タイトル:【共鳴】運命消失点・甲マスター:敦賀イコ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/17 23:03

●オープニング本文



 人の進む道は宿命とか運命とか言う名前で呼ばれている。
 その道はすれ違ったり交差したり、真正面からぶつかったり。
 それぞれ真逆の方向へと向かおうとするものがぶつかり合えば、どちらかは消えて無くなる。

 傭兵達との遭遇は僕らにとって消失点となるものだろう。



 グリーンランド地下施設の一角、狭く薄暗い個室内には堆く積み上げられた紙の束が山となり、それがいくつもそびえ立っている。
 部屋の主であるQは僅かに残った空間へとねじ込むように椅子を置き、今まで行ってきた実験の成果の一つ一つが記されている紙の山をしみじみと眺めていた。
 電子データとして記録媒体に保存する方が効率も良ければ、このように嵩張ることもないのだが、Qはあえて紙媒体を選んでいた。
 グリーンランドでの戦況がバグアにとってあまり思わしくない状況の今、人類がこの地下施設に入り込んでくるのも時間の問題と思われた。そう遠くない未来、人類達がこの施設を押さえたならば情報を求め躍起になって電子データを探るだろう。
 Qはそれ故に紙を用い、しかも暗号化までして保存していたのだ。いざというときには火を付けてしまえば文字通り灰燼に帰す。
「ホイホイと道を譲ってやるほど親切じゃあないんだよネェ〜」
 譲れる程度の道なんて最初から進んじゃいない、とQは唇を吊り上げて一人笑う。

 消去され、曖昧な過去の記憶の中、残されたのは強迫観念にも似た目的意識と仲間への依存心だった。

 強烈な目的はともかくとして、依存心を植え付けられた仲間‥‥仲間といっても、本当に仲間だったのか定かではない。
 いつの間にか増減している学友、顔も定かに覚えていない彼らが仲間であるのか、そうでないのか、Qに判別はつかない。
 ただ、学友と過ごした日々、唯一といっても差し支えのない『楽しかった思い出』と『今』は間違えのないものだと、確信していた。
 それだけに、彼らを奪い去った傭兵達が許せない。
 許せないと思いながらも、己が何一つ出来ない『実験動物』であることをQはわかりすぎるくらいわかっていた。
 バグアが試験的に行う精神操作により、過去の記憶こそ消去されていたが、思考面では比較的自由度の高い設定が与えられていた。そのことが幸か不幸か。

「Q、いるんでしょ、ちょっと話があるの」
 少女の声がQの自嘲を中断する。
「相変わらず散らかってるわね。ゴミぐらいきちんと片づけなさいよ」
「ゴミとは酷いなァ、ボクのかわいい妖精(フェアリィ)ちゃん達のデータなのにィ」
 おざなりなノックの後、無遠慮に部屋へと足を踏みに入れた少女は、呆れたように紙片の山を軽く小突いた。
 ぐらつき倒れそうになった紙片を慌てて支えるQ。
「ちょっ、J・B、散らばっちゃったら整理するの大変なんだからやめて、ほんとやめて」
「だったら、最初から整頓しておけばいいじゃない」
 J・Bと呼ばれた赤毛の少女の正論に反論の言葉もでないQは口をへの時に曲げてそっぽを向いた。
「まぁ、あんたは昔っから片づけ苦手だった――って、そうじゃなくって、出撃予定よ。あんたまた、一人で出るつもり?」
「そうだけどォ?」
「今度はアタシも一緒に行くわ、ノア達のこともあったし、心配なの」
「ヤッダ、ボクが裏切るとでも思っちゃってるワケ?」
「違うわよ!! あんた、いっつも一人でキメラ使って。同じクラスの子達を、危ない目に遭わせたくないってのはわかるけど‥‥」
 キメラならいくらでも再生できるが、学友達はそうはいかない。失われれば補充されるだけのことだが、『仲間』としての繋がりはますます薄くなって行く。
 ハーモニウムには『仲間』がいることによって辛うじて精神の均衡が保たれている『学生』達が多く存在する。
 それが希薄になってしまえばどうなるか、ハーモニウムが実戦に投入された時点で崩壊の二文字は既に見えていた。
 Qは焼け石に水と知りながら、学友との出撃よりキメラを使役し前線に出ることを選んでいた。
 自らの目的にも適っていた上、その課程で『仲間』にも使役出来る強力なキメラが作り出せれば、目に見えている危機を少しでも先延ばし出来るのではないかと。
「アッハ! それは買いかぶりすぎだヨォ☆ ボクは一人気楽にヤるのが好きなだけさァ〜」
「あんたは嘘をつくとき右目を細くするのよね、昔っから、そう」
 思わぬところで真意を暴かれたQは内心の動揺を隠しつつ、いつものように身をくねらせながら無意味なポーズをとるが、J・Bはそれを真正面から見据え、嘘だと断じた。
「J・Bこそ嘘言わないでよォ、昔なんてボクらには無いじゃな〜い」
「でも、アタシは知ってるの。いい、今度の出撃、アタシも行くからね、駄目って言っても行くからね!」



