タイトル:【共鳴】悲しい話マスター:敦賀イコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/17 00:01

●オープニング本文


 ロズウェル・ガーサイド(gz0252)は研究室兼自宅で火をつけていないタバコをイライラと齧りながら書類に向かっていた。
 ニートと呼称され、引きこもり生活を続けているように見えてもその実、彼の仕事は地味に多い。
 他プロジェクトチームの助っ人であったり、アシスタントであったり、試作品の評価試験であったり。
 アイツはいつでも暇だ。という暗黙の了解的な空気のせいで頼みごとが絶えないとうのもあるが、最大の原因は草刈正雄似の上司がほいほいと安請け合いした仕事を丸投げしてくることにある。
(あのオヤジ、いつか殴る。絶対殴る)
 評価試験の結果報告書作成のためにまとめた紙束を乱雑に叩き揃え、盛大に息を吐く。
 と、そこへ、山田 良子(gz0332)が入ってきた。
 ノックも無しに無遠慮に扉を開け、無言のまま部屋の隅に置かれたソファーに腰を下ろす。クッション代わりにソファーに置かれていたメロンのぬいぐるみを引き寄せるとそこに顔を埋め、一言、くぐもった声を出した。
「‥‥あの子、死んじゃったそうです」
 これまでにも何度か、自室への傍若無人な来訪を受けれているが、今回は只事ではない、とロズウェルは紙束を机に放り出し、椅子ごと向き直る。
「あの子、って」
「私を人質にした、ハーモニウムの」
「ああ」
 何で良子が落ち込んでいるのか。想像できないほどロズウェルは鈍感ではなかったし、件の報告書にも目を通していた。だが、敢えて尋ねた。
「そうしなきゃ、こっちの生徒が危なかったろ? 傭兵が素早く処理したから助かったんだ」
「それは、わかってます。傭兵さん達は間違ってない、正しいことをしたんだって。悪いのはバグアだって。バグアのせいで、みんな」
 ぬいぐるみと垂れ下がった長い髪に隠され良子の表情は窺えない。
「でも、あの子、ひとりで、あんな死に方しなきゃいけなかったなんて、それ、あんまりだなぁ‥って」
 涙で震える声。

 良くある不幸、というのもおかしな話だが、戦時下というこのご時勢。誰某が死んだという話はどこへいっても何をしていても耳にする。
 世界に不幸というものは数え切れないほどあり、その全てを救うことはまず不可能だ。その不幸をいちいち気にして悲しむことなど不毛でしかない。
 良子の言う『あの子』以上にもっと悲惨な目に遭って死んでいった人間も当然ながらたくさん存在する。
 ましてや敵兵。敵兵の死を悲しむとはいったいどんな了見かと、眉を顰める者もいるだろう。
 だが、この時、ロズウェルはそんな『現実』と『正論』を口にする気にはならなかった。
『現実』だと『正論』だと、わかりきった顔をして、割り切ってあきらめて、見知った人の死にも平然としているよりは、悲しいことを悲しいと素直に泣く今の良子の方がよっぽど人間らしいだと思えたからだ。
 良子もわかっているのだ。誰かがどこかで死んで行くのがやりきれない『現実』であると。ただ、そう簡単に割り切れるものではない。おそらく彼女は、件の依頼で生徒に犠牲が出たとしても泣いただろうし、傭兵が傷ついたとしても泣いただろう。

 ロズウェルは煙草を灰皿に捨て、一言を搾り出した。
「悲しい話、だな」
「‥‥はぃ、かなし、です‥っ」
 堰が切れたように良子は声を上げて泣き出した。


「──‥悲しい話、か‥」
 極端な悲しみは長くは続かない。悲しみに打ち負かされてしまうか、それに慣れてしまうかどちらかである。
 そんな格言を思い出しながら、ロズウェルはぬいぐるみを抱えたまま、泣き疲れ寝入ってしまった良子にタオルケットをかける。
「そうやって泣けるだけ、お前はいい奴だって」

 バグアという異星からの侵略者の攻撃を受けて、これまで、人類、傭兵、兵士が我武者羅に戦い続けてきた。
 駆け足で進み続けた足もいつかは速度を緩める時が来る。
 突き進んできた道を振り返り見たその時、失ったものの大きさに押し潰されない様に、これからのためにも、どうしようもない感情を整理することも必要だろう。

