タイトル:【CC】漢祭り2009マスター:敦賀イコ

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/21 00:38

●オープニング本文


●元はジャケット
 地下闘技場の強化と、来る文化祭の準備には、研究部も一枚絡んでいた。正確に言うと、その技術と、日頃の成果を発表する機会と言う事で、協力を惜しまなかった。
 が、その最中に事件は起きた。
「あれ!? ここにあった上着は!?」
「え? 知らないけど‥‥」
「まさか盗まれた? アレのポケット、大事なモンが入ってるんだぞ!」
 とある研究室。耐久力を上げられる繊維の開発をしていたそこで、大事なデータをしまった研究用の上着が、何者かに盗まれてしまったのだ。もしかしたら、誰かの勘違いかもしれないと、所員総出で探した結果、上着は恐ろしいところで発見された。
「え? その上着なら、さっきリサイクルシステムに渡した所だけど」
 カンパネラでは、少ない物資を無駄なく使用する為、リサイクルシステムを備えている。要するに不要になった着衣などは、その痛み度合いに応じて再利用されるのだが、盗まれたと思しき上着は、そのラインに乗せられていったらしい。
「で、あのラインはどこへ‥‥」
「ああ。確か褌のラインだと聞いてる。最近は生徒にも着用者が増えているから、増産してるらしい」
 どうやら、上着はチップ毎褌製作に放り込まれてしまったようだ。チップは万が一の為、粉砕された程度では、データの損失をしないように加工されているのだが、所員が頭を抱えていたのは、言うまでもない。



●タイミング悪くイベント開催


ULT所属傭兵 様

  カンパネラ学園
  2009年度文化祭実行部C班


      『カンパネラ漢祭り2009 〜やれんのか〜 』開催のご案内

 拝啓

 初秋の気配が日に日に強くなる今日この頃、皆様におかれましてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます。長年に渡りバグアとの戦闘にご尽力くださいまして心より感謝申し上げます。
 このたび、カンパネラ学園では日頃の皆様方のご活躍に感謝の意を表し、文化祭を催しております。その中の1イベントとして『カンパネラ漢祭り2009 〜やれんのか〜 』が開催されることとなりました。
 ご多忙中のところ恐縮ではありますが、なにとぞ奮ってご参加くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

 敬具



「というわけで、ガーサイド研究員。褌着用で逃げ回ってください」
「何が『というわけで』だコノヤロー、無茶振りばっかすると俺泣いちゃうぞ!?いいのか、いい歳した大人を泣かしても!!?」
「どういう逆切れの仕方ですか。兎に角、既に生徒会の許可はいただきましたし、ULTにも案内状を送ったんですから、あきらめてターゲットになってください」


 今回、カンパネラ学園文化祭実行部C班は「インパクトと笑いのあるイベントを」と協議を続ける中、何を思ったか日本の「裸祭り」に着目した。なおかつ、競技性を持たせようと紆余曲折グダグダに煮詰めた結果「褌を奪い合う」という無茶なイベントが誕生した。

 競技(?)概要とルールは以下の通り。

 赤褌を着用した「ターゲット」が学園内に潜んでおり、参加者は制限時間内に赤褌をどれだけ回収できるかを競う。
 なお、「ターゲット」は風紀と倫理の問題から水着の着用を必須とする。
 また、「ターゲット」は防衛のために道具の使用をひとつだけ認める。

