●リプレイ本文
●昼の街
昼の街は暑く、そろそろ初夏を迎えようとしていた。
太陽が容赦なく照りつけ、アスファルトは太陽の熱で熱くなっていた。
依頼主である市長を訪ねるため、傭兵達は役所へと足を運ぶ。
街は広く、移動するためのバスやタクシーが多いが、交通量も多く、渋滞になっていた。
役所は街の中心にあった。構造的に中心に置いた方が色々と都合がいいのだろう。
役所に入ると冷たい風が汗ばんだ傭兵達の体を優しく包んだ。
空調が良く効いており、仕事をするには丁度いい室温だった。
彼らは受付に自分達が傭兵である事を告げ、依頼を受けた事を説明すると受付嬢は少々待つように彼らに言うと内線で市長に連絡を入れる。
彼女ははい、はい、と受話器を持ち、頭を下げた。受話器を置くと、机の引き出しから何枚かの書類を出し、傭兵達に見えないようにその書類を見ながら彼らに名前を名乗るように告げる。
傭兵達が名前を告げるたびに書類を変え、彼らの顔を確認する。
全員分確認すると、彼女は立ち上がり、傭兵達を市長応接室に案内し始める。
エレベーターで彼らは3階へと行き、市長応接室と書かれた部屋の前で止まった。
彼女がコンコンとノックし、傭兵達の来訪を告げると部屋から返事が聞こえてきた。
部屋に入ると、そこには豪華な椅子と机が奥に置いてあり、その前にパイプイスが8個並べられていた。
その豪華な椅子にガッチリした体格のいい金髪の男がニコニコしながら座っていた。
「ようこそ! 傭兵の皆さん! まあ、座ってください!」
市長は体だけでなく声も大きかった。
傭兵達がパイプイスに座ると、ニコニコしながら市長は自己紹介を始める。
「私はここで市長をやらせてもらっているニコライと言う者です! 見てのとおり、アジアの人間ではありませんが、こんな私を受け入れてくれた街の住民のためにも1日でも早く安心させたいため、皆さんに来てもらいました!」
ニコライは両手を合わせ、スリスリと動かしながら話を続ける。
「あなた達の仕事に口を挟む気はありませんが、協力する事は惜しみません! 何でもおっしゃってください!」
傭兵達は既に作戦を立てていたため、その作戦に必要な物を用意してくれるようニコライに頼む。
まず、シア・エルミナール(
ga2453)が蛍光塗料とキメラをおびき出す餌とダークグレーの迷彩服を頼んだ。夜にキメラを追跡するため、目印をつけるため、隠れながら追跡するために必要だと告げる。
ニコライはうんうんとにこやかに頷き、他にもないかと問う。
アルヴァイム(
ga5051)は地図と手鏡を頼む。ニコライは、ああと言うと何かを思い出したかのように机の引き出しから紙を取り出す。
「来たら地図を渡そうと思っていたのを忘れていました。申し訳ない。全員分あるから持っていってください」
ニコライは冷や汗を浮かべながら彼らに地図を渡す。ニコライはどことなく市長として不安な面も持っているようだ。
地図にはキメラの現れた場所が丸で囲われており、リンゴがこぼれて行った方向も囲ってあった。
「さすがに道路にずっとリンゴを置いておくわけにも行かないですので、片付けながら一つ一つに丸をつけて行きました。しかし、どうも不思議なんですよね‥‥」
地図に書かれた丸は街をぐるっと周り込むように伸び、最後にビルと思われる建物の前で消えていた。
「この建物は取り壊す直前のもので、今は使われていないんです。そこにキメラがいると思ったのですが‥‥確かに中は荒れていて、窓も割れていましたがキメラはそこに居なかったんです」
その建物は広くなく、今回のキメラが入るにはあまりにも小さかったのだ。
「ここを最後にリンゴもコンテナも消えていて、以降の足取りは全く分かりません。もしかしたら、私達の考えが及ばない場所に巣を作ったのかも知れません。もし、巣があればティラノサウルスだけ倒しても意味がありません。巣が見つかったら駆除もお願いします」
