タイトル:【授業】vsKVマスター:麻川 和

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/12 18:26

●オープニング本文


「ねえ、今日の授業内容聞いてる?」
 訓練施設に集まっていた生徒たち、その中の一人の女生徒が隣の友人と思われる男子生徒に話しかけていた。
 片手には身の丈以上もある大きな槍。穂先の刃は丁寧に手入れされているのか、蛍光灯の明かりを受けて美しく輝いている。
「さあ、詳しくは。普通の模擬戦なんじゃ無いの?」
 男子生徒は分からない、と首を横に振って答えた。
 男子生徒もまた、鏡かと思えるほど綺麗に磨かれた両刃の大剣をコンクリの床に突き立ている。
 よく見れば他の生徒達も。ここに集まった生徒はみな思い思いの武器を持っていた。
 それも実剣の類を。
 集まった生徒たちに対して与えられた授業説明はただ一言。

 『模擬戦を行うので戦える装備を準備して来ること。なお、依頼で使っている実兵器で構わない』

 そう言われているだけで、実際何と戦うかまでは聞かされていない。
 ただそれがゆえに過度に不安を覚える者が居た。
 特に『実兵器で構わない』なんて、普通の模擬戦ではお目に掛からない言葉だ。
「まさか本物のキメラと戦うなんて言わないわよね‥‥」
 ぶるっと肩を震わせる女生徒。『実兵器可』なんて「本気で死ぬ気で戦いなさい」と言っているようにも取れる。不安は募るばかりだ。
「まさかキメラが怖いとか? んなもん依頼でよく戦ってるだろ」
「依頼で覚悟決めて戦うのと、授業受けに来たつもりがキメラと戦う事になるのとでは違うのよ」
 自分の心境を分かってくれない男子生徒に少し強めの口調で当たる女生徒。そうしているうちに、教師が施設内へと現れた。
 すぐに私語を止めて教師の前に並ぶ生徒たち。教師は生徒たちを一通り見渡すと、すぐに手元の資料へと目を移した。
「では、これから授業を始めるが‥‥その前に、みんなに見てもらいたいものがある」
 そう言って、教師は助手らしき人たちに何かを持ってくるように指示する。
 助手たちは一度施設を出ると、ガラガラと車輪付きの荷台に乗せた『それ』を運んできた。
 『それ』の姿を見た生徒たちは皆目を丸くすることとなる。
「これは‥‥いや、この機体は傭兵に支給されているもの。知っている者も中には居るだろう」
 紛い無きナイトフォーゲル『LM-01』その2mほどのミニチュア版が、そこに起立していたのだ。 
 ミニチュア版KV‥‥おそらくKV好きにはたまらない一品だろう。
「今回は皆にこれと戦ってもらう。これは無人ロボットで、操縦シミュレーターによって遠隔操作される。ちなみに操縦するのは私だ」
 何を隠そう実際私はこれに乗っているからな、と教師は付け加える。
「『機体と闘う』ということ。コックピットの中では分かりづらい部分もある機体戦闘というものを、生で感じ取って欲しい。まあ、実際にこっち側の機体と戦うなんて鹵獲機か模擬戦くらいだけどな」
 教師はそれだけ言うと、大きな口を開けて豪快に笑いながら施設隅に設置されたシミュレーターの中へと身体を納めた。 
 シミュレーターに電源が入り、同時にフッと目に光が灯りその身体を起動する小型LM-01。
 小さくなっても変わらないその存在感は、各フレームの稼働音を立てながらゆっくりと生徒たちの目の前へ歩き出した。
 不意に無線の入るようなノイズ音が響き、すぐに小型LM-01の外部スピーカーから教師の声が聞こえて来くる。

『では‥‥戦闘を開始する!』

●参加者一覧

翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
神宮寺 真理亜(gb1962
17歳・♀・DG
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
五條 朱鳥(gb2964
19歳・♀・DG
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

