タイトル:お花畑に連れてってマスター:浅葱 翔

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/29 00:19

●オープニング本文


 お花畑に行きたいなあ。

 お兄ちゃんやお姉ちゃんが言ってたお花畑。

 家族で行ったのに、私だけ覚えてないんだもん。

 ‥‥行きたいなあ。

 お父さんもお母さんもなかなか帰ってこないし。
 お兄ちゃん達は連れてってくれなさそうだし。

 私だけ覚えてないなんて嫌なんだもん。

 ‥‥‥能力者さんにお願いしたら連れてってくれるかな。

 ‥‥‥‥行きたいなあ、お花畑。

 ‥‥‥‥‥行きたいなあ。

 UPC本部。
 職員・能力者・一般人‥‥様々な人間が慌しく行き交う喧騒の中、
「ねぇ‥‥」
 書類に目を通していたUPC職員が傍にいた別の職員に声を掛けていた。
「何?」
「これ‥‥なんて読むのかしら?」
 声を掛けられた職員が訝しげに書類を覗き込む。すると、最初に書かれた文章が目に入った。

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 おはTょは〃T=けレ二⊃れて⊃てしT=〃さレヽ
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 読めなかった。
 そもそも、これは文字なのだろうか。
 それとも暗号で書かれた極秘依頼なのだろうか。
 読んだ‥‥ではなく見た時点で声を掛けられた職員は、この依頼書に関わらない事を強く心に誓った。下手に関わると残業が待っている、そんな予感がする。

「‥これ、私達が解読するの?」
 ぼそっと呟かれる不穏な一言に、嫌な予感が的中した職員は瞬時に色めき立った。
「何よ、私『達』って! 1人でやりなさいよ」
 その無情な一言に、今度は依頼書を手に持った職員の顔が引き攣る。
「ちょっと、友達でしょ〜!? 親友でしょ〜!!??」
「何言ってるのよ!? 私も仕事があっ‥‥ち、ちょっと手離しなさいよ!」
 文章か暗号かも判別付かないような依頼書を1人で担当したくないあまり、キメラも脅えて逃げ出すような必死の形相で取り縋る職員と、自分の仕事に戻ろうとする‥‥ようで実は厄介な仕事に巻き込まれないように一刻も早くこの場から去りたいだけの職員の、熾烈で苛烈な攻防戦が今ここに派手に幕を明けたのだった。だが、それはまた別の話‥‥。

●参加者一覧

メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
角田 彩弥子(ga1774
27歳・♀・FT
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN

●リプレイ本文

●下調べ
 メアリー・エッセンバル(ga0194)、角田 彩弥子(ga1774)、シエラ(ga3258)、智久 百合歌(ga4980)は情報を求めにUPC本部へとやって来ていた。
 百合歌が現地に出没したキメラの情報を問うと、過去半年間における出現状況が書かれた物を職員に手渡された。半年に21件、キメラの種類も対処のされ方も様々だ。駆逐された物もいれば退治された物もいる。
「判断に苦しむわね‥‥」
 そう呟いた百合歌は書類を彩弥子に差し出した。中身を見た彼女も低く唸る。
「戦闘の可能性は否定できない‥‥か。出発前にそこんところも含めて親と方付けて置きたいんだが、連絡取れねえか?」
 通信機器の貸出処理を行いながら職員はその問いに首を振った。
「こちらも何度か問い合わせてみたのですがどちらもお出にならなくて‥‥」
 それを聞いた一同は溜め息を吐いた。
「どちらも‥‥ですか‥‥」
 ただ花畑を見たいが為に5歳の女の子がUPCに依頼をするとは考えられない、何か事情があるのだろうと考えていたシエラは特に残念そうに呟く。
「ええ、ご兄弟にも連絡はしてみたのですが‥‥」
 と職員は別の書類を彼女の前に提示する。気配で察知し受け取りはしたものの、戸惑うシエラ。
「あっ、私が読むわ」
 メアリーがさらりと横から受け取り、中身を読み上げる。『冬護:20歳』『秋葉:18歳』『夏綺:12歳』の3人の名前と‥‥
「依頼を遂行中‥‥? 彼らは能力者なの?」
 百合歌の素朴な疑問を呈する。
「ええ。依頼書にある連絡先と彼らのが同一でしたので間違いないと思います」
 職員が別の書類―該当都市の気候条件と花畑までの経路が書かれた物―を手渡しながら答えた。
 5歳の子を1人残しておくとは随分無責任な話だが、事前に保護者に話を通しておく事は出来なさそうだ。
「上のお2人はまだ分かりませんが、夏綺くんの請けている依頼が解決しそうだと関連支所から連絡を受けています。終わり次第こちらに連絡するよう、先方にはお伝えしておきますので」

