タイトル:【SL】乙女に甘い爆弾マスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/16 23:20

●オープニング本文


――2月14日。
 それは乙女たちにとって、戦争とも呼べる日。
 大好きなあの人へ、とっておきの想いと共にチョコレートを届ける大事な日だ。
「えへへ、本命はこのチョコに決まり♪」
「私は手作りキットで今年こそ彼氏をゲットしないと!」
 桃色一色の商店街。
 集まった乙女たちは、想いと共に届けるチョコレートを物色している。
 楽しげに商品を選んでゆく彼女たちに紛れ、1人だけ、この空気に合わない少女がいた。
 茶色の髪を三つ編みにし、ずれた大きな眼鏡の冴えない少女。彼女はもじもじと売り場の前を行ったり来たりしている。
「‥‥あう‥‥どうしよう‥‥買いたいし、でも、買えないし‥‥」
 店の前を右往左往。
 その回数は既に50回は越えている。
 正直言って商売の邪魔でしかない。しかし彼女は未だに迷う様に足を行ったり来たりさせている。
「‥‥で、でも、1つくらい。うん‥‥1つくらいは、買わないと――」
 そう言って足を店に向けた時だ。
「いやぁああああ!!!!」
 盛大な悲鳴が響き渡った。
 その声に、反射的に商店街の中央を見る。
 バレンタイン用の特設ステージに佇む、白の片翼と黒の片翼を持った人型の生き物。それらが手から茶色い物体を放っている。
「あれは‥‥キメラ?」
 彼女はそう呟くと、一気に駆け出した。
 そしてその姿を商店街から消してしまう。
 この場合、キメラが出たと言って逃げるのは普通の反応だ。
 誰も彼女の行動に疑問を感じてはいなかった。
 寧ろ、疑問や注意を向けるべきはステージ上にいるキメラへだろう。
「バーレーン!」
「タイーン!」
 恐ろしく微妙な鳴き声で、2体の人型キメラは茶色い物体を弾丸のように放っている。
 それが逃げ惑う人々に向かうのだが、不意にその攻撃が遮られた。
 紫の電流が、乙女に襲い掛かる弾丸を弾き飛ばしたのだ。
「そこまでよ! バレン、タインと鳴くのが許されるのは、この時期限定の愛の使者だけなんだから!」
 バイクのエンジン音と共に響いた声。それに2体のキメラが動きを止めて視線を向ける。
 彼らの視線の先にあるのは、紫の髪をなびかせバイクに跨る少女――美少女戦士ビューティーホープだ。
 彼女は先ほど弾いた茶色い物体を指に取ると、ペロリと舐めとった。
 口の中に広がる甘くとろけるような触感に、思わず頬が緩んでしまう。
 だが直ぐに表情を引き締めると、グッと拳を握ってキメラを睨み付けた。
「こんな美味しいチョコレートを無差別に配るなんて言語道断! ちょびっとドジな奈々子ちゃんが許しても、この私が許さない!」
 彼女はそう言うと、バイクを走らせた。
 その瞬間、AU−KVと言う甲冑が装備される。
 そして全ての装備を終えると、彼女もまたステージの上に降り立った。
「正義の味方、美少女戦士ビューティーホープ! らす☆ほぷの傭兵に代わって、爆散してあげる☆」
 華麗に決まったポーズ。
 それを待っていたかのように、2体のキメラは「バーレーン!」「タイーン!」と鳴き声を上げ弾丸を放った。
 それをビューティーホープの電流が弾き返す――筈だった。
「あ、あれ‥‥?」
 突如、彼女の膝が折れ、地面に両手がくっつく。
 全身から力が抜け、視界までぼやけ始めているではないか。
 よく見ればそうなっているのは彼女だけではなかった。
 チョコレート爆弾を浴びた人は勿論、チョコレートに触れただけの人も崩れ落ちている。
「まさか、チョコレートに何か‥‥」
 そう言いながら遠退いてゆく意識。
 だが、ここで意識を失えば覚醒状態が解けてしまう。
「それだけは、ダメ――‥‥うあああああ!!!」
 彼女は自らの足に電流を押し当てると、朦朧とする意識を奮い立たせた。
 そして立ち上がるのだが、再び足元が揺れる。
 眩む視界、薄れてゆく意識。それらと戦う彼女の目に、襲い掛かる2体のキメラの姿が映っていた。

