タイトル:春香のお願いマスター:浅葱 翔

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/10 23:55

●オープニング本文


●UPC職員の憂鬱
「もう読めないよぅ‥‥」
 人影も少なく閑散とした深夜のUPC本部で呟かれた情けない声。
 その主はある女性UPC職員――通称:アラン――だ。
 心なしかやつれている様な表情を浮かべる彼女。
 その視線の先には、いま頭を悩ませているある物――倉田 春香の出した依頼文書――があった。
 そこに書かれているのは象形文字も真っ青な文字‥‥いや、もう文字ですらないかもしれない。
 『記号』の大群だ。

「前よりもちょっとは読めるけど‥‥読〜め〜る〜け〜ど〜」
 ぼんやりと眺めながら、じたばたと地団太を踏む『アラン』。
 というのも、以前彼女は不幸にも春香の依頼文書を手に取ってしまった事がある。
 春香のお花畑にかける熱い思いが書かれたその依頼文書は、当時5歳児であった春香の歳相応に複雑且つ乱雑で、能力者に依頼の目的を分かってもらえるまでに解読するには残業必須かと思われる物だった。
 だが、その時は『今度ランチを奢る』という約束を取り付けて同僚1人を味方に引き込み、2人で必死になって取り組んだ結果、何とか就業時間内に終わらせる事が出来た。
 しかし、今回その同僚の助力はない。
 手助けを頼んだところ、あっさりと断られたからだ。
 彼女曰く『10回なら考える』。

「10回なんて無理よぅ‥‥‥」
 という事で独り残業中の『アラン』。
 いっそ投げ出してしまえば楽なのだろうが、正式な手続きを踏んで受理された依頼文を自分の一存で棄却する事は出来ない。
 それにそんな事をする気もない。春香が一生懸命書いた依頼文であり、内容は‥‥現時点ではさっぱり分からないのだが、春香の熱意だけは文面から充分に伝わってくる。
(「やる! やるしかないっ!! 春香ちゃんを悲しませる訳にはいかない!!!」)
 頬をパンパンと叩いて気合を入れ直し、『アラン』は解読作業を始めた‥‥のだが。

 ――10分後。

「無理‥‥。1人じゃ無理‥‥‥」
 あっさり力尽きた。

 頭を抱え、いやいやと頭を振る『アラン』。
「目痛いー。クラクラするー。1人じゃヤダー。ムリー。ムーリー‥‥‥‥あっ!」
 その行動が功を奏したのか、彼女の脳裏に名案――むしろ迷案――が閃いた。

●そうだ! そのまま出しちゃえばいいのよ!

************************************************
お願い! 下の依頼文を読んで解決してあげて!! 私からも報酬出すからっ!!!
‥‥で、でも、ちょっとだけよ? あんまり期待しないで‥‥ね?

<らTこ はるかて〃すっ!
あのわ さょうは のうレ)ょ<しゃさんレこ おねがレヽがあろのー!

はるかね のうレ)ょ<しゃさんレこ すっこ〃< お世わさわてるんTこ〃レナ`⊂〃
そんTょレこお世わされてろのレこ はるか のうレ)ょ<しゃさんレこ
おむすひ〃 つ<ってあレナ〃る<〃らレヽしか おれレヽて〃きTょレヽの‥‥
あっ、はるかのおむすひ〃 すっこ〃<おレヽしレヽんTこ〃よー♪
あのわ Tこっ<さんおさ`⊂うレヽれてあるから すっこ〃<あまレヽのっ!
て〃ねっ! こん`⊂〃は はるか レヽちこ〃を Tょかレこレヽれてみよう`⊂ おもってろのー!

あっ、おレヽしレヽってレヽっTこら はるか おねえちゃんがレヽるんTこ〃レな`⊂〃
おわえちゃんがつ<っTこ八ソハ〃ーク〃 すっこ〃<おレヽしレヽんTこ〃よー?
はるかのおてて<〃らレヽのおおささて〃 Tこっ<さんつ<って<れろんTこ〃レナ`⊂〃
きのうはわ おレこレヽちゃんTこちもレヽて 4レこんて〃こ〃んTこへ〃Tこのー♪
のうレ)ょ<しゃさん しってるー?
すっこ〃<うれしレヽこ`⊂は『しあわ世』ってレヽうんTこ〃よ
きのうは はるか そんTょしあわ世TょきもちTこ〃っTこのっ!!
これで お`⊂うさんと おかあさんがレヽTこら
はるか すっこ〃<しあわ世なきもちレこ TょっTこ`⊂おもうの!
しってろ? すっこ〃<しあわ世っていうのは
すっこ〃<すっこ〃< うれしレヽこ`⊂TょんTこ〃よー?
て〃 そのすっこ〃<しあわ世レこ のうレ)ょ<しゃさんも TよってレましレヽんTこ〃レナ`⊂〃
のうレ)ょ<しゃさんが `⊂〃うやっTこら しあわ世にTよろか
はるか わからTょレヽから おしえてレましレヽのー!
************************************************

