タイトル:【響】BATTLEマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2011/05/20 20:54

●オープニング本文


 崩れかけたビルを訪れた男性。
 彼は迷うことなくとある部屋の前で足を止めると、何の躊躇いもなくそこを開けた。
「キルト、依頼を持って来たぞ」
 無遠慮に開けられた扉に、部屋の中で寛いでいたキルト・ガングは、億劫そうにその顔を上げ来訪者を出迎えた。
 訪れたのは、軍の関係者であり友人である男。
 彼がここを来るときには、大抵厄介な頼みごとを持ってくるものだ。
 そしてその考えは強ち間違いではなかった。
「例のキメラに関してなんだが、依頼を出す前に現地に向かい、出来るだけ状況を整えてくれ」
「状況を整え、ねぇ‥‥例のってのは、エリスに撮って貰った写真のキメラのことか?」
 頬杖を突いた彼の、青い瞳が向かう。
 それを受けて依頼を持ってきた男が頷く。
「場所は以前お前が遭難した森だ」
 キルトは差し出された書類を手にすると、そこに書かれている内容に口角を上げた。
「状況を整えろってことは、傭兵が来るまでに敵を誘き出すとかで良いのか?」
 問いかけに男の首が横に振れる。
「それだけじゃない。キメラの正確な数を把握し、傭兵の前に全てを誘い出す‥‥出来るか?」
 向かう場所は樹海のように磁場の強い森。
 そこに入れば通信は使えず、孤立状態に陥る。しかも傭兵の到着までとなると危険なのは明白。
 だが彼は唇に浮かべた笑みを消さずに書類を翻すと、友人である男の顔を見据えた。
「まあ、なんとかなるだろ。やってみるさ」
 そう口にして、彼は何処となく楽しげに目を綻ばせたのだった。

●UPC本部
「キルトさんと、連絡‥‥取れない、の?」
 エリス・フラデュラー(gz0388)は、UPC本部に依頼された写真を届けに来ていた。
 そうして聞いたのは、エリスが撮ったキメラ退治の依頼が出されているということ。
 そしてそれにはキルトが関わっており、彼と現在連絡が取れないと言う。
「ええ。彼だけ現地に先行したみたい。また遭難とかでないと良いけど」
 キルトは以前、何かの依頼の帰り道に遭難している。
 そしてその救出に向かったのが、エリスと能力者たち。
 その際、鰐っぽいキメラを発見しその退治を今回依頼として出しているのだろう。しかし、そうした場所に先行する理由が思い浮かばない。
「あの人、イマイチ謎なのよね。危険な依頼によく顔を出してるみたいだけど、その割に要領が悪いって言うか‥‥死の場所でも探してる感じ」
「死に場所‥‥?」
 オペレーターの声にエリスの背筋に寒い物が走った。
 傭兵である以上、死と隣り合わせなのは確か。しかしそれは戦いの最中、不幸な事故としてはあるかもしれない。
 しかし、それを故意に求めるなどということがあるのだろうか。
 驚くエリスに、オペレーターは慌てて話題を変えると彼女から受け取った写真に目を落とした。
「良い写真ね。これならあの依頼もなんとかなりそうよ。今後もよろしくね」
 そう言って笑ったオペレーターの顔を見る、エリスの顔は暗い。
 それもそう。
 キルトとは知らない仲ではない上に、最近では色々と面倒も見て貰っていた。
 ここ数日姿を見ないと思っていたが、まさかこんなことになっているとは思いもしなかった。
「‥‥キルトさん、無事なのかな‥‥?」
「心配なら依頼の参加者に聞くのもありかもしれないけど‥‥エリスちゃんは現地へ行っちゃだめよ」
「え‥‥?」
 驚くエリスにオペレーターは言う。
「エリスちゃんは一般人だもの。危険な依頼への同行を認めるわけにはいかないでしょ。今回は、キメラの退治が目的なわけだしね」
 確かに、戦場はエリスのような少女が足を踏み入れる場所ではない。
 戦場カメラマンとは言え、その事実は変わらない。
 それに今回は今まで以上に危険なのだ。
「‥‥一般人でなければ、いける‥‥?」
 突然の言葉に、オペレーターは一瞬言葉を失った。
 しかし彼女の首が横に振れる。
「ダメよ。もし行けたとしても、高速移動艇の中でお留守番が良いところね。戦闘経験のない傭兵が受けれる依頼じゃないもの」
 これだけは譲れない。
 そう言いきる彼女に、エリスはそれ以上何も言えなかった。
 しかし――
「‥‥キルトさん」
 エリスは思案気に視線を落とすと、ぎゅっと両の手を握り締めた。

