●リプレイ本文
●フライ・ハイ
気圏はどこまでも澄み渡り、ただただ青い。
遙か彼方に見える紺碧の海面は日の光と雲の影を映しだし、穏やかにさざめいている。
「あ?何で飛んでいる?」
寿 源次(
ga3427)は自分が置かれた状況に首を捻ったが、すぐに合点がいったと手を叩いた。
「そうか、お前か。飛びたがってたもんな‥さぁ行こう、カプロイア製万年筆Lv6」
万年筆が飛びたがるものなのかと疑問に思われるかも知れないが、無機物を擬人化して感情移入してしまうのは日本人のお家芸である。しかもカプロイア製の万年筆だ。ここは「カプロイアだから仕方ない」と納得しておくのがモアベターというものだろう。
「雲の波を超え、大空の海を渡っていこう。そこには呆れる程のまだ見た事も無いものが散らばっているはずさ。光を追い越し時間を翔んで、いつまでも、どこまでも‥」
源次は万年筆と共にのびのびと空を舞う。その表情は苦行の末に煩わしい現世から解脱した行者の如く穏やかなものだった。
新年の初夢気分を盛り上げるかのように、琴と尺八で演奏される『春の海』がどこからともなく聞こえてくる。
「アーイ キャン フラーイなのですっ!」
両脚に装着された飛行ユニット(的な何か)で鬼灯 沙綾(
gb6794)は蒼空を自由に、縦横無尽に飛ぶ。
「常識? 航空力学? そんなものは先週の燃えないゴミの日に捨ててきたのですっ!」
何故飛べるのか?様々な疑念が湧くだろうが、彼女自身が前述の通りすっぱりそう言い切っているのだからツッコミは野暮というものである。
「愛と勇気があれば、人は世界を救うことも空を飛ぶことも余裕なのですよっ!」
頭部がアンパンで出来た勇者も友としている愛と勇気。そう、その力を持ってすれば空を飛ぶことなど造作もないことなのだ。たぶん。
カンパネラ学園の制服のスカートをはためかせながら希望に満ちた様子で堂々と空を飛ぶ。
「ぱんつじゃないから恥ずかしくないのですっ!」
制服の下にスクール水着を着こんでいるため、短めのスカートがまくれようと問題は無い。
この、明るく健やかな美少女の姿に、どこかのにっこりできる動画サイトなら、キターだのネ申光臨だのの文字弾幕が大量に流れて行くことだろう。下からの舐め回すようなローアングルのカメラワークは各員脳内補完のこと。
そんな沙綾の姿を見かけて「あばばば!?」となったのは、バイク形態のAU−KVで空中を颯爽と駆け抜けていたヨグ=ニグラス(
gb1949)だった。
「あ‥あれがガーさんの脳内イメージ!」
「俺じゃねえぇ!?」というロズウェル・ガーサイド(gz0252)(以下、ニート)の叫びは哀しいかな誰にも届かない。だいいちその場にいない。
「なんだこれは。わしは‥‥空を浮いておるのか」
片倉 繁蔵(
gb9665)は覚醒した状態で眉を顰めていた。自分の周囲を見回せば、何人か同じように浮かんでいるうえに、更に遠くの方では爆発が起こっている。
「わからぬ、全然理解ができぬ」
いきなりこんな状況に放り込まれれば誰だってそうなるだろう。取り乱す素振りも見せないところは年の功と言ったところか。
そんな繁蔵に何者かが語りかけてきた。
『我、生きずして死すこと無し
理想の器、満つらざるとも屈せず
これ、後悔とともに死すこと無し』
手にしていたSAMURAIソードの声であるらしい。
「‥‥。意味がわからぬ」
わからぬ!お前の話はさっぱりわからぬ!と繁蔵は頭を振るが、どうやら有用な武器として扱えるらしいと察し、爆発の見えた方向へと進路を取った。
●イン・ザ・スカイ
「新年おめでとうございますっ」
「おう、おめっとさん!?」
