タイトル:【LP】ご立派と彼らマスター:敦賀イコ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/31 00:03

●オープニング本文



 北京包囲網八門は陥落したが、それ以外の無数の小基地はいまだ残存していた。もともと、この地域に存在した数百にのぼるという民間空港のうち、どれだけの数がバグアの小基地となっているのか仔細は定かではない。一つ一つの戦力は、大きくともワームが10機以下程度、小さいものだとキメラの小プラントが設置されているだけという物もある。
「地下にもぐられた場合、取り返しがつかん。その全てを、勝っている内に破壊していくのだ」
 UPCは難民の受け入れや解放した八門の維持に忙しい。かくて、傭兵達への依頼が新たに本部に並ぶ事となった。



●シモネタ/死もネタ
 点在するバグアの小基地のひとつ。
 そこに姿を現した巨大高射砲に男達が歓声を上げていた

「おお、なんとご立派なブツだ!」
「リャン大人の御威光が具現化したかのようだ!」
「ありがたや、ありがたや」
 彼らは主人が遺したブツのたくましさとソレから得られる高揚感に打ち震え、士気を大いに高めている。

 逞しくぶっとい砲身が天を衝いて聳え立つ様はある意味圧巻、そして砲身の根元両脇には二つの球形の粒子加速器が取り付けられており、ぱっと見がまさにナニだった。
 夕暮れの寒空を背景に雄雄しく威容を誇っている『ご立派様』の前で、熱病にあてられたかのように気勢を上げる強化人間達を、春遠 朱螺(gz0367)はなんとも生温い気持ちで見ていた。


 この小基地を預かっていたバグア、リャン何某は基地の地下に密かにこの『ご立派』な兵器を作り上げていが、彼は八門の攻防戦で死亡してしまう。
 基地に残されていた部下達はなんとしてでも、主人の遺品で遺恨を晴らしたいと考えたが、リャンより何一つ説明を受けていなかった彼らは、高射砲を地上に上げることも起動させることも出来ずにいた。
 そんな時に、運が良かったのか悪かったのか、春遠が古いガイドブック片手に基地付近の観光名所にやってきた。
 預かっていたハーモニウムの強化人間にグリーンランドでの自習を申し渡し、交戦中だろうがおかまいなしで息抜きここぞとばかりに大陸の風土を見て回っていたのである。
 そんな春遠をリャンの部下たちが放っておくはずも無く、ストーキング&粘着懇願を開始。
 筋骨隆々のむさ苦しい男たちに、往来で地に額をこすりつけるようにしてしつこく頼み込まれ続けて断ることも出来ず、春遠は結局協力することになってしまった。
 協力、と言っても春遠はちょっと機械をいじるだけであり、五分もかからず終わったのだが。


「なんという素晴らしさ、見れば見るほど力が湧いてくる!」
「リャン大人のご立派様と戦えるこの光栄! 春遠様、お力添え感謝いたしますぞ!」
「えー‥‥、まあ‥うん‥‥」
「リャン大人、どうか、何モノにも負けぬ挫けぬ萎えぬお力を!」
「何モノをも貫く雄雄しき硬さを!」

 負け戦で主人の後追い玉砕をしようという彼らが、生の象徴を象った兵器に祝福を願うというのはなんという皮肉な光景であろうか。
 感極まったのか一人が漢詩を吟じ出した。
 朗々とした声が紡ぎ出すのは明日をも知れぬ戦地にて玉杯を交わす兵士の姿を描いた詩。美しい響きに包まれた和やかさの中に強烈な悲哀が刻み込まれた詩。
 吟詠が終わるや否や、雄たけびを上げるリャンの部下たち。

 忠義にしろ信念にしろ、自らの意思であるならそれに殉じることを愚行だとは思わない。

 思わないが
「どんな光景だこれ」
 死地に入ろうとする彼らを見守るかのように聳え立っている『ご立派様』
 恍惚とした表情でその砲身を撫で擦るリャンの部下たち。中にはしがみついて腰を振り悶えている者までいる。
 よく、悲劇と喜劇は紙一重と言うが、ここまで渾然一体となった状況も珍しいのではないだろうか。
 下世話に滑稽な様子を笑ったらいいのか悲哀を感じたらいいのか何かもうよくわからない。マジで。
 いろんな意味で悪酔いしまくっている彼らの様子には、人類の文化・風習に強い興味とそこそこの理解を持つ春遠でもちょっと引いた。


