タイトル:【NE】北極圏気流マスター:敦賀イコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/19 12:43

●オープニング本文


「突然だが、グリーンランドに向かってくれないか?」
 上司はにこりともせずにロズウェル・ガーサイド第705研究室主任に伝えた。
 ヤバイ。マジだ。逃げられない。そう察したロズウェルだったが、居住まいを正すこともなく、椅子に腰を下ろしたまま、気だるげに視線を上司に向ける。
「何で俺が?」
「仕方あるまい。手の空いている人間が君しかいなかった」
「いや、俺もメカメロンの量産と更なる能力向上のための研究で忙しいんですがね。ゆくゆくはメカメロンを市場に流通させて特許料で左団扇の余生を送るっていう壮大な計画を実現させるために寝る間も惜しんで日夜努力を続けているわけで」
「‥‥解雇通知か命令復唱かどちらかを選べ」
「サー!イエス、サー!グリーンランドに行かせていただきます!」
 椅子を蹴って立ち上がったロズウェルが背筋を伸ばして敬礼姿勢をとった。

 この人物、ロズウェル・ガーサイドはもともとメトロポリタンXの研究所に勤めていたが、戦況が悪化するにつれて人類側の有能な人材の多くがバグアに誘拐されるか殺害されるという事例が増えてきたため、人材確保の名目でラストホープに連れてこられた人間の一人だった。
 機械工学の若き秀才という触れ込みで一時期業界に名を馳せた研究者であり、エクセレンターとして適合したため、期待の高さから『眠れる獅子』とまで評されていたが、いつまでたってもその能力真価を発揮する気配が無いので、やがてその人物評は『眠ったままの獅子』『起きる気の無い獅子』『実は猫』へと変わっていった。
 専用の研究室と最低限の費用を与えられてはいるものの部下も専門の開発事業もなく、飼い殺しといっていい状態にあり、現在ではカンパネラ学園の地下研究施設でニート生活を満喫している。

「で、何をやってくりゃいいんです?」
「何もすることは無い。君は囮だ」
「はぁ、左様で」
 敬礼した手を下げ、あまりに身も蓋も無い上司の物言いに肩をすくめる。
「グリーンランド基地に必要資材を緊急輸送する必要ができたのでな。君には囮となってワームをひきつけてもらいたい。護衛の手配などは君に一任する」
「命令しといてほったらかしかよ。敵さんが上手く食いついてくれりゃいいですけどね」
「餌ならもう撒いてある。これを見てくれたまえ」
 上司がリモコンを操作すると壁のスクリーンにとある映像が映し出される。TVなどで放映されているプロパガンダ映像であるらしく、勇壮なBGMと共にデザイン化されたUPCのロゴマークが大きく映し出され、その後に力強い男の声がナレーションとして流れだした。

『UPC北方軍発表!グリーンランド反攻作戦に於いて我が軍はバグアに決定的な打撃を与えるべく特殊兵器投入を決定した!!』

「へー、そりゃ目出度いな」
 初耳だ、と、そんな兵器あったら最初から投入しとけよ、とぼやくロズウェル。
 映像は更に続き、同僚と会話をしているらしきロズウェルの姿が映し出された。この時の同僚との会話は「三丁目の角のパン屋のメロンパンウマイよな」「バッカ、あそこん家はカレーパンがウメェんだよ」だったりするのだが、無音状態で編集されKVやら兵器っぽい機械と共に映し出されると何やらとてもすごい兵器を開発しているように見るから不思議だ。

『兵器開発部の『眠れる獅子』ロズウェル・ガーサイド氏がバグアに対抗すべく大型兵器開発に成功!近日、ガーサイド氏自らKVを駆ってグリーンランドに赴く!!ガーサイド氏の兵器の前にバグア戦力は無残な屍を晒す運命にあるのだ!』