傘一本でヘルメットワーム(以下、HW)の攻撃を凌いでいたニートの元に、頭に大きな黒リボンのカチューシャ、黒のメイド服、白いソフトチュールたっぷりのパニエ、目に眩しいオレンジと黒の縞のニーソと金と茶のブーツという出で立ちの橘川 海(
gb4179)が現れた。
その姿は花籠抱えた虎メイド、と言おうか。花の咲くような笑顔が大変愛らしい。
「ニートさん、鼻の下伸ばしてる場合じゃないですよね?」
いつの間にかメカメロンの上に乗っていた最上 空(
gb3976)の一言と冷たい視線がニートに突き刺さる。
「いや、こ、これは男として当然の反応っつーか、最上おまっ、いつの間に!?」
「清純派美幼女の空が、オプションになりに来ましたよ?嬉しいですか?嬉しいですよね?」
普通の清純派は自分で清純派とか言わないものだが、空は見事にその既存概念というふざけた妄想を打ち砕いた。
「うん‥アリガトね‥」
気迫に押し切られるような形でニートは頷く。彼女に逆らってはいけないという防衛本能が働いたようである。
「よし、ならばニート、この状況を説明しろ」
ペンギンのぬいぐるみを頭に乗せた相賀翡翠(
gb6789)がさっくりとこの流れを断ち切る。
「見ての通りとしか言えん‥それよりはお前さんのソレを説明してほしいところだが」
「ろっくんはろっくんだ」
自分の頭上に向けられた目線に翡翠は真顔ではっきりと答える。
彼の頭上にある『【OR】ろっくんのぬいぐるみ』は、彼の友人の女性が飼っているペンギンをモデルとしたぬいぐるみで、日頃、そのぬいぐるみ似たペンギンを可愛がっていたことから、クリスマスにプレゼントとして貰ったものであった。
当初は翡翠も困惑していた。気が付けば自分は空中に放り出されており、ペンギンのぬいぐるみ(以下、ろっくん)を抱えていたのだから。
「よぅ、翡翠の旦那ぁ。お困りのようだねぃ」
あまつさえ喋りだしもすれば平静でいられる人間の方が少ないだろう。
「動いたし、喋った!?‥これは夢だ!!」
激しく動揺しながらもこの空間の真理に気付いた翡翠。だが、気付いたところでどうしようもない。ここはひとつ、ろっくんを相棒に暴れてやろうと気を取り直していた。
「翡翠おにーちゃんっ、新年おめでとうございます!」
「あぁ、おめでとう」
幼なじみの海と翡翠がにこやかに新年の挨拶を交わしあう傍らで、空はメカメロンに抱きつき感触と匂いを思うままに楽しんでいた。
「ふぅ、この匂い、感触堪りませんね、癒されます」
メカメロンの外皮は非常に手触り良くリラックスアロマを発している。誰がなんと言おうと癒し系だ。
そんな彼らに対しHWは空気を読んでしばし攻撃の手を休めていたが、そろそろ頃合いじゃね?と思ったのかどうか攻撃を再開する。
「む、ここは真剣に戦わなくてはいけませんね。さぁ、さっさと殲滅しないと、メカメロンに空のプリティーな、歯形が付きますよ?」
「テメェの血は何色だあぁぁ!?」
真剣に戦わなくては、と言いつつも空自身は特に動くつもりはないらしい。夢の中でも億劫ぶりは通常営業だった。
早速降りかかるフェザー砲を海はABボタン同時押し技で防御する。
「シールド、展開っ!」
優しく、温かみある色の大輪のガーベラが周囲にぱっと花開く。
大きな花弁が光線とともに敵の視界を遮断したその隙に、翡翠とろっくんのコンビがHWの側面に回り込む。
「ドォォォン!!」
目を血走らせ、鬼のような形相でろっくんは指さし君2号を振り回し、HWの周囲を爆撃する。
「その意気でガンガンやってくれ」
翡翠も負けじと拳銃「バラキエル」を打ち込んでいった。
更に海が今度はフラワーアレンジではなく青い銃身のロングバレル銃「瑠璃瓶」を手に構える。
