タイトル:【NE】妖精は氷原に踊るマスター:敦賀イコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/09 22:51

●オープニング本文


 グリーンランド。
 氷床と万年雪に覆われた極寒の大地。

「いよいよ反攻作戦ですね」
「あぁ、バグア側の戦力低下が目に見えている今こそ好機だからな」
 グリーンランド基地の一室、警備を担当する部署で上官と部下が興奮を隠し切れないといった様子で話し合っていた。
 今の今までバグアに押されるがまま、いつ終わるとも知れぬ防衛戦を強いられてきたのだから、このたび実行される反攻作戦には一平卒から士官まで熱い期待を抱いていた。成功すればこのグリーンランドは解放される。同時に地下に埋蔵されている資源も奪還されるのだからその意味合いは大きい。
「大事なときだ、我々もいっそう気を引き締めてかからなければ」
「ええ、ですがひとつ気がかりなことが‥‥」
 表情をわずかに曇らせた部下に上官が怪訝な顔をする。
「私達がこうして会話をしていると、アレが出てくるような気がして」
「‥‥嫌なことを思い出させないでくれたまえ。流石にバグアも空気読むだろう」
「ですよね。戦局を左右する重大な場面にアレは投入されませんよね」
 不安と気がかりを打ち消そうと二人は努めてほがらかに笑ってみせたが、そういう努力は得てして報われないものである。

「助けてくれェェェ!!悪魔が、悪魔が出たぁぁ!!」
 UPCグリーンランド基地周辺の哨戒に出ていた兵士二人が半狂乱で帰還した。
 極度に脅えきり、パニック状態に陥っていた彼らをどうにか落ち着かせ、詳しい話を聞きだしたところ『とてつもなくおぞましい姿のキメラ』と遭遇したということだった。

 間髪いれずに入ってきた報告に上官と部下は二人して頭を抱えた。

●参加者一覧

熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
山崎・恵太郎(gb1902
20歳・♂・HD
彩倉 能主(gb3618
16歳・♀・DG
森居 夏葉(gb3755
25歳・♀・EP
東雲 凪(gb5917
19歳・♀・DG
佐月彩佳(gb6143
18歳・♀・DG

●リプレイ本文

●熱烈歓迎格陵蘭!
 六月ともなれば極北の大地、グリーンランドにも春の兆しが見えてくる。人を拒絶する厳しく冷たい空気も日に日に緩み、沿岸部では雪が溶けて黒々した地面が顔を出し始めていた。
 生命の輝き溢れる夏の到来を前にしたこの時期は、そこかしこで期待と希望に満ち溢れている。

 だが、そんなグリーンランドの四季についての叙情などどうでもいい。

「‥‥あれは何の冗談だ」
 ザン・エフティング(ga5141)は遠い目をしていた。視界の端には踊るキメラが二体と謎のスピーカー。
「あれか?あれの相手をしろというのか?!俺も幾つもの依頼を受けてきたが、ここまで馬鹿なキメラは 初めて見たぞ、おい。くそ!バグアの奴らめ馬鹿にしやがって!!」
 許せんっ!!!と怒り心頭するザンだが、
「いや‥‥これを見るとうちの妹がいかに可愛いか再確認出来るな」
 と妹の姿を思い浮かべて相好を崩した。シスコンはどこに行ってもシスコンである。

 白い丘陵の上に立つスピーカーと二体のキメラ。
 黒のゴスロリワンピースからすらりと伸びた筋骨逞しい両脚、白のオーバーニーソックスから透けて見える渦巻くすね毛が大変見苦しい。ブルマから伸びるカモシカのようなしなやかな脚にたなびく剛毛には野生の猛々しさが宿っている。
 こんなおぞましい身体に蝿と蚊という頭部。

