タイトル:骨を愛してマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/08 13:08

●オープニング本文


 オフィスビルが並ぶこの場所は、昼間は人の往来がとても多い。
 しかし、就業時間を終え、人々が家路に着いた深夜は、グッと人通りが減る。
 仄かに残るビルの灯りは、防犯のためのもの。
 その灯りと街灯を頼りに、酔っ払いが道を歩くのは珍しくない。
 そしてここを歩くこの男も、酔いで気持ち良くなった体を揺らし、家路に着こうとする者の1人だった。
「‥‥ッ、ひぃっく‥‥終電、終わっちまったぁ」
 ゲラゲラ笑いながら千鳥足で歩く。
 目指すは電車で2時間はかかるであろう我が家だ。
 運よくタクシーでも通りかかれば良し、もし通りかからなければ、起きていられる間は歩き続ける。
 それ以外の選択肢は、今の彼にはなかった。
「ン〜‥‥良い、お月さまだねぇ‥‥」
 やはり笑って空を見上げる。
 そうして視線を前に戻そうとしたところで、彼の動きが止まった。
――‥‥、‥‥ン。
 耳を掠めた低い音、その音に辺りを見回す。
「気のせい、かぁ‥‥?」
 ヒック、っと声をしゃくりあげ、首を傾げる。
 そしていま一度、足を動かそうとして彼の目が見開かれた。
「――‥‥ッ、なんだ‥‥アレ」
 水でも掛けられたかのように引いて行く酔い。
 だがそれもその筈。
 男は有り得ない光景を前にしていたのだから‥‥。
――‥‥シン、‥‥ズシン‥‥ッ。
 次第に大きくなる音。それに合わせて揺れる地面。
 釘付けになるビルとビルの間に見え隠れする白い物。
 それがゆっくり近付くと、男は無意識に走り出していた。
「何だアレ、何だアレ、何なんだよっ!!!!」
 必死に走りながらチラリと振り返る。
 その目に飛び込んできたのは、巨大な骸骨――大きさは、人間よりも遥かに高く、全身は正に人の骨そのもの。
 胸の中央に赤く光るものがあり、それが奇妙なうねりを見せている。
 位置的な物から人の心臓と同じ役割でもしているのかもしれない。
 その周辺には、蝙蝠に似た存在が3体、そこを護るように浮遊していた。
「はぁ、はぁ‥‥っ、しまった‥‥!」
 何処をどう走ってきたのか覚えていない。
 ただ骸骨に追い付かれないようにするので精一杯だった。
 そしてその結果――袋小路に嵌った。
 振り返れば、直ぐそこまで骸骨が迫っている。
 瞳は無いが、目がこの中で唯一動く男に向かっている。そして彼の前で足を止めると、骸骨の口がゆっくりと開いた。
「‥‥ヒッ、助け‥‥――!!」
 声鳴き悲鳴が上がり、同時に炎が男の体を包み込む。
 一瞬の出来事だった。
 男は炭のように黒く成り果て地面に倒れ、周辺が異様なまでに黒く変色している。
――‥‥ズシン、‥‥ズシンッ‥‥。
 再び歩きだす音が響く。
 足音は徐々に遠ざかり、次の獲物を探すように動いていた。

 そして、翌朝――。
 オフィスビルで4体の炭と化した遺体が発見された。
 遺体の周辺は黒く染まっているものの、火事になった様子はない。
 となると、必然的に普通の生き物がやった事ではないと言うことになる。
 そしてそれを裏付ける証言が出て来た。
 巨大な骸骨がビルの間を歩いていた――と。
 この証言が元で、正式にUPCに依頼が出された。

――骸骨型のキメラを退治して欲しい。

●参加者一覧

植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
刻環 久遠(gb4307
14歳・♀・FC
ラグナ=カルネージ(gb6706
18歳・♂・DG
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
エティシャ・ズィーゲン(gc3727
15歳・♀・ER
蒼唯 雛菊(gc4693
15歳・♀・AA

