タイトル:BH☆タモルフォーゼマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/10 11:53

●オープニング本文


●???
 薄暗い地下で壁いっぱいに映し出されるのはビューティーホープ(gz0412)(以下、BH)の戦闘シーン。
 今まで彼女がキメラや強化人間と闘った姿を映した映像は、全て編集が施され、さながら特撮映像のように保存されている。
 それらを1話から眺め、『博士』は水の入ったコップを引き寄せた。
「ここまでは順調そのもの。最終仕上げもそろそろ、と言った所か」
 呟き、喉を潤す。
 先刻、自分を探る能力者の存在を知った――いや、それ自体はわかっていたし、それすら自分の想像の範囲内。
 何かをするのに問題になる事は何もない。
「問題なのはこの次だ。だが、彼女ならばやってくれるだろう」
 博士は空のコップを置いて立ち上がると、映像を先送りして、BHが出現した一番最近の物を映し出した。
「燕君は私に疑念を抱き、恨みを抱えているだろう。何せ、私がそう仕向けたのだからな。だが、愛君は違う」
 壁に映し出される、君塚 愛を庇うセクシーホープ。撃ち込まれる弾丸を全身に受け、彼女は能力者としての最後を迎えた。
「愛君は傭兵から調査内容を聞いたとしても、私を恨む事へ葛藤を覚えている筈。そして、これこそが美少女戦士として越えるべき苦難の壁」
 博士はその姿を目に焼き付けるように見詰め、そして後ろを振り返った。
「さあ、最終話に向け次なる行動に出るぞ。ビューティーホープこと君塚愛を襲撃しろ」
 この声に、博士の後ろに控えていた2人の強化人間が頷きを返した。

●天使の園
「燕ちゃん‥‥退院できて、良かったね」
 晴天の空の元、病院を出る事が出来た伊芦花 燕は、突き慣れない松葉杖を片手に出迎えた愛を見た。
「何であんたがココにいるのよ」
「燕ちゃんのお迎え‥‥でも、何で天使の園に来たの?」
 燕は天使の園に住んでいる訳ではない。
 彼女の家は確かにこの近所だが、足が不自由になった以上、家に直接戻った方が良いに決まっている。
「‥‥別に、良いでしょ」
 言ってそっぽを向いた彼女に、愛の目が瞬かれる。
「変な、燕ちゃん‥‥」
「‥‥あんたが心配で、なんて‥‥言えるわけないじゃない」
 ボソッと呟いた燕に、首を傾げる愛。
 燕の能力者としての命が潰えて以降、2人はそれなりに仲が良い。今日も愛が無事かを確認しに、わざわざ天使の園を経由して帰るつもりだった。
「ところで‥‥それ以降、襲撃はないの?」
「あ、うん‥‥何も‥‥」
 そう言って目を逸らした愛は、未だに博士の事を疑えずにいた。
 その事を知っているからこそ、燕は愛が心配なのだ。
 万が一、博士が襲撃してきた時、彼女に闘う事は出来ない。もしそのような事態になったら、その時こそ愛の戦士生命も、能力者として、人間としての生も終わってしまうかもしれない。
「それだけは、させない」
 そう呟いた時、異変は起きた。
「目標捕捉、抹消行動に移ります」
 カチリと響く銃器音。それに続き目に入った、黒のフリル衣装を着た少女に、愛と燕の目が見開かれる。
「燕ちゃん、危な――」
「愛、伏せなさい!」
 覆い被さる様に飛び付かれ、その反動で地面に転がる。
 次いで響いた銃撃音に、天使の園から悲鳴が上がった。
「出てこないで!」
 燕の声に、園庭に飛び出そうとした子供達の足が止まる。そして燕は抱え込んだ愛に目を向けると、苦笑を顔に滲ませた。
「来たわよ‥‥どうするの?」
「え‥‥」
――どうする。
 この声に愛の瞳が揺れた。
 そんな愛の目に、燕に向けて銃口を構える強化人間が1人――いや、2人見える。
「このまま、逃げる? それとも‥‥」
 逃げる事は物理的に不可能だろう。
 それに強化人間の1人が言った目標とは愛の事だ。それは攻撃行動から容易に判断できる。
 だが逃げ以外の選択肢を選ぶことは、この場で覚醒し、変身すると言う事。それはつまり、自分がBHであることを皆に見せることにもなる。
「そんなの、出来る訳‥‥」
「それで逃げ切れるなら別に良いんじゃない? でも、アイツはそんな簡単な奴じゃない」
 燕はそう言うと、松葉杖をついて立ち上がった。
 そして銃口を向ける強化人間に向き直る。
「目標は2人? だったら狙いやすい的がここにいるわよ」
 言って腕を広げる。
 その姿に愛は息を呑んだ。
「‥‥博士、私はどうしたら‥‥」
 土を握り締めて唇を噛み締める。と、そこに聞き慣れた声が響いた。
「ブラックホープ、そこにいる腐った戦士に制裁を加えろ」
「!」
 顔を上げた先に声の人物はいない。
 それでも聞こえた声は紛れもなく、あの人――
