タイトル:L・Hでお留守番マスター:浅葱 翔

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/29 01:24

●オープニング本文


●夏綺の葛藤
「何故、春香を1人にしたんだ?」

 自分に向けられる厳しい声
 それは、俺が一番頼りにしてて

「何故だと聞いているんだが?」

 いま一番心配してる

「答えられないのか?」

 冬護兄ちゃんの声だ

「兄ちゃんと姉ちゃんばっかり、危ない目にあわせる訳にいかないだろっ!」

 稼ぎ出さなきゃいけないのは生活費だけじゃない
 父さんと母さんの入院費だってある
 正確な額は教えてくれないけど、大変な額なんだなって事は俺にだって分かる
 それを兄ちゃんは最初独りで賄おうとして‥‥

「危険な依頼ばっか行ってんの、知ってんだからなっ!!」

 いっつも傷だらけになって帰ってきて‥‥
 傷が治りきらないうちにまた出掛けて、ぼろぼろになって‥‥
 今にも倒れそうなのに眼だけは鋭くて‥‥
 姉ちゃんが一緒に依頼に行くようになって、ちょっとは楽になったみたいだけど‥‥

「‥‥金の事は心配するな」

 んな暗い顔で言ったって、納得出来ねえよ!
 俺が依頼をもっと請けるようになれば、兄ちゃんも姉ちゃんも楽できるじゃん!

「気持ちは嬉しいけれど、だからって春香ちゃんを独りにした事に賛成はできないわ」

 ‥‥! だけどっ!

「春香ちゃんがお世話になった能力者さんにも言われたでしょう?」

 そう‥‥だけど‥‥‥

「今の状況でも心苦しいのに、夏綺くんまでラスト・ホープを離れるようになったら‥‥」

 だけど‥‥だけどさぁ‥‥‥

 ‥‥俺、空回ってるのかなぁ
 兄ちゃんと姉ちゃんの役に立ってねえのかな‥‥

●愚痴時々道化、後閃き
 翌昼。ラスト・ホープの広場にて。夏綺は昨晩行われた倉田家の家族会議について友人2人に愚痴を洩らしていた。
「でもさ、ナッキーにラスホプに居ろってのも、何を今更って話じゃね?」
 年頃は夏綺と同じぐらいの、赤毛で表情がくるくると良く動く少年がおどけた様子で夏綺に同意を求める。だが、当の夏綺は今一分かっていないようでぽかんとした表情だ。
「何、変な顔してんの? 依頼ちょこちょこ請けてんならラスホプにいる方が少なくね? って話なんだけど」
 赤毛の説明にはっとした表情の夏綺。そんな彼にもう1人の友人――彼ら2人よりやや年嵩で、糸の様に細い目をした青年――が当然の疑問を口にした。
「‥‥普段どんな依頼を請けてるんだ?」
 その問いに沈黙で答える夏綺。
「‥‥どしたの? ナッキー」
 変わらない、いや先程よりやや重い沈黙。
 灰色の気配を纏う夏綺に怯む赤毛、訊いてしまった手前引くに引けない糸目。
 そんな2人に、夏綺は徐に口を開き始めた。
「‥‥‥‥猫の救出とか‥‥婆ちゃんの代わりに買出しとか‥‥‥‥」

 ―――能力者。
 エミタを身体に埋め込む事で、生身でバグアと戦う術を手に入れた者達。
 多くの人にとって彼らは羨望と尊敬の対象‥‥ではあるのだが、何でも屋ぐらいに思っている者がいるのもまた事実だ。その証拠に、これは能力者でなくとも解決できるだろうという依頼が幾つもUPCへと寄せられている。
 だが、まさかそんな依頼を請けている者が自分達の間近にいるとは夢にも思っていなかった2人は。

