は宜しく頼む‥‥足を引っ張らないように努力する」

 絶斗(ga9337)は先輩である皆にそう挨拶を交わした。
 彼は乗り換えたばかりの愛機・シュテルンの試運転も兼ねての参加だ。

「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」

 純白に染め上げたミカガミ、その名も「白皇」を駆り、祈りを捧げるのは終夜・無月(ga3084)。
 そして彼に寄り添うのは、ディアブロに乗る彼の恋人、如月・由梨(ga1805)である。

「侍ゴーレムですか‥‥噂には聞いていましたが、どれほどの力量でしょう」
「‥‥少なくとも、弱くは無かったですね」

 それに答えるのは、アッシュグレイのディスタンに乗るリディス(ga0022)だ。
 彼女は無人ではあったが、かつてサムライゴーレムと一騎打ちを繰り広げ、打ち勝った過去を持つ。

「何てゆーかまあ‥‥サムライ? 侍?
 それにしては潔さ足りないというか何と言うか‥‥。
 負けたらハラキリするのが侍じゃーん。士道不覚悟の半端モノめ」

 阿修羅を操るミア・エルミナール(ga0741)は、侍映画を百回見直して出直してこんかーい!! と今回の敵であるサイゾウに対して怒りの声をあげた。

「しかし、侍が馬に乗ってくるとは。馬に乗るのは武者であり、侍ではない。
 侍とは地に足を付けて己の武器で己を語る者だと思うがね」

 そして漸 王零(ga2930)も彼女に同意して憤慨したような表情を浮かべる。
 彼が駆るは漆黒の雷電――名を「闇天雷」。

「‥‥まぁ、元々インチキ臭い奴ですからねぇ」

 一人LM−01で地を駆ける宗太郎=シルエイト(ga4261)は肩を竦めて見せた。
 彼はサイゾウと顔を合わせた事のある、数少ない能力者の一人である。

「‥‥彼が何であろうと、もうこれ以上の狼藉を許す訳には参りません」

 そしてリディスと共に牡牛座を屠った傭兵の一人、月神陽子(ga5549)。
 彼女の愛機は鮮血の如き赤に染まったバイパー「夜叉姫」。

――彼ら全員、誰もが豊富な経験を積んだ歴戦の傭兵達である。

 会話を続ける内に、彼らの眼下には壊滅し、瓦礫の山と化した基地と、そこに佇む紅と緋の装甲を身に着けたゴーレム達が見え始めていた。




「――何とも、大物が釣れたもんやな」

 空を見上げながら、サイゾウは頭を掻く。
 知らされた情報を見れば、出撃した能力者の全員が熟練の傭兵――そして大半が名の知られたエースであった。

――正直、まともにやれば命がいくつあっても足りない相手である。

 だが、生憎自分は「まとも」なやり方しか出来ない。
 サイゾウは最悪の状況になった時の覚悟を決める。

「‥‥挑戦者っちゅうのも悪かない、か」

 その視線の先に、能力者達が現れた。




「そこまでです――名乗りなさい、そこの有人機」

 まず口火を切ったのは月神であった。
 手にしたロンゴミニアトを突きつけ、高らかに声を上げる。

「‥‥ワイは人呼んでバグアのサムライ。その名も‥‥」
「久しぶりですねウッカリ・サイジョー。無駄に元気そうで何より」
「‥‥久々に会うたと思ったらまた名前ネタかいっ!!」
「この程度で怒っていては、立派な芸人にはなれませんよ?」
「‥‥えー度胸や。まず殺ったる、すぐ殺ったる」

 物凄く楽しげに、宗太郎が名乗りに茶々を入れた。
 彼の目論見通り激昂したサイゾウは彼に向かって一歩踏み出すが――、

「間違えるなよ、サムライ。今日のてめえの相手は、俺じゃねえ」
「今日は『中の人』がいるんだな。前回のような無様なダンスは見せないようにな?」
「ほう‥‥」

 覚醒した宗太郎の声と、一歩前に踏み出し、槍と盾を構えたリディス機がそれを遮る。
 瞬間、サイゾウは歓喜の笑みを浮かべた。
 彼女がかつての自らの愛機を撃破せしめた者だという事を、彼は知っていたのだ。

