●リプレイ本文
「さ、始まりました。2012年度初夢ドリームマッチ 〜ボケはできるがオチはつけられない〜 実況は私、山田 良子、解説は鳳凰院 雪姫ことアストレアさんと、天使 翼ことアンジーさんのお二人です。よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」
「また、本日はスペシャルコメンテーターとして、最上 空(
gb3976)さんにお越しいただいております」
「はい。空はニートさん『で』遊ぶ為に来ましたよ! ええ、久方ぶりなので、全力でニートさんを色々な意味でいぢって楽しみますよ!」
会議用の長テーブルにパイプ椅子を並べ、それぞれ席に着きスタンバイOK。
「さあ、スターティングメンバーの発表です。まずは年末の祭典にて買い逃した薄い本を求めて学園にきたところをがっつり巻き込まれた森里・氷雨(
ga8490)氏。審判という名の傍観者、漁夫の利を狙っているようですが、それが吉とでるか凶と出るか」
「彼が小泉ジュンイチロー並みの豪運を持っているかどうか、楽しみですねー」
「続いてはユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)氏。ハンターサイドのマスコット的存在として『雪狼ちま形態』での登場です」
「大変可愛らしいですね。実力に裏打ちされた可愛らしさ。まさに可愛いは正義」
「御巫 雫(
ga8942)氏は魔族、ナイトノワなんとかという種族でありながら、ニートとともに人間界にて世話を焼きつ焼かれつ生活を共にしています」
「それなんてエロゲ? 男性諸氏には羨ましい状況でしょうねー」
「最後に正統派天使として光臨した『黒翼の神霊』ハミル・ジャウザール(
gb4773)氏」
「大変おいしゅうございます。彼のような存在がこの場にいることにありがとうと言わざるを得ない」
「ガーサイドさん…! ようやく見付けましたよ…消息不明になるから…心配したじゃありませ──…」
ハミルの目的は、行方不明の先遣隊の安否確認と、無事であれば情報を含め、天界へと連れ帰ることだったが、どうにも尋常ではない状況に言葉を詰まらせる。
にこやかな笑顔なのに殺る気満々なハンターと、残念な方向に不穏な空気を醸し出している最上 空withチーム腐女子。
ハンターは兎も角として、女子チームからは「…一転リバ…」「…年下攻め…」「…背徳の耽溺…」「…ハード・堕・極…」などととてつもなく不吉な単語が漏れ聞こえてくる。
「……ええと…何でしょうこの方々…物凄く嫌な予感が……」
例えようのない悪寒を覚え、ハミルは身を震わせた。目的を逃走補助に切り替え、ニートの袖を引く。
「い、行きましょうガーサイドさん…! 援護しますから…一度退いて…出直しましょうよ…!!」
「……巻き込んじまってスマネェな、ハミル。これたぶん、逃げられんねぇわ」
ハハハと力無く笑うニート。その翼を雫がぐいと引っ張る。
彼女は天魔の人類干渉を良しとせず、なるべく力を使わないように平素は子供の姿をとていた。
「しかし、ガーサイド。貴様ほど天使の羽が似合わない者もおらんな。いっそ魔族に堕ちて、私とメロンを作ろうじゃないか」
「お、ここで雫氏が大胆発言!」
「毎朝お前の作った味噌汁が飲みたい的な、そういう意味でしょうか!?」
「…なっ、馬鹿っ! そのままの意味だッ! 破廉恥なっ!」
赤面し、慌てて否定する雫。
「この状況…何にせよ、ニートさん総受けなのは確実です。ええ、やはり天使ですから、穢されて墜ちて堕天使と言うのはお約束ですからね!」
お約束の踏襲はしっかりとやっていただかねば、と空がぐっと拳を握る。
「ちなみに、どんな状況になっても、ニートさんのメガネを外さない事が空のジャスティスです!」
流石ともいえるブレのなさであった。
「ふむ……三竦みには四強にして競えばいいじゃない」
氷雨がどこからか雀卓と怪しげな機材を運び込み、ニートの部屋を闘技場っぽく飾り立てる。
「ええ。ぶっちゃけ麻雀で勝負です。政治も宗教も……全ての決議は麻雀で決める。それこそが宇宙の摂理。天地創造の古より、神々は麻雀でこの世界に干渉してきた。天魔と撃退士もまた、麻雀で戦うのがSADAME 〜運命〜 なのです」
