タイトル:a trident noiseマスター:長南二郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/28 05:09

●オープニング本文


 彼女が目を覚ましたのは、午前三時を少し周った頃だった。
 部屋の中の空気はひんやりとしていたが、それだけではない何かが彼女を刺した。
 電球が発する暗橙色の光の下、彼女はその違和感から布団の中へと潜り込む。
 不思議な夢でも見ていたように。

 寝覚めは良くない。むしろ悪い。
 言い様の無い不安を布団の微かな温かさに包み、彼女はじっと耳を凝らす。
 ペンダントライトが放つ音。風が木々を揺らす音。
 その一つ一つのノイズを掻き分け、彼女は目的の音を探し続けた。

 どれくらいの時が過ぎたか。
 自らに違和感を得た彼女は、おもむろに布団から顔を出した。
 時計は、既にあれから三十分が過ぎていたことを彼女に教えてくれた。

 どんなに息を潜めても、その音は聞こえてこない。
 やはり夢だったのか、と彼女は胸を撫で下ろした。
 覚めた頭の中、適当な答えを探し出す。すると、昨日の報道番組で見た隣市の怪声騒動に行き当たった。
 ‥‥恐らく、それが頭に残っていたのだろう。
 そういった出来事に敏感になっている時勢の中の報道で、知らぬうちに弱気になっていたのだろう。
 彼女は縮こまっていた足をぬぅっ、と伸ばし、溜息を尽きながら枕の中に顔をうずめこんだ。

 ある老人のインタビューを中心に構成されたその内容は、明朝、廃工場跡から複数の奇妙な鳴き声のようなものを聞いたというもので、UPC軍が件の調査をするということを伝え、その後、周辺住民に十分な注意をするよう喚起していた。

 今現在まで、彼女の住む町の近辺には、バグアが襲撃してきたという事実は無い。
 さっきのことも、近くにあるようで遠いもののような気がしていた。
 だから、また聞こえてきたこの音も、今自分が夢の中で聞いているに違いない。
 雄叫びに似たこの音も、風が装っているに違いない。
 ‥‥違いない。
 

 だから、もう一度、夢が見たかった。


「‥‥三つの『声』?」
 男性能力者が、仲間が口にした新規の依頼の内容について尋ねていた。
「それは、三体いるっつーことか?」
 件の依頼内容を映し出したモニターを一瞥しながら、彼は率直な疑問を仲間に投げた。
「いや、どうも一体らしいんだ」
「え?」
 仲間が発した予想外の言葉に、能力者は目を丸くした。
「UPCの調査では、まず、その『声』がいつも同時に聞こえてくることと、それぞれが同じ波形をしていることから、一体ではないかと推測したらしい。事実、目撃証言もあった上、UPCも『三叉の首を持った一体のキメラ』だということを確認したそうだ。ただ、市街地の近くって事もあったし、SESの制御が出来ない戦力での非効率的な戦闘になることだけは避けたかったようだから、それ以上は動けなかったようだけど」
 そこで俺たちの出番というわけさ、と彼は一言付け加えた。
「なるほどねぇ‥‥」
 能力者は考え込むようにして頬杖をついた。

●参加者一覧

鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
ユウキ・スカーレット(gb2803
23歳・♀・ST
彩倉 能主(gb3618
16歳・♀・DG
冴木 舞奈(gb4568
20歳・♀・FC
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