 依頼人にも色々いる。変わった依頼が表示されるのもそれほど珍しい事ではない。
 ――――だが。
(「お前、ちゃんと仕事しろよ!」)
 モニタ画面を見た能力者の誰もが『アラン』にそう心の中で突っ込んだという。

●参加者一覧

メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
ルード・ラ・タルト(ga0386
12歳・♀・GP
重籐 柊(ga3428
16歳・♀・SN
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
リーファ(ga8282
23歳・♀・DF

●リプレイ本文

●みんなで大冒険
 春香の依頼を請けた能力者のルード・ラ・タルト(ga0386)、重籐 柊(ga3428)、金城 エンタ(ga4154)、リーファ(ga8282)の4人。
 倉田家で春香の兄弟達と一堂に会した彼らは口々に言葉を交わしていた。
 だが、そこにメアリー・エッセンバル(ga0194)と鈴葉・シロウ(ga4772)の姿はない。
「シロウは昼から合流するという話じゃったが、メアリーはどうしたのかの?」
 ルードの素朴な疑問に、柊は連絡してみましょうかと携帯電話を操作し始めた。

 ――その頃、メアリーは。
「頑張るって決めたんだもん。大好きな人に笑顔で「美味しい」って言ってもらいたいから」
 その言葉とは裏腹に、何故か泣きそうな表情のメアリー。
 何故なら。
「だけど、パンがぁ! パンが上手く巻けないのぉ!!」
 ‥‥ロールサンドイッチに悪戦苦闘していた。

「(‥‥そうですか。じゃあ、俺達とは兵舎で合流という事で)」
 二、三の言葉を交わした後、そう言って電話を切る柊。
「どうやら、お弁当作りに難航しているようです」
 彼女の説明に、そう言えば料理は苦手だと言っていたなと能力者達は思い返す。ふと、メアリーが作ると言っていたサンドイッチはそんなに難しい料理だったか? という疑問が脳裏に過ぎったが、きっとすごい手が込んでいるのだろう‥‥という事に能力者達はしておいた。
「じゃあ、春香ちゃん! 一緒に幸せ、探しに行きましょうかっ!」
 気を取り直したエンタが春香にそう声を掛けると、春香は元気良く頷いた。

「春香さんの愛らしい依頼文に惹かれて依頼を引き受けてしまいましたが‥‥」
 リーファと手を繋いで先を駆けてゆく春香の姿を目で微笑ましく見つめていた柊は、ふと空を見上げながら呟いた。
「よく考えてみますと生きる事に必死で、『幸せ』を考えた事が有りませんでした‥‥」
 そう言うと、今までの日々を思い返す様に柊は目を閉じる。
 傭兵に拾われ、育てられた幼少時代。能力者として訓練に明け暮れる現在。
 その何処にも『幸せ』をゆっくりと考えられる時期はなかった。
「ですから、今日は皆さんと一緒に過ごして自分の幸せについて考えてみたいと思います」
 そう言って柊は、
「納得のいくものが見つかると良いですね」
「いっぱい幸せについて話す予定じゃ。存分に参考にするが良い」
 そんな彼女に優しい言葉を掛ける2人。
 彼女はそうですね‥‥と微笑んだのだが、その表情が改めて前方に視線を移したと同時に固まった。
「リーファさんと春香さんは‥‥?」
 前を歩いていた筈の2人の姿が少し目を離した隙に消えていたからだ。

 ――状況を判断中です。しばらくお待ち下さい――

(((「「「迷子!?」」」)))
 慌てて、探せ! 春香達を探すのじゃ!! と指示を出すルードに、どどどど、何処に行ったんだろうとオロオロするエンタ。表情こそ変化はないが、内心はエンタとそう変わらない柊。
 ‥‥この後、1時間近く彼女達を探し歩く事となる。