キリッとした表情で熱弁を振るい、勝負の方法を提案する。
「被ダメで電撃が走り、敗北で脱衣とかどうでしょう?」
脱衣と聞いて一瞬チーム腐女子が色めきたつが、エアコンとサーキュレータの前に女子専用席が設けられ、なおかつ、氷雨がエアコンのスイッチを片手にしている様を見て、菩薩のような笑みを浮かべ実況席に腰を落ち着けた。
「えー、氷雨氏はどうやら女子のスカートがめくれ上がるような神風旋風を起こしたいようです」
腐女子なら、野郎脱衣目当てに仕掛けを仕込んだ女子専用席に座り続けてくれるはずである。という氷雨の目論見は崩れ去ったが、たとえ、己が真っ先に全裸に剥かれようとも、生気ちゅるちゅるされようとも、己のダメージ省みずスカートを風で捲くり続けるようと固く決意していた彼は、気合と根性と情熱でもって上昇気流を生み出した。
「うおおお、燃えろ俺の小下心(と書いて『コスモ』とルビ)」
突如として発生した、下から上へと昇るストリームが室内のいろいろな物を巻き上げて行く。
「なんと、早くもミラクル発生です! なんというお色気サービスにかける熱情、心意気!! が、私はスカートの下にジャージ、雪姫さんはスーツ、翼さんは……」
「厚手のレギンスをはいております」
「以上、防御力に定評のあるチーム腐女子でした。残るは魔族の女子、J・Bさんしかいませんが、彼女はどういったリアクションを見せてくれるのか」
風の中、赤毛の少女、J・Bに視線が集中する。
「…………」
「…………」
「…………」
妙な状況で注目を集めてしまったJ・Bは、膝丈のキュロットスカートを必死に押さえてガードするふりをしてみせた。
「……い、いやーん(棒)」
「はい。『悪戯な風に恥らう女子高生』いただきましたー」
「J・Bさんには敢闘賞を差し上げたいですね」
「ちなみに、美幼女の空さんと雫さんは父性発動したニートにがっちりガードされています」
どこかの都の倫理の守護者である清祥念上霊に引っかかるような真似は流石にできない。
その代わり
「イヤァ〜ンッ☆ミ」
Qのスカートがまるっとめくれ上がった。
「お前はやらんでいい」
「これほど無駄なミニスカートにセクシーランジェリーもないでしょうね」
「無駄毛処理まで完璧なのが余計腹立たしいですわ」
チーム腐女子といえどもこれには食指を伸ばさない。
「酷いなァ、折角のサービスショットなのにィ」
「いらんわそんなおぞましいサービス」
「ははぁん、嫉妬? 貧乳ちゃんはボクのセクシーさに嫉妬してるぅ〜?」
身をくねらせ、Qがキメ顔でウィンクを投げかける。
「……すみません。春遠さん、アイツやっちゃってもらえます?」
「やっちゃえ、やっちゃえー」
「やっちゃってよろしいんですか?」
「よろしくないよろしくない!? ボクの側に近寄るなァァ〜!!」
はやしたてるユーリと春遠に良い笑顔を向けられたQは慌てて身構え、使い魔召還の呪文を唱えた。
瞬間、床に円を描いて広がった闇の魔方陣的な何から、無数の蛇がニョロニョロと生え伸び、その場にいた者を手当たり次第に絡めとる。
「ちょ、このっ!」
やはりと言うべきか天使が集中的に狙われ、哀れニートが蛇に囚われる。
「こう狭いと、翼あっても飛べないよねー。天井にぶつかっちゃうし」
ユーリはちまっとした姿のまま、冷静な解説を行う。
同じ天使であるハミルも狙われていたが、蛇の勢いを受け流すようにして回避し軽やかに魔の手から逃れた。
「お、避けた! すごーい」
ぱちぱちと感嘆の拍手をおくるユーリ。
氷雨は「野郎の緊縛触手攻めなんぞどこに需要がある!」と気合で振り切っていた。ハンターサイドは最初から除外されている。ただの使い魔だろうと蛇だろうとも命は惜しいらしかった。
大仰な登場をした割に一人しか捕えられなかった蛇は、その分頑張る! とばかりに張り切った様子で蠢きはじめる。
「ふっふっふ、ニートさんはきっと良い声で鳴いてくれそうですね!」
「テメェの血は何色だぁぁぁ!!!」
ニートの叫びも何のその。空がぎらん、と怪しく瞳を光らせる。
「敵対している魔族に破れて蛇で拘束陵辱、王道ですね! 崇高な存在が墜ちる瞬間は堪りませんね!! やはり、無理矢理と言う状況がニートさんには合いますし」