● 一
 現地に赴かんとする高速艇の艇内。
 8名の能力者たちはそれぞれの想いからこの依頼を引き受けていた。

「フェンサーのハミル・ジャウザールです。今回はよろしくお願いします」
 ハミル・ジャウザール(gb4773)が、向かいに座っていたユウキ・スカーレット(gb2803)へにこやかに握手を求めた。ユウキは快くそれに応じ、こちらこそ、と短く挨拶を返す。
「柊です。皆さんよろしくお願いしますね」
 柊 理(ga8731)もその輪に加わろうと自らの右手を彼らに伸ばす。ハミルが彼の手を握ると、体温の中に少しひんやりとした感覚が伝わってきた。
「それにしても、なかなか興味深い見た目のキメラのようですね」
 腕を組みながら静かに目を瞑っている彩倉 能主(gb3618)を瞥見した後、ユウキがボソリと呟いた。
「本当ですね。なんだかアレを思い出すんですが‥‥」
 その一言に理がコクリとうなずく。心なしか、ハミルとファブニール(gb4785)も二人の会話に耳を貸しているように思えた。
「なんというか、その、き」
 急に高速艇の機体が左右に揺れ動いた。
「すみません。ちょっと気流が乱れています。気をつけてください」
「‥‥気をつけろって、てめぇが一番気をつけろよ」
 なされるがままに体勢を崩してしまったテト・シュタイナー(gb5138)が、ラウダ・シオンの裾を正しながら操縦士に切り返した。その様子を見て鳥飼夕貴(ga4123)がくすりと微笑む。
「三つ首キメラかぁ、有名どころだとケルベロスみたいなの?」
 彼の脇から樋口 舞奈(gb4568)がひょこっと顔を出す。
「まぁ、もしかしたらそういう感じかもしれないね」
 夕貴はにこやかにその疑問を受け流した。彼女が依頼前にチョコをパクついているのには敢えて触れずに。
「‥‥とにかく、被害が出る前に、何としても倒さないと」
 普段どおりの冷静さを取り戻したファブニールが絞り出すように呟く。
「間もなく到着です。‥‥気が早いですが、御武運を祈ります」
「‥‥」
 操縦士の言葉に、能主は無言のまま、ゆっくりと自らの頭に掛けたバンダナを擡げた。

● 二
「なんだかボロっちいのが出てきたなぁ‥‥」
 陸路を来た軍用車から一番に降りた舞奈の第一声に、他の者も同感を得た。
 傍目から見ても、恐らく10年以上は使われたように思えない。方々に草の生えたアスファルトの上を、舞奈がトタトタと小走りで建物に近付く。建物の壁には既にさび付いた箇所が幾つか見受けられた。
「何か出なきゃいいんですけど‥‥」
 寂れた大きな建物を前に、理が思わず呟いた。しかし、すぐに「あ」と小さく声を漏らし、頬を両手で一叩きする。
「こっちです」
 工場の側にあった、比較的小さな建物の前で能主が手を招く。皆がそちらへ向かうと、彼女は特に言うこともなく、錠の落とされたアルミ製のドアを蹴破った。
「‥‥事務所、ですか?」
 中を覗いたハミルがボソリと呟く。埃だらけのダンボールや素人目には何に使うか解らない用具の束で中はごちゃごちゃとしていたが、鉄製の机や椅子、散乱した文具等は、そこが以前事務方の仕事場であったことを微かに匂わせた。
 能主は辺りを見回すと、ある場所で立ち止まり、懐から二枚の紙を取り出した。
「これが見取り図か?」
 傍に落ちていたボールペンがまだ活きているかを確認している能主の脇で、テトが大きな見取り図らしきものを見上げた。工場の内部は大きく分けて5つの作業区からなっており、そこまで捜索に苦戦するような広さもつくりもないようだ。入り口は材料の搬入口と出荷口の二つが見て取れた。
「どうぞです」
 簡単な地図の写しを書いた能主は、一方を理に手渡した。一瞬、画かれた線の綺麗さに目を取られたが、彼はそれを両手でしっかりと受け取った。
「とりあえず、侵入できる入口が二つあるです。二手に分かれてここで落ち合うです」
 能主は地図の中央をペンで指した。そこは丁度、双方の入り口から入ると中間地点にあたる第3作業区だった。
「‥‥俺達は搬入口から行くとするよ」
 夕貴が宣言する。同時に、ユウキ、能主、舞奈の三名も頷いた。
 テトがひとつ咳払いをする。
「ん‥‥それじゃあ、入る前にざっと見て危険そうなところを言っておくぜ。ユウキ?」
 その呼び掛けに待ってましたとばかりに眼鏡を光らせるユウキ。彼女達によって全員に注意すべき点が伝えられる。
 かくして、捜索は始まった。

