タイトル:深紅の風マスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/27 07:33

●オープニング本文


「そう、この先‥‥」
 赤の着物を身に纏い、億劫そうに神社の奥を見詰める人物。
 その人は傍らに佇む男性を見て、緩やかに踵を返した。
 その姿に合わせて何処からともなく鈴が鳴る。
「行かれないのですか?」
 静かに響く問いかけに、紅を落とした唇が弓なりに描かれる。
「私が何故?」
「アナタも、能力者でしょう」
「――何故?」
 クスクスと零れる笑い声。
 その声に男性の眉間に不快が現れる。
 それを見て取り白い指が彼の顎を撫でた。
「私のすべき事はしたはず。次はお前の番でしょう?」
 柔らかく撫でた指が頬を滑り離れてゆく。
 それを見送るでもなく男性は視線を落とし、手を握り締めた。
「確かに、アナタは既に十分な働きをされている。ですが――」
「しつこい男は好きではないの。後ろを見てごらん」
 滑らかな動きで示された先。そこに見えるキメラの亡骸。それを見て男性の顔が曇った。
「私がキメラを退治する間、君は何をしていたの。ただ黙って見ていただけではないの?」
 逸らされた視線に、キメラを指差していた手が下りた。
「まあ良いでしょう」
 溜息交じりに声を零し、億劫そうな瞳が振り返った。
 赤い鳥居の向こうに見える参道。そこを抜ければ社がある筈。そこを思い先程まで上がっていた口角が下がった。
「援軍到着までの時間を計算してください。先程から、私の目に何かが掛かってる‥‥」
 袂から抜き取った扇子、それを手に見上げた先に黒い影が差す。
「――見つかってしまったの」
 ポツリと呟くのと同時に、黒の瞳が深紅に変化した。
 それを見止めた男が急ぎ通信機を取り出す。
 そうして繋いだ先で聞こえた声に彼は口早に告げる。
「目標物を発見。至急合流し、キメラ殲滅と目標達成に対応して下さい」
 彼は通信を切ると、同じく空を見上げた。
 上空を飛行する鳥型のキメラが見えるだけで3体。それらを視界に納め、小銃を構える。
 空に集い始めた暗雲。
 それと共に飛来した黒い翼を持つ鳥は、奇妙な鳴き声を上げながら急降下してきた。
「塒を捨てたのか、それとも、護るための行動か‥‥どちらにせよ、出向いたのは馬鹿だったね」
 小さく口にした言葉が風に消え、代わりに駆け付ける音がする。
 その音に目を向けるでもなく扇子を開くと、更に頭上から3体の鳥が合流するのが見えた。

●枯巣
 時は僅かに遡る。
 UPC本部で依頼の載った掲示板を眺める一人の人物。赤い着物に到底能力者にも傭兵にも見えないその人は、依頼の説明に当たっていたオペレーターを呼び止めると、1つの依頼を指差した。
「此れに向かう人員は、足りてる?」
 穏やかに紡ぎ出された声に、オペレーターは目を瞬き急ぎ調べた。
「いえ、まだですが‥‥あの‥‥」
「なら、手続きを取って貰える? 私も行きたいの」
 艶やかに上げられた口角に、オペレーターの女性の頬が僅かに紅くなる。
 その上でコクコク頷くと、彼女はすぐさま手続きをする準備を始めた。
 それを見届けていた人物が微笑む。
「私の名前は『枯巣(カラス)』。宜しく――可愛らしいお嬢さん」
 枯巣はそう言葉を残し、彼女の元を去った。
 僅かに残る香りは着物に焚き染めたお香だろうか。女性は全ての手続きを終えると、彼女が去った余韻に浸っていた。
 そこに別のオペレーターが声を掛けてくる。
「ねえ、今のって枯巣様?」
「え‥‥ええ、この依頼に参加したいって言って――って、枯巣『様』?」
 後から来たオペレーターは依頼内容を確認すると、間違いないと頷いた。
「鳥キメラを専門に退治をしてた傭兵で、あの格好であの振る舞いじゃない? 神秘性も併せて、陰でそう呼んでる人が多いのよ」
 確かに枯巣は何処となく変わった雰囲気を持っている。
「最近はすっかりお姿を拝見しなくなったのに、急にどうしたのかしら」
 彼女はそう言うと、依頼書を改めてみた。
 神社に巣食う鳥型キメラの退治依頼。
 山道までの道を覆う、無数のキメラを倒し、社に出来たと思われる巣を排除するのが最終目標だ。
「何にしてもやっぱり鳥キメラなのね‥‥鳥キメラに何かあるのかしら」
 女性はそう呟くと、枯巣が去って行った方角を見て首を傾げた。