「うふ、私もそういった王道がたいそう好きでしてね」
「ふ、ふふ」
「ふふふ」
いろんな意味で絶好調だった。
さて、囚われたニートが腐った方向に(お察しください)な目に遭っているその間に、雫はニート謹製メカメロン(メロン型メカ。直径1.5m程の巨大マスクメロンに逞しい脚が生えている。本体メロン部分を覆う外皮はしっとりさらさらでもっちりとした適度な弾力を持ち、さらにはリラックス効果の高いアロマを放つ)を占領し、もふもふしたり、ライドオンして駆け回ったりと、思う存分に堪能していた。
メカメロンの放つ香りに、ユーリがほんわかした表情でその方向に目を向ける。美味しいメロンが用意されたのだろうかと。
だが、そこにいたのは上記の通りの物体だった。想像の斜め上過ぎる外見に何と言ったものやらで、思わずボーゼンとするしかなかった。
「メカメロンといえば、自分が創造したメカメロンが暴走して創造物に良いようにされるとかも、燃えますね! 今、雫がドサクサに紛れてメカメロンを奪っていますが、重度のドジッ子である雫の事ですから、何かやってくれそうな予感です。何か起きたら、友人として生温い視線を送ってみたいところです」
空の期待は叶えられるのか。神のみぞ知るといったところであったが
「そろそろ止めないとアレじゃないかなあ。描写されてないけどマズイことになりそうだよー」
「そうですね、これ以上の恥辱を晒すのも可愛そうですし見苦しいですし」
マスコット状態のユーリですらいろいろ危ぶむ状況になってきた。
そこで、春遠が取り出したのは携帯式対戦車擲弾発射器、いわゆるロケランであった。さも当然のように弾頭付きの。
それをQの頭蓋めがけて一閃フルスイング。
「危なぁぁぁぁ!!? やだ何この人怖い!?」
紙一重で避けたQがキモウザ演技を忘れて、地声で恐怖の叫びを上げる。
「ロケランを使ったプレイですか、斬新ですね」
空が落ち着き払って感想を述べる。その姿は解脱者のようであった。煩悩も突き抜けてしまえば悟りの境地に達するものであるらしい。
「……いやそれ、使い方間違ってないか?」
常識人のユーリはたまらず、通常の頭身にもどって冷静なツッコミを入れていた。
「これはこれで。引き金を引かなければただのゴツイ棒ですから」
「だからってわざわざ暴発しそうな使いかたしないでほしいんですけど!?」
「や、うっかり暴発しても、非致死性化学弾ですからきっと大丈夫ですよ多分」
「……まさかフェンタニル系のアレじゃないだろうな?」
問いに春遠は否定も肯定もしない。ただ朗らかに笑っている。
「あー……そう来るか」
ユーリは眉を顰め片手でこめかみを押さえた。
「そも、室内でロケランなんぞ暴発したら弾頭とバックブラストのダブルパンチで漏れなく全員ミンチより酷ぇやになるんですけどね」
「ではこちらで」
山田の言を受け、懐からモスグリーンの弁当箱的な何かを取り出す春遠。
「平然とした顔で指向性対人地雷とか持ち込むの止めていただけませんか」
「こちらなら全方位じゃありませんが」
「つーかRPGもクレイモアも打撃武器じゃねーからぁぁぁ!?」
蛇にわっしょいわっしょいされたままニートが渾身のツッコミを入れる。どんな状況におかれようともツッコミは忘れない。この男の習性のようなものだった。
「しかし全く、その程度の下等魔を振りほどけないとは情けない」
ニートのその様に雫はあきれたように息をつき、メカメロンから離れる。
「べ、別に、お前に協力するわけじゃない。メロンが大事なだけだ。…それだけだぞ」
ツンデレの手本のような台詞を口にしながら、魔族としての力を解放した雫の身体はめきめきと成長し、ナイスバディな本来の姿に戻る。
「ふふん。我欲に生きるのが魔族の性。貴様の態度が気に入らない。それで理由は十分だ。さぁ、震えるがいい、喧嘩両成敗(スターダスト☆サンシャイン)!!」
「ここで雫氏の得意技が炸裂ー!」
「解説しよう! この技はどういう原理か知らないが激しい因果律崩壊を引き起こし、カオス空間をリセットする程度の能力!!」
駄菓子菓子。カオスをリセットしてもカオスはカオスでしかなかった。