●参加者一覧

紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
殺(gc0726
26歳・♂・FC
緋本 せりな(gc5344
17歳・♀・AA
浮月ショータ(gc6542
20歳・♂・ST

●リプレイ本文

 悲鳴のような声を耳にした紅 アリカ(ga8708)は、チョコの包みを手に外を見た。
「‥‥何の騒ぎかしら」
 もうすぐバレンタイン。愛すべき夫のためにチョコを選びに来ていた彼女の胸を、嫌な予感が過る。
「‥‥まさか、ね」
 そう呟いた矢先、窓ガラスに茶色い物体が付着した。
 それがトロリと線を引いて落ちてゆく。
「‥‥気のせいではないみたいね」
 アリカは溜息交じりに呟くと、包みを棚に戻して店を出た。
 だがその足が止まる。
「! っ‥‥ご、ごめんなさい」
 ぶつかった衝撃に慌てて顔を上げると、白衣を着た研究者らしき男――浮月ショータ(gc6542)の顔が飛び込んできた。
「あの女の子も気圧されたみたいだな‥‥結局、中に入らず行ってしまったか」
 彼は別の店を眺めて呟くと、ふと目を動かした。
 それがアリカと合う。
「あっと、申し訳ない‥‥大丈夫ですか?」
 言って道を譲るように動いた彼の目が見開かれた。
「何だ、この騒ぎは!」
 今更な彼へ、アリカの目が瞬かれる。
「疲れを取るためにポリフェノールたっぷりのチョコレートでも‥‥そう、思ってきたのですが――ちょっ‥‥何処へ!」
 思案気に呟く彼の横をアリカが横切ってゆく。
「‥‥早く逃げたほうが良いわ」
 そう言って駆け出す姿に、ショータもまた駆け出していた。
 そしてアリカの隣を走りながら問う。
「お嬢さんも能力者ですか」
「‥‥貴方もなのね。‥‥どうも最近、街中にキメラが多く出るみたいね。何が狙いなのやら‥‥」
 思わずぼやく彼女に、ショータはチラリとだけ視線を寄こす。そうして騒ぎの元に到着しようとしたところで、一台の車が割り込んできた。
 出てきたのはリヴァル・クロウ(gb2337)だ。
 彼は運転席のドアを閉めると、特設ステージを見た。
「状況が芳しくない、増援の必要があるか」
 視線の先には、2体の人型キメラ。
 その足元にはドラグーンらしき人物の姿がある。
「君らも傭兵か?」
 リヴァルは足を止めた2人に問いかけると自らの武器――月詠を取り出した。
「過去の何度かこの手の悪趣味なキメラは見てきたが、今年も湧いたか‥‥」
「例年出るんですか、こんなキメラが」
「ああ‥‥とにかく、事態の早期収束が求められる」
 ショータの問いに頷くと、彼は車両の前に出た。
 そして鞘を抜いた所でその動きが止まる。
「――ん?」
 彼の目に金色の何かが飛び込んできた。
 それが凄まじい勢いでステージに向かっている。
「チョコをばら撒くキメラに、美少女戦士‥‥大丈夫だ、問題しか無い!」
 そう言いながら飛躍したのは、Alpというグループに所属するアイドル――テト・シュタイナー(gb5138)だ。
 彼女はステージ上に降り立つと、間髪入れずに駆け出した。
「人の幸せの邪魔してっと‥‥馬が蹴りに来る前に、俺様が蹴り殺すぞ!?」
 そう言いながらブーメラン型の超機械を構える。
 そこに彼女の存在に気付いたキメラが腕を掲げた。
 透かさず降ってくるチョコ爆弾を、テトは難なく避ける。
 そんな彼女の機嫌はすこぶる悪い。
 その理由は、良さそうなチョコを見かけた所でこの騒動が起きたから。
「おい、そこ!」
 テトは超機械スライサー「スティングレイ」を構えるとリヴァルに向かって叫んだ。
「傭兵なんだろ、ちゃっちゃと片付けんぞ!」
「あ、ああ‥‥」
 威勢のいいアイドルの登場に気圧されていたリヴァルだったが、すぐさま眼鏡を押し上げると戦闘の構えをとった。
「まずは、負傷したドラグーンを離脱させる。すまんが、支援を求めたい」
 言って彼の足が地面を蹴り、アリカとショータも駆け出す。
「OK、支援なら任せな!」
 言うや否や、テトの目がワインレッドに染まり、周囲の能力者達のエミタに情報を伝達させる。
 そしてその姿を遠目に確認し、額を抑える人物がいた。
「なんか、既視感が‥‥」
 殺(gc0726)だ。
 彼は買い物袋を下ろすと、頭を横に振って駆け出した。
 考えている暇はない。
「援護する」
 テトとリヴァルに接近し、援護を申し出る。
 そうしてステージに上がると、迷わず苦無を放った。
 それがキメラの注意を引き、その間に、キメラとビューティーホープ(gz0412)の間に入り込んで、もう一本、苦無を放つ。
 そしてそれを同じく遠くで見ていた緋本 せりな(gc5344)が、開始された戦闘を見て苦笑を滲ませていた。
「これは‥‥面倒な場面に遭遇してしまったものだね」
 言って周囲を見回す。
 避難はほぼ完了している。あと問題があるとすれば、あのキメラだけだろう。
「まぁ、放っておけないし、キメラは倒さないとね」
 それに‥‥と彼女の瞳が眇められる。
「食べ物を粗末に扱っていること、そして姉さんの為に買いに来た私の邪魔をするのが許せない!」
 言って、買い物袋を安全な場所に置くと、美しい宝石の納まった剣を取り出し、彼女もまた戦闘に加わったのだった。

