タイトル:戦が出来ぬ!?マスター:アトレイト

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/13 07:03

●オープニング本文


 古今東西の戦争において、すべからく重要なものは何か。
 それは、食糧である。
 あらゆる生き物は何らかの糧を口にすることで命を長らえており、それは人間であっても戦線の兵士であっても超人的な力を得た能力者でも、その原則に例外は無い。
 能力者たちの覚醒にタイムリミットが設けられているように、国士無双の英雄であっても、空腹で戦いを続けられる者はいない。短期決戦で決着をつけるのならばともかく、長い目で戦いを続けるのならば十分な食料なしにして継戦は不可能だ。
 そういうわけで、食糧という物は非常に重要である。


「‥‥だが、どういう事なのだ? 我々の基地に食糧が届かなくなって既に2週間以上だ」
 そう部下に愚痴りながら、司令のような男が黙々とあちらこちらから届けられてくる書類に目を通している。しかし、書類を流し読みする司令の目にはどこか生気に欠けており、同じく部下の兵士も何やら元気が無い。その理由をつまびらかにするかの如く、『ぐぎゅるぎゅ〜』という間の抜けた腹の虫の鳴き声が聞こえる。
 要は、食糧が無いのだ。
 司令の言葉への返答として、部下の兵士の方も冷静な考察を述べる。
「まぁ、バグアによる物資輸送の妨害でしょう。我々もだいぶ敵に対して粘っていますから、正攻法じゃ無理だと痺れを切らして兵糧攻めにでもかかったのでしょう」
「それは分かっているのだ。しかし、だからといってこのまま手をこまねいていれば名誉の戦死より先に不名誉の餓死が先だぞ!」
「わ、私だって今日の朝食はパンの欠片だけなんですよ! 空腹が限界になる前にこの状況を何とかしたいのはこの基地の上から下に至るまでの総意です!」
 空腹も相まって生じたイライラを大声でぶつけ合う両者。両者ともこのイライラで遠慮という物を失いかけているようで、思わず乱暴な言葉を吐いた後互いに気まずさを感じたのか、二人は言葉を失う。
 そして、怒鳴り声の後に二人が何かを言おうと口を開いた瞬間に響く、『ぐぎゅるぎゅるぎゅ〜』という間抜けな腹の虫の鳴き声が再び。
「「‥‥」」
 この滑稽な状況に、司令も部下も思わず二度目の絶句をするが、それがかえって両者に冷静さを取り戻させるきっかけともなった。まず先に口を開いた部下が、今後の方針についての提案を行う。
「‥‥やはり、ここは傭兵を派遣してもらう他に我々が生き残る術は無さそうだ」
「ですね。兵士たちは士気も低下しており、エネルギー不足も相まって万全な戦闘は無理です。ここは能力者に頼むしか無さそうですね。さもなくば、我々は動くもの全てにかぶりついてしまいそうです」
「全くだ」
 本来なら笑う状況ではあったが笑う体力も惜しかった司令は、無言でUPCに傭兵の派遣を依頼する旨を記述したメールを打つ。
 程なくして返信が届くと、司令はこれまた無言で送信されてきたメールを開きざっと文章を目に通すと、綴られていた内容を部下に伝える。
「喜べ。ただちに食糧を準備して能力者の護衛をつけ、こちらに送るそうだ」
 その言葉を聞くとパッと顔を明るくする部下。司令の方も満更ではなく、その吉報に思わず口元を緩めていた。
「本当ですか!?これでようやくまともな食事に‥‥『ぐぎゅるぎゅるぎゅるぎゅ〜』
 三度目。
 今度こそ、彼らは物を言う元気を無くしてしまった。