●樹海の中で
 空を貫く光を眺め、キルトは僅かに苦笑した。
 以前、KVが故障して遭難した際に見たのと、全く同じ空が目の前に広がっている。
「‥‥数は2‥‥その情報は置いてきたが、参ったな」
 樹海に到着後、すぐさま目印を元に例のキメラを探した。
 盛大に音を鳴らして誘き出した敵の数は無事把握。その情報を傭兵が進んでくる道中に置くことも成功した。
「事前に話していた黄色い紐を2本吊るした‥‥そこまでは、良かったんだがな」
 やれやれと息を吐き、腰に帯びた刀に手を伸ばす。
 空から戻した目には、2体のキメラがいる。
 大きな甲羅に、口から覗く鋭く大きな牙。
 鰐と称するには少しばかり不格好な姿だが、その力は確かだ。
 1人で対処するにはあまりに分が悪く、持ち応えるには骨が折れる。
「命が惜しいとは思わんが、もつか‥‥?」
 約束は依頼を受けた傭兵が到着するまで敵を足止めする事。これを成せば彼の依頼はほぼ達成する。
 だが――と、彼の目が落ちた。
 足に滲む赤い染み。徐々に広がるそれは明らかに血だ。
 片足全体の布を濡らさん勢いで広がるそれは、ただの怪我ではない。
「まあ、なんとかなるか」
 そう呟き、彼は抜き取った刀を軸に立ち上がった。
 一瞬ふらついたが、その足はしっかり地面を捉えている。
「俺の勘が正しければあと半日、それで奴らは来る」
 キルトはそう口にすると、倒すべき対象が逃げないよう、自らを囮にするために地面を蹴った。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
天空橋 雅(gc0864
20歳・♀・ER
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
ネジリ(gc3290
22歳・♀・EP
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD
ミコト(gc4601
15歳・♂・AA
天羽 恵(gc6280
18歳・♀・PN
王 珠姫(gc6684
22歳・♀・HA

●リプレイ本文

 高速移動艇の中、黒の服に身を包んだネジリ(gc3290)は隅に座ったエリス・フラデュラー(gz0388)を見て息を吐いた。
「‥‥何でこんなことに‥‥」
 金の髪を揺らして振った首。その脳裏を過るのは初めてエリスに会った時の事だ。
 思い返せばあの時から彼女には頑固な部分があった。
「あの時より、頑固――‥‥いえ、意志が強くなりましたかね?」
 考え込むネジリに声を掛けたソウマ(gc0505)も、エリスが初めて持ち込んだ依頼を引き受けた者の一人だ。
 父親の残した写真。それと同じ写真を撮るんだと、キメラがいる場所で写真を撮った。
 その時に状況は似ているが、危険度で言えば今回の方が確実に上だ。
「あまり、危険な事には首を突っ込んで欲しくないんだが‥‥」
 ネジリはエリスを気に入っている。
 友として、そして姉に近い気持ちで彼女の事を見守っている。
 ここの所、多少過保護になってきた気もするが、それは彼女の行動にも責任がある。ただし、当の本人は気付いていないのが何とも言えないが。
「芸術家なりの信念というものがあるのかもしれませんね。僕にも思う所はありますし」
 彼女と初めて会った時に撮った写真。それを見た時から密かに彼女のファンになっていた。
 写真に関する情熱と、父親へ向ける思慕。それらは真っ直ぐすぎるほど素直なものだ。
 そしてその感情は、演劇と言う違う分野の芸術に触れる彼にとっても、共感できる部分が多々あった。
「きっと、大丈夫だと思いますよ」
「何がだ?」
 ネジリの目がソウマを捉えると、彼は僅かに頷いて見せた。
「お姉さんは無茶をしたりしません。少なくとも僕はそう思います」
 だから大丈夫。そう微笑んだ彼に、ネジリは数度目を瞬くと、その目をエリスに向けた。

 その頃、同じ高速移動艇の中で一ヶ瀬 蒼子(gc4104)は、内に燻る嫌な思いを打ち消すように両の手を握り締めていた。
「また、無茶をしてるんじゃないでしょうね」
 思い出すのは、依頼出発前に聞いた噂話だ。
 今回、依頼で先行してキメラを惹きつけている人物がいる。
 そしてその人物は蒼子が良く知る、この依頼の切っ掛けを作った男、キルト・ガングだ。
「どう考えても、責任感や義務感、そんなものからくる行動じゃない」
 自らに強く存在する責任感。それとキルトの行動を比べればわかる。
 彼の行動は、傭兵として依頼を全うしようとする者が取る行動とは到底思えない。
「確かに。あのキメラは、能力者1人でどうにかなる相手じゃないはずだ」
 蒼子の肩を叩いた天空橋 雅(gc0864)は、眉間に皺を刻んで息を吐いた。
 鰐に似たキメラ。それを目にし、実際に戦闘行動を取ったことがある彼女だからこそ分かる敵の実力。
 キルトの腕を信じていないわけではないが、信じていたとしてどうにかなる相手でないのは確かだ。
「鰐キメラ打倒の手がかりらしきものが手に入って、後は決着を着けるだけ‥‥その筈だったのに‥‥」
 先行したキルトは現在、音信不通。
 彼が向かった先は磁場が悪く通信器具は機能しない。故に音信不通になること自体は不思議ではない。
 問題があるとすれば――
「――死にたがり、か」
 雅の呟きに、蒼子の眉が寄る――と、そこに声が響いた。
「大丈夫です!」
 不安を一掃するほど大きな声に、蒼子と雅の目が上がった。
「天羽さん?」
「きっと、大丈夫です」
 蒼子の声に、天羽 恵(gc6280)はしっかりと頷きを返した。
 恵とてキルトは心配だ。
 胸騒ぎがして仕方がない。それでも信じなければいけない。
「‥‥私たちが信じないと、先に向かったキルトさんが頑張れない」
 言って自らの手を握り締めた。
 仲間を信じること、仲間の意を汲むこと、それらが大事なことは良く知っている。
 不器用ながら言葉を発した彼女の声に、雅は僅かな笑みを零した。
「そうだな‥‥もう、私のいる所で人が死ぬのは許せん」
 そう口にして、雅もまた自らの手を握り締めた。
 それに恵の手が重なる。
 彼女も雅と同じ思いがある。
 自分の身代わりとなって亡くなった友。その遺志を継いで能力者になり、そして今、別の仲間がその身を危険に晒している。
「――大丈夫です」
 胸騒ぎは消えない。急く気持ちも変わらない。
 それでもしっかりとした声でそう告げると、恵は微かに笑みを向けたのだった。