「――博士」
 愛は呆然と呟き、燕は表情を引き締める。そして燕はしっかりとした足で愛の前に立つと、強化人間こと、ブラックホープを睨み付けた。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
殺(gc0726
26歳・♂・FC
エヴァ・アグレル(gc7155
11歳・♀・FC
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

 アスファルトを蹴る音を耳に、逸る気持ちを抑えて王 憐華(ga4039)は目の前の角を曲がった。
「やっぱりといいますか、2人が一緒の所を狙ってきましたね」
 今日は元セクシーホープこと伊芦花燕の退院日。彼女は天使の園に寄って、それから帰宅の途に着くと言っていた。
「愛さんも向かうと聞いていましたし‥‥急がないとっ!」
 先程、聞き覚えのある銃声がした。
 音の方角からして天使の園がある場所だろう。つまりそれは、愛と燕、2人が同時に襲われたと言うことを指す。
「あの角を曲がれば――」
 縺れそうになる足を急かして走る。
 そうして最後の角を曲がった時、彼女の目に見慣れた姿が飛び込んで来た。
「子供たちと遊びに来たってのに、間の悪いっ!」
 黒のメイド服に金色の髪。
 憐華と同じく表情険しく駆けて来るのはキョーコ・クルック(ga4770)だ。
「キョ‥‥――メイド・ゴールド」
 憐華は彼女の視界に入る前に衣装を着替えると(何処で着替えたか考えてはいけない)、透かさず名を呼んで合流した。
「れ‥‥ヴァルキリーホープ‥‥やっぱりあんたも来たんだね」
 この声に頷き、憐華は正装巫女装束のスリットを少し捲る。戦闘用に作られているとはいえ、スタートダッシュを切るにはこの方が楽だ。
 2人は互いに頷き合うと、己が武器を手に駆け出す。
 そして2人が園庭に足を踏み入れる頃、既に到着していた殺(gc0726)が苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「――なぜこう何度も襲われる‥‥何かを見落しているのかっ」
 撃ち込まれる弾丸。
 それを寸前の所で交わして眉を寄せる。
 そもそもここを訪れたのは最近の出来事が気になったから。とは言え、流石にタイミングが良すぎる。
「考えるのは後だ! それよか、愛ちゃんと燕ちゃんは無事か!?」
 殺の呟きを拾ったのだろうか。
 村雨 紫狼(gc7632)が殺と並んで叫ぶ。その声に殺の紅い目が後方を捉えた。
「‥‥燕ちゃん。燕ちゃん‥‥大丈夫‥‥?」
 地面に転がる形で燕を抱えた愛。全身に砂埃を浴びている様子と、松葉杖が転がっている様子から、愛が射撃の瞬間を見取って彼女を抱えて避けたのだとわかる。
「‥‥反射神経、身体能力、動体視力‥‥覚醒していなくても流石だな」
 殺は愛の事情を心得ている。
 勿論詳細は知らない。それでも彼女が隠す事柄は心得ている。
「2人は無事だ。だが、避難には相応の時間がかかる」
 この声に紫狼の奥歯が軋む。
 目の前の黒衣の少女2人は、銃を構え直しこちらに照準を合わせている。指が引き金に掛かり始める様子から、発砲は間もなくだろう。
「流石に、今避けるわけにはいかねぇよな」
「ああ」
 後ろには愛と燕がいる。
 今攻撃を避ければ、2人は確実に銃弾を浴びる。それだけは避けたかった。
 それに紫狼には愛に聞きたい事もある。
「‥‥なあ、愛ちゃん。何か言う事ないか?」
「え?」
 良く見れば愛の表情は硬く青い。
 この表情は襲撃を受けたと言う理由だけではなさそうだ。燕を抱える腕が微かに震えている様子からも彼女の動揺は伺える。
「この襲撃を博士が仕組んだのよ。だから愛は動揺してるの」
「燕ちゃん!」
「黙ってる必要がある? さっきの声は紛れもなく博士よ。あんたの馬鹿な耳が聞き間違えても、あたしの耳は聞き間違えない!」
 燕の声に紫狼は「やはり」と表情をキツクする――と、その瞬間、敵の指が引き金を引いた。
「シャア!」
 まずは2人守るのが先決。
 咄嗟に防御態勢を取った紫狼に殺が続く。
 しかし、銃声は予想外の方角から響いてきた。
 飛び退く2人のブラックホープ(以下、BLH)。直後、彼女たちが居た場所に砂塵が舞い上がった。
「‥‥新たな敵を捕捉」
 BLHの1人が呟き、新たな銃を片手に2丁の照準を合わせる。そして砂塵の中に瞳を眇めて狙いを定めると、声が響いてきた。
「武器も持たず、まして満身創痍の女性に銃を向ける‥‥――一体、どう言う了見ですか」
 徐々に消える砂と、そこに現れた人影。次第に見えだす銀糸に皆の目が向かう。
 怒ると言うよりも静かに非難する。そんな色合いの声を放った終夜・無月(ga3084)は、漆黒と白銀の銃を構え直すとBLHに狙いを定めた。