『これまでの奴等にあった歩み寄りの部分すらなかった』と書き記すのは彩倉 能主(gb3618
 彼女はグリーンランドに現れた変態と言う名のキメラと何度か戦っており、その際の頭部はそれぞれアザラシとトナカイだった。だが、今、目の前にいるのは醜悪な蟲、蝿蝿蚊蚊蚊。
「これは人類への挑戦だね‥、それじゃあ本気で叩き潰さないとね!」
 東雲 凪(gb5917)は自分自身を叱責し、気合を入れるべく声を発した。
 能主と同じく過去に何度かおぞましいキメラと戦ってきた彼女は、キメラを本格的に徹底的に潰す事を決意していた。だが、同時に迷いもあった。何故自分は遥々グリーンランドまできて変態キメラなんぞを相手にしているのか。
『‥天国のお父さん、お母さん‥私、自分を信じられなくなりそうです‥‥』
 亡き父母への思慕と迷いがない交ぜになる。
「まぁ冷静に考えれば、人間の文化や感情の研究の一環として、ああいうキメラを作ったのだろう。アメリカ人が日本人をハラキリとゲイシャの国だと思い込んでいるくらい、理解がズレている気がしなくもないが」
 凪の苦悩を知ってか知らずか、御巫 雫(ga8942)は平然として分析をしていた。
「ブルマは正しく着こなしましょう!そこ、シャツはちゃんと入れる!」
 キメラを注意しはじめた熊谷真帆(ga3826)は自称『ブルマ向上委員』である。自らもブルマを着用し戦いに赴いているほどであった。ブルマの何が彼女をそこまで駆り立てるのかはさっぱりわからないが、他人にはわからないこだわりというものがあるのだろう。
 こだわりという点なら佐月彩佳(gb6143)も負けてはいない。今現在はAU−KVを装着しキリリと敵を見据えているが、行軍中はビスコッティにラスクに芋ケンピに、とひっきりなしに何かを口に運んでいた。その食料はどこに入っていてどこに消えて行くんですかと真面目に質問したくなるほど、そのサイクルは止まることがなかった。それでいてスマートな体型を維持しているのだからダイエットに悩む諸氏には羨ましい限りだろう。
 このように食べ物に強いこだわりを持つ彩佳は、特に蝿キメラを許しがたい敵として認識し闘志を募らせていた。
「食べ物にたかる敵は全て消す、よ」
 その隣で愛用の銃を手にクールに佇んでいる森居 夏葉(gb3755)は最初からスピーカーの破壊を目的にしており、キメラなど眼中にない。というかアレは見てはいけないものだとして視界から排除するよう努めていた。正しい判断だった。


●変のダンスサイト
 能主は蝿キメラの持つ銃の照準から外れるよう斜めに素早く登攀し、岩陰に隠れながら接近して行く。
 このようにそれぞれ慎重に行動する傭兵達であったが、スピーカーのようなものに近づくにつれて増して行く不快感だけはどうしようもなかった。例えるなら二日酔いの朝方に見る悪夢、とでも言おうか。鈍い頭痛と半端無いだるさの中、半覚醒した意識が夢と現実をいったりきたりしている。そんな不快感が彼らを苛んだ。
「‥気持ち悪い‥‥やっぱり、あのスピーカーのせいかな?」
「そうでしょうね‥」
 こみ上げてくる吐き気を息をついて誤魔化し、凪はAU−KVのバイザーの下で形の良い眉を顰めた。
 夏葉もこめかみを押さえながら頭を振る。
「ええい、ならば破壊するまで!奴ら如きこのタライで十分だ」
 くらくらと視界を揺らす眩暈と戦いながら雫は【OR】金ダライを力強く構えた。氷原でタライを手にする十四歳メイド。
「‥‥また、間違えて持ってきたわけじゃないぞ!ほ、本当だぞ!」
 夏葉と凪はとても温かい瞳と微笑を浮かべて雫の頭を撫でた。

 丘の上に立つスピーカーは相変わらず無音であったが確実に傭兵達の精神力を搾り取っていた。
 そして、傭兵達の接近に気付いたキメラ二体が一斉に背中の羽を震わせる。人間の可聴域を越えた音は振動として空気を伝わり身体全体に襲いかかる。生易しくぞわぞわと身体中を撫で回されるような気色悪いその感覚に傭兵達は瞬間、意識を失いかけた。

「ぬぁぁー!でもそんなの関係ねぇ!!」
 とザンが気合で無理やり己を奮い立たせる。
 慎重に自分の体調変化を常に気に留めていた能主と過去の依頼でマインドイリュージョナーに関わったこともあり予め症状を警戒していた夏葉は己を見失うことなく両脚に力を籠めて不快感を振り払った。
 この三人以外の傭兵達は残念ながら音波攻撃に抗うこと適わず、一斉に武器を取り落とし手に手をとってふらふらと何かに操られるように動き出した。
「い、いやぁぁっ、体が勝手にぃ!」
「ちょ、まて、何!?」
「ちゃーらーらららーちゃーらーらーらー♪」
 思うとおりに動かない自分の身体に戸惑いつつ、主旋律を歌いながら彼らは回り踊りはじめた。
 踊りながらキメラ二体に近づき、挙句、がっしと手を繋ぎ踊りだしてしまった。

 マイムマイムだ。
 小中学校の学習指導要領でわざわざ義務付けられてまで学習させられるアレだ。
 輪になってくるくるマイムベッサッソッとくるくる回る。一人だけ掛け声が「うまいどんぶり」になっていたが。