 間もなく目的地に着く――とは言っても、高速移動艇が着陸できるのは樹海の外。
 そこからは徒歩で移動し、キルトがいる場所に向かうことになる。
 エリスは未だ迷っていた。
 キルトが危険な目に合っている現状、それを思うと行かなければと思う。けれど能力者たちの言葉も理解できる。
「‥‥エリスさんの気持ちは、分かる気が、します」
 黙り込み、1人静かに考え込んでいたエリスに、王 珠姫(gc6684)が声を掛けた。
 穏やかな微笑みを湛え、目の前で膝を折った彼女は、柔らかな動作でエリスの手を取ると、真っ直ぐに彼女の瞳を捉えた。
 優しく包み込むような瞳に、珠姫が何を言おうとするのか察する。
「‥‥王さんも、ダメって、言うの‥‥?」
 つたなく、探るような声。
 その声に、黒く澄んだ瞳が瞬きと共に頷いた。
「エリスさんの気持ちは、分かります‥‥。その上で‥‥同行も、戦闘区域までの深入りも、反対です」
 迷うということは、相手を思う優しさがあるということだ。
 キルトに対しても、自分たちに対しても、申し訳なさと戸惑い、そして助けたいと言う気持ちがある。だからこそエリスは迷っているのだ。
 だからこそ――と、珠姫は思う。
「迷う優しさのある貴女だから‥‥貴女だからこそ、危険に晒したく、ない‥‥」
 握り締められた手に、エリスの目が落ちた。
 小さく震えた指に、珠姫がキルトに言っていた言葉を思い出す。
 能力者で戦う術がある。それでも怖いものは怖い。
 危険な場所に向かう不安が無いはずはないのだ。そして、エリスの気持ちを推し量ることのできる彼女にも、彼女の言う優しさがあるはず。
「あたしは‥‥」
「決断は、エリスさんにお任せします。でも、1つだけ‥‥」
 エリスの言葉を遮る様に発せられた声、これに彼女の目が瞬かれた。
 僅かに驚く色を浮かべる瞳に、珠姫の首が傾げられる。それに合わせて、彼女が嵌めている三連の腕輪が鳴った。
「帰る場所に誰かが待っていてくれるのは、嬉しいもの‥‥です」
 ふわりとした微笑と共に発せられた声に、エリスの目が僅かに見開かれた。
――帰る場所に誰かが待っていてくれる。
 その言葉が、ストンッと胸に落ちていく。
 そしてその言葉を噛み締めていると、彼女の顔を除き込む黒の瞳と目が合った。
「やぁ、エリスちゃん」
 ニコリと顔を除き込んだのはミコト(gc4601)だ。
 彼は普段と変わらない、屈託のない笑顔でエリスを見ると、視線が合ったことで片手を上げて見せた。
「今回は、どうするのかな?」
 彼の言葉に深い意味はない。
 ただエリスが迷っていると聞いて、彼女がその答えをそろそろ出さなければいけないとわかっているからこそ聞いた。
 だがその答えは、エリスにとって重要な問題でもある。
 それを屈託なく問いかけるのは彼の優しさからだろう。
 エリスは自らの手を支える珠姫の手を握り返すと、確かな頷きをミコトに向けた。
「その様子だと、答えは出てるみたいだね」
 良かった。
 そう言外に告げて微笑む彼に、エリスはもう一度頷きを返して、ふともう1人の能力者に気付いた。
「‥‥瓜生さん‥‥」
 冷静に周囲の状況を見極めることのできる能力者。それがエリスの瓜生 巴(ga5119)に対する印象だ。
 そんな印象を受けているとは露知らず、巴はエリスの声に頷きを返した。
「私もエリスさんの同行には、普通に反対ですよ」
 今のやり取りを見ればエリスの答えは予想できる。
 それでもこう口にしたのは、自分の考えを伝えるため。
 巴はスポーツマンらしいスラリとした腕を組むと、小さく首を傾げて見せた。
「それにしても、そんなに彼が気になるの?」
「‥‥え?」
 唐突な問いに、エリスの目が瞬かれた。
 これに関心を示したのは数名の能力者だ。
「まさか、彼に惚れたとか?」
「ほ!?」
 エリスは素っ頓狂な声を上げて固まった。
 今、巴はエリスがキルトに惚れたと言っただろうか。
 その声にエリスは慌てて首を横に振った。
「ち、違うの‥‥キルトさんは‥‥あの‥‥パパに、似てる‥‥か、ら」
 徐々に消え入りそうな声にミコトの視線が宙を彷徨った。
「パパに似てる? ‥‥でも、キルトって」
 外見年齢20代前半くらいだったはず。それを父親に似ているとは、如何いう事なのだろう。
 ミコトは微かに首を捻ると、「まあいっか」と首筋を摩った。
「でも、残念だな」
 言ってチラリと視線を寄越したミコトに、エリスの首が傾げられる。
「ついてくるんだったら今日1日、エリスちゃんのナイトになる筈だったのに」
 ね、残念でしょ? と、冗談めかして笑った彼に、エリスは一瞬驚いた表情を浮かべて、直ぐに照れたような笑みを返した。