 そんな『ご立派』なモノが地表に現れれば、人類側とてすぐに気がつく。
 実際、高射砲というものは危険な存在である。だがそれ以上に、突如現れたそそりたつ『ご立派』は脅威というか何と言うか、存在しちゃいけないものとして完膚なきまでにぶち壊さなくてはならない、そんな危機感を強く感じさせるモノだった。

 高射砲と基地、そしてそこに居座る強化人間、ワームの可及的速やかな排除。それが傭兵たちに求められた。


●参加者一覧

弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
南桐 由(gb8174
19歳・♀・FC
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
美空・桃2(gb9509
11歳・♀・ER

●リプレイ本文


 出撃前のブリーフィング。
 スクリーンにでかでかと映し出されたナニの姿を確認した愛梨(gb5765)は、予想の斜め下をチェンジフットレイバックスピンで突き抜けたブツの存在に呆然としてしまった。
 知識としてはあるが、角度のある現物を少女はまだ見たことがない。遠い昔‥入浴時に見た父のナニとは角度が違う。何もかも違う。
「一体‥どういうことなの‥」
「‥や、これは何といいますか、生々しい形ですねぇ」
 間違った方向の凄さをこれでもかと主張しているブツに苦笑いしか出てこない斑鳩・八雲(ga8672
「は、はうっ‥ 何ですか、あの、アレは‥」
 金城 エンタ(ga4154)は顔どころか首筋まで真っ赤に染め、両手で顔を覆い隠す。大変乙女的なリアクションをとる魅惑の男の娘。指の隙間からチラ見しているのもまた様式美である。
「寿だ、宜しく頼む」
 寿 源次(ga3427)は、平常どおりに挨拶を交わすが
「一大事と聞いてやって来てみれば、なんだこの形容し難いモノ‥いや形容は出来るのだが‥兎も角こんなモノで蹂躙されたらこの地域はおろか中国全土と人々の精神に消えぬ傷跡が残るであろう事は明白、故に潰す!」
 平静に見えてバーサク気味にテンション上がっていたようです。
「あんな物、存在してちゃイケナイんだ! 修正してやる!(モザイク的な意味で)」
 源次に同調しつつも、弓亜 石榴(ga0468)は若干面白がっている。その隣で南桐 由(gb8174)が食い入るようにアレの姿をまじまじと見つめていた。
「それにしても‥すっごく‥大きいです」
「‥うむ! うむ!! 敵ながら、天晴だねぃ!」
 堂々たるナニの姿に感銘を受けたゼンラー(gb8572)は、三千世界のどこかに存在する全裸の神へと祈りを捧げ、身を震わせた。

 このように、見る者に様々な感情を喚起させる高射砲。

 その中で美空・桃2(gb9509)は、顔を赤らめたり、苦笑いをしている仲間たちの様子に少しの疎外感を抱いていた。
 根っからの真面目っ子である彼女にとってアレはただの巨大な兵器にしか見えなかったのだ。男子のイチモツを連想させる形だとは思いもしない。
「ご立派高射砲‥? なんでありますか、その大層な名前の兵器は‥」
 第一発見者によって付けられた渾名を呟きながら、美空はほんの少し唇を尖らせる。
 名状しがたい感情の原因であるソレを攻撃する役割を彼女が買って出るのは、至極当然な成り行きと言えた。




 一方その頃。ご立派の根元では春遠がリャンの部下達に高射砲の操作法を説明していた。
「これで仰俯角調整、こちらが方位角調整‥」
 砲身が動く様を、部下達はうっとりとした瞳で見上げ、熱っぽい吐息を零している。
「ああ、リャン大人‥」
「我らに愛と悦びを教えてくださったリャン大人そのものだ!」
 この基地は筋骨隆々の男達が築き上げた禁断の園だったようです。
 逃げたい気持ちを必死に押さえ、春遠は気力を振り絞って説明を続ける。
「‥で、こちらが威力調整‥」
「そう、大人はテクニシャンであられた‥」
 何かを思い出し顔を紅潮させハァハァし始める部下達。
 この高射砲にはそれ以外にもいろいろ無駄な機能がてんこ盛りであったのだが、春遠はソレを説明する気にならなかった。
「どうですかな、ご立派の乗り心地は」
「の、乗り心地もナニもッ!」
「恥らうことは無いのですぞ! 包容力すら感じさせる見事なご立派に身も心も委ねたくなるでしょう!」
「いえ全然まったく!」
「遠慮なさらずに! さぁ、めくるめく快楽の世界へ!」
 鼻息の荒い部下達に囲まれる春遠。バグアとしてあるまじきことだが、この時、彼は恐怖を覚えていた。性的な意味で。
 薔薇園に放り込まれた子羊が哀れ菊の花を散らそうとしたその時、敵の接近を告げる警告音が基地に響き渡った。
「敵襲ー! 大人のご立派の前だ、無様な姿は晒すまいぞ!」
「リャン大人、見ていてくだされ!」
 緊急事態に春遠を開放し、部下達は漢の顔をしてそれぞれ配置に就く。