●リプレイ本文

 月を臨む深夜。
 人通りの消えたオフィス街で、能力者達は依頼内容にあったキメラの存在を探して歩いていた。
「結構狭いッスねえ。開けた場所は‥‥あそこ位ッスかあ」
 呟き、スクランブル交差点を見たのは植松・カルマ(ga8288)だ。
 未だ電気の通った信号機は、時間の経過と共に、青から黄色、赤へとその色を変化させている。
 普段ならば、ここに車が走り帰路への道を急いでいるのだが、今は通行止めとなってその姿は見えない。
「そうだな、この辺りに誘き寄せれば問題ないか」
 カルマと共に行動する布野 橘(gb8011)が呟き、周囲を見回した、その時。
――‥‥、‥‥ン。
 耳を掠めた僅かな音に茶と緑の瞳がぶつかり合う。
「来たかな?」
「その様ッスねえ」
 そう口にすると、2人は音が響いたと思われるその場所へと脚を動かした。

 一方、同じくキメラの存在を探していた刻環 久遠(gb4307)は、幼い黒の瞳を瞬かせて周囲を見回していた。
「‥‥出ないね」
 ポツリと呟いた久遠の手は、同行するラグナ=カルネージ(gb6706)の腕をしっかり掴んでいる。
 そんな彼女を見下ろし、ラグナは1つ息を吐いた。
――また一緒なのね‥‥えっと‥‥一緒に‥‥。
 そう言って、久遠はラグナと行動を共にしたい旨を申し出た。
 彼にそれを断る理由は無く、だからこそ今こうして一緒に行動しているのだが、如何にも調子が出ない。
 そんな彼に久遠がふと呟いた。
「‥‥そう言えば今回の‥‥、がしゃ髑髏っぽい、けど‥‥知ってる?」
 依頼書にあったキメラの特徴を思い出し問うと、ラグナの肩が僅かに揺れた。
「‥‥え゛っ」
 AU−KVのメット越しのため表情はわからないが、漏れた声からそうした物が苦手だと伝わってくる。
「知らなかったの‥‥?」
「え、いや‥‥ほら、オバケとか勘弁‥‥っていうか、な?」
 要はホラー関係が苦手ということだ。
 その反応を見て、久遠が何か言おうとしたところで、彼女たちの顔が上がった。
――‥‥シン、‥‥ズシン‥‥ッ。
 足元から響いてくる振動、彼女の口から流れるような声が零れる。
「―――Atziluth」
 フッと久遠の髪が銀に染まり、瞳が紅へと変わる。
 そしてその目がラグナに向くと、彼女の唇から笑みが零れた。
「なぁに、おにーさん。怪物は良くて化け物は駄目なんだ?」
「そ、そんなことは‥‥」
 言い返そうとするが、久遠の言葉を思い出し彼の首が傾げられた。
「‥‥怪物?」
「そうよぉ、怪物」
 ニコリと笑ったその顔を見て、AU−KVが目を瞬いたかもしれない。
「ほら、行きましょう」
 久遠は知れず笑みを零すと、地を蹴ったのだった。

 そしてもう一班、同じくオフィス街を歩いていたエティシャ・ズィーゲン(gc3727)は、あまりに静まり返る周囲の状況に、金色の髪を揺らして息を吐いた。
「蠢く骸骨に徘徊する蝙蝠か‥‥B級ホラーの現場みたいだよ」
 依頼内容の確認は済んでいる。
 その内容を思い出して呟けば、彼女の瞳が辺りを見回した。
「なんにしても、すでに被害も出ている‥‥これ以上はやらせないですの」
 エティシャの呟きを拾ってか、蒼唯 雛菊(gc4693)が意気込みを口にすると、青の目が彼女に向いた。
「そう言えば‥‥」
 今さらながらに気付いた。
 そんな様子で言葉を口にしたエティシャに、雛菊の首が傾げられる。
「よろしくね。サポートなら任せてもらっていいから」
「あ、はいですの。宜しくお願いしますの」
 コクリと頷き頭を下げる。
「生物一匹いやしない。この空間なら、そこに居るだけで怪しいかもな」
 呟きながら見上げた空は澄んでいて綺麗だ。
 それを見ながら息を吐くと、エティシャは野菜スティックを口に咥えた。
「‥‥さ、この静寂の原因はさっさと取り除こうか」
 ポキリと野菜の折れる音がする。
 その音を聞きながら、雛菊はキュッと唇を噛みしめた。
 脳裏を過るのは、自らの過去。
「バグアにキメラ‥‥その存在は許されない‥‥いえ、許さないですの」
 言って、歩きだそうとしたところで彼女の足が止まった。
――‥‥ズシン、‥‥ズシンッ‥‥。
 耳を打つ地鳴り、脚に感じる地響き、その音に2人の目が上がった。
「――ッ、出た」
 どちらともなく呟かれた声、エティシャは急ぎ無線機を取り出すと各班へ通達した。