 高速移動艇が着陸の体勢に入ったと報告を受けたユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は、緑の瞳を動かすと用意しておいた荷物に視線を向けた。
「光線を吐いてくる鰐、か」
 依頼の事前情報で、今回の敵は放射線のような光を放つキメラだと言っていた。
 背に丈夫な甲羅を持ち、鋭い牙もあると言う。
 写真も見せて貰ったが、見ただけで危険な相手であることはわかる。
「――厄介な相手だな」
 そう口にすると、荷物に入れたワイヤーを確認した。
 準備は周到にするに越したことはない。それは相手が危険ならば尚更すべき事だ。
 ワイヤーは引けば締まるように輪を作り細工をしてある。これは敵と対峙した際に取る行動のためだ。
「エリス殿は、どうするか決めたヨウでス」
 椅子に腰を据え、足をぶらつかせたラサ・ジェネシス(gc2273)は、ここまでの共に行動してきたらしい能力者たちの遣り取りを眺めると、そう口にしてユーリを見た。
 その声に彼の目が上がる。
「そうみたいだな」
 視線を向けた先には、エリスと数名の能力者がいる。
「エリス殿はプロのカメラマン。そして我々はプロの傭兵‥‥ココからは、我々プロの傭兵としての仕事デスね」
 エリスが最後まで駄々を捏ねるなら、ラサとしても言っておきたいことがあった。
 プロにはプロの仕事を。
 エリスにはエリスの、ラサたちにはラサたちにしか出来ないプロの仕事がある。
 写真家としてプロの自覚があるのなら、こう言い聞かせればわかってくれると思っていた。
 だが――
「言わずともわかる事もある」
 ユーリはそう口にすると荷物の蓋を閉めた。
 そうして思うのは先に向かったと言う傭兵の事だ。
「先行は1人、か」
 大丈夫だろうか、そう言った思いはある。
 そしてその思いは皆が抱えている事だろう。
「キルト殿は必ず無事で助けマス」
 彼の代わりに決意を口にしたラサ。
 そんな彼女頷きを向けると、高速移動艇は着陸を終え、能力者たちを現地に下すよう戦場への扉を開けたのだった。

●ゴンタとタンゴ?
 磁場の通じないこの場所に足を踏み入れるのは何度目だろう。
 恵は焦る気持ちを抑えながら、目の前の森を見詰めた。
 その肩を雅が叩く。
「迅速に行動だ。大丈夫‥‥そうだろう?」
 先程、恵が言った言葉だ。
 その声に頷きを返すと、蒼子の声が聞こえてきた。
「私の護衛対象は貴女は勿論、キルトさんもよ」
 蒼子は不安そうに佇む、エリスの顔を除き込んだ。
「――安心しなさい。プロの仕事って奴、見せてあげる」
「そうだな。キルト氏は連れ帰る。そのときに向かえてやってくれ」
 蒼子の声に雅が言葉を添える。
 その声に頷きを返すと、ネジリが同行者を連れて近付いて来た。
「皆の言う通りだ。待ってろ‥‥キルトを引っ張って来るから」
 コイツが‥‥と、御闇(gc0840)を示して言う。
 その声に御闇が頭を下げると、エリスも頭を下げかえした。
「あいつに話があるなら、オシオキも頼む‥‥無駄な心配かけさせた罰だ」
 まるで内緒話でもするように顔を寄せる彼女に、エリスは数度目を瞬くと、小さく笑い声を零した。
「うん‥‥待ってる。キルトさんも‥‥ネジリ、も」
 最後の方は、極々小さな声だったが、それは彼女の耳にしっかりと届いた。
 唇に笑みを刻んで歩き出したネジリを見送り、エリスの目と珠姫、ミコトと目が合う。
「キルトさんが帰ってきたとき、彼の事はお願いしますね‥‥エリスさん」
「大丈夫だよ。キルトさんは連れて帰るから」
 彼がね。とネジリと同じように御闇を指したミコトに、エリスは笑顔で頷きを返した。
 皆の気遣いが伝わってくるからこそ笑顔で見送らなくては駄目だと思う。
 エリスはカメラを手に笑顔で皆を見送った。

