タイトル:無音の殺人者マスター:クレイジードラゴン

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/08 23:13

●オープニング本文


 山に囲まれたその村は天然の要塞であった。三方を山肌の覗く険しい崖と言ってもいいほどの斜面に囲まれ、残る一方も木製の壁が塞いでいる。壁の中央には簡素な門とそれをくぐる一本の道。
 近隣の村との交流はあれども少なく、いつ崖が崩れて地図から消え去るかも分からない、そんな村であった。

 村の入り口に立つ門番の男性が、一つ大きなあくびをした。雲ひとつ無い空と、無駄に強い日照りを恨めしそうに睨み付けて村の外へと向かう。この時間は、塀の外側に影ができるのだ。
 入り口から続いて村の中央を貫く大通りを老婆が歩く。老婆とはいえ腰は伸び、まだまだ現役、という風体である。
 村の中央にある広場で、少女が重たそうに瓶を抱えなおした。村の外れで水を汲んできたところだ。家までもうすぐだと自分に言い聞かせて、瓶を置いて休憩したい衝動を抑える。
 少女と入れ違いに男性が羊を連れてやってきた。近隣の村で、織物と交換してきたのだ。疲れていたが、夜には肉が食べられると考えて小躍りしたくなる。家族もさぞや喜ぶだろう。

 いつも通りの変わらぬ日常。誰もが忘れ去ったような人知れぬ村の、平和にして変わりのなさ過ぎる生活。

 しかし、それは突然始まった。

 羊を連れた男性が、突然血を吐き倒れた。その死に気がついた人間はいなかった。
 その近くで水の入った瓶を運んでいた少女が、やはり血を吐き倒れた。その原因に気がついた人間はいなかった。
 男性の血液が、少女の血液が、弧を描いて渦を描くように歩いていた老婆を襲う。誰の目にも血に濡れた、しかし不可視の刃が視えた。
 人の体内に納まっているべき液体が広場の中心から撒き散らされる。子どもの描いた赤い渦巻きの太陽のように。村の中心から広がっていく。

 血の渦巻きは壁も柱も家も、全ての建築物を貫いて形成された。ただの一度も途切れることなく。何のことは無い。“それ”を描いた筆は、血という絵の具が失われる前に次の絵の具を吸っていただけのことである。

 惨劇を生むその筆は、最初からそのつもりだったかの様に、村の入り口でぴたりと止まった。

 そして、数日後‥‥
 数名の傭兵がこの地で起こった出来事を調査しに来ていた。

●参加者一覧

亜鍬 九朗(ga3324
18歳・♂・FT
フォビア(ga6553
18歳・♀・PN
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD

●リプレイ本文

●参加者名簿
 亜鍬 九朗(ga3324
 フォビア(ga6553
 アンジェリナ(ga6940
 ヒューイ・焔(ga8434
 神撫(gb0167
 翡焔・東雲(gb2615
 ヤナギ・エリューナク(gb5107
 フィルト=リンク(gb5706

 以上、8名の能力者達が事件解決に向け、鹿村へと出発。

●作戦会議
 今回は、山に囲まれた村のため、山の麓から徒歩で向かう事になる。
 能力者ならば、山歩きも大した苦ではない。が、ただの兵士や一般人だったら自然の要塞と言われる、この村の位置は厳しいものだった。
 先遣隊は相当苦労したに違いない。
「見えない武器‥‥鎌鼬のようなものか?」
「村に入る前に双眼鏡で偵察してみてはどうだ?」
「敵は見えないが、ペイント弾を使用すれば見えるようになるのでは無いだろうか?」
「影までは隠せないはず。だから、照明銃も使えば影で判断できるかも。そこにペイント弾を撃ち込めばいいんじゃないか?」
「逃げ出されたら厄介だ。門は事前に閉めとこうゼ。ついでに罠も仕掛けたらいいんじゃないか?」
「では、私はペットボトルと水性塗料を用意します。それで罠を作りましょう」
 姿の見えない敵だけに事前の準備が重要な今回の任務では、色々とする事が多い。傭兵達は手分けして罠の作成を行う。
「後は‥‥陣形を決めようか。互いに庇い合える陣形がいいだろう」
 一通りの準備が終わると、最後に陣形を決めた。
 用意は万全、例え姿が見えなくても炙り出せる。
 後はただのキメラと変わらない。
 傭兵達の中にはそんな風に考えていた者もいるかもしれない。
 だが、そんな思いは数時間後に崩され、激闘を繰り広げる事になるとはこの時、誰も予想していなかった。

