タイトル:【AW】そして、君に会いに行くマスター:敦賀イコ

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/04/03 22:47

●オープニング本文


 あれから、十年の月日が流れた。




「それで、聞いてくださいよガーサイドさん」
「聞いてなくても喋るだろお前」
「その通りですが」
 柏原 良子(旧姓山田)(gz0332)とロズウェル・ガーサイド(gz0252)は、ゲレンデベースにあるロッヂの、やや手狭な飲食スペースに隣り合って座っていた。
 クロワッサンをぱくつきながら、良子はマイペースに軽快な調子で喋りだす。
 十年前も良子は、ロズウェルが根城にしていた第705研究室に押しかけてきては、同様にしていた。
『ちょっと聞いてくださいよガーサイドさん』
『俺今すごく珍しく仕事中なんだけど!?』
『いいです。ガーサイドさんが聞いてなくても喋りますから』
『俺に拒否権無いのかよ!? 知ってたけど!』
 苦いだけのコーヒーを啜りながら、ロズウェルは微笑する。
 昔と同じ感覚で同じ癖をして交わされる会話に、さほど時間も経っていない、それこそつい先日、別れたばかりのような錯覚を覚えた。
 だが、日に焼けて、海風に刻まれた皺の目立つ己の手、そして、良子の左手薬指にはまった結婚指輪は、お互いが知らない、別々の月日を重ねてきたことの証として、厳然とそこにあった。


 十年前、それなりに感動的な別れをしたものだったが、二人の再会はごくごく普通なものだった。
 何か特別なイベントや記念日があったというわけでもなく。
 たまたまロズウェルの住んでいる村で、近所の住人同士で旅行に行こうという話が持ち上がったのだ。
「どこ行く? どうせならぱーっと海外だよな」
「日本とか面白そうじゃね?」
「そういやお前、日本に知り合いいたよな」
 そんな流れと成り行きで、ロズウェルは案内役に任命され、そして、日本は群馬の草津にてペンション経営をしている良子に連絡が行き、現状に至ったのであった。
 ちなみに、再会の第一声は「髪切った?」だった。


「私、帰る場所、作りましたよ」
 クロワッサンを食べ終えた良子は手についた食べかすをはたきながら、心持ち誇らしげな声で語る。
 地方銀行に就職し、社内恋愛の末に結婚、妊娠・出産を機に夫と共に脱サラして草津に物件を買い、ペンションを始めたこと。経営を軌道に乗せて、ささやかながらも家族一同、平穏無事に暮らしていること。
 会う事のなかった年月、その間の出来事を報告し、得意満面といった表情で笑った。
「頑張ったんだな」
 聞き終えたロズウェルは、労をねぎらうように良子の肩を軽く叩き、微笑み返す。
「頑張りましたとも」
 不意にこみ上げた涙に、目を瞬かせ、鼻をすする良子は誤魔化すように、顔を窓に向ける。
 ガラス越しのゲレンデでは、常夏の島の住人達が、雪の冷たさに大人も子供も構わず歓声を上げてはしゃいでいた。
「少し心配だったがな。こう、白くて冷たいと、グリーンランドを思い出すんじゃねえかって」
「あぁ、それは、忘れるわけないじゃないですか。あの子たちのこと、忘れられるわけないじゃないですか」
 極北の地で潰えていった少年少女。
 彼らと良子には少なからず縁があった。
「忘れない。あの子たちがいたこと、悲しい出来事があったこと。だから、私、あの子たちの分まで精一杯生きて、幸せにならないとって思うんです。‥‥おこがましい自己満足ですけどね」
「‥‥そうか。自己満足だと言っちまえば、全部がそうなっちまうが、忘れちまうよりずっといい」
「そうですかね」
「そうさ」
 二人の間に沈黙が落ちる。
 ロッヂ内に流れるFM放送、当たり障りの無いDJのトークとありきたりなラブソングがやけに響く。
 しんみりとした空気を変えようと良子はロズウェルに話を向ける。
「ところで、ガーサイドさんは今何の仕事をしているんですか?」
「‥‥。」
「あれ、まさか」
「職業選択の自由ってあるだろ? なら無職という選択だってあらぁな」
「‥‥ちょっと待って。あの、十年間ずっとじゃないですよね?」
「夢を食べると書いて夢食(むしょく) ある種のロマンだ。男にはロマンが無いとな」
「駄目人間にも程があるでしょうよ!?!」

●参加者一覧

/ 弓亜 石榴(ga0468) / ハンナ・ルーベンス(ga5138) / シーヴ・王(ga5638) / 秋月 祐介(ga6378) / 番 朝(ga7743) / 夜十字・信人(ga8235) / 森里・氷雨(ga8490) / 紅月・焔(gb1386) / 最上 空(gb3976) / 宵藍(gb4961) / ファタ・モルガナ(gc0598) / ビリティス・カニンガム(gc6900) / モココ・J・アルビス(gc7076) / クラフト・J・アルビス(gc7360) / 村雨 紫狼(gc7632