 笑う寸前だ。

 普段あまり感情を顕わにしない糸目は無表情‥‥であるようで口の端が少し吊り上っている程度なのだが、赤毛は既に半笑いの泣き笑い状態だ。笑っちゃいけない、笑っちゃいけないと自分に言い聞かせているが、肩が小刻みに震えている。限界はそう遠くない。
「仕方ないだろ、妹を独りで放っとく訳にいかないんだから! ラスホプで何とか出来る依頼しか俺は選んでなかったの!」
 そんな2人の様子に声を荒立てる夏綺。
「だけど、今回の依頼は報酬が破格なんだよ! 俺は行きたいの! どうしても行きたいの!!」
 手を上下に大きく振ってそう力説する様はまるで駄々っ子だ。そんな甚くご立腹である夏綺を見て、
「ほらほら、落ち着けって。人の役に立つってのが大事な訳で‥‥」
 と真面目ぶった調子でフォローする赤毛だったが、
「そうだ。猫も感謝してるぞ」
 至って悪気のない糸目の一言に耐え切れず、噴出。思わず、
「婆ちゃんもな」
 と付け加えてしまった為、それを聞いた糸目が堰を切ったように笑い始めた。
「もういい! お前ら、絶対口利いてやんないからなっ!」
 恥ずかしさのあまりに耳まで赤くなっている夏綺に、
「悪かったよ。そんなにムクれんなって」
 先陣切って笑い出した事を棚に上げて謝る赤毛。
「依頼に出したらどうだ? どこかの物好きが助けてくれるかもしれん」
 とほぼ他人に丸投げの解決方法を提示する糸目。
 その言葉に夏綺の耳がピクリと動いた。
「‥‥それ良い! マジ良い! おっし、今から俺本部行ってくるわ!!」

●参加者一覧

メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN

●リプレイ本文

●朝/朝から元気
「良くある事だから気にしなくていいよ」
 鏑木 硯(ga0280)はそう言って、謝る春香の頭を優しく撫でた。
 遡る事数分前。硯を女性だと勘違いした春香が『おねーちゃん』と呼掛けた事に始まるのだが、
「はるかね、金城 エンタ(ga4154)おにーちゃんもさいしょ、おねーちゃんだとおもってたの」
 その衝撃の一言にエンタは少々困惑気味。だが、その表情とは裏腹に身に付けてきていた軍服(女性用)が恐ろしいほど良く似合っている。
 どうやら春香を驚かせる為に、別の依頼で着用した映画衣装を着てきたらしい。
「何も知らないで出会ってたら、俺も金城さんの事勘違いしてたかも」
 以前同じ依頼を請けた諫早 清見(ga4915)が笑いかけた。
 そんな彼らの様子を微笑ましげに見つめていたリン=アスターナ(ga4615)は、
「春香の事は心配しないで」
 出立の準備を終えた夏綺を元気付けるように声を掛けた。
「色々あると思うけど、夏綺君は私達の言葉を考えた上で決めたのでしょう?」
 智久 百合歌(ga4980)も言葉を続ける。
「安心して頑張って来てね。貴方の無事が何よりのお土産だから」
 メアリー・エッセンバル(ga0194)がそう言うと、リンも同意するように頷いた。
 彼女達の言葉に夏綺は深々と頭を下げる。
「兄ちゃん、仕事行ってくるからな」
 春香に声を掛ける夏綺だったが、当の春香はエンタの撮影秘話に聞き入っていて反応する気配すらなかった。
「無視かよ!」
 そんな夏綺の様子に女性陣3人は笑いを堪えていた。

「じゃあ、まずはお弁当を作りましょうか」
 リン、硯、百合歌の3人が早速料理へと取り掛かった。
「ジャムはパンから溢れな‥‥」
 ウィンナーに切れ込みを入れながら百合歌が言いかけた傍で、既にパンをジャムで挟んだのかと疑いたくなるようなサンドウィッチが出来上がっていた。
 サンドウィッチの数自体は数個程度なのに、既にジャムの瓶は使い終えられようとしている。
 唐揚げの準備からふと視線を移したリンが咥えていた煙草をぽとりと落としかけた。
「‥‥じゃ、じゃあこれデコレーションしてくれる?」
 このまま任せておいては危険と判断した百合歌は、持参していたカップケーキと白/黒/桃色の三色チョコペンを渡した。
 桃色のペンが気に入ったのか春香は嬉々とした表情でその作業に興じていたが、林檎に兎の細工していた硯が好奇心から覗いてみても、余りの独創性に何が描かれているのか全く分からなかった。

 そんな試行錯誤のお弁当作りを終えた春香に、清見は自身の財布からお小遣いを渡した。
 以前、仕方がなかった‥‥かどうかは不明だが、夏綺の研究所補助アイテムを売り払った春香にお金の大切さを分かってもらおうというメアリーの案だ。
「はい、お弁当作りを頑張った春香ちゃんの分」
 そう言って春香の手に清見はクレジットを優しく握らせる。
「夏綺お兄ちゃんもこうやってお仕事頑張って色々な物を買ったりしてるんだよ?」