●道中
 能力者達は山の麓で高速艇を降りた。
 彼等は用意した物を再確認すると、山を歩き始める。
 彼等の登る山は村の南にある山で、3つの山でもっとも木が少ない山だった。
 もし木が多い山の中で攻撃されたら、場所を特定するのは困難であり、崖のように険しい斜面が多い山の中は圧倒的に不利であるからだ。
 少ないとはいえ、絶対に攻撃を受けないとは言い切れないため、能力者達は慎重に歩を進める。
 彼等は正午に村に入るため、かなり早い時間から慎重にゆっくりと山を歩いた。
 山頂で時刻を確認する。時間はまだある。休憩を取りつつ、九朗は双眼鏡で村を偵察する。
 荒らされた様子もなく、人が入れば、すぐにでも住めそうな村‥‥
 人が居ない事を除けば、どこにでもある村であった。
 キメラの姿を探すが見つからない。姿を隠しているのだろうか?
 九朗は更に探し続けるが、見つけられなかったため、諦めて双眼鏡をしまおうとして気づいた。
 村の反対側に大きな木の壁がある。その壁に小さな穴のようなものが見えた。
 最大望遠でその穴を見る。何の変哲も無い穴だが、何故開いているのか? 九朗は違和感を抱きつつも双眼鏡をしまった。
 村まで後半分。能力者達は休憩を終えると、村に向けて歩き出した。

 九朗の気づいた穴。そこにキメラは居た。
 キメラは不可視のブーメランを壁に刺し、その上に乗っていたのだ。
 キメラもまた、能力者達に気づき、偵察していた。
 じっくりと獲物を見つめるキメラ。彼らが移動するとキメラはブーメランを引き抜き、村に降りた。
 そして、その目はこう言った。

「狩りの時間だ」

●狩人の戦い方
 村の前まで来ると、フォビアは門の外を索敵する。
 彼女の照明銃が発射され、辺りを照らす。
 周囲は明るかったが、影を作る事は出来る。今回の作戦の重要なポイントである影作りを試しつつ、周囲をペイント弾で塗装していく。
「隠れられてんのも今の内、ってね‥‥」
 ヤナギもフォビアと同様、照明銃とペイント弾で塗装していく。翡焔も色水等を使い、彼を手伝う。
 彼らは堀と門付近を重点的にやっているようだ。
 九朗、アンジェリナ、ヒューイ、は周辺の警戒をしている。
 神撫とフィルトは盾に塗料をつけている。神撫に至ってはトリモチまでつけているが、効果はあるのだろうか。
 敵が居ない事を確認した彼等は村へと入る。
 彼等はより一層、周囲を警戒し始め、油断をしないよう気を引き締める。
 フォビアは盾を構え、決められていた陣形を取るように指示した。
 仲間達は頷くと、配置に付く。
 入った直後に襲われれば、混乱し、最悪、そのまま全滅もありえる。
 数分が過ぎるが、キメラは襲ってこない。
 フォビアとヤナギは協力して、門を閉める。これで、敵を逃がす事は無い。しかし、逃げるのも難しいかもしれない。
 ある意味で、この選択は背水の陣である。倒すか、倒されるか、それは彼等自身の力量と作戦が左右する。
「さてと‥‥どこから来るか‥‥」
 神撫が言う。
 だが、キメラは襲ってこない。こちらの出方を見ているのかも知れない。
 フォビアは固まって移動するように言うと、目に付く限りの影に水入りペットボトルを投げる。
 ヤナギとフィルトもペンキや水の入ったペットボトルを周囲に置いていく。
 キメラがこれを踏めば、色が付き、足取りを追えるだろう。
 姿を消せるキメラに先制攻撃のチャンスはあるが、攻撃してきた途端、色を付けられ、その有利さを失う。
 キメラはそこら辺を本能で感じているのかもしれない。だから、無闇に攻撃を仕掛けず、彼等の策を出し尽くしてから攻撃を仕掛けてくるのかもしれない。
 全ての罠を設置し終えても、キメラは攻撃を仕掛けて来なかった。
 陣形こそ崩さなかったが、一向に動きを見せないキメラに焦りが募る。
 本当に敵はいるのだろうか? 他の場所に行ったのでは? 等、色々な不安が彼等を襲う。
 そして、その不安が頂点に達した時、人は油断する。
 身を隠し、獲物の油断を誘い、攻撃する。
 それが狩人の戦い方。一撃で相手を倒せる攻撃が最強ではない。生きている限り、消耗し、判断は鈍り、精神は不安定になる。そこから混乱を引き起こし、敵の結束を破る事も出来る。
 今回のキメラは狩人そのものだった。
 だが、キメラにも誤算はあった。
 キメラがそれに気づいたのは能力者達の油断を見抜き、獲物のブーメランを投げた後だった。