 グリーンランド沿岸部に存在する第22−05拠点。
 拠点とは言っても名ばかりの、必要最低限に改装した貨物コンテナを二つ置いただけの代物であった。鉄条網が周囲に設置されてはいたが、気休めでしかない。
 現に大蛇はそれをものともせずに踏み越え、兵士を襲い腹を満たした。
「傭兵さえいなければ、こんなものなのね」
「そ。傭兵(ベイビィ)ちゃん達は今、南の方で忙しいみたいだしィ」
 呆気なく陥落した拠点にJ・Bは拍子抜けした様子で剣を鞘に収める。
「これでわかったデショ、この程度、ボクと妖精ちゃんで十分なんだって」
「‥‥ええ、そうね」
 心配だと強引に付いてきたJ・Bを安堵させようとQは自信満々といった具合に胸を張るが、彼女の表情は曇ったままだった。
「あのね、Q。アタシ、本当はね――‥」
 突如、周辺偵察に放っていたコウモリ型のキメラが鋭い声を上げる。
「噂をすればって、傭兵ちゃんったらなんてタイミング悪いんデショ!」
 忌々しい、と舌打ちQは顔をゆがめながら笑う。
「ボクと妖精ちゃんで適当に足止めするから、J・Bは先に帰って」
「――嫌よ!!」
「J・B!!」
「嫌ったら、嫌! アタシだって戦えるの!戦えるんだから!」
 戦斧を構えたJ・BはQの制止を振り切って駆けだした。


●参加者一覧

寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
緑間 徹(gb7712
22歳・♂・FC
エリノア・ライスター(gb8926
15歳・♀・DG
ファタ・モルガナ(gc0598
21歳・♀・JG
天羽 圭吾(gc0683
45歳・♂・JG