「ヘイ!x4」
 手拍子足拍子もキレが良い。
 くるくる回るうちに、彼女らはだんだんと愉快になってきたのか、アハハウフフと恍惚とした表情を浮かべて一心不乱に踊っている。『深酒とハッピー・シェイクでラリりまくってリーチ気味急性アル中一歩手前』の状態と言えばしっくりくるかもしれない。
 真帆は踊るキメラの姿を見たときから振付の弱点を突こうと画策していたが、自分が踊ってしまっては仕方ない。

 異常なテンションと陽気さの前に呆気にとられる三人の前でキメラと能力者のダンスコラボは超高速で展開される。何せ高速でくるくると動いているものだから、キメラを狙って攻撃を仕掛けようとしても次の瞬間には仲間と入れ替わってしまう。「あぁ‥」と途方に暮れたため息をつくザンと能主。
 ダンスを見守るほか無いのだが、能主の箍が外れてしまうのが先かダンスが止まるのが先か。
 特に蝿キメラのフリルのたっぷりとついたアンダースカートからチラ見えする赤い褌が腹立たしくて仕方ない。

 その様相を他所に夏葉は銃を手にスピーカーに接近する。キメラが踊っている今がスピーカーを攻撃する最大のチャンスであった。
 運を天に祈り、意識を集中させる。目に見えない罠や存在を探るために発動させた探査の瞳は丁度、スピーカーの一番脆い箇所を捉えていた。振動版と外装の繋ぎ目、接合部分を狙って引き金を引く。貫通弾はそこを見事に突き破り内部機構を破壊するに至った。
 一筋の黒煙を上げてスピーカーが沈黙。それと同時に傭兵とキメラのダンスコラボも停止する。

 凍りついた一瞬の後、傭兵はキメラから距離を置くと何事も無かったかのように武器を手にして敵に対峙した。

 何事も無かった。
 何事も無かったのだと。そういうことにしたい一心で。


●続々・お見せできません
 すごい勢いでスピーカーを破壊しはじめた真帆。夏葉の手により既に機能は停止しているのだがそれでは気がすまなかったようで「どテぽキぐちゃ〜」っと奇声を発しながら素手で豪破斬撃。スピーカーにはフォースフィールドが無かったのが幸いである。
「スピーカーの唐竹割り〜」
 と外装を空手チョップで叩き割り、内部のコード類をずたずたに切り裂き引きずり出す。
「パスタいかがですぅ、楽しい夏やすみの破壊工作なの〜」
 心なしか涙目なのは気のせいではないだろう。

「貴様達は生きていてはいけないんだ!くたばりやがれ人の夢と希望を打ち砕く悪魔め!」
 諸悪の根源は貴様らだ!!とキメラに指を突きつけ宣言するザン。
「何か奇妙な出来事がほんの一瞬あったような気がするがそんなことは無かったぜ!!」
 と熱血仕様の優しさが傭兵達の心に染みる。

 二体のキメラはふざけた外見とは裏腹になかなか手強い。接近戦では蚊キメラが攻撃を盾で受け流し、剣で牽制、そこに蝿キメラの銃弾が撃ち込まれる。距離をとれば蝿キメラの銃撃が追い、防御姿勢をとる間に蚊キメラが接近するといった具合に二体のコンビネーションには隙が無い。が、今の傭兵達の前にはあまりに無力だった。

 銃弾剣戟関係ござらんと強引に間合いを詰める能主。装甲に青白い火花を生じさせながら、蝿キメラの側面にぐいと踏み込み握った拳を思い切り叩きつけた。そのあまりに衝撃に蝿キメラの体が宙に浮き弾き飛ばされる。落着地点には彩佳と雫、ザンが待ち構えていた。蚊と蝿を分断し仲間に獲物をパスした形だ。
「‥ただ殲滅するなど生温い。生まれてきたことを後悔させてやらねばな」
 ふ、ふふ、とフライパンを手に笑う雫。
「蝿はハエタタキの餌食になるのが相応しい‥」
 巨大ハエタタキを手に地を這うような低い声で呟く彩佳。
 両者ともに迫力満点であり、ホッキョクグマだろうとグリズリーだろうとも今の彼女らの前では裸足で逃げ出すだろう。
 受身も取れずに地に落ちた蝿キメラに巨大ハエタタキで一撃を見舞った後、彩佳は長槍に持ち替え更に追撃、確実に息の根を止めるために万力のような力を籠めて抉る。雫のフライパンは致命打にはなりにくいが打撃を加えられると非常に痛む部位を責めていた。女性の怒りはげにも恐ろしい。
 蝿キメラも苦し紛れに銃を乱射するが【OR】金ダライに防がれた。
「攻守に使えるタライだ。今なら洗濯板付きでお買得‥‥ッ誰が洗濯板だ!」
 逆切れした雫が蝿キメラに追撃を見舞った。

