タイトル:【共鳴】妖精疾走マスター:敦賀イコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/07 12:36

●オープニング本文


●スピードフェアリー
 グリーンランド。
 氷床と万年雪に覆われた極寒の大地。
 昼尚暗い北の荒野に悲鳴が響く。

「助けてくれェェェ!!悪魔が、悪魔が出たぁぁ!!」

 UPCグリーンランド基地周辺の哨戒に出ていた兵士二人が半狂乱で帰還した。
 極度に脅えきり、パニック状態に陥っていた彼らをどうにか落ち着かせ、詳しい話を聞きだしたところ『とてつもなくおぞましい姿のキメラ』と遭遇したということだった。

「どうやら、これが例のキメラのようです」
 哨戒に出ていた兵士が逃げながらも撮影した写真数枚がデスクの上に広げられる。
 上官はそれをちらりと一瞥しただけで天井を仰いだ。
 キメラの姿は高速移動でもしているのか、かなりブレてぼやけていたが、そのおぞましさはしっかりと見る者に伝わった。

 筋肉質な小麦色の肌をテカらせ、惜しげもなくさらけ出したパンツ一丁(白ブリーフ)の男。何故か頭部はバッタ。バイクのつもりであるのか、両手で前輪、両膝で後輪を挟み込むように支えているキメラの姿がそこにあった。
 ライダーと言うよりは怪奇・バッタバイク男。首元には黒いマフラーがたなびいている。

「‥‥いや、だからさあ、何でウチはこんなんばっかりなのかと小一時間。いい加減この天丼展開もどうかと思うよ」
「はいはい。メタ発言メタ発言。天丼ですから今回もULTに依頼しときますんで」
「ああ、頼む。アレは強靭な精神力を持つ能力者でなければ対処できまい‥‥っと」

 HENTAIキメラ五度目の出現にだいぶ投げやりになっている上司と部下だった。


●プレゼンテッドバイQ
「ただ走り回るだけ、なんてまた馬鹿なキメラを造ったものね‥‥」
「アッハァ〜ッン☆走り回るだけでもキメラはキメラさぁ〜。たとえ、何もしなくたって異形の存在は普通の人間にとっては恐るべき脅威なんだからねェン」
 嫌がらせには十分デショ?と、隣にいた少女にウィンクを投げかけるQ(gz0284)
 少女は肩をすくめ、興味はない、といった様子で踵を返す。
 Qは少女の素っ気ない態度を気にするでもなく、上機嫌に喉元でクツクツと笑い、密やかに呟いた。
「‥‥それにねェ、ボクらの『後輩』がどこまで竜を操れるか、興味あるじゃないかァ」

●参加者一覧

如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
ゲオルグ(gb4165
20歳・♂・DG
加賀 円(gb5429
21歳・♀・DG
九浪 吉影(gb6516
20歳・♂・DG
鬼灯 沙綾(gb6794
13歳・♀・DG
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
エリノア・ライスター(gb8926
15歳・♀・DG

●リプレイ本文


 極北、グリーンランド。
 灰色の雲は低くたれ込め、空を覆い尽くすかのように何処までも続いている。
 風雪がおさまれば動くものとてない静謐の大地。
 創造主が造りたもうた厳粛な自然が支配する世界。この地に立てば誰もが畏敬の念を抱かずにいられないだろう。

 だが、そんな空気をぶちこわす存在が一匹。
 仮面のバイク乗り、つーか、仮面のバイク?版権とか著作権とかその他諸々のいろんな意味で形容しがたいなにかそんなカンジの何かが白昼堂々と動き回っていた。
 ただ周辺を走り回っているだけなのだから、一見、害は無さそうに思えるが、深夜の住宅街で中途半端にマフラーを改造した原付のエンジンを空吹かしするやんちゃな小坊主と同程度の迷惑度がある。近隣住民、もとい、グリーンランド基地の人員の苛立ちは推して知るべし。