●リプレイ本文



 終戦から十年。
 長いようで短いようでもある歳月が過ぎた。





 LH島の一角にあるごく普通の一軒家から、澄んだピアノの音色が響いていた。

「はい、今日はここまででありやがるです。ここのところが‥‥ちぃとばっか指が遅れてやがりますから、練習しきやがるですよ?」
 指摘にはにかみながら、素直に頷き返事をする生徒の頭を撫で、シーヴ・王(ga5638)が微笑む。

 彼女は終戦後暫くの間、傭兵を続けていたが、その後にエミタを摘出。一般人として市井に戻り、傭兵時代終盤に抱いていた夢を叶えていた。

「気ぃつけて帰りやがるですよ」
 帰路につく生徒を見送りると、シーヴはキッチンへと向かい、本日来訪する予定の客人を持て成すため、お手製のお茶菓子の準備を始める。

 一通りの準備を済ませ、客人である宵藍(gb4961)を待ちながら、リビングのソファに腰を下ろす。
 友人である宵藍はシーヴの夫が勤務する芸能事務所所属の俳優であり、その縁もあってこれまで幾度かの訪問を受けていた。だが、十年という区切りの年、再開も些か感慨深い。
 この十年の間に、シーヴは夫との間に子供を授かり、今、五人目の子を胎内に宿している。
(あの頃からしたら、思いもよらねぇことでありやがりますね‥‥)
 こうして、平穏無事な日々を過ごしていることに、不思議さと安らぎを覚えていた。

 やがて、呼び鈴が来客を告げる。
 招き入れられた宵藍は「ほい、これチビどもに土産」とシーヴに子供が好きそうなお菓子の手土産を渡す。
 かつて、傭兵アイドル集団Impalpsに所属していた彼も、今は俳優に転向していた。
「だって、俺いい加減歳だぜ? 三十路半ばでアイドルってのもなぁ‥‥」
 とは本人の弁。
 だが、外見的にはさほど変化がなく、童顔なまま、背もあまり伸びず、どう見ても20歳に見えるか見えないか程度である。
 しかし、外見こそ変わりなくとも、取り巻く環境の変化はしっかりとあった。終戦時に交際していた彼女と結婚し、今や、上が女の子、下が男の子の二児の父である。

 穏やかな日差しの差し込むリビングにて、のんびりとした雑談がしばらく続いたが、自然と十年前の話題に向かった。
「大剣振り回してやがった頃が嘘みてぇ、ですよね。戦いは0になった訳じゃねぇですが、こうして『普通』の生活が出来てやがるです。‥‥まあ、傭兵時代はアレが普通だったわけ、ですが」
「まぁ、時代が変われば、ってところかね。傭兵アイドルも楽しかったなぁ。終戦時くらいは大分活動人数も減ったけど、それでも皆、精神面からの復興の手助けをって思ってた。その効果が今に繋がってるならいいんだけどな」
「‥‥宵藍は、十年経っても大して変わらねぇですよね」
 シーヴは瞳を細めて笑み、しみじみと呟く。
「変わらない言うな。じ、十代に間違われる事は減ったんだぞ!」
 と、その時、シーヴの子供達が家へと帰ってきた。宵藍が来ていると知るや否や、歓声を上げて飛び掛る。
「おー、チビども居たk‥っうわ!?」
 遠慮手加減なしの子供達にもみくちゃにされながら、平和になった証なのかな、と宵藍はぼんやりと思った。
(あの時戦ってた事は、ちゃんと意味があったんだよな‥‥)
 バグアとの再度の接触の可能性に不安こそあったが、それでも幸せな日々が続くことを信じたいと、そう思っていた。
 シーヴは子供達と遊ぶ宵藍を微笑ましく眺める。
 戦い続けて勝ち取った今を、今の礎となった過去を、その両方を大事に思いながら。





(‥‥レナーテ院長、私はかつての貴女の様に‥‥在れて居るでしょうか?)
 太陽を背にして輝くステンドグラスを見上げ、ハンナ・ルーベンス(ga5138)は思う。
(あれから十年‥‥小さいながらも、グリューネワルト修道会を復活させ、私は院長代理として勤めを果たさせて頂いております)
 ハンナはLHにて復興支援依頼や、非戦闘依頼に参加する傍ら、迫害を受ける女性をLHに招き、当面の保護と社会復帰を目的として修道会を復活させ、さる筋では高名な修道女となる。
 修道院復興に辣腕とも言える才覚を示すハンナであるが、穏やかな微笑を絶やさぬ彼女の振る舞いと性格が、他者に共感を促す事も又事実であった。