●リプレイ本文


 時間を少し遡る。
「寿だ。宜しく頼む」
 現場への道すがら、行動を共にすることとなった仲間達と挨拶を交わす寿 源次(ga3427
「ゲンちゃん! 久しぶりっすね、今回はよろしくっす!」
 源次と久しぶりに顔を合わせた虎牙 こうき(ga8763)が喜色を浮かべ朗らかに笑う。
 六堂源治(ga8154)も源次の肩を叩き、久しぶりの再会を喜んでいた。同じ読みの名を持ち、『Wゲンジ』として過去に戦場を共にしたことのある源次と源治はお互いに兄弟と呼び合う仲にあった。
 さらに源治は恩人であり、その実力を深く信頼しているアレックス(gb3735)の姿に笑みを深める。
「刀に見合う使い手になる為に精進してきたッスよ」
「そいつは頼もしいな」
 旧交を温める彼らの姿に、高速移動艇内に張りつめていた空気が和らぐが、現場状況の確認をするにつれ、先ほどまでとはまた別の緊張感が生まれた。
「キメラに強化人間、か。グリーンランドも何回か来ているがロクな事になった例が無かったな‥」
「‥ハーモニウムの連中ッスかね?」
 表情をやや堅くしたアレックスが重く頷く。
「‥だろうな」
 彼はハーモニウムの一員、Qの持つキメラ関係のデータ入手を目的として今回の依頼に参加していた。
(奴なら、アイツらを何とかする情報を持っているかも知れねェ‥)
「何度か戦ったが、苦手な連中ッス。強さ云々じゃなく、その成り立ちや考えが」
 やりきれない、といった具合に源治は目線を落とし息を付く。
「‥でも、仲間がやられたとなっちゃ、やるしかねーッスね」
(やり辛いが、俺達も通すべきスジは通す)
 顔を上げると、源治は開いた掌に拳を打ち付け気合いを入れ直した。
「強化人間とキメラに‥か。時間逆算で‥微妙、か」
 フードを深く被り、一段と無表情な声色でファタ・モルガナ(gc0598)が呟く。
 生存者の存在はほぼ絶望的と見てもいい。その状況にエリノア・ライスター(gb8926)は憤りを覚え舌打ち、緑間 徹(gb7712)は表面上は静かに、だが、心中では熱く怒りの炎を燃やしていた。
 天羽 圭吾(gc0683)はどこか冷めた表情で彼らのやりとりを聞いていた。
 圭吾は今までハーモニウムと関わったことは無かったが、関連する過去の報告書は読んでいる。
(敵の甘さをワザワザ指摘してくれるなんて、親切なことだね。放っておけばいいものを)
 大人びた考えを持っているように見えて、内面は幼さを残しているのか。
 報告書の中でQが見せた妙な『人間くささ』に圭吾は僅かな興味を覚え、今回の依頼を引き受けていた。
 ハーモニウムに対して彼は、外見が子供だから可哀想、という考えは持っていなかった。バグアが来る以前から、世界の紛争地域には少なからず少年兵が存在しており、それからすれば取り立てて同情することもないように思われたからだ。




 そして現在。現着した傭兵達の目前にあるのは潰された鉄条網、歪んだコンテナ、ところどころに血痕の残る氷床。
「あちゃ‥こりゃ遅かったっぽいか」
 現場を目にしたファタが飄々さを装って口にする。
 その先にいるのは奇抜な格好の少年。源次が眦を吊り上げる。
「見た事ある、と言うか忘れられるような奴じゃなかったな‥いつぞやのキメラボーイじゃないか」
「あの派手な改造制服はQと‥もう一人は誰だ?」
 タクティカルゴーグルで周囲を捜査するアレックスはQとキメラの他、見知らぬ強化人間の姿に眉を顰めた。
「ハーモニウム、なのか?」
「恐らくな‥だがやる事は一つ、撃退だ」
 傭兵達は頷き、戦端を開くべく駆けだした。


 アレックスが【OR】AU−KV用オフロードタイヤに履き替えたAU−KVを疾走させQに迫る。
「よォ、また会ったな!」
「ドコのドチラ様ぁ?」
 Qは半機械の虎キメラを走らせ距離を置く。それを逃さじとアレックスは装輪走行、さらには竜の翼を用いて喰らいついて行く。
 氷床の上を蛇行しつつ、時折飛んでくる銃撃を横方向に動いて身をかわし、アラスカ454で応戦する。

