●リプレイ本文
三つのルートの目標の内、南ルートの大型輸送車二台の追跡を任されたA班――神無月 るな(
ga9580)、楓姫(
gb0349)、クリス・フレイシア(
gb2547)の三人。
使う車両は楓姫のジーザリオだ。
そして北ルートのタンクローリーを担当するB班の車両も同じくジーザリオ。
その持ち主であるユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)と、三島玲奈(
ga3848)、リンドヴルムに跨る狐月 銀子(
gb2552)。
そしてC班――キメラを放ち、検問所を突破したトラックを追いかけるのは、二台の車に分乗した六人の能力者達。
一台はランドクラウン――運転手は八神零(
ga7992)。
同乗するのは麻宮 光(
ga9696)と、ドッグ・ラブラード(
gb2486)だ。
そしてもう一台のジーザリオに乗るのは運転手のヨネモトタケシ(
gb0843)と、フォビア(
ga6553)、そしてカララク(
gb1394)。
「‥‥兄さん、気をつけて」
「ああ‥‥お前もな、かえで」
出発直前、楓姫は義兄であるカララクに声を掛けた。
カララクもそれに笑顔で応え、互いの無事を祈りあう。
――そして三つの班はそれぞれのターゲットの捕捉に向けて動き出したのであった。
最初に目標を捕捉したのはC班であった。
前方に見えるトラックのコンテナには、数十個の銃痕が着いているため確認するまでも無い。
――八神とヨネモトは呼吸を合わせ、トラックを挟み込むような位置を取った。
「八神さん! 併走をお願いします!」
「併走‥‥? KVの扱いより簡単さ‥‥」
「‥‥狙撃姿勢に入る。ヨネモト、頼むぞ」
「はい、まかせて下さい!」
八神は麻宮の、ヨネモトはカララクの指示を受けてスピードを上げて併走し、窓からタイヤを狙撃しようと試みる。
(「‥‥外す訳にはいかない、か‥‥今ッ!」)
ヨネモト車からカララクが真テヴァステイターを放ち、フォビアがショットガン20でタイヤを狙う。
八神車からは麻宮がS−01を、ドッグがエナジーライフルを放った。
――数発は狙いが逸れて外れるが、その内数発はしっかりとタイヤに命中し、トラックはしばしバランスを取ろうとするが、終に力尽きて轟音を立てて横転する。
「――おっと!! 危ない危ない」
ヨネモトは巧みにハンドルを捌き、倒れた車体と飛び散った部品を辛うじてかわす。
そして車が止まるのを待たずにフォビアが飛び出した。
「‥‥グラナダには行かせない。逃がさない‥‥絶対に‥‥」
自らの持つありったけのスキルを発動させた彼女の体は、残像すら残さぬ速さでコンテナの扉の前に辿りつく。
そして、その隙間から弾頭矢を投げ入れて、すかさずショットガンを放った。
――ズガァッ!!