●狩るか、狩られるか
 ヒュンと、突然風切り音が聞こえる。
 普通の人間ならば、飛んできたそれに反応する事は出来なかったかもしれない。
 だが、能力者の彼等はギリギリで反応し、全員が地面に尻餅を着く。
 見えない何かは彼らの頭があった場所を通り抜けて行った。
 完全に不意を突かれた彼等は呆気に取られ、ペイント弾を撃ち込む事が出来なかった。
 だが、敵が居る事を確認できた彼等の目に闘志が満ちる。
 立ち上がり、もう一度、陣形を整える。今度は不意を突かれる事は無いだろう。
 一応、飛んでいった方向にペイント弾を打ちこむフォビア。だが、そこには何も居なかった。
 キメラは家屋の屋根から攻撃を仕掛けていた。かわされるとは思わなかったのか、少し驚いたような動作をしつつ、ブーメランを受け止める。
 能力者達の出方を再び見始める。気づかれてなくとも、もう彼等の不意を突けないと判断したが、姿を現し、真正面から攻撃しても返り討ちだろう。
 そう判断したキメラは移動しながら、攻撃を仕掛ける事にした。ブーメランを再び投擲する。
 ヒュンと、再び風切り音がする。
 五感を研ぎ澄まし、次の攻撃に備えていた能力者達はこの攻撃には余裕で反応する。
 ヒューイがまず装填したペイント弾を放つ。狙いはキメラを捕らえていた。ペイント弾を発射するが、キメラはこれを回避する。
 ヒューイが飛んできたブーメランをエアストバックラーで弾き返す。ブーメランは戻っていったようだ。
 投擲されたと思われる場所をフォビアとヤナギがペイント弾で射撃する。
 ブーメランは飛んで戻ってくる武器。故に戻って来るまで投擲位置から動けないキメラはその場で何とか凌ぐ事になった。
 一発、二発、三発と撃ち込まれるペイント弾を回避するが、徐々に追い込まれる。と、戻ってきたブーメランを掴む。
 だが、掴んだ瞬間に一発のペイント弾が飛んできた。キメラは本能でその弾をブーメランで弾こうとする。
 ペイント弾が弾け、キメラのブーメランに着色する。
 キメラは誤った判断をしたと考えたようで、ブーメランを持ったまま、村の奥へと消えていく。
 それを追う能力者達。もはや、勝負は見えたかのように思えた能力者達だったが、彼らにも誤算はあった。