ニコライはやはりにこやかにそう言う。緊張感が無いのだろうか。
「それと、夜は戒厳令を発令しますからあなた達の他には誰も居ません。安心して戦って下さい」
ニコライはそう言うと早速物資の手配をするために控えていた受付嬢に指示を出す。
「では、後はあなた達の仕事です。よろしくお願いします」
●夜の街で
19時‥‥街は静まり返っていた。
いつもなら、仕事帰りのサラリーマンやバイト帰りの学生達が歩き回ってる時間だが、今日は誰も居ない。
街中の街灯が寂しげに佇んでいるだけであった。
ダーク・グレーの迷彩服を着たシア・エルミナールはニコライから送られてきた餌に蛍光塗料を付け、街に撒き始める。
蛍光塗料が街灯の光で反射し、少しだけ華やかな雰囲気を出している。
三島玲奈(
ga3848)は葛藤していた。
彼女は両親と死別し、里親と母子家庭で暮らしている。
キメラとは言え、築き上げた家庭を壊してしまう事に複雑な気持ちを抱いているからだ。
悩み続けていた彼女だが、
「ええいっ! 相手は殺人兵器‥私が撃つ物は万死に値する物だ」
その一言を以って、吹っ切れたようでもうその目に迷いは無かった。
アルヴァイムは自分の武器であるSMGに貫通弾を装填すると、全員の装備と嗜好を確認していた。
ニコライは去り際に自分の手鏡をアルヴァイムに渡していた。
アルヴァイムは建物の影等は鏡を利用して、身を出さずに探すために使うようだ。
手鏡を携帯袋に入れると、今度は編成や作戦の調整をし始めた。
21時‥‥傭兵達が動き出す。
彼らは二班に別れた上でタンデムを組み、キメラを探す。
「にゃ、剣清さん歩いていく?」
紫藤 望(
gb2057)は御守 剣清(
gb6210)にそう聞く。彼はバイクでいいと告げると、紫藤望のAUKVがバイク形態に移行する。
「よろしくお願いしますね〜。男としちゃ、女性を後ろに乗せたいとこなんですけど‥‥そうも行きませんからね〜」
そう言うと、彼は後ろに乗った。
彼女達の後ろから同じ班であるアリステア・ラムゼイ(
gb6304)と三島が乗ったAUKVが追う。
シアとナンナ・オンスロート(
gb5838)、アルヴァイムとフェイト・グラスベル(
gb5417)は巣を探すために動きだす。
フェイトはアルヴァイムの指示を聞きつつ、丁寧な運転でAUKVを走らせる。
ナンナ達も安全な運転で後を追う。
23時‥‥未だにキメラは現れず。
二班に別れた傭兵達は時々、無線で連絡を取り合い、ほぼ全ての箇所を回った。
特にリンゴが途切れた建物周辺の影や、その上に見えるハイウェイを調べたが、キメラの痕跡一つ見つけられなかった。
念のために一度合流し、建物の中も調べたがニコライの話通り、特に変わった物は無かった。
傭兵達は焦ったが、もう一度街を見回る事を決めた。
23時59分‥‥一日が終わろうとしていた。
二班はそれぞれほぼ真反対の方角に居た。
街中をグルグル回り続けていたのでさすがの傭兵達も疲労を感じ始めていた。
彼らは一旦休憩を取るために南にある公園で合流する事にした。
先に着いたのは紫藤望達だ。
AUKVを止め、近くの水道で水を飲む。
水を飲み終えた紫藤望がふと公園の時計を見る。
その時計が12時を指し示した時、地震が起こった。
そこに居た全員がよろよろとよろめき、必死に踏ん張った。
その地震に連動するかのように地面が盛り上がる。
紫藤望達はAUKVに乗り、それを見つめる。
やがて地震が収まるに連れ、徐々に「それ」が姿を現す。
ティラノサウルスだ。
「地下に巣を作ってたのか!?」
誰かが言ったその言葉を掻き消すようにキメラが大きく吼える。
現れたキメラは傭兵達には目もくれずに道路に沿って走り出す。
紫藤望達はもう一斑に連絡を入れると、キメラを追い始めた。
●子と傭兵
連絡を受けたアルヴァイムは考える。
奴が現れたのは餌を求めての事。
ならば、奴の来た道を辿れば巣に繋がっているのではないのか?