 そしてその半日後、枯巣を含めた数名の能力者が顔を合わせる。
「――班を分けて巣を探す。これで問題ありませんか?」
 眼鏡をかけた青年が皆を見回し問う。
 その声に全員が頷きを返すと、彼らは目的の神社がある山へと高速移動艇で向かったのだった。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
八葉 白夜(gc3296
26歳・♂・GD

●リプレイ本文

 広大な敷地内に建てられた神社。
 周囲を囲う林の中に、彼らの姿はあった。
「『巣』へ向かうわ。惹きつけていて」
 アグレアーブル(ga0095)は無線を通じて告げると、同班の時枝・悠(ga8810)を振り返った。
「私達は巣の駆除に向かうわよ」
「予測場所の情報とかは得られたのかな?」
 アグレアーブルの声に頷きながら、悠が問う。
 その声を耳に、アグレアーブルは歩き出した。
「巣は参道の先、社の傍にあるようね」
「参道の先‥‥なら、そこから見え難く、最短距離となるように移動したほうが良いかな」
 悠はそう言いながら事前に得ていた周辺の地図を思い出す。それと同じく、アグレアーブルもまた、周辺の地図を思い出していた。
「探索地点のMAPは把握しているもの。行けるわ」
 言って参道とは違う道を行く。
 神社を囲う木々は深いと言う程ではないにしろ、姿を隠すにはちょうど良かった。
「いつものことだ。仕事が面倒臭いのも、能力者が変わり者揃いなのも」
 ふと呟き慎重に足を進める。
 その脳裏にあるのは、今回の依頼内容と、同行していた枯巣と言う人物の事。
 悠は僅かに被りを振って気持ちを切り替えると、その目を上空に向けた。
「キメラが飛んでいく」
 呟きに、アグレアーブルの目も頭上に飛んだ。
「向こうが仕事してくれている証拠ね」
 キメラが向かったのは、参道がある方だ。
 そちらには無線で言葉を交わした相手がいる。つまり、彼らがキメラを惹きつけてくれていると言う事だ。
「私たちは私たちのすべき事をするわよ」
 そう言い置き、彼女たちは自らの武器を手に巣の捜索を開始した。

 一方、彼女たちと別行動していたユウ・ターナー(gc2715)は、林の影から臨める神社を前に、目を輝かせていた。
「うわぁ‥‥ニホンの教会ってこんななんだ! なんだか神秘的っ」
 初めて目にする神社と言う存在。
 それに歓喜の声を上げるユウの傍で、ラウル・カミーユ(ga7242)もまた、彼女と同じように神社に目を向けていた。
「こんな所にキメラだなんて許せないの。ユウ達がさくっとやっつけちゃうんだカラ!」
「ソウだネ。ジンジャにキメラが巣食っちゃうと、お参りしたい人が困るヨネ」
 意気込む彼女に同意して頷く。
 今のところ、キメラの存在は見えない。
 敵は何処か別の場所にいると言う事なのだろう。
「とりあえず、元のジンジャに戻るよーに、しっかり殲滅と巣駆除デス」
 ラウルはそう告げると、不意に無線機を取り出した。
 そこから響く眼鏡の声に、彼の目が瞬かれる。
「今の声って‥‥」
「ゆんゆん、眼鏡クンがヘルプだってサ。ぶっちぎって行こ☆」
 明らかに状況は良くないらしい声に、ラウルは急ぎ駆け出した。
 それに合わせてユウも走り出す。
 そうして2人が林を抜けると、ちょうど3体のキメラが参道に姿を現すのが見えた。

