タイトル:【BS】ラブハート☆助編マスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/26 01:25

●オープニング本文


●ラブ封筒到着☆
 LH内、某喫茶店内部。
 テーブルの上に置かれた2通の封筒。表にはこの手紙を持ち寄った者の名が書かれ、裏には差出人の名前代わりに、ハート形のシールが貼られていた。
「このハートマーク‥‥まさか、な‥‥」
「まさか‥‥ですよ、ね‥‥」
 そう声を零すのは、キルト・ガング(gz0430)とカシェル・ミュラー(gz0375)だ。
 この封筒に貼られたシール。実は、目にするのは2度目だったりする。
 1度目は遊園地が襲撃された時、そこの入り口でキメラに渡された封筒に貼られていた。
 そして2度目は今回、各々の自宅のポストに入っていた。
「‥‥どうする?」
「‥‥どうしましょう」
 差出人の想像はつく。想像がつくからこそ、行かなくて良いのなら行きたくない。
 だが封筒の末尾には、ちゃっかり注意書きが添えられていた。
――イケメンボーイ(1名はイケメンズ♪)が来ない場合、無人島に集まったカップルは皆殺しよん♪
 文面は非常に怪しい。
 それでも差出人が想像通りの者である場合、これはただの脅しではなく、警告文と成り得るだろう。
「行くしかないか‥‥つーか、これってカップルで行けって事なのか?」
「‥‥その事ですけど、こんなのも書いてありますよ‥‥えっと『イケメンボーイ(1以下略)は一緒に来ればカップル判定で入れるわよん』‥‥だそうです」
「あ?」
「‥‥つまり、僕たちが一緒に行けば――」
「!? い、嫌だぞ! この組み合わせでカップルとかマジで止めろ!! つーか、女呼べ、女ぁッ!!!」
 見苦しく叫ぶキルトを他所に、顔色青く手紙を見直すカシェル。
 どちらにせよ、傭兵たちが到着する前に情報収集する必要がある。無人島と言う事は、人の手が入っていないと言う事。
 何処にどのような仕掛けがあり、危険な生き物がいるとも限らない。
「‥‥諦めましょう。こういうのは覚悟を決めていくのが一番です」
「っ‥‥」
 あまりに冷静な物言いに、キルトは思わず口を噤んだ。
 これを良しと取ってカシェルが頷く。
「そうと決まれば本部に報告してちゃっちゃと出発しましょう。あ!」
「な、何だよ‥‥」
「どっちが女性になります?」
「!? ひ、必要ねえだろっ!!!」
 そう叫んだキルトに、店員の周囲が飛んだのは、言うまでもないだろう。

●タダより安いモノは‥‥
 商店街で行われた福引きの景品として出された『カップル限定企画☆無人島へ一泊ご招待!』という景品。
 バレンタイン特別企画と言う事で突如提案され、特賞としてこの景品が置かれた。
 その招待数は、2名1組のカップルが計10組。総勢20名が無人島へご招待となった。
「この無人島には、た〜くさんのカメラが仕込んであるの。勿論、甘い罠も、から〜い罠もた・く・さ・ん♪」
 トロピカルジュースを片手にそう零すのは、無人島各所の映像を眺めるピンク頭のマッチョ――ディレクターだ。
 彼は奇妙に腰をくねらせて振り返ると、そこへ控える自分に良く似た男にハンディーカメラを差し出した。
「カップルたちはココで真実の愛を確かめるの。例えば、こんな風に‥‥」
 言って彼が示したモニターには、全身タイツを身に纏う人型キメラに襲われるカップル――否、2人組の男の姿だ。
 彼等は襲来するキメラに立ち向かうと、難なくそれを撃破してゆく。但し、表情は蒼白と言うか、何か納得いかなげだ。
「くそっ、何なんだ。このジャングルみたいな無人島はよぉ!」
「みたいではなく、ジャングルですよ。ひとまずここで別れましょう。キルトさんはそっち行って下さい。僕はこっちに行きますから」
「そっちって‥‥ああ、こっちか」
 そう言うと、キルトは目の前にある看板を見て息を吐いた。
 看板には『そっち』『こっち』の文字があり、『そっち』には猿のマーク。『こっち』にはハートマークが書かれている。
「‥‥何か、悪いな。まあ、何かあれば連絡してくれ。傭兵連中にも状況報告しなきゃだしな」
 ハートマークと言えば、アレ。
 どうやらカシェルは「アレ」を引き受けてくれるらしい。その事に礼を述べつつ、キルトは猿のマークに足を向けた。
 その姿に、ふとカシェルが声を掛ける。
「キルトさん。そのマークですけど、目がハートになってましたので、気を付けて下さいね」
「え゛‥‥」