●護衛組 ―ワイワイガヤガヤ―
 春香の部屋を訪れたメアリー、彩弥子、シエラ、百合歌の4人は自己紹介を終え、春香と話をしていた。
「春香さん‥‥私達が責任持ってお花畑にまで連れていきますから‥‥。もう少し待っていて下さいね‥‥」
 シエラの言葉に春香は嬉しそうに頷く。
「そうそう、お弁当を作ろうと思っていたんだけど、ここで作っても良いかしら? 出発まで少し時間もあるし」
「うん! はるかもてつだう!!」
 百合歌の言葉に嬉しそうに賛同する春香。
「奇遇だな。俺様も弁当を作ろうかと考えていたんだ」
 同じ事を考えていた彩弥子は百合歌と一緒に買い物へ出かける。部屋の中はメアリー、シエラそして春香の3人となった。
 メアリーはお花畑に着くまで色々なお花の話をしてあげる、そうだ、春になったら私の庭に来ない? と元庭師である知識と経歴を活かして、春香と花の話で盛り上がっていた。
 一方、シエラはと言えば今日の段取りを反芻していた。
(「この後、高速移動艇に乗って移‥‥高速移動艇?」)
 そこで思考が止まる。
「メアリーさん」
「どうしたの?」
 シエラの呼びかけに、メアリーはそのまま身体だけを彼女に向ける。
「高速移動艇の料金は春香さんが払われるのでは?」
「‥‥‥!?」
 全く想定外の問題だった。
 能力者達は依頼に関する移動であればフリーパス。
 それが当たり前で一般人に料金が掛かる事など全く予想もしていなかったのだ。勿論、それは5歳児が簡単に払えるような金額ではない。
 重苦しい沈黙に包まれそうになる中、当の本人である春香は胸を叩いてこう言った。
「へーきだよ! なつきおにーちゃんのキラキラうったから」
(「「キラキラを売った!?」」)
 料金はそれで解決する‥‥のかもしれないが、それ以上にとんでもない一言を聞いた気がする2人。
 だが。
 敢えて聞かなかった事にした。
 というか。
 既に売られているからどうしようもなかった。

 買い物を終えた彩弥子と百合歌が戻り、早速料理へと取り掛かる。
 お互い慣れた手つきで料理―サンドウィッチ、甘口卵焼き‥‥―次々と作り上げていく。
「火を使わせる訳にはいかないから‥‥春香ちゃん、おむすびを作って貰える?」
「はーい!」
 ウィンナーに器用に切れ込みを入れてタコの形を作っていた百合歌の言葉に元気良く返事をした春香‥‥だったのだが、
「はるか、あまいのだいすきだから。のーりょくしゃさんにもたべてもらおうとおもって!」
 砂糖を大量に塗したおむすび‥‥というよりもソフトボール大のご飯の塊を嬉々として作っていく。
(「甘い物=自分が好き=みんな好き‥‥ね。うふっ、大変だわ」)
 と、本来その恐ろしい行為を止めるべきなのだが春香の楽しそうな姿を見て口に出さない事に決めた百合歌。どうやら、彩弥子もその心積もりのようだ。後に先行組が被害に合わない様、率先して彼女達が食べる事になった。
「のーりょくしゃさんたちがいるからきょうはすごくたのしい! はるか、ひとりがおおいから」
 少し寂しそうに呟く春香に、彩弥子は料理の手を休め腰を屈める。
「春香ちゃん、あんまり家にいないお父さんやお母さんは嫌いかな?」
 春香と目線を合わせ、そう訊ねた。彼女にとってこれは重大な問い掛けだった。自分にも春香と同い年の息子がいる。寂しい思いを強いているだろう事は彩弥子も充分過ぎる程分かってはいるが、春香にそうだと言われたならば、それは彼女の憶測という次元から確信へと近づく。彩弥子にとってそれはあまり好ましいものではない。だが、
「どーして?」
 小首を傾げて春香は答えた。
「どこにいてもはるかのおとーさんはおとーさんで、おかーさんはおかーさんだよ?」
 得られた答えは彩弥子の問いに真正面から応じたものではなかったが、
「そ、そうか。ありがとう、春香ちゃん」
 自身の子供に不憫な思いをさせているのではと感じていた彩弥子に、その言葉は少なからず心の癒しとなっていた。