●午前/大冒険
 清見の発案で展望台へと来た一向。
 外に出掛ける事が嬉しいのか、能力者達と出掛ける事が嬉しいのか、
「みてみて〜、きよみおにーちゃん。がっこーだよー!」
 春香は力いっぱいはしゃいでいた。
「はるかね、らいねんあそこにいくのー♪」
 と嬉しげに語る春香に、普段笑みを浮かべぬリンもつられて笑顔になっている。
「‥‥おっと! ほらほら、はぐれちゃうよ」
 あらぬ方向に行きかけた春香に声を掛け、手を差し出す清見に
「えぇ〜? はるか、ひとりでもへーきだよ?」
 そう唇を尖らせはするものの、嬉しそうな様子は全く隠せておらず、春香は素直に手を握り返してくる。
 そんな春香に清見は笑顔を向けながらも、
(「春香ちゃんの『ひとりでへーき』を聞くと何だか切なくなるなぁ」)
 と心を痛めていた。

「春香ちゃんはどんな動物が好きなの?」
 展望台から植物園へと移動する途中、硯が春香へと声を掛けた。
「う〜んとね‥‥おうまさん!」
 そっかぁ、お馬さんなんだ〜、どうして? と続けて問いかけた硯に、
「だってね、おおきくなるとそらとべるんだよ?」
 と、何処から仕入れたのか分からない怪しげな知識を嬉しげに春香は語り出す。
(「何、その進化!?」)
 驚き戸惑う硯。
「じゃあ、すずりおにーちゃんは、なにがすきなの?」
 シャ、シャチだよとうっすら動揺が現れた答えを返した硯だったが、それを聞いてう〜んと唸る春香。
 どうやらシャチがどういう物か思い出せないらしい。
 そんな春香にどうやって説明しようかな‥‥と考えていた硯だったが、
「わかった! イルカさんのおにーさんでしょ!?」
 と適当な答えを繰り出す春香。
(「イルカの兄!?」)
「でね! クジラさんがおとーさんなの!」
(「ク、クジラが父親!?」)
 倉田家を出て数時間たった現在でも尚、硯は春香に翻弄されるままであった。

 植物園へと到着した一行は、元庭師であるメアリーの解説を聞きながら園内に植えられている植物を見て回っていた。
 寄せ植えを作ろうと考えていたメアリーはその一角にある苗の販売店コーナーへと足を止める。
「春香ちゃん、好きなお花の苗を選んでみようか?」
 てっきり花の苗を選ぶと思っていたメアリー。
 しかし、はるか、あれがいい! と明後日の方向を指差した、その先には。
 艶やかな梅の花が咲き誇っていた。
(「ホント綺麗ねぇ‥‥」)
 その余りに見事な鮮やかさに思わず見惚れてしまったメアリーであった。

「折角だから、そこで食べましょうか」
 くすくすと笑うリンの一声で、昼食タイムとなった一向。
 エンタが持ってきていたレジャーシートを広げ、梅の木の根元に皆で腰を下ろす。
「お花も綺麗だし‥‥春香ちゃんのジャムサンドも美味しいわ」
 そう言って笑いかける百合歌。
 そんな、一見和やかで楽しげな昼食風景ではあったのだが。
 リンと硯を除いた4人は、春香の作ったおむすびが出てくるのではないかと終始冷や冷やしていた。

●午後/予想斜め上
 ショッピングモールへと着いた一行。
 メアリーが寄せ植えの材料を買いに園芸店へ、リンと百合歌は夕食の買出しに清見を連れて食料品売り場へと移動し、エンタと硯は春香を連れて屋上へといく事にした。

「あっ! パンダですねぇ‥‥の、乗りたいなぁ‥‥一緒に乗りません?」
 パンダの乗り物を見かけ、エンタは春香に声を掛けた。
 その問いに嬉しそうに頷いた春香は硯の腕も一緒に引っ張る。
「お、俺も!?」

