タイトル:リビング・スクラップマスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/27 02:39

●オープニング本文


――戦いが終わった戦場に、今日も様々な屍が転がる。
 人間の、キメラ、ワームの、そして戦車やKV、ゴーレムなどの機動兵器の残骸が、まるで山のように積み重なっていた。
 それらはつい数時間前、数日前に築き上げられたものだというのに、戦場の独特の埃っぽさも相まって、まるで元々この風景の一部であったかのような錯覚を覚えさせる。

「――遺体の回収、70%まで完了しました。」
「了解、回収班は引き続き作業に移れ。兵器群の方はどうだ?」
「難航してはいますが、使用可能な兵器の選別と回収、修復可能な機体のワイヤー固定は完了、すぐにでも輸送出来ます」
「よし、ご苦労。遺体の回収の目処が立ち次第、直ちに作業開始だ。
 他の者達は引き続き固定作業を急げ。破損状況に合わせて優先順位を割り振るのを忘れるなよ?」

 動くものは何も無くなった戦場に再び、UPC軍の兵士達の姿があった。
 彼らのほとんどは一般人の兵士であり、輸送用――主に兵士の亡骸――のリッジウェイや護衛のKV数機のパイロットを含めて、能力者は数えるほどしかいない。
 その中にはエリシアの姿もあり、自ら愛機ウーフーを駆って現場の指揮を執り、同時に周囲の警戒を行っていた。



 彼女達の任務は、戦闘が終了した領域において兵士の遺体や、破壊されたKVや戦車などの機動兵器、及び無事な武器弾薬の回収。
 そしてキメラやワーム等の焼却処理――要は戦場の後始末であった。
 だが、次にいつ来るか分からないバグアの侵攻に備えて、絶対に欠かせない作業でもある。
 貴重なKVは勿論のこと、武装に使われているSES、その装甲を成すメトロニウム等も、この最前線においては非常に貴重だ。
 出来るだけ多く回収し再利用しなければ、いずれは物資も底をついてしまう。



 それ以上にエリシアが気にかけていたのは、死んだ兵士達の事だった。
――彼女の一般兵時代の仲間達は誰一人、遺体はおろか、遺品も残らなかったのだ。
 唯一の救いと言えば、思い人だけは墓に埋葬する事が出来た事だが、その彼も、忌むべきバグアによってキメラと成り果てていた。
 あのような思いを、これ以上誰かにさせるのはごめんだ。

「――伍長、身元が確認出来た者は、どれくらいだ?」
「それが‥‥回収出来た遺体の半数ほどしか、確認は出来ていません」

 彼女の問いに、リッジウェイに乗る伍長が沈痛な声で答えるが、すぐに大きな声で咄嗟に付け加えた。

「‥‥で、ですが、基地での照合で進展する可能性もあります!!」
「そうだな‥‥ありがとう伍長」

 部下の精一杯の励ましに、エリシアは優しく微笑んだ。



 その後の作業は順調に進み、次々と兵士の亡骸や、原型を留めているKVや戦車、武器がリッジウェイや輸送車に詰まれ、運ばれていく。
 そろそろ修復不可能なものを運び出す作業をしようと、兵士達が残骸に近づいた時――


――グチュグチュ‥‥。


 肉が這いずり回るような音が聞こえたかと思うと、S-01の残骸が大きく傾いだ。

「――いかん!! 崩れるぞ!!」

 作業員の警告に、周囲の者達が全力で退避する。
 しかし、全員の予想に反してS-01のそのまま立ち上がり、よたよたと歩き始めた。

「ま、まさか‥‥生き残り‥‥?」
「――作業班!! 何処に目を付けてた!!」
「い、いや‥‥有り得ない!! だって‥‥」

 見ればそのS-01のコクピットは完全に破壊され、動力部分も爆発で既に消し飛んでしまっている。
 こんな状態の機体が、動ける訳が無い。
――理由はただ一つだ。

「――キメラだ!! 回収班は即時退避!! 機材は置いたままで構わん!! リッジウェイも離脱だ!!」

 瞬時に判断したエリシアは、全員に指示を下すと同時に動き出したS-01に向けて、作業員を巻き込まないように発砲した。
 スナイパーライフルの銃弾を足に受けたS-01は、元々損傷していたせいか一撃で崩れ落ちる。
 しかし片足を吹き飛ばされているにも拘らず、何事も無かったかのように再び立ち上がった。
 失った足の部分には、醜悪な質感の泥の塊が生え、機体を支えている。

