タイトル:悲しみの美少女戦士マスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/22 04:36

●オープニング本文


『――能力者として闘い続ける事は不可能でしょう』

 閉じられた扉の前。
 そこに掲げられた名札を見詰め、君塚愛は静かに目を落とした。
「‥‥伊芦花さん‥‥」
 強化人間の強襲。
 その戦闘によって負傷した自分と伊芦花・燕(いろか・えん)は、緊急的に病院へと搬送された。
 その結果、愛は治療を終え本日無事に退院。そして燕は、医者から『再起不能』を言い渡された。
 その告知は、能力者としての終わりを告げるもの。彼女はもう美少女戦士としても、傭兵としても闘う事が出来ない。
「全部、私がいけないんだ‥‥私を庇って伊芦花さんは‥‥」
 握り締めた拳が痛む。
 しかし燕の方がこの拳以上に痛い筈だ。
 愛は込み上げる感情全てを押し殺し、ある事に思考を向けた。
「誰が、ビューティーホープや、セクシーホープを狙ったの‥‥私に恨みでも――」
「――入りなさいよ」
「!」
 扉の向こうから聞こえた声に、愛の目が上がった。
 燕には声を掛けていないし、独り言だって極力小さな声で呟いたはずだ。
 なのに‥‥
「煩かった‥‥かな?」
 そっと開けた扉。その向こうに居るのは、至る所に包帯を巻き、ギブスで足や腕を固定された燕だ。
「独り言が大きすぎるのよ‥‥それよりも、入りなさいよ‥‥」
「‥‥ごめんなさい」
 ぽつり、零した声に燕の顔が向いた。
 きっと顔を動かすことすら辛いのだろう。眉を潜めてこちらを見る姿に、ますます申し訳ない気持ちになってくる。
「‥‥あんたの能天気な顔を見てると、張り倒したくなるわ」
「――伊芦花さ‥‥っ!」
 落ちそうになった顔。
 それを慌てて上げると、今にも泣きそうな顔が見えた。
「椅子‥‥座んなさい」
 彼女の示した椅子は、ベッドの真横にある。
 正直、腰を下ろすかどうか迷ったが、断る事など出来る筈もない。
 愛は、小さく頷いてその椅子に腰を下ろすと、窓の外に視線を投げた燕に目を向けた。
「伊芦花さ――」
「あんた、博士をどう思う?」
「え‥‥」
 突然の言葉に、愛の目が瞬かれる。
「私も、あんたと同じで、博士から衣装や武器を貰ったの‥‥美少女戦士にならないか、って」
 燕は天使の園の近くで、園や愛が博士と呼ぶ人物と会ったと言う。
 その時、彼女は園庭で子供達と楽しそうに美少女戦士ごっこをする愛を見ていたらしい。
 幼い頃に抱いた夢。
 それを今も忘れずに胸に抱き、子供達と無邪気にそれを演じる愛に、嫉妬にも似た憧れを抱いたのだと言う。
 それが顔に出ていたのだろう。
 博士は、燕に近付くと「君も美少女戦士になりたいのかい?」そう、聞いたらしい。
「博士は、私にあんたのことを色々話してくれた‥‥その上で、あんたに危機が迫ってるから、助けてやって欲しい‥‥そう、言ったの」
「!」
 愛には初耳だった。
 セクシーホープが姿を現した時、博士が関わっているのではという考えは浮かんだ。
 しかしその理由はわからないし、そもそも、燕自身が自分と同じように美少女戦士に憧れてなったのだと思っていた。
 だがその考えは半分が正解、半分が不正解だったらしい。
「私は、あんたに協力する気なんてなかった‥‥美少女戦士になって、邪魔だけするつもりだった‥‥」
 でも――
 そう言葉を切ると、燕は愛に目を向けた。
 真っ直ぐに、心を射抜くかのように向けられる視線に、堪らず眉を寄せる。
「傭兵たちのお節介もあるけど‥‥あんたの性格、嫌いじゃないのよ‥‥でも、私があんたを戦闘で助けるのは、前回が最初で最後‥‥私はもう闘えないし、ね」
「伊芦花さん‥‥」
 燕の表情は辛そうで、正直見ていられない。
 愛はそっと視線を外すと、握り締めたままだった自らの拳に目を落した。
「‥‥ごめんなさい」
 これしか言えない。他に掛ける言葉が無い。どんな罵声でも受け入れるつもりだった。
 しかし、燕は愛を怒る事も、傷付けることもしなかった。
 ただ彼女は言う。
「あんたに、博士の事を調べて欲しいの‥‥」
「え?」
「‥‥博士は、あんたの身の危険を知っていた。それは何故? そもそも、私やあんたを美少女戦士にした理由は‥‥?」
 考え出したらキリがない。
 それに彼女たちは、博士の事を何も知らない。
 研究好きな、ただの変わった老人だと思っていた。
 しかし、良く考えれば超機械を用意したり、美少女戦士になる為の手筈を整えたり、オカシナことは山ほどある。
「私はここを動けないから、傭兵に依頼しておいたわ‥‥一緒に、調べなさい」
「‥‥伊芦花さん‥‥何で、そこまでしてくれるの‥‥?」
 病院から依頼を出すのは大変だった筈。
 それに依頼はタダじゃない。
 そんなことは彼女にだってわかっている。
 心配そうに問いかける愛に、燕は僅かに視線を落とし、そして彼女を見て口を開いた。
「‥‥戦闘で助けるのは、前回が最初で最後‥‥でも、他の面では助けられるもの。それに‥‥私も気になるのよ。博士が、何なのか‥‥」
 だから協力してあげる。
 そう言うと、燕は小さな笑みを零した。