「――相手にとって不足無し‥‥ほな、行くで!!」

 サイゾウの叫びと共に、クリムゾンゴーレム達は一斉に槍を構え、スレイプニルは蹄を蹴立てる。
 能力者達もそれぞれの得物を抜き、陣形を組む。

――暫しの睨み合いの後、両者は一斉に動いた。

 能力者達は
 A班リディス、漸。
 B班ミア、如月、終夜
 C班宗太郎、月神、絶斗
 の三班に分かれ、一直線の横隊を形成する。
 そこに同じく一直線の横隊となって突っ込んでくるゴーレム達。
 ある程度まで引き付け――能力者達は一斉に引き金を引いた。


――粒子加速砲が大気を焦がし、バルカンやスラスターライフルが唸りを上げ、バルバロッサとミサイルの砲弾が爆炎を巻き起こす。


 突進の勢いがついていたゴーレム達は、成す術も無く能力者達の作り出す弾幕の中に身を曝した。
 能力者達の陣形の名は「長篠」。
 かつて赤備えの騎馬隊が、銃弾の雨に滅びし戦場の名である。

「――甘いわっ!!」

 しかし、弾幕が巻き起こした土煙を切り裂いて、無傷のサムライゴーレムが姿を現す。
 そしてそれに続いて紅ゴーレム達も。
 彼らは一斉射撃によってその速度を減じながらも、馬の足が吹き飛ばされようと、装甲を砕かれようと、駆ける事を止めようとしない。
――とうとう、十四もの鉄機達が激突した。


 真っ先に刃をかわしたのは、サイゾウとリディスの二人であった。
 彼の動きは取り巻きのゴーレム達とは一線を画している。
 彼女の放つアハトアハトの白光は悉く空を切り、あっという間に肉薄される。

(「――回避は無理か!!」)

 突進の勢いから瞬時に判断したリディスは、咄嗟にレグルスを構え、機体と穂先の間に滑り込ませる。

――ズガァッ!!

 轟音と共に、リディス機は錐揉みしながら地面に叩き付けられた。
 見れば盾は半ば砕け、受け切れなかった槍の一撃が肩の装甲を吹き飛ばしている。

「――受けても、これか‥‥」
『――貰ったぁっ!!』

 大きくバランスを崩した彼女に、更に追い討ちをかけるサイゾウ。
――だが、それはリディスの誘いだった。
 グングニルのバーニアが火を噴き、鍛え抜かれた音速の突きがカウンターで放たれる。

『何やと!?』
「スレイプニルをグングニルでやるというのも皮肉なものだな‥‥」

 勢いに乗っていたサムライゴーレムはそれを避けきれず、スレイプニルは体をごっそりと抉られて果てる。
 そのまま落馬するサイゾウ――だが、瞬時に慣性制御を用いて体勢を立て直し、再度爆槍を構える。

(「やっぱホンマに‥‥」)
(「――強い!!」)

 二人は最早互いに欠片の油断も無い。
 じりじりと間合いを詰めると、裂帛の気合と共に二本の槍が閃いた。




 漸は一人、リディスに最も近い紅ゴーレムを相手にしていた。
――リディスにもしもの事があった時、すぐにでも一騎打ちに介入できるようにである。
 だが、今彼はただ目の前の敵に集中していた。
 突進と共に突き出される機槍をハイディフェンダーで受け止める。

――ガガガガガッ!!

 加速がついて質量の倍近い重さが乗った一撃に、機体が地面を削りながら後退した。
 普通のKVなら破壊されてもおかしく無い衝撃――だが、彼の闇天雷はビクともしない。
 すぐさま体勢を整えたかと思うと、手にしたロンゴミニアトを突き出す。

「『将を射るにはまず馬を射よ』というからね‥‥さっさと排除させてもらおう」

 スレイプニルに突き刺さった穂先から、爆炎が噴き上がり、その体を内部から焼き尽くした。
 馬から落ちたゴーレムは逆手で刀を叩き付けるが、漸はそれを最も装甲の厚い部分で受け止める。
 そして素早く懐に飛び込むと、その手に取り付けられた剣呑な光を帯びる「杭」――エグツ・タルディを押し付ける。