「どうしても戦うと言うのなら‥‥私がお相手しましょう」
 言葉が切れると同時に舞い上がった風。
 そして現れた白く神々しい狼と、女性のような肢体に変じた体に纏われた鎧。彼はそれを一瞥することなく、踏み出すと一気に前に出た。
「容赦はしません」
 冷たく光る金色の瞳が、フッと横を捉えた。
「そこの女ども! ここは危ねぇからっさっさと下がれ!」
 愛と燕、2人の横を通り過ぎた須佐 武流(ga1461)が無月と並ぶ。
 そして2人同時にBLHの間合いに飛び込むと、双方の額目掛けて銃弾が放たれた。
「ッ、速い!」
 自分も遅い方ではない。
 それでも飛び込む一瞬の隙に放たれた弾へ武流の反応が遅れる。そして額に僅かな熱さを感じて飛び退くと、片手を着いて更に一回転分後方へ飛び退いた。
 そこへ次の攻撃が舞い落ちる。
 次々と繰り出される攻撃に、武流の反応が1つ、また1つと遅れて返される。それでも掠り傷で反応を返せているのは流石だろう。
 一方、無月も想像以上にBLHの対応に苦戦していた。
「この敵‥‥」
 先程から放つ殺気。
 普通ならこの殺気を受けただけで臆し逃げ出すと思っていた。だが敵は表情の変化も見せずに弾を撃ち込んでくる。
 それも何の躊躇いもなく、次々と。
「‥‥こう立て続けに撃ち込まれると、懐に入る隙が見えませんね‥‥」
 焦れる気持ちと隙を伺う神経。
 一歩でも前に入る隙があれば敵の攻撃を止める事も出来るだろうに。
「ここは無理にでも前へ――」
 そう呟いた時、敵の攻撃が止んだ。
 瞬間的に後方へ飛躍した敵の足元へ投げ込まれる短剣。それらがまるで間合いを作る様に道を描くと、BLH及び無月の目が飛んだ。
「穏やかな孤児院の、平和な午後を脅かす悪。他の誰が許しても、この私が許さない」
 風にはためくマント。顔を隠すヘルメットを深く被り、色鮮やかな衣装に身を包んだヒーローがそこに立つ。
「――音速騎士、ナイト・ハヤブサ参上!」
 声と共に駆け出した風が、一気に敵の間合いを奪おうとする。だが彼の足が止まった。
 視界に入った金色の髪とメイド服に、一瞬だが躊躇いが生まれたのだ。
「正義の戦士メイド・ゴールド推参っ!」
 憐華と共に園庭に入ったキョーコは、殺が苦戦していた敵との戦闘に加わって登場した。
 そして敵を引き離す事に成功し、戦闘態勢を整えたのだが、彼女の動きも止まる。
「子供達の避難は‥‥――!」
「‥‥く、苦戦しているようだな、メイド・ゴールド‥‥!」
「ぇ‥‥? 何で久志が‥‥それにその格好‥‥」
 愛しい人の声を誰が聞き間違えるだろう。
 キョーコは思わず素で恋人の――狭間 久志(ga9021)の名を呟く。とその瞬間、彼女の鼓膜を銃声が打った。
「とっ‥‥とにかく行くよっ!」
 今は戦闘に集中するが先。
 幸いな事に憐華が愛や燕の元に向かってくれている。この隙に彼女達とBLHを引き離せれば最初の目的は達成できるはず。
 キョーコは久志と頷き合うと、ほぼ同時に地面を蹴って飛び出した。

 その頃、天使の園では別の傭兵が到着し、子供達の避難誘導に当たっていた。
「この子で、最後だと思うわ」
 そう言って、泣き腫らした目を必死に広げてシスターに抱き付いた子供の頭を撫でる。
 その上でこの場に集まった全ての子供達を見回すと、エヴァ・アグレル(gc7155)の手が持ってきていた風呂敷包みを握り締めた。
「‥‥この子達は、エヴァが護る」
 決意を篭めて呟き、ふわりとワンピースの裾を翻す。そうして歩き出そうとした彼女の手を、小さな手が握り締めた。
「おねえちゃん‥‥いっちゃう、の‥‥?」
 心細そうに見上げる幼い瞳。
 その目を見た瞬間、脳裏を懐かしい風景が過った。
 幼い頃お世話になった孤児院。今でもそこには可愛い弟や妹が沢山いる。その姿が、この子を見て蘇ったのだ。
「大丈夫。お外はエヴァたちが護るから。あなた達はシスターと一緒に奥で待ってて」
 言って、そっと抱き締める。
 その温もりに子供の目が上がった。
 未だ不安そうな色は伺える。それでもエヴァの気持ちが通じたのだろう。しっかりと頷きを返して離れるその姿に、思わず笑みが零れた。
「シスター‥‥よろしくお願いね」
 エヴァはそう告げると園の外へ急いだ。


 撃ち込まれる弾とそれによって生まれる怪我。次々と展開されてゆく闘いを前に、愛は答えを出せずにいた。
「燕さん。燕さんはひとまず中へ」
 松葉杖を差し出し、憐華は彼女の手を取った。
「あたしは‥‥」
 チラリと愛を見た様子からわかる。
 燕は愛が心配なのだ。
「気持ちは分かります。けど、その結果‥‥彼女の心に傷を残す訳にはいきません」
 ですよね?
