●リプレイ本文
●決戦!サンタカタリナ島
「これはアレか、外灯に集まってくる羽虫の群れみたいなモンか。細かく狙う手間は無いとは言え‥‥キメェ」
大仰に渋面を作って不快感を露にする寿 源次(
ga3427)
「空を飛ぶキメラにはいい思い出が無くてな‥‥確実に潰す!」
どうやら深い私怨を抱えているようだった。
現場となった飛行場周辺にはキメラを引き寄せる何かがあるのか、それとも縄張り意識でもあるのか。理由は定かではないが、上空に集まったハーピーの群れが舞い飛び黒々とした影を地上に落としている。
飛行場と空き地とを隔てる防護柵を境界線として、人類とキメラが一触触発の睨み合いを続けていた。
「この大掃除は骨が折れそうだ」
空を見上げ肩を竦める御山・アキラ(
ga0532)
「キメラが残っていると聞きましたが‥‥。大規模作戦時に、この区域の掃討に参加した身としては放って行く訳にもいきません」
掃討作戦に参加しながら、キメラを根絶することができなかったことに責任を感じていた鳴神 伊織(
ga0421)は形の良い眉を顰めて憂う。
「おお、これは‥‥。大変でしょうけど、スコアの稼ぎ甲斐がありそうですね」
「これだけ、いると、キメラでも、壮観な、気が、します、ね‥‥。ともかく、頑張って、倒しちゃい、ましょう」
「あぁ、是ほどとは思わなかった‥‥が。千里の道も一歩からと‥‥古来からも言うだろう?」
ナナヤ・オスター(
ga8771)はのんびりした調子で額に手を当て、遠くを見るような仕草で伸び上がった。ルノア・アラバスター(
gb5133)もその隣で空を見上げ、頑張るぞ、と小さな拳を握る。大人びた口調で皇 流叶(
gb6275)がルノアに同意を示し頷いた。
「クスクス‥‥獲物がたくさん‥‥」
同じく空を見上げていたJ.D(
gb1533)が、やがて来る戦闘に高揚する精神を抑えきれないかのようにほくそ笑む。
防護柵のフェンスにもたれかかり、先ほどから眉一つ動かさずにキメラの群れをじっと見据えているブレイズ・S・イーグル(
ga7498)に旧知の友人である源次が声をかける。
「久々に会ったと思えばずいぶん素っ気無くなったな?」
「‥‥そうか? ──‥そうだな‥‥退屈しないで済みそうだな」
ブレイズは源次の笑顔から顔を背け、もう一度空を見上げキメラの姿を確認するとバイザーを降ろした。どこか他人を拒むような態度に源次は小首をかしげる。
と、そこへ陽気な笑い声が響いた。
「ヘイ、よく来てくれたネ!」
依頼者である兵士二人が挨拶とばかりに片手を挙げテンションも高く近づいてくる。
「あ、あぁ‥‥敵は自分達が引き受ける。だから建物の守りは任せた。何かあればすっ飛んでいくから無線機に連絡をくれ」
暑苦しい勢いにやや引きながら源次が応答すると、兵士はオーバーなまでのリアクションで感動を示した。
「俺達のことも考えていてくれるとは、流石に頼もしいな!」
「A−hah!!リンダの言う通り傭兵に任せて正解だったな!よろしく頼むぜ!」
イェア!と上機嫌で何故かハイタッチまでする兵士二人。
「あの警備の兵士さん二人、この状況下でも談笑しているあたり、よほど軸がしっかりしているとお見受けします。今の戦況には彼らのような方が必要となっているのかもしれませんね」
ナナヤは感心したようにうんうんと頷き、持ち場へと戻る兵士の背を穏やかな表情で見送った。
●狩リノ時間ダ