 そんな、グリューネワルト修道院に客人が訪れる。
「‥‥あら、大分切羽詰っている様ですね。そろそろ“胸囲の格差社会”の修道者も返上なさっては?」
 ハンナ苦笑いの先にいたのは秋月 祐介(ga6378
「なんの、あれはライフワークですからね」
 某動画投稿サイトにて『女性に追われるUP主』として一部に有名となっている祐介は、レンズをきらりと光らせながら、眼鏡のブリッジを中指でくい、と押し上げた。
 気が置けない間柄の二人は、短い挨拶を交わし、微笑みあった。それから取り留めの無い世間話が始まり、お互いの近況、そして、昔の話を。
「あの時は参りましたよ。あれだけ色々と煽っておいて最後まで良いトコ無しでしたからね‥‥。最後の最後に役満でひっくり返せなかったら、それこそ情けないどころじゃなかったですね」
 終戦の年に大々的に開催された、LHミス&ミスターコンテスト。その場にてUPCのアイドル的存在であった女性少佐相手にコスプレ麻雀勝負を挑んだ件に触れ、祐介は苦笑う。
「マウたん、今頃はどうしてるんですかね? 今でも、コスプレとかさせられてるんでしょうか‥?」
 ならば是が非でも撮影に行かねばと、戦後に恋人と結婚し、家庭を持っていながらもまだまだ意欲旺盛な祐介に、ハンナは微笑むばかりだった。

「──結局、あの乳社長が主席を2期務めるとか、正直無いと思いましたがね‥‥。色々としてきましたし、政界に出てみるのも面白いかもしれませんね」
 積もる話が一段落した折、ハンナは一冊の本を祐介に手渡す。
「そうそう、秋月さん‥‥お手隙の時に、目を通して頂ければと思って」
 珍しく製本された同人誌の様にも思えるそれは。
「“とある修道女のバグア戦争記”‥‥ようやく、纏める事ができましたので‥先ずは、秋月さんの目に適うかどうか、と」
「それは‥‥じっくりと拝読させてもらいます」
 無類の読書好きであり、書物に精通している祐介の目の色が変わる。楽しみです、と。



 そうして修道院を後にした祐介の懐の携帯電話が着信を告げる。
「もしもし、私石榴。今貴方の50m後方」
 何事かと勢い良く振り返れば、そこには小さく手を振る弓亜 石榴(ga0468)の姿があった。
「お久しぶりー。元気してた? 秋月さんとは『再会したらエプロンドレスを着て見せてくれる』って約束だよね? きっと着てくれるって、私信じてる♪」
 期待に満ちた瞳をきらきらとさせながら、怪しげな約束を口にする石榴に祐介は苦笑する。
「秋月さんは今何をやってるのかな? 相変わらずえろ動画制作? 今でもおっぱいスキーなの?」
「‥‥自分はそんな風に見られてたんですか」
「うん。だって、あの動画見たらねー」
 ねぇ?とどこかに向かって同意を求める石榴。
 二の句が継げない祐介に畳み掛けるように「あ、私今、こーゆー仕事してるんだー」と、奇妙なモニュメントが写った一枚の写真を見せる。

 石榴は戦後、大学を卒業し、中国の戦火に焼かれた地域の復興作業を手伝っていた。
「壊すより作る方が大変、って話だもの。私も休む暇が無いよ」

 復興作業の妨げとなるの様々な障害の一つに、治安の悪化がある。
 とある地域では、夜な夜な野盗が出没しては、物資を奪い、暴力で町を荒らしていった。
 その解決のために石榴は、かつてこの地域のバグア基地にあった高射砲『ご立派様』を模したモニュメントを建造した。
 兵器に見えない様にかなり生き物風にデフォルメされたせいか、よりいっそうモザイクとの親和性が高い見た目となっていたが、きっと気のせいだ。こういったものは気にするから気になるのであって、気にしなければ気にならなくなるものだ。
 ともあれ、この『ご立派様』の外見は、成人男性に対して威力を発揮する事は過去において実証済みである。
 石榴はこのモニュメント完成とともに、野盗を捕縛しては、一晩そのまま縛りつけ放置するということをしていった。その後、野盗がどうなったのかは『お察しください』。
 ただひとつ言える事は、この周辺は女性や子供にとってたいへん平和な場所になっていったということだけである。