「次っ!」
 教官の鋭い声が、コンクリートに反響する。
「せっかくまともな授業が聞けると思いましたのに‥‥たまたま来た時の授業が模擬戦ですか‥‥」
 聳え立つミニサイズのスカイスクレイパーを見上げ、水無月 春奈(gb4000)は小さく溜息をついた。
 学園の授業カリキュラムはユニークの一言に尽きる。
『学生から聴講生まで』という幅広い門戸がそれを許しているのだろうが。
「それじゃ、僕と水無月さんは東から攻略、っと」
 翠の肥満(ga2348)はそう言いながら、今回自身が扱うM‐121ガトリング砲の最終調整を行っていた。
 彼と同じくM‐121ガトリング砲を使用する神宮寺 真理亜(gb1962)は、ふと顔を上げて攻撃対象であるスカイスクレイパーを眺める。
「毎日こんな授業ばっかなら、あたしも真面目に授業に出るんだけどねー」
「それはそれで困るかもしれないが‥‥」
 対KVという滅多に体験出来ない戦闘に、高揚した雰囲気を隠せない様子の五條 朱鳥(gb2964)の一言に、ポツリと答えるのも忘れずに。
「西は神宮寺さんと五條さんで決まり。僕と皇さんは北から攻めますね」
 ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)の言葉に、同じく北から戦闘を開始する皇 流叶(gb6275)は頷きながら、不意に隣で何やら武器以外の準備を行っている美環 響(gb2863)の手元を見て、一瞬顔を引き攣らせた。
「少し聞きたいんですが‥‥そのガラス瓶の中身は一体何ですか?」
 ちゃぷんと音を立てて揺らされたそれを顔の辺りまで持ち上げた美環は、得意のポーカーフェイスで微笑む。
「これですか? 大丈夫。戦闘に必要なモノですよ。素敵なイリュージョンを、観客に。と」
「南方面は、私と美環さんが。これで、包囲網は完全ですね」
 ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)が、四方コンクリートで囲まれたミニチュアスカイスクレイパーを観察しながら呟いた。
 8人で四方を前後まできっちりと組んだこの陣形で、果たしてミニチュアKVはどんな動きを見せるのだろうか。

「再度確認するぞ。君達の勝利条件は、このミニチュアスカイスクレイパーの撃破だ。行動不能状態にすれば君達の勝利。敗北条件は君達の全滅だ」
 遠隔操作されたスカイスクレイパーに取り付けられたスピーカーから、教官の声が聞こえてくる。
 その言葉に頷き、作戦通りに各自持ち場についた彼らを確認した教官が、吼えた。
「では、開始!!」

「スクラップにしてあげる‥‥」
 覚醒したロゼアの呟きをうけたその直後。
 教官の合図と共に四方から駆け出したのは前衛メンバーだ。
 南側が正面で立っていたスカイスクレイパーを操っていた教官が、近接メンバーへと対応しようとしたその瞬間。
 連続した発破音がKVの背後から叩き込まれた。
 即射を使用した翠の肥満が、ガトリング砲で弾幕を張り始めたのだ。
「自分で言うのもなんだけど、模擬戦なのにブッ放しすぎな気がするぜ、僕ちゃん」
 言いながらも、トリガーを引く事を止めない。
 実際のKV戦でも、弾幕は敵機の動きを抑制する有効な手段だ。
 放たれ続ける弾丸を払おうと、スカイスクレイパーが手を振り上げた時。
「つか」
「まえた!」
 西と東の前衛、五條と水無月がそれぞれブラッドクロスと天剣「ラジエル」を手に、間合いを詰めた。
 相手はミニチュアサイズとはいえ巨大なKV。
 メンバーからすれば、的は大きい上に、はっきりとした影が捕らえられる。
「横っ面が空いてる‥‥ぜっ!」
 勢いよく振りかぶられたブラッドクロスが、スカイスクレイパーの脚部間接部分へと叩きつけられる。
 鈍い金属音のその直後、反対側の脚部を捕らえた水無月が竜の爪で上乗せされた攻撃力を込めて、ラジエルを横に薙ぎ払った。
 再び響く金属音。
「ミニチュアとはいえ、流石はKV。装甲が硬いですね」
 完全なる破壊には至らない傷を見て、小さく呟く。
 咄嗟に間合いを取ろうと回避行動へと移ろうとするスカイスクレイパーを、北の前衛ヴァレスが見据える。
「逃がしはしない」
 五條と水無月が離れたのを確認し、入れ替わりにその懐へと駆け込んだ。
 体の回転を利用し、大鎌「紫苑」での流し斬りを試みる。
 他者の傷つけた箇所を的確に薙いで、反撃を受ける前に間合いを取り直す。
「本物は機動力が売りだったからな。先ずはそれを削ぐとしよう」
 弾幕が完全に晴れ切る前に、神宮寺がガトリング砲を構え直し再びの弾幕を展開する。
 動かれる前に動きを制限してしまえば、数の上ではこちらが有利なのだ。
「さぁ、いきますよ。ここからがイリュージョンの本番です」
 教官の操作するスカイスクレイパーが右往左往している隙をついた美環が、左右1本ずつ構えたイアリスを交差させる様に翻した。
 スキル全開で繰り出される斬撃に、流石のスカイスクレイパーも動きが鈍る。
 そこに、北の皇が装填された貫通弾を構え、立っていた。
 確かに教官は「本気でこい」と言ってはいたが。
 まさか本当に貫通弾まで持ち出すとは思っていなかったのだろう。
「これが‥‥当たれ!」」
 一言、皇はそう言い放つと、貫通弾をスカイスクレイパーのセンサー部目掛けて放ったのだった。