 そう囁きかけ、憐華は燕の背を押し、彼女と愛の前に出た。
 BLHたちは他の傭兵の相手に集中している。今なら燕は無事園の中に入る事が出来るだろう。
 だがこの好機もいつまで続くかわからない。
「燕ちゃん、頼むよ。愛ちゃんは俺らがどうにかする」
「どうにかって‥‥」
 襲撃以降、愛や燕の前に立って攻撃を阻んでくれている紫狼の声に、燕の眉が顰められる。
「俺は‥‥俺は博士の野郎を絶対に許さねえ!!」
 愛の現状、燕の状況。
 これらを顧みると博士のしたい事が想像つく。そして紫狼の考えが正しければ、博士はヒーローモノにありがちな葛藤イベントを仕組もうとしている。
 勿論、相手は愛だ。
「どんな正しい目的があろうが、手段を選ばなかった時点で野郎は歪んでいる。人の命や心を弄ぶ奴は、人間だろうがバグアだろうが許さねえ!」
 そう叫んだ上で、彼は愛を見た。
 葛藤に葛藤を重ね、精神的弱さを見せる彼女は戦いには向いていない。少なくとも、紫狼はそう考えている。
「俺は何も言わないぜ」
「え」
「覚悟ってのは自分で結ぶものだろ。俺は、俺の意志で誰かの笑顔を護りたい。そして、これが俺の覚悟だ――」
 背を向けた瞬間に彼の気が変じた。
「――獣猛装!」
 声と共に纏う紫電の空気。
 顔を覆った狼の仮面と、紫に輝く甲冑に愛や燕の目が見開かれる。
「紫電騎士‥‥――ゼオン!!」
 言って太陽と月の刃を抜き取り構えた戦士は、背を向けたまま言い放つ。
「迷う間に誰かが傷つくなら、俺が戦う、その罪を背負う。例え、自分がどれだけ傷付こうとな」
 僅かに向けられた顔。それが前を向くと、紫狼は地を蹴った。
 狼の如く斬り込んでゆく姿に、愛の目が落ちる。
「‥‥博士は、美少女戦士のあるべき姿を語ってくれた‥‥花時計だって、みんなの為にって‥‥」
 愛にとって優しいおじいさんだった。
 そのおじいさんが今まで強化人間を使って襲撃を繰り返していた。その事実を突き付けられ、愛の心は折れそうだった。
 だが、紫狼が言った言葉の意味、彼の為そうとする事はわかる。そしてそれは自分の理想に近い。
「でも‥‥博士と、闘うなんて‥‥」
「迷いはあるかと思いますが、あなたがビューティーホープになった動機を思い出して下さい。あなたが憧れた美少女戦士の姿を。いろんな葛藤をもっていても、どんな敵にだって、立ち向かい人々を護っていたあの姿を。そして、園の子供たちの笑顔、燕さんの想いを」
「‥‥ヴァルキリー‥‥」
 愛の中には答えが出ている。
 ただ引っ掛かるものがあり、その為に一歩が出ないのだ。
「貴女が立ち向かわない限り、あの子達が危険に晒され続けるかもしれないわ」
「!」
 突如響いた声に、愛の目が向かう。
 そこに居たのはエヴァだ。
「あの子達を守りたくないの?」
 とんでもない。
 慌てて首を横に振った彼女に、エヴァの瞳が細められる。そしてその目が前方で闘い続ける仲間に向かうと、身の丈の倍近くある銃を肩に抱えて口角を上げた。
「なら、答えは一つじゃない? 貴女も皆のお姉さんなら、ね」
 軽くウインクして前を向いた目が後ろに戻る。そうして駆け出したかと思うと、彼女の姿が忽然と消えた。
 何処に向かい、何をするつもりなのかわからない。それでも彼女が逃げた訳ではないことはわかる。
「‥‥ヴァルキリーにこれを渡しておくわ」
 燕はそう言うと、包みを憐華に手渡した。
 それに目を落した憐華の目が燕と包みを行き来する。
「これは‥‥」
「あんたの言葉に甘えて、あたしは園に避難する‥‥愛を、頼んだからね」
 この声に憐華が頷くと、燕は一瞬だけ愛を見て、園の方へと歩いて行った。
 それを見届けて憐華が口を開く。
「立ち向かって下さい。博士から与えられた美少女戦士ではなく、あなた自身が美少女戦士となる為に」
 憐華はそう言葉を切ると、燕から渡された包みを差し出した。
 それに愛の目が落ちた、その時だ。
「ぅ、くっ!」
「ナイト・ハヤブサ!!」
 耳を打った悲鳴に愛や憐華の目が向かう。
 挑発し続け、自らに攻撃が向くよう動いていた久志の肩を赤い染みが滲んでゆく。
 どうやら弾を避けきれなかったようだ。