 見せられたモノがモノだけに、引きつった笑みを浮かべるしかない祐介を尻目に、石榴は写真をしまい、マイペースに話を進める。
「せっかく久しぶりに会ったんだし、どっかご飯食べに行かない? 秋月さんのおごりっていうか経費で」
「え、えぇ、丁度良い機会ですし、エプロンドレスの件も含めてゆっくり話し合いましょうか。情報収集、という名目なら経費でなんとかなるでしょう」
「本当に? いやあ、持つべきものは、出世した友人だよね♪」
 どこにしようかなーとLHの名店の名を次々に上げて行く石榴に、祐介はほどほどにして下さいね、とそっと釘をさしたが、それが効いたかどうかは神のみぞ知る。





 モココ・J・アルビス(gc7076)は、庭に置かれた長椅子に腰を下ろし、雨季あがりの、初秋に向かう空を見上げていた。
 引っ込み思案で大人しく、甘えたがりの少女は二児の母となっていた。
 かつてと比べて明るくなり、身体も相応に成長していたが、内面にはまだ少しの幼さを残していた。

 彼女は南半球の大陸にて、傭兵として働きながら、夫と交替で二人の子供を育てている。時折、近所の老夫婦に手伝ってもらいつつ。
 七歳の長男と三歳の長女。二児は健やかに成長し、さほど手は掛からなくなってきていたが、モモコには少しの疲れがあった。
 日常、偶然空いた時間にモモコはぼんやりと空を仰ぎ、考える。

 モモコの中には母親としての自分と、成長しきれない少女の自分が混在している。
 狂気から抜け切れず、戦い続けるしかないという性もあり、この先も子育てを続けて行けるのか。
 また、子供が将来、傭兵である両親を見てどう思うのか。
 子供達には平和な世界で育ってほしい、と願うモモコではあるが、少しの不安を持っていた。
 そして、大事な夫、クラフトのこと。
 最近は特に忙しく、会えない日も多い。
 たまには母と父ではなく、恋人として。甘えたり、キスしたり、愛を育みたい‥‥
「わ、私は何を一人で考えて‥‥」
 無意識に妄想が進んでることに気付き、モモコは耳まで赤くして慌てふためいた。


 モモコが庭にて休憩しているその間に、彼女の夫であるクラフト・J・アルビス(gc7360)は、子供たちと一緒にサプライズパーティーの準備を進めていた。
「よーし、みんなでお母さん喜ばしちゃおう!」
 部屋の飾りつけを大はしゃぎの子供達に任せると、贈り物用に用意した花束を涼しい場所に一時退避させ、クラフトは料理に取り掛かる。
「モココの好きな甘いデザートとかも用意しとかなくちゃ」
 妻の喜ぶ顔を思い浮かべながら、上機嫌といった風に手際よく調理を進める。自分用の珈琲も忘れてはいない。
 こうして子供達と協力し、パーティーの準備を終えたクラフトは息子を手招きする。
「いい? 絶対にお母さんに気づかれないように連れてくるんだよ?」
 長男は最初、小首をかしげて目をぱちくりと瞬かせたが、すぐにその意図を察し、笑顔で頷いた。

 程なくして、長男と手を繋いでリビングへと入ってきたモモコを迎えたのは、クラッカーの弾ける音と、夫と長女の笑顔だった。
 モモコは今日は日常だと、普通の日だとばかり思っていたが、本当は二人の結婚記念日であったのだ。
 驚き、そして、そうと気付いた時、モモコの瞳には喜びの涙が浮かんでいた。
 サプライズ成功!と子供たちと喜ぶクラフト。
 夫と長男の、良く似た悪戯っ子な笑顔を目にしたモモコの瞳から涙が一筋こぼれた。
「‥‥おかあさん?」
「お母さんはね、今とっても嬉しいの‥‥嬉し過ぎて、泣いちゃったの」
 その様子を心配そうに見上げる子供達を、モモコは両手でぎゅっと抱き締める。
 クラフトもそんなモモコを子供達と一緒に抱き締め、暖かな手料理が並ぶ食卓へと促す。

 一家揃って団らんの食事。
「二人とも働いちゃってるからあんまりこうゆう機会ないしね」
 だから大切にしたい、とクラフトは微笑みつつも、子供達の好き嫌いには厳しく目を光らせていた。
 やがて、食事を終え、デザートと共にのんびりとお茶を飲む
「十年間一緒に頑張ってきてくれてありがとね、モココ」
 クラフトは用意していた花束と共に、想いを言葉にして伝える。
「村はちゃんと元の形に近づいてきたし、モココが手伝ってくれたおかげだよね。あったかい家庭もできたし、申し分ないほど幸せな生活だよ。これからも子供達と一緒に、皆で幸せでいようね」
 違うことなく伝わったクラフトの労わりと感謝の心に、モモコの瞳に再び涙が滲んだ。