「俺みてぇな‥‥泣けない馬鹿になっちゃなんねぇよ」
 悲嘆と衝動を片付けることも出来ずにしまいこみ、奥底で凍りつかせ、気がついたら失っていた。
「そんな馬鹿には、さ」
 ロズウェルは椅子に座りなおし、長いため息をついてほろ苦く笑った。



●参加者一覧

寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
南桐 由(gb8174
19歳・♀・FC
ファタ・モルガナ(gc0598
21歳・♀・JG
サウル・リズメリア(gc1031
21歳・♂・AA
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD

●リプレイ本文


 一日、また、一日と春へと近づくのが感じられる早春。秋月 愁矢(gc1971)はLHの片隅にある防波堤の上に腰を下ろし、釣り糸を垂らしていた。
「ふぅ、たまの休みくらいボーっと釣りをするのも悪くない」
 春先特有の穏やかな晴天、気紛れに吹き付けてくる海風が麦藁帽子を揺らす。
 愁矢は麦藁帽子に加え、赤い長シャツの上に白ポロシャツ、ジーパン、サンダルという、どこぞの有名釣り人にそっくりな格好をしていた。本人曰く「釣りの格好といえばコレだろ?」ということだ。
 一分の隙も無い釣り人に扮し、波間に漂う浮きを眺めながら、のんびりと何もしない贅沢を満喫していた。

 ふと、脳裏に『俺は何のために戦っているのか?』という疑念が過ぎる。
 だが答えは既に出ている。
 普通に暮らしてる人達を護りたい。
 陰ながら能力者を支えている非能力者にも家族や恋人が居て、生活を送っていて‥それこそが未来を紡ぐのだ。
 愁矢はそういう想いで戦っていた。
 先日、依頼にてグリーンランドへと赴いたことがあった。
 そこで、命を幾つも奪ってきたテロリストや強化人間を助けようとする傭兵と出会った。
(助けるのは別にいい、何の犠牲も出さないなら、それに越した事は無い)
 だが、と愁矢は続けて思う。
(たが、俺達は戦争をしている。戦闘中に敵を一人助けるために三人が死ぬと良く言われる。そしてバグアは俺達より強い。自分より強い敵を助けるのにどれ程の血が流れるのか‥)
 血を流すのはいつも、無力な一般人である。それを止めたいと願う愁矢。
 たとえ、自分が傷つき血に塗れようとも、仲間を護れるならそれでいい。それだけでいい、と。

 つい、と釣竿を揺らす感覚に、愁矢は考えを切り替えた。
「おっと引いてるな‥大物だといいけど」
 絶妙な力加減で獲物との駆け引きをしながら、たも網を片手に引き寄せる。
(今日は一日のんびりして‥次に向けて頑張るさ)




 百地・悠季(ga8270)は自宅で洗濯物をたたみながら窓の外に目を向けた。燦々と降り注ぐ麗らかな光に目を細める。
 彼女は今現在、家族計画達成の為に傭兵としての活動を自粛している。この度の大規模作戦にも、彼女は不参加を決めていた。
 それでも仲間である傭兵の動向というものは伝わってくる。
 目標としているチューレ基地には強化人間に関する施設・技術があり、攻略の際にその施設を制圧するか否かで、意見が分かれているという。傭兵の間でも見解が統一できていない状況であり、土壇場まで揉めるは確実だろうと悠季は見ていた。
「攻略の是非に‥影響するわよねえ」
 悠季は思わず苦笑いをこぼす。
 敵強化人間の確保後維持の目処がついたことにより、無闇に倒さずに捕獲を念頭にせよという声があがっている。それに対し、従来通り敵は断固討伐せよという意見も根強い。
「‥ハーモニウム、学徒兵が主体の相手じゃね」
 殲滅するにも躊躇することだろう。
 悠季は実際にハーモニウムの少女と対峙したことがあった。
 行動の末、少女を保護することに成功した彼女自身からすれば、今回の作戦でチューレ基地を破壊するより、制圧してもらえれば、という思いはあった。保護した少女の知り合いと武器を持って敵対する状況は考えるだに心苦しく怖い。
(こういう時にはゴットホープまで飛んで慰めに行けたらな‥)
 あまり現実的ではない想いに悠季は頭を振る。既に自分ひとりの身体ではないのだ。無理は厳禁。と息をつく。
 とはいえ。このようなストレスを溜めることは体調に悪影響を及ぼしかねない。
 気晴らしに、外へ出て適当にぶらつこうと決め、悠季はたたみ終わった衣服を手に立ち上がった。




