タイトル:それはキメラか亡霊かマスター:クレイジードラゴン

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/19 19:11

●オープニング本文


「オオオオオオ!!」
 日本のとある村。
 そこでは今一つの事件が起こっていた。
 全ては神社に奉られていた刀が無くなっていた事から始まった。
 毎晩のように鳴り止まない風の音に混じり、不気味な咆哮が聞こえる。
 その正体を探るため、村の若者が夜な夜な家の外へと出て行った。
 村の外は風が吹き荒れ、まるで台風でもやってきそうだった。
「ウオオオオオオオ!!」
 若者が外に出ると再び咆哮が響く。
 家の中に居たときよりも近くに聞こえた。
 どうやら外に出たから、と言うわけではないようだ。
 若者が声が聞こえた方を見ると、何かが歩いてくるのが見えた。
 それは甲冑を着た侍のような姿をしており、右腕には刀身がむき出しの刀が握られている。
 それは神社に奉られていたものだった。
 その侍は若者を発見するとゆっくりと近づいてくる。
 若者は立ちすくみ、逃げる事さえ出来ない。
 侍が彼の前に立つ。
 兜の中から怪しく光る二つの赤。
 そして、振り上げられる右腕。
 もうだめだと若者は目を硬く閉じる。
 その時、風が一段と激しさを増し、吹き荒れた。
 あまりの激しさに若者は後ろに倒れる。
 その風はまるで侍に纏わりつくかのように吹きすさぶ。
 侍は刀をブンブンと振り回し、若者の事を忘れ、そのままどこかへと消えていった。
 若者は侍が消えると無我夢中で家に入り、鍵をかけた。
 翌朝、この話を村長に話すと村長は昔話を始めた。
 それは若者も昔聞いたこの村を作った、一人の侍の話だった。
 そして、刀ともう一つ、奉られているものを若者に伝えた。
 それは神社の裏の祠に奉られていると言った。
 若者は祠に向かった。
 昨夜見た侍が話の中の侍ならば、刀と同様に鎧も‥‥
 彼の考えは当たっていた。
 祠の中に鎧は無かったのだ。

 数日後、依頼を受けた傭兵達がこの村を訪れるまで侍は毎晩のように現われる‥‥

●参加者一覧

朝霧 舞(ga4958
22歳・♀・GP
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
澤本 咲夜(gb4360
18歳・♀・ST
シルヴァ・E・ルイス(gb4503
22歳・♀・PN
冴木 舞奈(gb4568
20歳・♀・FC
赤い霧(gb5521
21歳・♂・AA
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
ソウィル・ティワーズ(gb7878
21歳・♀・AA

●リプレイ本文

●前日の夜
 今日も激しい風が吹き荒れる。
 風と共に、ガシャンガシャンと言う音がはっきりと聞こえてくる。
 毎日のように訪れるこの風と音を聞くたびに、村人達は恐怖に身を震わせていた。
 一昨日は畑が荒らされた。
 昨日は家畜が殺された。
 そして、今日は‥‥。

●静かな村
 朝になり、傭兵達がやってきた。
 だが、村は静まり返っており、彼らを歓迎する者も仕事をしている者も外で遊んでいる子供さえいなかった。
 傭兵の一人が一番近い民家の戸を叩く。
 中から返事も無く、人の気配もしないため、彼らは村を歩き回る事にした。
 歩いてる途中、荒らされた畑が見えた。
 立派な牧草地もあったが、牛や羊といった家畜が居ない。
 村の状況は思ったよりも深刻なようだ。
 彼らはその後も歩き続けたが、すれ違う者は居ない。
 とうとう、村の奥の方まで誰とも出会わずに来てしまった。
 大きな屋敷があったので彼らはチャイムを鳴らしてみる。
 他の家にはチャイムは無かったが、この屋敷にはそれがあり、大きく開かれた門の隅に車も置かれていた。
 どうやら、この村の地主の家らしい。
 門の奥の家から誰かが出てくると、彼らに用件を聞く。
 彼らの話を聞くと、少し待つように伝えると再び家の中に入って行く。
 今日は日差しが強く、夏の到来を告げていた。
 樋口 舞奈(gb4568)の食べているチョコも少し溶けてきていた。
 近くの木々からはセミのうるさい鳴き声が聞こえ、トンボが雄雄しく飛んでいる。
 周りを見ていた彼らだったが、家の戸が開くとそちらに向き直る。
 中からは先ほどとは違う人物が出てきた。
「いやぁ、暑い中、良く来て下さいました。中へどうぞ」
 そう言って彼らを中へ案内する男は喪服を着ており、門をくぐると隅のほうに受付が見えた。
「いやいや、今日は葬式をしておりまして。村人全員集まってますので村の中は静かでしたでしょう」
 キメラに皆殺しにされたわけではないと内心ほっとした傭兵達だったが、
「やられたんですよ‥‥あの亡霊に」
 その言葉に彼らは凍りついた。