 パーティーにはしゃぎ疲れた子供達を寝かしつけ、夫婦二人の時間となる。
「‥‥あの子達は私達の子だもん。きっと心配ないよね」
 子供達の安らかな寝顔に癒されたモモコは、テーブルの上に小箱を見つけた。
 手に取り開けてみれば、それはびっくり箱で。
「プレゼントとは言ってないじゃん?」
 悪戯が成功し、クラフトは得意満面といった笑みを浮かべる。
「本物はこっち。用意しないわけないじゃん、でしょ?」
 ブレスレッドは以前に贈ったことがあるから、今回はイヤリング。と小ぶりの化粧箱をモモコの手に乗せた。
「‥‥。」
「‥‥モモコ?」
 俯いて黙り込んだモモコの様子に、クラフトは首を傾げる。
 やがて、モモコの唇が幽かに動き、消え入りそうな声がこぼれる。
「‥‥ありがとう‥‥えっと‥それで‥‥こ、今夜は少し付き合って欲しいかなって‥‥」
 クラフトはモモコを抱き締めることでそれに答えた。





 赤城山の南面中腹にある植物園。
 戦争と共に放棄され荒れ果てていたが、終戦の年に復旧し、十年たった今でも住民憩いの場として賑わいを見せている。
 ビリティス・カニンガム(gc6900)(現、ビリティス・村雨)と村雨 紫狼(gc7632)は三人の子供を伴い、園内をゆったりと散策していた。
 長女である紫燕は、好奇心旺盛な次女の狼騎が迷子にならないようにとしっかり手を繋いでいる。二人の子供は始めて訪れる場所に、始めてみる景色に目を輝かせている。
 生まれてまだ一年と経っていない長男、源太はビリティスの腕の中で眠っていた。

 ビリティスは愛する夫、紫狼と終戦の年に結婚していた。
 それから十年、彼女はダイナマイトセクシーボディの金髪娘へと成長。夫である紫狼が真性のロリだったらどうしようと心配した事もあったが、その心配は杞憂に終わった。
 口調は直すのに無理があったようで、昔と変わらずだった。しかしながら、子供の教育上よろしくない、との理由から汚い単語は使わない様にし、TPOに合った言葉遣いも習得していた。
 そんな彼女は傭兵稼業と子育てとを両立させ、紫狼が子育てに積極的ということもあって、遣り甲斐のある、充実した毎日を過ごしている。
「子育ては大変さ。バグアと殴りあってる方が楽なんじゃねえかと思うこともあるが、やっぱガキ共‥‥じゃねえ、子供達は可愛いしな、大変だが楽しいぜ」

 紫狼はエミタを残したまま傭兵を辞め、払い下げで非武装化した愛機ダイバードを受け取り、機体と能力者としての技能を活かし、「お呼びとあらば即参上!」を社訓にした何でも屋、村雨ゼネラルカンパニーを開業していた。
 社長として多忙な日々を送っているが、家族サービスは忘れない。

 家族一同で植物園を満喫し、次の観光地に向かおうと出口へと向かう途中。園のほぼ中央に立つシンボルタワーの根元で紫狼は歩を止める。
 老朽化に伴い建て替えられ、さらには幾度か改修されていたが、位置も姿も当時とあまり変わりなく。
 長女が不思議そうな顔をして紫狼を見上げる。
「パパ、どうしたの?」
「ここは‥‥パパが十年前に恩人さんと、初めて会った場所なんだよ」
 ここで紫狼は一人のバグアと遭遇した。
 その後、宇宙にて互いの生死を賭けた戦闘を行ったが、自分の甘さ故に、誇り高きバグアの死を穢してしまったという後悔が紫狼にあった。
 戦闘者として純粋過ぎたバグアの生き様と精神。紫狼はそれに大きな影響を受け、継ごうとしてきた。
(俺は、彼に誇れる生き方が出来ているだろうか? ‥‥いや、死者に答えを求めてはいけないな)
 居住まいを正し、紫狼は家族へと向き直る。
「ありがとうビリィ、俺を愛してくれて。ありがとう愛する子供たち、俺を父親にしてくれて‥‥
俺は、恩人さんにそれだけ報告したかったんだ‥‥さ、草津温泉が待ってるぜ!」
(今度は地獄で飲み交わそうぜ‥‥源太郎さん)





 夜十字・信人(ga8235)はバグアとの最終決戦の後、傭兵を続けながらも、部隊の仲間と立ち上げた番組制作会社AG(アクティブ・ガッツ)の社長として、慌しく、気苦労が耐えない日々を過ごしている。
 見た目はあまり変わってはなかったが、精悍さが増し、スーツ姿も似合うようになっていた。
 信人とともにAGを支える紅月・焔(gb1386)は、体格が良くなり、ワイルドさに磨きが掛かっている。
 が、普段つけていたガスマスクは未だ現役で、小脇に抱えたままだったりした。気を使わなくていい場所ではがすっと装着したりもする。
 彼は経営の手助けと称してアイドル部門を設立すると、プロデューサー業を始め、町で美少女を見かけたら「あ、そこの御嬢さん。おれ、こういうモノなんですがね」と即座に鼻息も荒くスカウト活動を行っては、信人に絞られていた。

