●リプレイ本文
のどかな田舎道。
そこに鎮座する巨大な蛙キメラを視界に、4人の能力者は思い思いの感想を抱いていた。
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
そう声高々に名を上げるのはドクター・ウェスト(
ga0241)だ。
彼は私設研究グループの所長を務めている。今回のキメラ討伐は調査の一環も兼ねているのかもしれない。
とは言えこの蛙、
「ふむ、あまりやる気がなさそうだね〜」
彼の言うように、動く気配は一切なく、無気力極まりない。
「ほう、こりゃまた見事な蛙ですね」
「鉄でおびき寄せて、とも思ったが、打ち合わせてくる時間もなかったしね〜、一気に叩いてしまおう〜」
ジョー・マロウ(
ga8570)の言葉にドクターは「ふむ」と頷いて、顎に手を添える。
これだけ動かないのだから、近付いて倒すのが早いだろう。そもそも依頼書を見る限り、この蛙が動いたと言う情報はない。
あったのは、鉄を食べたと言う事だけ。
そもそも、その鉄を食べると言う話も疑い気味だ。
「鉄を食べたというが、いったいドンナ内臓器官をしているのかね〜」
「そんなことより、なんで女性がいないんですか‥‥全然やる気でないですよ」
ドクターに誘われて来てみた討伐。しかし到着してみれば如何だろう。
居るのは巨大な蛙キメラと、退治を要請した娘とその老人以下略ではないか。
肝心の能力者も、ジョー曰く(大人の)女性がいないとかでやる気が出ないとか。
「このキメラがメスでもやる気でないですけどね」
知的生命体でもない蛙の性別が女性だったとしても意味がない。そもそも蛙に性別などあっただろうか。
「女性がいないとか聞こえたけど‥‥まあ、良いわ。私には関係ない話だし」
ジョーの言葉を拾った天羽 恵(
gc6280)だったが、深く突っ込む事は避けるらしい。
目の前の巨大な蛙キメラを見据え、所持している刀に手を添える。そうして共にここを訪れたもう1人の能力者に目を向けた。
「蛙‥‥大丈夫?」
先程から蛙の感想を零しもせず、じっと巨大な物体を眺めていたラルス・フェルセン(
ga5133)に問いかける。
この声にラルスの目がニコリと笑んで恵を捉えた。
「大きな、蛙、ですね〜」
へらりと笑った彼に恵の目が瞬かれる。
どうやら蛙が駄目と云う訳では無いようだ。では何故ぼーっとしていたのか。
それは彼の性格による所も大きいが、こんな事も関係していたらしい。
「青蛙をー見るとー、故郷のカエルケーキを、思い出します〜」
「カエル、ケーキ‥‥?」
若干、恵と今の話を聞いていたドクターそして、ジョーの表情が変化する。
「君は蛙をケーキにして食べるのかね〜。それは何と言うか、独創的だね〜」
「独創的と言うか、俺は食べたくないね」
普通はこういう反応である。
だがラルスはこの言葉を聞いても笑顔を崩さず、ポンッと手を叩くと小さく笑った。
「ああ、形が蛙なだけでー、別に本物の蛙はー、使っていませんけどね〜」
彼の言うカエルケーキとは、蛙の形をしたケーキらしい。だがこの場にいる誰がそれを食べたいと思っただろう。
その辺は個人の判断に任せるとして、この話を聞いていた依頼人の少女は、老人と心配そうに能力者を見、そして口を開いた。
「にいさま方が、あの蛙さどうにかしてくれるだか?」
真摯に目を見て問いかける少女に、ドクターは「うむ」と頷きを返す。それを見た少女は隣に立っていた老人の手を取って喜んだ。
「やっただ! これで農道さ使えるだよ!」
「ありゃあ、畑の神様じゃ。南無南無南無‥‥」
「だあ! じいさま、あれは仏様じゃねえ! 何度言えばわかるさね!」
何とも呑気な遣り取りだが、これにドクターが物申した。
「ホトケ? 我輩たち能力者は、『地球が戦うための武器』であって、ソノようなものではないね〜」
「ほら、言ったべ!」
能力者さの言う事だ合ってるに決まってる。
そう言葉を返す少女に、老人は低く唸り、困惑気味に皺に塗れた目をドクターに向けた。
「君たちが持つナイフとなんら代わらないね〜。ただ威力が大きいだけだね〜」
能力者は武器であり、老人らが蛙を排除しようと持ち出した鍬や斧などと何ら変わりないと言う。
この言葉に老人は「ううむ」と声を零し、それでも仏様と言う言葉は使わなくなった。
「それじゃ、能力者さ、頼むだよ!」
少女はそう言って頭を下げる。
そうして去ろうとしたのだが、それをラルスが遮った。
「何だべ?」
「ケーキの話をー、していたらー、お茶が飲みたくーなりました〜。さっさとー退治してー、お茶の時間とー、いきたいですね〜」
にっこりと告げられた言葉と笑顔に、少女の顔が真っ赤に染まった。
「わ、わかっただ。終わったらお茶さご馳走するべ」
彼女はそう言い、そそくさとこの場を去っていった。
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でっぷり、どっしり。
大地に根でも生やしているんじゃないかと言う重量感で、蛙は未だに農道のど真ん中に鎮座していた。
「では、道掃除を始めましょうか」
言ってラルスの瞳がダークブルーに変化し、額の中央に青白く光るエイワズのルーンが現れる。
そうして緩く瞳を眇めると、彼の手の中で白銀の弓が光った。
「‥‥まさか、鏃を狙って巻き取りはしないでしょうが、一応確認を」
番えた矢。ギリギリまで弦を引き照準を合わせる。
そうして放った矢が蛙の目の前まで迫ると、意外な事が起きた。
「これは意外な展開だね〜」
覚醒と同時に足元から全方向に展開する紋章「憎悪の曼珠沙華」。それを視界に留め、ドクターがエネルギーガンを構える。
今目の前で起きた事を解説すると、ラルスの予感が的中した。そんな所だ。
「‥‥体は重くて動かなそうなのに、舌は早く動くのね」
恵の言うように、蛙の舌は想像以上に速く動いた。
それこそラルスの放った矢を受け止める程に。とは言え舌は1つ。そしてこちらは4人だ。
「負ける気がしないな」
GooDLuckを掛けて手にした直刀。それを手に斬り込んでゆくジョーは注意深く敵の動きを観察する。
蛙はジョーの動きを見止めると、巨大で大きな目を動かし口をもごもごと動かし始めた。
どうやら動く準備をしているようだ。
その様子を目にしたドクターが声を放つ。
「ジョー君、そのまま後ろ足を狙いたまえ〜」
「了解っと!」
ドクターの声が終わるや否や飛んで来る舌。そこにラルスの放った矢が迫ると、蛙の舌がそちらへ向かった。
これは蠅を取ろうとする蛙の動きによく似ている。
飛んでいる蠅を反射的に掴み取った蛙。
この瞬間、大きな隙が発生する。
「私も加勢する」
恵が加わり、ジョーは彼女と共に後ろの両足を突いた。
ゲココココココッ!