 ――そして、そんな彼らをよそに当の2人は。
「みんな、まいごになっちゃうなんて‥‥リーファたちがさがしてあげないとねー」
「ねー」
 とことんマイペースだった。

 紆余曲折あって、ここはメアリー・エッセンバルの兵舎『秘密の花園』。
 色取り取りの花々が咲き乱れた生命力溢れるこの場所に、無事に集まる事が出来た能力者達は昼食をとっていた。
 そのラインナップは
1)溢れんばかりの具を挟んだメアリー曰く『ロールサンドイッチ』
2)唐揚げやタコさんウィンナーなど、エンタ手製のおかず詰め合わせ
3)リーファの用意したクリームたっぷりのショートケーキにチョコレートいっぱいのドーナツ
 そして、能力者達が固唾を飲んで見守る中、春香がリュックから取り出した物は‥‥。
4)彩りの美しい、秋葉特製のお弁当
(「イヤーッ! 私のとー。私のと一緒に並べないでー!!」)
 味はともかく、見栄えはエンタ・秋葉の物に遠く及ばない事に涙するメアリー。
 ――頑張れ、メアリー。日々精進だ。

●幸せのカタチ
「私が一番幸せを感じるのは『私の周りの人達が皆笑顔でいてくれる』コト」
 そう言って、メアリーは左右に大きく手を広げた。
 それを見た兵舎内の仲間達は一体何が始まるのだろうと興味深げに彼女の挙動を見つめ始める。
「皆の笑顔が見たいから、私は色々頑張るの。今まで幸せをくれた人達に少しでも恩返しがしたいから」
 そう言い切ると仲間の中の誰からともなく拍手が湧き起こり、それを聞いたメアリーは少し気恥ずかしそうに頬を赤く染めた。

◇◆◇
「私もお前と同じで多くの人の幸せを望んでいる。だから『誰かが幸せ』だと幸せだ」
 その尊大な口調にもどこか優しさが滲むルード。
「そして、他者の幸福を望む姿勢こそ、私が王たる所以‥‥」
 そこまで話して、ルードは一旦話を切った。
 春香の表情から、少々言葉遣いが難しかった事に気付いたからだ。
「えと‥‥王様の家族は国民全部だからみんなを幸せにする。つまりはそういう事だ」

◇◆◇
 暫らく考え込んだ後、シロウはゆっくりと話し始めた。
「何て言うんでしょう‥‥こういった日常とか普通とか」
 じっくりと単語を選びながら、言葉を続けるシロウ。
「私が戦う事で『何処かの誰かのそういう時間を守れたら』嬉しいんですよ」
 その真剣な眼差しに、こんな一面もあるんだと感心しながら見つめていたメアリーだったが、
「あ、モチロン私の周りの女性の笑顔があるともっと幸せかも」
 そう続けられた言葉にふっと笑って、シロウの肩を叩いた。
「ハハッ、やっぱりシロウさんはシロウさんですね」

◇◆◇
「『みんなとおしゃべりしたり、たのしいコトしたりする』こと‥‥かなぁ?」
 でも、リーファもよくわからないのと彼女は続けた。
 確かに改めて自分の幸せは何かと聞かれても、分からないのが普通かもしれない。
「だから、きょうはほかのみんなのおはなしもきいて、しあわせについておべんきょうしたいなっておもうの」
 その言葉にわ〜い、はるかもー♪ と答える春香。
「じゃあ、いっしょにおべんきょうしようねー」
「ねー」

◇◆◇
「僕の幸せは‥‥『大好きな人達の笑顔を見る事』ですっ!」
 その『大好きな人達』を順々に見つめながら、誇らしげにエンタは語る。
「だから今日はずっと、幸せでしたよ〜っ!」
 そう言って彼はとびっきりの笑顔を春香に向けた。
「あっ‥‥僕から春香ちゃんにお願いがあるんです」
 と同時にエンタはそっと小指を出す。
「これからもずっと、優しい春香ちゃんでいてほしいんです。そうすればきっと、みんなが幸せになれると思うから‥‥」
 彼の小指に嬉しげに自身の小指を絡ませる春香と、その光景を優しく見つめる能力者達。
 その脇では、柊が自分の深層心理へと意識を向けていた。
(「これが皆さんの幸せ‥‥もう少し、もう少しで‥‥何か分かるかもしれない」)