●参加者一覧

王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
殺(gc0726
26歳・♂・FC
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

 真っ白な壁が続く廊下。そこを歩きながら、王 憐華(ga4039)はある思いを胸に表情を暗くしていた。
「‥‥私がうまくやっていれば‥‥」
 募る思いは君塚愛――ビューティーホープ(gz0412)(以下、BH)と同じ。
 前回、燕が能力者としての命を絶たれた闘い。憐華はそこに姿を偽り参加していた。
 だからこそ頭を駆け巡るのは「うまくやっていれば彼女がこんな目に遭わなかった」と云う思い。けれど、現実は幾ら想いを重ねても変わらない。
「ここ、ですね‥‥」
 そう呟き、手にした包みに目を落す。その肩を春夏秋冬 立花(gc3009)が叩くと、彼女は部屋の表札に目を向けた。
「‥‥ここからは、気を引き締めていきましょう」
 言って瞳を眇めた立花。そうして扉に手を掛けると、彼女たちは病室へ足を踏み入れた。
「えっと‥‥失礼します。伊芦花様の病室はここでよろしいでしょうか?」
 憐華はそう言いながらベッドの上で窓の外を眺める人物を目に留めた。
 伊芦花燕――元セクシーホープ(以下、SH)を名乗っていた能力者。彼女はブロンドの髪に緑の瞳を持つ、情熱と自信に満ちた戦士だった。
 だが、今目の前にいるのは、黒の瞳に髪、勝気な目は似ているが、何処か弱々しい少女だ。
 彼女は憐華と立花を見た後、彼女たちの後ろにいる人物に目を向けた。
「こんな再開とはね、SH。それとも、伊芦花さんと呼んだ方が良いかな?」
 殺(gc0726)はそう言って苦笑を零す。その上で僅かに頭を下げると、燕は「何でも良いわよ」と呟き、憐華に目を戻した。
「はじめまして。私は王憐華と申しまして、依頼の件で少々伺いたいことがあるのですが、大丈夫でしょうか?」
 この声を耳にした立花が、憐華の腕を引く。
「盗聴器や監視する物はなさそうです」
 病室のあちこちを調べ、そう言って少し笑んだ立花を見て、憐華は彼女に手にしていた包みを差し出した。
「これは‥‥?」
「手作りのお団子です。よろしければお召し上がりください」
「‥‥医者が良いって言ったら、食べてみるわ」
 ありがとう。そう言い、皆を椅子に促した。
 そしてそれを待って、最後に部屋に足を踏み入れた村雨 紫狼(gc7632)が口を開く。
「あー‥‥単刀直入に聞くが、燕たんは『博士』の居場所は知らないのか?」
「本当に、単刀直入ね」
 飾らず、素直に問いをぶつける彼に対し、燕の口元に苦笑が浮かぶ。
 だが――
「――教えないわ」
 きっぱり言い切った言葉に、紫狼は勿論、憐華や立花、殺も「やはり」と顔を見合わせる。
「ま、教えてくれなくてもいい。ただ、本当に危険なのはキミや協力してくれる愛ちゃん、孤児院の子供たちだよ」
 話に聞けば、博士と燕の出会いは道端。それも誰でも通るような場所だった。
 そして誘いをかけた博士に、燕やBHは疑いも持たず彼の言葉に乗ったというではないか。
――そんだけ、2人が純粋なんだろうけどな。だが、結果的に2人を弄んだんだ。
「‥‥その落とし前はつけてやるさ」
 そう口中で呟き、紫狼は身を乗り出して語りかける。
「もし、燕たんが俺たちの身の危険を考えているのだとしたら、それは考えなくて良い」
「‥‥だからこそ、教えられないんじゃない。あんた達には、闘う術がある。でも、私達は?」
 ポツリ。
 零した声に、殺が緩やかに頷く。
「わかった。これ以上博士の居場所は聞かない。だけど1つだけ約束してくれ、時期が来たら必ず教えると」
 この声に無言で頷く燕を見て、能力者たちは次の問いを口にしたのだった。