●イッツ・レインボー!
 纏わり付く湿気を感じながら、キルトは不快気に眉を寄せていた。
「‥‥アホくせぇ罠に引っ掛かった‥‥」
 そう呟いた彼の状態は宙吊り。
 足首にロープを巻きつかせ、身動き取れない状態で眼下を見下ろしている。
「あらあら、イケメンズ捕獲〜♪」
 草を踏む音と、楽しげな笑い声に目が飛ぶ。
 そこに居たのはハンディーカメラを手にウインクを飛ばすマッチョだ。
「‥‥あー‥‥こっちが当り――ん?」
 言って、すぐさま違和感に気付いた。
「てめぇ‥‥痩せたか?」
「いやん♪ あーたと会うの初めてよ〜。ディレクターたんと間違えてるのなら、光栄だけどぉ♪」
 何か言うたびにクネクネ動くマッチョは、節々がディレクターと違う。
 例えばドピンクの髪がレインボーだったり、ピッチリパンツがシルバーだったり、背が低かったり‥‥。
「‥‥色的に性質が悪くなったなぁ‥‥」
「性質が悪いとか言わないで〜。あーたには面白いゲームを用意してあげたのにぃ」
「あ?」
 ワザとらしく鼻を鳴らすディレクターモドキ(長いので以下、レインボー)は、そう言うとキルトの後方を指差した。
「この先にアスレチックを用意したわ。それを突破してあたしの所に来てぇ♪ 無事着く事が出来たら、人質を解放してあ・げ・る♪」
「‥‥何でそんな苦労しなきゃなんねーんだよ。この場でてめぇを潰しゃあ、問題ねえだろ!」
 キルトはそう叫んで抜刀すると、足のロープを切ってレインボーとの距離を詰めた。
 そうして一太刀のもとに斬り捨てようとしたのだが、事はそう簡単にいかない。
「こ・れ・は・ただの映像よん。わかったのなら、あたしの胸に飛び込んでらっしゃい!」
 手応えのない刃を戻したキルトに向かって、レインボーは大きく腕を広げて忽然と姿を消した。
 後に残されたキルトは、やれやれと息を吐いて後方を振り返る。
 その目に飛び込んできたのは幾つかのアスレチック。その先には檻が在り、キメラを倒すと鍵が手に入る仕掛けになっているのだろう。
 だが気にするべきは他にもある。
「‥‥これ、アスレチック‥‥か?」
 岩がゴロゴロ落ちてくる坂に、突破した先に在る高所のロープ。それを渡った先には、アリ地獄のような砂場があり、それらを乗り越えるとステージが設置されていてそこにレインボーがいるのだろう。
 ちなみに、坂の頂上、ロープの上、アリ地獄の中央にキメラが配置されていて、しっかり行く手を阻んでいる。
「‥‥一応、カシェルの坊やに報告してから、応援呼ぶか‥‥」
 そう呟くと、彼は渋々と言った様子で無線機を取り出した。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ガーネット=クロウ(gb1717
19歳・♀・GP
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
追儺(gc5241
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