●戦闘強者
 あらかじめ、仕掛けておいたペットボトルを踏んだようで、キメラの足跡を追うのは簡単だった。
 キメラを追い詰める能力者達。キメラを追った先は広場になっており、中央にブーメランが突き刺さっていた。
 一見するとそれだけの空間。だが、ブーメランのすぐ隣に何かが居る。
 武器や盾を構える能力者達。「違和感のある空間」に攻撃を仕掛けようとした時、思いもしなかった事が起こった。
 なんと、キメラは自ら姿を現したのだ。その姿は180cmの大男のような姿だったが、顔は醜く、モンスターを思わせる。
「グオオオオオ!!」
 そのキメラは咆哮し、突き刺さったブーメランを手に取ると、それを二つに外す。どうやら、ブーメランは二つに取り外し、ナタのような近接武器になるようだ。
 その目は闘志に満ち、飢えた獣と言うよりは歴戦の戦士の姿だった。
 強敵を思わせるキメラに息を呑む能力者達。
 数分、両者共に動かなかったが、キメラが突然走ってきた。
 その動きにあわせ、前に出る神撫。
「俺の盾、そうそう簡単に敗れるとは思うな」
 彼は両手に盾を構え、キメラの攻撃を受け止めようと踏ん張る。
 彼の直前で、キメラはクルンと回る。と、両手に持ったナタを再びあわせ、ブーメランにし、投擲してきた。この奇襲に神撫は驚いたが、防御する事に変わりは無かった。
 渾身の力と遠心力で放たれた強烈なブーメランが彼の盾をつらぬ‥‥かず、トリモチに引っ付く。
 もしかしたら、トリモチが無かったからこの一撃は防げなかったのかも知れない。
 だが、キメラの勢いは止まらない。トリモチについてブーメランを蹴り、貫こうとしつつ、神撫を吹っ飛ばす。
 この攻撃で、キメラの武器は盾についたまま、持ち主から離れる。チャンスとばかりに、切り込むアンジェリナと九朗。疾風迅雷に持ち変えた翡焔も続く。
 先手必勝を使用したアンジェリナの素早い一撃がキメラの頭を捕らえる。が、一歩届かず、キメラの膝蹴りが彼女を襲う。
 崩れ落ちそうな彼女をキメラは後ろ回し蹴りで吹っ飛ばす。キメラの素早さもかなりのものだ。
 九朗は豪破斬撃、豪力発現、流し斬りを使用し、全力で攻撃を仕掛ける。
 彼の動きに合わせ、ヒラヒラと避けるキメラ。だが、後に続く翡焔の流し斬りがキメラの左腕に当たり、九朗の攻撃も当たりそうになったキメラは右腕で防いだ。
 左腕はともかく、右腕は持ちそうにないと判断したキメラは、左腕で翡焔の体勢を崩し、右腕を思い切り刃に突きたて、自ら切り落とすと、左腕で思いっきり九朗を殴り飛ばした。
「フウウウウ‥‥」
 キメラは痛みを感じているのか、息を吐く。
 近接戦闘に関してはこのキメラは相当な使い手のようだ。
 ならばと、今度はフォビアとフィルトとヒューイが銃撃を仕掛ける。
 大量の弾幕に避けるすべの無いキメラは捨て身で真正面から彼女達に体当たりを仕掛ける。
 大量の弾を放つショットガンを使っているフォビアでなく、体格のいいリンドヴルムを着けているフィルトでもなく、盾を持ったヒューイを狙った。
 それは、一番被害が少ないと思われる敵を攻撃する事をキメラの本能が選んだのかもしれない。
「ウオオオオオ!!」
 渾身の力で体当たりするキメラ。負けじと盾で防戦するヒューイ。
 キメラはピッタリとヒューイに近づく。近すぎてヒューイを撃ってしまう可能性があるため、フォビアとフィルトは銃撃を止めた。
 せめぎ合う二人。だが、その二人の戦いは他の能力者の介入で終わる。
 再び立ち上がったアンジェリナが左、ヤナギが右から攻撃を仕掛ける。気づいたキメラは後ろに飛ぼうとするが、後ろからは翡焔が攻撃を仕掛けようとしていた。
 失った右腕でヤナギの攻撃は防げない。左腕を失えば攻撃手段を一つ潰される。後ろからの攻撃は致命的。
 キメラが取った行動は、飛び膝蹴りで前のヒューイを吹き飛ばす事だった。
 キメラは宙を飛び、ヒューイの顔面に飛び膝蹴りを放つ。
 ズザザーとヒューイを引きずっていくキメラ。キメラは神撫の所まで彼を引きずると、神撫の盾に付いたブーメランを左手で取ると、ヒューイにトドメを刺そうと腕を振り上げる。
 だが、キメラは無防備になりすぎていた。
「俺をやらずに仲間に手を出せると思うな!」
 神撫が立ち上がり、キメラに盾で体当たりを仕掛ける。
 戻ってきた九朗が再びスキルを使用し、斬りかかる。
 今度はキメラの左半身を斬り飛ばす。
「グオオオオオオオオ!!」
 トドメを刺そうとしていたキメラは逆に致命傷を負い、血を吐きながら地面に転がった。
「ググ‥‥グオ‥‥オオ‥‥」
 血を失い、徐々に力を失っていくキメラ。
「‥‥グ‥‥グフ‥‥フフフ‥‥」
 と、突然キメラが笑い出したような声を出す。
 もしかしたら、キメラは自分より強い敵に会えて満足したのかもしれない。
 やがて、その声が聞こえなくなり、今回の戦いは辛くも能力者達が勝利した。

 戦闘後、怪我の治療をし、今回の犠牲になった村人と先遣隊の墓を作り、そして全員で黙祷を捧げた。

●レポート
 結果:成功。

 キメラ詳細:ステルス能力を持った狩人キメラ。
 武器も見えないブーメランを使用。思考能力こそ無いが、本能で様々な奇襲を仕掛ける。
 これだけ見ると奇襲戦用のキメラのようだが、接近戦で能力者達を追い詰めた事から、遠距離攻撃は不得意でそれを隠すためのステルス能力だったのかもしれない。切り離したブーメランをナタのように扱っていた事から推測。
 
 鹿村のその後:村人が居なくなったため、放置。