「なるほど、そういう事か‥‥ふざけた真似を」

 おそらくはスライム状のキメラが、KVのパーツを鎧のように着込んでいるのだろう。
 だがこちらは小規模とは言え、自分を含めて八機のKVが護衛に付いている。
 キメラ一体を葬るには、十分な戦力と言えた。

(「――中々良い考えだったが、失敗したようだな」)

 思わず浮かんだエリシアの笑みは、レーダーを見た瞬間引き攣ったものに変わった。
――動体反応が一つ、また一つと増えていく。
 見れば、戦場に点在している兵器の残骸、それらがぎこちない動きで立ち上がり、動き出し、這いずり始めていた。
 その数、およそ三十。
 KVの残骸達は、失った四肢を擬足で補い、手には砕けた剣や槍を持ち、不気味なほどゆっくりとした動きで迫り来る。
 そして戦車は、まるでカタツムリのような動きで這いずり、壊れた砲塔からは、砲弾の代わりに酸を放出して攻撃を仕掛けてきた。

「各機、応戦しつつ後退!! 絶対に近寄らせるな!!」

 エリシアの指揮の下、砲弾が、レーザーがスクラップ達に突き刺さり、次々と大地に崩れ落ちていく。
しかしキメラは素早く這い出すと、手近なスクラップに潜り込み、再び立ち上がる。
 這い出したキメラを狙って攻撃を仕掛けるが、意外に素早い動きと、残った残骸が邪魔をして中々致命打を与える事が出来ない。

「――中尉!! ここは自分も!!」
「馬鹿者!! 貴様が運んでいるものは一体何だ!? 彼らを『また』殺す気か!?」

 見かねた伍長が機体を翻して戦列に加わろうとするが、エリシアの一喝にはっとする。
 今彼のリッジウェイが積んでいるのは、兵士達の亡骸――それも身元が分かっている者達ばかりだ。
 もし戦闘でコンテナに攻撃を受けようものなら、身元は分からなくなり、彼らは個人では無く、ただの『戦士した兵士』という漠然とした括りに入れられてしまう。
 彼らには、待っている人達がいる。それだけは避けたかった。

「――り、了解‥‥」

 悔しそうに唇を噛みながら、伍長は後退していった。




 キメラ達は無数の残骸を身に纏い、ゆっくりと、しかし確実に迫ってくる。
 それはまるで、生ける屍――リビングデッドそのものであった。

「いや――さしずめ、リビングスクラップと言った所か」

 軽口のように呟くエリシアだが、その怒気はKV越しからも感じられるほどに凄まじい。

「だがそれは、勇敢なる者達の魂だ――それを汚した罪、万死に値する」

 部下達はエリシアの声に一斉に頷いた。
 彼らの心もまた、エリシアに勝るとも劣らない義憤に満ちている。

「――命令は唯一つ、奴らを一片残さず叩き潰せ!!」
「「「「「「「了解!!」」」」」」」

 一層激しい砲火が、鉄の屍達に向かって降り注いだ。

●参加者一覧

鷹代 朋(ga1602
27歳・♂・GD
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
ヴィー(ga7961
18歳・♀・ST
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
エドワード・リトヴァク(gb0542
21歳・♂・EP
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
東 冬弥(gb1501
15歳・♂・DF