「イケメンを狙う怪人ですか。なるほど、なるほど」
 無人島に集められた能力者。
 その中の1人、ガーネット=クロウ(gb1717)はそう零すと、思案気にキルト・ガング(gz0430)を見た。
「まあ。島には一般の方もいるようですし、速やかに奥を目指しましょう」
「そうですわね。それにしても‥‥」
 メシア・ローザリア(gb6467)はガーネットの声に頷き、ふと視線をあげた。そこには燦々と輝く太陽がある。
「日焼け止め対策を万全にしないと、お肌が荒れてしまいますわね」
 言って自らに日焼け止めを塗って、ガーネットに差し出した。
 これにクレミア・ストレイカー(gb7450)も加わる。
「噂だと随分と残念な強化人間が居るらしいね。そこの所、どうなのかな?」
 クリームを肌に塗りながら問いかけたその先に居るのは、何故かボロボロのキルトだ。
「前を見ろ。あそこで小躍りして走り回ってるのがそうだ‥‥」
「‥‥大変な変態だな」
 追儺(gc5241)はキルトが示した先にいる、レインボーな生き物に口元を引き攣らせた。
「くそっ‥‥カシェルの坊やに面倒全部押し付けれたと思ったのに‥‥」
「人を呪わば墓穴。そんな感じでしょうか」
「ついでに災難にも見舞われてるようですわね」
 ガーネットとメシアはそう告げるだけで助けないが、まあ、その辺は仕方がない。
「しかし、あんなのに目をつけられるとはキルトも災難だな」
 同情はすれども、出来れば関わりたくない。それも目を付けられるとかそんなのは御免だ。
 追儺は本音を胸に押し込むと、キルトの足に纏わり付くロープを切り捨てた。
 そこに軽快な高笑いが響く。
「けっひゃっひゃっ、我が輩はドクター・ウェストだ〜」
 ドスッ。
 残りのロープを解こうとしゃんでいたキルトの背を何かが踏んだ。
 目を上げれば、白衣を羽織ったドクター・ウェスト(ga0241)が背中で高笑いしているではないか。
「‥‥おっさん、足」
「おや? そのような所で何をしているのかね。おお、もしや我輩の施設研究グループに所属したいと言う意思の表れ――」
「ンな訳あるかっ!」
 力尽くで立ち上がったキルトに、ドクター目も向けずに自身の考察を続ける。
「ふむふむ。能力者なら地球の生命は等しく守らなければね〜」
 本心は何処にあるのか。
 取り敢えず全員一致で、カップルの救出は行う事になった。
「‥‥なーんか妙に面子が濃いな。でも、これだけなら何とか――」
「とーーぅ!」
 突如響いた声と共に舞い降りた人。それに皆が絶句する。
「俺様は! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ!! ‥‥未来の勇者だ!!」
 ふはははは! そう決めのポーズを取る彼の頭には、無数の葉と枝が付いている。
「‥‥濃い。なんか、全体的に濃い。何だコレ、何だコレ‥‥」
 思わず頭を抱えたキルトだったが、状況が改善する筈もなく。
「なにぃ!? アスレチックだとォ!?」
 オーバーリアクションで振り返るジリオン・L・C(gc1321)は、目の前の難所に大興奮。
「‥‥くくく、任せろ、皆の衆。未来の勇者である俺様の活躍に――」
 ババッと取られたポーズ。
 そして――
「――刮目するがいい!!」
 何だか煙幕を空目したが気のせいだ。
 未来の勇者っぽく歯を輝かせた彼に、ガーネットだけが拍手を送った。