「この映像は北極圏の電波に乗せて大々的に放送中だ」
 上司はことのほか上機嫌に言ってのける。ロズウェルは額に手を当てて眉間にしわを寄せた。
「いろいろ言いたいことはあるんだが‥‥兵器開発に成功して自分からKVに乗って敵地へと向かう勇猛果敢なロズウェル・ガーサイドさんはどこにいらっしゃるロズウェル・ガーサイドさんですかね?」
「ここいにいらっしゃるロズウェル・ガーサイドさんだ。君は見た目だけは良いからな。こちらで活用させてもらった」
 そう、ロズウェルは研究者には珍しく見た目に気を使うタイプの人間だった。
 均整の取れた長身を清潔感のあるスタイリッシュなスーツで包み、髪も見苦しくないようしっかりとセットされ、顎に生えた髭すらもこざっぱりと整えられている。クールで洗練された都会の男の見本のような外見をしているのだ。立ち振る舞いも嫌味にならない程度に上品だった。黙って座っていれば誰もが「切れ者の超優秀な科学者」と思い込むだろう。中身はいわゆる『駄目人間』なわけだが。
「つーか、普通こーゆーのって有名人使いません?」
「何を言っている、有名人に万が一があったらどうするんだね?その点、君なら見た目がいいだけのただのニートだし何の問題も無かろうが」
「思い切りぶん殴りてぇなーチクショー」
 二人は朗らかに笑いあってはいるものの、周囲の空気は氷点下並みに冷え込みギスギスとしていた。
「‥‥で、これだけやって、失敗したらどうなるんです?」
「私の首が飛ぶ」
「いっそ成層圏まで飛んでっちまえばいいのに」

●参加者一覧

寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
美空(gb1906
13歳・♀・HD
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
龍鱗(gb5585
24歳・♂・PN
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER

●リプレイ本文

●Not in Employment、Education or Training.
「ニートのロズウェルさんでありますか?とってもイケメンでニートには見えないでありますよ。ニートって最低でありますが、一緒に頑張ろうでありますよ」
 美空(gb1906)のド直球に傭兵達は笑うのを堪え、ロズウェルは何とも言えずしょっぱい顔をした。
 ニートという蔑称を連呼しながらそれでも空気が悪くならないのは、悪気の無さと美空の明朗な性格によるところが大きいだろう。
「貴様がメカメロン開発者か‥‥。ふむ、そうか。安心するがいい。貴様の命はこの御巫雫が保障しよう。貴様にはあのメカメロンを量産してもらわねばならぬのだからな!」
「そうそう、ガーさんにはメカメロンの量産化を進めてもらわなきゃならないからな、死ぬ気で護衛してやるぜ!」
 どうも本人よりはカンパネラ学園を歩き回っている『メロンに脚の生えたロボ(通称:メカメロン)』の方に用事があるらしい御巫 雫(ga8942)と桂木穣治(gb5595)は爽やかに笑いながらロズウェルの背中を叩く。
「しかし、これだけいろんな機体が揃うと壮観だな。きっと囮にゃ見えないぜ。特にアレ」
 穣治が指差した先にはポップな色合いでアニメ調にデフォルメされた美少女の姿とエンブレムが大きく描かれた痛車ならぬ痛KVと化しているロングボウの雄姿がある。
「派手に敵の目を引くようにしなくてはいけませんし、丁度良いでしょう」
 ガーサイドさんには悪いですけど、と乾 幸香(ga8460)が微笑した。
「でも、あれは派手すぎ‥‥ですよね」
 口元に手を当てて護衛対象となる機体に目線を移す。
 そこには大口径の長い砲身のようなものと仰々しい箱状の何かに始まり、あまりにもデコラティブなカウリングや果ては意味が無いどころか性能にマイナス補正がかかりそうなエアロパーツが取り付けられたR−01があった。いわゆる『出っ歯竹槍仕様』である。日本の局地で暴走していそうな絶滅危惧種も真っ青だ。
「寿だ。宜しく頼む。しかしな‥‥これはこれはなんとも‥‥」
 紳士的にロズウェルと握手を交わしながら寿 源次(ga3427)はやや皮肉気にR−01に目を向ける。
「そこは触れないであげるのが大人の優しさじゃね?」
 目線を横に逸らし力なく笑う。美空機とは違った意味で心底痛い機体に乗る当人のこっ恥ずかしさはどんだけ如何程か。スルーすることも大人の対応として出来なくもないが、あえてそこをいじる源次はちょっとSっ気があるのかもしれない。
「その兵器っぽい装飾の中身何?」
「‥いや、もう何かただの『飾り』だ。趣味の悪い上司の嫌がらせさね」
 龍鱗(gb5585)も興味を引かれたのか痛い機体を指差しながら尋ねるが、これ以上は触れないでお願い、と遠い目をし始めたニート。ニートにはニートなりの苦労があるようだった。
「んと、皆さんと相談した結果、ボクらのコールサインはメロンでガーさんの事はNTと呼ぶ事になりましたっ。うん。なんかこう、秘密っぽい匂いがプンプンしますですし、初登場で襲われるという運命を持ってそうな感じですよねっ!」
「うん。いろいろ言いたいことはあるがとりあえずそんな運命ノーセンキューですセニョール」
 無邪気なヨグ=ニグラス(gb1949)に菩薩のような笑顔で答える。
「まぁ、囮がニートでメカメロンのアレだから仕方あるまい。立派に囮として散れよ」
「アレなのは仕方ないとして散るのだけは断固として拒否したいですセニョリータ」
 不敵に笑うリュイン・カミーユ(ga3871)にもアルカイックスマイルを向けるニート。ここへ来てついに悟りの境地に至ったようだ。

