タイトル:あなたの足下に私の夢をマスター:敦賀イコ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/14 08:51

●オープニング本文


 ああ、可哀想なノア。
 あの子はもう生きられない。バグアの技術がなければとうてい生きて行けない。
 捕らえられて死を待つだけだなんて、ああ、可哀想なノア。

 Agの話では、ノアはどこかに移送されたそうだけど、ノアがボクらを裏切るなんて有り得ない。
 きっと化け物(能力者)達に脅されたんだ。言うことを聞かなければボクら(ハーモニウム)を皆殺しにするぞって。

 ああ、ノア。
 君とAgはボクの希望だった。
 キメラでありながら言葉を理解し、自立した意志を持ち、感情を持つ君たちこそ、ボクの夢だった。



「それを平気で奪うんだから酷いよねェ。せめてそっと踏んで欲しいんだけど、ベイビィちゃん達には無理かナァ」
 流れ出る血から湯気の立ち上る新鮮な死体をキメラの群の中に投げ込んでQは皮肉げに笑った。
 一週間ほど餌を与えられていなかったキメラ達は、ようやくありついた餌を貪るように食い荒らす。
「人の肉の味は覚えたかナ?妖精(フェアリィ)ちゃん達ィ」
 最後の一体がいくつかの骨片だけになったのを見届け、Qが手を叩く。
「さァ、行くよ。いつものイヤガラセに」
 腹部が不自然に膨れている三匹の巨大蛇はいっせいに首を上げ、黄色く濁った瞳を主人であるQに向けた。


 グリーンランドに点在する駐屯地の一つがキメラの襲撃を受けた。
 醜悪で凶暴なキメラを指示するのは、虎のような四つ足の機械型キメラに乗り、真っ赤な改造制服を着た金髪の少年。
 彼はいつものようにキメラをけしかけ、能力者が来るのを待っている。

●参加者一覧

虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
トリストラム(gb0815
27歳・♂・ER
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
刻環 久遠(gb4307
14歳・♀・FC
ラグナ=カルネージ(gb6706
18歳・♂・DG
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
信貴乃 阿朱(gc3015
19歳・♂・EP

●リプレイ本文


 高速移動艇から下り、戦域へと徐々に近づいて行く傭兵達。
「馬鹿でかい化け物蛇か、笑えないキメラだぜ‥」
 氷床の上で巨体をくねらせる大蛇を目にした虎牙 こうき(ga8763)が嫌悪感も露わに顔を顰めた。
 ラグナ=カルネージ(gb6706)が憂慮していた基地への襲撃は行われておらず、周辺にこれといった被害は出ていない。そのことに安堵し、これよりキメラとの戦闘を開始する旨を無線で報せる。
「ぬぅ‥Qが現れたと聞いて飛んで来たもの‥様子がおかしいねぃ。HENTAIキメラ‥っぽくはない、か。‥まあ、みるからに怪しいのは怪しいのだが」
 ゼンラー(gb8572)はしきりに首を傾げていた。
 グリーンランドに度々出現する珍妙なキメラと、その制作者であるQ(gz0284)という強化人間と面識がある彼は、これまでとはどこか違った様子に強い違和感を感じ取っていたのだ。
「んーむ。なんだか、こんもりしているねぃ‥‥‥ハッ!まさかこれは‥‥!TSUTINOKO…なのか‥‥?!」
 そして腹部が不自然に膨れ上がっている大蛇の姿に、日本のUMAを重ね合わせ声を上げる。
「よ、米本さん!つ、つつ、つちのこじゃないかぃ!?」
「はぁ‥ツチノコ、ですかなぁ‥」
 急に話を振られた米本 剛(gb0843)は曖昧に応えるが、それを聞いていた信貴乃 阿朱(gc3015)がぽんと手を打つ。
「スゲーよくわかる。ありゃどっかで見たシルエットだと思ったら、そーだツチノコだ」
 納得したように阿朱は何度も頷く。
「こんなトコでツチノコ作るとか、Qとか云う強化人間は変な奴みたいだな。 ま、何にせよ、妹達や弟達の期待に答える為にもバグアの奴らの好きにはさせんぜ」
 今回が傭兵として初の仕事となる阿朱の士気は高い。
 俺に出来る事をやっていくぜ、と、得物である隼風を握り直し大蛇を見据える。