劈くような爆音と共に炎が上がる。
「――やれやれ、随分と派手にやってくれるねぇ」
突然の声と共に、フォビアに襲い掛かる影。
「フォビアさん危ないっ!!」
咄嗟にドッグが飛び出し、その影が放った拳の一撃を盾で受け止める。
――女性を助けた事でドギマギしているのは秘密だ。
「――しかし俺が囮って分かってるだろうに‥‥」
影の正体は運転手をしていた能力者だった。
横転する前に脱出したのだろう、殆ど傷らしい傷は負っていない。
ドッグが反撃に蛇剋を振り払うと、男は飛びのいてかわし、コンテナの上に降り立つ。
「‥‥こんなに戦力を割くなんざ、ご苦労なこったなぁ!」
下卑た笑みを浮かべながら男が叫ぶと、コンテナから凄まじい勢いで先端に篭手の付いた触手が伸び、ドッグとフォビアを吹き飛ばした。
そして間髪入れず飛び出してくる三つの影――今回の目標である、装甲スライムだ。
その装甲は、先ほどのフォビアの攻撃を受けたにも関わらず殆ど傷ついていない。
――能力者達はそれぞれの得物を手に取り、攻撃を受けた二人は体勢を立て直し、敵に飛び掛っていった。
一方その頃――。
アクセルを全開で踏み込んで走る事数時間――A班の前方に大型の輸送車二台の姿が見えた。
三人は頷き合うと、クラクションを鳴らしながら輸送車に車を横付けさせ、神無月が無線機を使って呼びかける。
「こちらUPC軍より正式な再調査依頼を受けたULTの能力者です。停車をお願いします。
停車に応じない場合は実力行使も許可されています」
『――こ、こちら輸送車。一号車、二号車共に了解した』
脅しめいた神無月の言葉に、運転手は少し動揺したように答え、直ちに停車した。
そしてクリスは運転手達に気付かれないように隠密潜行を発動させ、手近な茂みに身を潜ませ、銃を構える。
いつ輸送車が急発進しても対応出来るようにするためだ。
「――それでは、臨検を開始させて頂きます。宜しいですか?」
「え、ええ――ですが、何かあったんですかい?」
運転手の問いに敢えて答えず、楓姫はコンテナの中の荷物を一つ一つ調べ始める。
神無月はその間に運転手の観察だ。
――二十分程経った時、楓姫はコンテナの最奥に人一人が入れる程の木箱を発見した。
何故か必要以上に厳重に梱包されている。
「‥‥念のため‥‥」
ポケットからペイント弾を取り出し、無造作に投げつけると、木箱にぶつかる直前に、紅い光の壁に遮られた。
――フォースフィールド!!
楓姫が距離を取った瞬間、凄まじい勢いで腕のようなものが伸び、先ほどまで楓姫のいた空間を切り裂いてコンテナを突き破る。
木箱の隙間から覗く鎧姿は、間違いなく装甲スライムだ。
楓姫が外へと飛び出すと、二号車のコンテナからももう一体が姿を現した所だった。
それを見た神無月は咄嗟に銃を運転手たちに突きつける。
「‥‥どういう事か説明して下さる?」
「‥‥し、知らない!! あんなの積んだ覚えは‥‥」
「言っておきますけど、そっちの茂みからも仲間が狙ってますわよ?」
ひっ! と背後を振り向き、ようやくクリスの存在に気付いた運転手達はへなへなと腰砕けになった。
「――た、大金を積まれて、あれを運べって言われたんだ!!
で、でも中身の事は本当に知らなかったんだ!! 信じてくれ!!」
ガタガタと震えながら必死に懇願する運転手達の態度に、嘘は感じられない。
その間に装甲スライムは剣を構え、こちらに走り寄って来ていた。
「――神無月さん、話は後です!! 貴方達は下がって下さい!!」
逃げ出す運転手たちを尻目に、クリスの援護の下、楓姫と神無月は銃弾を放つ。
(「どうやらこちらが黒だったようだな‥‥」)
クリスが通信を入れようとした瞬間、B班の回線からユーリの緊迫した声が響いた。
『――こちらB班、ビンゴだ!! だが、不味い事になっている。至急応援を頼む!!』
「――臨検だと? そんな物をしている暇は無い! 我々は一刻も早くこの燃料を前線に届けねばならんのだ!」
――少し時間は遡り、C班。