――エティシャだ! 標的発見!

 その報告を聞いた橘は、無線機を下ろすと僅かに苦笑した。
「おいおい、こんなでっけぇのどうやってここまで来たんだよ」
 音を頼りにやって来た場所。
 そこに見えた巨大な骸骨に思わず言葉が口を吐く。
「デカブツの相手? なら俺がやらざるを得ないっしょ!」
 言ってニンマリ笑ったカルマに、橘の口から口笛が漏れた。
「何だ、デカイの相手にするのが得意なのか?」
「ジャイアントキリングの異名を持つ俺にかかればチョチョイのチョイッスよ!!」
 一体何処でそんなことを‥‥そんな突っ込みを飲み込んで、橘は忍刀「颯颯」を抜いた。
「他の班も合流したみたいだ。さあ、始めようか」
 視界には他2班がやって来たのが見える。
 そして各々がそれを確認すると、ほぼ同時にキメラに向かって行った。

●蝙蝠と骨
 アスファルトを踏み、確実に近付く巨大な髑髏。
 それを前に久遠は口元に笑みを浮かべて、天魔無影の太刀を抜いた。
 漆黒の刃が月の光を受けて妖しく光る。そして次の瞬間、彼女のコートが風を切った。
「先に蝙蝠の方を始末だからな!」
 叫ぶラグナに、久遠の唇に妖艶な笑みが乗る。
 それを見て取ったのか、ラグナはAU−KVのメットに隠れた口元に苦笑を浮かべると、グラファイトソードを構えた。
「ったく、わかってんのかね。骸骨殴ってる時に邪魔されちゃたまんねーから言ってるんだが」
 呟きながらも目は久遠の動きを追っている。
 素早さを活かして大地を踏む骸骨に近付きながら、空を飛ぶ蝙蝠に注意を払う。
 そうして降下する瞬間を狙おうとするのだが、イマイチ決め手に掛けた。
 そこに銃声が響く。
 一体の蝙蝠型キメラの羽を貫いた弾に、チラリとだけ久遠の目が動いた。
「いまッスよ。誘導しながら、戦って貰えると有難いッスねえ」
 小銃「ブラッディローズ」を構えたカルマが、次に狙いを定めて引き金に手を掛ける。
 その間にも羽を撃ち抜かれたキメラは、自身への攻撃の応酬にと方向を転換させていた。
「ようこそ、いらっしゃい」
 クスリ、そう音で現せるような笑みが零れる。
 そして降下する蝙蝠を捉えると久遠の太刀が風を切った。
 その瞬間、蝙蝠の口から悲鳴が響く。
 甲高く、空気を割るような音に、久遠の眉が寄った。
「――この音」
「危ないぞ」
 頭を割るような音。
 それに怯んだ久遠の前にラグナが出る。
 そして向けられた牙を刃で受け止めると、一気に目の前の羽にそれを叩きつけた。
――キイィィィィ!
 再び上がる奇妙な音。
 それを、頭を振ってやり過ごすと、久遠は太刀を構えた。
 一気に突きあげられた刃が、蝙蝠の体を貫く。
「蝙蝠‥‥? にしては、違和感だな。雛菊、多分キメラだ。落とすぞ」
 エティシャは、久遠とラグナの闘いを見ながら呟く。
 その上で超機械「クロッカス」を構えると、手早くそれを操作した。
 その事で雛菊の蒼剣【氷牙】が冷たい蒼の光をたたえて輝く。それを見止めた、雛菊の外見が変化する。
 浮き出た狼の耳と尻尾、氷のように冷やかなそれを纏った彼女の足が地を蹴った。
「さて、支援に専念だ」
 呟き、エティシャの手から電磁波が放たれる。
 それが骸骨の前を浮遊する蝙蝠を捉えた。
 一時的に上がる火花に、蝙蝠が奇声を上げて身悶える。
 そこに雛菊が飛ぶ。
 蝙蝠から地上までの距離は僅か。
 飛び上がれば届くだけの距離にそれは落ちて来ている。
「禍は断つ!」
 振りあげられた蒼の軌跡が、迷うことなく蝙蝠に降り注ぐ。
――キュァァァ‥‥!
 力任せに落とされた刃に、蝙蝠が地面に落ちる。
 そこに透かさず雛菊の剣が突き落とされれば、2体目のキメラもその息の根を断った。
「弱すぎですの。これなら――」
「鬼火だ! 散れ!」
 突如響いたエティシャの声に、雛菊の目が上がる。
 咄嗟に飛び退く能力者に合わせ、自らも地を蹴るが、僅かに遅れた。