● 三
 建物の裏手に回ったB班は、理を先頭に工場の中心を目指して歩く。
「柊です、そちらは如何ですか?」
 気弱な青年はもうそこにはいなかった。既に覚醒していた理は『探査の眼』を発動し、周囲をくまなく探している。そのすぐ後を足跡や鳴き声に注意しながらファブニールがつけている。一歩、又一歩と彼は確実に足を進める。己が心に決めたこと、その心に悖ることなきよう彼は再び歩みを進める。
「‥‥毎度のパターンっつーかなんつーか、飽きねぇもんだよな、バグアも」
 壁の近くで物音に注意していたテトが呟く。その後でハミルも建物の状態を確かめながら彼女に続いている。
「外見はあれでしたけど、まだ建物としてはそこそこ頑丈そうですね」
 流石に工場として再び使用するのは不可能そうだが、とりあえず、戦闘が起きてもすぐ崩れるということはなさそうだ。
 ファブニールを制した理が次の作業区への扉の前で息を潜めた。
「待って‥‥うん、ここは大丈夫みたい」
 再び取っ手に手をかけるファブニール。しかし、それを再び理が制す。
「あ、ちょっと待って‥‥この音‥‥風、かな?」

 やや西日が差してきた。

 埃舞う廃屋の中、搬入口から進入し先を行く夕貴の背中を他とは違う目線で見ている人間が一人。彩倉能主。
「‥‥どうかした?」
 どの敵からもらう視線よりも熱いかもしれないその眼差しにうすうす気づいていた夕貴は、こらえきれずに後ろを振り向いた。しかし、ミカエルを纏う彼女の顔は彼とは別の方向を向いている。
(そういえばここに来るまでにも何度か感じたような‥‥)
 夕貴が首をかしげながら視線を戻す。同時にゆっくりとその背を見つめなおすミカエル。
「素晴らしいです‥‥」
 夕貴が振り返る。能主が逸らす。あ、駆動音が聞こえちゃった。
 ユウキ待って、今は笛を吹くタイミングじゃない。
「なかなかいないもんだね。いきなり『どーん』と来られてもヤだけど」
 ぴょん、と廃材を飛び越えながら舞奈が漏らした。既にこちらの班は2つ目の作業区に進入している。
「こちらA班。間もなく中間地点に侵入します」
 ユウキが無線機越しに確認を取る。少し遅れて理の「了解」という掠れた音声が入る。
「次がもう中間地点か」
 夕貴が鉄扉の前に立ち、一つ溜息をつく。
「B班もこれまでキメラは確認していないようです。‥‥とすると」
 スパークマシンαを握るユウキの手に自然と力が入る。
「居ても居なくても結果は同じです。‥‥その為に来たのです」
 能主がぼそぼそと呟く。夕貴の目線がきつくなる。
 作業区内に低い金属音が響き渡る。