●バレンとタイン――2体のキメラ
 殺がタインの攻撃を惹きつけている間、リヴァルは左足を負傷するビューティーホープを抱き上げていた。
「ちょっと‥‥!」
「傷の治療をする。大人しくしていたまえ」
 いきなりの事に慌てる彼女に対し、リヴァルは平然とステージを降りてゆく。
 そこにタインがチョコ爆弾を放つのだが、それを殺とテトが遮った。
「てめぇの相手はこの俺だ! 後方から牽制をかます。上手く攻めろよっ」
「わかっている。これ以上は、やらせない」
 爆弾をものともせずに距離を詰める殺。
 迫る攻撃は刃で両断し、一気に間合いに入り込んだ。
 そして迷うことなく一撃を見舞う。
 だがタインもただ攻撃を受けているだけではなかった。
 手にしていた小箱を掲げ反撃する動きを見せたのだ。
 それに対して殺とテトが身構え距離を取る。
 だが次の瞬間、タインは何も持たない手から爆弾を放った。
「フェイントかよ!」
「こんな物まで武器にするか」
 呟き飛び退く。
 その際に靴にチョコが付着するが、彼は足を振るって払うと、忍刀「颯颯」を構えた。
「それ、触っただけでも運動に困難をきたしそうです。大丈夫ですか?」
 バレンを相手にするショータの声に、殺は足を動かし頷く。
「この程度なら問題なさそうだ」
「あなたたち‥‥」
 リヴァルの治療が終わったのだろう。
 驚いたように能力者を見る彼女へ、リヴァルは何事も無かったかのように視線を向けると、改めてタインを見た。
「これより君を支援する」
「支援って‥‥ちょっと!」
 返事も聞かずにタインの元へ向かうリヴァルに彼女は困惑した表情で立ち竦む。
 そこに声が掛かった。
「‥‥また会ったわね」
 目を向けた先。そこにいたのはアリカだ。
 彼女はビューティーホープを見ると、彼女に手を翳し意識を朦朧とさせる元を取り除いた。そして白い翼を持つキメラ――バレンを見る。
「今日はこの前みたいに不調じゃないから、ちゃんと戦えるわ。後は私達に任せておいて‥‥」
 そう言ってステージに上がってゆく。
 そしてそれを追うようにステージに上がった2つの影に、ビューティーホープの目が瞬かれた。
「まったく‥‥もしかしてバグアの連中も嫉妬してこんな時期にこんなキメラを出してきたんじゃないだろうね?」
「それはなんとも。しかし、バレンタインだけあって、敵さんもカップルですか‥‥羨ましい」
 ぼやくせりなに、飄々と言葉を紡ぐショータ。
 せりなは炎のような刀身を持つ刃をバレンに向けると、ザッと地を踏み締めた。
 それに合わせてバレンのパラソルが開かれる。
 そして何も持たない方の手でチョコ爆弾を放つと、せりなは大きく刃を振い落した。
「‥‥食べ物をそんな風に扱うとはね‥‥、いい度胸だわ」
 アリカとせりな、2人の刃が爆弾を叩き斬る。
「女形のキメラならそっちの男形のほうにそのチョコでもあげたらいいだろうに」
 せりなのその声にアリカは同意するよう頷いて、大ぶりの銃器を構えた。
 そこから放たれる弾丸がバレンを撃つ。
 しかしバレンは弾丸をパラソルで受け止めると、彼女に向かい爆弾を放った。
 だがそれはアリカには触れない。
 彼女は再度弾丸を放ち注意を惹きつけながら、機会を伺う。
 それを援護する様にショータの練成強化が皆を包むと、強烈な一撃がバレンを撃った。
 その一瞬の隙を狙い、せりなが背後に回って一撃を見舞う。
 白の羽がハラハラと舞い、痛みに驚いたバレンから爆弾が放たれる。
「――言ってる傍から投げてくるなっ! 私はそんな危ないものいらないぞっ!」
 叫び爆弾を剣で両断すると、再び地を蹴った。
 それに対してバレンが手を掲げる。しかし、その動きが遮られた。
「‥‥もう、攻撃はさせないわよ」
 間近で聞こえた声にバレンの目が向かう。
 だが、遅かった。
 アリカの銃から黒刀に持ち替えたそれに剣の紋章が吸収されてゆく。そして淡く光る刃が凄まじい速さでバレンに迫った。
「バ、バーレーンッ!」
 次々と叩き込まれる攻撃。
 それを受け止めるパラソルが切り刻まれてゆく。そして骨だけになったパラソルの隙間から、赤い光が見えた。
「ふざけたキメラにはそろそろ退場してもらおうか! この攻撃は止められないぞ、潔く逝け!」
 金色のオーラを纏ったせりなの体が淡く光る。
 そして隙だらけのバレンに、刃が突き刺さった。
「バーレーンッ!!」
 耳を裂くような叫び声が響き、バレンはその場に崩れ落ちた。