「――傭兵さん達ありがとう!」
 間一髪で虎口を逃れ現場から離脱した一人のバグアに、心から感謝されたことを傭兵達は知る由もない。




 高射砲に迫る傭兵達のKV。
 大陸の土を踏み、土煙を曳きながら疾走する彼らの視界に入るは聳え立つ『ご立派』
「‥あんな‥う、うぁ‥」
 エンタはどうしても直視できずにいた。
 性別的にソレを見たことが無いわけではない。だが、こうもアレでナニというのも。
「こういう光景は、確か、歪みない‥っと、いかん、危ない危ない危ない‥戦闘に集中しませんとね」
 八雲までもが危うい路線に乗っかりそうになっていた。それでもしっかと踏みとどまるのはイケメンの鑑といったところか。
「プロの傭兵は仕事を選んではならない‥たとえ敵がどんな形状のものであったとしても‥淡々とこなすだけよ‥」
 愛梨は明後日の方向にそらしたくなる視線を根性で前方に据えながら、自分はプロなのだと自らに言い聞かせ冷静を保とうとしていたが、その努力はあっさり打ち砕かれる。
「あんだけご立派な砲台だったら、角度が変わったりしそうな‥」
 ゼンラーの言葉を肯定するかのように、高射砲が天を衝くようなご立派な角度に立ち上がったのだ。
 うっかりソレを見てしまった愛梨は気が遠くなるのを必死に堪えた。
「うむ! しかと見るんだよぅ! あのフォルム! あの潔さ! ‥生まれは違えども、志は‥‥だねぃ! どうだぃ‥ッ!」
 瞳を輝かせながらゼンラーは近くにいた愛梨に全裸の神様とご立派の素晴らしさを説く。
 ある意味セクハラであるが、感極まっているゼンラーには思いも寄らない。
 以前に同じ依頼に参加し、ゼンラーの脱衣を目撃したことのある愛梨は、彼を危険人物として警戒しており、そのレベルが今この時レッドゾーンを突き破った。
「‥い‥いい加減にしときなさいよね‥‥バカーーッ!」
 涙声の大絶叫がKVのコクピットに響き渡る。少女の心にトラウマが刻まれた瞬間であった。
 愛梨は本件後、三日三晩、中心部から高射砲が生えているゼンラーに襲われるという悪夢にうなされたという。
 さておき。
「砲台前方に防衛機発見であります!」
 美空が敵機の姿を捉える。
「‥ん‥でも、これは問題じゃないよ‥」
 敵が待ち構えていても由は動じない。
「問題なのは‥あのご立派様が誘い受けなのか‥それとも誘い攻めなのk」
「アレを潰す、磨り潰すっ、人々の安寧の為に! 色んな意味で!」
 大変危険な発言を遮るように源次が声を上げた。
 これ以上続けられたら男性陣は精神的に再起不能になるだろう。確かな予感に源次は身を震わせた。
 それを知ってか知らずか、石榴が朗らかに追い討ちをかける。
「あ、そーだ。男性陣はちゃんと自分の立派を見せ付けて、必ず勝利してくるんだよー。漢は大きさや堅さや形だけじゃないってコト、教えてやっちゃえ♪ ダイジョーブ! アナタ達の方がご立派なブツだってコト、私、信じてる♪」
 それにしてもこの少女、ノリノリである。




