タイトル:【響】Memoryマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/23 01:16

●オープニング本文


「エリス・フラデュラーさんですか?」
 個展準備の途中、エリスは一人の男性に声をかけられた。
 はじめて見るその人は、エリスを見るなりにこりと笑って一枚の写真を差し出してきた。
「この写真は、貴女のお父様が撮られた写真ですよね?」
 目を落とした写真は、風景を写したものだ。
 何処かの森だろうか。
 鬱蒼と茂る緑の中に、壊れかけた橋のようなものが見える。
 そしてその直ぐ傍には樹齢何百年かの樹も立っていた。
「ご存じありませんか?」
 黙って写真を見つめるエリスに、男性は僅かに声のトーンを落として問うた。
 その声に彼女の目が上がる。
 若干、揺らいだようなその視線に男性は確信した。
「貴方のお父様が撮った写真で間違いありませんね」
 再度問われる声に、エリスの首が縦に動く。
「‥‥パパの写真」
 エリスはそういうと、個展のために用意していた写真と一緒に持ってきていたアルバムを持ってきた。
 そして先ほどの写真と似たような写真が貼ってあるページを開く。
「やはりそうでしたか‥‥」
 男性はそう呟くと、彼女の用意している個展会場を見回して言葉を切った。
 個展会場にはエリスと男性しかいない。
 無言の時が過ぎ、やがて男性の方が口を切った。
「この写真を撮った場所へ案内していただけませんか?」
「‥‥今‥‥?」
 先ほどの沈黙を思えば、男性が何を考えていたかわかる。
 問いかけた声に、案の定彼は頷いた。
「先日、消息を絶った者が最後に送った映像と、この写真の風景が酷似していたんです。ですが、我々はその詳しい場所を知らない」
 男性はそう言うと手にしていた写真に目を落とした。
「彼は帰還の途中で消息を絶ってしまったのです。何かのトラブルが起きたことは予想できますが、場所の特定までには至らず‥‥途方に暮れているときに、この写真を‥‥」
 どうやら彼は遭難した人物の関係者らしい。
 帰還途中に不測の事態が起きて帰還できなくなった仲間を救うべく、援軍を送りたい。
 しかし詳しい場所はおろか、その場所の情報もないのでたった一つの情報である映像を頼りに捜索を行っていたというのだ。
「‥‥ここは、磁場が強いって、パパが言ってた‥‥それに、強いキメラも‥‥」
 エリスは父親から場所の話は聞いていた。
 彼女の父親は写真を撮りに行く際、必ず何処へ行くかを伝えて行っていたのだ。
 それは自分に何かあったとき、エリスがその情報を掴みやすいようにとの気遣いからであり、エリスはその情報を常にメモに取って保管していた。
 今回提示されている写真の場所も、エリスはきちんとメモを取っている。
 しかし、その場所は父親が連れて行くのを良しとしなかった場所だ。
 それはつまり、かなり危険な場所であると言うこと。
「場所を教えて頂くだけでも構いません。どうにかお願いできませんか?」
 断るすべはないだろう。
 それに場所を教えるだけで良いと言っているのだから、それだけ済ませてしまえばいい。
 だがエリスは考えるように個展会場を見回すと、ゆっくりと目を瞬いた。
「‥‥あたしも、行く」
「え‥‥ですが、危険な場所だと。それに個展は――」
「パパが行った場所に、行ってみたいの‥‥個展は、次の機会があるもの‥‥」
 エリスはそういうと男性の顔を見上げた。
「場所の詳細‥‥それがあれば、大丈夫‥‥?」
 緩く傾げられた首に合わせて、彼女の長い髪が揺れる。
 それを視界端に納め、男性は思案気に目を細めた。
 芸術家とは時に頑固であり、自らの作品を仕上げるためなら危険を冒すという。
 彼女もそうであるのだろうか。そう思いながら彼は頷いた。
「それで構いません。その代り、危険な場所でキメラが出ると言う以上、貴女の身の安全は保障できません。我々は消息を絶った部隊を捜索に行くのであって、遊びに行くのではないのですから」
 これは、危険勧告だ。
 案内してくれるのは嬉しい。だが、同行する以上は安全の保障はできない。
 それ故に、何があっても責任は自分で取るように。そう言っているに等しかった。
「大丈夫‥‥邪魔は、しないから‥‥」
 そう言って微かに笑んだエリスに、男性は密かに息を吐いて彼女に同行を願い出た。