 彼らは、番組製作ロケのために立ち寄った町で、森にすむ女性の噂を聞いた。
 友人に思い当った二人は、おもむろに森を尋ねる。
 そこで二人を待っていたのは、驚きながらも、十年前と変わらず、明るく太陽のような笑顔を浮かべた番 朝(ga7743)だった。

「いや〜。番長と会えるとは思ってなかったっすよ。これ、お土産のシュークリーム風味カステラです」
 焔は朝を以前と同じように番長と呼び、良く分からないお土産を手に、テンション高く偶然の再開を喜ぶ。
「久しぶりッスね。元気そうでホント、何よりッスよ。あ、今、俺アイドルのプロデュースしてるんスよ。名刺どうぞ」
 その勢いに押されながら、お土産と名刺を受け取る朝。
「焔君は‥‥何かいつの間にか傍にいた人だな。ガスマスク‥‥今も被ってるのかな?」
 その問いに対し、焔は小脇に抱えていたガスマスクを被って答えた。
「急な訪問ですまんな。‥‥なんだ。綺麗になったな」
 立て板に水、といった具合に喋る焔とは対照的に、口篭る信人。
『男子三日会わざれば刮目して見よ』と言うが、それは女子にも当てはまるもので。
 少女でも少年のようでもあった朝は、今や髪も身長も伸び、女性らしい身体になっていた。
 使い古したロングコートに白のブラウス、クリーム色の作業ズボンとこげ茶色の登山靴、といった飾り気の無い姿だったが、それが朝の健全なうつくしさを引き立てていた。
 信人の言葉に、朝ははにかんだ笑みを見せる。
 そんな彼女は戦後、しばらく知り合いの家に滞在していたが、数年前、傭兵になる以前に暮らしていた森の家へと帰り、今は動物たちと静かに暮らしていた。

「立ち話もなんだから、家に入らないか?」
 友人二人を朝は我が家へと招き入れる。

「信人の結婚式来、だったかな」
 信人と朝は文通をしていたが、朝が居を移してからは途絶えていた。
「結婚式は素敵だったぞ。今はお父さんだったっけ。娘さん大きくなったかな?」
「あぁ、もう九つになるよ」
 そうなれば、その空白の間の話に互いに何があったか、積もる話は尽きない。
 会社が順調に行っていること、焔がアイドルプロデュースを始めたこと、森の中の静かな暮らしのこと。
「あれから僕たちは、何かをビリブってこれたかな」
 しみじみとどっかで聞いた感じの言葉を吐く焔。
「もう十年も前ッスからね。思えば戦ってばかりの青春でしたなぁ‥‥ってアタイはまだ青春真っ盛りヨ!」
 マイペースに感慨を口にし、何故か信人に八つ当たりしだす焔。
「お前は結婚でもして少しは落ち着け!?」
「結婚? 恋愛? ノーコメントにしておきます。あ、アイドルには手を出したりはしてませんぜ、ご心配なく。え? 何の心配かって? げへへへ」
 二人のやりとりに、くすくすと笑い出す朝。
「そうだ、折角だから、インタビューに応えてくれないか? 傭兵だったころの自分に言いたいことは?」
「んー‥そうだなぁ‥‥もう少し二人に甘えられれば良かったかな、ってくらいかな」
 信人に話を向けられ、朝は後の祭だけどな、と笑う。
 一番最初に自分を必要としてくれた信人。
 一緒にいて落ち着ける焔。
 その二人に、もう少し甘えることが出来たならば、と朝はほんの少しの後悔とともに穏やかに笑った。
「‥‥君は、俺たちにとって身内だ。会社に席は取ってあるよ。ずっと」
 戦友であり、命の恩人である朝の言葉に、信人は神妙な面持ちで切り出す。
「そうなのか? ‥‥ありがとうな。でも、俺はこの森から出る気ないんだ。どこへも行かない」
 朝は嬉しそうに微笑みながらも、はっきりと断った。
「そうか。ま、困ったことがあったら何時でも連絡してくれ」
 さっぱりと引き、笑みを深めて連絡先の書かれた名刺を差し出す信人。
「そうそう、何かあったら言って下さいな。番長はずっと大事な戦友ですからな」
 ガスマスクをはずした焔は真面目な顔で、大きく頷いた。
 時間が経っても、離れていても、大事な友であると。