 ビューティーホープは状況を見止め、AU−KVの上から自分の胸に手を添えていた。
「私だって‥‥」
 見上げた先には、黒い翼を広げ爆弾を放つタインがいる。
 能力者たちは器用にそれを避けてタインとの距離を詰めてゆく。
 その姿を見て彼女もステージ上に上がった。
 役者は既に足りている。だが、じっとしていることは出来なかった。
「やっぱり来たな。休んでいれば良いのに」
「私にだって闘う理由があるの。動けるのなら休んでるわけにはいかないのよ」
 殺の声にすぐさま答えを返した彼女に、彼の口元に苦笑に近い笑みが浮かぶ。
 そして2人の目がタインを捉えた時、ブーメラン状の薄刃がタインに迫るのが見えた。
「邪魔された者達の恨み‥‥存分に味わえ!」
 テトの周囲に浮かぶ映像紋章が器用に並び変わる。
 それに合わせてタインが、箱を開けた。
 そこから飛び出した人形のような赤い物体が刃を受け止める。
「ビックリ箱!?」
 驚くテトに透かさず爆弾が放たれる。
 それをリヴァルの刃が打ち払った。
「問題ない。箱は防御の手段だ」
 リヴァルは冷静に敵の行動を分析すると、一気に距離を詰めに掛かった。
 だが敵もただ接近を許すわけがない。
 近づく相手に爆弾を放ち距離を測ろうとす。しかし、それを紫の電流が遮った。
「直接浴びなければ問題ないのよ」
 ビューティーホープがそう叫び爆弾を撃ち落してゆく。そしてほんの一瞬の隙を見極めた、リヴァルが敵の間合いで月詠を振り上げた。
 それが地面に突き刺さる。
「タイーン?」
 間抜けな声を出したキメラにリヴァルは冷静な目を向ける。
 そして真後ろを確保すると、エネルギーの弾丸を放った。
 その攻撃にタインはよろけ、黒い羽根が舞う。
 しかし敵は器用に身を反転させると、すぐさま攻撃に移った。
 だがそれも彼には当たらない。
 迅雷を使ってリヴァルと敵の間に入った殺が、颯颯でタインの腕を突きあげたのだ。
 そして透かさず、ライトピラーで連撃を加え一斉に間合いを測る。
 そうする事で態勢を整えた能力者たちは、タインを囲む形でそれぞれの武器を構え直した。
「さあ、いくぜ!」
 テトの声と彼女の放つ刃を合図に、三人が同時に駆け出す。
 リヴァルは月詠を敵の足元目掛けて振るう。それに合わせて殺が一気に間合いに入り込むと、タインが慌てて箱を向けてきた。
 だがそれを紫電の鞭が弾き飛ばす。
「いまよ!」
 その声に、殺が身を回転させながら横一字に敵を切り裂いた。
 そして間髪入れずに高圧縮のレーザーで攻撃を加える。
「道は繋げた、次はアンタの番だ行け!!」
 かけられた声にビューティーホープは目を見開いた。
 だが迷う暇はない。
 彼女は足にスパークを掛けると距離を詰めて、渾身の一撃を見舞った。
 それに合わせてリヴァルが背後から銃撃を、殺がレーザーの剣で上下に切り裂く。
 直後、タインの身が硬直し――
「タイーンーッ!!」
 悲鳴のような声を上げ、黒い翼を持つキメラはその場に崩れ落ちた。