●先行組 ―異変―
 先に現地入りを済ませて周辺調査と花畑までの安全確保に当たっていた御影・朔夜(ga0240)、金城 エンタ(ga4154)、ファルル・キーリア(ga4815)、諫早 清見(ga4915)の4人は、何事もなく花畑まで着こうとしていた。
「じゃあ、私はそろそろ他の皆に連絡しておくね」
 そう言って通信機を取り出し、周辺状況の説明や合流の算段に入るファルル。
 もう視線の先には一面に広がる花畑が見えていた。歩を進める毎に黄金の波が近づいてくる。
 しかし、何かが違った。その長閑な風景に潜む、一雫の毒、邪悪な意識。
「皆さん、気をつけて下さい」
「キメラの気配がします!」
 それに気付いたエンタと清見が注意を喚起する。どちらも花畑の方向を向いて油断なく武器を構えた。
「(ちょ、ちょっとどうしたの?)」
 不穏な気配を感じて慌てる通信機からの声に、ファルルは簡単な暇を告げ長弓に矢を番える。能力者達の闘気を感じて、
「‥‥まさか」
 今まで可憐に咲き誇っていた花畑の、
「‥‥バグアの奴等」
 その一部で緑の何かがざわりと動き、
「‥‥‥花を!!」
 四人に襲い掛かった。
 横滑りに左右に別れそれを避ける4人。先程まで自分達がいた所に幾重にもお互いが巻き付いて太くなった蔦が地面にめり込んでいた。
「まさか、この花畑全部!?」
 エンタがそこにスコーピオン弾を放つ。ブチッと耳障りな音がして辺りに植物組織の破片が飛散した。傷口から青緑色の体液を滴らせながら蔦はずるずると花畑の中に姿を消してゆく。
「殺気を感じるのは一部だが‥‥」
 朔夜は本体があるらしき場所に銃口は向けるもののそのままの姿勢で動かない。
「ここから攻撃したら他の花に‥‥!」
 ファルルも矢を番えたまま身動きが取れない。
 そこで動いたのは、
「おーい、キメラ! こっちこっち!」
 清見だった。花畑の方向に向かって挑発するかのように大声を発する。それに呼応して花畑がザワザワと動き出した。
「諫早さん、何を‥‥「俺が囮になります!」」
 エンタの問いに畳み掛ける様に返す清見。
「危険です、下が‥‥「百も承知です! 皆さんは蔦を辿って本体を叩いて下さい!」
 緑の鞭が清見へと迫る。と、ざわりと音がして清見の体表が青緑灰色の被毛に覆われ同時に柔らかに揺れていたそれらが瞬時に硬化する。殺到する蔦は表面で弾かれ、波打ち、それでも喰らいつく様に腕や脚に巻きつく。
「諫早さん!」
「大丈夫っ! 今のうちに早くっ!!」
 最初の打撃こそ大したダメージはなかったものの、ギリギリと締め上げるそれを地味ながらも体力を奪ってゆく。長引けば不利だ。
 3人はそれぞれ花畑の中を駆けた。正常な花に出来るだけ傷を与えないように、それでいて出来るだけ早く。
「己が不運を呪え」
 ハンドガンから白雪へと持ち替えた朔夜が一薙ぎにすれば、
「消えてっ!」
 アーミーナイフを持ったファルルが重い一撃を叩き込む。
「夢を‥‥壊さないで下さい!」
 重ねてエンタが攻撃を加えると、耐え切れなくなったのか清見を締め上げていた蔦が力なく垂れ下がった。

 その後、ファルルが持って来ていたスコップで植物型キメラの根まで丹念に掘り出し、文字通り木っ端微塵になるまで皆で武器を奮った。
「これで充分かしら」
 花畑から出たファルルが呟くと、
「‥‥殺気は消えたな」
 背後に耳を澄ませる朔夜が答える。
「確かめます?」
 悪戯っぽく笑いかけるエンタに、
「2回目は御免被りたいなぁ」
 と清見は苦笑いを浮かべた。
 キメラの気配がしないからこその冗談であった。