 ――2分後。
 巨大なパンダの乗り物に大はしゃぎで跨るエンタ・春香と、恥ずかしそうに座った硯の姿がそこにはあった。

 少し恥ずかしかったかな〜と素直な感想をもらす硯と、良い経験ですってと上機嫌なエンタ。
 特に目的もなくぶらぶらと歩いていた3人は、ゲームセンターへと辿り着いた。
(「よし、春香ちゃんに良いところ見せるぞ〜」)
 意気込むエンタ。どのぬいぐるみが欲しい? と春香に問い掛けると、彼女が指差したのは、
(「あ、あれ!?」)
 巨大な犬のぬいぐるみだった。
 対応したカードを吊り上げれば受付で商品と交換できるゲームの様だが、持ち運ぶのに邪魔ではないだろうか。
 暫し思案したエンタだったが、
(「折角、春香ちゃんが欲しがってるんだし」)
 と、そのぬいぐるみを手に入れる事に決めた。
 横や奥行きを何度も計算し、エンタはボタンを操作する。
 その甲斐あってゆっくりと降りるクレーンが、一発で目当てのカードを吊り上げた。
「と、取れましたぁっ!」
 思わずガッツポーズをするエンタだったが。
 まさか。この行為が後にとんでもない影響を春香に及ぼす事になるとは。
 その時の彼は知る由もなかった。

 合流した後に、硯の提案で小物屋へと足を運んだ一行。
 万華鏡に魅せられた春香が、
「どうやってこのなかにおほしさまをいれたの?」
 と難解な質問を硯にぶつけ、彼を困らせていた。
 まさか、この事も後の春香に影響するとは。
 その時の硯を含め、能力者達を知る由もなかった。

 遊技場の前を通りかかった一行。
「あ〜、おほしさまのおみせだー♪」
 そこで春香は繋いでいたエンタの手を振り切って走り出した。
 どうやら、キラキラと光る外観に何か勘違いしたらしい
 慌てて彼女を追いかける様にしてエンタが後を追う。
 建物に入る前に追いついたが、春香に何事か説得され遊技場へと消えていくのが能力者達の目に入った。

 ――8分後
 一向に出てくる気配がない。
「ちょっと見てきますね」
 遊技場へと消えていった硯。

 ――10分後。
 意気揚々と歩く春香、その後ろからは大量の犬のぬいぐるみを抱えたエンタと硯が現れた。
「これでみんなとおそろいなの〜♪」
 満面の笑みを浮かべる春香。それとは対照的に恐れ戦いた様な表情を浮かべるエンタと硯。
「何があったんです?」
 清見は2人にそう問いかけるが、
「「あの勝ち方は、あの勝ち方は尋常じゃない‥‥」」
 と、どちらもぶつぶつ繰り返すのみだった。

●夕方/人参大作戦
「さあ、料理に取り掛かりましょう♪」
 そう言って百合歌が人参を細かく刻みだすと、リンは器用に星型や花型へとくり貫く。
 どちらも人参の嫌いな春香が少しでも食べられるようにと工夫を凝らしていた。
 一方、バケットにパンを入れ終えたエンタが玉葱をスライスする脇では、硯が辛味を抜く為の水を張ったボウルを用意していた。
 こちらの2人はサラダを作っているようだ
「料理、いろいろ楽しみだな♪」
 と心躍らせる清見だったが、自身の雑な性格を懸念してかメアリーは
「じゃ、じゃあ、今の時間で寄せ植え作っちゃおうか!」
 と少し慌てた様子で春香に声を掛けた。じゃあ俺も、と清見がそれに続く。

 流石に元庭師。メアリーは慣れた手付きであっという間に花を植え終わった。
(「バーベナにブルーデイジーにゼラニュウム‥‥。私の思いをこの子達が伝えてくれると良いなぁ」)
 そう感慨深げにメアリーは花達を見つめる。
 と、どこからか春香が鉢植えを持ってきた。
 そこに飾られた黄色い花に見覚えがある2人。
 それは以前、春香と一緒にいった花畑の花だった。
 共に依頼を請けた能力者の一人が持ち帰り、メアリーも鉢植えとしてプレゼントされているその花。
「これをいっしょにうえたいの!」
 そう言って差し出す春香に、改めてあの花畑の事が心に残っているんだと実感した2人であった。

