●リプレイ本文
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「悪夢だ」
「ホント、厭になるくらいにイイお天気です。明日も『晴れ』でしょうか?」
「えっと‥なぜ裸‥? すごく謎だけど‥戦闘が長引くと困った事になるのだけは‥何となく分かる‥。早期決着で行きたいな‥」
現場に到着したベーオウルフ(
ga3640)は正直な感想を口にし、森里・氷雨(
ga8490)は鳩のようにどこか宙を見ながら現実逃避、幡多野 克(
ga0444)は戸惑いつつ『はやくかえりたい』と暗に呟いた。
「‥いやマテ、ほんとマテ。応援要請受けて現場に来てみれば、アレは何だ? 俺には全裸の男3人が戯れているように見えるんだが‥何だアレは地獄か此処は、おい」
信貴乃 阿朱(
gc3015)男性陣の心情を代弁するかのように声を上げる。
確かにソドムとゴモラ的な光景ではあるが、私どもにとっては楽園である。
「クソッ、こんなキメラ作るのは奴だな‥間違いなくQの野郎だ。あんの野郎、こんな気持ち悪いもん作りやがって、何時かどついたる」
主にグリーンランドで珍妙なキメラを制作している強化人間を名指しで非難する阿朱。恐らくは濡れ衣だと思われるが。
物事を否定するには対象をよく理解しなくてはならない。そのことを常に念頭に置いているというベーオウルフですら
「‥‥今回は理解したくないな」
と、盛大に匙を投げた。
「はい、バグアの魔の手から地球を護る為に粉骨砕身の覚悟で来ましたよ! 決して、金髪ショタの艶めかしい肢体目当てだとか男性陣が陵辱されて大変な姿を見たいとかではないですよ! ないですよ!」
げんなりとしている男性陣を余所に、いつになく漲っている様子の最上 空(
gb3976)が自分の欲望に忠実な前フリを行う。
「前衛は空に任せて下さい! 大丈夫です! 既に3体の受け攻めは」
心強いことに3体の役割分担は彼女の中でばっちりと決まっているようだった。さすがは同志。
「さて、良子、あの3体どう見ますか? 空的にはモロ出しと言うのは、露骨過ぎてわびさびが無い感じですが――コレで半ズボンを履いていれば完璧なんですがね、微妙に残念です」
ショタ好きのこだわりは半端無い。こやつめ、ハハハ。
「確かに見苦しいですね。金髪碧眼にするなら全裸にするよりこう、上セーラーで下半ズボン、無論靴下は白で‥」
空の論に毒島 風海(
gc4644)が深々と頷き、理想的なショタ像を揚げる。
二人は目線を交わすと深く頷き、熱く堅い握手を交わした。
人生において、同好の志との出会いは大変貴重なものである。
「キメラじゃ無かったら、もう少し見ていたいけど‥‥それにしても美少年同士のBLっていいわね、そう思わない?」
ほう、悩ましげなため息を付く南 星華(
gc4044) BLはファンタジー。故に幾多の乙女を虜にするものなのだ。
このように、ほぼ全裸美少年キメラの姿を目の当たりにして反応の分かれる男女であったが、桃代 龍牙(
gc4290)はフェイスマスクの下で別の理由でウンザリといった顔をしていた。
「暑いな‥日焼け対策とはいえフェイスマスクはやりすぎたか‥風海さんも日焼け対策?」
「‥いえ、これはただの趣味です。一番可愛い奴を被ってきたんですけど‥」
完全防備の全面マスクという風海の格好は実に個性的である。傭兵というのは得てして強烈な個性の持ち主が多いようだ。
それにしても龍牙とは不思議と初対面という気がしない。龍牙の方も何かを察したようで、一度身を震わせると警戒するかのように周囲を見回した。
彼の方は既視感というよりは危機感を覚えた様子である。