●倉田家の事情
 帰りは何事もなく花畑から帰る事が出来、それで依頼は終了したものの、春香が必死に引き止める為、各自思い思いの事をして過ごしていた。そこに、
「春香!」
 破るような勢いで扉が開けられた。
 そこには春香と良く似た顔立ちの10代前半の男の子が息を切らせて立っていた。
「なつきおにーちゃん。おかえりー」
 呑気に出迎える春香。能力者達の視線が夏綺に向けられる。2つほど他の能力者とは違った意味が込められている視線もあったが。
「春香ちゃん、暫くこれで遊んでてくれる?」
 柔らかな笑顔と共に、ファルルが持っていた猫のぬいぐるみを差し出した。
「わーい。いーの? ファルルおねえちゃん、ありがとー!」

「春香ちゃんは1人で家に居る事が多いと聞いたけど、ご両親は何をしていらっしゃるの?」
 春香のいる部屋から移動し、そう問いかける百合歌。声の調子こそ優しいものの、どこか相手を責める響きがあるのは隠し切れなかった。他の能力者も大小こそあれ、似たような感情を抱えている。
「僕達の親は‥‥病院にいます」
 仕事だというのは全くの嘘だった。
 真相はこうだ。倉田一家が住んでいた街がキメラに襲われた際、逃げ遅れた母親を父親が庇って2人とも襲われ、命こそ助かったものの未だに意識が戻らないというのだ。しかも、春香自身はその事を知らない。事前にラスト・ホープに住む長男の許へ身を寄せていた為、既に自分の住んでいた街が壊滅的な打撃を受けた事さえも。
「春香には言ってないんです。‥‥それにまだ死! ‥‥んだ訳じゃないですし‥‥‥」
 声が大きくなりかけたのを慌てて抑える夏綺。その沈痛な面持ちにかける言葉を探す能力者達。
 最初に進み出たのはシエラだった。」
「春香さんの依頼は‥‥『家族で行ったお花畑』に連れて行く事‥‥」
 淀みない調子で言葉が続けられる。
「こんな時世だからこそ少しでも思い出を‥‥。両親を失くした私には‥‥もう思い出を作る事さえ許されないのですから‥‥‥」
 自身の感情こそ篭っていないものの、その台詞には春香を思いやる気持ちに溢れていた。
「‥‥すみません、事情も知らないのに軽はずみな事を言って‥‥。これからは出来るだけ家にいるようにします」
 そう謝罪をする夏綺にシエラは慣れぬ笑顔を浮かべたのであった。

「皆さんにはただ働きをさせました。報酬は僕が出しますので‥‥」
 そう言って恐縮するように身を縮めた夏綺だが、その言葉にメアリーは何かを言いたげにシエラの方を見た。事情を知らない者達と夏綺はそんな彼女達を見つめ不思議そうに首を傾げた。
「言いにくいんだけど‥‥『キラキラ』って言葉に心当たりない?」
 最初に口火を切ったのはメアリーだ。続けてシエラも口を添える。
「夏綺お兄ちゃんの『キラキラ』を売った‥‥。そう春香さんから伺いました‥‥」
 彼女達の言葉に夏綺は考え込むように額に手を当てた。
(キラキラ‥‥‥まさか!)
 少し思案した後、思い当たる節があったのか慌てて別の部屋へと駆け込む夏綺。引き出しを開け乱雑に中を漁る音が暫く続いた後、
「‥‥な、ない! 俺のエミタ8‥‥あぁ!! メトロニウムまでごっそり‥‥」
 そんな悲痛な叫びが聞こえてきた。
「『キラキラ』って、研究所のあれだったんだ‥‥」
 誰ともなくそう呟く中、能力者達は心の中で夏綺に対して静かに合掌していたが、
(「売らなくてもそのままくれれば良かったのに‥‥」)
 そう思った者も少なからずいたとかいなかったとか。
 そんな皆の心中を知ってか知らずか、当の本人‥‥というか犯人である春香は至って平和そうにファルルから借りた猫のぬいぐるみで遊んでいた。