 礼拝も終わり、人気も無くなった教会。午後の日差しを受けたステンドグラスが、静寂の中に影を落とす。
 サウル・リズメリア(gc1031)は整然と並べられた長椅子の最後列に腰を下ろし、煙草に火をつける。どうしようもない気分になった時の癖。
 視線の先にある聖者の像に祈りを捧げるような素振りは無いが、どこかに拠り所を求めているようだった。
 ため息と共に紫煙を吐き出すサウルの頬は、ほんの僅かに赤く腫れている。
 彼は今まで、やりたい事だけをやる。そう考え行動してきた。だが、それは将として愚かだと幼馴染に頬を張られたばかり。
「将は勝利の為に、兵を斬り捨てる。割り切れねぇ俺は、伯を継げねぇで当然か」
 自分のやりたい事を感じ、気持ちを切り替える。そのためにこの場所に来たサウルは、ハーモニウムの少女のことを思い出す。
(‥アストレア、奴は立派な将なのだろう。どこか優しすぎる気もするが。俺達よりか、感情豊かなんじゃねぇか? ハーモニウムの連中はよ)
 また、バグアに問いかけられた覚悟について考えをめぐらせる。
 バグアに関しては一抹の興味と、戦いたいという感情とが混然としており、サウル自身にも判断がつかない。
「‥けどな、背負う覚悟なんてねぇし、そんなもん後からついて来る」
 俺が出来んのは、生きる事だ、と続ける。
「目を背けても同じ、事実は変わらねぇ。神のクソッタレ」
 だから、天秤にかけて、両者を取るのだと。死にたくもなければ、後悔もしたくない、と。
「やる事はやった、後悔はしねぇ」
 サウルは煙草を吸い潰して、前を見る。
「俺はこんな事で潰れたりしねぇ」
 冷たい長椅子からすっくと立ち上がると、彼は聖者の像に背を向け颯爽と歩き出した。



 ファタ・モルガナ(gc0598)は大規模作戦の前に『同志』の顔を見て行こうと思い、探していた。
「失礼しまーっす‥同志リョウコがこっち来たって聞いて‥ぉ?」
 良子なら第705研究室ではないか、と耳にして訪れた先にいたのは見知らぬはずの男、ロズウェルだった。
「フ―アーユー?」
 既視感を覚えながら、ファタは名を尋ね、また、自らも名乗る。
「へぇ‥話には聞いてたよ。初めまして、よろしく『教授』──なんでかって? ‥強いて言うならなんとなく?」
 目深に被ったフードの下でファタが意味深に笑う。ガイアがそう呼べと囁いたのだから仕方がないのだ。
「ところで、同志は?」
「ああ、それがな」
 一部始終を説明し、ロズウェルはソファに目線を向ける。
「そう‥さすが、私が見込んだだけの事がある。それでこそ、だ‥」
 ファタは眠る良子の隣に腰掛け、前髪を弄りながら優しい声色で呟いた。
 その様子を見ていたロズウェルに、尋ねられる前にファタは淡々と答える。
「私は、敵の為に泣く程水分潤ってなくてね。ただ‥まぁ。強敵と書いて『とも』と呼ぶような相手が死んだら‥ちょっと悲しくもなるかな」
 脳裏によぎるのは道化して逝った一人の男。今頃は、二人で過ごせているだろうか、と。祈りめいた願いを思い浮かべた。
「教授はどう? 同志は好きかい?」
 無論、人としてだがね、とファタが追想を打ち切るかのように問いかける。
「嫌いだったらこんな面倒みねぇよ」
 即座に帰ってきた素直ではない回答に薄く笑うとファタは立ち上がり、良子宛のハートチョコとおまけの板チョコをロズウェルに預け、研究室を後にした。