 能力者が足を踏み入れた森は入り組んでおり、足場の悪い土が彼らの行く手を阻む。
 それでも迷わずに済むのは、木々に残された道標のお陰だ。
「この先、あと僅かで目的地に着――‥‥アレは」
 巴は足早に進めていた歩を止めると、事前に聞いていた黄色の紐に目を止めた。
 木々に結ばれた2本の紐。
 それはキメラの数を表すために、キルトが残した情報だ。
「2匹、か」
「2班に分かれて行動するのが無難か」
 ユーリは脳裏で戦闘の展開を予想して呟く。
 それに巴は口元に手を添えると思案気に眉を寄せた。
「1匹はゴンタ。もう1匹はタンゴで良いですね」
 そう口にして皆を振り返った彼女に、全員の目が瞬かれる。
 何処からその名前が出た。とか、何でそんな名前。とか、ツッコみどころは満載だ。
 しかしその呼び名に突っ込みを入れる前に、異変は起きた。

――バサバサバサ‥‥ッ!

 突如舞い上がった無数の鳥。
 それに続いて響いた咆哮にラサが声を上げた。
「急いだ方が良いデス!」
 その声に皆が駆け出す中で先行を切ったのは恵だ。
 自らの脚力を強化して一瞬にして、音の方角に駆けて行く。
 そうして足を止めた彼女の目が、思わぬものを捉えた。
 強い衝撃で折れた木。それを背に項垂れる人物がいる。
 服の上からも分かる出血と、全身に刻まれた傷。肩が僅かに揺れている様子から息はしている様だが、その揺れは酷く小さい。
「キルトさん!」
 青く変化した瞳が鋭い光を帯び、恵は地を蹴った。
「来るなッ!」
 絞り出すように吐き出された声。
 その声に足が止まりそうになる。しかしそれを視界端に映ったものが遮った。
 恵の視界に入ったのは、今回倒すべき相手――ゴンタが口を開く姿だ。
 恵は止めそうになった足を動かすと、キルトの元に辿り着き彼の手を取った。
「動ける?!」
 引っ張り上げた腕は酷く重い。
 自分の意志で動かすのも厳しいのだろう。
 だがここに置いて行けば、ゴンタの砲撃に当たってしまう。
 恵は彼の腕を引いて肩に担ぐと、前を見据えた。
「移動します」
 そう口にした瞬間、眩いばかりの光が2人を襲う。だがその軌跡が僅かに逸れた。
「お疲れ様」
 恵とキルトの脇を過ぎて通り過ぎたのは巴だ。
 彼女の放ったエネルギーガンがキメラの気を逸らしたようだ。
 それに続いて他の面々も彼を庇うように前に出る。その姿に恵はキルトの腕を下ろした。
 回復をしてくれる仲間も到着したのだ。
「酷い怪我だ。回復には時間がかかりそうだな」
 ユーリはそう口にすると、傷の具合を確認した。
 それに合わせて珠姫も彼の治療を手伝う。
「‥‥囮、ありがとうございます‥‥」
「‥‥何だ‥‥来てたのか。怖いんじゃなかったのか?」
 口の中が切れているのだろう。
 若干聞き取りにくい発音で発した言葉に、珠姫は止血を施しながら呟く。
「‥‥エリスさんの為にも、貴方の為にも、生きて、帰って下さい」
――同じ思いは、させたくない。
 それに‥‥と、珠姫はキルトを見た。
 先程聞こえた言葉を思い出して少しだけ苦笑する。
「‥‥私も、1人だけ怖がりなんて‥‥嫌ですから」
 そう呟いて、彼女は治療を続けた。
 徐々に癒されてゆく傷。それを感じながら、キルトは能力者たちの動きを視界に納めた。
 事前に役割でも決めていたのだろうか。
 2手に分かれてキメラを誘導してゆく姿に、安堵の息が零れる。
「‥‥ここでの役目は終いか‥‥あー、痛てぇ」
 ずるずると崩れ落ちた身体を、御闇が支えた。
 それにキルトの目が上がる。
「高速移動艇に運ぶ」
「‥‥あ、いや‥‥俺はここで――」
 そう口にした瞬間、キルトの口から信じられない程の悲鳴が発せられた。
 これには戦闘に集中していた能力者、それに何故かキメラまで驚いて動きを止める。
 そうして見たキルトの耳に、ヘッドフォンが嵌められている。
「あの、それは‥‥?」
「お仕置きだ。コイツのせいでエリスが来てしまったんだ。これくらいはしても良いだろ」
 ネジリはそう言うと、ヘッドフォンを耳に悶えるキルトを連れて行くように御闇に指示した。
 その上で、ふと彼に視線を注ぐ。
「‥‥今すぐ、エリスに謝って来い」
 彼女はそう呟くと前を見た。
 その目に2体のキメラが飛び込んでくる。
「アレはもしかしてワニガメという亀キメラなのかもしれないデス」
 鰐に似たキメラ――巴命名のゴンタとタンゴを見てラサが呟く。
 そうしてキルトに目を向けると、彼女は「お疲れ様」の言葉を零して武器を構えた。
 それは僅かな日の光に対して光を返す小さな銃。
 狙いは勿論、2体のキメラの内1体だ。
「彼は無事戦線を離脱したみたい。後は思う存分、あのキメラを倒すだけ」
 無事――その言葉に若干の疑問はあるものの、あの様子では生死に問題はないだろう。
 蒼子は引き離されてゆく2体のキメラの内、1体に足を向けると素早く弾を装填した。
 直後、彼女の前髪が僅かに別の色に染まる。そうして銃口を敵に向けると、完全に2体を引き離す一撃が別の方角から見舞われた。
「知覚特化の砲撃、当たれば落ちるぞ」
 ゴンタの甲羅に加えられた強烈な一撃。これに巨体が僅かに揺れた。
 その一撃を加えた雅は、次なる攻撃に出ようとKVのコックピットに似た空間を形成する。
 紅い操作盤に記された数多の情報。
 その中の一つに目を止めて、いま一度、彼女の元からエネルギーガンの鋭い一撃が放たれた。
 これに2体のキメラが完全に引き離される。
「キルトさんは自分の役割を果たしてくれた。次は僕達の番だ‥‥!」
 口中で呟き、ソウマは地を蹴った。