「翡翠おにーちゃんどいて!そいつ撃てないっ!」
どこぞの都市伝説めいた台詞を叫びながら発砲し、HWを撃ち落として行く。
さて。
場面はここで地上へと切り替わる。
何やらのどかな音楽と野原を背景に阿野次 のもじ(
ga5480)が空を見上げていた。
冒頭で海の上空であるかのような描写があったことはどうか気にしないでほしい。
人生には気付かないでいた方が幸せである、ということも多いものだ。
閑話休題。
「ふっ『だいたい判った』わ。これは、ブクウ術。つまり私たちは能力者でなく伝説のZ戦士だったようね!設定はアニメが原作に追いついてしまったあの惑星編あたりかしら?」
『有明の白い悪魔』という異名を持つ特撮オタク兼メカメニアであるのもじならではの解釈とこだわりだった。
そして、空に表示されるテロップ。
第141話
『メカメロンの敵を討て
伝説の超ニート人だソン・ウェル!!の巻きだメロン』
それを読み「今日はニート覚醒の回ね」となんとなく納得し手を打った。と、その時、頭上をHWがどふゅーんと飛んで行く。
「なんだ今のステージボス3体!特に真ん中のやつ、けた違いのー強さだったぞ!これは加勢に行かなければ!すわっ!」
のもじは地を蹴り、ブクウ術を駆使して空へと舞い上がった。
場面は再び上空へ。
「ふははははっ!セニョール・ガーさん!」
今、まさにHWに体当たりされようとしていたニートを『AU−KVぶちかましアタック』で救ったのはナイト・ゴールドマスクを装着したヨグだった。
「ありがとう!謎の仮面戦士マスクド・ヨグ!」
謎も何も正体はわかっているのだが、その辺はしっかり空気を読んでしまうニートだった。ニッポンの国教「空気読め教」の信者であることはもう間違いない。
「HWか‥ゾロゾロと鬱陶しい。散開して叩くぞ!」
合流した源次が号令をかける。
皆飛んでる?そんなの関係ねぇ、関係ねぇ。という真に漢らしい気にしなさで彼はこのカオスな状況に適応していた。
「おぅ!まだ無事だな?ボヤボヤしてるとメカメロンが被弾して生々しい肉片が見えちゃうぞ?」
「メロンに中の人などいない!」
「お、我がプリンの盟友、プリンプリンスことヨグ君も頑張れ超頑張れ」
ニートの発言をさらっと無視してマスクド・ヨグにエールを送る源次。
沙綾は両脚の飛行ユニット的な何かからジェットエンジンの排気的な何かを出しながら高速でHWの編隊に切り込んで行く。
「行け鬼灯、貫け鬼灯、君はやればできる子なのですよ」
自分の名字と同じ名の弓を構え、矢を番えて引き絞り、放つ。
装甲を鏃に深々と穿たれたHWは力無く墜落しながら反撃のフェザー砲を撃ってきた。所謂死に弾というヤツである。
それをギリギリ?で回避する沙綾。
「当たり判定から1ドット外れているので大丈夫なのですっ! グレイズおいしいですっ!」
たとえ直撃しているように見えても、上記の魔法の言葉があればだいたい乗り切れるそうだ。
「心が折れない限り、ボク達は決して負けないのですっ!」
沙綾からそれた光線が繁蔵の方へと向かうが、繁蔵はSAMURAIソードの力を以てして光線を吸収するバリアを展開させていた。
こうしてまんまと吸収したエネルギーを利用し、SAMURAIソードからビームを放つ。この、予想外の反撃に敢え無く散って行くHW。
繁蔵は攻撃を吸収しつつ戦闘を続けていたがあまりに敵が多く、SAMURAIソードが限界を迎える。
その瞬間、何故か装備していたねおちシールからアタッチメントアームが飛び出し、接近したHWをガッシと掴み取ると、別のHWへと向かって投げつけた。
直後に起こる爆発。
敵の攻撃を利用し、さらには敵機すらも利用する。なんとも強かな男、というかアイテム群だった。