 程なくして、大蛇と傭兵達との戦端が開かれる。
 大蛇は三体。傭兵達は三班に分かれてそれに当たることを事前に決めていた。



「さて、始めましょうか。トリス、フォローの方、お任せ致しましたよ?」
「了解です、アル。こちらも久々なので、気を抜いて自分の弾に当たらないで下さいよ?」
 レイヴァー(gb0805)とトリストラム(gb0815)の義兄弟コンビが早々に動く。
 攻撃と攪乱と、お互いの役割を決め分担しあう二人。

 まずは、視界を奪おうとトリストラムは小銃「Gloria」で大蛇の目を狙い、また、蛇が持つという赤外線感知器官を欺く為に、スブロフの入った酒瓶を投げつけ、ライターを投げ込み火を付ける。
 一瞬ではあるが炎が燃え広がる。
「これで、自分達の場所は分からないでしょう?」
 思わぬ熱源に気を取られた大蛇の隙をついてレイヴァーが最接近、牙と尾を避け懐に潜り込む。その俊敏な動きに対応できず、大蛇の動きが僅かだが止った。その間に巨体を一瞬にて駆け登り、眼球目がけて瞬即撃で苦無を突き刺す。
 大蛇は苦痛に身を捩り滅茶苦茶に頭を振る。暴れ回る大蛇の頭部を蹴りつけ、その勢いを利用して距離を置くレイヴァー。
 着地を狙って大蛇が大口を開けて迫るが、トリストラムのマジシャンズロッドの電磁波が、牙と滴る毒とを拒む。
 それならば、と横に振るわれる長い尾を、トリストラムは天槍「ガブリエル」で受け止め、レイヴァーは咄嗟に伏せて回避する。
「あの膨れた腹、人間を飲み込んで溶かし、残骸でも吐いてくるのでしょうか?」
「気にはなりますが、まずは撃破を優先しましょう」
 あからさまに不自然な大蛇の腹に、何かあるのでは、と訝しむトリストラムに、勘や運を頼りに大蛇の様子を注視していたレイヴァーが応え、そして苦無を投げつけ牽制を行う。
 誘われて動いた大蛇の頭が苦無を弾き飛ばしながら迫る。それをレイヴァーは難なく回避、大蛇の牙は空を切って氷床を穿ち砕いた。
「破ッ!」
 氷床に落ち、無防備となった大蛇の脳天目がけ、天槍「ガブリエル」が突き入れられる。
 銀の槍に貫かれた大蛇は大きく体を波打たせ、その腹部をボコボコと動かしていたが、やがて力つきぴくりとも動かなくなった。


「―Atziluth―!」
 詠唱と共に刻環 久遠(gb4307)が覚醒。
 こうきは戦いが少しでも短くすむように、と仲間に練成強化を行う。
 淡い光を宿したグラファイトソードと【OR】天魔無影の太刀とを手に、ラグナと久遠が大蛇の眼前へと踊りでる。
「てめーの相手は俺達だこの蛇野郎ォ! ―一気に行くぜ!」
 ラグナの合図を受けた久遠は、一瞬で大蛇の側面に回り込み、刹那の抜刀、更には遠心力を利用した一撃を叩き込む。
「カーネイジブレイド!くたばりやがれェ!」
 それと同時に、ラグナも久遠とは反対側に回り込んでおり、炎の彫が施された鉄黒色の大剣を力任せに突き立て、斬り上げる。
「あははっ、素敵よおにーさんっ!」
 見事に決まった挟撃に久遠は狂笑を浮かべ、更なる追撃をと【OR】天魔無影の太刀を構え直し更に踏み込む。
 ヒット&アウェイを心掛けていたラグナは一旦距離を置いていたが、大した反撃もなさそうな大蛇に止めを刺すべく再接近。
 だが。
「――おい!離れろ!」
 大蛇の同好を注視していたこうきの警告と同時に大蛇の膨らんだ腹が爆ぜた。
 飛び散ったキメラの破片と緑色の体液をまともに浴びる二人。
「何――」
 毒々しい緑色に染められた中で蠢いていたのは『かつては人だった何か』であった。
 転がる肉塊から出鱈目に数の合わない手足が生え、半分だけ飛び出た顔の眼窩からは絶えず赤黒い液体が垂れ流されている。また、違う箇所から生えた顔の開きっぱなしの口からは意味を伴わない声が呪詛のように漏れていた。
「‥‥全く、あの子が逃避したくなる気持ちも判る」
 邪悪な所業を目にした久遠が殺意を露わに吐き捨て、ラグナは無言で大剣を構える。
 こうきは「せめて一撃で」という想いを込めて練成超強化をラグナに施した。
 久遠とラグナの連携、そしてこうきの超機械「扇嵐」が巻き起こした竜巻によって、『かつては人だった何か』はその活動を停止させた。