  ・武器持ち込み厳禁
  ・建物、器物破損厳禁
  ・セクハラ厳禁
  ・赤褌は無傷で回収すること
  ・覚醒・スキルは不許可。使用した時点で失格と見なす


 と、いうわけで、褌を着用して逃げ回るターゲット役にロズウェル・ガーサイド(gz0252)も指名され、前述のやりとりが交わされたわけである。

 そして当日。

 トライアスロン用のウェットスーツを着込み赤褌をしめたロズウェルは、道具として持ち込んだメカメロン(巨大メロンに二本足の生えたメカ)の傍らで深く長いため息を付いた。
 いい加減にニートを卒業しないと、今後、どんなことに巻き込まれるかわかったものではない。眉間にしわを寄せやりきれん、と首を左右に振る。
「それにしたって‥‥なんでアンタ楽しそうなんだよ」
「可愛い生徒達のためだからなっ。それに、こういったイベントは騒いだ者勝ちだろう?」
 実に男前な笑顔でソウジ・グンベ(gz0017)が豪快に笑う。黒い海パン赤い褌仁王立ち。恋人が泣くぞ。
「な‥‥なんなんですか?なんで僕、褌なんですか?」
 その隣では笠原 陸人(gz0290)が狼狽えている。生徒会事務部雑用係の彼はどういうわけか必然か、見事にこのイベントに巻き込まれていた。
 男気溢れる姿を惜しげもなく披露しながら、柏木・涼人(gz0214)は少々落ち着かない様子で周囲を見回していた。
「さっきから、何をモジモジしてんだよ。お前さんは普段から褌なんだろ?」
「いや、それは、そうなんじゃが‥‥」
 こんな姿を恋人には見せられない、と内心ドギマギしている純情少年。
 普段の下着が褌である柏木にとって、水着の上からとはいえ褌姿というものは、パンツ一丁で衆人環境に身を晒しているようなものであり、どうしても恥じらいを感じずにはいられない。
「はーい、皆さん時間でーす。学園内に散らばってくださーい」
 ここでスタッフの学生の声が無情にも競技開始を宣告する。


 本当にいろんな意味で幸先不安なイベントと褌に変わり果てた研究部の重要データの行方は如何に。

●参加者一覧

/ 終夜・無月(ga3084) / 東野 灯吾(ga4411) / 御巫 雫(ga8942) / 白虎(ga9191) / 如月・菫(gb1886) / 東雲・智弥(gb2833) / 最上 空(gb3976) / アーク・ウイング(gb4432

●リプレイ本文

●MATSURI
 「祭り」とは、本来は神霊などを奉る儀式や神事の事を指しているのだが、そんな神聖かつ厳粛な儀式とは全く関わりのない賑やかな催し物も「祭り」と呼ばれている。

 今回の祭りは無論後者である。
 祭りと銘打ったものの、みんなで集まって賑やかに楽しめればいいかなー。みたいなそんなノリであった。

 バグアとの戦争は熾烈を極め、生と死が隣り合わせの緊張を強いられる日常生活。
 馬鹿なコトであってもそれを切欠に、非日常が演出された空間──日頃とまったく違う環境に身を置くということは、気分を変え、気持ちをリフレッシュさせることに繋がる。容赦なく降り積もる発散の難しい鬱憤を晴らすチャンスにもなるだろう。また、他人と同じ目的、同じ目線で同じものを見ているという独特の一体感は、誰しもが大なり小なり胸に抱いている孤独感を癒し、慰めるものだ。