 そして同時刻、もうひと班。
 同じ敷地内で捜索にあたっていた八葉 白夜(gc3296)は、眼鏡からの通信を受けて、妹の八葉 白雪(gb2228)を振り返った。
「あちらが目標物を発見したようです」
 白夜はそう言って、神社の姿に僅かに瞳を細めた。
 その目に映る、懐かしさを感じさせる光景。
 それに知らずと肩に入った力が抜ける。
「随分と風情のある場所ですね」
「ええ、ずいぶんと立派な神社ね」
 白夜の声に続き、しみじみと呟き出された声。
 その声に、白雪の中にある存在――真白が頷きを返す。
 そんな彼女は、こうした神社と似たような環境で育った。故に思うこともあるのだろう。
「このような場所にキメラとは、聊か興が削がれるというもの‥‥早々にお引き取り願いましょう」
「はい、お兄様」
 白雪――真白は真剣な表情で頷きを返すと、歩き出そうとする背に声を掛けた。
「私は上空を警戒します。どうか、白夜お兄様は周囲の警戒を‥‥」
「わかりましたよ、真白。では上方の索敵はお前に任せます」
 そう言って互いの役割を確認する様に頷き合うと、2人は巣があるであろう社を目指して歩き出した。

●巣の守護者
「枯巣から聞いた情報では巣の近辺に、それを守るキメラがいると言っていたけど‥‥」
 アグレアーブルと悠は、林の影から社を眺め注意深く、目的物がないか見定めていた。
 2人がいるのは、社の側面。ちょうど、参道から脇道にそれた部分だ。
「もしかして、あれが巣かしら」
 アグレアーブルはそう呟くと、不意にその目を上げた。
 青く澄み渡る空。その中に黒い点が見える。
「――来た」
 呟きに、悠の目も上空を捉えた。
 大きな翼を広げて飛来したキメラ。その存在が社に発見した巣らしきものを目掛けて降りてくる。
「巣は逃げる物ではないし、キメラの殲滅を優先すべきか」
 そう言った悠の脇を、赤い風が駆け抜けた。
 地を蹴り真っ直ぐにキメラの着陸地点に立ったのはアグレアーブルだ。
 彼女は黒猫の描かれた拳銃を構えると、銃口を真っ直ぐキメラに向けた。
「――目標捕捉」
 呟き、キメラが軌道を直前に引き金を引く。
 途端に響いた轟音。それによって撃ち抜かれる翼から羽が舞う。
 だが、攻撃はこれで終わらなかった。
 未だ逃げようと片翼を動かすキメラに、改めて照準を合わせる。
 そして――
「援護願う」
 黄色身を帯びた緑の瞳が瞬きする直前、再び轟音が響いた。
 それと同時に飛び出したのは翡翠色の軌跡を描く影。それが紅炎を手に地を蹴る。
「逃がさない、覚悟するんだね」
 悠は華麗に舞い上がると、体勢を崩したキメラを真上から叩き下ろした。
 凄まじい勢いで地に落ちた存在。それを目に、着地と同時に地面を蹴る。
 そうして一気に縮まった距離に合わせて、アグレアーブルの攻撃が援護に移った。
 逃げ場を失ったキメラは、何とかこの場から逃れようと動くが、それは彼女たちが許さない。
 赤い炎を纏う刃がキメラの身を叩き斬り、動かなくなったのを確認すると、2人の目が再び上空に飛んだ。
「次の目標を捕捉」
「次から次へとよく湧いてくる。でもそれだけこの場所が禁忌だってこと」
 2つの腕と2つの銃口が上空を捉える。
 そして2つの弾丸が両翼を撃ち落すと、2人は互いに地面を蹴りキメラに自らの攻撃を叩き付けたのだった。