 愛と合流したキョーコ・クルック(ga4770)は、BHの衣装を手に眉を寄せていた。
「前回怪しいとは思ったが‥‥さて‥‥」
 そう口にする彼女は、前回、強化人間が着ていた衣装の回収を行っていた。
 だからこそ気付いた事がある。
「‥‥似てるんだよね、あの子達の衣装に、さ」
 言って溜息を零す。その上で借りた衣装を袋に仕舞うと愛に目を向けた。
 今いる場所は外、衣装に盗聴器の類が仕掛けられている事を考慮し、先程まで筆談で会話をしていたのだが、愛が言うにはそうした心配は無いらしい。
「衣装は、着てるだけ‥‥武器は、博士から借りて‥‥操作は、このボタンを押すと電磁波が出るように、なってます」
 ポツポツ語る愛を見つつ、キョーコは彼女に語りかける。
「ねえ、あんたは博士の外見とか知ってるんだろ? 何か知ってる事は無いのかい?」
「博士の外見‥‥?」
 博士の外見は嫌というほど知っている。何せ、BHやSHの生みの親なのだから。
「あんたは博士を信じたいんだろうけど、仲間が怪我をしている以上、調べる事は調べないとね」
 この声に、愛の口が鈍く動く。
「‥‥白髪に白髭を蓄えた‥‥中肉中背の老人、です‥‥」
 そう語りながら、愛はキメラを退治した後に身体データを測定されていた事や、問診を受けていた事を話した。
「成程‥‥別に衣装自体にバイタル情報の転送があるとかそう云う訳ではないんだね‥‥なら、コイツは必要ないか」
 呟き、彼女が示したのはマスクと機械剣、それに閃光手榴弾とマントだ。
「‥‥それは?」
「こいつの変わりだよ〜すっぴんは辛いだろ? 何かあったら使って貰おうと思ってたんだよ」
 そう言って笑った彼女に、愛は少しだけ笑んで「ありがとう」と零した。

 その頃、図書館に足を運んでいた比良坂 和泉(ga6549)は、多くの本が並ぶ書棚を前に立ち竦んでいた。
「これは、難儀ですね‥‥」
 彼が挑む調査は、博士が出している可能性のある本を調べる事。その為に訪れた区画は『機械』関係の本が並ぶ場所だ。
「‥‥とは言え、行動なしに好転しませんし、ね」
 やれるだけのことはやる。
 そう拳を握って気合を入れると、顔を巡らせて目的の本を探し始めた。
「まずはこの本ですね‥‥たぶん、日本人でしょうから‥‥」
 言って捲り始めた本は、科学者の名が連ねられる物で、そこにある日本人の分類を開くと、恒例の科学者の名を調べ始めた。
 そうしてある程度の名を書き記した所で、ふと手が止まる。
「そう言えば、博士と呼ばれる人物の行動は善意なのでしょうか」
 それとも――
 そう言葉を切った所で、彼の元に連絡が入った。
「はい、比良坂です‥‥え‥‥未来研究所、ですか?」
 彼は通話口の向こうから聞こえる声に耳を傾け、視線を手元の書物へと落とす。
 携帯の向こうにいる相手はキョーコだ。
 彼女はBHの衣装を借りた後、未来科学研究所に足を運び、衣装と武器の調査を願い出ていた。
「‥‥わかりました、引き続き情報を集めてみます」
 和泉はそう言って通話を切ると、自らが書き上げた名前の羅列に目を向けた。
「少し分野を広げてみましょう。超機械開発者‥‥確か、ここに‥‥」