「とりあえずこのキメラは有害指定なんで潰すか」
「ああ、キメラだし。美少年を愛でる趣味はないんでな」
阿朱の言葉に龍牙は深々と頷く。
普通に子供好きであるという彼は、美少年の姿をとったキメラに嫌悪感を持ったようだった。
「‥いや、それよりも女性陣の一部から腐思議な熱気が出てる気がするんだが‥俺達はこの仲間(の筈)に背中を預けて本当に良いのか?」
その辺は泥船に乗ったつもりで安心して欲しいものだ。
「‥大丈夫? うん、マズイことにならないうちに決着をつけようか」
そんな中、克がさり気なく庇うように私の斜め前に立つ。
やだイケメン。路傍の石が如き私をこんな風に気遣ってくれるとは。彼が三次元でさえなければ間違いなく「俺の嫁」認定するところなのに。
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さて、肝心の戦闘だが、前衛が敵に切り込んで守備体制を崩し、包囲した後に総攻撃を加えるという二段攻勢を行うようだ。
「白磁の肌だの華奢な肢体だの非現実的な‥故に、非実在美少年と割り切ればどうという事もありません!」
どうということもない、と自分に言い聞かせながら氷雨が淡く燐光を放つ蛍火を手にキメラへと向かって行く。
「‥てか、股間の蔓ってなぁ剛毛を偽装してるだけだろうが! 気取った剛毛を白板に。略してゴウモウパイ作戦でいきます!」
嫌がりつつもノリノリっぽいのはなぜだろうか。ついでに麻雀牌の表面を指先で削り取りそうな気がした。
戦術的に敵の行動を見極めねば、という建前を口にしながら風海が後方に下がる。安全圏から諸々を堪能したいようである。
「ええ、敵の行動や動向を窺う為に相手を観察するのは重要ですからね! やましい気持ちとか微塵も無いですから!」
同じような建前でもって空は最前線へと向かう。応戦しながら敵の様子を隅々まで心ゆくまで丹念にねっちりみっちりしっかりと撫で回すように、心のメモリーに焼き付けようというのだろう。
「あの3体‥‥やはりショタ顔のキメラが実は攻めで鬼畜な感じでしょうか!?」
何かもう突き抜けて実に清々しい。
「‥‥微幼女は元気だな」
そのあまりに清々しい姿に龍牙がどこか乾いた笑いを浮かべた。
キメラは三人一組、二人がいちゃついている間に一人が攻撃を仕掛けるという傍目には意味不明なローテーションを組んでいるのだが、物理攻撃と精神攻撃を同時に行っており、そこそこ優秀な体勢であろう。
「‥これが噂のトロイカ体制ですか。想像していたのと違いますね」
キメラを観察していた風海が首を傾げる。とうやら少女は覚えたての言葉が使いたかったようだ。
「あっ、これ水あめとか出ないんですか?」
流石にそういうサービスは無いらしい。
位置取りを見極めた龍牙の正確無比な突入支援を受け、前衛担当の傭兵達がキメラに迫る。
キメラは股間の花束に手を突っ込むと大量の棘つき蔦を引きずり出して振り回す。
幅広く、複数、多方向に繰り出される蔦。
しつこく何度も、波状で繰り出される情熱的な求愛行動もとい、蔦攻撃。
「っだー! 幾ら綺麗でも男は無理だっつーのこんちくしょう!」
キメラから伸ばされる蔦を阿朱が血色の大剣で斬り払う。
ほんの一瞬だけ無防備となった彼目掛けて蔦が伸びる。それを氷雨が蛍火で斬り捨て、間髪いれずにキメラへと接近。
「数式の見当もつかない厭ンな三位一体なぞ、瓦解させてやりますとも!」
ベーオウルフもほぼ同時、常人には瞬間移動したかに見えるほどの速度でもって、蔦を回避しながらキメラへと肉薄、うっかり押し倒すような格好になるような勢いで、他のキメラから引き離した。