こちらは穏便に停車してもらい、許可証を見せたのだが、同行しているUPCの兵士は頑として聞こうとはしなかった。
埒が明かないと、三島が兵士を押しのけてタンクローリーの上に登り、タンクの中身を覗きこもうとする。
「よせ!! 引火したらどうす――っ!!」
三島の肩を掴んで止めようとした傭兵の鼻先に、三島のシエルクラインが突きつけられる。
周りの傭兵達が反射的に銃を構えるが、ユーリと狐月が銃を構える方が早かった。
しばしにらみ合いになった所で、三島が静かに口を開く。
「――ただキメラのFFをチェックするだけや。
私が怪しい動きをしたら、即撃っても構わん。
――遅刻の責任は私が取る。丸裸にでもなったるわい!!」
三島たちの迫力に傭兵達は飲まれ、それ以上口出しする事が出来ない。
その間にも、ユーリと狐月は兵士と傭兵達を観察していた。
――見ると、兵士は明らかに焦った表情を浮かべている。
確実に何かがある――そう判断したユーリは探査の目を発動させ、ローリーを見る。
丁度三島はタンクの中を覗き込もうとしている所だった。
――瞬間、ユーリの表情が凍りつく。
「――玲奈、下がれ!!」
「へ――?」
彼の警告は間に合わず、タンクの口から飛び出した「何か」が三島の体を掴み取っていた。
そして、途轍もない力で彼女の体を締め付ける。
「――ぐっ‥‥うあああっ!!」
万力のような力に、三島の体がみしみしと軋みをあげる。
そしてそれを為しているのは巨大なスライムの擬足だった。
――全体のサイズは、KVもかくやという大きさだ。
「――そっか‥‥ユーリ君! あれは『中身』だよ!!」
狐月が「荷」の正体を悟り、悔しげに唇を噛む。
三人は敵の荷が『装甲スライム』だと思い込んでいた。
だが、装甲を取ってしまえば――、
「――ただのスライム‥‥こうして大量に輸送出来る訳か!!」
ユーリも悪態をつくが、自分達の迂闊さを呪う時間は無い。
傭兵達に協力を要請しようとするが、彼らはキメラに怯えて一目散に逃げ出していた。
「あいつら‥‥くそっ――!!」
仲間達に緊急の通信を送る共に、三島を捉えている擬足に二人同時に発砲し、ほぼ同じ場所に着弾させ、抉り取る。
「こんの‥‥やろっ!!」
更に、三島が拘束されながらも果敢に発砲し、擬足が千切れ、彼女の体は開放されるが、受身を取る事が出来ずに地面に叩き付けられた。
「‥‥ごほっ!!」
「――三島さんっ!!」
三島の口から溢れる血塊――それは黒く染まっていた。
狐月は咄嗟に走輪走行で駆け寄り、再び三島に襲い掛かる擬足をエネルギーガンで打ち落とす。
だが、お返しとばかりに再び伸びた擬足を叩き付けられて吹き飛ばされる。
凄まじい衝撃に狐月の息が詰まり、砕かれたリンドヴルムの装甲が辺りに散らばった。
狐月は頭を振って朦朧とする意識を覚醒させ、続く追撃をかわす。
――ふと、視界にあのUPC兵が、傭兵の残していったジープに飛び乗ろうとしているのが見えた。
「――くそっ!! 敵性体の過剰反応で暴走しやがったか!!」
そう叫びながら、大型のカプセルのようなものを荷台に載せる。
そこには、今暴れているスライムに良く似た液体があった。
――内通者は、奴だ。
「あいつ――逃げようったってそうは行くもんですか!!」
狐月はスキル・龍の瞳を発動させて狙い撃とうとするが、再び横殴りに擬足が襲い、照準がずれてしまう。
兵士はそのまま走り去り、追いかけようにもスライムが道を阻んでいるため不可能であった。
「二人とも下がれっ!! 時間を稼ぐ!!」
ユーリが超機械ζを発動させて電撃をスライムに叩きつけ、二人の後退を援護する。
そして合流するとジーザリオを盾にして応戦を開始した。
位置関係上、他の仲間達がここに到着するまで約一時間――それははっきり言って絶望的に近い数字であった。
「けど‥‥やるしかないやろ‥‥」
三島は口元の血を拭うと、荷台からアンチマテリアルライフルを引っ張り出す。
――途方も無く長い戦いが幕を開けた。
そしてC班――戦いは、佳境を迎えていた。
――ジャキン!!