●対決・鰐キメラ
 ソウマは樹の上からゴンタを捉えていた。
 そんな彼の視界には、キメラの気を引く恵の姿がある。
「覚悟しなさい‥‥強いわよ、私たちは!」
 言って振り上げた刃。それが装甲の無い肉を斬り上げる。
「――ッ、硬い!」
 剥き出しの足を狙っての一撃。しかし、腕に響いた衝撃は、まるで鉄を打ったようだ。
 そしてその感覚は甲羅から覗く筋肉に向けて刃を振るっていたミコトも感じていた。
「全体が甲羅で出来ているみたいに硬いな」
 だが諦める訳にはいかない。
 恵は青の瞳を眇めると、キメラの目を捉えて駆け出した。
 そんな彼女が足場にするのは、キルトが戦った際に倒れた木々だ。
 出来るだけ身軽に、ゴンタの気を惹きながら動き回る。そうしながら時折刃を振るっては装甲の薄い部分を探した。
 しかし――
「まるで見当たらない、弱点はいったい――」
 そう口にして思い出したのは弱点らしきメモの言葉。

――強靭な岩をも貫く、永く滴る雨滴。

 樹の上から呪歌を放っていたソウマも、このヒントを思い出していた。
「‥‥効果があるのかないのか、イマイチ」
 元々動きの遅いゴンタは、呪歌が効いているのか判断し辛い。
 それでもソウマは歌を紡ぐ。その目に光が飛び込んできた。
 音から位置を割り出したのだろう。
 キメラの口から放たれた光線が彼のバランスを崩す。
「――ッ!」
 落ちる――そう思った瞬間、彼の腕を掴む者があった。
「っ、大丈夫‥‥?」
 見上げた先に居たのはミコトだ。
 彼はソウマを樹の上に引き上げると、改めてゴンタを見た。
「弱点は水‥‥でもどうやって――?」
 考え込む彼の目に、何かが飛び込んできた。
「水筒?」
 咄嗟に掴んだのは何処にでもある水筒だ。
「それを使え!」
 声の方向を見た先に居たのはネジリだ。彼女はそう叫ぶと、大振りの鎌を振り上げた。
 その姿は黒い服装と重なり死神にすら見える。
 その姿を見止めて、ソウマとミコトが顔を見合わせる。
「‥‥試す価値は、あるか」
 彼らはそう口にして頷くと、すぐさま行動に出た。
「狙うのは甲羅の真上、行くぞ!」
 ソウマは叫びながら水筒をキメラの甲羅に叩き付け、それに合わせてミコトが飛び降りた。
「喰らえーっ!!!」
 水筒が砕け、水がかかったその場所に、ミコトの持つ両刃の刃が突き刺さる。
 それを目にしてソウマの中に確信が生まれた。
「これを意味していたんですね」
 攻撃が効かない相手に、攻撃が効くようになった。
 それは確かな弱点を示す。
 そしてそこに更なる援護の手が伸びた。
「弱点を更に弱点化する」
 正確に狙いを定めた攻撃が、傷が出来たその場を抉るように降り注ぐ。
 それを加えたのは雅だ。
 彼女は練成弱体を発動、さらに練成強化を力に乗せキメラに叩き込んだ。
 これにゴンタが大きく呻く。
「これを機に一気に攻める」
 風を切るように降り落とされた片刃の剣。
 ネジリは水属性を付加したそれを突き下ろすと、キメラの真横に立った。
 これに痛みと苛立ちに呻くゴンタが口を開く。
「口の中へ、タイミングは私が合わせる」
 この動きには覚えがある。
 だからこそ雅は急ぎ、開かれた口に攻撃を試みる。
 それに合わせてネジリも真横から一気に鎌を振り落とすが、狙い通りにキメラの口が閉じない。
「ッ、マズイ‥‥退けっ!」
 徐々に集まる光のエネルギー。それを感じ取った彼女の声に、全員が後方に退いた。
 だが、その動きは僅かに遅い。
 ゴンタに対峙していた前衛全てが、光の攻撃を受けて膝を着いたのだ。
 だが勝負はまだだ。
「俺を忘れて貰ったら困るな」
 キメラの頭上に移動したミコトが、光り輝く刃を掲げて呟く。
 その声にソウマも小銃を構えた。
「水は何も水筒の水だけだけじゃないんです」
 放たれた弾丸が撃ち抜いたのは、樹に生った果実だ。
 それがキメラの頭上に触れる瞬間、再びソウマの銃が火を噴いた。
 途端に割れた果実。そこから溢れた果汁がキメラの頭上を濡らす。
「さぁ、どっちが先に根を上げるかな!」
 言って突き刺した刃に、ゴンタの雄叫びが上がる。
 そしてそれを合図に、止めを刺すために再び皆が武器を掲げた。

