タイトル:【響】Lookマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/09 09:27

●オープニング本文


 人通りの多い商店街。
 その一角に設けられた個展会場で、エリス・フラデュラーは、自らが撮り集めた写真を飾る準備に追われていた。
「エリスさん、この写真はどこに飾りますか?」
「あ‥‥えっと、それは‥‥」
 あたふたと動き回るたびに動く、ツインに結った髪。
 それを会場に足を踏み入れると同時に目にしたキルト・ガングは、動きを止めると思案気に視線を泳がせた。
「タイミング、悪いか‥‥?」
 聞いた話によると、キルトを捜索する際、エリスは個展の開催を1つ見送ったと言う。
 今回はその個展を再度開けるようになった物で、場所も開催日数もその時と同じようにするらしい。
「やっぱ、自分で如何にかするしかないか‥‥しかしなぁ‥‥」
 呟きながら動かした足は、会場の外に向いている。
「まあ、どうにかなるか――」
「‥‥キルト、さん?」
 1つ息を吐いて会場を後にしようとした時だ。
 個展の準備で走り回っていたエリスが彼を見つけた。
 そしてパタパタと駆け寄って首を傾げる。
「どうしたんですか‥‥?」
「ああ、いや‥‥。っと、そうだ。個展開けるようになったんだって? おめでとさん」
 慌てて切り出した話題に、エリスの顔に笑みが乗る。
 嬉しそうに笑って頭を下げる彼女に、キルトの視線が泳ぐ。
「あー‥‥先日は、見苦しい場面を見せて悪かったな。出来ることなら忘れてくれると助かるんだが‥‥」
 見苦しい場面。
 それで思い浮かぶのは、「バクア」と言った際に彼が見せた醜態くらいだろうか。
「しっかし、凄い写真の数だな。流石、新鋭の戦場カメラマンだ」
 苦し紛れに降った話題だったが、確かにエリスの撮った写真の数は凄い。
 それに撮られた写真のどれもが、人の目を惹きつける魅力のあるものばかりだ。
 キルトは会場に飾られた写真をザッと見回すと、ふと目についた写真に歩み寄った。
 それは先日キルトが遭難した場所の写真だ。
 幻想的な雰囲気を醸し出す深い森。
 危険なキメラさえいなければ、この風景も心に焼きつく良い一枚になったかもしれない。
「‥‥写真、役に立たなかった‥‥ですか‥‥?」
 不意にかかった声に、キルトの目が飛んだ。
 どうやら、見ている写真と先日の写真。それが彼女の中で重なったようだ。
「いや、あの写真はばっちりだった。問題ない」
 ただ‥‥。
 キルトはそう言葉を切ると、思案気に息を吐いてエリスを見た。
「少しばかし問題があってな。出来れば、お嬢ちゃんの手をまた借りたいんだ」
 如何いう事だろう?
 首を傾げるエリスに、キルトは改めて写真に目を向けた。
「キメラに関する情報を、集めたいんだ」
「‥‥UPCの本部‥‥そこには、ないの‥‥?」
 キルトの捜索を願い出た軍の関係者。彼らなら確実にキメラの情報を手に入れられる筈だ。
 だがそれをしないということは、何かあるのだろうか。
 不思議そうに視線を向けるエリスに、キルトは苦笑を滲ませて頭を掻いた。
「面目ないことに、これって情報がないんだ。もしかすると、お嬢ちゃんの親父さん‥‥フラデュラー氏の残した物に、何かないかと思ってな」
「パパの、残した物‥‥?」
 言われて彼女の目が見開かれた。
 エリスの父親は確かに多くの写真を撮り、それに関する情報を多く所持していた。
 調べれば今回のキメラの記述も出てくる可能性がある。だが、それには一つの問題があった。
「‥‥パパの書斎‥‥入ったこと、無い‥‥」
 呟く声に、キルトの目が見開かれた。
「遺品の整理とか、まだで‥‥探せば、あるかも‥‥だけど‥‥」
 父親の生きた跡が残る場所。
 エリスは未だ足を踏み入れることが出来ないと言う。
 だが軍や傭兵らが、情報の提供を求めるのなら、彼女としても何とかしたかった。
「あー‥‥いや、無理にとは言わないさ。調べれば、俺たちにだって何かわかるかもしれないしな」
 俯き考え込んでしまったエリスに、キルトが呟く。
 だがその直後、彼女の顔が上がった。
「探して、みる‥‥でも、1人じゃ‥‥」
 1人で足を踏み入れる勇気はない。
 そう言葉を呑み込んだエリスに、彼は彼女の頭を撫でると笑んで見せた。
「傭兵にも頼んでみるか。一人で探すより、複数で探したほうが良いだろうからな」
 そう言って顔を覗き込んだ彼に、エリスは無言で頷きを返したのだった。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
天空橋 雅(gc0864
20歳・♀・ER
ネジリ(gc3290
22歳・♀・EP
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD
天羽 恵(gc6280
18歳・♀・PN
王 珠姫(gc6684
22歳・♀・HA