●リプレイ本文

「――中尉!! 基地方面から接近する機影八‥‥傭兵のKVです!!」
「‥‥来たか!!」

 部下からの報告に笑みを浮かべるエリシアの眼は、能力者達が乗るKVの機影を捉えていた。



「そういえば、大規模作戦以外でKVに乗るのは初めてだな。‥‥でも、俺のやる事は変わらない。それをこなすだけ‥‥」

 少し緊張の面持ちの鷹代 朋(ga1602)を始めとした八人の能力者達は、UPC欧州軍の機体が全て無事なのを確認して安堵すると同時に、怒りを込めた眼差しで今回の『敵』を見つめる。
 そこには、汚らわしいキメラに操られた、かつて兵士と共に戦場を駆けた、戦士達の群れがある。

「‥‥出来れば、一番相手にしたくないものの一つですね‥‥」

 ぽつりと呟くヴィー(ga7961)の脳裏には、以前自らの手で葬った元人間のキメラの姿が浮かぶ。

「‥‥役目を終えた機体をこんな風に利用するなんて‥‥不届きにも程があるわね」

 その彼女と依頼を共にした経験のある紅 アリカ(ga8708)も、静かな怒りを瞳に灯していた。

「僚機の残骸を更に潰すのも気が進まんが、そうも言ってられんな」
「死者はせめて安らかに‥‥な」

 リュイン・カミーユ(ga3871)とカララク(gb1394)の二人も、淡々とした口調の中に激情を込める。
 機体を使った戦闘の経験を積む――という建前で、KVに乗って暴れまわろうと思っていた東 冬弥(gb1501)でさえも、内心キメラに対して不快な思いを抱いていた。

――それほどまでに、キメラ達が行っている所業は許されざるものなのだ。

「許さねぇ‥‥! 顔も知らねぇし、名も知らない奴らばかりだが、俺達の仲間だったんだ!」

 魔宗・琢磨(ga8475)に至っては、その身を焦がす程の激情を隠そうともせず、キメラ達に向かって吼える。
 だが熱いままの頭で戦場に立っては、生き残れはしない。
 だからこそ、エドワード・リトヴァク(gb0542)は自分の原点である、泥臭い陸の戦場に思いを馳せ、滾る心を落ち着かせようとしていた。

「――険しい山脈を駆ける山羊のように、俺は戦場を駆け巡る。それだけだ」

 誇り高きハイランダーの末裔を先頭に、能力者達は戦場に降り立った。




「――傭兵諸君、貴殿らの救援に感謝する」

 エリシアは目の前に立つ能力者達に対して、略式の敬礼を返す。
 そして、その中にヴィーと紅、そしてエドワードとカララクら知人達の姿を見つけ、微笑みを浮かべた。

「――久しぶりだな。息災なようで何よりだ」
「‥‥中尉も、ご無事で‥‥」

 紅も少し嬉しそうに微笑み返す。
 だが、それも一瞬だけ――すぐにエリシアの顔は引き締まったものに変わった。

「我々はまだ戦えるが、消耗していると言わざるを得ない‥‥指示を。
――作戦方針は君たちに従おう」

 軍人のプライドよりも、エリシアは目の前の敵を打ち倒す決意を込めて、傭兵達に告げる。
 リュインは彼女の言葉に頷くと、UPC兵達に後方からの支援と、打ち漏らした敵の掃討をするように告げた。

「背中は任せたぞ」
「――承知した。全員聞いたな!? 全機鶴翼――蟻の一匹も通すな!!」
『――了解!!』

 エリシアの号令に応える兵士達。その士気は未だに高い。
 後退しつつ、彼らは『頼むぜ!!』『仲間の仇‥‥取ってくれ!!』と、口々に激励の言葉を贈る。
 いつもは感じられない背中からの声援に、能力者達は勇気付けられるのを感じていた。

「中々小器用な事をしてくれる。面白い――が、所詮は借り物のヤドカリだという事を、思い知らせてやる」
「軟体生物共が‥‥ッ! この世に生まれ落ちた事を、奈落の底で後悔しやがれぇ!!」