 それから少し後、幌で荷台を覆われた大型の軍用トラックが舗装のされていない山道を走っていた。言うまでも無い事ではあるが、その幌の内には基地の兵士たちが渇望する保存食やレーションを始めとする食糧が満載されている。トラックの両サイドには4人乗りのジープが2台走っており、それに乗っているのはUPCの依頼を受けてULTより派遣された護衛の能力者である。
 トラックを運転するのは傭兵ではなくUPCの兵士。中でも運転している方の兵士は陽気に助手席の方の若い兵士に語りかけ、そちらの若い兵士もどうやら聞き上手なようで彼の返答で話が弾みトラックの運転席の雰囲気は割と楽しげな感じでもあった。
「あぁー、俺も思い出すわ。ロシアでドンパチやってた時にメシが切れて寒いのと腹減ったので散々だった事があってなぁ」
「それは大変でしたね。そう考えると、我々もいち早くこの食料を彼らに届けねばなりませんね」
「そうだな。んじゃ、一丁‥‥ん?」
 ふとサイドミラーに目を向けた若い兵士が、砂埃を上げてこちらに向かってくる何かに気づく。
「大変です、後方にキメラの群れです!」
「げっ、マジかよ!ここは一気に加速して‥‥」
 振り切る、と言おうとした途端にトラックが加速をやめる。いくらアクセルを踏み込んでもギアをいじっても一向に反応しない。
「ちくしょう、エンストか!? まぁいい。こういう時の為に能力者がついてんだからな、先生頼んますぜぃ!」
 運転手の連絡を受けてキメラの影を確認した能力者たちはすぐさまジープを止め、獲物を抜いて向かってくるキメラの群れに対して臨戦態勢を取る。

●参加者一覧

猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN
神城 姫奈(gb4662
23歳・♀・FC
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
ララ・スティレット(gc6703
16歳・♀・HA
マーシャ(gc6874
18歳・♀・HG
上之木 秋水(gc7727
17歳・♀・GP

●リプレイ本文

●糧を守れ

 一刻も早く食料を届ける事が彼らの仕事。
 ――――な訳だが、予想に難くなく邪魔は入るもので。
「ま、その為の俺達なんだから、キメラを近付けず食料はきっちり護る」
 と、宵藍(gb4961)は向かってくるネズミキメラを見据えつつ呟く。右手にサブマシンガンを構えつつ左手は腰の月詠にかけ、いざという時は引き抜けるよう準備は怠らない。
「そうだね。飢えて苦しむなんて、あってはならないもんね」
 その言葉に同意するのはトゥリム(gc6022)。どういう訳か、彼女は普段は物静かなのだが食べ物が絡めば饒舌になるのである。その証拠(?)に、トゥリムが乗っていたジープの荷台には彼女の私物である大量のレーションが積み込まれていた。勿論基地の人々に分ける目的で。
「物資輸送の護衛依頼って聞いてたけど、まさかその敵がネズミとは‥‥」
 と、思わぬ襲撃者に少々驚いているのは神城 姫奈(gb4662)。とはいえ、ネズミは食い意地の張った生き物。そんなのに物資を荒らさせるわけにはいかない。ここはきっちり駆除して前線基地の皆を安心させないと、と意を決して刀を抜く。
「言ってみれば、兵糧攻め特化のキメラって感じなのかしら?」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)がそんな推測を口にすると、神城もそうでしょうね、と彼女に同意する。まぁ、その予測は大体あっているのだろう。だからこそ今までにも食糧運搬が滞っていたのであるが。
 そんな時、【バイブレーションセンサ】にて敵キメラの情報を探っていたララ・スティレット(gc6703)がその存在を捉え、声を上げて皆に告げる。
「っ! 敵の数を確認しましたっ! 10匹ちょうどです!」
 その言葉を受け、彼らは武器を構えて臨戦態勢に入る。
 腹を空かせたネズミたちが、ものすごい勢いでこちらに向かってくる。空腹の兵士たちのため、彼らは負けられない戦いへと臨む。