「set、avenger」
 覚醒と同時にこうきは【OR】魔鎧「アヴェンジャー」を装着。仲間の防御を助けるため周囲に注意を配り、重厚な構えを見せた。
 こうきの援護を受け、障害物を迂回しながら源治が覚醒、抜刀する。コンテナの影に身を寄せると周辺の様子を注意深く伺い、自分が担当する敵、J・Bの位置を確認。
「さって。ヤンチャはそこまでッスよ。ちょっとオッチャンとチャンバラやってってくれや」
 接近戦を仕掛ける為に間合いを測る。
 こうきも徐々に距離を詰めていた。
「へぇ、あんた良い武器持ってるなぁ、趣味が良いじゃねぇか」
 J・Bの斧に目を留め、同じく斧を得物とするこうきが素で感心するように口に出したが、返答は斧による一撃。
 竜斬斧で受け止めるもののその一撃は重く、こうきの中にあった「戦わないで済めば」という思いを打ち砕くには十分だった。
「俺だって‥傭兵だからな、護りたい人がいるのは‥俺もなんだよ!」
 こうきに組み付こうとするJ・Bを引き離すため、源治は太刀を中段に大きく振るう。切っ先こそ戦斧に防がれたが、癖や隙を見極めようとその様を具に観察していた。


「私等でヘビの相手をするよ!」
 ファタが鎌首をもたげる大蛇に銃口を向ける。
「しかし、何だこのヘビ‥ツチノコか? 何か嫌な予感がズシビシだ。童話の狼さん系の話」
「腹がデケェ‥ウチの兵隊喰いやがったか!」
 エリノアの激しい怒りを伴う叫びにファタはやっぱりね、と肩を竦める。
「まだ消化しきってねぇようだが‥。ファタ、寿のオッサン援護しろ、頭をツブす!」
「応!」
「とりあえず‥さっさとくたばれ!」
 機械剣βを持つ腕に青白い火花を纏わせ、エリノアが走る。
 それに合わせて強力に増幅された電磁波と銃撃が放たれる。
「キメラごときに人間様が喰われてたまるかよ!代わりにこいつでも喰ってろッ!」
 弾丸の雨に打たれ、電磁波に表面を焼き焦がされ、苦悶に身を捩る大蛇へと機械剣βの切っ先が届こうとしたその瞬間、横合いから襲ってきたもう一匹の大蛇の尾にエリノアの身体がはじき飛ばされた。
 倒れたエリノアに大蛇の顎が迫るが、彼女は腕に火花を纏わせ、渾身の力を籠めて殴りつけ窮地を脱する。
「動くな! ぶっ潰すぞキメラァ!」
 制圧射撃で大蛇の足止めを行おうとしたファタだったが、その射線上に突如割り込んできたQとそれを追うアレックスの姿に銃口を下げる。
 その間に大蛇は巨体を意外なほど素早く動かし、地面を薙ぎ払うように長い尾を振るった。
 尾は体勢を立て直したばかりのエリノア、もう一人の強化人間、J・Bを追ってきていたこうきと源治にぶつけられる。

 10mの巨体を持つ蛇が二体に強化人間が二人、そして上空にはコウモリ型のキメラ。
 現場は乱戦の様相を呈していた。
 傭兵達は誰がどれを担当するかを事前に決めてはいたが、それをお構い無しに敵は縦横無尽に動く。

 複数対複数。そう広くはない場所で同時に戦闘が行われているのだ。その状況を利用しない手はない。
 現に、上空を飛ぶコウモリキメラからの情報と目視を合わせて、Qはそうなるよう『誘導』していた。

 そんな中で、上空を飛ぶコウモリに目をつけた徹と圭吾。
「あのキメラ‥戦場の目となっている可能性はないだろうか?」
「恐らくな」
 【OR】赤外線搭載ナイトビジョンでキメラの動きを観察していた徹の呟きに圭吾は頷く。
「そうなれば‥行くぞアキレウス、お前の出番だ」
 徹は愛刀に語りかけ、抜き払い、上空の怪異へと狙いを定める。
「見られているのは、気分のいいものではないのだよ」
 上空にいる小さなキメラ姿、それが重く垂れ込める雲の陰にまぎれて消えてしまう前に速攻で撃ち落そうと、二人は攻撃を重ねるが、なかなか当たらない。
 コウモリは反響定位を行うことで知られている。キメラはこの習性が強化されており、自身に迫る障害物、弾丸を回避する能力に長けていた。
 圭吾は戦法を変え、そのものを狙うのではなく、飛行位置を予測しての射撃に切り替え、徹はエアスマッシュ、音波で検知できない衝撃波を用いて攻撃を行った。