 病院で燕から得た情報。
 それは博士と出会ったのが天使の園付近である事、そして彼の容姿が白髪白髭の老人である事、だった。
 それらの情報を手に病院を後にする面々。その中で、何名かの足が止まった。
「もし、また美少女戦士として戦えるとしたらどうします?」
 そう問いかけるのは立花だ。
 この声に、燕の目が細められる。
「‥‥闘えるのなら、闘いたいわね」
「例え、それが悪魔に魂を売る行為でも?」
「え?」
「‥‥世間話ですよ。ではまた、会いましょう」
 彼女はそう言葉を残すと、病室を後にした。
 残された燕は、未だ足を止めたままの憐華を見、そして視線を落とす。
「君塚の、知り合いだったわね‥‥まだ何か?」
「伊芦花様がバックアップに入ってくれるようになればBHも色々と助かるでしょう‥‥でもあまり無理をなさらないでくださいね。危なくなったら他の方を頼ってください」
 きっと燕は無茶をする。
 だが今一番危険なのは、闘う力を失った彼女ではないだろうか。だとするなら、無茶はせず、自分達を頼って欲しいと願う。
 その上で、ある問いが口を吐く。
「君塚様へ伝えていない事で、彼女に内緒にしておきたい事とか、ありますか?」
 もしあれば聞いておきますが‥‥。
 そう言外に告げた彼女に、燕は思案気に目を落し緩くシーツを握り締め沈黙を守った。

 一方、未来研究所を訪れたキョーコは、装備品や超機械の調査を頼んでいる間に、博士の聞き込みを行っていた。
「もしバグアだとして‥‥バグアが能力者に協力って言うと‥‥ヨリシロの素体探しか?」
 考えられる線としてはこれが有効だろう。
 少なくともキョーコはそう思っている。そしてある研究員を引き留めると、白髪に白髭の男がいないか訪ねてみた。
「初老で、中肉中背‥‥超機械の開発に長けている、とかないかね?」
「生憎と、当て嵌まる人間は結構いると思うよ。もう少し情報詰めて貰わないとな‥‥」
「それなら、失踪した人間で、キョーコさんが持って来た様な装備を作れる人物は? それならそう多くないでしょう」
 突如響いた声に、キョーコは勿論、研究員も驚いて目を向ける。
 そこに居たのはバイクで合流を果たした立花だ。
 彼女は燕から聞いてきた博士の情報を開示し、研究員に酷似した人間がいないかと問う。
 しかし――
「悪いが、そうした人間はいないと思うよ」
「それなら、娘か女の子の孫がいる、も条件を付けて!」
 必死な様子の立花に、研究員は小さく唸ると、やれやれと息を吐いた。
「わかったよ。何かわかったら連絡する」
 それでいいかい? 研究員はそう言って研究があるから、と去ってしまった。
 その姿を見送り、キョーコの眉が寄る――と、そこに調査の結果が出たとの報告が入った。
 これに、キョーコと立花は急ぎ報告を聞きに行ったのだが、ここで耳にした情報は、彼女たちが予想していた物とほぼ同じ物だった。
「――そうかい。超機械にバグアの技術が、ね」
 以前持ち込んだ、強化人間の衣装と武器。それと今回持ち込んだBHの衣装と武器は『ほぼ一致』と出た。
 それを聞き止め、キョーコは電話を借りて調査を続ける和泉に連絡を取る。そうして現状を報告すると、彼女たちは次の調査へと足を向けた。


 天使の園の周辺を歩く紫狼は、近所の住人に話を聞きつつ、少しずつだが博士の情報を集めていた。
「――へー、美少女戦士物の映像をご近所さんで一般公開」
「そうなのよ。子供達が凄く喜んでね」
 彼が今話を聞いているのは、井戸端会議をしているおばちゃんたちだ。
 彼女たちの話によれば、博士と呼ばれる人物は頻繁にこの近辺に姿を見せているらしい。
 先日も、子供達を集めて美少女戦士物の映像を公開していたらしく、子供達には人気のようだ。
「‥‥必要以上に社会と接触してないのかと思ったけど‥‥違うのか?」
 調べれば調べる程わからなくなってくる。
「そう言えば、公園の花時計。あれも博士が作ったって言うじゃない。本当に優しい良いおじいさんよね」
「花時計?」
「そうよ。興味があるなら行ってみるのも良いんじゃない?」
 おばちゃんはそう言うと、紫狼に花時計のある公園の場所を丁寧に教えてくれた。