●リプレイ本文

 住宅街の一角に、その建物はあった。
 洋館がある敷地内にひっそり建てられた家が今回の調査対象だ。
 エリス・フラデュラー(gz0388)は礼の言葉を言って、集まった面々に頭を下げた。
 その手には、色落ちした金の鍵が握られている。
 彼女はその鍵を鍵穴に差し込むと、慎重にその扉を開いた。
「灯台下暗しとは、良く言ったものね」
 開いた扉から漂う埃。それに目を細めながら、一ヶ瀬 蒼子(gc4104)が呟く。
 その脳裏にあるのは、今回の依頼の発端。
「エリスさんのお父さんの写真がきっかけ。あの場所の写真があるのなら、キメラの写真もあるかもしれない」
「そうですね。全てはあの写真が始まり‥‥」
 蒼子の声を耳にした瓜生 巴(ga5119)が、軽トラックから段ボールを手に歩いてきた。
 その姿を見止めながら、蒼子は言う。
「なるべく早く片づけて‥‥その後はエリスさんの個展を見に行きたいですね」
「そうですね。その為にも準備は万端に‥‥中に入るのはこれからですか?」
 巴の問いにネジリ(gc3290)が頷く。
「ああ、これからだ」
 そう口にした彼女も、ノートパソコンやスキャナーといった、調査に必要なものを持っている。
 彼女は改めて家を見ると表情を綻ばせた。
「‥‥エリスの家か」
 家1つが書斎とはかなりな規模だ。
 だがそれに驚くよりも、ネジリはエリスの家にお泊りすることに心を弾ませている。
「‥‥友達の家にお泊り」
 ポツリと零した声。これに天羽 恵(gc6280)が振り返った。
 不思議そうに瞬く姿に咳払いが零れる。
 それを首を傾げて見やってから、恵も目の前の家を見た。
「大きい家ね‥‥これは骨が折れそうだわ」
 書斎と言えば、家中の一室を示す。しかしここは書斎自体が家1つである。
「何か役に立つ情報が見つかるといいんだけど‥‥」
「そうだな。しかし、見事に女ばかりそろったものだな」
 恵みに相槌を打ち、感心したように声を零すのは天空橋 雅(gc0864)だ。
 彼女は作業に便利なツナギ姿で状態で歩き出すと、すぐさまその動きを止めた。
 その目に留まったのは、家に一礼を向ける人物だ。
「お邪魔、します」
 エリスにも丁寧に頭を下げると、王 珠姫(gc6684)は穏やかな微笑んだ。
 そして雅に気づいたように視線を向け、緩やかに首が傾げられる。
「どうか、しましたか‥‥?」
「あ、いや‥‥何をしてるのかと思って」
「ここは、エリスさんとお父様の大切な世界‥‥そこに入るのです、ので」
――今は亡きエリスの父。その父の書斎に死後足を踏み入ることが出来なかったと彼女は言った。
 だからこその配慮と礼節。
 それを耳にした雅は改めて家を見た後、入り口で立つエリスを見た。
「実際に会ってみれば普通の少女だな」
 スチムソン博士発見の功労者と聞いていた。
 だが実際に会って思ったのは、今口を吐いた言葉だ。
 家はその彼女の思い出の場所。資料のみならず写真も多く保管されているだろう。
 雅は僅かに一礼をエリスと家に向けると、中に入って行った。