「マジレスすると戦後保障の一時金で信託やら投資やら金策したし、たまにキメラ倒しのバイト入ってくるし、贅沢しなきゃ働かなくても普通に暮らせるからな俺」
「駄目人間の言い訳乙」

 ロズウェル(以下、ニートと呼称)の言い分をはいはいと流しながら、良子はふと、腕時計に目を落とす。
「ファタ女史は今頃、長野原草津口ですかね」
「特急にスタイリッシュ乗車してんじゃねーかな」
 ファタ・モルガナ(gc0598)は、事情あって現在身内と別居をしており、良子のペンションに滞在していた。別居の理由については「うるせぇあの飲兵衛がわるいんだ」と本人談。
 だが、本日、ニートら南国ご一行様と入れ替わるように、ふらりと旅に出た。

「余命は長くないと言ったな? ‥‥‥あれはウソだ。ははっ、どっこい生きてる! っとう!」
 吹き抜けとなっているリビングダイニング、その二階部分から、ファタは快活な宣言と共に手すりを飛びこし、チェックインの手続きを行っているニートと良子の目の前にダイナミック・エントリー。
「ちょ、おま、何から何と言っていいかわかんねーよとりあえず久しぶり!!」
 驚きに泡を食ったニートに、ファタは目深に被ったローブの下でクククと笑む。
「おはよう同士良子。今日もいい天気だね。わかんないけど、きっとそうだ」
 十年前と何ら変わらない容姿と態度であったが、ファタの身体はお世辞にも良好であるとは言えない状態にあった。視力もほとんどなく、五感もほとんどが潰れている。
 それでも、そういう風に見えないのは、道化としての生き様と戦争で鍛えた経験等があったからだ。
「そして、おはよう教授。久しぶり。今日もこんなとこで日寄ってニートゥかい?」
「おう、それよりお前さん、なんでここに?」
「私は教授の背中を傘で刺すのが仕事だからねぇ」
「そんなこと仕事にしないでくれる!?」
 ニートの抗議をエキゾチックスマイルで煙に巻くファタは、その手に皮製のクラシカルな旅行鞄を提げていた。
「それじゃ、チェックアウトを頼むよ。ちょっとお墓参りを色々とね」
「え、あ、大丈夫なんですか?」
 ファタの状態をおぼろげながら察している良子は、急な出立に驚きを隠せなかった。
「あはは、だいじょぶだいじょぶ。余裕しゃかりーです。今までありがとね、同士良子。君に会えたのは、きっと私の人生でもトップクラスにいい事だったよ。じゃあね、先生。先生とは、もっと早くに会って、もっと話せればよかったと思うよ。人生は、ままならないね」
 軽快に、だが、有無を言わさぬ調子で礼と別れを告げるファタ。
「でははお二人さん。シーユーレイター♪」
 そうして、道化は春を告げる風と共に去っていった。
 変なフラグを立てて。

 ちなみに、ファタはこの後、良子とは半年後、ニートとは半月後に再会する。
 フラグはへし折る為に存在するのだと言わんばかりだったという。

 そんなことは露知らず、良子とニートの二人は、ほぼ同時に息をついた。
「‥‥花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ」
「井伏鱒二の名訳ですね。人生には別れが付き物だから、今この出会い、時間を大切にしようっていう」
「口にすりゃありきたりだが、何気なく過ごしている日常ってのは、マジで大事なモノなんだよな」
「ええ。何をしたって時は止まらない。そして過ぎた時は戻らないんですからね」
 老境を向かえ黄昏に思いを馳せるような老人めいたことを語りながら、唐突に頼まれごとを思い出したニートは懐から一通の手紙を取り出し、良子に手渡した。
「森里から手紙預かってきてたんだが」


  これを読まれている頃、俺は地球上には居ないでしょう。
  貴女がペンションご開業の折に交わした、泊まりにいく約束を違えてごめんなさい。
  歴史の裏の小さな‥‥けれど重大な勝負に俺は負けてしまいました。
  宙を見上げ月を臨んだら、その彼方に俺を想ってください。
  そして‥‥
  我侭なお願いですが、貴女と‥‥地球に暮らす者の熱き創造の記録を、百合とともに届けていただけましたら幸いです。