●沈黙の屋敷
 屋敷の中に入ると冷房が効いており、外の暑さを全く感じさせなかった。
 ギシギシと軋む床を歩いていくと、お経が聞こえてきた。
 そこを通り過ぎ、小さな和室へと通された。
 中は旅館を思わせる作りになっており、とても風情がある。
 テーブルを部屋の中央に持ってくると、男はお茶を淹れ始める。
 傭兵達が適当に腰掛けると、それぞれの前にお茶を差し出す。
「では、まずは自己紹介をさせていただきます。私、この村の地主であり、村長をさせてもらっている遠野と言います」
 そう言うと、彼はおじぎをする。
 傭兵達も遠野に自己紹介をすると先ほどの話について聞いた。
「ええ、昨日、私の息子が‥‥」
 そこで言葉を切り、黙ってしまった。
 自分の息子を殺されたのだ。ショックは計り知れないだろう。
 ふと、遠野が部屋の時計に目をやる。
「おっと、そろそろ火葬場に行く頃なので、少し出てきます。ここにあるものは好きに使ってください」
 今にも泣き出しそうな顔を隠し、遠野は部屋から出て行った。
 少しして、窓から外を眺めると喪服を着た人々が屋敷から出て行くのが見えた。
 いつの間にか、霊柩車も来ている。
 誰も彼もが生気を失ったような目をしており、悲しくもどこか不気味に見えた。
 遠野が車に乗ると、霊柩車を先頭に屋敷を出て行った。

●静寂の夕暮れ
 遠野が帰ってきた頃には日が落ち始めていた。
 この間、遊びに来たわけではない傭兵達はキメラとの戦闘に備え、準備をしていた。
 澤本 咲夜(gb4360)は雑草を結い、簡単な罠を仕掛けた。
 舞奈はお清めの塩をもらうために屋敷内をうろついていた。
 だが、彼らの作戦の要の投げ網は未だ手に入っていない。
 使用人と思われる人が入ってきた(何故か舞奈も一緒に)のでシルヴァ・E・ルイス(gb4503)が聞いてみたが漁村でもないこの村に、丈夫な網は無いと言う事だった。
 それに夜は銃の弾丸や矢の弾道を変えてしまうほどの強い風が吹くので、投げ網を狙って投げるのは困難では無いかと言う事になり、結局この作戦は流れてしまった。
 傭兵達が準備をし終え、部屋でくつろいでいると遠野が部屋に入ってきた。
 使用人も一緒で、手には食膳を持っていた。
 彼らが食事を済ませると、綺麗な夕暮れが窓から見えた。
 しかし、昼間とは違い、虫の声が聞こえてこない。
 それだけでなく、虫の姿すらないように見えた。
 遠野の話ではこの時間になると、虫たちが一斉に姿を見せなくなるのだと言う。
 虫達にはキメラと言う脅威の襲来が分かっているのかもしれない。
 虫の喧しい声も聞こえずに、太陽は静かにゆっくりと落ちていった。

 キメラとの決戦は近い。

●昔話・始まり
 日が落ち、辺りが暗くなって来ていた。
 窓を開けてみるが、風はなく、穏やかなものだった。
 どうやら、すぐに現れると言うものではないらしい。
 風が吹き始めるのを遠野と共に待つ事にした。
 その間、遠野はこの村の興りと鎧と刀の持ち主である侍の話であった。
 朝霧 舞(ga4958)と舞奈が興味津々と言った感じで遠野の話に耳を傾ける。
 他の面々も遠野の話に耳を傾ける。
 それは平安時代の話。京に仕える一人の侍が都を抜け出し、この地で新たな生活を始めた所から始まった。
 その侍は自らの刀を鎖で縛り、二度と鞘から抜けないようにすると今度はクワを握り、大地を耕し、畑を作った。
 そんな侍の元に方々から人が集まり、やがて今の村になったと言う話だった。
 侍は、
「主君無くして侍に非ず」
 と言い、二度と刀を持たなかったそうだ。
 話は長く、途中で休憩を挟んだため、既に21時を回っていた。
「そして、その侍はこの村で神として奉られるようになりました。侍の名前は‥‥」
 と、遠野が言い終わる前に突然突風が窓から吹いてきた。
 赤い霧(gb5521)が急いで窓を閉める。
「とうとう来たようですね。キメラは必ずこの道を通り、神社を目指します。どうか、お気をつけて」
 そう言うと、遠野は彼らを屋敷の入り口まで案内し、彼らが出ると戸を堅く閉めた。