「さぁ、傍迷惑なキメラさんをめっ!しに行くのですっ!」
 鬼灯 沙綾(gb6794)はあまりの寒さにコートの襟元をかき合わせながらも、姿勢を正して気合いを入れる。
「こんな寒空の下、裸同然でバイクを乗り回すキメラさんはある意味凄いのです」
「今回のキメラはなんというか‥‥存在が危険だな」
 ある意味凄い。沙綾とほぼ同様の感想を抱いたゲオルグ(gb4165)がボソリと胸中を漏らす。
「いやぁ‥‥変態っすね。精神攻撃兵器‥‥として考えるなら、アリなんでしょうね。変態っすけど」
 大事なことなので二回言ったのは九浪 吉影(gb6516
 防寒用の外套を着込んでいても、尚も感じる寒気に身を震わせる。
 この寒気の正体については深く考えてはいけないと頭を振り、まずは分かってる事から片付けよう、と顔を両手で軽くはたいて気を引き締めた。
「うん、ともかく、目先の全人類の怨敵を片そうか」
「バッタのくせに‥‥ぱんいち、だと‥‥うらやま、いや、はた迷惑なキメラだねぃ。それにあの肉体、すばら‥‥いや、けしからん!退治せねば!!」
 ゼンラー(gb8572)は信奉する『ゼンラの教え』を実践しているかのような姿のキメラに妬心を抱き、歯噛みしていた。
「‥くっ、バグアめ‥‥!」
 地団駄を踏む様子にアレックス(gb3735)はやれやれと苦笑う。
 ゼンラーとアレックスは同じ小隊の仲間であり、同じ兵舎で暮らしている。いわば家族同然という関係にあった。
 アレックスはゼンラーのことを兄貴分的存在としているのだが、どうにもこの風変わりな思想だけにはついて行けない。
 加賀 円(gb5429)はやや青ざめた表情でハンカチを口元に当てて遠くを見つめている。事前にデータで確認したキメラの姿は、男性恐怖症の円にとっては大変厳しいものがあったのだ。
「あぁ‥‥毎度毎度ヒトのシマ荒らしやがって。ていうか、もう何かメンドクセェからM1戦車の主砲とかで焼いちゃえばいいのによ」
 苛立たしげに前髪をかきあげながらエリノア・ライスター(gb8926)が悪態を付く。
「‥‥まァ、授業出るよか楽で良いか。何より、走るのは好きだし。よォし、いくぞ韮!」
 返事がない。ちょっとしたうっかりのようだ。



 キメラを文字通り陥れるため、円と沙綾はトラップ作りを開始する。
 他の傭兵達はAU−KVを駆りキメラの捜索と警戒に当たっていた。
 目撃情報から割り出した地点に、バイクがはまって転倒する程度の穴を掘って行く。
 砂利の混じった氷は想像よりも硬くあったが、覚醒しAU−KVを装着した二人の作業を妨げるほどのことはなかった。基地から借り受けてきた土木用具もしっかりとそれを助けていた。
 作業中、キメラの襲撃を警戒し、円は長さ2.3mの両刃の直刀‥‥ワールドオブワンをすぐ近くの氷床に突き立て、いざという時にはすぐに手に取れるようにしていた。実践では初めて扱う得物であり、慎重に構えておくに越したことはない。
 やがて、穴が完成すると、白いシートでそれを覆い上から雪を被せて擬装する。目印に石を目立ちすぎない程度に積み上げ、その旨を仲間に連絡する。
 丁度その頃、吉影らが件のキメラを発見していた。
「おぉぅ‥‥探しちゃいたけど、いざ見つかるとすげぇ複雑‥‥っ」
 尻えくぼのくっきりとした小麦色の臀部と白いブリーフの対比がなんとも気色悪い。
 うわぁ、とドン引きしながら吉影は無線機で仲間達にキメラ発見の報を伝える。
「キメラ、その存在を無に帰してもらいます!」
「HENTAIキメラ‥‥その命、神に返しやがれッ!」
 ゲオルグとアレックス・ゼンラー組と共にキメラを追って走り出す。
「ヘイ!そこの走り屋!ソロで走っても魂(ソウル)はスパークしねぇんじゃねぇのか!?」
 吉影はヘッドライトを明滅させてキメラを煽ってすらいた。
 キメラの進路とは逆方向に走行していたエリノアは連絡を受けると、フン、と不敵に笑い、クラッチを切り、ハンドルを切る。バハムートの巨体を素早く大きく傾け、アクセルを開放すると一気にクラッチを繋いで、見事なアクセルターンを披露した。
 スタッドレスタイヤに巻かれたチェーンが氷床を捕らえ、削り、銀色の飛沫を巻き上げる。
「さぁ‥‥アイゼンシャフト、振り切るぜ!」

 白銀の大地の上で異形を追い鋼の竜達が駆ける。
 回転するタイヤが氷床を捕らえて蹴り上げる。ひたすらに前へ前へと進む力は乗り手を空気の壁を打ち破る速度の世界へと誘う。

 氷床というとてつもなく不利なコンディションの中にありながら、対策と工夫、技量でハンデを埋めて行く傭兵達。
 その姿を現場から離れた岩山の上でQ(gz0284)が眺めていた。
「あぁ、イイヨイイヨぉ〜、傭兵(ベイビィ)ちゃん達ィィ〜」
 オペラグラスを模した特殊望遠鏡を覗き込んでは満足そうに笑みを浮かべる。
「やるじゃないかあぁ、これなら『学校』のみんなも喜ぶよォ」



