●リプレイ本文
●Croeso i Ynys Las
短い夏の喜びに湧くここはグリーンランド。
長く雪と氷に閉ざされていた大地に太陽の光と温もりが届き、一斉に芽吹いた緑の上で踊る野生の生命の姿は他に喩えようもないくらい素晴らしいものであった。
遮るもののない広大な平原を渡る風ですら喜び浮き立っているような、そんな気持ちにさせる何かがある。
だが、この際グリーンランドの季節の叙情などどうでもいい。
ホントどうでもいい。
●だって夏だもの
「‥‥変態さん?」
周囲の警戒を行いながら注意深く移動を続けていた幡多野 克(
ga0444)は双眼鏡で確認した前方に奇妙な生物を確認して小首を傾げた。
そこにいたのは夏物のセーラー服を着てエア安来節を演じている筋骨逞しい男だった。
頭は長い耳につぶらな瞳、プリティーな鼻と前歯を持つ謎の生物ウワギだ。ウサギによく似たウサギのような何かだ。
セーラーの襟部分とプリーツスカートは何故かピンクでスカーフは黄色。こんなセーラー服が似合って許されるのは二次元の美少女のみであろう。
「深く‥‥関わりたくない‥‥感じ‥‥。早く倒して‥‥帰ろう‥‥」
仲間に対象を発見したことを告げつつ、克はキメラの姿に脱力し呆れ返った。
「一体このグリーンランドには何が潜んでいるというんだ‥‥」
春先に変態キメラ退治をしたことのある寿 源次(
ga3427)遠い目をして呟いた。
出発前に源次はグリーンランド基地にて周辺の詳細情報を得ていた。どのような地形の場所なのか、キメラを発見した時の状況はどうだったか、現地までの道のりに障害はないか、雪解けの影響で足場はどうなっているのか。
それなりの手間と時間は掛かったが、こうして得られた情報によって現場までは何のトラブルも無く実にスムーズに到着することができた。気配りの出来る男の本領発揮というところか。更にこの時期の見所スポットをそれとなく聞き出しているところなど抜かりはなかった。
その情報収集の際に源次は春先以来、数度『おそましいキメラ』が出現していることを兵士から聞き心から同情した。
「‥‥心中、お察しする」
そろそろ『おぞましいキメラ(笑)製造プラント』が存在することを疑った方が良いのではないかと思う源次だった。
思い出したように変態が現れるというこの現状、二度と世間に出てこないよう臭い物には蓋をしとけと、そう思わずにはいられない。
さて。どのような外見であろうともキメラはキメラ。油断は禁物である。
覚醒し、それぞれ武器を手にして慎重に近づいて行く。
近づくにつれてはっきりとして行くその姿。
「‥‥ほう、切り捨てがいのありそうなキメラだな。私の機械剣のサビにしてくれる」
鳳凰 天子(
gb8131)がふふん、と自信満々に意気込む。意気込むついでにぼそりと呟く。
「大体ウワギってなんだ?ウナギなのかウサギなのか、それとも上着なのか。パーカーとかセーターにでも包まれているのか?今日日田舎の小学生でもそんなことはせんぞ」
ウワギはウワギです。謎の生物です。
「‥‥なんだこれ‥‥動きがあるとさらにキッツイね‥‥」
矢神小雪(
gb3650)は愛用の【OR】フライパン・アサルトで口元を隠しながらウンザリといったように呟く。
その場にいた全員が同様の感想を抱いたであろうそんな中、獅子河馬(
gb5095)は何故かセーラー服を着ていた。
セーラー服でキメラの気を引く作戦、であるらしいのだが、それがボケなのかマジなのかそれともそういう趣味なのか。その辺がまったくわからずツッコんでいいのかそれとも励ますべきか、同行している傭兵達は何も言えなかった。本人はいたって真面目な顔をしており陽動を行うつもりのようである。
「‥‥まあ‥‥、夏ですね‥‥」
いろんな意味で何をどうどこから言ったら良いものかと流離(
gb7501)がため息とともに零した。
実にいろいろなキメラさんがいらっしゃるものですね、と感心もしているが。
「しょうがねえ、夏だからな‥‥」
流離に同意を示し自分を納得させるようにそう口にした東條 夏彦(
ga8396)
傭兵になって以来、何度かキメラと戦い、斬り捨てて来たが少なくとも変態ではなかった。果たして自分はあのキメラを目の前にしてやる気を出せるのか。答えは否だろう。試し斬りにはちょうど良い相手だとは思っていたが、実物はどうにもこうにも。