●ネズミを甘く見ると、死ぬよ

「腹が減ってるなら、遠慮せず鉛弾でも喰らっとけ」
 宵藍は片膝立ちの姿勢を取ると、サブマシンガンの引き金を引いてありったけの弾幕をご馳走にかかる。群を集めるような誘導的射撃によりネズミの突進を防ぐことに成功するも、2匹だけがその弾幕をかいくぐって飛び出し、トラックに積み込まれているご馳走に向かって猛ダッシュする。
「そう簡単には通さないのですよ!」
 と言いつつ色々とネズミの天敵っぽい猫屋敷 猫 (gb4526)が大太刀を振り下ろす。その一撃はネズミの動きを正確に捉え、能力者たちの隙間を掻い潜ろうとしたネズミを両断する。
「左のネズミさんが抜けるですよ!」
「了解! さぁ、心と体に砂を詰め、溺れるように沈みなさい!」
 もう一匹のネズミが通り抜けようとした瞬間、猫屋敷の呼びかけに応えたララが【呪歌】にて突破を阻止する。攻撃を受けたネズミは麻痺状態に陥り、沈み込むように倒れる。
「シュウちゃん、あわせてっ!」
「こちら秋水、任されたよ!」
 ララの呪歌に合わせ、上之木 秋水(gc7727)がネズミに詰め寄り、【疾風脚】を発動しつつ鋭くかがみこみ、蹴り上げる。初めての依頼だからって、ララに弱いところは見せられない。そう決意した上ノ木は打ち上げられたネズミの隙を見逃さず、更に釘バットの一撃を見舞う。
「どうララ! 自分もけっこうやるもんでしょ!」
「シュウちゃん、まだ!」
 秋水がその言葉に反応するよりも早く、神城が瀕死のキメラを下から切り払う。その一撃で完全にネズミは沈黙した。
「ああっ、ごめんなさい!」
「このネズミ、結構しぶといみたいですよ! 甘く見たらいけないかもしれません!」
 その言葉を受け、秋水は再び戦線に戻る。食欲ばかりで動いているネズミとはいえ、むしろ食欲で動いているからこそ凄まじいまでの執念を発揮している‥‥のかもしれない。


「これでも食べてろっ!」
 トゥリムが素早くタンドリーチキンレーションの封を苦無で破り、宵藍の弾幕で足を止められていた群れの中に投げ込む。思わぬネズミの速さに当初予定していた餌による囮作戦が間に合わず半ば苦し紛れの作戦ではあったが、これが意外にも功をなし、8匹のネズミはかぐわしいチキンの匂いに釣られて動きを止める。
 その隙を見逃さず、マーシャ(gc6874)が【強弾撃】を発動し、ネズミのうちの1匹にガトリングの集中砲火を浴びせる。最後の晩餐を味わう暇もなくハチの巣にされたネズミは、あっさりと倒れてしまう。
「うーん‥‥小さい敵は、当て辛いなぁ‥‥」
 1匹を仕留めたはいいものの少々の無駄弾があったことに少々不満を感じつつ、次の目標に狙いを定める。
「この食料は、ネズミに食べさせる為に用意した訳じゃないのよ。お引き取り願いましょうか」
 フローラもマーシャと同様にネズミがチキンに釣られた隙を狙い、【電波増幅】を発動して扇嵐の一撃を見舞う。強烈な竜巻がネズミの群れを散らし、そのうちまともに食らった一匹を強烈に吹き飛ばす。
 散らされたネズミはそれでもチキンに食らいつき、奪い合うようににチキンを貪ると、あっという間に食べつくしてしまった。この食欲には傭兵一同も驚く。これほどの食い意地‥‥なおさら荷台に手を出させるわけにはいかない。
「早い‥‥次の!」
 それを見たトゥリムが次なるレーションを取り出して封を切ろうとするが、そこは宵藍の制止を受ける。
「待て、ここは数を減らすことを優先した方がいい」
「あ、はい、了解です」
 そんなことを言っている間にもネズミの1匹が傭兵たちの間を抜けようとする。しかし、片手に刀を握る宵藍がそれを許さない。斬り上げる太刀筋の一撃が決まると、ネズミは抜け出す間もなくあっさりと両断された。
「ありふれた台詞だが、ここから先は通行止めだ」


 しかし、他のネズミも食糧を求め一気に抜け出そうとする。この一線を越えられたら確実に荷台がやられる――――それだけは阻止するため、傭兵たちは全力で連携を取りネズミを食い止めんとする。
 動きの遅いネズミは距離を詰められる前にマーシャが狙いをつけ、ガトリングの集中砲火で仕留める。同様に猫屋敷も【エアスマッシュ】による衝撃波の重い一撃で踏み込む前のネズミを断ち切る。
 神城は抜け出す瞬間のネズミに狙いをつけ、線で迎撃する切り上げにてネズミを断ち切ろうとするも、その一撃は予想以上に素早いキメラの動きにかわされる。
「くっ、まだまだぁっ! やぁっ!」
 しかし、決して逃すことは許さない。斬撃の勢いを利用した蹴り上げによりネズミの虚を突き、勢いよく打ち上げる。その隙に合わせ、トゥリムが素早く踏み込んで苦無を突き刺す。
「貪欲なネズミ‥‥許すまじ」
 その一方で、秋水が足元のネズミに狙いをつける。それに気づいたララは【ほしくずの歌】にてネズミの混乱を誘発し、動きのままならないネズミに向かって秋水がとどめの一撃を刺す。
 最後に残ったネズミが抜け出そうとしたところを、マーシャが阻む。【電波増幅】にて強化した機械剣「ウリエル」の一太刀にてその背中を断ち切り、寸での所で積み荷を守り切る。
 これにてひとまず襲ってきたネズミは退治した。積み荷を守り切り、一行はほっと胸をなでおろす。
「ネズミさんが猫に勝てる道理など無かったのです!」
 という、胸を張る猫屋敷の勝利宣言とともに。