 だが怪我はそれだけではない。そこかしこに見える傷はBLHの攻撃を受け、後方へと届かせないための努力の後だ。
 それによく見れば久志だけではない。キョーコも彼と同じく、至る所に傷が出来ている。
「悪いが、そちらに行かせる訳にはいかない!」
「シャア、お前目が!」
「問題ない、掠り傷だ」
 左目を眇めて叫ぶ殺。そんな彼を援護するように動く紫狼。彼等も無傷ではない。
 見て明らかな傷が彼等にも深く刻まれている。
 勿論、深手は負っていない。だがどんなダメージでも、塵積もれば山となる。ダメージが蓄積されて動きが鈍っているのが目に見えてきた。
 そしてその疲労は殆どの者が感じている。
「想像以上の機動力だな。どんどん体力が削られる」
 近距離も遠距離も、状況に応じて対応してくる敵に焦りが湧いてくる。
 武流は手に嵌めた篭手型の超機械を構えると、意識を前に飛ばした。直後、大地を駆けるように雷撃が突き抜ける。
 しかし、攻撃はBLHの脇を掠めて通り過ぎて行く。代わりに黒の足が大地に着くと、まるで風のように自然な動きで前に飛んで来た。
――否、実際に飛んだ訳ではない。
 そう見える程に柔らかく不自然さの無い動作だったのだ。
「まるで幽霊でも相手にしているようです、ねっ!」
 無月が敵の前進を阻むように無数の弾丸を撃ち込んでゆく。
 絶え間なく撃ち込まれる攻撃に、BLHの足が大地を蹴った。その瞬間、敵の姿が太陽と重なる。
「‥‥甘い!」
 見えなくとも動作と飛躍位置から大体の位置は割り出せる。彼は空へ銃口を向けると一気に引き金を引いた。
 だが――
「――ッ」
 肩を突き抜けた痛みに、無月の肘が反射的に動く。その瞬間、地面に落ちる黒い物を見た。
 しかしそれは直ぐに態勢を整えて起き上がってくる。
 これでは本当に幽霊のようだ。
「‥‥みんなが‥‥」
 状況は明らかに劣勢。
 戦力が足りないのは明白で、愛の中に焦りが浮かぶ。
 握り締めた拳は傷ついていない。
 体に疲労感もない。
 ただ心に鉛のような物が存在し、足が動かない。
 それでも、胸の奥に湧き上がる感覚がある。
「‥‥迷う間に、誰かが傷つくなら‥‥」
 先程、紫狼が口にした言葉が蘇る。
 その上で闘う仲間の姿を見て、ある言葉を思い出した。

――正義の味方も良いけど、理想に溺れて自分を蔑ろにするなよ。

 初めて美少女戦士として闘った時、ある傭兵が口にした言葉だ。そしてその言葉に応えた言葉は
「理想の為に闘う訳ではない」
 別の言葉に紛れて放ちきれなかった言葉だが、確かにそう応えようとしていた。
 誰かの笑顔を護るため、そんな単純な理由で美少女戦士に憧れたのではなかったのか。
「‥‥ゼオンの、言う通り」
 思わず自嘲気味な笑みが零れる。
 だがいつまでもこうしている訳にはいかない。
「ヴァルキリー‥‥それを、貸して下さい」
 そう言って差し出された手に、憐華は安堵の笑みを見せた。
「行きましょう」
「はい!」
 内気な外見、内気な性格の少女が放った力強い返事。それを耳に憐華は表情を引き締めて敵を振り返った。


 孤児院の屋根の上。屋根に跨る形で腰を下したエヴァの目が園庭を捉える。
「黒いお姉さん達‥‥服装の趣味は良いけど、レディとしては愛嬌に欠けるわね」
 仲間が対峙するBLH。
 黒の衣装についた大量のフリル。そしてリボンはエヴァの御目がねにもかなう代物だ。
 だが着ている人物の表情が良くない。と、彼女は言う。
 その上で抱えるように持った巨大な銃の先を園庭に向け、ゆっくり、照準を合わせて行く。
 狙うはBLHの1人。
 入り乱れる傭兵と敵の間――否、出来る事なら確実にBLHの1人は射抜きたいところ。
「狙いは正確に‥‥落ち着いて‥‥」
 自らに言い聞かせ、徐々に焦点を合わせて行く。
 そしてついに、BLHが攻撃回避のために飛躍した。今なら撃てる。
「――殲滅☆天使、狙い撃つわ。いたいけなレディと子供を脅かす者を殲滅する」
 思い切り引き金を引く。
 直後、BLHの腕が吹き飛んだ。
「やったわ」
 だが喜んだのも束の間。
 BLHの目がエヴァを捉えた。その瞬間、彼女の背に悪寒にも似た感覚が這い上がる。