 とうとう目の前まで迫った、鉄の屍を纏うスライム達を睨みつけながら、リュインと魔宗が口を開く。
 それが合図だったかのように、能力者達は一斉に武器を構えた。




 能力者達は自分達をA・Bの二班に分け、広範囲に渡って展開する敵を分担して迎え撃つ。

 A班はリュインの雷電、魔宗のディアブロ、ヴィーのS−01、カララクのバイパー。

 B班には鷹代の阿修羅、紅のミカガミ、エドワードのバイパー、東のR−01改。

 彼らは両翼に別れ、それを囲むように広がったUPC欧州軍の支援の下、攻撃を開始した。




 まず、A班における戦端を開いたのは、リュインの雷電だ。
 リュイン機の持つスナイパーライフルD−02が火を吹き、先頭のスクラップ達に砲弾が次々と突き刺さっていく。
 距離はかなり離れているものの、後方の岩龍、ウーフーの電子支援を受けているため、狙いを違う事は無い。
 だが、彼女はあえて狙いを集中させる事をしなかった。
 それだけでは無論撃破するには至らず、スクラップ達は釣られるように彼女に向かって歩を進め始める。
――それこそが、リュインの狙い。

「派手に吹き飛べっ!!」

 素早く得物を持ち換え、傍らの魔宗、ヴィーとタイミングを合わせて「ソレ」を打ち込んだ。

――ゴオォォォォッ!!

 H−112グレネードランチャー――砲弾はスクラップ達の足元に着弾した瞬間、その場所を中心とした10メートル四方が猛烈な勢いで炎に包まれる。

「紅蓮の炎に焼かれて、溶けて無くなれェ!!」
「そこから――離れて下さい!!」

 吼える魔宗は更に踏み込み、無事なエリアに向かってグレネードを打ち込み、ヴィーも一匹も残さないとばかりに容赦なくそれに続く。

――全てを焼き尽くす炎の壁が吹き上がり、急激に酸素が消費された事で辺りに豪風が巻き起こる。

「‥‥仲間達の魂、返して貰うぞ」

 それが収まるのを待ち構えるかのように、カララク機のバーニアから、ブーストの炎が灯った。




 一方B班は敵が近づいてくる前に、自らが接近していく。
 グレネードを手にするのは、鷹代機、そしてエドワード機と東機だ。

「グレネード弾準備完了! ぶちかましてもいーかぁ!? ‥‥行くぜぇ!!」

 ヘラヘラと笑いながら、東がグレネードを発射した。
 曲線を描いて飛んだ砲弾が、紅い花を咲かせ、装甲に守られたスライム達をブスブスと焦がしていく。

「もいっちょ、装填完了! ふん、二度と立ち上がれねぇようにしてやんよッ!!」

 東は続けてもう一発を容赦無く打ち込んだ。
――まるで小規模な爆撃のような業火に、スクラップの半数ほどが巻き込まれ、数機がそのまま動かなくなる。
 辛うじて這い出した本体も、その身を焼かれて悶え苦しんでいた。

「‥‥紅 アリカ、『黒き金剛石(ブラックダイヤモンド)』‥‥行きます!!」

 そして燻る炎を切り裂いて、紅のミカガミが駆け、鷹代の阿修羅、ブーストをかけたカララクのバイパーが彼女に続く。

「――目標・敵前衛‥‥てぇ――っ!!」

 その背を抜けて奔る、エリシア達の援護射撃の火線。
 兵士達の支援を受けながら、能力者達は一斉に走り出した。


――汚された戦士達の魂を開放するために。




 A班において最初に接敵したのは、カララク機だった。

「‥‥ふざけた真似をしてくれたな‥‥人の怒りを、思い知れッ!!」

 135mm対戦車砲を打ち込みつつ接近し、ディフェンダーを叩きつける。
 ディアブロの残骸を纏っていたキメラは、胸部を砲弾に吹き飛ばされ、その傷口に刃が突き入れられた。
 グレネードの火炎で弱っていたのか、スクラップは力を無くしたかのように崩れ落ち、装甲の隙間からデロリ、と流れ出るように這い出す。