アスファルトの上に引きずり倒されるキメラ。
即座に立ち上がり、仲間に合流しようとしたが、星華のエアスマッシュがそれを阻む。
衝撃波に蹈鞴を踏んだキメラへと即接近した彼女は、禍々しさの秘められた大太刀、妖刀「天魔」で刹那の一撃をたたき込んだ。
「あぁ‥‥美少年を斬ってると、何か違う感覚に目覚めそうだわ」
星華がどこかうっとりとした妖美な口調で物騒なことを呟く。
「一体ぐらい持ち帰って、部屋で飼いたいわね」
女王様ですねわかります。
不穏な空気が濃密になる中、克は取り乱すことなく涼やかに、分断され孤立したキメラに狙いを定める。
キメラは悪あがきを見せ、追い払おうと蔦を振り回すが、克は軽やかに難無くそれを回避し月詠の柄を握り直す。
「この太刀先をかわせるか‥!?」
抜刀。
流れるような剣舞の前にキメラは為す術もなく。斬り捨てられ、大量の薔薇の花びらをまき散らして姿を消した。
傭兵達の猛攻、さらには仲間を倒され、不利を悟ったキメラは魅惑の精神攻撃を男性陣に向けて開始する。
あまりに魅惑過ぎて全年齢向けサイトでは詳細をお伝えできないのが残念でならない。
「くそっ、此処でこんなのに屈したら俺の人生真っ暗闇だ! 俺はな俺はな、おっぱいの無い奴になんか興味ないんだよ! 俺を魅了したかったらおっぱい持ってこい! 巨乳、美乳、貧乳、虚乳、オンパレードで持ってこい! 俺のおっぱいへの愛の前にはそんな偽りの愛(精神攻撃)なんて効くものかよ!」
戦闘前に何らかの予感を抱いていた阿朱は、自らの幸運を強化しており、気合いとおっぱいへの執念で精神攻撃に耐える。
っていうか女子がいる前でおっぱい連呼とか。世が世ならセクハラで訴えられるであろう。
「いつも心に男性向け創作! どうせ非実在美少年の股間なんざ、801穴とライトセーバーで出来てんだ! 腐の掛算は全て、男の娘物件に脳内上書変換する桃色回路を搭載! 悪夢を妄想に、苦痛を快感に。これが俺の対精神攻撃防御です!」
ヤケクソ気味に氷雨が無表情であるはずの顔を引きつらせ胸を張って耐えている。
最近のBLものはライトセーバーというよりモロにメンズブレードだったりするのだが。
さておき。
なんだか低次元の精神抵抗を行い、耐えきった二人。
だが、彼ら以外の男性陣はまとめて混乱してしまっていた。
それほどに『魅惑の』攻撃であったのだ。
克が無表情で眼鏡をパージ。覚醒中のため、精神が高揚し強気になっている彼はその場で強引攻めにメタモルフォーゼ。キメラAに太刀の切っ先を突きつけ、服従か死か、愛の奴隷になるかを迫りだす。
その横では、普段の無口さは何処へやら、ベーオウルフが饒舌にキメラBに甘い言葉を囁きかけ、押すと引く、緩急を付けて攻略を開始。
「うわあああ、落ち着け俺、そんな趣味違うぅ」
龍牙は絶対に違うと叫びながら諸手を広げ、その大きな懐でキメラを抱きすくめようと突進していった。
男性陣が魅了され、混乱する場を収めようと風海が前衛へと上がってくる。
「さあ、目を覚まして下さい!」
と、金的目掛けて力一杯に繰り出された蹴りを紙一重で回避した氷雨。
「ちょ、何すんですか!? 絶対狙っちゃ駄目なところ狙ったでしょう今!」
「いえっ、あくまで事故です。故意ではありまえせん」
超絶ドジという属性を発動させておきながら風海はキリッとした顔(マスクの下であるが)をして氷雨を見上げた。
「そもそも俺、魅了されてませんよ!」
「混乱した場って何が起こるかわからないものですよね」
風海がしれっと言うとおり、現場は今、様々に入り乱れている。
「いっそ、熱いキスでもしてみようかしら」
