●リプレイ本文
「イケメンを狙う怪人ですか。なるほど、なるほど」
無人島に集められた能力者。
その中の1人、ガーネット=クロウ(
gb1717)はそう零すと、思案気にキルト・ガング(gz0430)を見た。
「まあ。島には一般の方もいるようですし、速やかに奥を目指しましょう」
「そうですわね。それにしても‥‥」
メシア・ローザリア(
gb6467)はガーネットの声に頷き、ふと視線をあげた。そこには燦々と輝く太陽がある。
「日焼け止め対策を万全にしないと、お肌が荒れてしまいますわね」
言って自らに日焼け止めを塗って、ガーネットに差し出した。
これにクレミア・ストレイカー(
gb7450)も加わる。
「噂だと随分と残念な強化人間が居るらしいね。そこの所、どうなのかな?」
クリームを肌に塗りながら問いかけたその先に居るのは、何故かボロボロのキルトだ。
「前を見ろ。あそこで小躍りして走り回ってるのがそうだ‥‥」
「‥‥大変な変態だな」
追儺(
gc5241)はキルトが示した先にいる、レインボーな生き物に口元を引き攣らせた。
「くそっ‥‥カシェルの坊やに面倒全部押し付けれたと思ったのに‥‥」
「人を呪わば墓穴。そんな感じでしょうか」
「ついでに災難にも見舞われてるようですわね」
ガーネットとメシアはそう告げるだけで助けないが、まあ、その辺は仕方がない。
「しかし、あんなのに目をつけられるとはキルトも災難だな」
同情はすれども、出来れば関わりたくない。それも目を付けられるとかそんなのは御免だ。
追儺は本音を胸に押し込むと、キルトの足に纏わり付くロープを切り捨てた。
そこに軽快な高笑いが響く。
「けっひゃっひゃっ、我が輩はドクター・ウェストだ〜」
ドスッ。
残りのロープを解こうとしゃんでいたキルトの背を何かが踏んだ。
目を上げれば、白衣を羽織ったドクター・ウェスト(
ga0241)が背中で高笑いしているではないか。
「‥‥おっさん、足」
「おや? そのような所で何をしているのかね。おお、もしや我輩の施設研究グループに所属したいと言う意思の表れ――」
「ンな訳あるかっ!」
力尽くで立ち上がったキルトに、ドクター目も向けずに自身の考察を続ける。
「ふむふむ。能力者なら地球の生命は等しく守らなければね〜」
本心は何処にあるのか。
取り敢えず全員一致で、カップルの救出は行う事になった。
「‥‥なーんか妙に面子が濃いな。でも、これだけなら何とか――」
「とーーぅ!」
突如響いた声と共に舞い降りた人。それに皆が絶句する。
「俺様は! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ!! ‥‥未来の勇者だ!!」
ふはははは! そう決めのポーズを取る彼の頭には、無数の葉と枝が付いている。
「‥‥濃い。なんか、全体的に濃い。何だコレ、何だコレ‥‥」
思わず頭を抱えたキルトだったが、状況が改善する筈もなく。
「なにぃ!? アスレチックだとォ!?」
オーバーリアクションで振り返るジリオン・L・C(
gc1321)は、目の前の難所に大興奮。
「‥‥くくく、任せろ、皆の衆。未来の勇者である俺様の活躍に――」
ババッと取られたポーズ。
そして――
「――刮目するがいい!!」
何だか煙幕を空目したが気のせいだ。
未来の勇者っぽく歯を輝かせた彼に、ガーネットだけが拍手を送った。
●ハチャメチャ☆アスレチック
「勇者パーティ、出撃だ!」