 とはいっても、そんなに大した理由があるわけでもなく。グダグダに煮えたやけっぱち加減から生まれた馬鹿企画なのだが。

●十人十色
「なんか日本の祭りを盛大に勘違いしてるみてーだけど、祭りは祭りだ。楽しんだもん勝ちだよな!」
 東野 灯吾(ga4411)が前向きな意気込みを見せるその隣には
「カンパネラも可笑しいイベント多くなったね‥‥」
 深いため息を落とす東雲・智弥(gb2833)いた。
 彼は恋人である如月・菫(gb1886)が参加すると聞き、彼女の暴走を止めるためにこのイベントに参加することを決めた。
「韮、韮、言った恨みは許さん。柏木め、覚えてろなのです」
 菫はターゲットとして祭りに参加している柏木・涼人(gz0214)への個人的な恨みを晴らすべく、参加していたのだ。
「菫さん、殺気出してどうするの」
「‥‥ん、む‥」
「とりあえず、武器はしまおうね」
 優しい笑顔(若干苦笑いが混じっていたが)で智弥が菫の頭を宥めるように優しく撫でる。菫はかすかに頬を染め、だって、と拗ねたような表情で智弥を見上げる。
「いい歳した大人を存分に泣かせに来ました☆」
 恋人達の醸し出す甘い空気を打ち破るかのように、しっと団総帥にして混沌王(と書いてカオスキングと読もう)である白虎(ga9191)が、かわいらしくダークサイドのオーラをだだ漏らす。
「ニートさんを血祭りにあげにきました!」
 まぁ、本当の目的はメカメロンですがね。と胸中で呟きながら最上 空(gb3976)も笑顔で拳を振り上げる。
 ニートことロズウェル・ガーサイド(gz0252)がこの場にいたなら「最初からクライマックス!?ミリ単位の容赦も感じられないよこの子達ったら!?」と渾身のツッコミを入れるところなのだが生憎不在なので特に何もなかった。
「メカメロン、何それおいしいの?」
 空が口にした単語を聞いて菫が首を傾げた。
 メカメロンは直径1.5mぐらいの巨大マスクメロンにたくましい脚が生えている、という外観のニート謹製のメカであり。知名度はまだまだ低いがマスコットとして勝手に売り出していたりする。せっかくだから覚えていってね!


●ゲームスタート
「何が彼らを褌に駆り立てたのか‥‥まあ、どうでもいいか。とりあえず、みんなが頑張っているのを面白おかしく見物していようかな」
 学園のシンボルである鐘楼の一角を監視ポイントに定め、そこから双眼鏡で周囲を見回しながら呟くアーク・ウイング(gb4432
 チャンスがあれば褌の奪取を行おうと考えてはいたが、それ以前に醜態をさらしたくはないということで、先ほどから無理な行動は控えている。
「褌を奪われたら、下半身がすっぽんぽんにならないかな?それって、猥褻物陳列罪にあたるような気がするけど。まあ、アーちゃんは面白ければそれでいいけどね」
 イベントのルールとして『ターゲットは風紀と倫理の問題から水着の着用を必須とする』としっかり決められているので心配はご無用である。ひん剥かれるのが大前提のイベントにおいて、赤褌一枚で参加しているような勇者は一人もいなかった。誰だって前科持ちなどになりたくない。それがこんな馬鹿イベントに参加したからという不条理な理由と有ればなおさらだ。

 祭りの様子を傍観しているウイングの双眼鏡のレンズに、群衆の中で一人、めっちゃ良い動きをしている男の姿が映った。

 今以上にもっと強くなる為の経験を積みたいと考えていた終夜・無月(ga3084)は、武器や覚醒、特殊能力に頼らずに身体能力だけで褌を取り合うというこのイベントに興味を覚え参加した。
「覚醒せずに武器無しと言うのは面白いですが‥‥褌を取ると言うのは変ったルールですね‥‥」
 気にするところはそれだけなのかというツッコミはなかった。
 自己の身体の能力を存分に発揮してカンパネラ学園関係者の褌を淡々と剥いで行く無月。
 なにかもう別世界。一人マトリックス。
 こういった楽しみ方もありといえばありである。


●あなたの知らないゾーン
 別世界と言えば、特殊施設棟にも別世界が誕生していた。
 廊下に並んだぬいぐるみ、どう考えても不自然なドラム缶、段ボールの山。物陰からミザリーやらタモさんやらがいつ出てきてもおかしくない、そういう雰囲気だった。