●???
 巨大な樹木に背を預け、金色の髪の男が息を潜めて空を見上げていた。
 木々の合間から見える空は薄雲を背負って、僅かな光だけを地上に送り込んでいる。
 男は憂鬱そうに息を吐くと、目を下に戻した。
 そこに映るのは動かなくなったKV。
 この地域に踏み入った途端に動かなくなってしまったそれは、元々無理な動きをさせていた為に、帰還できるかも危うかった。
 だからこそ動かなくなった時には、「ああ、やっぱり」と言う思いが湧き上がってきた。
「まさか、方位磁石も使えないってのは‥‥痛いな」
 此処が何処かもわからない。
 下手に動いて遭難するよりは、救援を待つべきなのだろうが、何処にいるかも伝えていない以上捜索は困難だろう。
 その上、これだけ強い磁場の場所なら捜索に入ったところで、捜索隊自体が遭難しかねない。
「ここで朽ちるか、自力で動くか‥‥どちらかしかねえか」
 そう言って樹から背を離した時だ。
――ガサ‥‥ガサガサ‥‥。
 耳を打つ葉の音に動きが止まった。
 ゆっくり目を動かし潜むものを探す。
 そして見つけた。
「‥‥亀‥‥いや、違う。なんだ、ありゃぁ‥‥」
 のっそりと動く、大きな甲羅を背負った鰐。
 口から覗く牙は鋭く、あんなもので攻撃されたら一溜りもないだろう。
 だが驚くべきはそれだけではなかった。
「!!!!」
 空に鳥が羽ばたいた――そう、思った瞬間、鰐の口から放射線のような光が放たれたのだ。
 それが鳥を打ち落とし、見事口の中に落ちてゆく。
「おいおい‥‥マジかよ‥‥」
 動きからして近付かなければ良いかと思ったが、どうやら離れていても危険らしい。
 男は苦笑いの元に息を吐くと、再び樹に凭れ掛かった。
「アレは俺1人じゃ無理だわ。あー‥‥絶体絶命ってやつ?」
 乾いた笑いが口を吐き、男はそのまま目を閉じたのだった。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
リヒト・ロメリア(gb3852
13歳・♀・CA
ネジリ(gc3290
22歳・♀・EP
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD
ミコト(gc4601
15歳・♂・AA
天羽 恵(gc6280
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

●高速移動艇・発着所
「危険な場所に行く‥‥のはこの際どうでもいい、慣れた」
 ネジリ(gc3290)は呆れたように言いながら、エリス・フラデュラー(gz0388)を見下ろした。
 今回、エリスが危険な場所に能力者を案内すると聞き、自分の周囲に頑固者が多いことに苦笑しながら、エリスを助けようとここまで来た。
 だが心配事は何も、危険な場所に行く事だけではない。
「俺が言っているのは個展の事だ‥‥いいんだな?」
 エリスは開く予定の個展を1つ駄目にした。
 それを指摘されて彼女の目が落ちる。
「お前にとって沢山の中の1回かもしれないが、誰かにとっては大切な1回かもしれないんだ‥‥その辺ちゃんと考えろよ?」
 頭に触れた手に、彼女の目が上がった。
 父親の事ばかり気にかけて、そこまで考えが至っていなかった。
 そのことを指摘され、急激に自分の行動が恥ずかしくなる。
「ごめんなさい‥‥それと、ありがとう。覚えておく‥‥」
「判ったならいい‥‥後は任せろ」
 素直に頷いた彼女の頭を、ネジリは優しく撫でてやる。
 そしてそんなやり取りを、僅かに離れた位置で見ていた一ヶ瀬 蒼子(gc4104)の内心は、驚きの為、やや複雑だった。
「あの子が、エリスさん‥‥?」
 以前、スチムソン博士発見の折、きっかけとなった写真を撮った写真家の話は聞いていた。
 だがまさか、自分より年下だったとは‥。
「だからと言って、依頼を疎かにするわけにはいかないわね」
 呟くと、蒼子はエリスに歩み寄った。
「はじめまして、エリスさん。一ヶ瀬蒼子よ。捜索は専門外だけど、護衛については専門分野だから、あなたを守ることも含めて、きっちり結果を出すわね」
 言って差し出された手に、エリスの手が重なる。
 そこに聞き覚えのある声が響いてきた。
「やぁ、エリスちゃん。今回もよろしくね」
 笑みと共に片手をあげて見せるのはミコト(gc4601)だ。
 彼は少し大きめの荷物を手にしながら、エリスの服装を確認して眉を顰めた。
「少し、露出が高いかな」
 ポツリと呟きだされた声に、エリスの首が傾げられる。
「山歩きをするんだからね。枝とか葉っぱで擦り傷作ったりすると、跡が残ることもあるし‥‥体は大事にしないとだめだよ〜」
 言って、剥き出しの腕や足を示す。
 確かにエリスの服は露出が高い。このまま森の中に入れば、ミコトの言うように怪我をする可能性があるだろう。
「うん、わかった‥‥あとで、着替えるね」
 そう言って頷いた彼女に、ミコトは笑顔で頷きを返した。