「零距離のブレイク・タルディ!! 遠慮はいらん‥‥全弾持ってけ!!」

 炸薬によって武骨な鉄杭を打ち付けられ、三度ゴーレムの機体が跳ねる。
 どてっ腹に巨大な穴を開けたゴーレムは崩れ落ち、二度と起き上がる事は無かった。


 砲身の焼け付いた粒子加速砲を投げ捨てて身軽になると同時に、如月機は身を翻して迫り来る穂先を回避する。
 そしてお返しとばかりにハイディフェンダーを振るい、馬の胸部を吹き飛ばした。
 だがそれでも馬は倒れる事無く、蹄を叩き付けようと脚を振り上げる。

「引き摺り降ろしゃこっちのもんじゃーい!!」

 そこにミアの阿修羅がブーストをかけながら突進し、体当たりを仕掛けた。
 その頭部には彼女が設計した雄々しく鋭い角――ツイン・クラッシャーホーンが取り付けられている。
 その一撃はスレイプニルに止めを刺すと共に、乗っていたゴーレムを地面に叩き落した。

「へへんっ、ざまーみろ!!」
「‥‥ミア、危ない!!」

 響く終夜の警告の叫び――ミア機の背後から、健在だったもう一機のゴーレムが素早く距離を詰める。
 そして突き降ろされる機槍。
 一瞬にしてミアの阿修羅は串刺しにされ、くぐもった爆発音と共に崩れ落ちた。

「よくも――!!」

 怒りと共に雪村を構え、馬の脚を切り飛ばすと同時に、内蔵雪村で馬の体を貫いた。
 敵の体勢が整う前に、終夜はミアの安否を確かめようとコクピットを覗き込む。
――気絶はしているものの、辛うじて息はしている。
 一瞬安堵の息を吐くと、立ち上がったゴーレム達を激情の篭った瞳で見据え、傍らの如月と共に躍りかかった。

「‥‥報いを、受けなさい!!」
「其の痛み‥‥心に刻み付けろ‥‥」




 月神に向かって、加速された機槍が襲い掛かる。
 しかし、彼女は一歩も動かない――分厚い半月刀を手に、それを真っ向から受け止めた。

――轟音、そして衝撃。

 激突の際に巻き起こった風が嵐となって、土埃が舞う。

「――!!」
「‥‥今、何かしましたか?」

 まるで驚愕したかのようにゴーレムの眼が明滅した。
 赤き夜叉姫は、一歩も動かず、そして一片の傷も負う事無くそこに立っている。

「幾多の命がここで失われました‥‥貴方は強いのかもしれません。
 ですが――教えてさしあげます。
 たとえ、どれほどの絶望が立ち塞がろうとも。 人類は、決して負けはしない事を」

 そして彼女はセミーサキュアラーで槍を叩き落すと、スタビライザーを起動させ、必殺の爆槍を目の前の敵に叩き込んだ。

――一撃目で馬を屠り、二撃、三撃目で装甲を穿ち、
――四撃目で爆砕せしめ、五撃目には跡形も残らない。

「――我が名は月神陽子。人類の守護者です」

 其の姿は正に圧倒的であった。


「くっ!! 危ねえ!!」

 宗太郎はリミットコード『シルフィード』と名付けた、ブーストと回避オプションを併用した起動で穂先と馬の蹴りをかわす。
 だが続く追撃が機体を捕らえ、片腕を吹き飛ばされる。

――その衝撃で、ECMが停止した。

「やべ! 皆、悪ぃ!!」

 それを好機とゴーレムが迫る。
 ――だが、次の瞬間宗太郎の焦った顔は不敵な笑みへと変わる。

「‥‥壊れたなんて、一言も言ってねぇぞ?」

 再びECMが作動し、ゴーレムの感覚が一瞬だが乱れる。
 その隙に、垂直離着陸能力で密かに背後に回っていた絶斗機が殴りかかった。

「行くぞ‥‥! 必殺のスーパードラゴンパンチだ‥‥!」

 ドラゴンナックルを連発して叩き込まれた馬は、耐え切れずに身を捩り、跨っていたゴーレムを振り落としてしまう。
 すかさずそこに踏み込んだ宗太郎と月神のロンゴミニアトが、馬とゴーレムをほぼ同時に葬り去っていた。