「――ッ」
 腕に感じる痺れに似た感覚。
 そこを押さえれば僅かに火傷した痕が残っている。
「ちっ!? 大丈夫か?」
 急ぎ雛菊に駆け寄ったエティシャは、彼女に治癒を施す。
 その上で攻撃を放った骸骨を見ると、彼女の眉間に皺が刻まれた。
「残り一体になって焦ってるのか? 行けるようなら、蝙蝠と髑髏、両方の攻撃にまわるぞ」
 エティシャの声に、雛菊が無言で頷く。
 その姿を僅かに離れた位置で捉えていた、橘は蝙蝠と骸骨の両方を見た。
「完全に警戒しているか‥‥おい、イケメン!」
 突然の声に、小銃を構えたカルマの目が向く。
「骸骨がこっちを見ているようだ。注意しろよ」
「了解ッスよ!」
 言うが早いか、カルマの銃口が火を噴いた。
 これで何度目の攻撃だろうか。
 倒すつもりで放った弾が、ヒラヒラと浮遊する相手に苦戦し当たらない。
 それでも止まることなく銃弾を放っていると、彼の視界にシュリケンブーメランが飛び込んできた。
「それ、こっちだ!」
 カルマだけに注意を払っていたのだろう。
 突然別の場所から降って来た攻撃に、蝙蝠の身が揺らいだ。
 そこに透かさず銃弾が向かう。
「出来た隙は見逃さないッスよ!」
 蝙蝠の羽を貫いた銃弾に続いて、カルマの金色の剣が降下する蝙蝠を断った。
「よし、次はあいつだな」
 橘の声に皆の目が骸骨に向かう。
 赤い光を護るようにいた蝙蝠はいない。
 後は、骸骨型のキメラ‥‥これを倒すだけだ。
「報告によると、大人が走っても撒けない程度の速さがあるようだ。みかけより機敏なのかも知れんな」
 エティシャは注意深く髑髏を観察する。
 既にこちらの存在は察知されている上に、先程は炎も放たれた。
 それを考えれば時間を置いている暇はない。
 しかし‥‥
「あるいは‥‥標的の動きを遠くまで察知できる何かがあるのか」
「考えるよりも動くのが先ですの――ッ、来る!」
 言うのとほぼ同時だった。
 髑髏の巨大な足が地を踏みしめた瞬間、大きな口から炎が放たれた。
 それを一斉に避けながら動き出す。
「行きますの! 秘技! 瞬蒼襲牙【一閃】!!」
 雛菊は蒼剣を手に一気に脚を加速させた。
 常人であれば目に留める事も出来ない速さで駆け抜ける。そうして髑髏の足に纏わりつくと、注意を向けさせるように刃を振るった。
 それに髑髏の身が屈められる。
 大きく振りあげられた拳が、風を纏い降り注ぐ。
 しかしそれをエティシャの電磁波が遮ると、透かさず口が開かれた。
 だが、それすらも能力者達は許してくれない。
「全力でブチのめす!」
 龍の爪を使用したラグナが骸骨の視界に入った。
 そこに迅雷で駆けつけた久遠の太刀が唸る――ガンッ。
 鈍い音が響き、髑髏の顔が久遠を捉えた。
 だがこれはフェイントだ。
 今の隙を突き、飛翔したラグナの剣が降り注ぐ。
「行くぜェ! ベリアルブレード!」
 唸りを上げた腕、凄まじい勢いで骨を掻く刃に、髑髏の身が揺れる。
「あははっ、上手ねおにーさん!」
 バランスを崩して膝を着いた髑髏を見ながら、狂笑を浮かべた久遠が言う。
 それに僅かに頭を振ると、ラグナは次なる行動に出た。
「随分と丈夫だな。おいイケメン、そっちは頼むぜ。こっちは見といてやるから安心しな」
 そう言いながら橘の手からブーメランが放たれる。
 それが髑髏の顔に当たると、咆哮が上がった。
 完全に隙を見せた相手に、カルマの口角が上がる。
 そして――
「ウォラァ素直に納骨されやがれ! 『ジャイアントキリング』ゥゥゥッ!」
 鈍色の肌に淡い光が射し、剣の紋章が武器へと消えた。
 直後放たれた、唸るような衝撃派。
 それが赤い物体を撃つ。
――ゴオオオオオッ!
 まるで地震のように強大な声を上げた髑髏の胸を、最後の一撃とばかりに能力者達の攻撃が加わる。
 そして赤い物体から光が消え、弾け飛ぶと、髑髏は骨を散り散りにしてその場に崩れ落ちた。