防護柵の外側に出てきた、自分達を排除しようとする傭兵達の存在に気がついたのか、一匹のキメラが旋回しながらけたたましい鳴き声を上げる。
キメラの数が通常よりも多いだけに傭兵達は動きやすさを考慮し、三隊に分かれて掃討に取り掛かる。
こうして隊に分かれたとはいえ、背後など死角を補いつつ、各々の戦闘行動を阻害しないような形でスムーズに動いているのはさすがと言う他無い。
伊織の銃が火を噴く。
射程内ギリギリ、遠間からの一撃だったが銃弾はキメラの翼を貫いた。バランスを崩し落下する姿にもう一撃。止めを刺され重力に曳かれて落ちる仲間を尻目にキメラが滑空し伊織に迫る。
鋭い鈎爪にも伊織は取り乱すことも慌てることも無く鬼蛍の柄に手をかけ鯉口を切る。
「迂闊ですね‥‥お陰で手間が省けました」
キメラの爪が届く一拍前、抜き身の白刃が煌く。
一刀両断。
真っ二つになったキメラが地面に落ちた。
攻撃直後の隙を埋める形でアキラがマシンガンの引き金を引く。キメラが攻撃のために飛ばした羽と弾丸が中空ですれ違う。羽は即座にそこから飛び退いたアキラの足下に突き刺さり、弾丸は滞空していたキメラの眉間を打ち抜いた。間髪入れずにキメラが接近してくるが、アキラは武器を持ち替え淡々と迎撃を行う。
目の前の敵に対応するアキラに向かって上空にいるキメラが羽を飛ばそうと翼を揺するが、銃に持ち替えた伊織がそれを阻止する。
「手向けの一撃です‥‥もう逝きなさい」
威力を付与された弾丸は簡単にキメラの半身を吹き飛ばした。
伊織とアキラは互いに死角をカバーし合う形で的確に、そして確実にキメラを落としていった。
一匹を倒す合間にもう一匹が迫ってくる。
現状、数で勝るキメラは力押しを続けている。あるものは刃のような羽を飛ばして、あるものは間近に迫り鈎爪を振りかざして。 そこに連携と呼べるものはなく、ただ、破壊の本能に従っているだけであった。この場に集められたキメラは急造されたものであり、数こそ多いものの個々の能力は低い。
そんなキメラに対し、傭兵達は乱戦の様相を呈す中にあっても冷静に仲間の位置、行動を把握し合い、効果的に動いていた。
急造されたキメラごときが歴戦の傭兵達の相手になるものではない。
「さあ、私が満足するまで狩り尽くしてあげる」
覚醒したJ.Dが狂気に満ち満ちた笑みを浮かべ上空へ向けてショットガンをぶっ放す。羽を飛ばそうと滞空していた一体に散弾を浴びせ、その衝撃に落下するキメラを追って走り、キメラが地に落ちる前に月詠で斬り捨てた。
「クス‥‥さよなら。次は誰かなぁ♪」
刀についた血を払いながら更なる獲物を求めて振り返る。返り血を浴びて紅に染まる頬に笑みを乗せて楽しそうに。
仕掛ける攻撃はどれも急所狙い、原型が無くなるまで執拗に止めを刺す。覚醒により歪んだ人格へと回帰していたJ.Dは、今ここに殺戮の手立てを惜しむことなく披露していた。
「あは、あははははっ!」
獲物を切り刻み、恍惚とした表情で高らかに笑う彼女の背後を狙ったキメラを超機械ζの電磁波が焦がし焼いて行く。
「上から来るぞ、気をつけろ!」
警告の声を上げる源次。J.Dのカバーに入ったその隙にキメラが横合いから襲い掛かる。鋭い鉤爪が源次の肉を傷つける寸前、飛来した弾丸がキメラを吹き飛ばし息の根を止めた。
「‥‥っとスマン、助かった」
後方を振り返ればナナヤが軽く手を振っていた。
「石を投げればキメラに当たり、銃を撃ってもキメラに当たる‥‥っと」