 学園へと久々に登校していた愛梨(gb5765)は、以前に依頼で共に戦ったことのある良子の様子を見るために研究室を訪ねた。そこで説明を聞いた愛梨は眉を顰める。
「ふーん。ハーモニウムの最期を嘆いてたってワケ?」

 彼女は以前の大規模作戦や依頼でハーモニウムとの交戦経験あり、重傷を負わされたことすらもあった。
 戦争というものは殺し合いでしかなく、戦場で敵として遭遇すれば殺るか殺られるかのどちらかである。彼らがかつて人間だったとしても、利用された犠牲者だとしても、多くの人の命を奪ってきたのだ。彼らに殺された人達を前に、遺族を前に、可哀想だの、助けたいだのを口にできるはずが無い。
 それでも、彼らの境遇を耳にしてしまえば、やはり、命の遣り取りをすることに躊躇いを覚えずにはいられなかった。
 ただ、それは決して表に出してはいけないと自らを律している。少しでも早く『一人前の』傭兵になるためには私情を捨て、非情に徹しなければ、という観念を持っていた。
 傭兵の役割はバグアと戦い人類を守ること。それ以上でもそれ以下でもない。
 故に、敵に情けは無用である。と自らに言い聞かせる。
 父に棄てられ、母に先立たれてしまった彼女は、同年代の少女よりも少し早く『大人』として振舞う術を覚えてしまっていた。
 それだけに素直に自分の心情を表せずにいる。
 だからこそ、良子のように素直に感情を表せる相手に対し羨望と嫉妬を覚えてしまう。
「いちいち敵の死にまで泣いてちゃ、キリがないわ。バカな子」

「お前さん、大人なんだな」
 ロズウェルは立ち上がると積み上げられていたダンボール箱の中からぬいぐるみを取り出し、愛梨に手渡す。
「けど、自分に無理させるもんじゃないぜ。大丈夫じゃねぇ時は、ちゃんと言えよ」
 聡明な少女はロズウェルの言わんとすることを悟り、罰が悪そうに顔を逸らせ、ほんの少し唇を尖らせた。
「‥帰るわ。良子に元気出すよう言っておいて。‥それと、ありがと」




 昼下がり。学食で昼食を済ませた寿 源次(ga3427)はカンパネラ学園を散策していた。
 強化人間が学生を人質に取り、報告書を要求するという案件の際に人質となり、号泣していた少女は持ち直しただろうかと、気にかけていた。

「ナイスメロン!」
 ニートの引きこもりルームの扉を開けた源次は景気良く意味不明な挨拶を投げかける。
 が。研究室の中には気だるげにどこか疲れたようなロズウェルとソファで泣き疲れて眠る女生徒の姿。
「お前! 生徒に何をするだぁ!」
「何もしてねぇ!?」
 その時、自分の所属する小隊でのミーティングを終えた桂木穣治(gb5595)が扉を開けた。
「よお、ガーさん久しぶりだな。元気だったか? いつのまにか上級職になっ──」
 春も近いというのにまだまだ底冷えのする夕暮れに向け、タッパに詰めたおでんと日本酒を土産に訪れたのだが、様子を見るに一言
「──生徒に何をするだぁ!」
「桂木テメェお前もか!?」