「全身鉄壁と化し‥当たらせて頂きます!」
 前衛として剛が突出、後ろへの敵の突破は絶対に阻止するといった不退転の心構えで大蛇と対峙する。
「まだ攻撃とかは上手くいかないが、守りに関しては自信があるぜ」
 戦闘経験の多い剛を補佐する形で、阿朱がキャバルリー(戦場に立つ不破の盾)としての自負を見せる。
 ゼンラーは後衛として練成強化を行いながら、大蛇とQの動向に気を配っていた。
「酸か、砲か、自爆か‥まあ、どれにせよ、警戒はしてもらうに越した事は無いしねぃ」
 妖刀「天魔」を両手に構えた剛は、持ち前の重装甲を活かして被攻撃をものともせず前進。この動きを警戒し鎌首をもたげた大蛇の懐にややも強引に潜り込み、自身の得意な間合に持ち込むと抜きはなった妖刀「天魔」を存分に振るう。
「吹き荒べ‥剛双刀『嵐』!」
 名の如く、嵐のような斬撃が大蛇の鱗を容易く切り裂きその肉を断つ。
「続くぜ!」
 剛が作り出した大蛇の隙を目がけて、力を溜めていた阿朱の隼風が突き入れられる。
 体勢を崩した大蛇へと止めを刺すべく、剛は隠し持っていた試作型機械刀に手を添えるが、距離を置いて大蛇の様子を注視していたゼンラーからの警告に踏みとどまる。咄嗟に防御陣形を敷く阿朱。
 直後、大蛇は狂ったかのようにのたうち回り、やがてその腹を爆ぜさせた。
 緑色の体液にまみれ、中から出てきた薄桃色の肉塊は脈打つように動いていたが、外気に触れると腐るように溶け落ちていった。