 一方、タンゴに対峙していた面々は、ある行動に出ていた。
「厄介そうな光線封じをした方が良さそうだな」
 巴と蒼子、彼女らと共に前衛で動いていたユーリは、そう言ってワイヤーを取り出した。
 その上で、前線で戦う2人に問う。
「援護を頼めるか?」
 青く透き通った刃を振り下ろしながら声を耳にした巴は、一度距離を計るように後方に飛ぶと、チラリと彼を捉えた。
「構いません。誘導は任せてください」
「私も、構いませんよ」
 巴の声に続き、拳銃から蒼の刀身を持つ小刀に武器を変えた蒼子も頷く。
 2人の許可を得たユーリは、すぐさま行動に出た。
 一気にタンゴとの距離を縮め、その背後に回ったのだ。
 ならば2人が目指す場所は決まっている。
 巴と蒼子は、わざとタンゴの視界に入るよう前に移動した。そうして攻撃を繰り出す。
 正直、キメラの前に出るのは危険だった。
 だが戦いを有利に運ぶならば、多少の危険は仕方がない。
 2人はユーリが動き易いように同じ場所に何度も攻撃を繰り返した。
 そこに新たな攻撃が加わる。
「雨だれ石をピアッシング!」
 そう言って同じ場所に撃ち込まれる弾丸。それを放ったのはラサだ。
 彼女の言葉から察するに、水属性が付加された弾なのだろう。
 それによって僅かにだが敵の動きが鈍る。
「今だ」
 ユーリはキメラの背に飛び乗ると、急ぎ頭上を目指した。
 そしてワイヤーを操りタンゴの口に引っ掛ける――と、そこで思わぬことが起きた。
「ワイヤーがッ!」
 あと少しでワイヤーがタンゴの口を閉ざす。
 そこまで来てワイヤーがタンゴの牙に引っ掛かったのだ。
 ユーリは急ぎワイヤーを手繰るが、焦れば焦るほど上手くいかない。
 そして――
「あ!」
 樹の上に移動した珠姫の声に皆が絶句する。
 ワイヤーの異変で口を開いたタンゴ。その前に体勢を崩したユーリが落ちてゆく。
 そして彼の視界に眩いばかりの光が射した。
「――」
 全身を鋭い痛みが遅い、苦痛に顔が歪む。
 だが意識はあった。
 それに腕を掴む誰か別の意志を感じる。
 ユーリはハッとなって目を向けると、同じく光線を浴び、黒いウェールに似た光を纏う巴と目が合った。
「直撃は、回避‥‥動けますか?」
 彼女の言うとおり、直撃は免れたようだった。
 どうやら巴が彼を光線の軌道上から引き離したようだ。
「‥‥すまない」
 ユーリは急ぎ回復を施そうと彼女に手を伸ばした。だが直ぐに、別の場所から癒しの手が伸びる。
 樹の上から響く優しい歌声――これは珠姫のモノだ。
 彼女はユーリだけでなく、巴の傷を癒してゆく。そしてその癒しを受けながら、彼は手にしているワイヤーに気付いた。
「まだ引っ掛かってマス」
 ラサの声にユーリは無言で頷いた。
 ワイヤーはまだタンゴに引っ掛かっている。
「瓜生さん、行けますか?」
「勿論です」
 治療は受けた。
 そう言わんばかりに立ち上がった彼女に同意を示す蒼子。そんな彼女たちを見て、ユーリは武器を手にワイヤーを握り締めた。
「援護は任せてくだサイ!」
 援軍の手は足りている。
 皆は互いに頷き合うと、一斉に行動に出た。
 蒼子が右、巴が左、そして彼女たちに攻撃が向かないよう、ラサが援護射撃を加える。
 タンゴはそんな能力者たちの動きを捉え、再び口を開いた。
 だが彼らがそれを簡単に許すはずもない。
 ユーリは瞬天足で一気にキメラの間合いに入ると、開かれた口目掛けて眩い光を放つ光の刃を振り下ろした。
 これにタンゴの口が反射的に閉じる。そしてそれに合わせてユーリが手早くワイヤーを引っ張ると、巨大な口は完全に閉ざされた。
 口を開く力が弱いのか、敵はただ悶えるだけだ。
 暴れて尾を振り乱し、手の負えない獣のように抵抗を試みる。しかしそれは長く続かなかった。
「‥‥静かに‥‥」
 樹の上から降り注いだ歌声に、タンゴの動きが弱まったのだ。
 珠姫は呪歌で動きを制御しながら、注意深く甲羅や全身を観察する。
 そうしてある一点に綻びを発見する。
「――‥‥甲羅の上、そこに傷があります‥‥っ!」
 歌を止め叫んだ声。
 これに4人の目が向かった。
 そして珠姫が示した場所に、4方向から攻撃が降り注ぐと、ゴンタは地響きにも似た叫びを上げて地面に崩れ落ちた。