 全ての紅ゴーレムが倒れるのとほぼ同時に、リディスとサイゾウが一騎打ちをする場所から轟音が響き渡る。
 見れば、リディス機のグングニルがサムライゴーレムの左腕を吹き飛ばし、ハイディフェンダーが脇腹に突き刺さっている。
 そしてサイゾウの爆槍は、ディスタンの胸部に突き立てられていた。
 二人は共にコクピットの中でにやり、と笑う。

「もっといい男になって来い。ダンスの相手は幾らでもしてやる」
「‥‥そら、光栄やな」

――そして引かれる爆槍のトリガー。
 リディス機は上半身の殆どを吹き飛ばされ、力無く大地に横たわる。
 軍配は、紙一重の所でサイゾウに上がっていた。

「リディス!!」

 咄嗟に漸がスラスターライフルで銃撃する。
 だが、サムライゴーレムはそれを避けると、爆槍を思い切り投擲した。

「ぬうっ!?」

 爆槍は闇天雷の頭部に突き刺さり、モニターがノイズと共に暗闇に包まれる。
 そしてその隙に逃走を試みるサムライゴーレムの前に、敵を倒し、回りこんでいた夜叉姫が立ち塞がった。

「‥‥何処へ行くおつもりですか?
 侍ならば、潔く負けを認めてはいかがです?」
「――生憎、戦闘データを届けるっちゅう任務が残ってるんでな。
 ‥‥サムライは、主君の命を成し遂げるまでは死ねんのや」
「そうですか‥‥」

 月神が爆槍を構え、残りの者達も銃と砲口を向ける。
 そして、一斉に引き金を引く寸前に、サムライゴーレムから煙幕が吹き出した。

「――逃がしません!!」
「――押し通る!!」

 砲火と白刃が閃き、爆炎が煙の中で踊る。




 煙が晴れた後、そこには片腕を落とされた夜叉姫だけが立っていた。

「――奴は!?」
「申し訳ありません、逃がしました‥‥どうやら、少し甘く見ていたようです」

 悔しげに呟いた月神は、足元を見下ろす。
 そこには夜叉姫の腕を切り飛ばした雪村を握り締めた、サムライゴーレムの右腕。

「ですが手応えはありました‥‥死なないまでも、暫くは動けないでしょう」

 宗太郎はひとつ舌打ちをすると、通信回線をオープンにする。

『アニスに伝言だ。首、洗っとけってな‥‥!』

 戦いが終わった基地跡に、宗太郎の叫びが木霊した。




「‥‥安心せぇ。ちゃんと伝えるわ」

 その叫びを、サイゾウはノイズの走る通信機で耳にしていた。

――ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ‥‥。

 自分の呼吸の音が、やけに五月蝿く聞こえる。
 サムライゴーレムの姿は、すでに殆ど原型を留めていなかった。
 両腕を吹き飛ばされ、全身に砲弾を浴び、ハッチは既に吹き飛んでコクピットの中は吹き曝しだ。
 そして脇腹に手をやるとぬるり、とした感触。
 コクピットの破片が突き刺さったそこからは、夥しい量の血が噴出していた。
 咳き込むと、空気の変わりに血塊が吐き出される。

「‥‥アジトまでもつか、五分五分やな」

 辛うじて生きているAIに操縦を任せると、サイゾウはぐったりとシートに身を委ねた。
――完敗であった。
 一騎打ちには勝てたものの、結果としては殆ど敗北と言って良いほどの惨憺たる結果だ。
‥‥サムライと名乗る事すらおこがましい。

「強う‥‥なりたいのう‥‥」

 見上げれば、そこには満天の星空――サイゾウはそれを握り締めるかのように手を突き出し、拳を固める。

「もっとや‥‥もっと力を――」

 あの空に輝く星座のように、孤高の力が欲しい。

――この時、『バグアのサムライ』ハットリ・サイゾウは、更なる修羅の道へと進む決意を固めた。

「辿り付いてみせるで‥‥黄道(ゾディアック)の高みに――!!」