「行くぜ、ディアブロッ!! 奴らを地獄に叩き落すために!!」

 そこへ魔宗機のレーザーが閃き、キメラの体を完全に蒸発させた。
 すかさず傍らの機爪プレスティモを隣のR−01の残骸を纏った敵に連続して叩き込み、その爪の名に相応しい、激しいビートで死者への鎮魂歌を歌う。
――そこに戦車を纏ったキメラが、溶解液を吹きつけようとする。
 が、その前に轟音と共に飛来した砲弾が装甲版に穴を穿ち、スクラップごとキメラを押しつぶした。

「ふん、破損したものとは言え貴様らには過ぎたもの。とっとと手放せ」

 リュイン機のヘビーガトリングだ。
 続けて刀身を赤熱させたヒートディフェンダーが振り下ろされ、キメラはブスブスと音を立てて消し炭と成り果てる。

「――ごめんなさいっ!!」

 心の中で今は亡き戦士達に謝りながら、ヴィーはガトリングで戦車の残骸をガトリングで打ち崩し、キメラに対してレーザーを打ち込んだ。
 グレネードの連射によって弱ったキメラは成す術無く屠られていき、十体近くのスクラップを撃破した時には、能力者達の機体は殆ど傷を負っていなかった。




 B班の戦域では、鷹代と紅がペアを組み、KVスクラップを相手取りながら敵陣に踏み込んでいく。
 鷹代の阿修羅はまるで地を駆ける獣の如く突進し、ハヤブサの残骸を引き倒す勢いのまま、ライトニングファングを叩き込んだ。
 雷を帯びた一撃は、装甲だけでなくキメラをも貫き、物言わぬ肉の塊に変える。
――だが鷹代はそれに留まらない。
 そのスクラップを踏み台にしてすかさず別の敵に飛び掛っていく。
 カウンター気味にスクラップが手にする槍が突き出されるが、鷹代はソニックブレードで難なくその一撃を受け止めた。
 逆に剣を突き入れられて装甲を崩され、超振動をその身に受けて崩壊するキメラ。
 まるで嵐の如く、鷹代機は縦横無尽に駆け回った。


 紅も彼に負けてはいない。
 ヒートディフェンダー一本という、ミカガミならではの軽装でありながら、果敢にKVスクラップに立ち向かっていく。

「このミカガミを甘く見ない事ね。スライムだろうと何だろうと、三枚に下ろしてあげるわ!!」

 覚醒により、普段と比べて饒舌になった紅が叫ぶ。
 ミカガミの高い機動力が生み出す軽快な動きに、スクラップ達の攻撃は悉く空を切り、逆に紅機の攻撃は正に正確無比。
 装甲の脆い部分や隙間を狙った攻撃は、中に潜り込んだキメラだけを確実に焼いていった。


 砲弾の無くなったグレネードランチャーを投げ捨て、東も前衛の二人に負けじとヒートディフェンダーを抜き放ちながら、戦車スクラップへと吶喊する。

「出たな、ザコの代名詞め! 俺が倫理道徳って奴を叩き込んでやるぜ!」

 こちらに向かって打ち出される溶解液を打ち落としていき、ヒートディフェンダーを振り下ろした。
 スクラップごと地面に縫い付けられて動けないキメラに向かって、東は凶暴な笑みを浮かべながらガトリングの引き金を引いた。

――バララララッ!!

 軽快な音と共に砲弾が叩き込まれるが、キメラはしぶとく這い出し、逃げようとする。
 だが、新たに飛来した砲弾の爆発にその身を焼かれる――エドワードが戦車砲を放ったのだ。

「戦車砲の二連撃だ、食らえ!」

 右手に戦車砲、左手に滑腔砲を手にしたエドワード機が、遠距離から前衛の三人を狙う戦車を狙い撃ちにした。
 砲撃の反動で砲身が、機体が激しく揺れるが、バイパーはそれを物ともしない。
 電子戦機の恩恵もあり、次々と戦車の装甲をはぎ落としていった。
 そこへ更に東機や、手近なKVスクラップを倒した鷹代機と紅機が切り込み、止めを刺す。
 グレネードによるダメージの多かったB班戦域のキメラは、次々と掃討されていった。