 笠原 陸人(gz0290)は、様子を伺いながら、アウターゾーン化した廊下を進む。
 学生らしくカンパネラ学園水着(男子用)を着用しているが、褌ということにどうしても恥ずかしさが勝り、自然と人気のない方へと足が向かっていた。
 その時、どこからか恨めしそうな声が聞こえてきた。
『捨てないでぇぇ‥‥』
「ひぃ!?ゴメンナサイ!!?」
 驚きにビクりと背筋を逸らし反射的に謝る陸人。きょろきょろとあたりを見回すが、まるっきり人の気配はなく、そこにはKVのぬいぐるみしかいない。
 気のせいか、と歩き出す陸人だったが、その背中を追うように声があがる。
『僕まだ戦えるよー‥‥ 売らないでぇぇぇ‥‥』
「な、な、なんなんですかコレェェェ!?」
 これは白虎の仕掛けた【恐怖のぬいぐるみ】作戦だった。テーマは『廃棄KVの怨念が憑依した人形』であるらしい。
 さらには中綿を抜いた『あぬびすのぬいぐるみ』に白虎自身が潜り込み、立ち並ぶぬいぐるみのうちの一体として身を隠していた。
 遭遇した人間にさらなる恐怖を与えるためタイミングを見計らって白虎が動く。
『バージョンアップしてぇ‥‥』
 突如動き出したぬいぐるみに肝を潰した陸人は猛ダッシュでこの場を離れようとする。
「にゅふふ、まさか、中身が僕とは思うまい」
 ぬいぐるみの中で白虎は計画通りとニヤリと笑う。
「ほらほら早く逃げるにゃー」
 逃げる陸人を追いかける動くぬいぐるみ。実にホラー感たっぷりだった。


●青春ってなんだ
 一方、男子寮の一角では。
「聴講生の東野灯吾っす!先生、真っ向から勝負だぜ!」
 遭遇したソウジ・グンベ(gz0017)に勝負を挑む灯吾。『強い人』の彼氏はどれくらい強いのか興味を抱いていたのだ。
 だが、ソウジは脱兎の如く逃げ出した。「捕まえられるものなら捕まえてみやがれ!」と捨て台詞を残して。
 灯吾も負けてはいない。
 携帯電話のカメラ機能でソウジの褌姿を激写すると人の悪そうな笑みを浮かべ携帯電話を振って見せた。
「せんせ〜、これ彼女に見せちゃっても良いっすか♪」
 ところが、ソウジは慌てることなく足を止め、余裕たっぷりに髪を掻き上げて男前の笑顔をみせた。
「フ、甘いな!彼女はどんな姿の俺でも愛してくれる!!!!」
 黒い競泳用水着に赤褌のソウジは誇らしげに胸を張り、堂々と宣告する。
 恋人達の揺るぎない絆をまざまざと見せつけられた灯吾は、例えようのない敗北感に打ちひしがれた。
「これが、恋人のいる大人の絆か‥‥」
「──いや、たぶんだけどな。たぶん」
「二回言った!?」
 なんとなく尻に敷かれているっぽいソウジでした。

 女子寮には菫がいた。彼女には『女子学園寮の治安維持』という名目があり、神聖なる女子寮に侵入しようとする不届きな褌男はボコボコにせねばなるまい。と堅く拳を握る。
「セクハラ厳禁? ん〜、知らんなぁ!」
 そして、智弥の危惧通りにめっちゃハッスルしていた。ハッスルしている割には、セクハラがどんなものか良く判っていなかったり、奥手でセクシャルな雰囲気が苦手な清純派だったりもするのだが
「その褌を寄越せー!」
 ターゲットを見つけ突撃を繰り返すその様は些か変態的であった。
 幾人かの褌をはぎ取りはしたものの、肝心の柏木の姿がないことに菫は眉をつり上げる。
「くそ、あんにゃろめ、どこに逃げやがった」


●トラップ発動!
 話は特殊施設棟に戻る。
 伝説のお笑い番組のネタを参考にした数々のブービートラップを仕掛け終えた御巫 雫(ga8942)はドラム缶の中に身を顰めてターゲットを待ち伏せる。
「ふっ、完璧なカムフラージュだ!」
 自信たっぷりにドラム缶の中で気勢を上げるが
「ウッ!‥‥こ、声が響く‥」
 自らの声にダメージを受けちょっと凹んだりしていた。