そう言って先頭を歩き出したジリオン。彼の後ろを付いて歩く一行の耳には、先程からゴロゴロと嫌な音が響いている。
「ガング様、そこに罠が‥‥いえ、何でもありません。それよりもこの先に罠以上の物がある様に見受けますわ」
注意した矢先に宙吊りになるキルト。それから視線を外して告げたメシアに、まずジリオンが動いた。
「なんだ! 油もないのか!! フハハ!」
目の前の巨大な坂。そこを目にも止まらない速さで駆け上がる勇者。
「こんなもの、俺様に掛れば一瞬で――」
「成功すれば一瞬でしたわね」
「‥‥試す前で良かった、と言うべきなのか?」
坂を駆け上がったジリオンの前に、赤とピンクのタイツを着た奇妙なキメラが飛び出してきた。
「‥‥なん、だと‥‥」
完全に鉢合せ状態。
困ったように顔を見合わせるキメラとジリオン。そこにガーネットの声が届く。
「愛と薔薇、ですか。この先に何が待つのか、意味深ですね」
チラリと男性陣を捉えた彼女に、男性の背に悪寒に似た物が走る。
「いや、その視線もどうかと思うが、ナチュラルに名前が違っ――」
頬を掠めた銃弾にキルトの声が止まった。
「ラブとローズ、です」
「‥‥はい」
否応なしにラブとハートの名前を変更したガーネットは、銃を構えて一気にそれを放った。これによってジリオンの目の前でキメラの頭が弾け飛ぶ。
「ぬぉうッ!」
「妨害している隙に!」
クレミアの声に追儺とメシア、そしてドクター。声を発した本人が山頂を目指して駆け上がる。
「先行ご苦労さん、後はコイツらを始末するだけだ」
そう言うと、追儺は蒼天の刃をキメラに叩き込んだ。それに次いでドクターが揺らいだキメラの体を蹴り落とす。
「君らが代わりに落ちたまえ〜」
そうしてある程度の敵が坂の下に落されると、メシアは最後の敵に華麗な蹴りを見舞った。
「鞭は全身とそして愛、慈しみを以って振るう物ですのよ」
その使用方法は不合格ですわ。
彼女はそう告げ、落ちてゆく赤い容姿のキメラを見送った。
次いで一行を待ち受けていたのは、崖の岸を繋ぐロープだ。その上には赤とピンクの人型キメラが1体ずつ。
「ら〜ぶ!」「は〜と!」
「邪魔ですね、アレ」
言うが早いか、ガーネットは所持していたライフルを向けると、照準を合わせた。
「‥‥こういう展開は考えていなかったのでしょうか」
言って引かれた引き金。次いで響き渡る銃声にキメラの1体が落ちてゆく。それを見送り今一度銃弾を見舞おうとした所で、待ったがかかった。
「‥‥何かありますか?」
止めたのはキルトだ。
「いや、何か‥‥まずい気がするんだ。何がって‥‥いや、流れ的に‥‥」
「流れ‥‥ここでそんな物を気にしても仕方がないと思いますが」
全く持ってその通り。だがキルトは譲らない。
「仕方ないですね。では如何すると言うのです」
渋々と言った様子でライフルを下げたガーネットに安堵の息を吐く。それを見届けたジリオンが、またもや前に出た。
「くっくっく! 勇者にとって綱渡りとは物語を彩るエッッッセンスに過ぎない! 奇襲は二度と喰わないぞ!!」
「ちょっと意味がわからないけど、援護はするわ」
クレミアの放った弾が、キメラの顔面に直撃する。
衝撃こそ無いものの、視界を遮るペイントに敵は四苦八苦。視界を良好にしようともがくのだが上手くいかない。
「さあ、今の内!」
クレミアの声に、ジリオンが小型超機械αを構える。そして――
「うおお!! 俺様の歌を! 聞けェェェ!!」
「攻撃じゃねえのかよ!」
キルトの突っ込みも何のその。