そう考えた彼はフェイトに公園に向かうよう指示を出す。
ナンナも同じ事を考えたらしく公園を目指し速度を上げる。
公園にぽっかりと出来た大きな穴にフェイトとナンナのAUKVが突っ込む。
穴の中は一直線に奥へ奥へと向かっている。途中、上の方に何個か穴があるのを発見した。
どうやら、ここ数日は穴を掘っていたようだ。
キメラの掘った穴は深く、AUKVのライトで照らしても先は見えなかった。
しかし、突然、大きな空洞に出た。
そこは、あのティラノサウルス以上にでかく、一目でここが巣だと判断できた。
急ブレーキを掛け、フェイトのAUKVが止まる。
ナンナはフェイトのAUKVの横に止める。
アルヴァイムとシアが降りると、フェイトとナンナはAUKVを装着した。
奥の方からギャアギャアと鳴き声が響く。
彼らは油断せず、一歩一歩確実に近づいていった。
奥の方に居たのは間違いなく、キメラの子供であった。
だが、一匹しかおらず、鳴き声もどこか弱弱しい。
凶暴なキメラを予想していた彼らは少し驚いた。
キメラは傭兵達に気づくと、ヨロヨロと立ち上がり、ギャアギャアと鳴く。
武器を構えるが攻撃をするのに悩む。
一歩一歩、ゆっくりと歩くキメラの子供。
だが、傭兵達にたどり着く前にパタリと倒れる。
アルヴァイムが近づき、手で触れようとする。
キメラが持つフォースフィールドは生きている限りは発動するが、死んでしまったら発動しない。
そして、フォースフィールドが発動しない事を確認すると、無線で紫藤班に連絡を入れた。
●親と傭兵
連絡を受けた紫藤達はキメラを追っていた。
止まる事を知らないキメラの足を潰すため、三島がライフルに持ち変え、足を狙うがバイクの上からでは思ったように狙えない。
当のキメラは全く気にしていない様子で、獲物を探して徘徊するが戒厳令の敷かれた街で獲物を探すのは困難だった。
今の時間帯で明るい建物もなく、あまり夜目の利かないキメラは獲物を探せずにいた。
グルルルと低い唸り声を上げたキメラはふと気づいた。
さっきからチョロチョロと追いかけてきているこいつらを食えばいい、と。
キメラは急に足を止めると、長い尻尾をブン!と振るい、傭兵達に奇襲を加えた。
先頭を走っていた紫藤と御守がこの尻尾の一撃を食らい、建物に激突する。
紫藤は食らう前にAUKVを装着したため、ある程度のダメージは軽減できたが御守はもろに食らった。
「Holy Knightを傷物にしたなー‥‥!」
すぐにAUKVをバイク形態に戻し、再び追おうとするが、キメラはこちらを見つめていた。どうやら闘う気のようだ。
御守も起き上がるが、少し苦しそうにしている。
アリステアと三島もバイクを降り、臨戦態勢に入る。
三島がキメラの足に向けてアンチマテリアルライフルを発射するのと同時に、御守が迅雷でキメラに接近する。
アリステアも御守に続き、接近する。
アンチマテリアルライフルの弾が足に着弾した瞬間、迎え撃とうとしていたキメラがよろめく。
御守はこの隙を逃さずに弾が当たったところに刹那を使用した刀の一撃を加える。
巨体に似合わない華奢な片足が両断される。
アリステアはもう片方の足を攻撃したが、切断できなかった。
アリステアは斬馬刀を引き抜くと、クルクルと回転しながらキメラの腹の真下に移動し、斬馬刀を強く握り締める。
体勢を完全に崩したキメラが彼女に覆いかぶるように落ちてくる。
その腹を狙い、彼女は斬馬刀を突き上げる。
ズブズブと腹に突き刺さる斬馬刀。
彼女はそのまま腹を裂きながら尻尾がある方へ移動していく。
「グオオオオオ!!」
腹を切り裂かれたキメラが咆哮を上げる。
そして、片足を切断されたにも関わらず、再び立ち上がった。
再び尻尾をブンブン振り回し始める。
至近距離にいたアリステアと御守は回避を試みるが、徐々にスピードを上げる尻尾についていけず、次第にかすり始める。
三島が再び射撃を行う。今度は鋭角狙撃を使用した一撃だ。
しかし、今度はなかなか体勢を崩さない。先ほどの攻撃で興奮し、痛みを感じなくなってるのだろうか?