●残骸を前に
 能力者達の前に残されたのは、巨大な骨の残骸だった。
 ある程度開けた場所まで、闘いながら誘導したとはいえ、山のように重なった骨の残骸は明らかに邪魔だ。
 それをカルマと橘が、なんとも言えない表情で眺めている。
「こいつは予想外だったッスねえ」
「まったくだな。これ、如何するんだ?」
 骨は所々に罅が入っている。
 先ほどの闘いと、崩れ落ちた時の衝撃を考えれば当然だろう。
「これ、砕けば砂みたいになるでしょうか?」
 コンコンッと骨を叩きながら、雛菊が呟く。
 その顔は真面目で、冗談を言っているものではない。
「いや、それは‥‥どうだろうな」
 頬を指掻いた橘に、カルマも苦笑する。
 能力達にかかれば出来なくはないだろうが、相当の労力を必要とするだろう。
 しかしそれをするには、時間が遅い。
 遥か先の空などは薄らと白くなり始め、朝の訪れが近い事を告げている。
 これは後々報告をして、処分して貰うしかないだろう。
 そんな骨の心配をしている傍で、覚醒状態のままの久遠はラグナに話しかけていた。
「そう言えばおにーさん、家族は?」
 AU−KVに隠れて見えない顔を覗き込みながら問う。
 その声にラグナの首が傾げられた。
「‥‥家族? 俺にはいねーよ。記憶がねーから忘れちまってるんだろうけどな」
「‥‥いないの? ‥‥本当に?」
 ふわりと浮かんだ唇の笑みに、ラグナの顔が動く。
「‥‥何‥‥どういう意味だ」
 問いかけに久遠は何も答えない。
 そのかわり唇に意味深な笑みを浮かべると、足を動かした。
「じゃあね。今日も楽しかったわよ、おにーさん♪」
 言って、スキルを使って瞬く間に姿を消した久遠を、ラグナは呆然と見つめていた。
 そんな彼の耳にポキリと、何かが折れる音が響く。
「煙草吸いたい‥‥はぁ。野菜の味だな」
 目を向けると、そこにニンジンを齧りながら煙草に思いを馳せる、エティシャの姿があった。