ジリオンは眠りの歌を奏で、敵の行動を奪って行く。それに援助する形で、ドクターやメシアが遠距離攻撃を見舞うと、ロープの上のキメラは全て消えた。
後に残るのは対岸に居るキメラだけだ。
「援護してくから、順番に渡っていけ」
追儺はそう告げると、1人1人にロープを渡るよう指示し、杖型の超機械を構えた。
ここまで何とか無事――否、精神的には微妙だが、ここで障害が終わる訳もなく‥‥。
「キメラの死体で埋めたい所だね〜」
ドクターはのんびり構えつつ、砂の底に居るキメラを見やる。その上でジリオンを見ると、皆の視線も彼に集まった。
「え‥‥いやいやいやいや」
この視線の意味はわかる。わかるが‥‥。
チラリ、と彼の目がアリ地獄っぽい砂の底に向いた。
そして精一杯首を横に振る。
「危ないだろ?!」
「問題ありません。さあ、このロープを対岸に通して下さい」
ガーネットが差し出したのは、先程谷を繋いでいたロープだ。どうやらここに来る前に回収して持ってきたらしい。
「とりあえず、何が居るか物を投げ入れて確認しよう。何か投げるモノ‥‥」
追儺の目がピタリとキルトで止まった。
「い゛‥‥いやいやいや、それこそ待て!」
「‥‥まあ、流石に可哀想か」
追儺はそう言って近くの石を取り上げた。そしてそれを砂の中央に投げ入れる。
その瞬間――
「ら〜ぶ!」「は〜とっ!」
シンクロナイトスイミングの如く飛び出したキメラに一同騒然。絶句してその場を見詰めるも僅か、ガーネットにクレミア、そして追儺が遠距離攻撃を見舞うために身構える。
「‥‥絵的に美しくありませんわ」
メシアはそう呟くと、弾頭矢に巻いた紐に火をつけ、放り込んだ。威力は出ないが、一応の目晦ましにはなる。
それに合わせて他の面々が狙撃するとジリオンが飛び出した。
「○△※◆×〜〜!?」
砂に引き込もうとする敵に、飛び交う銃弾。弾頭矢の所為で舞い上がった火の粉も加わって、ここは本当の地獄だ。
「キメラを踏み台に、しっかり頼んだわよ!」
無茶も良い所だが、クレミアの声援が功を制したようで、ジリオンはキメラの顔を踏み台に対岸に到着すると、凄まじい勢いでその場に倒れ込んだ。
そこに瞬天足を使って対岸に辿り着いたガーネットが呟く。
「こちらの方が、安全でしたね」
この声に、ジリオンを含めた全員が苦笑いを零した。
●虹色の薔薇
「はぁ〜い、おいでませぇ♪」
虹色の頭の強化人間は、そう言うと腰をくねらせて面々を見渡した。
そんな彼の背には巨大モニターと、捕らわれたカップルが数組。若干顔色が青いのは‥‥まあ、なんとなくわかる。
「さて、さっさとケリをつけるか!」
「ガング様は退いて下さいな。それよりも!」
メシアはセクシーなドレスの裾を返すと、ビシッと指を突き付けた。これにレインボーの眉が上がる。
「貴方達とは戦わねばと思っておりました。その肉体の美しさ、貴方は美に重きを置く者ね。わたくしも美に殉ずる者、戦いましょう。どちらが、本当に美しいのか!」
「あらぁ、女の中にもわかるのがいるじゃなぁ〜い。良いわよぉ、どちらが美しいか、勝負しましょう!」
そぉ〜れ! 奇妙な掛け声と共に駆け出したレインボー。それに続いてメシアも地面を蹴る。
そして彼女が利き足を軸に地面を蹴り上げると、敵もまた地面を蹴り上げ、2つの足がぶつかり合った。
「――ッ、硬い‥‥」
メシアの表情が苦痛に歪む。そして互いの力が押し返せるものではないと判断すると、双方は一度後方に退いた。
「はあ〜ん、最高っっだわぁ!!」
体を震わせて身悶える敵に、ジリオンも同じポージングを‥‥え?