星華が楽しげに笑みを深める。美女のキスとは効果覿面だろうと思われるが、正直勿体ない気がした。
暫くこの混沌ぶりを生温かく見つめていた空だったが、だんたんと埒があかなくなってきたことを察して閃光手榴弾を手に取る。
「閃光手榴弾を投げますよ!」
程なくして炸裂する閃光、爆音。
強烈な光と音に晒され、我に返った三人は即座にキメラから飛び退き、視線を誰とも合わせることなく、地面、あるいは空を見て無言で語っていた。
『全て無かったことにしてください』と。
全員がそれを察し、了承したのは言うまでもない。
「さ、さぁ、テメェら全員「大百足」の錆にしてやるぜ。覚悟しろや!」
阿朱がキメラを指さし、威勢の良い啖呵を切る。
「では頑張って下さい」
続いて風海も何事も無かったかのように練成強化を行う。
ほんのちょっとなま暖かい優しさに包まれながら、克、ベーオウルフ、龍牙はただただ無言で武器を構え、殲滅対象を見据えた。
攻撃態勢を整えた傭兵達の前で、2体のキメラは互いの蔦を絡ませあって抱き合い、情熱的にタンゴを踊るような動きを見せて挑発する。
2体分が絡み合い、パワーアップした蔦攻撃に巻き込まれ氷雨が裸単騎となるが、彼は負けじと蔦を掴みキメラの動きを封じる。
身を挺してオヒキとなってくれたようだ。ならば私も応えねばなるまい。
「愛と勇気と友情のぉ、ライジングッ・サン!!」
真上に振りかぶった名刀・国士無双をキメラに思い切り叩き付ける。
「奮えるぞハート! モエ尽きるほどヒート! そこだぁっ!!」
畳みかけるように風海が超機械「ビスクドール」を振りかざした。増幅された強力な電磁波がその場に発生し、薔薇ごとキメラを焦がした。
龍牙は長弓「桜姫」の美しい桜の装飾が施された葡萄色の弓身を、唸るようにしならせながら矢を放つ。渺々と音を立てて空を切り裂いた矢は蔦という蔦を穿ち、貫き、機能を停止させていった。
蔦の停止を受け、ベーオウルフは大きく踏み込むと、6本の剣を合体させて大剣状態にした【OR】屠龍剣ユニオンブレイド・ツヴァイを凄まじい速度で撃ち込み、あまりの威力に弾き飛ばされたキメラ目がけて、克が淡々とではあったが恐るべき威力の乗った月詠を振るい、一刀のもとに斬り捨てた。
かくして。
傭兵達の前にキメラは敢え無く散り、薔薇の花びらだけを残して消え去った。
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直射日光を浴びて陽炎の揺らぐ直線道路。
脅威が排除され、日常へと戻ろうとする景色の中。
「日本の諺にあります。『全裸には萌えがない。服は脱がしても靴下脱がすな』と。貴方がたの敗因はただ一つ、‥萌えと言う情熱が足りなかった」
地面に残った花びらを前に風海が勝ち誇る。
「‥どうして‥こうなったんだろう‥? これは夢‥きっと夢‥」
パージした眼鏡を拾ってハンケチで拭きながら、克は遙か彼方をじっと見ていた。
「戦って判った事は‥‥この世には理解してはいけない物があると言う事だ‥‥」
ベーオウルフはただでさえ重い口をさらに重くして、ようやくの一言を口に出す。
「ああ‥‥ひでぇ戦いだった」
「全くだ‥‥」
うんざりだと黄昏ながら呟く阿朱に龍牙が同意を示し顔をしかめた。恒例のロシア風挨拶をする気にもならないようだ。
「まぁなんですか。お風呂に入って流してしまいましょうよ」
「そうですね、命の洗濯です!」
「良いスパがあるといいわね」
風海の提案に賛同する空と星華。
意気消沈する男性陣とは対照的に、女性陣は元気だった。私も含め実に元気だった。
猛暑の中、素晴らしいご褒美をありがとう。
君たちの勇姿はしかと脳内メモリーに保存した!