●第2波

「んー、どうやら能力者さんたちが片づけてくれたみたいだな」
 と、運転手の兵士が猫屋敷からもらった招き猫を撫でつつ呟く。若い方の兵士もそうですね、と相槌を打ちながらもエンストの原因を調べていた。結局単純にキメラが機関部に紛れていただけのようだが。
「しっかし、どうも嫌な予感がするんよねぇ‥‥ん?」
 運転手の兵士はトラックの前方、即ち能力者たちが背中を向けている方面を見つめて顔をしかめる。
 その先には、何やらキメラの影。
 兵士はすぐさまドアを開け、ネズミキメラを掃討したばかりの能力者たちに向かって大声で叫ぶ。
「おい、おたくら! 数は少ないが新手のお出ましだぜ!」


 その声に驚きつつも、能力者たちは再び武器を抜いて駆け出す。
 ララは再び【バイブレーションセンサー】を使い数の特定にかかり、その数が5体であることを、しかしもうすでに間近にネズミの群れが迫っていることを悟る。
「急いでください! もうすぐそこです!」
 その声にせかされ、まず最初に行動に移ったのはフローラ。なるべく味方を巻き込まないように先行して突出すると、【子守唄】の歌声にてネズミたちの眠りを誘発しようとする。
「私の歌で眠りなさい!」
 彼女の歌声にネズミたちがまどろみかけたその時、猫屋敷と宵藍が【迅雷】を発動し一瞬で距離を詰め、それぞれの獲物をふるいネズミたちを切り払う。
「米一粒たりとも食べさせてあげないのですよ!」
「今のが全部とは限らないと思っていたけど‥‥やはりね!」
 さらに、後続の能力者たちも2人に追いつくと、必死でネズミたちの勢いを抑止する。とはいえ、先ほどの半分の数となれば彼らが負ける理由はない。運転手に警戒を頼んでいたこともプラスに働き、残るネズミたちの後始末に時間はかからなかった。
「すげぇな、オイ‥‥」
「ええ、全くです」
 一般人である2人の兵士は、彼らの強さに舌を巻かざるを得なかった。


●運搬完了!

 その後は特にトラブルもなく、積み荷はつつがなく山道を超えた。
 トラックが基地にたどり着くと、まず詰めていた兵士たちの歓声が一行を包み込む。長らく食糧に欠乏していた状況の中、ようやく彼らはまともな食べ物にありつける機会に恵まれたのだ。これが嬉しくないはずなどない。その上に傭兵のうち料理の腕に自信のある猫屋敷とフローラが腕にふるいをかけた料理をふるまい、久々の食事が盛大なご馳走であることもあり、彼らの喜びはいやがうえにも増した。美味い、美味いという言葉が飛び交うのを聞き、猫屋敷もフローラも気分は上々であった。
「料理の腕には自信が有るのですがとても満足してもらえたみたいで、嬉しいです!」
「そうですね。ここまで喜んでくれるなんて、作った私たちもうれしいわね」
 一方、基地の司令官は運ばれてきた食料が事前に知らされた量よりかなり多いことに気が付く。
「む? 報告ではレーションの数はもう少し少なかったはずだが?」
 その理由を彼自身で調べたところ、それらのレーションはトゥリムの持ってきた、本来ネズミキメラをおびき寄せるために持参したレーションであった。その計画が狂ってしまったために大量にレーションが余り、それらは結局基地に譲渡されたのであった。
「本当か‥‥? 何と‥‥何とありがたい‥‥!」
 そのことを知ると、司令官の男は思わず感極まって大粒の涙を流した。満足に食べられない状況を知った今、食べ物のありがたみを彼は深く心に刻んだ。だからこそ、譲渡された大量の食糧に関して本当にありがたく感じたのであろう。
 しかし、その後にトゥリムに関して深く評価する報告書をULT本部へ大量に送りつけた件に関してはやりすぎではなかろうか。