「取る必要ねえだろ!!」
思わずツッコんだキルトに、追儺が首を横に振る。
「これぞっ‥‥荒ぶる勇者のポォォォズ!」
バババッと整えた奇妙なポーズに、敵の目が輝く。そして――
「あたしの肉体を見てぇぇぇぇぇ!!」
ぶつかり合うマッスルポーズ。
もう、何が何やら。
そしてその姿を後方支援と言う名目で見守っていたガーネットが呟いた。
「ガングさんはヘタレ受け? ラブクラフトさんは素材は良いのですが残念」
ぶつぶつと繰り広げられる脳内(既に口に出ているが)妄想に、ドクターの顔が引き攣った。
「ドクターは陰のある美中年。バグアへの迸る怒りをぶつけて攻めですね。追儺さんも熱い感じの方ですし、殴り合って友情を深め合う路線でしょうか。レインボーは攻め? 強引に見せて実は反撃に弱いのかも‥‥」
「‥‥この状況で‥‥冷静なのだね〜」
「うふふ、陰のある美中年、げっとでちゅ〜♪」
「!?!?」
ポンッと肩を叩いたゴツイ手に、ドクターの背に得も言われぬ悪寒が駆けあがった。
そしてその目からは血の涙が‥‥
「バグアが我輩に触るな!!」
激しく叫ぶ声に呼応するように輝く眼球。そして浮かび上がった赤い覚醒紋様。そのディスプレイに映し出された「KILL」と言う文字が、彼の現在の精神状態を物語っている。
「骨が砕けようが、生きていればマダ殺せる!」
髪を振り乱し、超濃縮レーザーブレードを敵の体に食い込ませる。しかし――
「いや〜ん、ゾクゾクしちゃう♪」
攻撃は腕に食い込み、確実なダメージを与えている。いるのだが、レインボーは怯まない。
それどころかドクターを掴み取ろうと手を伸ばす。だが、対峙する者達は他にもいる。
「浮気ばっかしてねえで、こっちも相手してくれよ」
ヤケクソで囁いたキルトに、レインボーの目が輝く。その様子に追儺が「よし!」と零したが、これが秘密だ。
彼はキルトを正面に据え、自分は視覚外から攻撃する道を選んだ。その理由は「直視しながら戦う自信が無い」から。
「イケメンズに嫉妬されたわぁ♪」
歓喜に震え、身悶えながら迫る敵。これはマッスルポーズ再びか!
だが追儺がそれを遮った。
「止めろ。是が非でも、止めろ!」
全力でマッスルポーズを阻止する彼に、レインボーは盛大な勘違いを侵す。
「あーたも、あたしのファンなのねぇぇぇ!!」
「!?」
両手を広げて追儺へダイブ。
これで新たな被害者が出る。そう思った時、本当の意味での援護が訪れた。
耳に届いたのは銃声で、それが響いた瞬間、レインボーがその場に膝を着いたのだ。
蹲って身動き一つしない彼に、数名が目を瞬く中、男性陣だけは見てしまった。
「‥‥、‥む、無理‥‥」
ジリオンの声に、ドクターとキルトも頷く。
今起きた事。それはクレミアが腕の筋肉を隆起させ、ライフルの柄をレインボーに叩き込んだ姿。
まあ、ここまでは良い。ただ‥‥叩き込んだ場所が、良くなかった。
「なんで、あそこを打った‥‥」
「一度やってみなきゃわからないってのもあるわね‥‥多分」
しれっと言った彼女に、男性陣の足が内股になる。そしてレインボーはと言うと‥‥
「――――」
色んな意味で再起不能。
「‥‥今、楽にしてやる」
追儺はそう告げると、同情の視線を送り、彼の命を絶ったのだった。
●事後‥‥
グッタリとサンプルの採取を行うドクター。そんな彼の後ろでは、カップルを解放するクレミアの姿がある。
「怪我はなさそうね。良かったわ」
「そうですね。皆さん、お疲れ様でした」
ガーネットはカップルの無事を確認して声を零すと、巨大モニターに映るジリオンを見た。
「はぁーっはっは! 勇者は必ず勝つ! 必ずだ! 故に不敗!」
「‥‥やはり、残念ですね」
彼女はそう呟き、小さく肩を竦めた。
その頃、メシアはキルトへある包みを差し出していた。
「LHでは、バレンタイン・デーに渡すようですが。頑張ったご褒美です」
明らかに上から目線だが、ここは有り難く頂こう。何せ、色々疲れて糖分が欲しい。
「サンキューな。後で食わせて貰う」
言って受け取ると、その肩を追儺が叩いた。
「ああいうのはもう勘弁だ。しかし‥‥惹き付けるのかね?」
しみじみ零された声に、キルトはこの後、完全否定した‥‥らしい。