●調査開始!
 家の中は、思いのほか綺麗だった。
 それでも家の中が広いのは外から見た情報と同じ。
「お父さんがあの場所へ行ったのがいつ頃か、わかります?」
 巴はそう問いながら、段ボールを手早く組み立ててゆく。そうしてそれらに名札をつけると、部屋ごとに分け始めた。
 その姿を見ながらエリスは記憶を辿る。
「‥‥確か、2年くらい、前‥‥」
「2年前ですか‥‥その情報は確かですか?」
「‥‥3週間後‥‥怪我をして、帰ってきたから‥‥間違いないと、思う‥‥」
 フラデュラー氏は写真撮影後、その森にいたキメラと遭遇したらしい。その折に生還こそしたのの、大怪我を負ったと言う。
「――と言う事は、エリスさんのお父さんもあのキメラと戦ったことがあるということですね。ならば、資料がある可能性は極めて高い」
 蒼子はそう言葉を添えると緩く腕を組んだ。
「まずは応接室を片付けてスキャナーとかを設置したほうが良いかな。操作はそこを中心に開始‥‥どう?」
 言って、恵が応接室の中を見回す。
 その中に置かれているものは少ない、邪魔なものは外に出してしまえば、良い作業場になるだろう。
「段ボールはこれで十分でしょう。現像室は素人が触らない方が良いものもあるでしょ?」
「‥‥え?」
「エリスさんは、まず現像室を調べるか、私たちが手伝えるよう段取り整えてもらえます?」
 巴はそういうとエリスの顔を覗き込んだ。
 専門的なものは専門家に。そう言葉を紡ぐ巴の声に頷く。
 そして皆で動き出す中で、雅はキルトに声を掛けた。
「今回調べる目的の生き物について、もう少し情報はないのだろうか?」
 この依頼を持ち込んだのはキルト・ガングだと聞く。
 確かこの人物は、今回調査するキメラがいた場所で遭難していたという。そこに能力者たちが足を運び今に至るらしいのだが、彼も何か情報を持っていないのだろうか。
「残念だが、奇妙な光線を放って攻撃する以外の情報はない。それに俺たちが今回欲しているのは、そのキメラの弱点となりうる情報だ」
「弱点となりうる情報‥‥」
 雅はそう呟くと、思案気に眉を寄せた。
 その姿を見届けて、キルトの目が動く――と、その目が何か言いたげにしている珠姫と合った。
 しかし、彼女は無言で僅かに頭を下げると、その場を離れて行ったのだった。