紅く輝く二振りの月詠が立て続けに繰り出され、スライムを装甲ごと切り伏せる。
スライムは力尽きたように装甲から流れ出し、動きを止めた。
そして、八神は能力者の男の前に立ち塞がる。
「大人しくするつもりは無いのだろう‥‥? だが、その方が単純でいい」
「‥‥おいおい、化けモンかよアンタ‥‥いや、アンタ『ら』か?」
男は額に汗を浮かべながら呟いた。
高性能を誇るはずの装甲スライム二体を、八神はほんの数分とかからず倒して見せたのだ。
そして、残る一体も今まさに倒されようとしていた。
カララクが真テヴァステイターで装甲を引き剥がし、そこにエネルギーガンを打ち込む。
スライムは反撃に腕を伸ばしてカララクを切り付けようと試みるが、フォビアのショットガン20に撃ち落とされた。
「その装甲‥‥本体ごと粉砕させて頂く!!」
そこにヨネモトが、その体躯からは信じられないような鋭い斬撃を衝撃波のように飛ばし、言葉の通りキメラを真っ二つに切り裂く。
しかし、半身に分かれてもスライムは動き続け、剣で切りつけ、擬足で殴りつけるが、反撃もそこまで。
「我々に、死にゆくモノに幸あれ」
後方からのドッグの狙撃によって炭と化し、力尽きるスライム。
「ちっ――!!」
「‥‥どこ行く気だ運転手? 逃がすつもりは無いぞ」
逃げ出そうとする男の前に、麻宮が回りこんでいた。
男は逃げる事を諦め、最後の抵抗とばかりに麻宮と八神に殴りかかるが、背後からフォビアの容赦無い銃撃で足を撃たれ、動けなくなった所を八神に拘束される。
「悪くない腕だが‥‥惜しかったな」
男は舌を噛もうと試みるも、素早く駆け寄ったヨネモトに蛍火の柄を首に叩き込まれて昏倒し――決着は着いた。
そして数分後、同じく装甲スライムを倒したA班が合流し、一行は一路B班の下へとひた走っていた。
A班の三人も無論無傷では無かったが、全く問題無い。
――クリスに銃を突きつけられ、ガタガタと震える運転手の男達が印象的だ。
C班の囮を努めていた男も、応急処置を施され、監視付きで拘束されていた。
「‥‥貴方は‥‥クリス・カッシングをどう思う‥‥?」
フォビアが猿轡を解きながら、男に問いかける。
――自分達の当面の敵の部下である男の言葉を、フォビアは聞いてみたかったのだ。
しかし、男の答えは素っ気無いものだった。
「‥‥さあね? 俺は会った事が無いからな‥‥ただ、『あの方のためなら死ねる』って奴は相当な数いるぜ?」
――狂信、というものだろうか?
「厄介な事になりそうだな‥‥」
天を仰ぎながら、カララクは一人呟くのだった。
「きゃああああっ!!」
「銀子っ!!」
太い擬足の一撃を受けて狐月が吹き飛ばされ、そのまま立ち上がって来る事は無かった。
リンドヴルムも半ばスクラップと化している。
三島に至っては、最初に受けたダメージの影響があまりにも大きく、十数分前に意識を手放していた。
――残るはユーリ唯一人。
そのユーリも幾度も攻撃に晒され、今にも倒れてしまいそうだ。
それでも彼は倒れた二人を守りながら戦っていたが、とうとう回避し損ねた一撃が叩き込まれ、アバラが嫌な音を立てて砕けた。
(「ここまでか――!!」)
迫り来る擬足を睨みつけながら、ユーリは死を覚悟した。
――ガァンッ!!
一発の銃声が響き渡り、目の前まで迫っていた擬足が吹き飛ぶ。
「――無事ですかユーリさん!!」
それはクリスの放ったアンチマテリアルライフルであった。
そして、車から飛び降りて駆け寄ってくる仲間達――ユーリはそれを見て痛みに耐えながら微笑んだ。
「――大分、遅かったじゃないか」
「その分の埋め合わせは、させて貰いますわよ」
ユーリの言葉に神無月はウィンクを返して答える。
――ユーリたちの健闘に応えるためにも負けられない。
その思いで団結した彼等の力の前に、ただ暴れまわるだけのスライム如きが勝てる筈も無かった。