 ロズウェルは一部始終を語る。
 語りながら、穣治の土産を把握しコタツや鍋を用意する辺り、律儀なのか合理主義なのか。
「それにしても今回はいつもとは雰囲気の違う作戦で気分的にしんどいな‥」
 さいばしで土鍋におでんを並べながら、穣治が呟く。
「犠牲者としての強化人間の存在、か」
 源次はこたつの温度を調整しながら口にする。
「‥彼らを助けようとか、正直、俺自身はそこまでの思い入れはないな」
 バランスよく並べたおでんを崩さないように出汁汁を注ぐ穣治は、正直な想いを口にしながら、だけど、と続ける。
「だけど俺の大切な友人はそのために一生懸命になってる。だから成功するように協力したいと思ってるよ」
 自身と家族がバグアの襲撃を受けたことから、離婚など辛い問題も重なり、数年間を無駄にしてしまったという経験のある穣治だったが、救いたい、救われたいという誰かの想いを尊重したいと強く考えていた。
「連中は敵で間違い無い。だがアレは自分達が辿ったかも知れない姿だ。仲間の為に怒り泣き傷つき、本質は全く人間なのに、人間から外れてしまったモノ‥」
「俺は、奴等を救うだなんて大それた事は言えないし言わないが、奴等という存在を全て受け止めて、その上で正面から叩き潰す。目を逸らしてはいけないんだと思う」
 はっきりと、自分の考えを表してみせた源次。
 その時、腫れた瞼をこすりながら良子がソファから起き上がった。
「君はあの時涙と鼻水で大変な事になってた人質ガールじゃないか。元気そうで何より」
 源次は軽く右手を上げて挨拶を送る。
 それが空気を切り替えるための軽い冗談であり、悲しみに張り詰めていた良子を和ませるためのものだということに気付かない人間はいなかった。




 その頃、南桐 由(gb8174)は扉の前で逡巡していた。
 薄い本の打ち合わせをしようと良子を探していた由は、ロズウェルに連絡を入れいていた。そこで状況を聞き、研究室へと足を向けていたのだ。
(‥みんなのために泣ける‥良子ちゃんは‥眩しいな‥‥由は‥もう‥冷たくなっちゃったから‥だから‥)
 少しの羨望と寂しさが胸に去来する。
(どうしよう‥明るく振舞う‥べき‥かな?)
 深呼吸を二、三度。やがて、意を決して扉に手をかける。
(決めた‥明るく行こう‥この間あった‥ご立派な砲台の話とか‥いつも通りBLで‥楽しいお話して‥‥きっと傷ついているから)

 扉を開けたそこにはおでんを囲んでいる男三人と良子の姿があった。
 どうしてこうなったのか、とロズウェルに目で尋ねれば一言「ハーモニウム哀悼鍋」というよくわからない答えが返ってきたが、本気であることは確かだった。本気で良子の悲しみと向き合う男三人がどうやって感情にケリをつけるか考えた末の行動。
 それを察した由は頷き、招かれるままコタツにもぐりこむ。
 鍋奉行の穣治から卵と大根を取り分けてもらいながら、由は訥々と切り出す。
「‥ハーモニウム‥難しい相手だよね‥今回の大規模作戦もそうだけど‥強化人間全般に対して‥難しいと思うな‥」
 予定していた明るい話題は、ひとまず置いておくことにして、由は良子に自分の考えを語ることにした。それが、きっかけになればと。
「‥ハーモニウムのみんなには‥投降して欲しいな‥けど‥戦いを選ぶなら‥由は‥加減はできないかな‥‥善意の押し売りは‥みんなに失礼じゃないかな‥‥それが洗脳による‥強制だったとしても‥偽りの誇りだったとしても‥ハーモニウムとして生きてきた‥時間に対する‥由の敬意‥かな‥」
「‥先輩‥」
「‥けど‥これが正しいのか間違っているのかは‥由にもわからないよ‥‥どうして‥こんな風になっちゃったんだろうね‥夢みたいな話だけど‥アストレアちゃんとも‥BLの話をしてみれば‥きっと‥‥一緒に楽しめると思うんだ‥どこでこうなっちゃったんだろう、ね‥」
 箸と小皿を置き、由は嗚咽に震える良子の背をそっとさする。

 悲しみの渦中にあって、一人で泣き、耐えるようなことにならなかった良子は幸いである。
 良子本人もその幸いをきちんと理解していた。

「さて、辛気臭い話は止して美味いモンでも食べよう。ニートの奢りで。女性の為なら彼の懐も歓喜の歌を歌うに違いないさ」
 部屋備え付けの電話機で源次が出前の注文を開始する。
「ちょ、おま」
「ガーさん、ここは甲斐性みせてくれないと」
 穣治に羽交い絞めにされるロズウェル。

 やがて悠季とサウルも合流し、賑やかな小宴会となった。


 悲しい話があった。
 それを他人事にするでなく、目を逸らすことなく向き合い、共感と己の信条を示す傭兵達の姿に少女は救われていた。
 悲しくとも、人は、寄り添い支えあい、前に進めるのだ、と。