どこかのんびりとした調子は平素と変わらなかったが、驚異的ともいえる速度と正確さを持ってナナヤは銃を扱う。
「1、2、3‥‥弾数的にまだいけそうですね、もう一頑張りしますか」
上空へ逃げた手負いのキメラや、J.Dや源次の死角に回ってしまったキメラを撃ち落とすなどの援護しながら機を伺い、徐々に射撃のテンポを上げて行く。
機械職人のような精密射撃を行うスナイパーが狙うのはワンショット・ワンキル。
その狙い通り彼が引き金を引くたびに、キメラは急所を貫かれ我が物だった空から突き落とされていった。
敵はキメラだ。他星から来た悪辣なる侵略者の手駒。必要とあれば作り出され遺棄されるだけの使い捨て兵器だ。容赦の必要も無ければひとかけらの憐憫も罪悪感も良心の呵責も感じる必要は無い。
大空を我が物顔で飛び回る下衆な便所コオロギ野郎のSNOT FACEに正義の鉄槌をぶち込む傭兵達の姿に防護柵の側に野次馬として集まっていた兵士達の声援が飛ぶ。
「‥‥実力は噂に聞いている。援護が必要な場合は言ってくれ」
「ああ、頼りにさせてもらおう。だが、心配は無用だ」
キメラの群れの中に切り込んで行くブレイズと流叶。荒削りな力任せの攻撃で敵を叩き伏せて行くブレイズに対し、流叶は戦場を駆ける一陣の風のように軽やかに戦端を切り開いていった。
それを的確なカバーで支えるルノア。彼女は前へと出て行く二人から一歩引いた所に身を置き、援護と後方警戒に努めていた。射線の確保はもとより、同じく銃による援護を行っているナナヤと競合しないよう、常に己の位置に気を配っている。
キメラの単調な攻撃を鮮やかに回避しながら、流叶はニヤリと戦いを楽しむかのような笑みを浮かべてみせる。
「そろそろもう一速‥‥早めてみようか?」
この挑発的な態度に触発されたのか、キメラたちは流叶を挟撃しようと二匹同時に迫るが、鉤爪が捉えたのは黒い瘴気の残り香だけだった。攻撃をしくじり大きな隙をみせたキメラは、必要最小限に洗練された一瞬の動作でそれぞれ首と胴体を刈られて地に落ちた。
それならばとキメラは更に数を増やして取り囲み、捉えようとするが流叶は雷が如く驚異的な速度とルノアの援護射撃によって易々と包囲から抜け出していた。
「この程度で──捕らえたと思ったかのかい?」
不利を悟ったキメラは翼をばたつかせ上空へと昇ろうともがく。
「逃がすと、思うのかい?」
流叶がエネルギーを最大限に付与した天剣を振るうと、風切り音とともに炎のような光を曳いた衝撃波が逃げ遅れたキメラに襲い掛かり、その身を切り裂いた。
流叶の刃から逃れ上空へと退いたキメラの一団をルノアのガトリング砲が掃射する。通常よりはるかに強力なエネルギーを与えられた弾丸はキメラを次々と打ち抜いて行く。
この銃撃が作った僅かな猶予にブレイズは腰を落とし、コンユンクシオを逆手に持ち替え前方、未だ残るキメラの群れを見据える。
「炎は派手なだけでは駄目、らしいんでな‥‥」
静かに呟くブレイズの身体から炎のような赤いオーラが立ち上り、凝縮されたエネルギーがコンユンクシオへと伝わる。
「まとめてあの世送りにしてやる‥‥ファフナァ──‥ブレェェェイ!」
裂帛の気合と共に放たれた斬撃は紅蓮の炎の塊となって叩きつけられる。衝撃に耐え切れず四散するキメラ、連撃に巻き込まれ両断されたキメラが次々に地上に落ちた。
「‥‥こんなもんか」
剣を正眼に構え残るキメラを威嚇しながらブレイズはふ、と息を突く。