――だが、順調そうに見えたこの作戦だったが、次第に長期戦の様相を呈して来る。
 次第に乱戦となり、じわじわと能力者達のKVの損傷率は上がっていった。
 弾薬も尽き始め、手にする武器も溶解液によってボロボロになり始めている。

「も、もうちょっとなのに――」

 ヴィーが額に汗を流しながら、疲れきった表情で前方のキメラ達を見据える。
 残りは十機足らず――しかし、そこから中々数を減らす事が出来無い。

(「これ以上長引けば‥‥不味い」)

 鷹代の心に焦りが生まれ始める。
 後方の兵士達も無傷という訳には行かず、岩龍を含めた四機が、錬力切れと損傷拡大のために撤退を余儀なくされていた。
 残ったエリシア達も、疲労の色が濃い。

「‥‥一気に仕掛けます!!」

 現状を打破すべく、紅が一気に前進した。
 そして残しておいたミカガミの「切り札」を解き放つ。
 腕に装備された内蔵式雪村――そこから溢れたエネルギーが光の剣を形成し、紅機の前に立ち塞がっていたキメラを二体同時に切り伏せた。
 彼女が強引にこじ開けた前線の穴を、能力者達が広げて突破していく。
――均衡が一旦崩れれば、後は早かった。
 次々とスクラップを打ち壊され、裸になったキメラに突き刺さる攻撃。

「これで――終わりだ! 散れっ!」

 最後の一体に剣を突き立てるリュイン。
――長かった戦いは、ようやく終わりを告げた。

「終わったか‥‥すまないな、騒々しくした‥‥」

 カララクは今まで自分達が打ち倒し、踏みつけてきた残骸達を見据え、頭を下げた。




 戦場は再び静寂を取り戻し、今は再び回収班が残骸の処理に当たっていた。

「‥‥皆さん、お疲れ様でした」

 ヴィーが先ほどまで共に戦っていた仲間達に告げると、この戦場で倒れた者達に対して黙祷を捧げた。
 傍らに立つリュインも、それに倣う。
 魔宗は自ら回収班を手伝い、彼らと共に残骸の処理に当たっていた。

「‥‥ここにいれば、またバグア共に利用されちまうからな‥‥。だから帰ろう、俺達のラストホープにさ‥‥」

 戦士達の魂が篭った破片の一つ一つに語りかけながら、魔宗は黙々と作業を続ける。




 東は仲間達や兵士達に見られないように一人祈りを捧げていた。
 その背に、声が投げかけられる。

「‥‥こんな所にいたか、アズマ・トウヤ」

 東が振り向くと、そこにはエリシアの姿があった。
 おそらくは一部始終を見ていたのだろう、その顔には微笑ましい物を見るような笑みが浮かんでいた。

「な、なんだよ――ヘトヘトになってるオバサンは、さっさと休んだら?」

 照れ隠しに彼女を罵る東。
 だが、エリシアは怒りもせずに彼を引き寄せ、一緒に歩かせ始める。

「な、何だよ離せよ!!」
「――まぁ付いて来い。そうすれば、先ほどの暴言は不問にしてやる」

 ぶぅぶぅ文句を言う東だったが、視線の先にある光景に眼を奪われる。
 そこには仲間達と、彼らを含めた自分達に敬礼を捧げる兵士、そしてKV達の姿があった。
 彼らの姿からは、仲間達の魂を救ってくれた傭兵達への、最大級の感謝がひしひしと伝わってくる。

「君は、我々の仲間を救った英雄の一人だ。
 そんな君が、恥ずかしいからとこそこそしていては、決まりが悪いだろう?」

 先ほどの東が吐いた暴言の意趣返しとばかりに、エリシアが悪戯めいた笑みを浮かべた。

「――ふん」

 東は頬を染めながら、目を背ける事でそれに応える。
――が、その口の端には、僅かに喜びの笑みが浮かべられていた。