「‥‥来る」
 反射的にそう呟き、こちらに向かう敵を捉える。そうして改めて銃を構えた所で、紫の電流が地を駆けるのが見えた。
「そこまでよ!」
 天高く響く声に、攻撃をかわしたBLHも、傭兵と対峙するBLHも、的確な間合いを取って声の方を見た。
「天使たちが集う神聖な園を汚す黒い悪魔! 2人いたから100人いるとしても、必ず全てを打ち砕く!」
 現れたのは赤と紫の衣装を纏う少女。彼女は紫のバイクに跨り颯爽と園庭に入ってきた。
 その姿を目にした武流がボソリと呟く。
「それ、ゴキ――」
「言ったら駄目です」
 思わずツッコんだ彼の肩を無月が叩く。
 そしてその間も少女の登場シーンはまだ続く。
 急停車させたバイク。それを武装として纏うと、彼女は華麗にポーズを決めた。
「愛と美と正義の戦士、美少女戦士ビューティーホープ! らす☆ほぷの傭兵に代わって、爆散してあげる☆」
 ビューティーホープ(gz0412)(以下、BH)はポーズを解除すると透かさず攻撃に移った。何せBLHの目標は彼女。ここに乗り込んだと言う事は、彼女たちの的になる覚悟を決めたと言うことでもある。
 それでも別の覚悟もきちんと備えている。
「自分の命を捨てる真似もしない。皆を護って、自分も護る」
 この声に殺の口角が僅かに上がったがそれは直ぐに消える。そして彼の目がBHを捉えると右手に握る刀が小さく鳴った。
「やっと来たか、やるぞ?」
「勿論よ!」
 BLHたちは攻撃の的をBHに定めている。それは明らかだが、傭兵たちがそれを許す筈がない。
「お前たちの相手は、こっちだよっ!」
 吐き出された覇気にBLHの内、1人の動きが鈍る。これにキョーコの足が動く。
「久志、行くよ!」
「今はナイト・ハヤブサだ!」
 一瞬にして駆け抜けた風が、BLHの懐を捉える。先程のエヴァの援護のお蔭で多少だが敵の動きが鈍っている。
「やはり痛覚が鈍っているか‥‥とは言え、不死身ではない!」
 脚に取り付けられた装甲。そこから噴出されたエネルギーの力を借り、彼の足がBLHの残る腕を蹴り上げる。が、そう簡単に直撃はしない。
 寸前の所で攻撃を回避した敵の視界に光り輝く物が入る。
 間髪入れずの攻撃だが、敵は直ぐに反応を示す。だがこちらには力強い仲間がいる。
「攻撃なんてさせやしないよ!」
 ライフルを構えた敵と久志の間合いにキョーコも踏み込む。その上で自らの武器を回転させると、ライフルを叩き落とそうと攻撃を見舞った。
「‥、‥‥っ」
 2方向から同時に迫る攻撃にBLHの足が上がる。その反動で舞い上がったスカートに、久志の動きが鈍った。
「っ‥‥そんなもの見るんじゃないよ!」
 久志はBLHの前を位置取り、攻撃を受ける危険性もありつつこんなラッキーも――
「そんなのはラッキーとは言わない!」
「ごめ‥‥」
 謝りながらも的確に攻撃を受け流す。
 勿論キョーコも間髪入れずに攻撃を加え敵の動きを最小限に遮っていた。
 それでも未だに攻防が均一。腕を失ってもBLHの戦闘能力が目に見えて下がった様子はない。
「仲良き事は美しきかな、ってな!」
 前後を囲う久志とキョーコ。そんな彼等が補いきれない死角から、紫の光彩が入り込む。と、同時に打ち込まれた2刀の刃。
 それがBLHの肩を裂くと敵の小さな足が地面を蹴った。
「逃がすか!」
 飛躍して逃げると判断した紫狼に続いて久志とキョーコも攻撃に転じる。しかし敵の目的は逃げる事ではない。
「邪魔は、許しません‥‥障害は、排除します」
 体を捻って振り上げた脚。回し蹴りの要領で回転する脚に、全員が咄嗟に防御の態勢を取る。
 これこそが敵の目的。
「――突破します」
 防御に転じたことで生じた隙、そこにライフルを撃ち込んで攻撃から移動へ素早く転じたBLHが前に出る。
 勿論、目指すはBHが居る場所だ。
 だがその足が直ぐに止まった。
「‥‥くっ‥‥」
 足元に撃ち込まれたエネルギーの魂。視線を巡らせれば大地に足を着けたエヴァがエネルギーキャノンを構えているのが見える。
 彼女は全体の動きを見て的確に援護射撃を加えているようだ。