 応接室は、テーブルやソファー。それらを全て外に出して、ノートパソコンとスキャナーなどを設置することで、今後の資料を纏めたり、集めたりするスペースとして活用されることとなった。
「乱雑なのは腹が立つほどだけど、やりがいがあるともいえる」
 大量の資料を前に、巴が呟く。
 正直に言えば気の遠くなる量の資料だ。
 これらをすべて確認し、段ボールに仕舞うのはかなりな労働になるだろう。
 それでも彼女は的確に資料の分配に入る。
 それに習って、雅も資料をナンバリングして段ボールに仕舞って行くのだが、その動きが不意に止まった。
「‥‥亡き家族の遺した写真、か」
 目にしている写真は、エリスの幼い頃のものだろうか。
 それと自分の幼い頃の記憶が重なる。
 写真でしか知らない義兄を想い、その写真ばかり眺めている時があった。
「――その写真が如何かしましたか?」
「あ、いや」
 巴の声に慌てて首を横に振る。
 そしてその写真を仕舞うと、静かに立ち上がった。
 そこに段ボールを手にした、蒼子が声を掛けてくる。
「だいぶ片付きましたね。一度、応接室に行きませんか?」
 その声に頷くと、2人も段ボールを手に応接室に向かった。
 そして中に入ったところでネジリと会う。
「さて‥‥何が出て来るかな」
 ネジリは大量の資料を前にそう呟くと、雅と巴にパソコンへの情報入力を頼んだ。
 そして自分は他の部屋の捜索に向かったのだが、その足が現像室の前で止まる。
「エリス?」
 ちょうどエリスが出てきた所だった。
 彼女の手には、数枚の写真とフィルムが握られている。
「現像が終わったのか‥‥ちょうどいい」
 呟くと、ネジリはエリスに歩み寄った。
「エリス。エリスはこの前、俺が怒ってる様に見えたんだよな?」
 聞こえた言葉に、何を言っているのか直ぐに分かった。
 頷きを返すエリスに、ネジリは苦笑する。
「‥‥俺は口が下手だからな。言いたい事は、真っすぐ言うよ‥‥たぶん」
 そう口にして言い辛そうに口を噤む。
 それを見ていたエリスのが首が傾げられた。
 そして差し出された手。そこに彼女の目が落ちる。
「それで‥‥主義に反するが‥‥その、俺と友達になってくれませんか?」
 真っ直ぐに言われた言葉。それにエリスの目が瞬かれた。
 ダメだろうか?
 そう窺うように向けられた視線に、エリスは慌てて首を横に振ると、笑顔でその手を取った。
「‥‥ぜひ、よろしくなの‥‥!」
 溢れんばかりの笑顔に、ネジリの顔にも笑みがのる。
 そうしてふと思う。
「そう言えば、エリスの父親は何を撮りたかったんだろうな?」
「それは、私も気になるな。フラデュラー氏の写真には興味があるもの」
 目を向けると、蒼子が近付いて来るのが見えた。
「それは、あたしにもよく――」
 そうエリスが口にした時だ。
――ドサドサバサ‥‥。
 何処からともなく物凄い音が響いてきた。
 その声に3人の目が向かう。
「あぁぁ‥‥」
 そこにいたのは、段ボールと一緒に転がる恵だ。どうやら張り切って荷物を持った結果、前が見えずに転んでしまったようだ。
「す、すみません、ごめんなさい‥‥!」
 慌てて資料を拾い上げる。
 その姿にエリスが駆け寄った。
「‥‥ありがとう」
 段ボールに納められた資料。それを受け取って笑みを向けると、彼女は思い出したように目を見開いた。
 そして穏やかな笑みをエリスに向ける。
「あの時は言えなかったけど‥‥ありがとう。頑張れって、ちゃんと聞こえていたわ」
 その声に、目を瞬いた後、エリスは気恥ずかしげに笑顔を綻ばせたのだった。

「あまり写真に興味を持ったことはなかったけど‥‥すごいわ、本当に」
 恵は応接室に集められた資料を前に、感心したように呟いた。
 そこに珠姫も資料を手に中に入ってくる。
「この資料で、1階は終了です‥‥」
 1階の物は多かったが、案外早く片付けることが出来た。
 珠姫は、持ってきた段ボールを雅たちの横に置くと、何処に何が入っているかを説明した。
「キメラに、関係していそうな写真と‥‥現地と同じ植生の写真を‥‥分けて、おきました。あとは、時系列や場所など‥‥でしょう、か」
 言って、段ボールの中を丁寧に整理してゆく。
 それに習って他の皆も仕分けを始めたのだが、ここに来て何かが響いた。
「‥‥今の音は?」
 問いかけたのは巴だ。
 彼女はエリスを見ると小さく首を傾げた。
「‥‥お腹の、音‥‥ごめん、なさい」
 消え入りそうな声で呟いたエリスに皆が目を瞬く。そう言えばそろそろお昼時だ。
「休憩にしましょうか」
 その声に、皆は一度手を止めると同意を示したのだった。