 一進一退。
 弾幕を張られれば教官はそれを振り払おうとする。
 長引けばそれだけ、能力者の体力も落ちてゆくが、それでも攻撃の手を休める事はない。
 それを利用して前衛メンバーは装甲の薄い部分を的確に削っていく。
 スカイスクレイパーのセンサー部は貫通弾によって破壊されていたが、ミニチュアKVの操縦士は外から遠隔操作で操っているのだ。
 完全に大破するまではおそらく、この戦いは続くのだ。

「水無月さん、弾幕で奴をそっちに追い込みます。準備を!」
 翠の肥満が機動力を削ぐ為に、再びガトリング砲を放つ。
 絶え間ない弾幕の隙を縫って、西方向でライフルを構えたロゼアが、小さく唇を湿らせている。
「破壊する‥‥」
 両手で構えたライフルは、強弾撃で威力を更にあげて。
 そのまま、翠の肥満が張る弾幕とぶつかる事もなく、見事隙間を狙い撃ち、間接部分に小さな隙間風を作る事に成功した。
 動きが鈍くなったスカイスクレイパーに、竜の翼を利用して接近した水無月は、高く飛び上がった。
「‥‥遅いですよ。全力の一撃、その身に刻みなさい」
 重力と振りかぶった武器の勢いも加えられ、水無月のラジエルは勢いよくコクピット周辺の装甲が薄い部分を切り裂いたのだった。

 遠隔操作を行っていた教官が、手元を動かす。
 それと同時に、8人が相手をしていたスカイスクレイパーは音を立てながらその形を変えていく。
「やっぱ、スカイスクレイパーといえば、この形体も味わってもらわなければな」
 ミニチュアスカイスクレイパー、車両形体へ変形完了だ。

「なるほどね。これだけ小さな的になれば、弾幕も味方の援護には向かなくなるかな」
 小さく呟いたヴァレスは、ふと一瞬視線を別の方向へと向けた。
 そこには、何かを武器の代わりに持って走り出した美環の姿。
「タイヤをパンクさせてしまえば、行動不能だろう」
「神宮寺さん、折角、一緒の獲物を持ってるんです。デュエットと行きましょうぜッ!」
 西と東。
 後衛の神宮寺と翠の肥満は頷きあうと、駆け込む美環の援護を行うべく、息を合わせてガトリング砲を放った。
 今度は弾幕ではなく、弱点を狙った精密な射撃。
 神宮寺はタイヤを狙い、翠の肥満は燃料タンク部を狙う。
 皇やロゼアもまた、それぞれ装甲の薄い部分を撃ち抜いていく。
 そこで、美環がスカイスクレイパーの側面へと肉薄した。
「さぁさ御覧あれ。世にも不思議なイリュージョン」
 手に持っていたのはレインボーローズ。武器ではない。
 遠隔操縦を行っていた教官も、何事かと一瞬気を取られた。
 手にしたそれを一振りすると、次に現れるのは何か液体の入ったガラス瓶だ。
 スカイスクレイパーの進行方向へとガラス瓶の中身を振り撒く。
「これは‥‥アルコール、か?」
「やっば! 全員離れろー!!」
 焦った様子の五條の言葉に、瞬時に気づいた前衛メンバーが全力で後方へと下がる。
「火力メンバーはありったけの弾丸打ち込んで、伏せるぞっ!」
 翠の肥満の一言に、銃を装備、携帯していたメンバーは離れた箇所からガンガンと銃弾を叩き込んでいく。
 やがて、彼らのやらんとしている事に気づいた教官が、真っ青になった。
 次の瞬間。
 燃料タンクに空けられた穴から漏れた液体と、美環の振り撒いたアルコール「スブロフ」へと、小さな火花が飛び。
 全員が離れた場所で地に伏した数秒後、コンクリートで囲まれた訓練場に、巨大な爆発音が響いたのだった。

「確かに本気を出せとは言ったが、爆破までする奴があるかー!」
 辛うじて形を保ってはいるものの、もうあのミニチュアスカイスクレイパーはジャンク。
 完全に動かせない。
「イヤだなー。あれくらい戦闘訓練ならありでしょセンセー♪」
「おつかれさまでした。意外と、やれるものなんですね」
 のらりくらりと交わす五條の後ろで、バハムートから出てきた水無月が全員を見回した後、残骸を見上げる。
「スカイスクレイパーの被害は構わん。だがな、この訓練場をどうする気だ!?」
「あ、やっぱり拙かったか‥‥」
 もう、次の訓練生達が使える様な状態ではない。
「お前達は『KV戦』合格! ただし、今からこのぶっ壊した訓練場の修復を行うように!!」
 目の前にずらりと並べられたシャベルやつるはしなどなど。
 それらを見て、8人は大きく肩を落としたのだった。

 訓練場の修復は、彼らの必死の作業が実り、その日のうちには完了した。
 そして後日、彼らの手元には受講完了の書類が送付されたのだった。

『対ミニチュアスカイスクレイパー模擬戦 判定:並』

 END

(代筆:風亜 智疾)