 ● 四
 刹那、夕貴の黒髪がピンクに染まる。
 異形は異音に気づき、その踵を返した。
 そこにはまだB班の姿は無い。
「うわ、三つ首の恐竜だよ。此処までくると怖いっていうより逆に滑稽に見えるね」
 舞奈が構えたエルガードの脇から目前の光景を素直に言葉に出す。瞬時に彼女はエミタを活性化させた。
「そのまま映画から飛び出して来たみたい‥‥面白いキメラを次々に投入してきますね」
 既にユウキの瞳は赤く染まっている。B班に遭遇を知らせる無線を入れた能主が先陣を切り、防御主体で彼らの到着を待つ。接近してきた三本の首が彼女を狙う。
「こっち来い、よし、もう一発来い」
 竜の鱗を発動し、ぶつぶつと独り言を吐きながらそれらを受け流す。しかし、中央の首は彼女にかじりつくことすら出来ず、左側の首は横から大きく自らをスイングさせたものの、彼女が起つ位置をほんの一メートル程度横にずらしただけで、まるでダメージを与えるには至らない。それどころか、逆に反動で軽く体勢を崩していた。
「わっと‥‥?! こんな攻撃まで‥‥聞いてはいましたが、聞くのと見るのとでは大きく違いますね」
 ユウキが呟く。その横で能主はどこか不快な表情を見せた。しかし、体勢を崩したことにより、右側の首の狙いが逸れ、攻撃の機会をうかがっていた夕貴にそれが降りかかってきた。蜜柑色の光が建物の内部に差し込む中、それよりもやや濃い色の残影が映る。首の不規則な動きがそれを咬む。鈴花飾りが微かに音を立てる。
「ん‥‥」
「大丈夫ですか?」
 落ち着いた声で問うユウキ。練成治療の必要性を確認したが、夕貴は必要ないと言うように手を二、三度横に振る。
「かすっただけさ。しかし、この程度とはね」
 夕貴が冷淡に微笑む。月詠の刀身が振動を立てる。
 しかし、それは彼が為したものではない。
 金属音が周囲に響く。
 
 ● 五
 開いた扉から弾頭矢を構えた理が慎重に歩を進める。その両脇からファブニールとハミルが飛び出し、彼の前に立つ。
「こんなキメラもいるのか‥‥」
 青き双眸で敵の動きを注視しながら、ファブニールは声を漏らした。同時に、ハミルが作業区の内部を目で追う。どうやら部屋の端っこに作業用機械や廃材が山積みされている。
「悪ぃ! 遅くなった」
 金色の雷光を纏ったテトが既にキメラと対峙していたA班に詫びを入れると同時に練成弱体を発動する。
「ちーとばかし弱って貰おうか? 暴れん坊さんよ!」
 彼女の頬から真紅の涙が霧散する。背中が騒がしくなってきたことにようやく気づいたキメラは後ろを振り返ろうとするも、元々のレスポンスも悪い上、彼にとっては狭く感じる室内の中で素早い動きは取れず、のそのそと滑稽な姿を見せていた。
「隙あり!」
 先手を取っていち早くキメラの元へ駆け寄ったハミルが円閃を発動。低い姿勢をとっていた右の首を足場に中央の首へ狙いを定め、更にスマッシュを付加させる。練成弱体で脆くなったそれは痛烈な一撃を貰い、金切声にも似た悲鳴を上げる。
 狼煙は上がった。
「まだまだ。行きますよ〜‥‥練成強化!」
 反撃開始とばかりにユウキが高々と宣言する。口に出さずとも発動できるのだが、彼女曰く、そうしたほうがリアルとの事である。それによって彼女の前方に居た夕貴、能主、舞奈の武器が淡く光り始めた。
「そっちのターン、終了」
 防戦一方だった能主がその手を翻しキメラに接近、竜の咆哮を発動。キメラのどてっ腹をセリアティスが貫く。そのままキメラは吹き飛ばされ、右側面から機械の山に派手に突っ込んだ。
 あまりの衝撃の大きさと機械に邪魔をされ、キメラは身動きが取れなくなった。しかし、まだ致命傷には至っていないようで、首をもたげた後、体を引き起こそうともがいている。
「借りは返すよ」
 そこへ夕貴が豪破斬撃を発動。月詠が淡い赤に染まる。キメラに向かって猛然とダッシュする中、惜しみもなく紅蓮衝撃を発動。赤いオーラを纏いながら月詠を振りかぶり、更に急所突きを被せると、右側の首に向かって振り下ろした。分厚い首が、その一撃によって萱を斬るようにいとも簡単に真二つになる。
 しかし、キメラがもがき、反動で意図せず尻尾が周囲の機械を弾き飛ばす。即座に夕貴は防御を固めるも間に合わない‥‥
「危ない!」
 エルガードを手に味方の支援に回っていた舞奈が、寸でのところで夕貴に向かって飛んできた鉄塊を撥ね退けた。自らを見上げてきた夕貴に大人びた笑顔を返し、彼女は再び舞うように戦いを紡いでゆく。
「命を奪った罪ならいくらでも背負っていく‥‥皆が笑顔で暮らせるその日まで。だから‥‥負けるわけにはいかない!」
 連携の機会をうかがい、隙を見つけたファブニールが、既に反応が鈍くなっていた中央の首に斬りかかる。深く刀傷を受けた首は断末魔を上げながら地に伏した。
「ファブニールさん、援護します!」
 理が弾頭矢の弧を張る。同時に強弾撃の威力を付加させ、影撃ちを発動させる。放たれた矢は残っていた首の頭に命中し、弾丸の如く完全に貫いた。
「よし! 俺様も援護す‥‥る‥‥」
 スライサー『スティングレイ』を振るおうとしていたテトだが、眼前の様子からその手を引いた。
 壁に突き刺さった矢から瓦礫がぽろぽろとキメラに落ちる。しかし、それらは鈍い音を上げてバウンドするだけで、既にキメラは完全に沈黙していた。