「残念だったな。これ以上は身動き取れないぜ!」
 飛び出したそこへ追いついた紫狼。彼の繰り出す刃がBLHの頬を濡らした。
 どう見ても八方塞。前進も後退も不可能なほどに囲まれた敵は両の足を広げて地を踏みしめる。
 そして至近距離で紫狼に引き金を引いた。
 普通なら避ける攻撃。BLHもそれを狙い撃ち込んだはずだった。
 だが――
「残念だったな」
 逆に突っ込んで来た紫狼の手がライフルの先端を掴む。そうして自らの体で弾を受け止めると、すぐさま叫んだ。
「ッ‥‥今だ!」
「久志っ!」
 紫狼の声に直で反応したキョーコが脚の装甲に備えられたブースターを起動する。と、同時に振り上げられた脚がBLHの腕を貫いた。
 紫狼に握られていたライフルが宙を舞い、敵の顔に一瞬だが焦りが浮かぶ。
「悪く思うな」
 小さく響く声。次いで瞳に映った翼の紋章に黒の目が見開かれる。
「必殺・翼面超伝導スラッシュ!!」
 片腕で防御の動きを見せるが遅い。
 久志の振り上げた足が素早く敵の腕を払い、間髪入れずに振り上げられたもう片方の足がBLHの胸を突いた。
「――」
 久志に伝わるのは骨が折れて行く感触。次いで目に見えて吐き出された血が彼の足を汚すと、敵は緩やかに膝を着き、その場に崩れ落ちた。

 そして時を僅か前に戻し、もう1人のBLHとの対戦も佳境へ入ろうとしていた。
「動きが止まって見えるな」
 神速の勢いで攻撃を回避する武流のその身が分散して見える。
 BLHはそれら全てへ攻撃を見舞いながら彼の動きに随時反応していた。
 それでも反応しきれない攻撃は多い。
 繰り出される電流を纏う拳での打撃。それを腹部に受けて後方に引いた彼女へ、今度は無月の攻撃が迫る。
 身の丈とほぼ同等の刃を水平に薙いで足を振り切ろうとする。それを飛躍する事で回避した敵へ、武流の攻撃が再び迫る。
「俺の装備を見て遠距離はねぇと踏んだか? だとしたら甘いぜ!」
 無月の攻撃を避けた敵に容赦なく電磁波が放たれる。地を駆け真っ直ぐに向かった衝撃に、敵は無月が振り薙いだ刃を軸として今一度舞い上がる。
 ふわりと後方へ一回転して飛び退く瞬間、無数の弾丸が2人の頭上に降り注ぐ。
 だが彼等はBLH同様に素早い回避能力を持つ。故にコレも掠りはすれど致命傷にはならない。
「どうも動きが読み切れませんね‥‥このままだと捕縛できるかどうか」
 仲間のうちの誰かが言っていたのを耳にした。
 BLHを捕縛出来るならばしておきたい、と。
 実際に刃を交え切る前までは可能と思っていたが、ここまで戦闘をしてみては疑問しか浮かばない。
「手加減をすればこちらが殺られます。捕縛は考えないで動くのが良いでしょう」
「同感だ!」
 言葉を紡ぎながら前へと進み出る無月に次いで武流も前に出る。
 その姿にBLHも反撃に出るのだが、彼女の動きが不意に鈍った。
「まずは武器を奪って下さい。多少の怪我なら治せます!」
「了解よ!」
 憐華の声に答えて飛び込んで来た紫の甲冑を纏う少女。そこにBLHの視線が集中する。
「ビューティーホープ‥‥――抹殺!」
 2丁の銃口がBHを捉える。
 しかし――
「そう簡単に殺させる訳にはいかない。俺は弾よりは遅いが、引き金を引くよりは早い‥‥勝負してみるか?」
「!」
 BHに意識を集中し過ぎたせいだろうか。咄嗟の判断に遅れた敵の腹部が切り裂かれる。
 次いで顎を目指して振り上げられた殺の刃を、反射的に身を逸らせて避ける。しかし先に受けた攻撃の軌道が強く、避けきれない。
「――邪魔」
「ッ‥‥、‥‥」
 皮膚を裂く刃。それを掴む手に無理矢理喰らい付く。
 この予想外の反応に殺の判断も遅れた。
「――ッ、ぐぅ」
 腕と腹、両方に叩き込まれる銃弾に彼の足が揺らぐ。そこへ止めとばかりに蹴りが見舞うと、彼の体がグラリと揺れた。
 しかし彼が受けたダメージは無駄ではなかった。
「1つの敵に集中するとは、愚かですね」
 剣の紋章が武器へと消えて行く。そして繰り出された残像すらも残さない勢いの斬撃。これにBLHの腕が1つ、2つと飛んでゆく。
 飛沫を上げて落ちて行くそれにも無月は容赦を見せない。