「月詠で斬るのが勿体無いと感じるのは、何故だろう‥‥」
克の呟きに大きく頷く夏彦であった。
このように戦闘前から大きく気力が削がれる傭兵達であったが、気力の減退も突き抜ければ怒りに変わるもので
「バグアめ‥‥なぜこんな変態を‥‥視覚で攻めるタイプですか!?ふざけた真似を!」
握った拳を振るわせながら怒りを露わにする式守 桜花(
gb8315)はリミットブレイク寸前だった。
こんななんだかんだがあって、いよいよ八人の傭兵vs変態キメラの戦いの火蓋が落とされる。
●男なら体一つで魅せてやれ
戦闘可能距離にまで接近するとますます明らかになるキメラの姿。
明らかにしたくなくても明らかになってしまうのだからコレはもうしょうがない。
ぱっつんぱっつんのセーラー服からは見事な盛り上がりを見せる大胸筋が今にもこぼれ落ちそうだ。ある意味ではムチムチプリンと言えよう。丈の短い上着から覗く割れた腹筋、ミニ丈のプリーツスカートから伸びるごつい太股。健康的にもっさり生えている毛臑が風にたなびく。
傭兵達に気が付き、歓迎とばかりにうっふん悩殺ポーズでセクシーにぬめぬめ動くその姿。露わになったあまり日に焼けていない白い肌が真夏の太陽の下に晒されなまめかしい‥‥わけがない。
いちいち視覚に訴えてくるこのおぞましさのために傭兵達は通常よりもより多くの精神力を必要とした。
「じ つ に き み は 馬 鹿 だ な」
「そうですね‥‥まさに馬鹿ですね‥‥」
酷く遠い所に視線を向けながら源次と流離の科学者コンビは呟いた。
それが聞こえたのかどうか。なにおぅ!?このすこやかな美がわからぬとはけしからん!!!とでも言いたげにキメラは機関銃を乱射する。照準も定めていないバカ乱射だったが、それだけに厄介なものがあった。
弾幕を避け、あるいは防御しながら、キメラのふざけた外見とは裏腹の攻撃力の高さに傭兵達は気を引き締める。
キメラは機関銃を左腕と腰で支え、右手には日本刀を逆手に持ち傭兵達と対峙している。一対多という逆境にあっても怯む様子もなく、堂々と力強いその姿はハリウッド的正統派ヒーローの貫禄すら感じられた。
格好は残念としか言いようがなかったが。
ほぼ間断なく撃ち続けられる機関銃の的にならないためにも傭兵達は密集を避け多方面からキメラに向かう。
雪解けにより水分を多く含んだ地面はぬかるみ、足場は良いと言える状態ではなかったがそれをしっかりと見極め、着実に距離を縮めて行った。
やがて克がバックラーで弾丸を弾くと同時に大きく踏み込んむと月詠を振るい機関銃の銃口を跳ね上げる。キメラは体勢を崩し2,3歩後ろに下がった。
弾幕が途切れたこの瞬間に傭兵達は一気に接近戦へと持ち込み、攻撃を開始する。
「流石、キレが違うな」
源次は人体の急所を狙い澄ました流れるような克の一刀に感嘆の声を上げた。
迅雷でキメラの側面に回り込んだ桜花は、その速度に乗ったまま身体を回転させ鋭く斬りつける。
「こんな変態をのさばらせておくわけにはいかないんですよ!」
この世の背徳、穢れ、醜さの権化を抹殺するべく一刻も早く処理してしまわなければと月詠を振るう桜花。
「こんなもの見続けるなんて冗談じゃありませんっ」
刀によるキメラの力任せの反撃を軽く受け流し、カウンターを叩き込む。
キメラへの攻撃が続く中、源次も毛脛ごと電磁波で焼いてやりたいとうずうずしていたが、仲間のことを考え後方に留まり補助に徹することを決めた。
キメラには練成弱体を行い前衛の攻撃が効果的に作用するように働きかけ、更には同じサイエンティストである流離とも協力・分担して仲間への練成強化と回復を念入りに行う。
二人は何かがあったらすぐフォローできるように前衛に立つ仲間の様子を一時たりとも目を離すことなく注視していた。
「よしそこっ‥‥あぁ、惜しい」
「これは‥‥フェイント、でしょうか」
キメラと仲間達の攻防に手に汗握る二人は少年漫画で言う『解説者ポジション』にすんなり収まっている。
前衛に比べて派手さこそ無いものの、これは重要な役割である。
仲間を後ろで支えながら、第三者に状況と知識をそれとなく伝え、戦闘の臨場感を表現し引き込むというのは生半可な人間に出来ることではない。