 森里・氷雨(ga8490)からの手紙。
 白いシンプルな便箋に綴られた、几帳面な文字。それを読み終えた良子は、便箋を折り目通りに畳み、封筒へと戻す。
「森里氏は宇宙ですか」
「あぁ、『俺の嫁』と四六時中一緒にいたかったらしい。で、なんて書いてあったんだ?」
「意訳しますと『宇宙で仕事中なんでニート氏に誘われたけど今回は無理。サーセンwwで、ヲタ仲間中での賭けに負けて、今春のイベント新刊調達しないとなんですけど‥‥何かいいのを通販したいンで、百合中心に心当たりありませんか? ‥‥あ。掛け算はいいっス。てか、ニート受けとかwそんな獣道wプギャーm9』だそうです」
「‥‥何やってんだあいつ」
 能力者として、宇宙への挑戦も務めのひとつだと認識していた氷雨は、カンパネラ学園で宇宙工学を修めた後、宇宙での勤務に就いていた。
 そこで知り合った『新たな友』と交流を深める中で「連邦政府主席は根競べで決める」というフカシ話をしたのをきっかけに雀友を得た。
 その雀友と『点オパイ』で闘牌した折、全手牌を白板にしたのだが、光学イカサマで緑一色。敢え無くハコ下になってしまい、勝負に敗れた氷雨は薄い本の提出を要求される。
 せめてもの抵抗として、腐ってる風味の雀友を百合に染め替えるような薄い本をと、良子への手紙に切実な願いを託したが
「ニート受けが駄目なら、リーマン受けでもお送りしましょうかね。出張先の中国大陸のどこかでご立派様にわっしょいわっしょいされるようなやつを、ええ」
 良子は爽やかな笑みを浮かべて、その願いを黙殺した。
 ニートは諦観に満ちた表情でコーヒーを啜った。心中で「強く生きろよ‥‥」と祈りつつ。

 と、その時、ロッヂの扉が勢い良く開いた。
「さて、10年前の約束通りに出世したので、10年経って、更にダメダメになったニートさんを下僕‥‥いえ、助手にする為に捕獲に来ましたよ!」
 最上 空(gb3976)の唐突過ぎる登場にニートがコーヒーを噴出したのは言うまでもない。

 空は戦後も傭兵としてUPCに籍を残していたが、殆ど活動せず、主に学園にて知識を蓄え青春を謳歌していた。
 沢山食べても太らない菓子や、魅惑の肉体になれる薬等々、怪しい研究をしては、日常的に爆発騒ぎを起こし、学園内でトラブルメーカーとして名を上げていた。
 そういった、型に嵌まらない、奇想天外な思考と震天動地なむちゃくちゃな研究のお陰で、本人の意図とは別に、いくつかの研究や論文が内外に評価され、博士号や特許をいつの間にか取得。
 卒業後も研究者として学園に残り、第705研究室を根城に日夜怪しい研究を続けている。

「おま、何、なんで居場所を突き止めてくんの!? 前は教えてねーのにプエルトリコの家まで来たし‥‥まさか、あの発信機云々ってマジだったのか!!?」
「さあどうでしょう。まぁ、どこに居ようと逃しませんよ?」
 飄々と笑う空は、外見も中身も、美幼女と自称していた当時からあまり劇的な変化は無い。
 それでも十年。その間に女子力を鍛えたという空は、手作りのお菓子を持参しそれぞれに手渡した。
 良子は礼とともに喜んで菓子をつまむ。
「冬の祭典以来ですね。空さんのお菓子は美味しいのでありがたいです」
 その横でニートは不信げな表情を露にしていたが、女子二人の無言の圧力に屈し、恐る恐る菓子を口にする。
「あ、マジだ。ウメェ」
 感心したニートが菓子を完食するのを満足そうに見届け、空は胸を張って言い放つ。
「空の女子力を甘く見てはいけませんよ。ニートさんのは特別製ですからね! 空が調合した怪しい、遅効性の薬品が入ってます!」
「何ぃ!?」
「解毒するには学園の空の研究室に帰らないとダメですから! 残念!」
「謀ったなシ○ア!?」
「安心して下さい、空が飽きるまで末永く雇用しますよ♪ 良子、ニートさんの事は、空にお任せ下さいよ!」
「はい。お願いします。 ガーサイドさん、南国ご一行様にはしっかり事情説明しときますから、安心して就職してきてくださいね」
「テメェらの血は何色だぁぁぁぁぁ!!!?」
 意気揚々とした空にずるずると引きずられて行くニートの姿を、良子は笑顔で手を振って見送った。
「これにて一件落着、ですかね。『ニート学園に帰る』次の新刊はこれで行きましょう」
 良子は席を立ち、はずしていたマフラーと手袋を身につけながら、家族と宿泊客が待つゲレンデへと足取り軽く歩いていった。




 様々な場所で様々な出会いがあり、別離があった。
 そして、別離があればまた新たな出会いもある。
 人と人とが出会い、綾織りなす模様が歴史というものになる。

 故に、人は。
 結んだ縁と途切れぬ絆を辿り、月日を、距離を越え、大切な誰かに会いに行く。



『そして、君に会いに行く』