 そこへとメカメロン(以下メロンと記述)とニートが通りかかる。
 今日のメロンは褌のかわりに赤い鉢巻きをつけてやる気満々だ。雫の仕掛けたトラップを見事に回避して行く。高回避・高感知チューンドと実に卑怯な仕様であった。
 直径1.5mというコンパクトな本体に動力やらバッテリーやら人工知能やら多岐に渡るセンサーやらその他諸々の装置を詰め込み、かつ、二足歩行を実現しているのだから、ものすごいレベルでのハイテクの塊である。
 でもメロン。
 ニートにはそれなりの考えがあるらしいのだが、ふざけた物体であることには間違いない。
 そんなメロンを引き連れ段ボール地帯に差し掛かったその時、物陰から小柄な人物が飛びかかってきた。
 メロンはニートを庇うように身を挺するが、人物の目的はニートではなくメロンそのものだった。
 空は以前、メロンを追い学園中を走り回るなどしていたニートを目撃しており、ニートはニートのくせにかなりの体力があることを知っていた。またメロンの高性能さも理解していたために、二人(?)を相手にするにはか弱い自分には分が悪いとして待ち伏せ奇襲をかけたのだった。
 ちなみに段ボールはなじみの購買部から貰ってきていた。
「フフフ、メロンは空の手に落ちましたよ」
 もっちりしっとり柔らかなメロンの表皮の感触を存分に楽しみながら空は不敵に笑う。
「さぁ、メロンに油性ペンで肉と落書きされたくなかったら、その褌をぬいでもらいましょうか‥‥」
「く、卑怯な!テメェの血は何色だ!!」
 悔しげに歯噛みするニートに公開ストリップを要求しながら空は尚も笑う。
「それとも、メロンに裏ルートで入手したブルマ(赤)を履かせてメカブルマにしましょうか?」
「外道め!!クリスマスカラーにはまだ早ぇぞ!!」
 そんなメロンのピンチに雫が飛び出す。
 空とは朋友(パンヤオ)ではあったが、メロンのピンチとなれば別である。
「ま、待てぇい!‥‥っちょわわわっ」
 慌てすぎたせいで自分が仕掛けたトラップ連鎖を発動させてしまう雫。
 バナナの皮に始まり、バケツからタライのコンボ。ロープに引っかかればスパイクボールの代わりにパイが顔面に飛び、盛大にばらまかれたパチンコ玉につるっと足を滑らせ、壁に設置された『絶対に押すなよ』と注意書きがされたボタンに手を突き、天井から振ってきた投網に捕まり盛大にすっ転んだ。

「タライにパイ投げ‥‥なんという80年代コント」
 発動したトラップを遠目にした智弥がぽつりと呟く。智弥はターゲットを捉え、かつ、菫の暴走を抑えるためのトラップ作りに余念がない。学園内から材料を調達し見事に設置して見せていた。

 思いもよらず自爆した雫にニートは慌て、空は期待通りだと感心した。
「‥‥ぅ‥‥」
 もそりとようように身体を起こすと雫は涙を堪えた様子でしゃくりあげる。
 普段の自信満々な姿はどこへいってしまったのか、細い肩を振るわせ、俯き、スカートの裾を両手でぎゅっと握りしめる。
「‥オ、オイ‥‥どうしたよ‥‥」
 いきなりのことに狼狽えるニート。
 涙をポロポロ流す雫。本人は意図してやったわけではないが、これで心配しない男がいるかと問われれば否である。
 最終奥義『女の武器』
 雫はおろおろと無防備に近づいてきたニートの褌に手をかけ、するりと褌を奪ってみせた。
「‥‥クックック、ハーッハッハ!まんまとかかったな、ガーサイド!」
 赤褌を手に高笑う雫。
「ふっ、だ、騙されたな!私が転んだくらいで泣くものか、バカー!!」
「涙目で強がっても説得力ねぇよ!?!!」
「‥‥肉を斬らせて骨を立つ、というところでしょうか。いや、ホント微妙ですけれど」
 空はメロンにしがみつきながらメイビーと首を傾げた。
 メロンもメイビーと斜めった。