 一方はというとこちらも同様で。

 背後から近づいていた夏葉がコサックダンスで蚊キメラを蹴っ飛ばし、バランスを崩したところに能主の白槍が突き入れられた。身を捻りどうにか攻撃をかわした蚊キメラの目の前に紫と黒のオーラに青白の火花を身に纏った凪が仁王立つ。
「その服さえなければまともなキメラなのにっ!製作者はどんな趣味持ってるのよ!」
 いきおいよく振り下ろされた竜斬斧と盾が撃ち合わさり、激しい火花が散る。
 一撃を防がれはしたが凪は構わず、より一層の力を籠めて竜斬斧を叩きつける。盾ごと叩き潰す勢いで何度も何度も。
「このっ、私はあなたのせいで変になるのよ!責任とってっ、早くっ!!」
 激情にかられた涙声はどこか悲痛だった。

「消えていなくなれー!!」
「これでトドメだ!」

 ほぼ同時に裂帛の気合が二箇所で上がった。
 ザンが蝿キメラを、凪が蚊キメラをそれぞれ切り裂いていた。
 だが、手ごたえがあまりにも軽く、は、と周囲を見回すと二体のキメラは丘の上に突き出たちょっとした岩場に立っていた。ザンと凪が切り裂いたのはキメラの服だったのだ。
「これぞ変わり身の術!」とばかりにキメラは健在ぶりを赤褌一丁でアピールする。寒風にばたばたとたなびく赤褌。
 火に油。ファイヤーオン。
 この行動は自殺行為と言っていい。キメラは死刑宣告書に自分でサインしあまつさえ執行ボタンを自分で押してしまったのだ。


** 以降の模様は全年齢向けサイトに掲載するにはあまりにも不適切であるため、割愛させていただきます **


 こうして、白き丘陵には再びの静寂が訪れた。
 後に残ったのは金属片と肉塊。芸術に昇華されたキメラは最早何も語らない。
「ふっ、正義は勝つ」
 雫が胸を張ったが、微妙に物悲しく聞こえるのは何故だろう。


●只有一个很簡単的答案
 戦闘が終わり、危機が去ったところで真帆は「眼の看護婦さん〜」とブルマ姿で愛嬌を振りまいているが、この状況下では癒しには繋がらなかった。どうしても先だってのキメラの姿がちらつく。
「‥‥またつまらぬ物を斬ったり撃ったりしちまったな」
 脱力気味にザンが遠くを見つめる。穢れてしまった瞳を浄化するためにもかわいい妹の姿を一刻も早く見たい。そう思わずにはいられない。
「はぁ‥何で私あんなに‥。夢に出てきたりしないよね‥‥」
 凪は自分を見失っていたことに少なからずショックを受け、体育座りで曇天を見上げた。
 被ってしまった精神的苦痛に凹む傭兵達だったが、彩佳は持参してきた食料袋を広げると、とても良い笑顔をして口にし始めた。先刻のことは忘れることにしたらしく、仲間達にお菓子を勧め、コーンポタージュを一気飲みして朗らかに笑って見せた。
「ぷはっ‥仕事終わりの一杯、たまらない。やっぱり美味しい食べ物は最高だね」

 彩佳の笑顔に、今日、このキメラとの戦いは無かったことにしよう。それぞれがそう思った。


 余談になるが。傭兵達がキメラ殲滅のついでに破壊したスピーカーは、『破壊せず調査したほうが有益だったが、暴徒と化した能力者の威力は徹底的だ』と能主が日記に書き記している通り、それはもう徹底的に破壊されていた。回収した後に再組み立てが出来る程度であればよかったのだが、文字通り粉砕されたわけであるからして、ただの金属片に研究者は肩を落とした。
 だが、グリーンランド基地への脅威は取り除かれた。これまで原因不明の体調不良を訴える者が少なくなかったのだが、スピーカーとキメラが排除された今はぱったりと途絶え、兵士達は順調に反攻作戦への準備を進め士気を高めている。


 最後に、能主は今日の戦いについてこうも記していた。

『奴等が何を狙ったのか、最早知る者はいない。奴等はまたやってくる。』

 変態との戦いはまだまだ終わらない。彼女にはそう予感させるものがあったのだろうか。
 それが的中するか否かは、まだわからない。