「エリスさんと、捜索対象者‥‥二人の命がかかってるんだから、ミスは許されない‥‥」
 リヒト・ロメリア(gb3852)はそう呟き、今回の依頼を思い出していた。
「ボクは弱者の剣盾‥‥手に届く範囲ならば、守り抜いて見せる」
 そう呟き、小さく手を握り締める。
 そんな彼女の脳裏にあるものが何なのか。それを知る者はこの場にはいない。
 それでも決意を固めるために口にした言葉には意味がある。
 そしてそんな彼女の耳に、乾いた靴音が響いてきた。
「依頼人に捜索相手の情報と、こちらの身分を証明する方法として、依頼人の手紙を預かってきました。役に立つと良いのですけど」
 そう言って合流した瓜生 巴(ga5119)は、受け取ってきた手紙を皆に見せた。
 彼女は時間ギリギリまで、依頼人に話を聞き、現地の情報を集めるなどしていたため、合流が少し遅れてしまったようだ。
 それでも彼女の行動によって手に入った情報は心強い。
「何かわかったことはありますか?」
「現地は晴れの気候が多いようです」
 リヒトの問いに頭の中の情報を広げる。
 現地は比較的雨の少ない場所で、この季節に雨が降る確率はもっと低いと言う。
 衛星が無い以上、天気は読み辛い。それでも雨の心配がないとわかっただけでも好情報だ。
 それに情報はそれだけではない。
「あとは日照時間が短いです。野営をする覚悟はしておいた方が良いでしょうね」
 テントや野営の準備は既に済んでいる。
 その事を巴の言葉で確認すると、一行は高速飛行艇に乗り込んだ。
 そんな彼らの姿を視界に納め、立ち竦む人物が一人。
 その姿にエリスが歩み寄る。
「‥‥初任務、になるのね」
 そう呟き、天羽 恵(gc6280)は自らの手に視線を落とした。
 その動きにつられて、エリスの目も彼女の手に落ちるのだが、その手が僅かに震えている。
「‥‥怖い――でも、怖気づいている場合じゃないわ」
 そう言って、震えを隠すように手を握り締める。そうして目を上げると、意志の籠った強い目が、エリスのそれとぶつかった。
「必ず守りぬく。助け出してみせる、命を掛けてでも‥‥私は、そのために能力者になったのだから」
 そう決意を口にする彼女に、エリスは「がんばれ?」と囁いて、彼女と共に高速移動艇に入って行ったのだった。

●森の中
 能力者たちは、エリスを囲むようにしながら森の中を歩いていた。
 道案内は父親のメモを手にするエリスだ。
 そんな彼女の手には、他にネジリが渡した呼笛と無線機がある。
「あれだけ大きければ目印になりますね」
 そう言って巴は、遥か先に見える大きな木を見た。
 あの木の下に、エリスの父親が写真を撮った場所があり、要救助者がいるはず。
 この場に来るまでは道に迷う可能性もあったが、あれだけわかり易ければ然程心配する必要もないだろう。
 それでも、ここで磁石や無線機を使うのは難しいのは、森に入る前にネジリが確認して事実と判明している。
 故に油断はできないだろう。
「あまり離れない様に動かないとね」
 リヒトは恵と共に皆の前を歩き斥候として動いていた。
 もしキメラや野生の動物がいてもすぐに対応できるようにする為だ。
 だが、先ほどから足跡1つ発見できていない。
「この森、生き物の気配がしない」
 恵が動物を発見したのは、森に足を踏み入れた際に飛び上がった鳥だけだ。
 それ以降は動物の姿を見ていないし、獣道などの発見も出来ていない。
「それでも警戒を怠るわけにはいかないだろう」
 ネジリはそう口にして、近くの木に傷を刻んだ。
 そして彼女の他にも、恵がビニール紐を枝に付けたり、蒼子が枝を折ったりして目印を付けている。
 そして幾つ目かの枝を折ったところで、蒼子が蒼く美しい刀身の小太刀を抜いた。
「この木、少し邪魔ですね」
 言って、行く手を阻む草と枝を切り払うと、開けたその場所を歩き始めた。
 そしてエリスがそこを進もうとしたところで、手が差し出された。
「足場も悪いみたいだし、気をつけていこう」
 そう言って、ミコトが切った枝を跨ぐ手助けをしてくれる。
 こうして歩き進め、どれだけの時間が過ぎただろう。
 目的地まで近くはなっているものの、まだ距離はある。
 そんな時、恵の声が響いた。
「何かの足跡があります!」
 その声にリヒトも合流して足跡を確認する。
 獣の足跡だろうか。
 草を割って奥に進んだのか、それとも奥から進んできたのか。
「ここから先は、警戒を強めていきましょう」
 蒼子の声に恵は神妙な面持ちで頷いた――と、その時だった。
「虎がいる!」
 探査の眼を使用していたネジリの声に、蒼子と恵が武器に手を伸ばす。
 そこに白い虎が飛び出してくると、リヒトの小銃「バロック」が火を噴いた。
「敵意には敵意を‥‥力の差を測れるなら――退いてくれる、はず!」
 銃弾が虎を掠め、音と痛みに驚いた相手が怯む。
 そこに恵が石を放った。
「いい子だから‥‥こっちを向きなさい!」
 進行方向と逆から放った石は、虎を叩いた。
 そして思惑通り、虎の意識が恵に向く。
「今のうちに進みましょう。リヒトさん、恵さん、お願いします」
 巴はそう言うと、他の能力者と共に先へと進んだ。
 そして虎を撒いた2人が合流する頃、エリスの足がふらついた。
「もしかして疲れちゃったかな?」
 揺らいだエリスを支えながら問いかけるミコトに彼女は首を横に振った。
 だが元気がないのは明らかだ。
 その様子を見て、ミコトは皆に休憩を提案したのだった。