●激しき風の化身
 外に出ると、どんどん風が強くなってくるのを感じた。
 それぞれの武器を握り締め、傭兵達は門の外に出る。
「さて‥亡霊はどこかな‥‥」
 咲夜が仕掛けた罠が無残にもちぎられているのが目に留まった。
 どうやら、この程度の罠ではキメラの足止めにもならなかったようだが、目印として使う事が出来た。
 ちぎれた草を探しながら彼らは走り続ける。
 と、前方に黒い大きな影が見えた。
 それはゆらりと、神社の方に入っていった。
 風が屋敷に居た頃よりも遥かに激しく吹きつけている。
 もはや、キメラである事は間違えようがなかった。
 彼らもキメラに続いて神社に入る。
 が、ソウィル・ティワーズ(gb7878)は足を止めた。
「荒い風ね、アンタは‥‥味方なの? それとも、敵?」
 風が答えるとは思っていない。
 だが、聞かずにはいられなかった。それは、この風が味方ではないかと思った彼女の勘。
「ミカタ‥‥」
 激しい風の中なのにはっきりとそう聞こえた。
 彼女は少し呆気に取られた。まさか、本当にそうだとは思わなかったからだ。
「祟ってんじゃないわよ!」
「グゥオオォォォァァアアアア」
「‥‥勝負ッ!!」
 中では既に戦闘が始まっているようだった。
 ソウィルは我に返ると、素早く中に入って戦闘に参加する。
 中では天原大地(gb5927)がキメラと激しい鍔迫り合いを行っていた。
 火花散る互いの刀身。
 徐々にキメラの方が天原を押していく。
 力だけならば、キメラの方が強いようだ。
 斬られる前に天原は刀を引き、数歩後ろに下がる。
「せっかくだ‥‥てめぇの剣筋も見せてもらおうか‥‥!」

 そう言うと、天原は防御体勢に入る。
 キメラはゆっくりと天原に近づく。
 天原の頭上を飛び越え、榊 刑部(ga7524)がフロスティアで刺突攻撃を仕掛ける。
 狙いは鎧の継ぎ目一点。
 だが、その攻撃をキメラは紙一重でかわす。
 強い風のせいで榊の動きが少しだけ鈍っていたのもあるが、キメラはそれを感じさせない。
 恐らく、キメラはこの強い風を毎日のように受けていたため、この風の中でも動きが鈍らないのかもしれない。
 天原ではなく、榊に標的を変えたキメラは彼に攻撃を仕掛ける。
 榊はキメラの太刀筋を見ながら、フロスティアでその攻撃を受けると後方に飛んだ。
「侍を気取るのならもっとマシな攻撃をして頂きたいものですね。戦国より続く榊流古武術の使い手である私の前に立ち塞がるには些か役者不足と言うものです」
 彼がそう言うのと同時にキメラは一気に距離を詰めてきた。
 目前に迫ったキメラの白刃が振り下ろされる。
 我に返ったが、避ける事も受ける事も出来ない。
 だが、その白刃は届かず、逆にキメラが仰け反る結果になった。
 舞奈がユニバースフィールドでキメラの攻撃を弾いたのだ。
 好機と見たシルヴァは迅雷を使用し、赤い霧と朝霧がキメラに近づく。
 体勢を立て直し、応戦しようとするキメラの刀を赤い霧と朝霧の「霧」コンビがそれぞれの武器を合わせ、受け止める。
 そして、シルヴァが鎧の継ぎ目を狙って攻撃を仕掛けた。
 が、一瞬早くキメラの蹴りがシルヴァを捉え、彼女を吹き飛ばす。
 二人の「霧」もまるで霧を払うかのように吹き飛ばされる。
 だが、力任せに吹き飛ばしたせいで鎧にピシピシと亀裂が走った。
 その時、風が勢いを増し、ソウィルを力強く押した。
 ソウィルは決心をする。
 それは鎧を破壊する事。
 経験の浅かった咲夜は中々前に出れずに居た。
 再び立ち上がろうとする者達を見下すキメラ。
 咲夜はそんなキメラが許せなかった。
 ソウィルは彼女に援護するように言うと、彼女はミルトスで電磁波を放つ。
 電磁波の攻撃は正確にキメラを捉え、動きを抑制する。
 ソウィルはただ真っ直ぐに敵に突っ込む。
 キメラに接近すると彼女は流し斬りと両断剣を使用する。
 電磁波に気を取られていたキメラは彼女の接近に気づいても対処できずにいた。
 だが、それでも撃退しようとするキメラは腕を振り上げる。
 そんなキメラの腕に赤い霧が飛びついた。
「抑え込んだッ! 後は頼む」
 ソウィルは頷くと、
「‥‥この一撃、受けられるかしら!?」
 と、強烈な一撃をキメラの胴体に叩き込む。
 キメラの着ていた鎧が盛大に壊れ、破片が雨のように降り注いだ。
 数歩後ろに下がったキメラがこちらを見るとその中身が見えた。
 それはゼリー状のもので、無くなった鎧から少しはみ出ている。
「‥‥なるほど、な」
 シルヴァを含め、全員がキメラの正体に気づく。
 風のせいだけでなく、正体が分からなかったため、動きが鈍っていたのかもしれない。
 そういえば、風もやんでいる。
 シルヴァは全員で総攻撃を仕掛けようと思ったが、背後で何か別の気配を察する。
 前に居た全員と後ろに居た咲夜も気づいたらしく、背後を見やる。
 そこには「風」を纏った天原が居た。
 その眼差しは強く、別人のように見えた。
「最後は俺がやる‥‥!」
 その言葉に気圧され、傭兵達だけでなくキメラも恐怖を覚えたのか、動く事が出来ずに居た。
「行くぞ! あいつに死を届けるために‥‥!」
 蛍火を強く握り締め、天原がゆっくりと前に出ると走り出した。
「ウオオオオオオオオオ!!」
 天原の声とは思えない叫び声を上げる天原。
 その叫び声に呼応するかのように風が更に激しく吹きすさぶ。
 蛍火を両手で掲げ、突進する。
 キメラは何とか腕を動かし、刀を天原の前に突き出した。
 キメラの刀に刺し貫かれる天原。
 キメラは自身の勝ちを悟った。だが、
「オオオオオオオオオ!!」
 天原は止まらなかった。
 彼は全力でスマッシュを胴体に放つ。
 胴体のゼリー状のものが吹っ飛び、腕や足や頭からも何かが弾けた。
 そして、ゴトリゴトリと兜等が地面に落ちた。
「ウオオオオオオオオオオオ!!!」
 天原は刀を強引に抜くと、再び雄たけびを上げた。