 ● 六
「‥‥あっけねーもんだな」
 テトを覆っていた雷光がその輝きを落とす。他の傭兵達も徐々にその覚醒状態を解いていった。
「皆さん、お疲れ様でした。被害が大きくなる前に止められて良かったです」
 最終的に止めを刺した理も普段どおりの彼に戻っていた。
「それじゃ、もうちょっと辺りを探してみます」
 ファブニールも覚醒を解いた。青かった髪と瞳が黒と茶に戻ってゆく。
 蜜柑色の光は色濃く彼らを包み込んだ。

 自らの受けた傷を再び確認し、周囲を一通り見渡すと、夕貴がそこで溜息を一つ吐く。
「能主ちゃん、もういいんじゃないか?」
 夕貴は月詠に滴る血を払うと、ミカエルにその身を包んだままキメラに視線を注ぎ続けている能主に呟いた。不満げに聞こえるその独り言は止む気配が無かったが、夕貴の言葉を受けて彼女が敷地内の捜索に再び出ようとした時。
「おっと!」
 周囲を警戒していたファブニールが頓狂な声を上げた。能主は竜の爪を発動させ、彼のほうへと距離を詰める。他の6名も臨戦態勢をとって向かう。しかし。
「いや、ちがうんです。いたっ」
 ファブニールは思わずその場を立った。彼のグラジオラスは鞘に納まったままで、髪も瞳も覚醒時のものではない。
 能主は構わず突っ込む。
 セリアティスを振り下ろす。
 が。
「わぁ、ネコだー」
 舞奈がトコトコと近付いて行く。そこに居たネコの親子はセリアティスの切先に驚くも、止まったそれにどこか安堵を浮かべた。
「まさか‥‥猫型キメラ?」
 ユウキが落ちていた金属棒で「えい」とつついてみた。FFは反応しない。逆に指をかぷりこされる。
「此処を住処にしていたんでしょうか?」
 ハミルがクロックギアソードを鞘に収める。親ネコは子ネコを引き連れ、そそくさと横穴から逃げていった。
 能主はその光景をじっとしばらく見つめていたが、
「‥‥」
 噴き出すような声はミカエルの駆動音に塗り潰された。

 8名は再び敷地内の捜索をするも、特にめぼしいものは何も見つからなかった。
「避難した住民の方々にも、安心して貰えるといいのですが」
 理が、落ち着いた顔で誰にともなく話す。既に死体の引渡しも終わっている。テトはその行き先が少し気になったが、あることを思い出した。
「んじゃ、流石に疲れたし‥‥飯でも食って帰ろうぜ?」
 その案に反対する者は居なかった。
 紫の霞の降りた空が再びこの町に訪れた。