 圭吾と徹の手によりコウモリキメラが撃ち落とされ、上空からの情報が得られなくなったQとJ・Bはそれぞれの方向にいったん引き下がる。
 流れを掴めなくなった乱戦の中に踏みとどまる意味はない。
 傭兵達に気取られないよう、Qは専用の通信機でJ・Bに呼びかける。

『――…』

 密かな会話は弾丸にて打ち切られた。Qの目前にはアレックス、J・Bの前には源治とこうき。
「追いかけっこはもう終わりか? 先輩から伝言、聞いたぜ。俺は別に不殺が尊いなんざ、思っちゃいねぇ。ただ、トモダチに死んで欲しくなかった、って俺のエゴだ。アイツらに出会ってその生に関わっちまった以上、俺はアイツらの為に何が出来るか‥‥それに命だって懸けるさ」
「――みんな自分勝手だね、ホント」
 Qは笑った。笑うしかなかった。


 流れが変わり、射線が開けたと見るや、ファタは大口径ガトリング砲を構えなおし大蛇目掛けて弾丸をばらまく。
「時間は掛けられん、チト飛ばすぞ!」
 傷ついた仲間へと錬成治療を行っていた源次も変化を悟り、超機械ζを手にして攻撃に移る。
 合流した徹が接近戦を行っているエリノアを援護、大蛇の行動パターンと間合いを把握するや否や迅雷で大蛇の懐に飛び込み、一撃を加える。
 こうして傭兵達の連携により、頭部を破壊された二体の大蛇が氷床に崩れ落ち、活動を停止した。
 エリノアは飲み込まれたであろう人間を『救出』しようと大蛇の腹を割く。案の定、人の形をしたモノが出てきたが、外気に触れた瞬間それらはグズグズに崩れ、溶け落ち、流れ出した。
 もう一体の大蛇の腹を割こうとするエリノアを源次が制止する。
「もう遅い、生存者は」
「クソッ、遅くなんかねぇ! たとえ駄目でも、人らしく葬ってやるんだよッ! 私は最後まで諦めねぇ!」
「まだ倒すべき敵がいる!」
 激昂するエリノアを一喝する源次。
 キメラが倒れても未だ強化人間が二人残っている。
 死者を弔おうとするエリノアの思いを源次は痛いほどよく理解していたが、敵が残っている今、その行動はミイラ取りがミイラになりかねない。
 いつになく険しい表情の源次を見上げ、エリノアは頷いた。憤りと悔しさを感じているのは己だけではないのだ。
「行くぞ、キメラボーイにはキツいお仕置きが必要だ」
「‥ああ、とっておきを、見舞ってやらねぇとな」
 顔を上げたその先に諸悪の根源がいた。


「あの子達はもう寿命だ。何をやったって無駄。ボクの技術で助けたいなら、まず生きた健康体の人間の子供を二人用意するんだね。それに移植すれば生き永らえる可能性もあるョ」
 でも出来るワケないよねェ、とアレックスを嘲笑するQ。
「助ける、救うだなんてそんなの結局は何かの犠牲の上に成り立つ綺麗事だ。あ、もしかして忘れちゃってたァ?」
「テメェ――」
 命を弄ぶようなQの言にアレックスはエクスプロードをきつく握り締め低く唸る。身から立ち上る輝く炎のようなオーラがいっそう激しく燃え盛った。
「おとぎ話も幕を降ろす時間だぜ、Qッ! クソッタレが、大人しく墓穴に収まりやがれ!」
 超機械を振りかざしたエリノアがQに迫る。
「昔から人は不老不死に憧れてきたのかもしれねぇ。でもよ、不老不死になった人間が幸福になるフェアリーテールはねぇんだ。死への畏敬の念と恐怖がねぇ奴は結局、死んでるのと同じだからよ!」
「さっすが、能力者なんて化け物は言うことが違うナァ! 並みの人類とはかけ離れた力を得たもんだから、自分達だけは生き残れるって、そーゆー自信があるから言えることだよネ!」
「ダストトゥダスト、御託はいらない。何も言えずに孤老の如く死ね!」
 一段と挑発的な態度を砕かんと、ファタが銃撃を撃ち込む。
「どうした道化ェ! 道化を気取るなら、最後まで演じろ! 道化の最後は、大玉からこけて笑いを取ることだろうがぁ!」
「アッハ! 君達はそれを生きて笑えるのかナァ!」
 狂気を振りまきながら大仰に身をそらせて笑うQ。