 倉田家へと戻った能力者達。
 出迎えた春香の兄姉達――主に秋葉――にシロウは真っ先に飛びついた。
「やっと出会えましたね、私のめが「はじめまして! メアリー・エッセンバルです」」
 秋葉の手を取り口づけしそうな勢いのシロウを跳ね飛ばし、メアリーが強引に割り込む。
 彼女がニヤリと笑うのが見えた‥‥気がする。
(「なにおぅ! このクマーと秋葉嬢の恋路を邪魔すぬわああぁぁぁぁぁ」)
 そこへ、今日は石狩鍋にしましょうっ! ほらっ、材料買ってきたんですよ!! と歓声を上げながらエンタが駆け寄った。
 微妙に蹴られた‥‥気がする。
 途端に、わ〜、たのしみだね〜♪ とか私は小食だぞ! とか、俺、手伝いますとか、辺りがすごく賑やかになった。
 いっぱい踏まれた‥‥気がする。
(「あれ、なぜかみんながてきにみえるよ、ママン」)
 シロウは微妙に打ちひしがれていた。

 10人が1つの部屋に入ればやはり狭い。
 少し動く度にお互いの肩や腕が触れ合うが、それもまた楽しく其処彼処でクスクスと笑い声が漏れる。
 そんな賑やかな食卓で、柊は昔、同じように自分の作った鍋で傭兵達と食事をした事を思い出していた。
 血の繋がりはないがそれでも彼女には大切な家族。彼らと過ごした穏やかな瞬間。
(「皆が喜んでくれるのが嬉しかったな‥‥それぐらいしか役に立てなかったけど」)
 そこまで考えて、柊ははたと気付いた。
(「これが俺の幸せ‥‥?」)
 だが、流石にこの場で発表するのは気恥ずかしいので、柊は春香の耳に顔を寄せて囁いた。
「春香さん、俺の幸せが分かりました」
 その言葉になに、なに〜!! と顔を輝かせる春香。
「『大切な人達に喜んでもらう事』。これが俺の幸せです」

●ぷらすあるふぁ
 春香と秋葉の部屋。
 今日は春香が寝付くまでお話をしてやろう。どうだ、黄昏の王の話だぞ? とルードが春香に語りかける脇では、秋葉が寝具の準備をし、今日はたくさん歩いたね〜などとメアリーとリーファが和やかに談笑し。
 そして、柊はガチガチに緊張していた。
 人見知りである上に男性として育てられてきた彼女は『同性に囲まれて寝る』という初めての状況に態度に出さないまでも驚き戸惑っていた。
「しゅうちゃん、どうかしたの? きんちょうしてるみたいだけど?」
 無垢な瞳で見抜いたのだろう、リーファが柊にそう声を掛けると、突然扉が開いてシロウが現れた。
「そんな貴女に緊張を解す早口言葉。はい、赤でぃすたん、青でぃすたん、黄でぃブホワァッ!!」
 ‥‥言い終わらぬうちに3体のぬいぐるみごと部屋から叩き出された。
「良かれと! 良かれと思って!」
 扉を叩きながらそう声高に主張するシロウだったが。
 彼の瞳が『VIVA! 女性陣の寝巻きSU・GA・TA☆』と言っていたのは誰の目にも明らかだった。

●秘密の会合
 春香が眠ったのを見計らって、部屋を抜け出したメアリー、ルード、秋葉の3人は静かにリビングへと移動する。
 そこでは既に男性陣が話をしていた。その傍にはシロウの持ってきたワインの瓶の1本空になって転がっている。
 やってきた秋葉にさあ、どうですどうですと熱っぽい目で勧めたシロウだったが、ふふっ、ごめんなさいね、まだ未成年だからとやんわりと断られ、露骨に落ち込んでいた。