リセットにより白紙状態に戻ったにも関わらず、やはり、氷雨の巻き起こした風でQはOH!モーレツ!状態になり、使い魔の蛇によってニートがえらい目に遭い、ハミルは呆然とした。春遠はパンツァーファウストを打撃武器に使用し、ユーリはちまっとした姿で愛らしさを振りまく。雫はメカメロンを独占し満喫、チーム腐女子は春夏の新刊向けのネタゲットをハイタッチで喜ぶ。そして収拾が付かなくなったところで、喧嘩両成敗(スターダスト☆サンシャイン)が発動し巻き戻る。
何度目かのリピートの後、カールグスタフを弄んでいた春遠が今までにない行動に移った。
部屋の隅に転がっていた黒電話の受話器を持ち上げ、ダイヤルを回す。
「えー、出前をお願いしたいんですが、ソースカツ丼をひとつと」
「ヒレカツ丼ー」
「おぉっと!? ハンターサイドがここで出前だ、出前を勝手に注文しだした!」
「お代は、カンパネラ学園のロズウェル・ガーサイド宛にお願いします」
「これは地味に利く嫌がらせだー! あ、私はミックスフライ定食で」
「私は鳥かば重を」
「では、わたくしは日替わり定食Bをお願いいたしますわ」
「んー、空はオーソドックスにカツ丼を頼みたいですね!」
「氷雨氏はどうします?」
「え、じゃあ、特上うな重で」
「じゃぁ、ボクはラーメンかなァ〜☆ お店で食べる具てんこ盛りこってりこだわりのラーメンもそれはそれで美味しいけど、定食屋の出前のシンプルな…具はメンマにナルト、サービス程度のチャーシューに刻み葱…っていう醤油ラーメンって心躍るよネェン」
「Q…いえ、ショーンがそこまで力説するならアタシもラーメンを頼むわ!」
「貴様ら!? こんな状況で何をしておるか! 私は日替わり定食Aだ!!」
「え? え? なんですかこの流れ……で、では…天ざるをお願いします…」
「お、おおおおお前らぁぁぁぁぁ!?」
「「「「「「「「「「「ゴチになりまーす」」」」」」」」」」」
「それで結局。仲良くご飯オチ、と」
ご飯の香りは幸せの香り。
出来立て熱々の出前料理がテーブルの上に並べば敵味方関係なく、箸を手に両手を合わせていた。
「まあ、初夢ですから。和やかに締めた方がよろしいでしょうということで」
おかずの交換やそれぞれの食へのこだわり、評価となんだかんだで話は弾み、和気藹々とした食事会になっていた。
「ふふふ、新年早々、腐った話と言うのもオツなモノでした♪」
頬に米粒のお弁当をつけた空が屈託の無い笑みを浮かべる。同調したチーム腐女子が本日何度目かのハイタッチ。
シリーズ化された天使物の薄い本が出るのは確定的に明らかである。
その横で、勝手に注文されていた天丼をヤケクソ気味にかきこむニート。急な出費に新春から赤貧生活を強いられることが確実となり、その背中は煤けていた。
「おいガーサイド。今晩はおろしハンバーグを所望する!」
ちみっこの姿に戻った雫は、幼いのだか渋趣味なのか判別の付かないメニューをリクエストする。
「明日にしろ明日に。今日はもう店屋物喰ってんだから、夕飯控えめにしねぇとデブるぞ」
「で、デブるだと!? この私に向かってよくもっ!」
「イテェェェッ!? 羽引っ張るな毟るな引っこ抜くなー!!!?」
「撤回しろこのニート! あと、メカメロンを私によこせ!」
「どさまぎでメカメロンを独占しようたってそうはいきませんよ!」
「わあぁっ、ガーサイドさん!? 今度こそ逃げましょう、こんな恐ろしい人外魔境からっ…!」
「おや、第二ラウンド開始ですか?」
「今度こそ、豪盲牌で天地創造をっ」
「ちょっと待ってくださっまだエビフライ食べ終わってないンッガックっく!?」
「皆落ち着きなよー。でもまぁ……おもしろくなりそうだからいっかー」
ハーフタイムを終え、後半戦に突入。
騒動はまだまだ終わらない。
●
「なんだ、夢か」
朝の光に覚醒し、目を開ければ見慣れた天井がそこにはあった。
寝具の温もりにまどろみながら余韻を追うが、夢の詳細はもう覚えてもいない。
ただ、おぼろげに。
疲れたような、楽しいような、そんな夢だった。
と、しんみりまとめようとしてはみるが、一部男性にはトラウマが残るような夢であったのかもしれない。
「だが、私は自重しない!! 2012!! はりきって行きますとも!!」
飛び起きた山田 良子は、寝巻きのままジョ○ョ立ちで新年への意気込みを語る。
「今年もよろしくお願いしますッ!!」