●昔話・神の名
 その後、天原は活性化を使用し、完治とまでは行かなかったが傷は塞がった。
 それと同時に彼は気絶し、何人かで彼を屋敷まで運んだ。
 残った者はどうしようかと考えていた。
 鎧を壊したソウィルはとりあえず鎧の破片をかき集め、残りの刀や兜や脛当て等を集めて祠に返す事を提案する。
 破片を集めると彼女達は祠へと入っていった。
 祠の中は暗く、明かりが無ければ入っていけなかった。
 だが、突然また風が吹き付ける。
 今度は彼女達を導くように優しく、力強く。
 風に導かれるまま最奥を目指し、進んでいく。
 そして、鎧と刀を奉ってあったと思われる祭壇がある場所へたどり着いた。
 驚く事にそこに遠野もいたのだ。
 神社に居た彼女達に気づかずに入る事は不可能なはずなのだが‥‥。
「さあ、鎧と刀をここへ」
 遠野は破片になった鎧を見たが、そう言った。
 ソウィルが鎧と刀を納める。
 と、鎧の破片が光り始め、刀も光を帯びていた。
 鎧の破片は光ったまま、元通りになり、威風堂々と腰掛けている。
「やっと‥‥やっと終わりました。あなた方のおかげです」
 呆気に取られたソウィル達を見やると遠野は話を続けた。
「皆さんが出かける前に話していた昔話ですが、侍の名前をまだ言ってませんでしたね。あそこに書かれているのがそうです」
 そう言うと、遠野は指を指した。
 その方向を見ると、文字が壁に刻まれていた。
「吹きすさぶ風の剣士、風蛍ここに眠る」
 と‥‥。

 同じ頃、天原達も不思議な体験をする。
 天原が目を覚まし、運んでいた者たちの肩を借り、歩き出す。
 と、彼の顔に一匹の蛍が止まる。
 天原はそれを見つめ、
「これからも、この村を守ってくれよな‥‥」
 と、声を掛ける。
 その言葉に返事をするかのように蛍は一回だけ光りを発し、空を目指して飛んでいった。
 どこまでもどこまでも高く高く飛んでいった‥‥。

●とある軍人のメモ
 依頼は成功に終わる。
 結果的に言えば、侍はキメラだった。
 強風と言う天候と意外にも手ごわいキメラによって傭兵達は苦戦を強いる。
 報告書を書く上で、ソウィル・ティワーズは風の中で声が聞こえたと語る。
 風が霊だったのか?
 村に奉られた侍の二つ名からして、その可能性は高い。
 また、天原大地にも変化が見られた。
 彼はその時の事を良く覚えていないと言う‥‥。