 彼らの様子は、これから戦地に赴くと言うのには緊張が足りないように見受けられるが、一流の戦士は大概、タフな陽気さを持ち合わせており困難な状況に遭っても冗談の二つ三つを飛ばして周囲を和ませるものだ。陽気さというものはプラス思考にも繋がっており、気が滅入る状況に対抗する唯一の武器である。
 戦闘や困難を侮っているわけではない。困難に真っ向から立ち向かうためのプラス思考、更には恐怖を克服する勇気を生み出すための陽気さなのだ。

 尤も、そんな大仰な理由も無く意識せず自然にそうしているのが彼ら傭兵達であり、ニートの場合は只単にテンパッているだけなのだが。

 かくして、メロンチームとNTは蒼空へと飛び立った。


●北極圏気流
 ニートのR−01を中心に龍鱗のワイバーンと幸香のイビルアイズが前衛、リュインの雷電と美空のロングボウが左翼、源次のノーヴィ・ロジーナと雫のディアブロが右翼、ログのシュテルンと穣治のウーフーが後衛というインペリアル‥‥もとい、十字陣形で編隊飛行を続ける。
雲を下に見てどこまでも限りなく青い気圏の中を彼らは進む。

「メロン5より全機へ。現状ではレーダーに一点の曇り無し」
 レーダーに限らず目視も併用して空域を警戒している源次。リュインや幸香、龍鱗も同様に索敵を行っている。現状ではまだ敵の気配が無いとしてリュインがニートに無線で話しかける。
「メロン3よりNTへ。今の気分を5文字以内で」
「チョベリバ」
 即座に返ってきた埋葬済みの死語にリュインは笑いをかみ殺し、他の傭兵達も吹きだしそうになるのを堪えた。
「汝‥‥そのセンスはどうかと思うぞ」
「余計なお世話ですよコノヤロー」
 ニートも流石に恥ずかしかったのかぶっきらぼうに応える。
「まぁ、護衛はきちんと果たすので、UKにでも乗った気分でいろ」
「UKって前沈んでなかったか?」
「気のせいだ」
 ここで龍鱗が疑問に思っていたことを口に出す。
「何でメロンに脚生やした?」
「脚が無きゃ歩けんだろ」
 釈然としない回答に一同首をかしげたが、深く追求することは止めておいた。何故メロンを歩かせる必要があったのか、それはニートにしかわからないのであろう。

 やがて北極圏に差し掛かると周辺の空気が変わった。どこがどう、と具体的に示すことは出来ないが、肌身の感覚と直感で傭兵達はそれを察した。
 線引きがされているわけではないが、敵の存在する戦地に足を踏み入れたことは明確であり、編隊は一気に緊張に張り詰める。

「敵だ」
 龍鱗が端的に通達する。
「こちらも反応有り‥‥釣れたみたいだな」
「ふむ。3時方向に6機、か。メロン3からNTへ。敵機確認。撃って出るので敵攻撃は頑張って避けろ」
「おう、気合入れて逃げ回ってやんよ」
「6機か。舐められたものだが、目的を達成するのには十分だろう――こちら、メロン6。メロン5、援護する‥‥ぬかるなよ?」
「空は久しぶりだがな‥‥っと!」
「メロンにたかる害虫はとっとと追っ払わないと痛む原因ですからね。頑張って片付けちゃいましょう!」
 幸香は即座に敵機体をナンバリングし管制情報を後方にいる穣治に渡す。データリンクされた情報はHWとの戦闘において必要不可欠なものだ。とかく敵味方が入り乱れることが多いため、常に流動的な情報を収集し管理する事は重要な意味を持つ。
「大事な箱入りメロンを簡単にゲットできると思うなよ!」
「メロンの網目は細かいほど美味いってな!」
「さっきからもうすっかりメロン扱い!?いくらニートでも一応人類だぞ俺!」
 迎撃体勢の厚さに対する自信の程と気合鼓舞の言葉につい突っ込みを入れてしまうニートだったが、そんな野暮な突っ込みは無視し、穣治機とニート機を残し前方に出て傭兵達はHWの迎撃を開始する。