ちょっと鼓膜が痛くなる叫びに、ジョーと恵が不快な表情で後退する。
対する蛙はと言うと、攻撃された足に舌を伸ばしてゲコゲコ泣くばかり。
まあ、相当痛かったのだろうが、本番はこれからだ。
「おいおい、暴れるのはやめてさっさと大人しくなってくれよっと」
痛みでもがく蛙に、第2打を加えようとジョーが飛び込む。それに習って恵も飛び込むのだが、意外や意外、後ろ足を動けなくされてから蛙が動いた。
「これはなかなか面白い状況ですね」
「気持ち悪いだろう〜」
嬉々として零したラルスの声にドクターが突っ込みを入れる。
蛙が如何動き出したのか、それはコレだ。
ゴゴロゴロゴロゴロ。
体を横たわしにして転がる。
正直言って、巨大な蛙が転がる姿は奇妙で不気味だ。
決して可愛いとは思えないし、早く如何にかしたい衝動に駆られる。
「お強い方がいらっしゃるので、そう手間取る事もないと思ってましたが、これは早急な対応が必要ですね」
ラルスはそう言うと、腕に強い白光を纏い、矢を構えた。
狙うのは転がり来る蛙の体、ソコだ。
「貫通すればいいのですけど」
囁き、片目を閉じて狙いを定める。
そして一気にそれを放った。
凄まじい勢いで迫る矢に、蛙の動きが止まる。
生憎と貫通はしなかったが、矢は蛙の進行方向を遮る効果はあったようだ。
それを見止めてラルスが武器を持ち替えると、ジョーも動き出した。
「おっと、そっちにゃ行かせられないな」
蛙は矢の降った方角とは逆に転がろうとした。だがそれをジョーが遮る。
彼は直刀で蛙を薙ぐように一閃を引くと、すぐさま離れてエネルギーガンを放った。
これにドクターのエネルギーガンも迫り、蛙の動きは完全に止まる。
「多少派手な方が、ギャラリーも楽しめるでしょう」
いつの間に戻って来たのか。
依頼人の少女と老人が見ている事を確認し、ラルスは瞬天足で間合いを詰めた。
そして地から足を放すと、蛙の頭上に刃を突き立てた。その上で、刃を深く突き刺すように体重を掛け、反対方向へと着地する。
まるで前方伸身宙返りのように華麗に着地した彼に、少女のはち切れんばかりの拍手が届く。
しかし、まだ終わりではない。
「さて、これでトドメになるかな?」
ラルスの攻撃で弱ったキメラの体躯に、ジョーの刃を突き刺した。
瞬間、キメラの体が大きく仰け反る。
「お、ラッキー?」
刃を引き抜いた瞬間に上がった爬虫類独特の奇妙な色の液体。それを避けるように飛び退くと、蛙は体を捩って農道のど真ん中に崩れ落ちた。
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「おらの王子様だぁ♪」
依頼主の自宅に招かれてのお茶会。
とは言っても置かれているのは緑茶とお煎餅と言う組み合わせ。
純和風なそれらに手を伸ばしながら、ラルスは少女の視線もお構いなしにお茶を口にした。
暖かで優しい香りが口の中で広がる。
「はぁ‥‥美味しいですね〜」
ほんわか微笑む彼に、恵も頷き、ドクターは不思議そうに煎餅を眺め、口に運んだ。
その上で老人と会話を繰り広げるのだが、その会話が何とも奇妙な物だった。
「我輩は宗教が違うのでね〜、我々は正しき人類から堕ちたもの、どうやっても天国への門は開かれないだろう〜」
先の仏様の件で、老人と宗教談話をしているようだ。
それを耳に留め、ジョーは大きな欠伸を零した。
「ふぁあ‥‥何もない場所ですね」
確かにここは何もない農村。
けれどそれが良い、と恵は零す。
それを聞いてから、ジョーはのどかな景色に目を向けた。
遠くでは農作業を開始した音が聞こえる。
これから稲の刈り入れ時期だと言う。蛙も除いた事だし、美味しいお米が採れるだろうか。
そんな事を考えながら、ジョーはもう1つ大きな欠伸を零したのだった。