出現するHWを次々と撃破していく傭兵達。
「この撃ち込みで撃破か‥ボーナスも欲しいがとにかく回避スペース確保だ。」
プロトン砲を大きく避け、逆方向へ鋭く切り返しながら、源次は超機械ζを作動させる。発生した電磁波は複数機のHWを巻き込み焼き焦がしていった。
どこからともなく湧いて出てくる敵機に疲れや怯えを見せることもなく、源次は不敵に笑ってみせる。
「向かい風?違うね、運命の風が自分に吹いてるのさ!」
「そうですとも!」
源次の言葉に頷きながらヨグは疾走するAU−KVのシートを蹴り、高く跳び上がると一回転
「トゥア!!」
かけ声勇ましく空中装着をキメ、HWの上位置を取るとそのままパイルバンカーを打ち込む。
「これはガーさんが残した想いです!」
「俺生きてる!まだ生きてるよ!」
散々っぱら空とメカメロンの盾にされて残機0の体力赤ゲージという状態だったが。
それを見かねた源次が錬成のちょっとした応用でアイテムコンテナを作り出したが、ちゃっかりと空が入手する。
「アイテムは頂きます!‥アイテムの力で空が分身しましたよ!しましたよ!」
「お前が分身したところで何もならんだろうが!」
「美幼女が増えたんですよ?喜びにむせび泣くが良いでしょう」
幼女とニートによる新機軸の漫才を傍目に、続く戦闘と爆発にろっくんのテンションがMAXになっていた。
『誇り高きぃイワトビペンギンの力ぁ見せてやるぜぇぇ!!』
闘志のバット片手に金色の輝きを放ちながらHWへと向かって高速突撃を開始。
進行方向直線上にいた数機を貫ききらりと光る星となった。マジパネェ。
「あれ?ろっくんいねぇと、飛んでられなくね?」
気付いた瞬間万有引力に引かれて落下を始める翡翠。メカメロン助けてくれねぇかな、と手近なところにあった足にしがみついたが
「ちょ、ちょっとこっち見ないでくださいっ!」
その足は虎メイド姿の海だった。海は足を掴まれ、視線を下に向けたところで自分の格好に気が付き羞恥に頬を染め、上を見上げた翡翠と目があった瞬間、悲鳴を上げ涙目になりながら翡翠を蹴り落とした。
ドップラー効果のついた叫びを残しながら落下して行く翡翠。
「あ‥あれがガーさんの脳内イメージ!」
「うん、正直リア充もげろとは思っている」
ヨグの言葉を否定しないニート。さもしい限りである。
「‥‥くっバグアめ、よくも翡翠おにーちゃんを!」
こぼれ落ちそうな涙を拳で拭いながら海はキッっとHWを見据えた。
あまりの責任転嫁ぶりに逆上したHWが海へと突進する。
「メ・カ・メ・ロ・波〜」
それをのもじの必殺技が阻むが、HWの数は一向に減らない。
「このままじゃ敵に勝てません!今こそニートの真の力を発揮する時!」
「超必殺のニートアタックですね!」
のもじの言葉に空は頷き、二人がかりでメカメロンをぱかっと開け、コントローラーを取り出すとコマンド入力を開始した。
「とびきりZENKAI開放のコマンド、上・上・下・下・左右・左右BAっと。南無!」
解説しよう!ニートは普段実力を90%以上出していない。これにより一瞬でフルチャージ・無敵モード『働きたいデゴザル』になれるのだ!ちなみに最後の南無発言は、無敵コマンドには大概自爆が仕込まれているためである。
ええ、自爆ですよ。自爆。
南無阿弥陀仏ってやつです。
一瞬の静寂と周囲に広がる真っ白な閃光。
そして迎える朝。
布団から飛び起きた翡翠はあまりの悪夢に頭を抱えて苦悩し、繁蔵は「‥‥。今年は、大変な年になりそうじゃな‥」と窓の外を遠く見つめた。
頭を抱える者、スッキリと目覚める者、各々が迎える新年の朝。
いろいろあったけど初夢だから仕方ないよね。