「その炎は以前と変わら‥‥いや、前以上、か?」
一瞬、戦場に閃いた紅蓮の光に目を細め、感嘆するように源次は呟いた。
「っ!?空港へ、向かう、ハーピーが、いますっ!」
その時、後方の警戒をしていたルノアが、矛先を変えたキメラに気付き仲間達に警告を発する。
最期の悪あがきとばかりにキメラ三匹が防護柵を乗り越え『殺しやすい人間たち』を狙ったのだ。
咄嗟に無線機に手を伸ばし、空港施設に連絡を入れるルノア。万が一のときはすぐに退避できるようにと。
だが、そこにいるのは勇猛果敢なるUPC北米軍兵士。野次馬だろうと兵士。空港に侵入した敵は即座に排除せよ、との命令を受けていた。
「スットコドッコイ豚野郎なんぞに好き勝手やらしゃしねーぞ!!!」
「Sir!OKEY!!Sir!」
陰湿根暗のオカマの腐ったが如きとんだチキン野郎を迎え撃とうと瞬時に隊列を整え、それぞれが手にしていた銃器を構える。アサルトライフルに始まり、ヘビーマシンガン、ATGMまで揃っていたのはもうなんというか。FTLの合図に従い発砲開始。見事なまでに火戦をキメラに収束させていた。
「Kill them all!!」
兵士達が持っていたのはSES未搭載の銃器であり、フォースフィールドを打ち破ることこそ出来なかったが、キメラの前進を止め、押し返すには十分な火力と説明しがたい勢いがあった。
キメラが防護柵の外に押し返した瞬間にFTLは発砲停止の合図を送り、傭兵達にサムズアップをしてみせる。
呆気にとられる傭兵達だったがすぐさま気を取り直し、能力者ではない人々に矛先を向けた草むらにひりだされたク○にも劣るサノバ○ッチの薄汚いドスコイ豚野郎を殲滅するべく武器を構えた。
そこに容赦は微塵も無かった。
●いつだって空は青く輝く
「これで少しはさっぱりしたかな。空は」
「さっぱりしたな。空は」
「さっぱりしましたよねぇ。空は」
「数が多いので手間取りましたが‥‥それだけですね」
一仕事終えたさっぱりとした表情でさっぱりとした青空を見上げるアキラと源次とナナヤと伊織。
西海岸の突き抜けた空の青とぽっかりと浮かぶ積乱雲の白が目にも鮮やかに清々しい。
だが、その空の下、地上はまさに山屍血河。キメラの屍が累々と落ちていた。
「はぁ‥‥またやっちゃいました‥‥。‥‥楽しかったですけど‥‥」
J.Dは覚醒中の狂気状態を反省するかのようにため息をついた。
「‥‥コントロールさえ出来ているのなら、破壊衝動もまた、力だ‥‥使い道を誤りさえしなければいい」
ぼそりと自らにも言い聞かせるように呟くブレイズ。
と、そこに再び陽気な笑い声が響く。
「HAHAHA!やったな傭兵さん達!!」
「助かったぜ!」
やってきた兵士達は感謝の言葉を口々にしながらキメラの屍をてきぱきと片付けて行く。ハイタッチしたり、口笛吹いたり、ワァーオ!しばらくローストチキンは食いたくねぇなー!!などと陽気にテンション高すぎる言動がそこかしこで見られた。
「連中のあの陽気さはどこから来るものなのだろうな‥‥」
呆れかえった様に流叶は腕を組んで首をかしげる。
「頼もしい、と、思います、けど‥‥」
脳内麻薬出すぎてヤケクソなんじゃないかなあという言葉を飲み込むルノア。
ともあれ。
こうして、サンタカタリナ島、飛行場周辺に群がっていたハーピーは傭兵達によって一掃された。
平和なリゾート地として人々に開かれるのはそう遠くない日のことだろう。