「お疲れ様ァン、傭兵(ベイビィ)ちゃん達ィ♪ 今回は三分の一、そこそこ成功かナァ♪」
 大蛇が全て息絶えた頃になって、虎型のキメラに乗ったQがひょっこりと顔を出した。
「いやはや‥‥またお目に掛かってしまいましたね」
 剛が穏やかな口調ではあるが険しい表情を向ける。
「アハンッ♪ 一期一会のこの世界で、また会えるなんて嬉しいヨ☆」
 曲がりくねった投げキッスを首を傾げてかわす剛。
「キメラの命や人の命を好き勝手弄繰り回す奴は‥‥下種以下だ。‥‥正直関わり合いも持ちたくもないが、いつか、とっ捕まえてぜってぇ‥‥今までしたことを後悔させてやる‥‥」
 こうきは怒りも露わに低く、押さえたような声を絞り出す。
 Qはその様を、怒りを向けられることが嬉しくて仕方がないと言ったように破顔し、上機嫌に手を叩く。
「そうそう、人間素直が一番だヨォ〜☆ 下種や悪党相手に綺麗事やご託はいらなんだ、君たちは正義の味方なんだからね!サクっと成敗して貰わないと!!」
 さらに笑う。
 露悪的と言うよりは根底が全く違う、狂気と言うにはやや整然としたQの話を聞きながらゼンラーは首を傾げるしかなかった。感情の発露は興味深かったが、それを受け止めるにはQという人間に関しての情報が少なすぎる。
「ノア君の『トモダチ』という少年から伝言です。『ノアの涙を無駄にするな、今回俺は動けないが、次は必ず会いに行く』だそうですよ」
 トリストラムの平坦な声にQは笑うのを止めて目を細めた。
「へぇ‥‥ノアを泣かせたの。ずいぶんな『トモダチ』だね」
 戯けた様子が消える。
「じゃあ、その『トモダチ』に伝えておいてよ。君はノアを救ったんじゃないって。『トモダチ』ならなぜノアを殺してやらなかったのかってね。仲間からも同族からも切り離されて、知りもしない場所でただ死ぬのを待てだなんて、なんて惨たらしいことをするのかってね」
「彼は彼の道を選んだのでしょう、貴方が貴方の道を行く様に‥‥」
「選んだ? 違うね、選ばされたんだろう? 追いつめて、脅して、都合のいい上っ面の慈悲を見せつけて、弱みにつけこんで」
 ハーモニウムに帰らず、能力者達のもとに留まることを決めたのはノア自身だと、そう指摘する剛の言葉にQは眉を吊り上げる。
「あの子はキメラだ、今、ここで、君たちが惨殺した醜いキメラと同じイキモノだ。キメラの存在意義は人類と戦うこと、敵であることなんだ。それを奪っておいて、意味のない死に向かわせておいて『トモダチ』? 笑えるよ。ホンット笑えるよ。君らちょっと、覚悟足らないね。ボクが今後、ノアみたいに意思と感情のある自立型のキメラを造ったらどうするつもり? 同じように慈悲深く説得でもするの?」
 ぎ、と歯噛みするこうき。
 出来る限りキメラも、目の前にいるQという強化人間も命を奪わずにすむ方法があればいい、と考えている彼にとって、Qの言葉は激しい拒絶でしかなかった。
「ああ、そうさ。不殺の精神は尊いよ? 何故尊いのか、それは生命が尊いからだ。けどねぇ、君たちは『殺さなければそれでいい』ってそれだけじゃないか。その後がない。不殺の『行動』が尊いだなんて勘違いしてるんじゃない? 敵は殺しなよ。戦わないですむ、殺さないですむ程度だったら、こんな戦争ハナから起こっちゃいない」
「――あなた、腐臭がするわよ。黙って頂戴」
 言葉を遮る。久遠はQの言動にただただ苛立ちと殺意しか覚えられなかった。
「アハハ、まぁいいさ、傭兵(ベイビィ)ちゃん達には難しい話だモノねェン♪ 君たちはただキメラと戦って戦って、どんどん強くなっていけばいいんだョ。地球の支配者に相応しい強さを手に入れてもらうまでサァ」
 戯けた様子を取り戻し、くねくねと身を動かすQ。
 全く動く様子のない傭兵に笑いながら目を細め、口元をゆがめる。
「じゃあ、まったネェン♪ ンッフフ、君たちには期待してるんだカラねェ☆」
 走り去る虎型キメラとひらひらと手を振るQの姿を誰一人追う者はいなかった。


 脅威が消え去り、沈黙の下りる北の大地。

 覚醒を解除し人知れずヘルメットを外すラグナ。
 それを見ていた久遠は艶めいた微笑みを浮かべて話しかける。
「ふふっ、おにーさん、そんな顔をしているのね。私の知っている人に似ているかも。それに奇遇ね、覚醒解除も私とそっくり‥‥ほら」
 見せつけるかのように覚醒を解除、身振りと共に片翼を散らせ。それが散り切る前に「じゃあね、おにいさん」と呟く。
「‥‥生憎と記憶喪失なんでね。もしかしたら前にどっかで会った事あるかもしれねーな」
 顔を見られたことを気まずそうに誤魔化すラグナだったが、当の久遠はぼんやりとラグナを見つめ、それからはっと思い出したように、深々とお辞儀をして脱兎の如く逃走する。ふと感じた郷愁に戸惑った心はなかなか収まる物ではなかった。


「一体、何なんだろうねぃ」
 坊主頭を撫でさすりながらゼンラーが呟く。
「ただの狂った変態野郎だろ」
 バグア嫌いの阿朱は胸中の苛立ちを全て吐き出すかのように言い捨てる。理解の余地もない、と。
「一つ判っているのは、彼と私たちは『敵』同士である、ということだけですな」
「うん、『敵』なんだよねぃ‥‥」
「‥‥『敵』、か」

 割り切れ無さと難解な問いを残したまま、弱々しい風が彼らの足元を吹き抜けていった。