「その姿じゃ闘えねえだろ。今すぐ楽に――」
 戦闘は終了。
 そう切り出そうとした武流に無月は首を横に振る。その上で地を蹴ると敵との距離を詰めた。
 腕を失い、血を吐き出す少女は、それでも武器を求めて動く。腕に掴んだまま宙に放たれた武器を目指し飛躍してゆく。
「ビューティーホープを‥‥抹殺する」
 地面に落ちる直前のライフル。それを口で受け止めトンッと駆け出す。
 目指すはBHただ1人。
 そこへ向かう為の障害は見えている。彼女の腕を奪い、今も何かを奪おうとする男。そしてその彼に次いで動き出したもう1人の男。
「――――」
 ライフルを咥える口が「邪魔」と囁く。
 次の瞬間、彼女の足が飛躍した。
「甘い!」
 頭上を目掛けて放たれた電磁波。それをライフルを投げる事で身代りにすると、少女の足が武流の顎を貫くために振り抜かれる。
「ッ、悪あがきは、ココまでだ!」
 顔に打撃を受けながらも、足を掴んだ彼にBLHの目が見開かれる。それでも残る足を振り上げて逃れようとする敵に最後の一撃が迫る。
「――終わりです」
 胸を貫いた神々しい刃。
 その瞬間、BLHは瞳から生気を失い、頬を赤い涙で濡らして崩れ落ちた。


 園庭に放たれた無数の銃弾と血痕。
 それらを片付けながら、憐華は味方の治療に当たっていた。そこにはBHの衣装を着たまま覚醒を解いた愛の姿もある。
「‥‥今も不安は消えないでしょうが、もう、大丈夫でしょうね」
 人前で武装を解くと言うことは、彼女の考えが変わった証拠でもある。
 今まで共に闘い、そして同じ美少女戦士だからわかる何かがあるのだろう。
 憐華は安堵の息を零すと、腹を盛大に傷付けられた紫狼に最後の回復を施す。
「無茶をして‥‥後でお医者様の治療を受けて下さいね」
「‥‥ッ、‥‥もう少しこう優しく――アデデデデデ」
 至近距離で打ち込まれた弾はかなりの数だった。
 故に後で確実な治療をして貰った方が良い。そう助言をしている最中の戯言に、憐華は思い切り傷口に薬を塗り込んだ。
 これには紫狼も涙目だ。
 そして彼の目に殺と愛の姿が入る。
「あの‥‥応急手当‥‥」
「必要ない。それよりも相変わらず、無茶をしてるな」
 確実に治療が必要な状態なのに、普通に振る舞う彼に愛の口端が下がる。
「‥‥無茶具合に相違はないかと思います」
 この言葉に声を詰まらせるも、咳払いで誤魔化した彼は改めて愛を見た。
「お前がどんな姿でも、意志が変わらなければお前はお前さ」
 今の姿は愛がBHだという大きな証拠だ。
 それを確認した上での言葉に愛の目が向かい、そして微かな笑みが彼女の唇に乗った。

 その頃、孤児院の中ではキョーコがカメラやマイクなどが仕掛けられていないかを探していた。
「園の手入れはボランティアにお願いしてるらしいの‥‥どう、そっちは?」
「んー‥‥目ぼしいものは何も」
 眠そうな表情のさえない男性――久志は、眼鏡の奥の瞳をキョーコに向けると小さく肩を竦めて見せた。
 その姿に息を吐く。
「証拠は今回も無し、か」
「‥‥ひとまず、後片付けを手伝おう。その間に、何かでるかもしれない」
 この声に頷き、2人は園庭に出ると戦闘の事後処理に参加して行った。
 そしてエヴァもまた、怪しい物が無いか、怪しい人物が居ないか調べていた。
「‥‥不思議ね。いったいどこから‥‥」
 愛の話では博士の声が何処からともなく聞こえてきたと言う。つまりスピーカーが何処かにある筈なのだ。
 そこまで思い至った所で、彼女の目が地面に落ちる。
「まさか‥‥敵の、中‥‥?」
 そう呟いた彼女に、傍で処理を手伝っていた武流と無月が顔を見合わせた。

 薄暗い部屋の中、映像を前に博士は1人微笑んでいた。
「良い絵が撮れた」
 目的通り、BHは戦士として成長し前に進んだ。
 その力は彼女1人で手に入れる事の出来なかっただろう。全ては能力者と燕の力添えがあってこそ。
「これで最終話が撮れる‥‥次で美少女戦士の物語を終了しよう。華麗に強く変身を遂げた戦士の最後‥‥今まで、誰も撮る事の無かったエンディングをな」
 そう口にして博士の口角が上がった。
「――さらば、ビューティーホープ」