 一方、白雪と白夜もまた、キメラの姿をその目に捉えていた。
「正面からです。敵襲に備えてください」
 探索の眼を使い、深く気を配っていた白夜は、木々の向こうに捉えた存在に、自らの武器――投擲用小太刀『八葉・夜兎』を構えた。
 それに合わせて真白となった白雪も、武器を構える。
 そんな彼らの前にいるのは、社を背に進行方向を塞ぐ2体のキメラだ。
「気休めだけど、少しは役に立つでしょう」
 白銀の髪を揺らし、白雪が武器の強化を行う。そうして改めて前を見据えると、45口径の回転式拳銃を構えた。
「――行きますよ」
 傍らに控える真白に囁き、白夜の小太刀が先陣を切った。
 迷うことなくキメラに向かう刃。
 それが双方の翼を貫き、一体が地面に転がり落ちる。しかし、僅かに効果が足りなかった。
 残る1体のキメラが、傷を受けながらも上空に舞い上がってゆく。
 それを見止めて、真白の弾丸が唸った。
「お兄様!」
「わかりました。安心なさい‥‥痛みはありません」
 呟き、敵の四肢を狙う。
 声無き悲鳴が上がり、キメラの翼がおかしな方角に曲がった。
 それを真白は見逃さなかった。
「その隙‥‥貰った!」
 上空で揺れた体。そこに無数の弾丸を撃ち込んでゆく。
 そうして一気に接近すると、機械剣の柄を強く握り締めた。
「――まずは、1つ」
 呟き、金色の光を放つ刃を振り下ろす。
 そうして1体のキメラを地面に伏すと、同じくキメラに刃を向ける兄を見た。
「このような立派な神社を傷付ける訳には参りませんからね」
 囁き向けるのは短剣だ。
 未だ逃げようともがくキメラの両翼を、彼の刃が切り落とす。
 そうして逃げ場を奪うと、彼の武器が躊躇いもなくキメラに向いた。
「‥‥死にたくは無いでしょうがこれも因果応報。逃がす訳にはいきません」
 彼はそう口にすると、躊躇うことなくキメラを葬った。

●参道
 ユウは、参道に転がるキメラの残骸を前に、驚いたように足を止めていた。
「そこら中に倒された敵が沢山‥‥凄い‥‥」
 驚き半分、尊敬が半分。
 僅かに頬を紅潮させて呟いた彼女の傍らには、同じく残骸を目にするラウルがいる。
 彼は参道に転がる残骸を眺めた後、すぐさまその先で闘う眼鏡の姿を目に止めた。
「‥‥急ごう」
「うん、ユウ達も頑張らなくちゃ、ね」
 言って駆け出した2人。その姿に、数体のキメラが気付く。
 敵は全てで6体。
 そのどれもが鳥型で、空を飛んだ状態で攻撃に移ろうとしている。
「カラちゃん、お待たせー。おお、群がってるネ」
 ラウルはそう言葉を零すと、自分たちに狙いを定めて前方を塞ぎに掛かったキメラに銃口を向けた。
 そして迷いもなく引き金を引く。
 途端に放たれた無数の弾。それが降下しようとする敵の動きを止めた。
 そしてそれを見計らったように降り注いだ新たな弾丸は、特殊銃『ヴァルハラ』を構えたユウのものだ。
 彼らは行く手を阻むキメラを物ともせずに合流を果たすと、枯巣と眼鏡の前に立った。
「いっぱい倒してお疲れだろーカラ、僕ら頑張るのデ、気が向いタラ援護よろしくー」
 枯巣の性格は、ここに来るまでの途中で大体把握した。
 だからこその言葉に、枯巣の目が僅かにだがラウルに向かう。
 しかしそれでも動こうとしない枯巣に代わって、眼鏡が新たな弾を拳銃に納めながら彼の隣に立った。
「お2人とも、援護感謝します。えっと、他の方は‥‥?」
「他の皆は、巣の捜索を続行中。援護は僕らダケ」
「え、それって‥‥」
 先程無線機を通じてアグレアーブルが言っていた『惹きつけていて』の言葉が頭を過る。
「私達は囮――そういうこと」
 眼鏡の考えを捕捉する様に枯巣が囁く。
 その声に眼鏡の眉間に皺が寄った。
「この人数で、凌げるでしょうか?」
 敵の数はラウル達が倒してくれたので、4体のみ。
 1人1体と考えれば充分余裕はある。
 それでも不安を覗かせた眼鏡に、ユウが無邪気に言う。
「凌げるんでしょうか‥‥じゃなくて、これからユウ達がやっつけちゃうんだよ☆」
 言って戦闘態勢を整える彼女に、眼鏡は目を瞬いた。
 こうしている間にも敵は次の行動に出ようとしている。
 上空に飛翔し、急降下の準備を始めたのだ。
「ゆんゆん、援護お願いネ」
 言葉と共に、ラウルの銃が火を噴いた。
 それに合わせてユウに瞳がキメラを捉える。
「それ以上、急降下はさせないんだカラっ☆」
 射程ギリギリで定めた狙い。
 次第に遠くなるキメラの姿に、ユウの瞳が細められる。
「羽を落とせると良いんだけど‥‥巧く狙えるかなァ‥‥?」
 自信は半々。それでも放たれた弾は、見事にキメラの翼を貫いた。
 それを受けてラウルが地を蹴る。
「建物は傷つけナイように注意‥‥罰、あたりそうデ怖いモン!」
 バランスを崩して急降下してくる敵。それに刃を振り下ろす。
 そうして敵を地面に叩き落とすと、今度は別の敵が迫ってきた。
 それに彼の反応が遅れる。
「ラウルおにーちゃん、危ない!」
 ユウの放った弾丸が近付くキメラを遮った。
 そうして互いに背を合わせるように銃を構えると、彼らは次々とキメラを倒して行った。
 そして残り1体。
 そこまで来て、眼鏡の所持している無線機が鳴り響いた。
『巣を発見。これより巣の破壊に移るわ――枯巣はいる?』
 無線機の向こうから聞こえるのはアグレアーブルの声だ。
 それに続いて、悠の声がする。
『巣について他に情報を持っていないか?』
 事前に聞いた巣を守るキメラの存在。
 それ以外にも情報があれば欲しいと彼女は言う。
 その声に無線機を一瞥すると、枯巣は未だ倒しきらない空の敵を見据えた。
「普通の巣と同じ。燃やすか、壊すかすればいい‥‥」
 呟き、扇子型の超機械を持つ枯巣の手が動いた。
 それに気付いたラウルが叫ぶ。
「ゆんゆん、後ろに飛んで!」
 突然の声に、ユウは訳も分からず後方に飛んだ。
 その瞬間舞い上がった風に、キメラが巻き込まれる。
 小さな竜巻に巻き込まれたキメラが、真っ逆さまに地面に落ちてゆく。そして凄まじい衝撃で土に埋もれる存在を確認すると、枯巣は今振るったばかりの超機械を仕舞った。
「ゆんゆん、止めを刺すヨ!」
 キメラはまだ生きている。
 その事に気づいらラウルの声に、2人の銃口がもがくキメラに向かう。
 羽が折れても尚、逃げようとするキメラに、ラウルの冷たい視線が注がれる。
「逃げられる‥‥とヨイね」
 冷淡に響く声。
 その声がキメラに届くよりも早く、2つの弾丸がキメラの息の根を絶った。