 かくして、G3グリーンランド特別(氷床・6000m(推定)・重)のスタートが切られた。なんとなく競馬場のファンファーレ何かをBGMにすると雰囲気が盛り上がるかも知れない。嘘だが。
 まず、先頭をとったのはキメラ。はためく黒いマフラーが見る者のイラッと感を増幅させる。
 マフラー着用のキメラと事前の情報を得ていたゲオルグは、対抗意識をもってマフラーを首に巻いていた。ユーモアを理解する性質なのか天然なのかは不明だが、男前度がめちゃめちゃ高いことは間違いない。

 さておき。
 今回は二班に分かれてキメラを追い、挟撃に持ち込む作戦である。
 A班にアレックス、ゲオルグ、吉影。B班に沙綾、円、エリノア。
 遭遇後、追跡を続けるA班、罠作成をしていた沙綾と円がエリノアと合流し別方向からアプローチをかけるB班。

 キメラは追跡してくるA班を気にもとめず、ただただ走る。走ることのみが己の存在意義なのだというかのように。
 岩塊を避け、クレバスを飛び越え、まるでアイスダンスを踊るかのように優雅に軽やかに、小麦色の肌のパン一マッチョが走る。

 グリーンランドでの戦闘経験が多く、雪道等での戦いやバイクの扱いには慣れているアレックスだったが、流石に人馬一体、ならぬ、人バイク一体、というよりは『バイクそのもの』のキメラと同じ真似は出来なかった。
 だが、突き放されないようにと食らいついて行く様は流石と言ったところである。
 ゲオルグ、吉影も同様に一定の距離を保ちつつ、諸々の危険性を考え、味方と一直線上に並ばないように気を配りながら走行を続ける。
 運転に集中するアレックスの背後でゼンラーがまたも歯軋りする。
「拙僧でも不可能だったこの気温のなかで、そんなうらやま‥けしからん格好でいられるわけがない‥っ」
 過去に雪山で修行として脱いで凍死しかけたことのあるゼンラー。己に出来なかったことを目の前で実践しているパン一キメラに羨望と憎悪が入り交じった感情を抱かざるを得ない。
 小高い丘の急勾配に差し掛かり、キメラが若干速度を緩めたその隙に距離を詰めるA班。
「その幻想を、ぶちころ‥‥」
 ゼンラーは悪鬼羅刹が如くの表情でキメラに虚実空間を見舞う。青白い電波がキメラに降りかかるが、もとより特殊効果など得ていなかったキメラには別に何も起こらなかった。
「‥なん‥だと‥っ!?」
「‥‥虚実空間なんて使って何をするつもりだったんだ?」
 驚愕するゼンラーにアレックスが冷静に指摘する。
「うう、アレックスや‥‥無効だったよぅ‥くっ、バグアめ‥!」
「‥‥まぁ、なんだ。遊びは終わりだ!」
 ビッ、とキメラを指し宣言するように声を上げるアレックス。
「遅い、遅いぞ!我に狙えないものは無い‥‥かもしれん」
 微妙に謙虚なゲオルグの真デヴァステイターが火を噴く。予測される回避路とタイヤとを狙った射撃にキメラが初めて動揺を示しバッタ頭をくるりと振り向かせる。だが、やっぱりそんなの関係ねぇ、とばかりに前へと向き直り、スピードを上げようとふんばる。そこへと吉影のクルメタルP−38から飛び出した弾丸が臀部に命中。「アウチッ!」と弾かれるようにキメラが跳躍した。アニメではなくカートゥーンのようなぬめった動きで。
 このどさくさで一気に勾配を越え、丘影に消えようとするキメラだったが
「今のボクは一陣の風なのです!」
 沙綾の言葉通り颯爽と風のように現れたB班がそれを阻止する。
 丘を挟んで挟撃という形に持ち込まれたキメラは慌てて方向転換を行い丘を下る。
「あらあら、本当に醜悪なキメラですね。作った者の正気を疑いますよ」
 無様に逃走を図る異形を嘲る円。平素の優しげな深窓の令嬢といった雰囲気とはまったく違い、嗜虐的な空気を醸し出していた。
「‥‥。あのだせぇマフラー‥‥前輪に上手く巻き込めねぇか?」
 エリノアは黒いマフラーに着目し、早速行動を開始する。
「ホラホラどうした、そのきたねぇブリーフのシワまではっきり見えるぜ、ドン鈍亀野朗!」
 キメラを挑発し、思惑通りに方向を変えさせるがキメラのマフラーでは長さが足りない。咄嗟に、エリノアは手持ちのマフラーを投げ入れるが足を止めるまでには至らなかった。