 高射砲へと近づく傭兵達。彼らを迎え撃とうと立ちはだかるワーム。
「ここから先、通ることまかりならん!」
 タロスが戦斧を高々と掲げ、両脇のワームが投げ縄の要領で鋼線をくるくると回し、傭兵達を威嚇する。
「男性性の象徴とでも言いますか。周囲の敵もやたらマッチョですねぇ‥‥」
 苦笑いするしかない八雲。声だけではあるものの、ワームの中にいる男達が暑苦しいマッチョであることが容易く想像できてしまった。
 萎えるというか引くというか。そんな微妙な心境お構いなしにタロスは吼える。
「大人のご立派様に軟弱モノを近づけてなるものか!」
「あの砲は確かにご立派‥だが世界じゃあ二番目以下だよ」
「ぬわぁにぃ!」
 石榴の言にワームAが裏返った声を上げる。
「大人のご立派様を上回るものなどない!」
 すかさずワームBが鼻で笑うが
「勿論、ご立派の一番は‥」
 それをさらっとスルーした石榴、オウガの頭部が源次の「大山津見」に向けられる。
 つれられるようにその場の視線が彼に集中した。

 一瞬の沈黙。

「ぬ‥た、確かにご立派そうだ」
 何がとは言わない。
 部下達の怯んだ声がこぼれ、ゴクリ、と生唾を飲む音がその場に響いた。
「‥フ、ふははは! どうした! 大きなブツに頼りきりか? 漢なら自分のブツで勝負して見ろ! 自分にはある、ブッとくお前を貫くどch‥ドリルがな!」
 自棄気味の源次が操縦席の中でふんぞり返り漢らしく高笑う。禁止用語が混ざりかけた気がするがそんなことはなかったぜ。
 諸般の事情で暗くぼかされたMilestoneの操縦席の中では、ゼンラーが源次の男気と潔さに惜しみない拍手をおくっていた。全裸で。
「‥大変‥おいしいです。‥この光景を‥同志R・Yと見たかったな‥‥軽く3日は語れる‥」
 一連のやり取りを聞いて眼鏡を光らせる由の脳内には新たな数式が閃いており、来年の夏向け同人誌のプロットが組み立てられていた。
 怯んだワームを尻目にご立派へとまっしぐらに走る傭兵のKV。
「‥さて、ちょいと付き合って貰うぞ?」
 源次のガトリング砲と、石榴のリボルバーが火を噴き、ワームとタロスを足止めする。
「ならば貴様のご立派、確かめてやろうぞ!」
 目の前の傭兵達を末期の相手と決めワームが向き直る。
「ご立派に貫かれて散るなら本望よ!」
「‥『ん』と『う』を抜かせばh‥」
「それ以上いけない」
 由の言わんとすることを察した愛梨がカタコトになりつつ制止した。

 タロスを中心としワームが左右両翼に展開、傭兵達の動きを阻もうと鋼線を投げつけてくる。
 装甲の厚い源次が前へと出、援護のために由と愛梨が下がる。
 石榴は短期殲滅を狙い、ブーストを使用してワームへと迫った。まるで猫のような俊敏さでもって鋼線を掻い潜って接近、ジェットエッジの爪がワームの装甲を深く抉り取る。
 即座にドリルへと換装し、一矢報いようとするワームだったが、愛梨の正確無比な射撃に阻まれその機を逸する。
 仲間の窮地にハルバードを振り上げ、石榴へとタロスが突進するものの、由が放った銃撃に蹈鞴を踏んでいるその間、残るもう一機のワームが源次とのドリル勝負に敗れ、貫かれ、悶絶昇天していた。
 残ったワームも程なく銃撃に斃れ、ただ一機残ったタロスはフェザー砲を乱射しながら戦斧を振り回す。
「耐えてくれよ大山津見!」
 源次は戦斧の一撃を機盾で受け止め、力任せにタロスを味方の射線上へと押し出す。
「‥真面目に考えれば‥主張はちょっとあれだけど‥タロスだけあって‥やっぱり強いね‥‥F・S起動‥撃つ」
 システムが起動し、AIが解析を開始。由の4連キャノン砲が火を噴いた。
 回避行動をとるが、F・Sによってタロスの進路は予測されていた。まともに砲撃を受ける形となったタロスは体勢を崩し、そこへと挟撃を狙っていた石榴の猫パンチと愛梨の銃撃が討ちこまれる。
「残念だけど‥これも‥由のお仕事なの」
 死に体になったタロスへと止めの砲撃。
 断末魔とともにタロスは爆発四散していった。