もはや、竜巻とも呼べるキメラの動きに接近する事は出来なくなっていた。
そこへ、バラララと言うマシンガンの音が響く。
アルヴァイム達が来たのだ。
アルヴァイムは装填されていた貫通弾を使用し、ナンナと共にSMGで弾丸の雨を降らせる。そこにシアも加わり、S−01で援護する。
もちろん、足元で踊っている二人に当てないように上を狙って。
弾丸の嵐をもらったキメラの足が止まる。
その瞬間を見逃さずに、フェイトがジャンプする。
彼女はベオウルフを振り回しながら尻尾を捉えると、斬りかかり、両断する。
足元のアリステアも尻尾の根元を狙ってジャンプ斬りを放つ。
キメラの尻尾は全て斬り落とされてしまった。
紫藤はAUKVをバイク形態でキメラが踏み砕いた道路の盛り上がった場所でブーストを使用してジャンプした。
そこから、空中変形し、竜の爪と竜の咆哮を使用。キメラの頭を押し、地面に叩きつける。
「必殺、double D!」
彼女の必殺技は見事に決まり、キメラを大地に押し倒す事に成功した。
大量の銃弾を受け、腹も裂かれたキメラは大量に出血しており、もう立ち上がる力もないようだ。
「ウオオオオン‥‥」
最後に悲しそうな声で鳴くと、キメラは動かなくなった。
●希望の朝
傭兵達はキメラを倒した後も巣の探索を行ったが、他にキメラは居なかった。
彼らが巣穴から出てくる頃には綺麗な朝日が出てきていた。
誰もが疲れ果て、怪我をした紫藤と御守は特に疲労が激しかった。
フラフラとしながら歩いている彼らを誰かが呼びかける。
「おはよう。いい朝だね」
爽やかな笑顔でニコライが話しかけてきた。
「まだ市長の仕事を始める時間じゃないからね。今は一市民として話をさせてもらうよ。ありがとう。皆さんのおかげで助かった」
ニコライは傭兵一人一人の肩をポンと叩き、礼を言う。
「また何かあったら依頼を出させてもらうよ。それじゃ、僕は行くよ。傷の手当てをする場合は病院に行ってくれ。僕のおごりで治療させてもらうよ」
ニコライはそう言うとニコニコと去っていった。
眩しい朝焼けは希望に満ちた今日を祝っているかのようだ。
●レポート
結果報告:事件解決
キメラデータ:ティラノサウルス型キメラ。子供と親の二体を確認。主に親が狩りを行うようだ。しかし、撒き餌には引っかからない所を見ると自分で厳選した物しか狩らないように思える。傭兵が見た限りでは子供の方は病気だったのかもしれない?
キメラの生態系が分からないため、詳しい事は分からず。攻撃方法は親は尻尾を多用。子は不明。
備考:巣の再調査を行ったところ、車と食いちぎられた男性の遺体を発見。最初の夜に連れ去られた者と判断。遺族に渡す。