 只一人、距離を保ったまま援護を続けている圭吾にはその裏に隠れた必死さが見えていた。
 派手に立ち回り、挑発を続けることで敵の目を自分に引きつけようとしている、そんな必死さが。
(策でも用意しているのか? それとも――)
 圭吾はもう一人の強化人間を一瞥する。

 J・Bはそう遠く離れてはいない場所で源治と切り結んでいる。こうきが援護に下がったとはいえ、2対1。J・Bが劣勢であるのは明らかだった。
 そこへと源次が合流。
「おっし、役目引き継ぐぞ」
「助かるっす!」
 源次は傷を負っていたこうきを治療し、源治に「とっておきの」練成超強化を施す。
「一丁やるか! 仕掛けるか、兄弟ィ!」
「頼りにしてるッスよ!」
 虹色の光芒が源治を包み込み、更なる力を与える。
 先ほどまでの戦闘でJ・Bの癖をほぼ見抜いていた源治は、残像を曳きながら乱舞のように繰り出す剣閃を囮として使い、それを回避しようと癖の通りに動いたJ・Bめがけて大きく一歩を踏み込む。
「これが俺の‥全力全開の斬撃ッス!!」
 獅子を司る太刀は眩く輝きながら、FFと装甲を突き破り深々と斬り込んで行く。
 J・Bの左腕は肩の付け根から千切れるように落ち、勢いの衰えない刃が肺にまで達した。

 氷原に響く悲鳴、絶叫。

 あまりに大きなダメージを負ったパワードスーツが役目を放棄し、火花を散らしながら剥がれ落ちて行く。
 源治の目の前に露となったのは、制服を着た年端の行かない少女の姿だった。少女は左腕、半身を切り落とされ、力なく膝をつき、蹲る。かろうじて動いているであろう心臓の鼓動にあわせて、切断面から断続的に鮮血が噴出す。

 同刻、傭兵達の注意を引き付けていたQは手にしていた拳銃を上へと放り投げる。
 咄嗟にそれを目で追ってしまった傭兵達は、次の瞬間におこった閃光と爆音の影響をまともに受けてしまった。

 その隙に半機械の虎キメラが源治を押しのけ飛び込んできた。背に乗るQはJ・Bを拾い上げて虎を走らせる。
 いち早く体勢を立て直し、虎を追おうとした源次、こうきの目の前に新たな閃光弾が落ち、炸裂した。

 比較的影響の少なかった圭吾が、遠ざかって行く姿に狙い済ました一撃を加える。
 着弾。虎は姿勢を崩したものの、その走りをとめない。

「っ、逃がすか!」
 アレックスが装輪走行で後を追おうとするが、背後からの破裂音に足を止める。
 振り返り見れば、倒れた大蛇の腹から「溶けかけた人のような何か」が這いずり出てきていた。
「‥‥同情はしない。人は平等じゃないから、ね。でも、仇ぐらいはとってやるさ!」
「‥仇は、取る」
 人を喰らい、溶かし、キメラとする悪魔的な所業を目にした傭兵達は、全身の血が逆流するかのような激しい怒りを胸に、武器を手に取った。