●ハチャメチャ☆アスレチック
「勇者パーティ、出撃だ!」
 そう言って先頭を歩き出したジリオン。彼の後ろを付いて歩く一行の耳には、先程からゴロゴロと嫌な音が響いている。
「ガング様、そこに罠が‥‥いえ、何でもありません。それよりもこの先に罠以上の物がある様に見受けますわ」
 注意した矢先に宙吊りになるキルト。それから視線を外して告げたメシアに、まずジリオンが動いた。
「なんだ! 油もないのか!! フハハ!」
 目の前の巨大な坂。そこを目にも止まらない速さで駆け上がる勇者。
「こんなもの、俺様に掛れば一瞬で――」
「成功すれば一瞬でしたわね」
「‥‥試す前で良かった、と言うべきなのか?」
 坂を駆け上がったジリオンの前に、赤とピンクのタイツを着た奇妙なキメラが飛び出してきた。
「‥‥なん、だと‥‥」
 完全に鉢合せ状態。
 困ったように顔を見合わせるキメラとジリオン。そこにガーネットの声が届く。
「愛と薔薇、ですか。この先に何が待つのか、意味深ですね」
 チラリと男性陣を捉えた彼女に、男性の背に悪寒に似た物が走る。
「いや、その視線もどうかと思うが、ナチュラルに名前が違っ――」
 頬を掠めた銃弾にキルトの声が止まった。
「ラブとローズ、です」
「‥‥はい」
 否応なしにラブとハートの名前を変更したガーネットは、銃を構えて一気にそれを放った。これによってジリオンの目の前でキメラの頭が弾け飛ぶ。
「ぬぉうッ!」
「妨害している隙に!」
 クレミアの声に追儺とメシア、そしてドクター。声を発した本人が山頂を目指して駆け上がる。
「先行ご苦労さん、後はコイツらを始末するだけだ」
 そう言うと、追儺は蒼天の刃をキメラに叩き込んだ。それに次いでドクターが揺らいだキメラの体を蹴り落とす。
「君らが代わりに落ちたまえ〜」
 そうしてある程度の敵が坂の下に落されると、メシアは最後の敵に華麗な蹴りを見舞った。
「鞭は全身とそして愛、慈しみを以って振るう物ですのよ」
 その使用方法は不合格ですわ。
 彼女はそう告げ、落ちてゆく赤い容姿のキメラを見送った。

 次いで一行を待ち受けていたのは、崖の岸を繋ぐロープだ。その上には赤とピンクの人型キメラが1体ずつ。
「ら〜ぶ!」「は〜と!」
「邪魔ですね、アレ」
 言うが早いか、ガーネットは所持していたライフルを向けると、照準を合わせた。
「‥‥こういう展開は考えていなかったのでしょうか」
 言って引かれた引き金。次いで響き渡る銃声にキメラの1体が落ちてゆく。それを見送り今一度銃弾を見舞おうとした所で、待ったがかかった。
「‥‥何かありますか?」
 止めたのはキルトだ。
「いや、何か‥‥まずい気がするんだ。何がって‥‥いや、流れ的に‥‥」
「流れ‥‥ここでそんな物を気にしても仕方がないと思いますが」
 全く持ってその通り。だがキルトは譲らない。
「仕方ないですね。では如何すると言うのです」
 渋々と言った様子でライフルを下げたガーネットに安堵の息を吐く。それを見届けたジリオンが、またもや前に出た。
「くっくっく! 勇者にとって綱渡りとは物語を彩るエッッッセンスに過ぎない! 奇襲は二度と喰わないぞ!!」
「ちょっと意味がわからないけど、援護はするわ」
 クレミアの放った弾が、キメラの顔面に直撃する。
 衝撃こそ無いものの、視界を遮るペイントに敵は四苦八苦。視界を良好にしようともがくのだが上手くいかない。
「さあ、今の内!」
 クレミアの声に、ジリオンが小型超機械αを構える。そして――
「うおお!! 俺様の歌を! 聞けェェェ!!」
「攻撃じゃねえのかよ!」
 キルトの突っ込みも何のその。
 ジリオンは眠りの歌を奏で、敵の行動を奪って行く。それに援助する形で、ドクターやメシアが遠距離攻撃を見舞うと、ロープの上のキメラは全て消えた。
 後に残るのは対岸に居るキメラだけだ。
「援護してくから、順番に渡っていけ」
 追儺はそう告げると、1人1人にロープを渡るよう指示し、杖型の超機械を構えた。