「美空さん、やっておしまい!ですっ」
「了解でがんす〜」
 射程内に入ったHWに向かってギガブラスターミサイルとI−01、総計101発のミサイルが放たれる。
 牽制射などとそんな生温いものではない。これにより二体のHWが消し飛んだ。文字通り消し飛んだのだ。
 あほ毛とプリンの合わせ技‥‥失礼、美空とヨグの仲良しコンビのミサイル弾幕にHWは成す術もなく撃墜された。
 あまりの威力を持った先制攻撃に泡を食ったのかHWはバラバラに散開し始める。
「5時の方向に追い込むでありますよ〜」
 美空が更にホールディングミサイルを放つ。ミサイルに追われた1機のHWを待ち構えていたかのようにリュインの雷電が牙をむく。フェザー砲をロールで鮮やかに回避し、距離を詰めたリュイン機のヘビーガトリング砲が火を噴く。HWはリュイン機を引き剥がそうと重力を無視した急制動を繰り返すが、雷電の牙からは逃れることが出来なかった。ガトリングの砲火に踊らされ、装甲を穿たれ、トドメとばかりに高分子レーザー砲がHWを撃ち貫く。
 黒煙を曳きながら雲の下へと落ちて行くHWを一瞥するとリュインは鼻を鳴らした。
「ふん、我を振り切ろうとは百年早いわ」
 これは増長ではなく事実なのだから仕方が無い。

 大きく散開した敵を各々のロッテが捉え仕留めて行く。

「こちらメロン1、今から殺虫剤を散布しますねぇ〜。害虫が弱った所で思い切り叩いちゃって下さい」
 幸香がバクアロックオンキャンセラーを発動させ、続けざまにトリガーを引いた。イビルアイズから127mm2連装ロケット弾ランチャーが、一拍置いて龍鱗のワイバーンからホーミングミサイルが放たれる。 一段目の攻撃を回避しようとしたところに二段目の攻撃。基本的な時間差攻撃だが効果は高い。一撃目を回避しようと急停止したHWの装甲を二撃目のミサイルが掠める。脅かされたHWもプロトン砲で反撃を試みるが、イビルアイズのロックオンキャンセラーにより重力波レーダーが乱された状態ではまともに攻撃を当てることすら敵わなかった。
 それならばとHWは上下左右ジグザグに動きながら2機に急接近しフェザー砲を発射する。幸香は機体をひねり、龍鱗はマイクロブーストを使用しややも強引な機動をとって回避した。
「負荷は大きいが‥いけたな‥‥」
 突進してきたHWとすれ違う形となり、背後を取った2機は短距離高速型AAMと螺旋弾頭弾を同時に発射。二つの弾頭が交差した瞬間、HWは爆発四散した。
「メロン1!害虫駆除完了しました」

「おいおい、そっちに避けていいのか?」
 回避進路を先読みした源次のミサイルがHWに襲い掛かる。体勢を立て直す時間は与えない、とバラ撒かれたバルカンの弾幕にHWが踊らされた。HWは闇雲にプロトン砲を乱射するが、ろくに照準も付けずに放たれる砲撃が傭兵の操るKVを捉えられるはずもなく、源次のノーヴィ・ロジーナは難無く回避行動をとる。
 源次機に食いつこうとしたHWだったが、援護に回った雫機のUK−10AAMに阻止された。
「ふふん、甘いわ!」
 攻撃にも回避にも思うように動けず行動判断に支障が生じるHW。動きを止めたその瞬間を狙い、雫のディアブロからアグレッシブフォースを付与された短距離高速型AAMが放たれる。
 ミサイル直撃の衝撃に形を変え大きく抉れたHWをバルカンが完膚なきまでに打ち砕いた。