●ティータイム
 目の前に並べられたお菓子と色々な種類の牛乳に飲み物。それらを前に、エリスは目を輝かせていた。
 そしてその中からチョコレートが取り上げられる。
「お、チョコだ。誰が持って来たんだ?」
 キルトはエリスの分も取ってあげると、すぐさまそれを口に運んだ。
「それは私ね。夕飯が必要ならお鍋を作るのも良いと思うのだけど‥‥今はこれだけね。それよりも、このお饅頭は誰が?」
 蒼子はそう言うと、久しく目にする和菓子にその目を注いだ。
 その声に巴も饅頭に手を伸ばす。
「玄米皮にずんだ餡‥‥珍しい」
「それは、私が‥‥持って、来ました」
 茶の葉を使ってお茶を淹れてきた珠姫は、欲しいと申し出た人の前にそれを置くと、エリスの隣に腰を下ろした。
「‥‥あの、動物、お好きなんですか‥‥?」
 突然の問いかけに、エリスが目を瞬く。
「この前‥‥一緒に、キルトさんを止めたから‥‥」
 言われて思い出した。
 そう言えば、2人で猿を攻撃しようとしたキルトを止めたことがある。
 エリスは口の中のチョコを呑み込むと、彼女に頷きを返した。
 そこに別の問いが飛び込んでくる。
「ではエリス君は動物の写真を撮るのが好きなのだろうか?」
「動物も、好き‥‥だけど、人も、風景も‥‥好き」
 エリスは雅の言葉に答えるとふわりと微笑んだ。
 その顔は、写真全てが好きだと言っているようだ。
「成る程。では行ってみたい場所などは――」
 雅が続いて問いを向けようとした時、彼女は思いも掛けないものを見た。
 それは紅茶に大量の砂糖を投入するキルトの姿だ。
 それを目にして同じように固まるのは、クッキーと紅茶を用意した恵である。
「あの‥‥キルトさん、その量は流石に」
「うん? これくらい入れなきゃ甘くない。瓜生も遠慮なく入れて飲んでみろ。美味いぞ?」
 言って、彼は巴の紅茶にも大量の砂糖を入れた。
 これには全員が顔色を蒼くしたのだが、巴は気にした様子もなく一口飲んだ。
 そして――
「美味しいですね」
「「「!!!」」」」
 全員絶句。
 しかしキルトはその声に満足そうに頷くと、チョコを口に放り込んだのだった。

●作業は進み‥‥
「だいぶ集まってきましたね」
 雅は作業の手を止めると、ふと目についた写真に眉を寄せた。
 大きな甲羅を背負った鰐が映る写真。
 それは事前に聞いていた情報と酷似している。
「これか‥‥」
「この写真‥‥雨の日のものかしら?」
 蒼子はそう言うと、写真の状況を確認した。
 スコールのような雨。それを避けるに雨宿りするキメラがそこには居る。
「そう言えば、興味深い記述を見つけましたよ」
 言って巴が見せたのは、今打ち込んだばかりの情報だ。
「交戦記録?」
「フラデュラー氏は雨期に写真を撮りに行ったらしいです。その際、雨が降るとキメラは姿を現さなかったとか」
「雨‥‥水に弱いの?」
 巴の声に恵が呟く。
「可能性としてはあるな。それにそのキメラ‥‥見た目通り動きが鈍いらしい」
 確かにキメラの動きは然程早くなかった。
 だが、遠距離攻撃がある‥‥ネジリはそう言葉を付け加える。
 そこに珠姫が別の情報を差し出した。
 彼女が出したのは、風景を写した写真だ。
 その場所はキメラがいる森を映したもので、彼女は写真の裏面を見せると、そこに掛かれている文字を読み始めた。
「『強靭な岩をも貫く、永く滴る雨滴』‥‥これは、ヒント、でしょうか‥‥?」
 皆はその声に顔を見合わせると、その情報もコンピューターの中に入力した。

 そして――
 作業は夜まで続き、この日は皆で夕飯を済ませて一晩泊まることになった。
「大人数で食事するなんていつ以来かしらね‥‥そう言えば、兄さんたちは元気にしているかしら?」
 蒼子は1人呟き、鍋の具を口に運ぶ。
 その片隅では、エリスに話しかける雅とネジリの姿があった。
「エリス君、個展の成功を祈るよ」
「俺も、個展、楽しみにしている」
 その声に、エリスの顔に笑みが乗る。
 そしてその近くでは、珠姫がキルトに話しかけていた。
「キルト、さん。えっと‥‥その‥‥私も、すごく、怖いんです」
「あ?」
「ホッとしたというと酷い言葉ですが‥‥貴方のお陰で、嘘をつかずに自分と向き合える気がしたんです。ありがとう、ございました」
「ああ、俺の体質‥‥」
 ここまで聞けば想像がつく。
 彼女はキルトのバグア恐怖症について言っているのだ。
 そこに巴の声が響く。
「あれ、この写真の撮影現場、グアテマラ?」
「!?」
――さつえいげん「バグア」てまら?
 聞こえた瞬間に消えたキルトに、巴が「ああ」と苦笑を零す。その直後、キルトの怒声が響いたが、彼女は軽く謝罪を向けると、何事も無かったかのように食事を続けた。
 その姿を見ながら、珠姫は穏やかに微笑む。
「私と一緒にして‥‥、ごめんなさい。‥‥でも、頼りにして、いますね」