 休憩中、ネジリはある提案をした。
「お前の父親が言っていた危険なキメラ。それと遭遇したら、写真を撮って欲しい」
 彼女は今後の調査のために、キメラの写真を撮って欲しいと言う。
「勿論、エリスの身の安全は保障する。ただし、やるかはお前次第だ‥‥俺は、その‥‥」
 途端に歯切れの悪くなったネジリにエリスの首が傾げられる。そして彼女の顔を覗き込んだとき、金色の瞳は躊躇いがちにエリスの顔を捉えた。
「俺は‥‥『芸術』に使ってきたそれを、『軍事』に使えと言っている‥‥」
 今まで何度となく写真を撮ってきて、その写真が後々軍事に使われることはあった。
 だが初めから軍事の為にシャッターを切ったことはなかった。
「俺はエリスちゃんの気分次第で良いと思う。はい、こういうときって甘いものが食べたくなるよね」
 ミコトはそう言ってお菓子を差し出すと、他の皆にも配った。
 その姿を見ながら、エリスは手にしている父親のメモに視線を落とす。
 そしてそれを持つ手に力を籠め、呟いた。
「写真、撮る‥‥」
 その声にネジリの目がエリスに向かう。
「軍事に使われても‥‥それは、あたしの写真、だから‥‥」
 大丈夫。そう言って笑むと、遠くで何かの咆哮が聞こえた。
 その声を耳にした蒼子が立ち上がる。
「日が傾き始めてる。そろそろ出発した方が良さそうね」
 そう言うと、彼女は残りの菓子を口に放り込んだ。