●男の勲章
 柏木は特殊施設棟にいた。
 数々の派手なトラップの陰に隠れていろんな物をやり過ごそうとしていたのである。
 彼にしては非常に消極的な行動だったが、これは致し方ない。
 普段の下着とは勝手の全く違うトランクス型の水着を着用しているため、どうにも己の主兵装あたりが心もとないのだ。この違和感と不安さは女性にはわからないだろう。
 ちなみに、水着は極太毛筆調で『漢』とプリントされたトランクスであり、舎弟に貰ったものだそうだが、どこで売ってるんですかそれと問いつめたいくらいセンスが光る一品だった。
「‥‥先輩、柏木先輩」
「ぬぉ!? ‥‥なんじゃ、おまえけぇ‥‥」
 そっとかけられた陸人の声に大仰に肩を振るわせ、それから安堵の息をもらす柏木。
「残ってるのグンベ先生と僕たちだけみたいですよ。さっき、ニー‥‥ガーサイド研究員も捕まってましたし」
 ソウジは無月と現在進行形で今祭りのベストバウトを繰り広げている。
 巨大ピコピコハンマーvs巧みな体捌きの攻防は一進一退で、どちらに軍配が上がるかわからないという名勝負にギャラリーが沸き立っていた。
「む、そうか。そろそろ年貢の収め時かのぅ‥どうせなら強敵と戦って散りたいもんじゃ」
「散るって、そんな大げさな‥‥」
 柏木は微妙な表情を作り低く唸る。その時、二人の背後から声をかけた人物がいる。
「まだ取られてなかったのか。安心したぜ」
 灯吾だ。柏木と陸人を見つけても、奇襲をかけるのではなく正々堂々と勝負を申し込む姿に、今や絶滅が危惧されているスポーツマンシップを見ることが出来た。
 それはそれとして。
 柏木はばっと振り向くが、直後に居心地が悪そうにそわそわとしている。その、らしくない所作に灯吾は首を傾げた。
「なんか落ちつかねえな?どした?」
「俺の主兵装が落ち着かんのじゃい!!」
「‥‥あー‥‥」
 男らしく男らしい事情を言い放った柏木に灯吾が同意を示す。そういうことなら仕方ない。だってそういうものなのだから。
 ついでに下着をモロ見せしているかのような褌姿が恥ずかしいという理由もあるのだが、それは内緒にしておきたかった柏木である。
「い、いやー、大丈夫だよ、あの子には内緒にしといてやるからさ♪」
「ちょっと、理解があるフリして追い打ちかけてますよー!?」
「そんなことはどうでも良い!俺が勝ったら褌を貰う!」
 陸人のツッコミをさらっと流した灯吾は柏木にズビシッと指を突きつける。
「望むところじゃあ!」
 また柏木もそれに応えぐっと握り拳を作る。

 ここからは拳と拳のぶつかり合い。
 灯吾と柏木による真っ向勝負が開始される。
 夕焼けの河川敷がよく似合う。民家の軒先では柿の実が鈴なりに揺れ、秋風が橋を渡る電車の音を遠くから運んでくる。そんなロケーションがきっとよく似合う。

 だが、ここはカンパネラ学園。

「見つけたぞ、こんにゃろめー!」
「おぅわ!!」
 その場に学園内部をさんざんに駆け回った菫が飛び込んでくる。
 勿論、柏木を狙っての行動だったのだが、真剣勝負で立ち位置がくるくるとめまぐるしく変わっていたために、渾身のフライングクロスチョップは灯吾の方に炸裂した。
「む、これは柏木ではありませんね!?ごめんなさいでございますことよ?」
 菫の謝罪にゴホゴホとむせながら灯吾は大丈夫とジェスチャーで答える。
「‥‥ふ‥これ位でリタイアしてちゃ、アイツ(柏木)のダチなんて名乗れねえよ」
「おまえっちゅうやつぁ‥‥」
 男の友情を確認し合う二人。だが、現実という荒波は彼らをまとめて飲み込む。
「東野さん、あなたの死は無駄にしない」
 満を持して智弥のトラップが発動した。
 バレーネットを利用した吊り上げ式捕縛罠だ。
 と、そこへ
「さぁ、命が惜しければ褌を置いていけ〜♪」
 あぬびすのぬいぐるみin白虎がばたばたと薄暗い廊下の向こうから駆けてくる。
「わぁっ!こないでください!!」
 悪霊退散!!とばかりに陸人が自己防衛のための道具として持ち込んでいたサラダ油を廊下にぶちまける。