 ここまで何とか無事――否、精神的には微妙だが、ここで障害が終わる訳もなく‥‥。
「キメラの死体で埋めたい所だね〜」
 ドクターはのんびり構えつつ、砂の底に居るキメラを見やる。その上でジリオンを見ると、皆の視線も彼に集まった。
「え‥‥いやいやいやいや」
 この視線の意味はわかる。わかるが‥‥。
 チラリ、と彼の目がアリ地獄っぽい砂の底に向いた。
 そして精一杯首を横に振る。
「危ないだろ?!」
「問題ありません。さあ、このロープを対岸に通して下さい」
 ガーネットが差し出したのは、先程谷を繋いでいたロープだ。どうやらここに来る前に回収して持ってきたらしい。
「とりあえず、何が居るか物を投げ入れて確認しよう。何か投げるモノ‥‥」
 追儺の目がピタリとキルトで止まった。
「い゛‥‥いやいやいや、それこそ待て!」
「‥‥まあ、流石に可哀想か」
 追儺はそう言って近くの石を取り上げた。そしてそれを砂の中央に投げ入れる。
 その瞬間――
「ら〜ぶ!」「は〜とっ!」
 シンクロナイトスイミングの如く飛び出したキメラに一同騒然。絶句してその場を見詰めるも僅か、ガーネットにクレミア、そして追儺が遠距離攻撃を見舞うために身構える。
「‥‥絵的に美しくありませんわ」
 メシアはそう呟くと、弾頭矢に巻いた紐に火をつけ、放り込んだ。威力は出ないが、一応の目晦ましにはなる。
 それに合わせて他の面々が狙撃するとジリオンが飛び出した。
「○△※◆×〜〜!?」
 砂に引き込もうとする敵に、飛び交う銃弾。弾頭矢の所為で舞い上がった火の粉も加わって、ここは本当の地獄だ。
「キメラを踏み台に、しっかり頼んだわよ!」
 無茶も良い所だが、クレミアの声援が功を制したようで、ジリオンはキメラの顔を踏み台に対岸に到着すると、凄まじい勢いでその場に倒れ込んだ。
 そこに瞬天足を使って対岸に辿り着いたガーネットが呟く。
「こちらの方が、安全でしたね」
 この声に、ジリオンを含めた全員が苦笑いを零した。