●謎キメラ
 巨大な木の根と、苔の生えた崩れ落ちた橋。
 今はそこに木漏れ日に照らされるKVこそあるが、まさに写真通りの景色があった。
「さあ、痕跡から状況を推測して捜索を始めましょう」
 巴の声に皆が動き出す。
 その間、リヒトと恵は周囲の警戒を行い、キメラや獣がいないかを見定めていた。
 エリスも、そんな彼女たちの傍で、大人しく写真を撮っている。
「ふむ、何を持っていくか‥‥」
 ネジリはKVを探り、部品を手にしながら呟いた。
 部品を2、3個持って行けば、KVが止まってしまった原因がわかるかもしれない。
 そんな思いからの行動だ。
 そして、彼女のすぐ傍では、操縦席から巴が森の方を見ていた。
「怪我をしていた様子はなさそうですね。となると、移動範囲は広そうですか」
 彼女はそう呟いて操縦席から降りると、草の根を掻き分ける蒼子に歩み寄った。
「迷いもなく森の方向に歩いている足跡があるわね。これを辿れば救助者には辿りつけると思うわ。ただ‥‥」
 蒼子は思案気に眉を潜めて立ち上がった。
 その表情に巴も思い当たるものがあったのか頷きを返す。
「迷いがないということは、先まで進んでいる可能性がありますね。健康状態も問題なさそうですし、急がなければ追いつけないかもしれません」
 巴の声に蒼子が頷いた時だ。
 森の中から、一斉に鳥が羽ばたいた。
 そしてその瞬間、見たこともないキメラが姿を見せたのだ。
 大きな甲羅を背負った鰐が、のっそり森の中を進んでゆく。
「あれが、危険なキメラ‥‥?」
 そう呟き、恵はハッとなって前に出た。
 それに続き、リヒトも前に出るのだが、キメラは能力者に気付いていない。
 今なら、写真を撮ることも出来るかもしれない。
「エリス‥‥撮れるか?」
 ネジリの言葉にエリスは迷う事なくカメラを構えた。
 そして‥‥――カシャリ。
 シャッター音が響き、その音にキメラが止まった。
「気付きましたね。閃光手榴弾を使います」
 リヒトはそう言うと、用意しておいた閃光手榴弾を取り出した。
 それに合わせて巴が動き出す。
「何か来るぞ!」
 ネジリの声に、巴が前に出る。
 その瞬間、放射線のような光がキメラの口から放たれた。
 木々を薙ぎ倒し迫る攻撃が巴の腕を直撃する。それでも彼女は怯む事なく前に出ると、黒いヴェールのような光を集約し、攻撃の柔和にかかった。
 その間、リヒトが迅雷でキメラに接近する。
 そして、足元に閃光手榴弾を放つ。
 キメラは再び口を開き攻撃に出ようとするのだが、それを恵が木々を盾に前に出て邪魔をしようとする。
 そこに再び放射線が迫るのだが、即座に使用した疾風で直撃は免れた。
 それでも掠めた傷は大きい。
「総員退避!」
 リヒトの声に皆が反応する。
 そしてキメラから距離を取り始めた瞬間、辺りに痛いほどの光が閃いたのだった。

●救助者
 要救助者は、大きな木の反対側で、窪みに身を潜めている状態で発見された。
 その時の彼の一言がコレだ。
「漸く来たか。待ってみるもんだ」
 カラリと笑う男は、自らをキルト・ガングと名乗った。
 外傷もなく、健康そうな様子に一同は安堵の息を吐く。
「私たちは救助依頼を受けてここに来ました。これが身分証明の手紙です」
 キルトはその手紙を受け取ると、ザッと目を通して頷いた。
 その上で皆を見回す。
「さてあと30分もすれば日が落ちる。今日は野宿したほうが良いぜ。どうせ道順はきちんとわかってるんだろ?」
「テントの用意はある」
 ネジリはそう頷くと、手早くその用意を始めた。
 そして全ての準備が整い、キルトがテントに入ろうとしたとき、リヒトの声が彼の耳に届いた。
「大船に乗ったつもりで眠ってくれて構わないよ。‥‥交代したら、ボクもそのつもりで安心して眠らせてもらうから」
 傭兵同士の会話だろう。
 それを耳に止めて微かに笑むと彼はテントに入って行った。
「どこに難があるんだ?」
「さあ、わからない‥‥」
 事前情報では、要救助者は性格に難があると言われていた。
 だが見た感じでは普通だ。
 リヒトは恵を、蒼子は巴の応急処置を終えると、カメラを手に考え込んでいるエリスに気付いた。
 そこにリヒトが歩み寄る。
「‥‥見付かると良いね、お父さん。‥‥応援してる、頑張って」
 そう言って笑んで見せる彼女に「ありがとう」と言葉を返しながら、僅かに苦笑して探しているのは、父親の撮った写真の場所という事を告げた。
「ところで、あの傭兵の方、どう思います?」
「さあ‥‥ただ状況から見て秘密任務でしょう。余計なことを尋ねたり調べたりはしません。手当、ありがとうございます」
 巴は蒼子にそう言葉を返すと、僅かに頭を下げてテントに入って行った。
 そしてミコトは、テント近くの木の下にシートを敷いて、毛布をかぶった状態で目を閉じていた。
 こうすることで異変を感じたらすぐに目をさまし動こうと言うのだろう。
 そこに川で魚を捕ってきたネジリが戻ってきた。
 その目に、自らの手を見る恵の姿が入る。
「まだ少し‥‥でも、ここまでは大丈夫」
 そう言って小さく拳を握る。
 この任務が終われば、達成感と同時に嬉しさも湧き上がってくるだろう。
 だがそれはもう少し先のこと。
 成功の際には、きっと今のように小さく拳を握って、初任務成功を喜ぶのだろう。
 その姿を想像し、ネジリは笑みを零すと皆の為に魚を焼く準備を始めるのだった。