「あいつは良い子だ。だから願いを叶えてやって欲しい」
 開口一番、ルードはそう切り出した。
「言われるまでもないと思うが、あいつの為に幸せになれ。そして幸せにしてやれ。私からのお願いだ」
 真剣な眼差しでルードは冬護を見つめ、それを彼は真っ向から受ける。
「家庭の事情に入り込むのは、失礼とは思うケド‥‥」
 おずおずと話し始めたのはメアリーだ。
「辛くて寂しい気持ちのままでずっと頑張ると、どんどん疲れてしまって笑顔が出なくなっちゃうわよ?」
 笑顔ってすごく大切なんだからと唇の端を指で強引に笑みの形にするメアリー。
「あなた達だけで全部を抱え込む必要はないと思うわ。助けが必要ならどんどん周りに頼ればいいと思う」
 その言葉に苦虫を噛み締めた様な表情になる冬護と、そうだ! もっと言ってやって下さい! と兄には見えぬ様に小さくガッツポーズを取る夏綺‥‥だったが。
「この間の留守番みたいにね!」
 そう続けられた途端、夏綺の表情が凍り付き、冬護の眉がピクリと動いた。
「この間‥‥? どういう事だ、夏綺」
 押し殺された様に呟き、闘気――むしろ殺気――を全身から立ち上らせる冬護。
 その態度からすると、どうやら留守番の件は冬護の耳に入っていなかったらしい。
 あっ、まずいコト喋っちゃったかも‥‥とメアリーがすまなそうに夏綺を見ると、彼は既に蛇に睨まれた蛙状態になっていた。
「じっっっくり聞かせて貰おうか」
「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!」
 夏綺は哀れな声を上げながら、冬護に引きずられ部屋から消えていった。
 その光景に唖然とする能力者達。それに気付いた秋葉は、
「気にしないで下さいね。いつもの事ですから」
 と言ってにっこりと笑う。
(「いつもの事なんだ‥‥」)
 その台詞にも能力者達は驚きを隠せなかった。

●無事には帰れない
 寝惚けたシロウがエンタにキスを迫り、必死にエンタが僕は男ですっ!! と主張したが「顔が良ければ無問題だ」と開き直られて結局襲われてしまったり。
 キスされたショックに気絶してしまったエンタに、同じく寝惚けていた夏綺が消毒液で彼の唇を拭き始めたり。
 そんな騒動が隣で起きているにも関わらず、冬護はすやすやと寝ていたり。
 朝ご飯と称して、中に果物が詰まったおむすびが大量に出てきたり。
 それをルードとリーファが喜んで食べていたり。
 その様子を見た他の能力者がもしかして美味しいのかも‥‥と一口食べ、激しく後悔したり。
 ほーしゅーはこっちー♪ と春香に案内された部屋が、実は彼女の兄姉達が貰ったUPC支給品を置いておく物置部屋で、ちょっと困った表情を彼らが浮かべていたり。
 山の様な支給品の数々を前にしてどれにしよーかな〜? と考えあぐねる春香に、春香ちゃん、そこにある作業着で良いのよ〜? とかあっ、そこ! そこにあるバックルに気付いて下さい! とか願を掛けたにも関わらず、報酬が『飲み物セット』に決まり、思わず脱力してしまったり‥‥等々。
 倉田家は今日も大騒ぎだった。

●まいなすべーた
 ――後日。UPC本部にて。
 万年筆を指先で器用に回しながら、立て板に水の口上で『アラン』を口説きに掛かるシロウと、そんな彼に困惑しながらも悪い気はしない『アラン』。
 そこに1人の女性職員がつかつかと歩み寄った。『スミシー』だ。
「(‥‥ちょっと! 何、からかわれてるのよ! この人は『男』が好きなのよ?)」
「(えぇっ、そうなの!?)」
 2人はシロウに聞こえないように小声で囁きあうと、何か珍しい物を見るような視線を彼に向け。
 そして、彼女達の会話をしっかりと聞いてしまったシロウは、
(「ノオオオオオオオオォォォォォゥゥゥゥゥ」)
 心の中で大量の涙を流しながら逃亡した。
 そこへ彼と入れ違いになるかのように秋葉が現れる。
 職員に用事があるのだろうか、受付へと歩く彼女。その姿勢がある箇所で不自然に揺らいだ。
 どうやら何かを踏んでしまったらしい。
 秋葉は足下を見やり、その何かをそっと拾い上げた。
(「‥‥誰のかしら?」)
 それはシロウの万年筆だ。あまりの勢いで走り去った為、落としてしまったのだろう。
(「‥‥早く返してあげないと。きっと困っていらっしゃるわ」)

 ――これが何の鍵になるか。それは神のみぞ知るところか‥‥。