「ガーさん右!次はそっから左斜め上!」
「おぅわっ!!」
 前衛で戦果を挙げている仲間達の後ろではなかなか大変なことになっている2機がいた。穣治機とニート機である。
 特に穣治は敵と味方の位置を把握し航空管制を行いつつ、ニートの退避進路を指示しながら自機を操縦しなければならないのだから、いっぱいいっぱいになるのも無理は無い。
「右いや違う左っ、9時方向とにかくそっち!」
「おおおおOKアミーゴ落ち着け、落ち着くんだ!」
 距離を置き、ニート機が直接狙われないよう前衛が対処しているが、ここは戦闘空域であり、流れ弾だけはどうにもならない。狙われていないだけにどこから飛んでくるか予測不可能な弾を機体をひねりながら2機は必死に回避する。
「右、左、右右右、左左、A、B、AABA」
「ちょおおおお!?パパさんしっかりしてぇぇぇぇぇ!!!」
 混乱しながらも穣治は退避進路を指示し続ける。休日は駄目親父でも今、パパは頑張っている。

 前衛の猛攻をかいくぐってきたHWが1機ブーストをかけて突進してくる。
「だあああ!?こちらメロン7、完熟部分にハエがたかりだした!!煙で追い払う!」
 ガトリング砲で牽制しながら煙幕弾を放ち、ニート機の離脱を援護する穣治。だが、ニート機は余分な装飾の為に運動性が損なわれており、逃げ切るまでには至らなかった。
「生意気な!」
 リュインが機首をめぐらし煙幕の切れ目からミサイルの照準を合わせるが、HWはニート機に食いついて離れない。
「く、厄介な真似をっ」
 めまぐるしく位置が入れ替わる2機に臍を噛む。
「ガーさんを守るですっ!」
 穣治の管制情報を受け取り、ニート機の位置を常に把握していたヨグが迅速に反応し、太陽を背にしてHWとニート機の間に割り込むようににダイブした。音速で駆け抜けたシュテルンのソードウィングがHWの『手』を切り落としていた。
 衝撃に弾き飛ばされるHWに向かって多数のミサイルと弾丸が飛来する。ほぼ全方向からの攻撃にHWはあえなく撃沈していった。



「NT、無事か? 無事だな。無事だと言え」
「血ぃ吐きそうだがな‥‥っつーか何その強制無事確認」
「無事ならばよし」
 ニートのツッコミなどは華麗に無視するリュイン。唯我独尊ぶりはどこにいっても健在である。
 遭遇したHWを全て駆逐した空は、先ほどまで戦闘が行われていたとは思えないほどに静かな世界を取り戻していた。
「五月蝿い害虫は追っ払っちゃいましたから目的地までは気楽な飛行が楽しめますね」
「あとは輸送機の護衛でありますね〜」
「あんたら大概タフだな‥‥」
 幸香と美空は疲れた様子も見せずに、おっとりとしたいつもの調子で会話をしている。
「今の気分は?高名なガーサイド氏?」
 軽く笑いながら源次は少女達とは逆に疲れきった様子のニートに尋ねた。
「生きてることを全てに感謝してぇよ‥‥」
「それは何よりだ」
 守れる物は守る。己の信条を果たした充実感もあり、龍鱗も微笑を浮かべていた。
 額の汗をぬぐいながら、穣治は愛娘の写真を手に取り、もうすぐ帰ることを心の中で報告する。死亡フラグのような行動だが問題は無い。なぜなら全て終わった後だから。
「ところでNT、抱っこできるサイズのメロンを作ってもらえんかな?‥‥あ、いや、あのメロンには非常に興味があってナ!バランサーとか!!それでだぞ!もふもふとか、ぎゅーとかしたいわけじゃないぞ!絶対だぞ!」
 雫がツンデレ風味を発動させながらニートにぬいぐるみを要求した。
「メロンにもふもふとか、ぎゅーとかできるですか?ボクもしたいですっ」
「ヨグ君がするなら美空もするであります!」
「ぬ、貴様ら!もふもふとか、ぎゅーとかするのは私が先だぞ!」
 年少組みのじゃれあうようなやり取りを年長組みはほほえましく見守る。


 こうして、傭兵達に護られたニートと輸送機は無事にグリーンランド基地に到着し、その任務を全うすることが出来た。

 後日、ニートがメロンのぬいぐるみを作ったのか否かは別の機会に譲りたい。