「出来たわよ〜♪」
 歌うような百合歌の声に、春香はわ〜いと歓声を上げた。
 清見とメアリーの2人がダイニングテーブルへと目を向けると、そこにはエンタ・硯の作ったオニオンサラダが綺麗にサラダボウルへと盛られ、百合歌・リンの作ったスパニッシュオムレツにホワイトシチューが美味しそうな香りを漂わせていた。
「たべよー♪ はやくたべよー♪」
 ガヤガヤと楽しげに席へとつく春香と能力者達。
 いただきまーすと声を合わせると、楽しい夕食の時間が始まった。
(「このシチュー、身体に沁みる〜」)
 メアリーが賞賛の眼差しを送れば、
「このチーズってのがまた最高だよね!」
 清見も感嘆の声を上げる。
 そんな能力者達とは裏腹に、春香は真剣な眼差しでオムレツと格闘中だ。
 何しろ、中に玉葱、茸、トマト、チーズの他に、春香の嫌いな人参が入っている。
 しかも、細切れ状態だ。簡単には逃げられない。
 食べてみると意気込んだものの、中々手は伸びない。
 その様子をリンと百合歌は固唾を飲んで見守っている。
 意を決して春香がオムレツへと手を伸ばした。
 スプーンで恐る恐る口へと運び、モグモグと上下に動かしてごくりと飲み込んだ。
「‥‥うん。おいしい! すっごくおいしいよー!」
 目を輝かせる春香。そんな春香に、
「やった。やったわ〜♪」
「すごいじゃないか、春香!」
 百合歌とリンは歓声を上げて、春香をしっかりと抱きしめたのだった。

●夜/今夜は眠れない
 夏綺の帰りが明日になるとの連絡を受けた能力者達は折角なので倉田邸へと泊まる事にした。
 布団を敷くスペース自体はあったのだが、流石に7人で雑魚寝はちょっと‥‥と男性陣が猛反対し、男性陣は冬護と夏綺の部屋、女性陣は秋葉と春香の部屋を使う事となった。

「さて、布団も敷いたし鍵を掛けて‥‥ってない!?」
 思わずノリ突っ込みをしてしまう硯。
 慌てて事の詳細を報告しに行ったのだが、その事実を女性陣は誰も気にしていなかった。
 男性陣が繊細なのか、女性陣が豪胆なのか。
 その是非はともかく『気にならない』と言われれば、まあ気にしなければ良いだけの話だ。
 男性陣は何か釈然としないものを抱えながら部屋へと引き返したのであった。

 途中にさらりと寄った図書館で、春香が借りた本で読み聞かせをしようとしたメアリーだったが。
 そこには‥‥文字がなかった。
(「春香ちゃん、これ塗り絵‥‥」)
 読むところのない本を読まなければいけない境地に立たされたメアリーは、
「昔々、あるところに‥‥」
 と即興で話を作り始めたのだが‥‥。

 ――30秒後。
「リンさん、百合歌さん‥‥続きは‥‥‥」
 お爺さんとお婆さんが何かしようとしたところでメアリーは颯爽と眠りの世界へと誘われていった。
 続きを読もうとリンはメアリーの手から本を抜き取り、その中身を見て、無言で閉じる。
「‥‥そうそう、話していた熊と子猫のぬいぐるみ。持ってきているのよ」
 気を取り直したリンがそう言って子猫のぬいぐるみを取り出した。
「コンバンハ、ハルカチャン!」
 声音を変えて春香に呼びかけるリン。
「わ〜、かわいい〜♪ こんばんはー」
 と可愛くお辞儀をする春香。
「気に入ってくれたなら貰ってくれていいのよ?」
 その言葉に春香は少し考え込んだが、
「ううん、あいたいときはリンおねーちゃんのところにいくからだいじょーぶ♪」
 と答える。その言葉にリンはええ、待ってるわと春香の頭を優しく撫でた。

「そうだ。春香ちゃんに大事なお知らせがあるの」
 百合歌の言葉に、なになに〜? と好奇心いっぱいの春香。その耳に百合歌は顔を寄せた。
「(私ね、6月にお嫁さんになるの)」
 囁かれた言葉に、
「ええっ!? ゆりかおねーちゃん、およめさんになるのー!?」
 それはそれは大きな声で驚く春香。その声の大きさに百合歌は思わず苦笑してしまう。
「驚いたわ‥‥。おめでとう、百合歌」
 祝辞を述べるリンに百合歌は満面の笑みを浮かべて応える一方。
「(う、う〜ん)」
 メアリーは夢の中でも春香に話す物語で苦しんでいた。

 ――その頃、男性陣は。
(「寝惚けない様にしなきゃ‥‥寝惚けない様にしなきゃ‥‥」)
 3人が3人共、心の中で呪文の様に呟いていた。

●翌朝/想定通り?
 寝惚けた清見が一見女性に見えるエンタと硯を前に女性部屋に入ったのだと勘違いして土下座をした。