●巣の駆除、そして‥‥
「これで駆除完了だ」
 悠はそう言って、社から取り外した巣に火を落とした。
 パチパチと火花を上げて燃え上がる巣。
 それを見ながら彼女はふと枯巣を見た。
 合流直後からまったく言葉を発さないその手には、倒したキメラの羽が握られている。
「それ、何かあるの?」
 問いかけに、枯巣は何も答えない。
 ただ静かに彼女に視線を向け、微笑んで見せる。
 そこに煩いほど大きなため息が聞こえてきた。
 それを発したのは眼鏡だ。
 彼は依頼達成の喜びから、こんなため息を吐いたようだ。
「無事任務を終えられた事は喜ばしいけど‥‥少し、大袈裟な気もするわね」
 アグレアーブルはそう口にすると、眼鏡を見ながら肩を竦めた。
 そこに白雪が近付いて来る。
「お疲れ様です、眼鏡さん。無事に終わってよかったですね」
「あ、はい。良かったです」
 へらりと笑って白雪に頭を下げる眼鏡。
 彼からすれば、可愛い女の子に声を掛けて貰えること自体が嬉しいこと。
 だがふと何かが引っ掛かり、彼の目が瞬かれた。
「あれ、眼鏡って‥‥?」
 今、名前ではなく『眼鏡』と呼んだだろうか。
 不思議に思って問いかけようとした所で、白雪の目が他に向かった。
「あ、兄を待たせているのでこれで」
 言って駆け出した彼女に、呆然と目を瞬く。すると、その肩をラウルが叩いた。
「眼鏡を名前だと、思ってるミタイだネ」
「眼鏡のおにーちゃん‥‥お名前、あるの?」
 ひょこっと顔を覗かせたユウとラウルの言葉。
 それらに目を見開くと、眼鏡は物凄い勢いで落ち込んで見せたのだった。
 そしてそれらのやり取りを僅かに離れた場所で見ていた、白夜はふと首を捻っていた。
「‥‥あの方、どこかで一度会ったことがあったでしょうか?」
 眼鏡の掛けているレンズ。
 それを見ながら呟いた兄に、白雪は「さあ?」と声を零して、首を傾げたのだった。