 傭兵達に大幅に距離を縮められはしたものの、まだまだ走り続けるキメラの予測進路上を銃撃、あるいは車体を割り込ませて進路を妨害しながら、罠が設置された地点まで誘導を行う。
 氷原を荒々しく走ること数分、キメラは巧妙にカムフラージュされた落とし穴にまんまとはまった。
 大仰な音を立てながら見事にコケたがそこはバイク一体型キメラ。勢いをつけて強引に穴から抜け出し跳躍すると、まるで猫が宙返りをするかのように身を捩り、着地、体勢を立て直して走り出した。
「見上げた走り屋根性!!」
 吉影が驚嘆の声を上げる。
 しかしながら、明らかにキメラの走行速度が落ちている。その好機を逃す傭兵達ではない。

 真っ先に動いたのは円、ハンドルから両手を離してワールドオブワンをつかみ取るとキメラに向かって振り下ろす。
 キメラに当たることはなかったが、切っ先は氷床を砕き、その破片がキメラに襲いかかる。
 円は大きく体勢を崩し、自動的に装着されたAU−KVごと転倒する。身体、機体ともにダメージが無かったのは不幸中に幸いであった。
「オマエの走り(ロード)は悪くなかったぜ!だがな、テメェ自身はダメだ!色んな意味で!」
 破片を回避しようと挙動が怪しくなるキメラを吉影のクルメタルP−38と沙綾が放った小銃「S−01」との銃撃が追い、逃げ道を奪って行く。
「その隙、貰う!スロットル全開、インパクト!」
 ゲオルグはアクセルを開放しブースト突撃を敢行、キメラの右側を走り抜ける。追い抜きざま、車体の左側に固定した機械槍「ロータス」の超圧縮レーザー刃がキメラを切り裂く。
 その衝撃にゲオルグも体勢を崩すが、自動装着されたAU−KVによってダメージは最小限に抑えられていた。
「一気に片ァ付けようぜ!インテーク開放‥‥天槍「ガブリエル」、ウェイク・アップ!」
「ほいっ、アレックスにはゼンラの神様の、とっておきのご加護だよぅ!」
 片手に天槍を構えたアレックスをゼンラーが練成超強化で援護する。
「これで終わりだ!神の息吹(ゴッド・ブレス)ッ!!」
「生まれてきたことを後悔しやがれ!ッハァァァア!!シュツルムヴィィィイント!」
 キメラとの間合いを計り機を伺っていたエリノアもここが攻め時と勝負をかける。
 AU−KVを装着すると竜の翼を発動させ、アレックスの強力な一撃に弾き飛ばされ氷床をバウンドするキメラに一気に接近し、超機械「トルネード」を打ち込んだ。
 竜巻に切り刻まれるキメラ。
「絶望が‥‥お前のゴールだ!」
 横滑りしながらエリノアはキメ台詞を口にする。台詞が終わるまで転倒せずに踏ん張っていたのはドイツ人気質のこだわり故か。



 厳粛さを取り戻した氷原に静かに雪が降る。
 自然をかき乱す異形に勝利した傭兵達を祝福するかのように、優しく、静かに。

「ん〜〜あれっすね。一緒に峠を攻める強敵(トモ)は、やっぱりマトモな人じゃないと」
 労るように愛機に手を置きながらそう結論を出した吉影。
「あぁ、HENTAIなどもっての他だ‥‥」
 疲れたように眉間を手で押さえ、きつく瞳を閉じるゲオルグ。
 追跡のためとはいえ、ずっとキメラの白ブリーフが眩しい臀部を見ながら走行していたのだ。
 身体の芯にずっしりとのしかかっている疲労感と嫌悪感はいかほどのものか、言うまでもあるまい。
 他の傭兵達も浮かない表情でどこか遠くを見ている。ただ一人、熱い思いに身を震わせているゼンラーを除いて。
 ゼンラーはキメラに打ち勝った今こそ、今こそ『ゼンラの教え』を実践すべし、と雄叫びを上げて唯一来ていた外套をクロスアウッ!(脱衣)
「フゥぬぅわぁぁぁぁッ!!」
 健康的に鍛え上げられた肉体が純白の世界に晒されるが、アレックスは即座に酷く冷静にミカエルで突っ込んで新たな脅威の爆誕を防いだ。
「ふぅ、あぶないところだった」


 離れた場所から一部始終を見届けていたQは、望遠鏡を懐にしまうと傍らに控えていたメカ虎型キメラの頭を撫でながら、実に楽しげにクスクスと笑う。
「ボク達もそろそろ本気ださなきゃあ、ねぇ」
 その声に応えるように虎キメラは喉の奥で低く唸った。


 地上の何もかもを白く塗りつぶすかのように雪は降り続ける。
 やがてくる争乱の前に、ひとときの静寂を作り出そうとしていたのかも知れない。