 そっからが混沌の始まりだった。

 つるっと滑った白虎に智弥が巻き込まれ、更に菫も巻き込まれたが転んでなるものかと灯吾と柏木の入ったネットにしがみつき、その拍子にネットが重みで外れダイブイン油だまり。落下の勢いでカーリングのストーンが如くつぃーっと滑ったネットはその場にいた人間を巻き込みながら、ひと塊となって廊下を進む。事態に慌てた陸人が止めようとしたが、結局巻き込まれた。誰か止めてと言ったところで止まらない。その先にはメロンと空、雫とニートがいた。メロンはひらりと回避したものの、雫とニートは見事に塊に飲まれ、雫が仕掛けていた土曜八時トラップ、小麦粉ゾーンでようやく止まった。

 なんだか仲良く粉まみれになった一同。
 サラダ油から小麦粉。順番が違ってたらきっと天ぷらになってた。


●祭りが終わって日が暮れて
 やがて競技の終了を告げる合図が響き、簡易ながらも閉会式が行われた。
 優勝者はもちろん無月であり、準優勝はアークウィングだった。
「何ともバカらしいイベントだったけど、バグアとの戦争の真っ最中にこんなイベントができるのは、まだ希望があるからかな‥‥なんてね」
 アークウィングは記念品として『メカメロンパン』『【雅】赤褌』を手渡されクスクスと笑った。

 酷い有様になった一同はカンパネラの湯で汚れを落とし、着替えを終えるとそれぞれが思う人と思うように祭りの後を過ごす。

「‥‥柏木お疲れ。飯食いに行こ」
「おう。‥‥なんぞ、今日はほんに疲れたのぅ」
 灯吾と柏木は肩を組み、お互いの健闘を讃え合いながら学食へと足を向けた。

 夕日に染まる鐘楼の下、ベンチに腰を下ろした二人は塒へと急ぐ鳥の影を見ていた。
「楽しかった? 菫?」
「‥‥ぅん。ストレス発散になりました、よ」
 恋人だけに向ける甘く爽やかな智弥の笑顔に、菫は頬を染め満足そうに目を細める。菫はどんな時でも自分を受け入れ、見守ってくれている智弥の存在を、口にはしないがとても大切に思っていた。
 日が傾き寒さが増して行くが、そっと重ねられた手はとても穏やかに暖かかった。

「おい」
 影を長く曳きながら、ほんの少し肩を落として学園の門を出て行こうとする雫をニートが呼び止める。
「ぬ、何だ。慰めなどいら‥」
 ニートは有無を言わさず雫に『ミニメロンぬいぐるみ』を押しつけ、肩を軽く叩いた。
「何かしらんが、元気出せよ」
「お、大きなお世話だ!‥‥だ、だが礼は言っておく‥」
 受け取ってしまったぬいぐるみに視線を落としながら、雫はぶっきらぼうに口にした。
「あれですね。ニートさんはかなりのお人好し属性ですね。恋愛ゲームだと『いい人』ポジション止まりの」
 その様子を一部始終見ていた空はそんな人物評を下す。隣にいたメロンが同意を示すように上下にぴこぴこ揺れた。



 それで肝心のデータだが。
「これだけ集めて足りないって‥‥どういうことなの‥‥」
 回収された褌だけではデータ復元に足りなかったようです。

 今後、カンパネラ学園ではさらに褌を絡みの騒動があるとかないとか。


 ‥‥ないかな。