桜花の攻撃に気を取られているその間に天子は迅雷で背後に回りこみキメラの包囲を完成させると、機関銃を支えている左腕を狙い機械剣を振り下ろした。キメラは迫る光の刃をはね除けようとしたが、天子は受け止められる手前で刀身を消し防御を空振りさせる。予測していたあるべきはずの衝撃が存在せず体を泳がせたキメラに鋭い一撃、通称『レーザーソード切り』を見舞う天子。
左手を切り落とされたキメラは機関銃を取り落としよろめく。
すかさず、河馬のグラーヴェが突き出され、小雪の【OR】フライパン・アサルトが更に続く。
「こんがりにするけどいいよね?まあ、答えは聞いても変えないけど〜」
SESの他に加熱機能まで搭載されている特製フライパンがキメラに突きつけられる。
「伊達にフライパン使ってないんだよー」
どんなゲテモノ食材でも上手く調理してみせるという料理人としての気概が表れたのか、加えられる攻撃には実に激しく熱いものがあった。
怒濤のような攻撃に晒され、疲弊し始めたキメラにむかって夏彦が斬りかかる。
忍刀「颯颯」で小手調べ、とばかりに浅く斬りつけ距離とキメラの余力を計ると、いったん下がり武器を忍刀「自来也」に持ち替えて不敵に笑う。
「これを譲ってくれた奴にこの刀の活躍を見せてやりたいんでね」
言うや否や地を蹴り、キメラの背後をとると極限にまで高めた瞬発力を用いて目視では捉えられないほどの速度を持った一撃を放つ。
派手に吹き飛ばされ、落ちたキメラは地面を削りながら数メートルほど滑りようやく止まった。
ガクガクと震えながらどうにか立ち上がったキメラはCASTオフ!!とばかりにセーラー服を脱ぎ捨て黒いブーメランパンツ一丁の姿となった。咆吼をあげながらパンツのウェスト部分を限界にまで伸ばし両肩にかける。
満身創痍でキメるアブドミナル&サイ‥‥正面を向いた状態で両手を頭の後ろに回し、腹筋と大腿筋を強調するポージング。
まだまだイケんぜ!とアピールするかのようにキメラは腰を振りセクシーポーズ。チップはパンツに挟んでね。
** 以降の模様は全年齢向けサイトに掲載するにはあまりにも不適切であるため、割愛させていただきます **
「グリーンランドの夏は儚い力強さがあって好きだな」
自然の静寂を取り戻した大地に仁王立ち、満足そうに腕を組む天子。
背後にはほんの数分前まではキメラだったものが転がっているのだが、そんなものの存在はキレイサッパリ忘れることにしたようだ。
克はおもむろに持参してきた塩一パックを取り出し封を切るとバッサバッサと振りまいた。
「ん‥‥これでよし‥‥。忘れてしまおう‥‥こんな気色悪い‥‥キメラ‥‥」
穢れを塩とともに大地に捨てた克は蒼穹のはるか遠くを見つめながら呟いた。
「‥‥ええ、全て忘れて早く基地に帰りましょう」
流離の疲れ切ったかのような呟きに全員が力無く頷いた。
●美味しいものがあればそれが幸せ
「は〜い、お待たせ〜【子狐屋】特製料理だよ〜」
笑顔の小雪が大皿を両手に調理場から現れる。その後ろから天子と桜花も同じく大皿を手にして続く。
ここが僻地の基地であるとは思えないほどの豪華な中華料理が質素なテーブルの上に並んでいった。
皿や箸、フォークやスプーンを流離が配膳して行き、克と源次、夏彦と河馬がそれぞれ不慣れな手つきではあったが茶を入れる。
みんなに手料理をふるまいたい、という小雪の心意気に応え、仲間達がそれを手伝っていた。
娯楽の乏しい基地勤めでの最大の楽しみのひとつは食事である。
思わぬところで傭兵達から供された心づくしの料理ともてなしに感動で打ち震えるグリーンランド基地の兵士達。
「おかわりもちゃんとあるからね〜」
小雪の声に食堂がさらなる歓声に包まれる。
賑やかに活気溢れる様につられるようにして傭兵達の顔にも自然と笑みが浮かんだ。
「すごく美味しいです。私、こんなの作れません」
食事の相伴に預かりながら、後で教えてもらおう、と心の予定帳に書き込む桜花。
美味しい食事と仲間達との楽しい語らい。快い充足感を感じさせるひとときに傭兵達は、お腹も心も一緒に満ち足りた気分を味わっていた。
夏という開放的な季節も陽気な雰囲気に輪をかけたのかもしれない。
幸福な空気に包まれるグリーンランド基地をうつくしい夕焼けがあかあかと照らす。
数時間前に何かちょっと変なことがあったような気もしたけれど、変態の姿を見た気もするけれど、今日のグリーンランドはだいたい平和でした。