●一段落♪
「さて、片付けるとするか」
 周囲の状況を確認し、殺は自らが投げた苦無を見つけそれを拾い上げた。
 そこに声が響く。
「‥‥貴女、何者なの? 差し支えなければその仮面をとってもらいたいのだけど‥‥」
 そう口にしたのはアリカだ。
 彼女の前には、ビューティーホープがいる。
「美少女戦士は正体を見せないものよ。それは自分の身を守るためでもあるわ」
「‥‥秘密は守るわ。それに誰だかわかれば、今後協力しやすいもの」
 冷静に言葉を返す相手に、彼女は一瞬だけ眉を寄せた。
 協力という言葉にグラつきそうになり、慌てて首を横に振る。
「悪いけど、まだ信用できないわ。ごめんなさい」
 そう言ってバイクに跨った彼女の動きが止まった。
「‥‥治療、ありがとう。あら、そう言えばあのサイエンティストは?」
 そう口にした彼女に、他の能力者たちが周囲を見回す。
 リヴァルがいない。
 そう、彼は瞬天速で早々に姿を消していた。
 彼はステージ上で言葉を交わす能力者たちを視界に納め、停めていた車に乗り込むと、その姿を消したのだった。

 全てが片付き、辺りが徐々に落ち着きを取り戻す頃。
 せりなは買い物途中の荷物を抱きしめ、次の店にその足を向けていた。
「さて、あんなキメラのなんかよりも、もっと美味しいチョコを作るよ。喜んで、くれるかな」
 そう言って笑みを浮かべる。
 そうして店の中に入ると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ああ、それをくれ」
 そう店員に指示をするのはテトだ。
 彼女は目当てのチョコを購入し、ふと外を見た。
「そう言えば、どこにいったんだろうな‥‥あいつ」
 思い出すのはビューティーホープのことだ。
 だがそれも直ぐに戻ってきた店員の声に引き戻されてしまう。
 そして店の外では、ショータが思案気に店の入り口に立っていた。
「やれやれ、余計に疲れが溜まってしまった。やはりチョコレートを買って帰るかな」
 呟き、店の入り口で右往左往する少女に気付いた。
「あの子は‥‥」
 キメラが出現する前に見かけた少女だ。
 三つ編みの髪に大きな眼鏡。店に入りたいのに入れない様子の彼女に、彼は歩み寄った。
「あの、すみません」
「!」
 突然の声に少女の顔と体が強張る。
 その様子に苦笑しながら、首を傾げると彼は店の中を指差した。
「男一人では恥ずかしいから一緒に入って頂けませんか」
 その声に少女は眼鏡の奥の瞳を瞬かせ、僅かな間の後にゆっくり頷いた。