 高射砲が火を噴く。高威力のプロトン砲が大気を震わせ、上空にかかる雲を蒸発させる。
「ご立派な高射砲のハイパー掃射だよぅーっ! 空のひとー! 気を付けてねぃーッ! ‥いやまあ、居ないんだろうがねぃ」
 その通りで上空には誰もいない。わかりやすい脅威があるだけに、この戦域の上空を飛ぼうという者は皆無であった。
「賢者タイム、ならぬ大僧正タイムはチャンスだよねぃ!」
 エネルギーを放出した後には脱力した空白の時間が生まれるものだ。それが兵器だろうとナニだろうと。
 その隙に、とゼンラーは機体の速度を上げる。

 そもそも、高射砲というものは対空攻撃のための兵器である。人類の兵器よりも自在に取り回せるものの、やはり、本来の用途以外に使うということには無理があった。
 地を往く傭兵達にほぼ無意味な砲撃を繰り返す高射砲。

 それとは逆に、美空機、ピーチ・パンサー2の射撃は揺ぎ無い。
 アンカーで機体を固定、リンクススナイプを起動させ、スナイパーライフルで高射砲へと接近する仲間の援護を行う。
「もう負けているんだから、大人しく、大事なしょぼくれご立派様をしまってさっさと降伏するのであります」
 いろんな意味で容赦ない台詞である。
 エンタ機、真・韋駄天が軽量を活かした軽業師のような動きで、軽々と障害を飛び越え高射砲へと最接近を果たす。
「流石に‥男性として、同情してしまいそうですが‥‥そんな気持ちに負けません‥飛んで行きなさい、地平線の向こうまでっ!」
 高速移動の勢いそのままに高射砲の玉‥もとい粒子加速器を蹴り飛ばした。
 それだけに飽き足らず、ハイ・ディフェンダーを構え
「流石に、マスカットみたいには切れないでしょうが‥まぁ、スカッと、斬らせていただきます!」
 もう片方をざっくりと切り裂く。エンタ負けるな大冒険。
 爆発する金‥もとい粒子加速器。
 その爆炎を切り裂いて八雲機が飛び込んでくる。
 砲身部分にライト・ディフェンダーが、さらにはドリルまでもが叩き込まれて行く。しっかりとアグレッシブ・フォースが付与されていたのは言うまでもない。
 傭兵達の情け無用の攻撃はまだまだ続く。
「ええのんかー?ここがええのんかー?であります」
 美空の射撃は狙いを過たず砲主付近に着弾。
 彼女は砲身最下部の箇所に攻撃を集約していた。装弾室内の弾を暴発させ、攻撃との相乗効果で屹立を萎えさ‥土台から吹っ飛ばそうという思惑があったのだ。
「いくいく、いっけーなのであります!」
「アッー! 大人、今、お傍にイキますぞぉぉ!」
 思惑通りに誘爆を起こした機関部は砲主の強化人間もろとも大爆発、炎を上げた。
 ゆっくりと、名残惜しむかのように傾いで行く砲身。
 そこへとゼンラーが最高速でのチャージアタックを敢行、釈迦掌がご立派の象徴的部分を粉砕した。
 間近でこれを見ていたエンタは後にこう語る。
「実に痛そうでした‥見ていて、こちらが押えて悶絶してしまいそうなほど‥」

 脅威は去った。
 燦然と輝く宵の明星の真下。敗れ、消え行く運命に殉じた『ご立派』が炎に沈む。

「お前さんは確かにご立派だったよぅ‥だが、それは所詮、局部だけの話だよぅ‥拙僧達とは、似て非なる道で‥衝突せざるを得ない運命だったのだねぃ‥!」
「ご立派なモノに縋るだけではダメなのだ。それを実践し、突き進む覚悟こそが必要なのだ」
 ゼンラーの言を源次が、綺麗に巧いことまとめる。
「全裸色即 絹肌是空 脱衣色即 諸出是色――」
 オリジナリティ溢れるゼンラーの読経が夜空に昇る中、あかあかと燃える炎を見つめながら、由は菩薩のような笑顔を浮かべていた。
「‥大丈夫‥ご立派様は生きていくよ‥来年夏の薄い本の中で」

 脅威は去った。はず。