●未来へ
 高速移動艇に戻って来た能力者たちは、傷を携えながらその前に立っていた。
「記念撮影デス!」
 両手を上げて嬉しそうに笑うのはラサだ。そして彼女の隣にはユーリが腕を組んで立っている。
「‥‥こういうのも悪くはない、か」
 彼はカメラをセットするエリスに目を向けると口角を上げた。
 そんなエリスの傍にはネジリがいる。
「エリスは、その‥‥能力者になるのか?」
 聞いていた彼女の悩み。それを問いかけると、カメラの調整に入っていた彼女の目が上げられた。
「俺は能力者になる事は反対しない‥‥エリスが間違いをおこすとも思わないしな。だが‥‥力を得た分、その力でも出来ない事がある‥‥それを実感する時が‥‥っ」
 言って視線を外した彼女に、エリスは首を傾げてその顔を覗き込んだ。
「能力者には、ならないよ‥‥?」
 不思議そうに掛けられた声に、ネジリの目が瞬かれる。
「‥‥今はまだ、出来ることが、あるから」
 エリスはそう言ったエリスに、ネジリは苦笑を浮かべる。
「‥‥ごめん‥‥情けない事を言ったな」
「そんなこと、ない」
 大丈夫。そう言って笑ったエリスに、ネジリもホッと安堵の笑みを返した。
 そしてその姿を見ていた恵は、隣に立つ巴を見て微笑ましく笑みを零す。
「あの2人、仲良いですよね」
「ここまでまでの絆。仲間だからこそ、でしょうね。ですが、絆は彼女たちだけではないはず」
 違いますか? そう首を傾げた巴に、珠姫と雅が僅かな笑みを湛えて頷きを返した。
「絆、ですか‥‥素敵ですね‥‥」
「いつかエリス君が能力者になり、それを活かして写真を撮る時が来たら、力の使い方を教えても良い」
 これも何かの縁。
 絆と言うならそれでも良い。
 そうした繋がりがあるのなら、いつか再び行動を元にすることもあるだろう。
 そうした時に乞われるモノがあれば躊躇わず与える気持ちがある。
「エリスちゃんが選ぶ道、か‥‥もし能力者になる道を選んだら、その時は進むしかないだろうしね」
 ミコトはそう言ってカメラのセットを終えたらしいエリスを手招く。
 それに元気よく駆け寄ってくる彼女を迎え入れながら、全員がカメラのレンズの中に納まる。
「これで鰐キメラとの戦闘も終了――良い記念になるわね」
 蒼子はそう言葉を零すと、カセットテープに吹き込まれたバグアと言う言葉を聞き続け、ぐったりしているキルトに目を向けた。
「そのままで写真に写る気なの?」
 言って差し伸べた手に、彼の顔に苦笑が浮かぶ。
 そして御闇の手と彼女の手を借りて立ち上がると、記念撮影を提案したソウマが彼に手を差し伸べた。
「よぉ‥‥粋な提案したもんだな?」
 茶化す声にソウマの口角が僅かに上がる。
「‥‥まあ、記念という事で」
 そう言った彼の声を待っていたかのように、シャッター音が響いた。
 その音を聞きながら、ソウマはある願いを胸に抱く。

――願わくば、いつかこの写真が誰かにとっての希望となりますように‥‥。