●虹色の薔薇
「はぁ〜い、おいでませぇ♪」
 虹色の頭の強化人間は、そう言うと腰をくねらせて面々を見渡した。
 そんな彼の背には巨大モニターと、捕らわれたカップルが数組。若干顔色が青いのは‥‥まあ、なんとなくわかる。
「さて、さっさとケリをつけるか!」
「ガング様は退いて下さいな。それよりも!」
 メシアはセクシーなドレスの裾を返すと、ビシッと指を突き付けた。これにレインボーの眉が上がる。
「貴方達とは戦わねばと思っておりました。その肉体の美しさ、貴方は美に重きを置く者ね。わたくしも美に殉ずる者、戦いましょう。どちらが、本当に美しいのか!」
「あらぁ、女の中にもわかるのがいるじゃなぁ〜い。良いわよぉ、どちらが美しいか、勝負しましょう!」
 そぉ〜れ! 奇妙な掛け声と共に駆け出したレインボー。それに続いてメシアも地面を蹴る。
 そして彼女が利き足を軸に地面を蹴り上げると、敵もまた地面を蹴り上げ、2つの足がぶつかり合った。
「――ッ、硬い‥‥」
 メシアの表情が苦痛に歪む。そして互いの力が押し返せるものではないと判断すると、双方は一度後方に退いた。
「はあ〜ん、最高っっだわぁ!!」
 体を震わせて身悶える敵に、ジリオンも同じポージングを‥‥え?
「取る必要ねえだろ!!」
 思わずツッコんだキルトに、追儺が首を横に振る。
「これぞっ‥‥荒ぶる勇者のポォォォズ!」
 バババッと整えた奇妙なポーズに、敵の目が輝く。そして――
「あたしの肉体を見てぇぇぇぇぇ!!」
 ぶつかり合うマッスルポーズ。
 もう、何が何やら。
 そしてその姿を後方支援と言う名目で見守っていたガーネットが呟いた。
「ガングさんはヘタレ受け? ラブクラフトさんは素材は良いのですが残念」
 ぶつぶつと繰り広げられる脳内(既に口に出ているが)妄想に、ドクターの顔が引き攣った。
「ドクターは陰のある美中年。バグアへの迸る怒りをぶつけて攻めですね。追儺さんも熱い感じの方ですし、殴り合って友情を深め合う路線でしょうか。レインボーは攻め? 強引に見せて実は反撃に弱いのかも‥‥」
「‥‥この状況で‥‥冷静なのだね〜」
「うふふ、陰のある美中年、げっとでちゅ〜♪」
「!?!?」
 ポンッと肩を叩いたゴツイ手に、ドクターの背に得も言われぬ悪寒が駆けあがった。
 そしてその目からは血の涙が‥‥
「バグアが我輩に触るな!!」
 激しく叫ぶ声に呼応するように輝く眼球。そして浮かび上がった赤い覚醒紋様。そのディスプレイに映し出された「KILL」と言う文字が、彼の現在の精神状態を物語っている。
「骨が砕けようが、生きていればマダ殺せる!」
 髪を振り乱し、超濃縮レーザーブレードを敵の体に食い込ませる。しかし――
「いや〜ん、ゾクゾクしちゃう♪」
 攻撃は腕に食い込み、確実なダメージを与えている。いるのだが、レインボーは怯まない。
 それどころかドクターを掴み取ろうと手を伸ばす。だが、対峙する者達は他にもいる。
「浮気ばっかしてねえで、こっちも相手してくれよ」
 ヤケクソで囁いたキルトに、レインボーの目が輝く。その様子に追儺が「よし!」と零したが、これが秘密だ。
 彼はキルトを正面に据え、自分は視覚外から攻撃する道を選んだ。その理由は「直視しながら戦う自信が無い」から。
「イケメンズに嫉妬されたわぁ♪」
 歓喜に震え、身悶えながら迫る敵。これはマッスルポーズ再びか!
 だが追儺がそれを遮った。
「止めろ。是が非でも、止めろ!」
 全力でマッスルポーズを阻止する彼に、レインボーは盛大な勘違いを侵す。
「あーたも、あたしのファンなのねぇぇぇ!!」
「!?」
 両手を広げて追儺へダイブ。
 これで新たな被害者が出る。そう思った時、本当の意味での援護が訪れた。
 耳に届いたのは銃声で、それが響いた瞬間、レインボーがその場に膝を着いたのだ。
 蹲って身動き一つしない彼に、数名が目を瞬く中、男性陣だけは見てしまった。
「‥‥、‥む、無理‥‥」
 ジリオンの声に、ドクターとキルトも頷く。
 今起きた事。それはクレミアが腕の筋肉を隆起させ、ライフルの柄をレインボーに叩き込んだ姿。
 まあ、ここまでは良い。ただ‥‥叩き込んだ場所が、良くなかった。
「なんで、あそこを打った‥‥」
「一度やってみなきゃわからないってのもあるわね‥‥多分」
 しれっと言った彼女に、男性陣の足が内股になる。そしてレインボーはと言うと‥‥
「――――」
 色んな意味で再起不能。
「‥‥今、楽にしてやる」
 追儺はそう告げると、同情の視線を送り、彼の命を絶ったのだった。

●事後‥‥
 グッタリとサンプルの採取を行うドクター。そんな彼の後ろでは、カップルを解放するクレミアの姿がある。
「怪我はなさそうね。良かったわ」
「そうですね。皆さん、お疲れ様でした」
 ガーネットはカップルの無事を確認して声を零すと、巨大モニターに映るジリオンを見た。
「はぁーっはっは! 勇者は必ず勝つ! 必ずだ! 故に不敗!」
「‥‥やはり、残念ですね」
 彼女はそう呟き、小さく肩を竦めた。

 その頃、メシアはキルトへある包みを差し出していた。
「LHでは、バレンタイン・デーに渡すようですが。頑張ったご褒美です」
 明らかに上から目線だが、ここは有り難く頂こう。何せ、色々疲れて糖分が欲しい。
「サンキューな。後で食わせて貰う」
 言って受け取ると、その肩を追儺が叩いた。
「ああいうのはもう勘弁だ。しかし‥‥惹き付けるのかね?」
 しみじみ零された声に、キルトはこの後、完全否定した‥‥らしい。