 時を同じく、天使の園では愛と殺、そして立花に和泉が博士について話を聞いていた。
――君塚さん、すまないけど今から天使の園に行くんで一緒に行ってくれないか? まだ不慣れでね。
 殺はそう言って、彼女を園まで連れてきた。
 そして遊具のメンテナンスを行うと言って、施設の調査を始めたのだが、流石に愛の部屋までは入れなかったようで、今は立花が彼女と共に愛の部屋で調査を行っている。
 その間に、殺と和泉は子供たちに話を聞いていたのだが――
「映像会? えっと‥‥何の?」
「BHのだよ!! すっごいの、BHがバーンって、ドーンって!!!!」
 興奮気味の子供の言葉に、殺は目をぱちくりさせ、和泉も不思議そうに首を傾げている。
 その上で助けを求めるようにシスターに目を向けると、彼女は穏やかな表情で頷いた。
「君塚さんのお知り合いの方で、子供たちに良く美少女戦士の映像を見せて下さる方が居るのです。白髪のご老人なのですけど‥‥」
「白髪の‥‥つかぬ事を聞きますが、その人物に引き取られた子とかは――」
「居りません。ここの所、子供を引き取りたいとおっしゃって下さる方も少なくて‥‥」
 時代が時代ですし、仕方がないのかもしれませんね。
 シスターはそう言葉を切ると、部屋から出て来た愛に目を向けた。
「目ぼしい物は無かったです」
 立花はそう言うと、何とも言えない表情の2人を見て、首を傾げた。
 これに、殺と和泉は顔を見合わせて苦笑すると、博士について得た情報を聞かせた。
 その上で、ふと和泉が呟く。
「完成形のためにデータを取る‥‥その為の、映像‥‥とか?」
「完成形。美少女戦士のですか?」
 思わず問いかけた立花に、和泉は肩を竦める。
 美少女戦士の完成形。それは一体何なのか。正直よくわからないが、和泉の言葉を拾うならそう云う事なのだろう。
「そう言えば、BHは博士にどんな印象を抱いてるんだろうな」
「‥‥聞いた話だと‥‥優しい、良い人‥‥みたいです」
 愛は殺の声を拾ってそう零すと、憂い気に視線を落としたのだった。


 愛と共に燕の病室を訪れた一行。
 彼等は手にした情報を開示すると、幾つかの気になる点を指摘した。
「俺はこれだな」
 言って殺が出したのは、天使の園周辺の地図に、今までの戦闘履歴を記した物だ。
 これはUPC本部で彼が記録してきた物でもある。
 それを見ながら、憐華が自らの情報を開示する。
「病院では、博士に該当する人物の目撃情報はありませんでした。ただ、園の周辺には大量に情報があったみたいです」
「天使の園の近くの公園‥‥2度襲撃があった花時計のある公園で、激写してきたぜ」
 紫狼はそう言って、殺が持ってきた地図の一部を示した上で、激写したという写真を見せた。
 そこには花壇の中で土いじりをする老人が映っており、これを目にした愛と燕の表情が変わった。
 これだけで、この人物の正体が明確になるのだが、更に有力な情報が手に入った。
「この人‥‥図書館で見ましたよ。確か、超機械開発をしている人だった筈です」
「超機械開発‥‥?」
 未来研究所では開発者に名を連ねていなかった。それが図書館にあるとは意外で、キョーコは思わず和泉の顔を見詰めてしまう。
「えっと、ここまでの情報を纏めると、博士は美少女戦士の映像で子供たちに人気。んで、超機械開発をしている人物‥‥こんなとこか?」
「まあ、情報はそうでしょうね。あとは、これを元にBHが襲われる理由を考えると‥‥」
 立花はそう呟き、ある推理をして見せた。
「失礼ですがBHは特別には見えないです。なので考えられるとしたら、博士はBHの関係者‥‥但し、SHには執着しなかった点を踏まえて、博士が血縁者ないし、家族に関係がある。もしくは、BHを利用して血縁者を誘き寄せようとしている‥‥とか?」
 違ってたらごめんなさい。
 立花はそう言葉を切り、困ったように首を傾げたのだった。